その翌日、いつも通りの時間に起きるが今日はまだ休暇中である。朝早くに起きて朝食と弁当を作り、その途中で藍原がいつも通りのハグをして2つとも作り終える。その後は2人揃って朝食を摂る、いつもの食事風景であった。
「あ」
「急にどったの?」
不意に高山が抜けた声を出した為か、藍原は何事かと聞いてみた。
「いや、そういえば今日で終わるなって」
「何が?」
「ほら、茅場先輩の」
「あぁー…………あ、そういえばこっちも」
「何なに?」
「ほら、一昨日に行きたくない接待があったんだけど。
その会社がアーガスなのよ」
「ねぇちょっと!?なに!?茅場先輩の職場の所と接待だったの!?」
「だってさぁ……稀代の天才『茅場晶彦』と知り合いなら、最近注目されてるアーガスの投資もいけるんじゃね?っていう上の命令だったんだけど……」
「だけど……?」
「茅場の奴、話す度にドンドンテンションがおかしくなってさ。遂には“私の想像を遥かに越えたプレイヤーが現れた!こうしちゃおれんのでな、私のイマジネーションが滾るうぅぅぅぅ!”とかほざいてたし」
「茅場先輩ィィイイ!?ちょっと、それ不味いじゃん!」
「あー、だったら一緒に行く?今日もアーガスに行くし」
「そうさせて。あぁもう、茅場先輩ちゃんと栄養摂ってるよね?神代さんが居るし……あぁでも最悪周り見えてないかも」
「先に会社行くから、後で迎えに来てね〜!」
「分かった」
藍原は既に朝食を摂り終え素早く準備を進めていく。藍原が席を離れた時、高山は疲れた様子で溜息をついて頭を抱えた。
『完璧イッてるな、茅場の奴』
「面倒事が増えた……」
この7月半ば頃、また高山の用事が増えていった。檀黎斗もそうだが、茅場晶彦に関しても面倒事となってしまった。
少ししてバイクを藍原が勤めている会社に向かい、藍原を乗せると茅場晶彦の勤めているアーガスにまで向かって行く。高山は前にアルファテストを行っていた為、そもそもアーガス社には何度も訪れた事がある。
アーガス社に到着して受け付けから藍原のICカード、高山は茅場に繋げて話してもらった後でICカードを貰い受け向かう。藍原は商談として、高山は開発されている場所まで向かうと茅場が待ち構えていた。
「待っていだぞ高山君!あぁ、君がベータテストに参加出来なかったのが残念だ!このベータテストで面白いプレイヤーを見つけたのさ!これはもう私に新たなシステムを開発しろと謂わんばかりに脳細胞が活性化されて素晴らしい“ユニークスキル”の誕生が今まさに始まろうとしているのだよ!それから高山君のデータを採取していると、やはり高山君はウィルスとの適合があるせいかゲーム内でも現実とそう変わらない身体能力が反映されている事が判明してだな!」
「分かりました、分かりましたから中で話しましょう!あと茅場先輩、寝てませんよね!?今からでも良いから早く寝てください!」
「断る!」
『完全にイってるではないか』
「ぁああ゛あ゛あ゛!」
『こちらもイッたか』
茅場が言うことを聞いてくれないのはザラであり、その度に高山が一時的な発狂をしながら茅場を無理やり眠らせるか食事を摂らせている。高山の苦労が一気に増える瞬間である。
呑気に高山の視界から眺めているゲムデウスは何もせず、この茅場の状態を最近面白く眺めている。協力してほしいと心から願う高山の思いはゲムデウスには届かず、気苦労が募る。
30分丸々かけて漸く茅場を落ち着かせると、高山も疲弊した様子を見せており疲れていた。そんなことお構い無しと謂わんばかりに茅場が何故か寝台に寝かせて開発済みのナーヴギアを被せてきた。
「あの、茅場先輩?なぜ僕をここに繋げてるのですかね?」
「今日はベータテスト最終日、どうせなら高山君にはボスになってもらおうかと」
「(ねぇゲムデウス!茅場先輩が可笑しくなっちゃったよ!)」
『やったなたe』
「(それは言うな!それと何処でいつ調べたよ!?)」
そんな高山とゲムデウスのお話も束の間、既に準備が整っている茅場は準備を終えているようであった。
「よし、いくぞ高山君!私に素晴らしいデータを見せてくれ!」
「ちょ茅場先輩ィ!」
こうして高山は意識を
ちなみに外そうとしても無駄である。というより体全体が茅場のせいで寝台に縛り付けられている為である。
『さてこの層のボスとなってしまったが、それについての心境は如何かな?宿主』
「(最悪。雑巾の絞り汁が入ったバケツがひっくり返って服とかに掛かるみたいに)」
『目の前にはラスボスである宿主と戦うプレイヤーが多数、さぁ全員
「(ねぇゲムデウス、誰に話してんの?あと何を
『……流石に理不尽すぎて苛立ったか、すまん』
高山はかなり大型の、しかも人型らしい背格好になっている。そして装備は両手斧という高山が何時も使用する戦闘スタイルにあった格好であったが故に、茅場晶彦は仕組んだとも言えるだろう。
兎も角、高山も何時もの戦闘スタイルでプレイヤー達を迎え撃つ。ゲムデウスウィルスによって現実空間と仮想空間との間に殆ど動きの差は無く、逆に高山は仮想空間に馴染みやすいと実感している。
この戦闘スタイルに加えて、今のボスは仮面ライダー。ウィルスの過剰適合によって身体能力の差が殆ど無くなっているので鬼畜仕様なのにも関わらず、
「デェェエエエヤアッ!」
先程飛び蹴りを放った軽装のプレイヤー。その後ろで黒い刀身に緋のラインが入った大剣を装備する黒の鎧を着た人物の2人であった。高山が両手斧を勢いよく振ると、他のプレイヤーはぶつかった威力や衝撃波により悪くてポリゴンになるか良くてHPがギリギリレッドラインに到達するのが一般。
しかしこの2人は物怖じしていないのか軽装のプレイヤーは縦横無尽に飛び回り、タンク役に徹するプレイヤーは大剣を軽々と片手で持ち脚が吹き飛ばされそうな程の威力を受ける。
「グッ!」
「おっしゃあ!行くぜ
「気を引き締めろ
「ヘヘッ!んじゃあ進化できねぇほどシステムを塗り替えてやんよ!」
「この脳筋めが」
「あ?」
「は?」
すると突如2人が近付き額と額をぶつけて両者共睨みを効かせていた。
「おいこらバダンよぉ……テメェ今なんつった?お?」
「脳筋と言ったのだ脳筋。単細胞と言われないだけマシだろう?」
「何時もいつも喧嘩売りやがってよォ……今日という今日はデュエルで決着付けるぞ!」
「熱苦しいわ馬鹿者」
「おいこらテメェ!今馬鹿っつったな!?
「お前は学ばんかい、グ○ンファイヤーみたいに熱苦しくてやってられんわ」
この光景を見ている高山とゲムデウスも、一体何が起こったのか皆目検討も付かなかった。そうこうしている内にゲームエリア内で放送が流れる。
〔ただいまを持ちまして、【ソードアート・オンライン】のベータテストを終了させて頂きます。皆様、お疲れ様でした。続きは製品版をお買い求め下さいませ〕
「あー!終わったじゃねぇか!」
「私の言った事に反応せずに突っ込めば良かったものを」
「んだとこら
最後に殴りかかろうとしたゼロというプレイヤーであったが、バダンというプレイヤーに届く前に光に包まれて消えてしまった。同じくして高山も光に包まれると現実世界に戻され、傍に拘束具を持った神代が立っていた事で現実だと理解する。
上体を起こすと、神代の後ろに何やら見てはいけない状態の茅場が地面に
「いやぁ、悪いな高山。このバカに付き合ってもらってよ」
「……まぁ少しは驚きましたけど、して後ろの茅場先輩は?」
「知らない方が良いこともあるもんだぜ?」
持っていた拘束具であるロープをピンと引っ張ると乾いた音が何故か響き渡り、別れを告げると茅場を
高山も寝台から降りて部屋から出てロビー前に到着すると、既に待っていだ藍原と茅場を連れた神代がそこには居た。藍原は高山に駆け寄って腕を掴むと、腕を組みながら神代と茅場の所まで向かって会話をし始める。
「いやぁ優美、ホントにごめんね!そっちの旦那を色々と!」
「いやまだ結婚してn」
「大丈夫!茅場の場合、明が居るからここまでハイテンションになっちゃうの知ってるし!」
『おい変な解釈されてるぞ』
「優美は高山が居るから良いねぇ……それに比べて」
襟首を掴んでいる神代は持っている手を揺らして茅場を起こす。
「ほら
「
「ほーら早く家に帰るわよー」
「ちょ
何だかんだで大学時代より仲良くなっている茅場と神代の関係を、親目線の様な感覚で見送っていく高山と藍原であった。
一方のゲムデウスは、また1つ学んでいた。“人間の女性は色々と強い”ということを。
──────Loading……──────
あの茅場の1件から翌日、高山とゲムデウスはまた“ネクストゲノム研究所”内に足を運んだ。流石に昨日のテンションは既に消えており、高山の瞳は真実を知ろうとする曇り無き目を携えていた。
しかし目に入った存在に気付き、高山は表情を一変させる。
「パラドさん!?」
「ッ!明なのか!?」
高山は何やら電飾の様なものが混入している透明なロープに縛られているパラドに向かって走り、パラドと目線を合わせる為にその場にしゃがむ。
「パラドさん、一体何でここに!?」
「それはこっちのセリフだ!最近お前を見ないと思ったら、何でゲンム達と協力してるんだ!?」
「そ、それは…………」
高山の目的は、あくまで黎斗の計画している事を知る為に潜入している。だが実際は黎斗に勧誘されて表面上は協力している為に責められるのは構わないが、他の者が高山の思惑を知りそれが黎斗にバレるのを避ける為に敢えて言わなかった。故にパラドの1言でしどろもどろになるのだが、そんな場面にゲムデウスが高山と強制交代する。
「
「ゲムデウス……お前最近ネトゲで遊んでくれないと思ってたら……!」
『ゲムデウス、ネトゲってなにかな?僕知らないんだけど』
「暇潰しにパラドとやってみればハマってな。宝生永夢に許可も取ってお前が寝てる夜に」
『最近電気代増えたのそれかい!』
「そこまで支障は出ておらんだろ?現に余裕が出来る程度にしておる」
『……今度からはちゃんと伝えなさい』
「あら、来てたのね」
ハイヒール特有の鳴り方と女性特有の声がゲムデウスとパラドの両者に近付いてくる。さらに女性フェロモン特有の匂いが加わった事で、今来ている人物は特定出来た。
「『八乙女紗衣子』……パラドがここに居るということは貴様、
「…………その口振り、ゲムデウスね」
八乙女紗衣子は少し……否、かなり苛立ちを募らせた状態でゲムデウスとの対話を行う。もっとも八乙女紗衣子がバグスターに対して異常なまでの嫌悪感を持っているのは、様々な心情の患者を見てきた高山とゲムデウスでしか判明できない。
「幾つか質問をする。構わんよな?」
「…………えぇ。けど早く済ませて頂戴」
「了解した。まず1つはパラドを縛る、このロープはなんだ?」
「レベル0のウィルス抑制効果を組み込んだ物よ。あとは?」
「何故そこまでバグスターを嫌う?確かに我らは一時は人類と敵対し、害をなした。だが我らとて償おうと我らなりの償いをしてきた……一体なぜだ?」
「お前らバグスターには、絶対に理解できない事よ」
八乙女紗衣子は後ろに振り返って来た道を戻って行く。ゲムデウスは何も語りかけなかったが、代わりにパラドが尋ねた。
「おい待て!お前は何がしたかったんだ!?」
「キチンと大人しくしてたか、確かめる為よ。それ以外無いわ」
歩みを止めず、そのまま何処かへと向かって行く八乙女紗衣子。少し息をつくゲムデウスは、すぐにパラドの方に向き合い目線を合わせる様にしゃがむ。
「パラド、よく聞け。今我々は迂闊にお前らを助けるのは難しい状況にある。今は何も言わずに大人しくしてくれ」
「ッ……!待てゲムデウス!せめて何が起きてるのか知りたい!教えてくれ!」
「……私に分かるとすれば、今は宝生永夢の元に別のバグスターが居る事だけだ」
「別のバグスター!?でも、何で……」
「“バグスター育成ゲーム”のテストプレイヤーを」
「ッ!?」
突然聞こえてきた、パラドにとっては久々に聞いた声。ゲムデウスと高山からしてみればある意味聞き慣れてしまったこの声に、3名は反応した。
「宝生永夢には手伝って貰ってるのさ、プァラドゥ」
「檀……黎斗…………!」
「勿論、宝生永夢は
「 檀 黎 斗 神 だぁ……。だがゲムデウス、その通りだとも」
「お前!何でここに居る!?」
「残念だが、今から私は見たいものがあってなぁ……質問には答えない」
そう言って檀黎斗は何処か別の場所へと歩き始める。ゲムデウスも黎斗について行く様で、1言断りを入れた後でついて行った。ついでにゲムデウスと高山は交代した。
「君も来るのか、
「普通なら話し方の違いで漸く気づけるんですけどねぇ……雰囲気で分かりますかね?」
「君が飽きもせずに私達の前に現れるからな、しかも差し入れ付きときた。ゲムデウスの雰囲気と高山君の雰囲気は緊張感の差で分かる様になったのさ」
「……ゲムデウス、緊張してたんだ?」
『した覚えはまず無い』
おそらくゲムデウスは何処か近寄り難い雰囲気を無自覚の内に醸し出していたのだろう。高山の場合はそもそもの性格も起因して優しげな物腰である為に雰囲気の差というのが生まれたのかもしれない。
まぁそもそもバグスターのラスボスに君臨していたゲムデウスと、今は1人の精神科医として過ごしている高山との差はあるのだろう。そしてそうこうしている内に檀黎斗の歩みが止まる。
止まった先には1つの扉があり、そこを開けると1つの部屋に続いていた。そこから見えるコンクリートの支柱、檀黎斗について行くと今度はもう1つのコンクリートの支柱が見えた。
そしてパラドと同じ縄で縛られた檀正宗の姿もそこにはあった。しかし未だに目を覚ましてはいなかった。
「……これがあるって事は、この人もバグスターに」
「そうだな……バグスター、というよりもデータだ。君が回収した複製されたマスターガシャットから私が復元した。しかしバグスターもデータ体の人間にもウィルスが存在している事に違いは無い。レベル0の力で封じ込めさせて貰った」
未だに起きない檀正宗の周りを周回しながら、檀黎斗は高山とゲムデウスに向けて話す。
「良いかぁ君達ィ……この男は、檀正宗は。私の才能を横取りし、私の作ったゲームを勝手に使用した“罪人”だ。この男は
『……非常に言いづらいが、それは似たり寄ったりというものではなかろうか?』
「……でも、黎斗さん。この人は…………貴方の、黎斗さんの」
「
「ッ…………」
高山にとって、この言葉は唯一心にクルものがあった。あの言葉だけで理解出来るのは、本人が過ごしてきた過去の時間が、家族の時間が、誰かを見る目が消えていることの証拠でもあった。
高山は一般的な産まれであった。普通に産まれ、普通にやんちゃし、そして学び、共に誰かと過ごし、助け合い、趣味に走り、恋をして、今があった。
心が────曇って見えた時、高山の心も曇る。
実際精神科医といっても多くの者が患者に寄り添う訳では無い。実際に患者の心情に付き合ってしまえば、自分の心が
高山はその中でも例外であった。患者に寄り添い、あまつさえ患者の心境に立とうとする精神力の持ち主だ。実際は客観的に見て、自分の納得する答えが見つかるまで
心の医者は、とてつもなく疲弊する。体の傷は治せても、心の傷は治すのではなく
高山は檀黎斗の、今の精神状態を“あの一言”で読み取った。誰でも分かると思うが、あの発言からして父親である檀正宗には恨みしか無いと想像出来る。
少しだけ、高山は拳を握る力を強めた。
彼は苦しいのだ。人が人を大切に思えないのが。
彼は憎いのだ。人の心を変えた環境が。
彼は優しいのだ。自分よりも、他人を優先する。
その感情は、時には自分を苦しめるのだが。
「ぐっ!?がヒュッ……!」
「!?高山君!」
高山が苦しみ始める。この世界に蔓延るバグスターウィルスは感染者のストレスを得て実体化し、そして感染者が消滅すれば完全体となる。
さてここで考えよう。高山が持つゲムデウスウィルスはバグスターウィルスの上位互換と捉えて良い。そんなウィルスが高山の発生する急激なストレスを受けたとしよう、彼は今どうなっている?
彼は今、ゲムデウスウィルスによって消えかかっている。ゲムデウスが完全体に
──────Loading……──────
高山の目が覚める。先程高山はゲムデウスウィルスの作用によって苦しんでいた筈なのだが、気が付けば寝台の様な場所に寝かされていた。
「…………ッ」
『目が覚めたか、宿主』
「ッぁ……ゲムデウス、俺……」
『喋るな、まだ私のウィルスの影響があるやも知れん。檀黎斗が【メディスン・トリートメント】を使って急速にガシャットの効果で抑制と過剰分の消去をしている時だ』
「……黎斗さん。ハハっ、またか
また、助けられちゃったな……」
右腕で両目を押さえて、
もしもドクターマイティを手に入れていなかったら、もしもあの言葉が無かったら、運命も変わっていたのかもしれない。それを思い出して、高山は右手を握りしめる。
「ゲムデウス……やっぱ、俺さ」
「気付いたか、高山君」
何か言おうとしていた所に、檀黎斗が高山の元に現れる。言いかけた言葉を首の所に留めて置き、高山はこの寝台から体を起こす。
檀黎斗も突然のアクシデントに少し慌てた表情であったが、高山が持っていたバッグからガシャットギアデュエルγを取り出し【メディスン・トリートメント】を使用する事で何とか大事には至らなかった。
「流石に驚いた。君がゲムデウスウィルスの侵食を諸に受けていた時はな」
「…………すいません。御迷惑をかけました」
「……なに、気にするな。君の為とまではいかないが、再度ゲムデウスウィルスの異常が公になってしまうのは不味い。ある意味、私の計画の支障と成りうるから対応したまでだ」
「そうですか……それでも、ありがとうございます」
寝台から降りて辺りを見渡す。視界に入ったパソコンの側にガシャットギアデュエルγが差し込まれた機器を発見する。その隣には高山の持っていたバッグがあり、先にバッグを取ってギアデュエルγを取る。
【ガッシューン】
「所でなんですが、今時間は?」
「午後4時半といった所だ。まぁ少し外に出てもらえるか?病み上がりの所に申し訳ないが」
「分かりました」
休んだおかげでゲムデウスウィルスの弊害も無く、高山は檀黎斗に案内されるがまま館の調理場の方に転移される。調理代の上にはジュースの材料があったので作れということを理解すると、高山は檀黎斗に一礼して開始する。
そこまで時間も掛からず作り終えて、高山は庭の方で寛いでいると思われる檀黎斗の方まで運んでいく。しかし到着したところで視界に入った1名に対して両者驚いた。
「明日那さん……何故ここに…………?」
「アキラ……!何でここに!?」
「ッ!……まさか、あのゲームに!」
『止まれ宿主!』
八乙女紗衣子の方に怒りと歩みを向けていた高山であったが、中のゲムデウスから制止がかかる。ぐっと堪えたが、まだ八乙女紗衣子に対する怒りはあった。
「何そんなにピリピリしてるのよ、高山先生?」
「……なぜ彼女まで捕らえているのですか?返答次第では……!」
ゲーマドライバーを取り出そうとバッグのファスナーを引っ張って開けるが檀黎斗がこちらを見ている。その視線に気付いた高山は不服ながらもファスナーを閉じて、檀黎斗の方を見る。
「案ずるな。別に彼女の命までを取る気は無い」
「それは
「ッ!?」
高山はポッピーの方に振り向き、目を見開いた。確かにバグスターは宿主を媒体とし、宿主が消滅すると同時に完全体となる。だが、ポッピーの元宿主が檀黎斗の母親であることは聞いていないし知らなかった。今の今まで。
高山は檀黎斗の方を再度見やると、早目にジュースを飲み干して檀黎斗は椅子に掛けていた上着を取って高山の方を見ていた。高山は檀黎斗に近付くと、それに合わせて洋館の方に歩いていく。
洋館内に入るとその場で止まり、背を向けながら話し始めた。
「さて、檀正宗に色々と聞きたい事があるのでな。君達の事にも」
「僕ら…………ってことは、ゲムデウスのことですか?」
「その通りだ。今のところ、ゲムデウスのコピーを仕込んだ可能性の高い奴だ」
『……紛い物、というわけか』
「…………すいません、黎斗さん。少しだけ時間をくれませんか?」
「……早くしろ」
「ありがとうございます」
そう答えると、高山はゲムデウスに向かって思考し話す。何事なのかと思ったゲムデウスであったが、そこまで驚く様子は見せない。疑問には思っているが。
『何だ宿主、こんな時に』
「(ゲムデウス、さっきお前なんて言った?)」
『お前に対する質疑』
「(その前)」
『
「(そ。それ。ゲムデウスはさっき、自分を偽物だって言ったよね?)」
『事実ではないか?
「(逆に聞くけど、
『……と、いうと?』
「(確かにお前はコピーされた存在だ。でもいままで培った“思い出”は
『………………』
ある意味的を射た事であった。高山は1人1人が特別であると信じている。誰であろうと、どんな境遇だろうと。今のゲムデウスもラスボスの風格は影も見えず、今や2年弱もの間を人と共に暮らしてきた。
ラスボスのゲムデウスと今のゲムデウスは根本的に同じかもしれないが、育ちが違った。高山の体内に居るゲムデウスは、
「(だからさ、紛い物なんて言わないでよ。お前はお前なんだからさ)」
『何故、お前には勝てるビジョンが浮かばんのだろうか?』
「(そりゃ光栄なことで)」
それで話が終わる。檀黎斗の方に視線を向けると待っていた黎斗は早くしろと謂わんばかりに高山の方を見ていた。ゲーマドライバーを取り出し装着させてステージセレクトの能力でネクストゲノム研究所まで転移する
檀黎斗先に檀正宗が閉じ込められているコンクリート部屋に歩みを進めていく。高山もそれに続き部屋の中へと入っていく。
そして暫く待つと、檀正宗が目覚めた。しかしレベル0の力によって身動きなどが取れない。目覚めたばかりの檀正宗はコンクリート部屋を見渡し、そして檀黎斗と高山を視界に入れる。
「ッ……!?なぜ私が…………生きている?」
「私が復元したのさぁ。ライダークロニクルに保存されていた貴方をねぇ」
「!……まさか、マスターガシャットを複製するとは…………」
「私の神の才能に、不可能はない」
「狙いは……私の体内に居た、パラドという訳か……」
「
「彼…………どういう事だ?確かに見慣れない者だが」
「“ゲムデウスの複製データ”、といえば分かるか?」
「!…………まさか、この男が……」
「彼は貴方が残したコピーデータの流出により、ゲムデウスと適合した存在。そこで問おう
なぜゲムデウスのコピーデータが
「ふふっ…………」
「?何がおかしい」
「いや……なに、黎斗も
「なに……?」
「して、君の名は……何というのか?」
「高山明です」
「高山……明…………そうか、覚えたぞ」
「……話を聞け檀正宗ぇ!貴様は私の才能の結晶であるゲムデウスをぉ!私に許可無く勝手に利用した事に対する懺悔をしろぉ!」
「ゲムデウスというデータを作り出したのは黎斗、お前だ。管理をしていれば、その様な事も無かった筈だがねぇ……だが懺悔をするならば
檀正宗のその一言で、檀黎斗と高山明の表情と心情が目に見えるほど変わった。続けざまに檀正宗は、こうも言った。
「お前は、この世界に産まれるべきじゃ無かった」
「ッ!」
檀黎斗は少し躊躇い、2人に背を見せて消えていった。
「黎斗さん!」
高山は叫んだが時既に遅し。すぐに高山は檀正宗の方に向き合い、檀正宗の首を左腕で押さえ付けて睨みを利かす。
「どういうつもりだ……アンタ!」
「どう…………とは?」
「なぜアンタは……アンタという父親は!なぜ子どもが産まれた事に後悔する!?応えろ!」
「……黎斗は、命の概念を誤解している。黎斗が作り出したガシャットで、どれだけの消滅者が居るのか君は知っているか?」
「知らない……知らないさ。けど!命を弄ぶゲームを、アンタは自分の思うがままにした!プレイヤーを集め!ウィルスに感染させ!命を奪う行為を、アンタは平気でやった!
確かに黎斗さんの行為も、アンタのやった行為と比べてもなんの大差も無いと思う!けど今の黎斗さんは、変わっている!消滅者に対する念もある!贖罪をしようと、黎斗さんはやってきた!償おうとしてきた!僕はそれを知っている!」
「だが全ては、黎斗の招いた結果だ。黎斗の行為が、全てを引き起こした。そして、今の黎斗に償いの考えなど無い」
『……宿主、コイツは正直お前でも難しい。一旦檀黎斗を追え』
ゲムデウスが助言を出し、高山は不服そうながらも檀正宗の首を押さえ付けていた左腕を自信が距離を取りながら離す。苛立ちの中、ゲーマドライバーを装着し檀黎斗が行くであろう場所に行く。
【STAGE SELECT】
そして到着した先は洋館の庭。そこにパラドやポッピーに加えて八乙女紗衣子が居た。そして案の定、檀黎斗もそこに居た。
「明……!」
「アキラさん……!」
「君も来たのか、高山くぅん」
「黎斗さん……あの…………」
「今まで協力して感謝したよ。だがそれも今終わった。
見せてあげよう……私の神の才能を…………!」
そう言って檀黎斗はウィルス状態となり、何処かへと姿を消してしまった。その時、高山は腕を伸ばしたが届かなかった。届きもしなかった。
「明……」
ふとパラドが高山の方に声をかける。それに反応した高山は何用かと尋ねた。
「パラドさん……なんですか?」
「明、何で今まで檀黎斗と居たのか話してくれないか?」
「私からもお願い、アキラさん」
「…………分かりました、僕が話せる事は話します。でも、1つだけ約束して欲しいことが」
「……それは?」
「お願いします……黎斗さんを…………
黎斗さんを助ける力を、貸してください……!」
次回『Dr.ゲムデウス』は!
始まった死のゲーム【ゾンビクロニクル】!
「さぁ、極限の命のやり取りを……楽しむと良い」
檀黎斗に挑戦する2人のプレイヤー!
「お前を止める」「貴方を救う」
これが、彼の答えだ。
「マキシマム大変身!」
次回【God Dream】