「じゃぁね、鞠莉」
高校一年の夏。私は留学に行く鞠莉を見送った。
東京のイベントで鞠莉が練習中に怪我をして、悪化するのが怖くてダイヤと話し合って棄権した。鞠莉は「棄権するべきじゃない」って言ったけど、怪我してる状態でできるわけがない事を指摘して渋々納得させた。
夏休みにある河川敷の夏祭りで、三人で踊ろうってことに一度はなったけど、偶然留学の話をしているのを耳にして私は本当にこのままでいいのか疑問に思った。そのことをダイヤに話せば、ダイヤもそのことを心配していた。だから、私は鞠莉に解散を切り出した。鞠莉は反発して大喧嘩。鞠莉のことを思っての事だから引く気は一切無かった。
そして、喧嘩別れの形で別れて、夏休みにすぐ入っちゃったから鞠莉とはあれ以来会ってなくて、去って行くヘリを淡島の頂上から見送るだけ。
「良かったんですか?」
「うん。これでいいんだよ……」
一緒に来たダイヤにそう言われたけど、これでいい。こんなところにいないで留学した方が鞠莉の将来の為になるんだから。
「はぁー。本当にそう思っているのなら、そんな顔しないでください」
「ん?」
「自覚なしですか」
ダイヤの呆れた表情。でも、私が今どんな顔してるかなんてわからない。ううん。わかりたくないよ。
鞠莉の将来を私が縛るなんてしちゃいけないんだから。
だから、私は自分の気持ちを押し込める。
鞠莉と離れたくない。ずっと一緒に居たい。
鞠莉のことが好きという気持ちを。
~~
あれから半年経った私の誕生日。去年までは夕方に千歌と曜に祝われ、学校と夜に鞠莉とダイヤが泊まりに来て祝ってもらってたっけ。
今年は昼に学校でダイヤに祝われ、夕方に千歌と曜に祝ってもらった。
去年みたいにダイヤが泊まることは無くて、少し寂しかった。でも、高校生にもなればダイヤも家が忙しいから仕方ないと割り切った。
みんなに祝ってもらったのはうれしかったけど、何かが足りない。
わかってる。鞠莉に祝ってもらえないからなんだって。もしかしたらメールか電話が来るかもって期待してたけど、そんな都合のいい事は起きなかった。喧嘩別れな形で別れたんだから当たり前だよね。
私からするのはおかしいから鞠莉から来るかもなんて期待をしてたけど、私の期待に反して鞠莉からも一度として連絡は来なかった。
高校二年の鞠莉の誕生日。でも、鞠莉は内浦にいない。そもそも私が鞠莉を送り出したのだから仕方ないか。
鞠莉の誕生日を祝いたい気持ちがあるけど、鞠莉は私の声を聴きたくないかもしれない。言葉を見たくないかもしれない。そう思うとこっちから連絡することができなくなる。
未だに鞠莉から連絡は無い。もう愛想尽かれちゃったよね?
こんなに離れていれば気持ちを無くなると思ってたのに、どんどん大きくなって行く。鞠莉に会いたいけど、会っちゃいけない。そんな矛盾した気持ちのまま日々は過ぎていく。
高校二年の私の誕生日。父さんが怪我をしたから休学したことで最近はあまりダイヤとも会えていない。去年と同じで一応三人に祝ってもらったけど、仕事でバタバタしててあまり一緒に居られなかった。
鞠莉と離れてから一年半。やっと私は気持ちが落ち着いた。と言うよりは、仕事でバタバタしてるからあまり他のことを気にしている余裕がないからかもだけど。
高校三年になった四月。千歌と曜がスクールアイドルを始めようとし始めた。どうしてと思ったけど、東京に行った時に知って影響されただとか。千歌の目はあの頃のダイヤと同じだった。
風の噂で鞠莉が帰って来たと聞いた。あのヘリを見た時、もしかしたらとは思っていたから驚きは無いけど、どうしてこのタイミングで?という疑問はあった。
せっかく鞠莉に対する気持ちが落ち着いたのに、会ったらまたあの頃の気持ちが戻ってしまう。あれで良かったんだって決めたんだから、もうあの気持ちに戻ってはいけない。戻ったら鞠莉に迷惑かけちゃう。
~~
「かな~ん」
「ちょっ、鞠莉!」
鞠莉に嫌われていると思ってたのに、二人に聞いた後いきなり鞠莉にハグされた。どういうこと?愛想尽かれたから連絡が来なかったんじゃないの?
それと同時に、鞠莉の顔を見て、触れられて、一瞬であの頃の気持ちがよみがえってきた。でもダメ。この気持ちはしまったんだから。
驚いて声を漏らすも鞠莉はハグした状態で私の胸に顔をうずめているから肩を掴んで無理やり離す。
「何しに来たの!」
「久しぶりに戻って来れたから会いに!」
「あっそ、おかえり」
鞠莉にまた会えて、帰って来てくれてうれしい。
最初、鞠莉は喧嘩別れしたことを忘れたのか、はたまたその上でこんな態度なのかわからなかったけど、鞠莉はあの頃の関係に戻ろうとしているのだと分かってしまった。鞠莉に嫌われていないみたいでうれしい気持ちになる。あんな別れ方をしたのに私を許してくれてるんだ。
でも、私の気持ちを口にすれば迷惑になるに決まっている。あの頃の関係に戻れば、またどこかで歯車が狂うに決まっている。また鞠莉の将来を危うくしてしまうに決まってる。
だから素っ気ない態度をとる。
それからもそんな日々が続いた。
「果南、またスクールアイドルやりましょ?」
「私休学中なんだけど?」
「もちろん、復学したらよ」
浦女が廃校になるかもしれないという話は二年前にもあった。そして、また廃校になるかもしれないという話が流れ始めていた。鞠莉が理事長になって、どうにか食い止めているという話は風の噂で耳にしていた。というか、鞠莉が理事長になった時点でそんな理由だと思っていた。
そんな中、鞠莉とまたスクールアイドル。叶うなら確かにやりたい。あの頃みたいに鞠莉とダイヤと一緒にやりたい気持ちはないわけではない。
「私たち、もう三年生だよ!もう、そんな余裕はないよ」
でも、もうあの頃のようにはいかない。また二年前のようになるのが怖い。次は取り返しがつかないところにまで来てしまうかもしれない。
だから、無理やり突き放す。高校三年生。受験生だし、スクールアイドルをしている余裕も無い。学校を救いたいのなら千歌達に任せればいい。やらない理由はそんな感じで挙げられる。
「かなーん!」
「うわっ」
特に何もないある日。鞠莉が現れるなり抱きついてきた。毎回会うと同時に抱きつかれるこの現状。その度に私は内心ドギマギしているけど、頑張ってそれを表に出さないようにする。
千歌達が東京のイベントから戻って来たその日。いつもの桟橋で鞠莉といた。千歌達がどうなったかは知らないけど、何の連絡もないってことは、何か失敗したんだと思う。でも、私の出る幕じゃない。それに、ダイヤが出迎えに行ったし。
「スクールアイドルで浦女を救うなんて無理だよ」
「だから、諦めろって言うの?」
「私はそうするべきだと思う」
私たちは途中であきらめた。だからこそ分かる。無謀な夢は叶えられない。無理に掴もうとすれば誰かが傷付くに決まっている。
鞠莉を見れば大きく腕を開いてハグの体勢。
「果南」
「誰かが傷付く前に」
でも、私はその横を通る。誰かが傷付く前に辞めれば傷付かずに済む。
前みたいに鞠莉といたらきっと鞠莉を傷つける。だから、鞠莉をハグなんてできない。
私は私の気持ちを偽る。傷付くのは私だけで十分なんだから。
「復学届出したのね」
「まぁね」
いつものランニングのゴールの弁天島。なんでかそこに鞠莉がいた。で、階段のところに付いて来た千歌達六人。
どうしよ、ステップ踏んでるの見られたー。スクールアイドルを毛嫌いしてるように思わせてたのに、よりにもよって鞠莉に見られるなんて。
「やっと逃げるの諦めた?」
「勘違いしないで。復学してもスクールアイドルはやらないよ。どうして戻って来たの?」
「それはもちろん、廃校を阻止するために。果南とダイヤと一緒にあの頃を取り戻すために」
「ッ!……私は鞠莉に戻って来てほしくなかった」
鞠莉があの頃を大切に思ってくれているのはうれしい。でも、やっぱりダメ。そんなの許されない。
鞠莉が戻って来てから日に日に胸が苦しくなる。鞠莉に素っ気ない態度を取り続けるのが辛い。本当はそんな態度取りたくない。
私が無理やり送り出したんだから、そもそももう私にその資格は無いか。
~~
「果南さん、何か悩みでもあるのですか?」
そろそろ復学する週末のある日。私の家に来たダイヤにそう聞かれた。
未だに鞠莉とは疎遠。私が遠ざけ続けているだけだけど。でも、このままでいい。多くを望んじゃいけないんだから。
「特に悩みなんてないよ」
だから、私はダイヤにも嘘をつく。こんなの相談できるわけ無いよ。
「嘘ついてますね……」
「嘘ついてないよ」
「いいえ。顔を見てればわかります。果南さん、今すごく辛そうですよ?」
それなのにダイヤは見抜いてしまう。私と鞠莉を一番近くから見て来たダイヤだからこそ気付けた。でも、ダイヤには気付かれる気もしていた。三人で居た頃から、私の鞠莉への気持ちを察していただろうし。
「もしかして、好きな人がいるのですか?果南さん、告白されても毎回断っていましたし」
「あはは、私に好きな人?ないない」
「はぁー、また嘘つく……幼馴染なんだからなんとなくわかるりますよ」
「はぁー、確かに居るよ」
「やっぱり。てっきり鞠莉さん以外の誰かかと思ってましたが、どうやら今の鞠莉さんに気持ちを伝えるのを躊躇ってるっと言ったところのようですね」
「よくわかったね」
「それくらいわかりますよ。告白しないのですか?」
「しないよ。私とじゃ釣り合わないの。私と居たら不幸にしちゃうの。だから、いいの」
告白を勧められるけど、告白なんてできるわけがない。だから、するつもりはない。
でも、ダイヤは私の答えに気を召さないのか首を傾げる。
「不幸になる?よくわからないけど、そんなことあるモノなのですか?あの頃の鞠莉さんは果南さんといる時間が幸せそうでしたけど」
「そういうモノだよ」
「どうして不幸になるって果南さんが思っているのかはわからないけど、だったら果南さんが幸せにしてあげればいいのでは?」
「ムリムリ。私じゃどうやっても無理だよ」
私が鞠莉を幸せにしてあげられるなんて思えない。そんなの分かり切っていること。
それなのにダイヤは不機嫌そうな顔をする。なんでダイヤがそんな顔をするのやら?
「果南さん、どうしてやる前から諦めちゃうのですか?いつもの果南さんらしくないですよ?」
「私らしさって……」
「わたくしの知ってる果南さんは簡単には諦めないで、まっすぐ突き進む。悩みがあればまっすぐ正面からぶつかる。そんな性格」
「そんなの昔の話だよ」
今の私は過去に引きずられて一歩を踏み出せない、ただの臆病者。ダイヤの言うような私は昔の私のだけだよ。
「ほらほら、そろそろ帰りな。家の事とか忙しいんでしょ?」
これ以上言われるのが嫌になって、ダイヤを無理やり帰らせる。これ以上言われたら気持ちが揺らいじゃうよ。
「はぁー。言っても無駄のようですね。では、一つ忠告しておきますわ。果南さんが鞠莉さんの事を心配しているように、鞠莉さんも果南さんの事を心配している」
「え?どういうこと?」
「これ以上は本人に聞きなさい。わたくしもすべて話すほど時間があるわけではないので。家の事で忙しいので」
ダイヤは悪戯っぽい笑みを浮かべるとそう言って帰って行ってしまった。
鞠莉が私の事を心配してる?どういうことなんだろ?
結局、ダイヤの言葉の意味も分からないまま、私は復学して登校する日を迎えてしまった。
~~
『部室で待ってるわ』
復学したその日。鞠莉はスクールアイドルをやろうと言ってきて、私はそれを突っぱねた。突っぱねる訳を知っているダイヤは私の味方で、それから千歌に怒鳴られ、でも本当の事を言わずに私は家に戻っていた。
そして、二年ぶりに鞠莉から短いながらのメールが送られてきた。
どうして急に送ってきたのかわからないながらも部室に行くと、鞠莉が部室の中に立っていた。入り口には水たまりがあり、雨の中ここまで走ってきたみたい。
「鞠莉……」
「どうして言ってくれなかったの?果南が私の事を思うように私も果南のことを考えてるのよ?将来の事?留学?そんなのどうでもよかった。あの時果南が歌えなかったんだよ?放っておけるはずない!」
パンッ!
「私が果南を思う気持ちを甘く見ないで!」
ダイヤから本当の事を聞いたみたい。ダイヤの性格なら無理に聞かれれば話してしまうのはわかってた。でも、昨日の感じからして、たぶんそろそろ決着を付けたかったんだと思う。
鞠莉が私を思う気持ち?そんなの分からないよ!あの頃鞠莉は「次はリベンジしよう」とか「他のグループに負けていられない」とか言っていた。それ以上の事は言わなかった。
「だったら、ちゃんとそう言ってよ。リベンジとか負けられないとかじゃなくて、ちゃんと言ってよ!」
「だよね。だから」
すると、鞠莉は自身の頬を私に向ける。きっと、私に叩けって意味。だから、私は手を振り上げ……鞠莉のことが気になってダイヤと一緒に鞠莉のホテルに忍び込んだあの日を思い出した。今思えばあの頃、ハーフでキラキラして見えた鞠莉のことが気になって、ホテルに忍び込んだ。そして、鞠莉に見つかって、どうすればいいのかわからなくなった結果、鞠莉にハグをした。今思えば我ながら考え無しだったと思うけど、あの時はそのおかげで鞠莉と仲良くなって忍び込んだことはお咎めなしになった。
そして、鞠莉と一緒に居るうちにどんどん惹かれていった。そして、鞠莉の事が好きになっていた。鞠莉ならスクールアイドルになって注目を浴びれるって気持ちもあったけど、鞠莉と一緒に居たい気持ちもあった。思い浮かぶのは鞠莉とダイヤの三人で過ごした日々。
それに、本当の気持ちを隠していたのは私も同じ。
だから、今すべきことは、叩くことなんかじゃない……
「ハグ……しよ」
仲直りをすることなんだ。私たちはまだあの頃の喧嘩別れをした状態のまま。
だから、私は一歩を踏み出すのが怖かった。鞠莉はあの時の事を恨んでいるんじゃないか。私の事なんて嫌いになってるんじゃないかって怖かった。
「果南……うあわぁぁん」
「う、うぅ」
私たちは抱き合っておもいっきり泣いた。今までの時間を埋めるかのように。
どれくらいの時間が経ったのか、私たちはお互いに泣き止むと、外はだいぶ暗くなっていた。
仲直りした今。これで私は一歩踏み出せる。鞠莉が本当の気持ちを口にしてくれたんだから、次は私の番。もう過去の事に臆病になる必要も無いし、そもそも私にはやっぱり似合わない。ダイヤに言われた通りまっすぐにぶつかった方が私らしい。
「鞠莉、大事な話があるの」
「ん?なに?」
「鞠莉の事が好き」
「ん?私も果南の事が好きよ」
「ううん。たぶん鞠莉の思ってる好きとは違う。鞠莉の事愛してる」
「え?」
顔を真正面に見るのは恥ずかしいからハグしたまま告白をする。たぶん、今私の顔は真っ赤だと思う。
鞠莉は驚きの声を漏らす。
「初めて会った時に気になって、どんどん惹かれていった。留学に行ってからはどうにか鞠莉への気持ちを忘れようとしたけど、やっぱり忘れられなかった!だから、こんな私だけど、付き合ってほしい」
「……私も果南の事が好き。愛してる!嫌われたと思ってたけど、それでも果南の事が好きだった。向こうで告白されたことは何度もあったけど、その度に果南の顔が浮かんで断ってた。だから、こちらこそ」
私の告白を鞠莉は受け入れてくれた。もしかしたらって不安もあった。鞠莉のハグは友達としての添えかもって心配もあったから。
だからうれしい。仲直りができて。両想いだと分かって。
「大好きだよ、鞠莉」
「大好きよ、果南。もう離さないんだから」
「うん!私だって!」