今回は早めに書き始めたから間に合った。
高海千歌。私の一個上の先輩で自分の事を“普通”だという、私に言わせれば十分普通じゃないと思う人。スタイルは十分いいと思うし、誰に対しても物おじせずに明るく接することができる。それに、普通の人ならロンダートからのバク転なんて完成させられないと思うし、千歌の書く歌詞も魅力的だと思っている。現にそうだからラブライブだって勝ちぬけた訳だから。
まぁ、何が言いたいのかと言えば、
「千歌、私と恋人契約して!」
「恋人契約?」
私は千歌に恋をしている。
~☆~
私が千歌の事を好きなのだと自覚したのは、秋にあったラブライブの地区予選に向けて練習して、無事終えた頃だった。
どんなに傷を負っても諦めずに挑み続ける姿に惹かれていた。最初は途中で諦めてしまうのだと思っていた。曜の話だと昔から途中で投げ出すことがあったらしいから。でも、投げ出すことなく、スクールアイドルもラブライブ優勝という形でやり遂げることができた。
あの全員が砂浜に集まって、初めて千歌がバク転まで成功させた時には千歌がキラキラして見えて、その時に私は千歌に恋しているんだと悟った。
でも、それよりも前から想うところはあった。
大荒れの中で行われた体育館でのライブで三人はキラキラしていて、その中でも千歌が特にキラキラして見えた。今までずっと堕天使としての私は煙たがれていたのに、千歌はそんな私を否定なんてせず肯定してくれた。千歌が笑顔だとなんだか私は安心した。
恋しているのだと自覚してからは大変だった。
千歌と二人きりになるとドキドキしてまともに顔が見られない。だけど、少し離れた位置だと目で追ってしまう。
告白しようと何度も思ったけど、もしもそれでフラれたらと考えてしまうと告白には至れなかった。しなければ、まだ今のような友達の関係でいられるし、ぎくしゃくしたりすればAqoursの活動に影響を及ぼしかねない。結局は私のフラれる怖さが尻込みさせてしまう。
でも、このまま気持ちを伝えないでいるのも嫌だった。だから、決勝が終わってAqoursの活動が一段落したら、ラブライブで優勝することができたら告白しようと決めた。
そして、本当に優勝することができたから、私は卒業・閉校式を終えた数日後に千歌に告白をした。
その結果、
「善子ちゃん、まずどこ行く?」
「まずはみとしーかしら?」
「わかったぁ」
私は千歌の家に来ていた。そして、これからみとしーに向かうつもり。
なんでこうなったかと言えば、
『千歌、私と恋人契約して!』
『恋人契約?』
『ええ。私はあなたのことが好き。だから』
『そっかー……善子ちゃん。明日一緒に出かけよっか』
『え?』
『返事はそれが終わったらね』
なんてことがあり、返事を先延ばしにされてしまったからだった。そして、出かける先は全て私が決めるという、完全にデートな気がする。たぶん、これで千歌が満足しなければ私の告白が受け入れられないのだと思うから、悩みに悩んで今日行くコースを決めた。
千歌の家に迎えに行くことを知らせてあったから行くとすでに千歌は準備万端のようで私たちはみとしーに向かって歩き出した。てっきり、こういう日は雨が降るものだと思っていたけど、今は晴れている。一応折り畳み傘はバッグにいれてあるけど。
「みとしーかぁ。アルバイトした時以来だなぁ」
「そうなの?てっきり、目と鼻の先にあるからちょくちょく行ってるかもって心配だったけど」
「あはは。確かにそうだけど、Aqoursを始めてからはね。それに昔からけっこう行ってたし」
「てことは、今日はやめといた方がいい?」
千歌の言葉から、もしかしたらみとしーは失敗かもと思えてきた。飽きているんだったら、行っても楽しめないだろうし。千歌が楽しめないんだったら。
「ううん。半年近く経つから平気だよ。それに、せっかく善子ちゃんが考えてくれたんだし」
「そう?ならいいんだけど」
でも、どうやら問題ないらしい。と言う訳で、入り口に着くとチケットを買う。千歌は去年の春に年パスを買っていたらしく、チケットを買う必要は無かった。
「おー、期限が明日までだった」
「すごい幸運ね。私ならそういうのは期限切れになってるパターンなのに」
「そうなの?まぁ、いいや。行こー」
千歌は言うなり私の手を握り、そのまま歩き出す。まさか、千歌から私の手を握って来るなんて思ってなかったから、私は内心驚きながらもついて行く。
セイウチ、ウミガメ、魚と順に見て行き、
「いつ見てもきれー」
「ええ、そうね」
クラゲの水槽に行くと、ライトアップされたクラゲを見てそう呟いた。ライトの色が変わる度に透明なクラゲたちがその色になるから幻想的。
綺麗なクラゲを見ながら、千歌の顔を盗み見ると、幻想的なこの空間に負けないくらい千歌も綺麗に見えた。
まぁ、そんなこと恥ずかしくて言えないけど。
「チカね。みとしーだとここが一番好きなんだ」
「そうなの?」
「うん。色んな水族館があるけどこれはみとしーだけだから」
「そうね。こんなに綺麗だから私も好きよ」
「そっか。じゃぁおそろいだね」
千歌の言う通り、クラゲのライトアップをしているのはここ以外だと聞かない。だから、特別に感じられるからかしら?私は単純に綺麗だからって理由だけど。
千歌に笑顔を向けられてドキッとする。やっぱり、千歌の笑顔を見るのが好きだと実感させられる。
『まもなくショースタジアムにてショーを行います。アシカやイルカのパフォーマンスをぜひご覧ください』
「あっ、もうそんな時間。行こっか」
「ええ」
すると、そんな放送が流れてきたから私たちはショースタジアムに向かって歩き出し、イルカがジャンプしても水がかからないであろうギリギリの位置の席に座る。千歌の話だと、長年の経験上ここが水のギリギリかからないで済む一番前らしい。なんでそんなことを知っているのかと言えば、曜と果南と一緒に昔にどの位置ならぎりぎりかからないかという遊びをしていたからだとか。
最初はアシカが登場してパフォーマンスをし、続いてトドがパフォーマンスをしてイルカの番になる。イルカはすいすいとプールを泳ぎ、トレーナーの指示に従ってプールに投げられた輪を回収したり、跳んだりする。
そして、最後の大技に水面から五、六メートルの位置にボールが下げられ、イルカはボールに向かって勢いよく跳ぶ。結果は見事にタッチして成功だった。
ビュー
ザバーンッ!
「きゃっ!」
「わっ!」
しかし、イルカが着水して水が舞うのと同時に強風が吹き、私たちのもとまで水飛沫が飛んで来て私たちにかかる。強風が吹くタイミングが最悪で不幸だと感じる。でも、最近不幸なことが起きてなかっただけで、元々私は不幸体質だったわね。
逆に今日は今まで不幸っぽい事が起きてなかったから珍しいかも。
「あはは。まさか水が飛んでくるなんて。ごめんね。もう少し後ろに座っていれば」
「千歌は悪くないわ。あのタイミングで風が吹いたのは私の不幸のせいだから。だから、ごめん」
ハンカチでポンポン叩きながらそう言ったからそう返しておく。
「善子ちゃんは悪くない!こんなのただの偶然!」
「千歌?」
いきなり千歌が大声でそう言ったから私は首を傾げた。千歌がそう言ってくれるのはうれしいけど。
「だから、自分のせいなんて言わないで」
千歌はどこか寂しそうな表情をする。そんな表情を見ると胸が苦しくなる。千歌には笑顔でいてもらいたいし、その方が私もうれしい・
「ごめん……それと、ありがと。さぁ、気を取り直してまだ見てない場所に行くわよ!」
「うん!」
その後、カワウソやペンギンなどを見たりして過ごした。
~☆~
「ふぅ。いろんなところに行ったね」
「ええ。と言っても、悪かったわね。変に連れまわしちゃったり、待たせちゃったり」
陽が傾いてきた頃、私たちはびゅうおの中に来ていた。
みとしーを出た後、お昼を食べようとお店に行ったけど、行く店が何処もやたらと混んでいるか定休日、果てに臨時休業という事でなかなかお昼を食べることが出来ず、途中からすでに決めていたルートは諦めた。どうにか沼津駅前に行くと時間がだいぶ経ったからかようやく空いて来て私たちはお昼を食べることができた。
お昼を食べた後は駅前をぶらぶらして、気になるお店が入るといった感じで過ごした。どうせ、予定してたコースは変更する必要もあったから。
でも、
「ううん。あれはあれで楽しかったから」
「そう?千歌がそう言ってくれると、少し気が楽になるわ」
「そっか。それにしても、ここからの夕日綺麗だね」
「そうね」
私がここに絶対に行きたかった理由は二つあった。
一つはこの夕日。ここからだと綺麗に沈んでいく夕日が見られるから。私はこの景色が好き。じきに陽が完全に堕ちて世界が闇夜に包まれるから。まぁ、冗談は置いといて海に反射された夕日がきれいだからだけど。
もう一つは、ここが始まりだから。いや、正確には少し手前だけど。びゅうおのすぐそばで私はAqoursに加わることを誓った。あの日から私の日常が変わったから。
「さてと、善子ちゃん。昨日の返事をした方がいいよね?」
「ええ」
すると、唐突に千歌がそう切り出した。一応そろそろ私から切り出そうとは思っていたけど、千歌の方から切り出してくれるのはありがたかった。私の方から切り出すのはなんだか催促しているみたいな感じになっちゃいそうだし。いや、催促だけど。
「でも、一つお願いがあるんだ」
「お願い?」
「うん。善子ちゃんからもう一度告白して欲しいんだ」
「……わかったわ」
どうしてそんなお願いをしたのかはわからないけど、断る理由はない。それに、千歌に想いをちゃんと伝えたい。
「改めて言うわね。私は千歌、あなたのことが好き。ううん、好きなんて言葉じゃ足りないくらい愛してる」
「うん」
「体育館でのライブを見てキラキラ輝いて見えた。その時はただ明るい先輩で、一生懸命だからそう見えただけだと思ってた。私をAqoursに誘ってくれた時、私は私のままでいいって言ってくれてうれしかった」
「うん」
「それから色々あったわね。あなたが一人で抱え込んだり、輝きが何なのかわからなくて探したり、難しい動きの練習をしたり。果南たちでも無理だったあのフォーメーションを練習してる時、千歌には無理なんじゃないか?怪我をしてしまうんじゃないか?って思ってた。でも、やり遂げた。その時の千歌は一番輝いて見えた。それで分かったの。あなたに恋してるんだって。それで、それまであなたに対して思っていたのはその一片だと気づいた」
「うん」
「千歌の諦めずに足掻く姿に憧れた。千歌の書く歌詞に込められた想いはいつも私の心に響いてた。みんなが堕天使としての私を否定する中、あなたは肯定してくれた。あなたのやさしさに救われた」
「うん」
「好きなみかんを美味しそうに食べているあなたが好き。諦めずに駆け抜けたあなたが好き。私を堕天使として肯定してくれたあなたが好き。太陽のように輝くあなたの笑顔が好き」
「いいの?私は普通だよ?」
「ううん。あなたは私にとって特別な存在。だから、私と恋人の契約を。私と付き合ってください!」
昨日以上に私は千歌への想いを告げた。私の想いを聞く千歌は静かに相槌を打ってくれて、千歌はまた自分を普通だという。
でも、私にとってはもう特別な存在。それ以外の何物でもない。
最後にそう締めくくると、千歌の返事を待つ。
今日は散々だった。だからもしかしたらフラれるかもしれない。それが怖い。でも、もう伝えてしまった以上引き返すことはできない。
「善子ちゃん、ありがとう。私もね、善子ちゃんのことが好きだよ」
「ほんと!?」
「うん。昨日はいきなりだったからびっくりしちゃって先延ばしにしちゃってごめんね」
「それはいいけど」
千歌も私の事が好きだと言って驚きとともにうれしさが込み上げてくる。まさか両想いだったなんて。
「ありがと。善子ちゃんを始めて見た時、綺麗な子だなぁって思って、あの時は一緒にスクールアイドルをやってみたいなぁって思ってた。善子ちゃんが加わって、善子ちゃんの優しい部分を見て、少しずつ惹かれてた」
「そう」
「私ね、善子ちゃんの堕天使が好きという気持ちを貫く姿に憧れてたんだ。私はいつも中途半端で諦めちゃって、何かを貫くなんてできなかったから。でも、善子ちゃんのその姿を見てて勇気付けられた。だから、スクールアイドルをやり遂げることができたんだと思う」
「それは言い過ぎじゃない?みんながいたからでしょ?それに、千歌、あなた自身の意志でしょ?」
「確かにそうだけど、きっかけはそうだったんだよ」
千歌の為に何かできていたのなら素直にうれしいけど、本当にそうなのかは私にはわからない。まぁ、本人がそう言うのならそうなんだろうけど。
「気づいたら善子ちゃんへの気持ちが憧れから恋に変わってた。まぁ、気付いたのは最近だけど。善子ちゃんを見ているだけでドキドキすることに気付いたから」
「そうだったの?全くそんな素振りは無かった気がするけど」
「まぁ、気付かれないように頑張ってたから。だからね。こちらこそ。こんなチカだけど、お願いします」
千歌はそう言って締めくくる。
「えーと、つまり私たちは付き合えるってことよね?」
「うん!」
確認すると、やっぱり私たちは付き合えることになったのだと分かった。うれしい。実るか不安だったこの気持ちが実って。
「そう言えば、恋人契約って結局なんなの?付き合うってことでいいの?」
「ええ。でも、恋人なのだから他の人にうつつを抜かしたりなんてダメだからね!」
「わかってるよ!よろしくね、善子ちゃん」
「ヨハネ!」
「あっ、今日初めて聞いたかも」
「あっ、そう言えばそうね。これからは私の事はヨハネって呼びなさいよ」
「えー。気が向いたらね」
千歌は小悪魔っぽい笑みを浮かべる。うーん、これは一筋縄じゃ行かないかしら?一体どうすればいいのやら?
チュ
「……ッ!」
「ふふっ。千歌以外の子にうつつを抜かしちゃダメだからね。これはその約束だよ。ヨハネちゃん♪……うぅ、やっぱり恥ずかしい」
そんなことを考えていたら、いきなり私の唇に短いキスをされ、笑みを浮かべてそう言われた。でも、すぐに顔を真っ赤にして恥ずかしがってそっぽを向いた。
まさか、千歌の方からキスをしてくるなんて思ってもなかったから驚きしかない。こういうのには案外奥手なのとばかり思っていたのに。恥ずかしがってるってことは勇気を出してってことなのかしら。
でも、なんというか釈然としない。私が遊ばれてるような?
「うにゃ~」
チュ
「……ッ!」
だから、お返しとばかりに私も千歌にキスをすると、反撃が来ると思っていなかったのか千歌は目を見開いていた。
うん、やっぱりこうじゃないとね。あっ、今更ながら恥ずかしい……。
「これで契約は完了よ、千歌」
「うん、ヨハネちゃん」