Dr.ゲムデウス   作:(´鋼`)

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閑話 動き出す悪

 高山の復帰が確認されてから早4日が経過した。それまでの高山はゲムデウスウィルスの影響もあって体力だけは異常な回復速度であったが、体の方は治りが大して変わらず暇を持て余していた。

 

 

 その点はニュースを見ていた茅場や神代がお見舞いに来てくれたり、そのついでに茅場がナーヴギアのプレゼントをしたりと大盤振る舞い。もういっその事未発売の【SAO(ソードアート・オンライン)】までも渡そうとしたが、高山は復帰後は仕事に着かなければならない上に遊ぶ暇がある訳では無かった。

 

 

 そのことを理解した茅場であったが、高山は好意を受け取りナーヴギアだけ譲渡された。

 

 

 そして現在の高山はというと……

 

 

 

「ハッ!ハッ!……」

 

 

『2時間と40分経過……これは最早人間とは程遠いな』

 

 

〔既に42.195kmは越えているのにも関わらず、バイタルは殆ど変わらないまま……やはりゲムデウスウィルスの侵蝕効果が作用しているのは自明の理という訳か〕

 

 

「確かに……!これは……!不思議な……!感覚……!ですね!」

 

 

 

 ランニング中であった。一定ペースで動くランニングマシンに乗り、最高速度での持続力を計測していた。前回の戦いでゲムデウスウィルスが体に侵蝕されたことで、高山の体力や身体能力の向上が発見された。

 

 

 ただ、その分見た目に変化が訪れたことも念頭に入れて置かなければ、無闇矢鱈にウィルスの侵蝕を作用させようとはしない。実際高山の金髪度合いも濃さを増し、右目だけ薄らと赤くなっている。勤め先には事情を話しているものの、この状態では医者としてどうかと思われるので最近は黒く染めているのだが、これが特に面倒。

 

 

 

〔もうそろそろ良いだろう、終了だ〕

 

 

「はい……!っと」

 

 

『疲れ知らずになったな。これだとオリンピック目指せるのでは?』

 

 

「冗談、これだとスポーツマンシップに反しちゃうでしょーが」

 

 

『その制約も面倒だな』

 

 

「これが無かったらドーピングで弾劾される人も居ないんだろうけど……そうもいかないからねぇ」

 

 

 高山の出る汗が少ない。その分ベタつかないと高山本人は良いのだが、体そのものは不味いともいえる。発汗作用に遅れが出ているのか、はたまたゲムデウスウィルスが体内の水分を逃がさない様に機能しているのか。

 

 

 そんな高山は私服に着替えてタオルとバグヴァイザーⅡを持って外に出た。ある程度の計測をした後、自分の職場に戻って行く高山であった。

 

 

 

「不思議と疲れてないですもんねぇ……侵蝕されてるとはいえ、体的には殆ど問題すら無さそうなのに。蝕んでるってのがまた……」

 

 

〔事実、君はストレスを感じる事でゲムデウスウィルスの影響を受けただろう。そのストレスの発生源も限られてるとは言えども、一時的な行動不能どころか命に関わるからな〕

 

 

『こればかりは、どうしようもないからな。本来のウィルスの効果、つまるところ人に害を成す存在だからな』

 

 

「ちょっとゲムデウス、今一緒になってんのにさぁ……害を成す成さないとかじゃなくてね。こういうのは僕らがどう生きるかって事だし」

 

 

『お前はいつも共存の選択をするなぁ。そこまで行けばお人好しどころかド天然みたいだ』

 

 

「ちょ、ド天然って……これでもセキュリティ確りしてるのに」

 

 

〔私のお陰でさらにグレードアップされたがなぁ!〕

 

 

 

 これが高山という男。周りも自分も群を抜いて異常すぎるのだが、その中心にはいつも高山が居て周りを動かす。その影響は誰かの為に自分を動かせる誠実さにあったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし平和に忍び寄るのは、常に悪意と相場が決まっている。闇に惹き込まれた心は光に戻ろうとするのは容易ではない。ましてや既に悪意に染まったものと、吐き気を催す悪が共になれば、それは加速する。

 

 

 暗がりの部屋の中、1人でパソコンをタイピングしている者が居た。しかしそこに居るのは1()()ではない。

 

 

 

「……フフッ、これで良い筈だ。カーディナル・システムへの介入と……アンタの存在を()()()に移す事が出来た」

 

 

〔グッジョブ。そして…………これもだ〕

 

 

 

 パソコン内に居る人物は、その手に忌むべき物を持っていた。本来ならば忘れ去られるべきの力を、禁断の力を……その手に握りしめ掲げた。

 

 

 

〔このSAOと呼ばれるゲームは本来、あの茅場晶彦が望んだ通りの仕様になる筈だった。しかし途中で()()の介入が発生し、ただのゲームとなってしまった。

 

 

 ならば……我々が取り戻そうではないか。

 

 

 茅場晶彦が望んだ、()()()()の世界を!〕

 

 

「そう言うのは止してくれ……それで稼ぐ輩も居れば、本気でその世界を作ろうとする大バカも居ることだし」

 

 

〔望んだ世界……ということか。だが理想は綻びが生まれ、そして落胆せざるをえない。そして茅場晶彦も夢を諦めた人間、現実を夢で終わらせてしまった者の1人。

 

 

 その夢を我々が叶えたとしよう、彼にとっては憤慨物に等しいだろう。黎斗……いや、ゴッドマキシマムと同じ質の人間だ。取り返そうと躍起になり……彼もゲームの中へと飛び込む。しかし主導権はこちらにある……エンディングは決められたのだ〕

 

 

「だが邪魔が入るとなれば……キチンと進むかどうかも怪しい。だから賭けに出た、だろう?」

 

 

〔ゴッドマキシマムの介入も考えられるが、カーディナルの学習能力で阻止できる……完璧だ〕

 

 

「あのバグはどうするんだい?1番の懸念はそれだ。1番はSAOに入らせないのが良い、圧力を掛けるのは難しいぞ〕

 

 

〔……いいや、敢えて介入させる。あのバグは実に良い仕事をしてくれたからな。私の完全復活の為のな〕

 

 

 

 その男は背を向けて景色を見た。この景色が、この世界が……もうすぐで変わる。

 

 

 

〔私は諦めんぞ……私自身の夢をォオオオ!〕

 

 

 

 カーディナルが、男の呼び声に応えた。

 

 

 

 

 

 

 




 次回 Dr.ゲムデウス
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