時間だけが経っていく、今のところは。
デウスがバグスターウィルスに感染していた『コペル』というプレイヤーを【ホルンカ】まで運び、先に到着していたM達に事情を話した。この世界でもバグスターウィルスが蔓延っている事が確認されたことと、何時何処で感染者が現れるのか検討すら付かないこと。
今この仮想世界にドクターライダーは2人だけ。しかしバグスターウィルスが確認されたとなれば話しは別だ。そもそもバグスターウィルスは、
そしてその翌日、デウスとMは2人だけで始まりの街に戻った。メッセージを送って経過報告をメンバーの全員に知らせた所、まだ対象年齢になっていない子どもまで居る始末。幸いバグスターウィルスには感染していなかったが、状況を慎重に確認してから攻略に入ることも知らせた。
暫くしてデウスだけは始まりの街やホルンカの村を主に移動して活動、時折【トールバーナ】に居るMに経過報告を送り活動していた。それが25日ほど続いた11月27日のことであった。
【迷宮区】と呼ばれる場所がある。その最深部には層ごとのボスが存在し、そいつを倒せば次に向かえるシステムだ。……しかしデスゲームと化した場所では、あまり進歩というのが目に見えてない状態が停滞していたのだ。初めはクリアしようと奔走していたプレイヤーも、徐々に活気を失せ始めたのだ。
しかしそうだとしても、抗おうとするプレイヤーは居た。今はデウスとM、シリカとリーゼ・ロッテを抜きにした9人で、3人1組のチームを作り迷宮区を攻略していた。
1組目はヒースクリフ、ラン、リズベット
2組目はキリト、バダン、ユウキ
3組目はゼロ、シノン、アスナという構成で攻略を行っていた。
その3組目に居るアスナは、何やら思い詰めた表情で迷宮区の廊下をゼロとシノンと共に歩いていた。しかしそんなアスナの表情に気付いたゼロが話しかけた。
「おいアスナ」
「…………へっ?な、なに?」
「何かお前辛気臭い顔してんな〜ってな」
「そ、そんな顔はっ!……して、ない……」
「何か悩み事でもあるのかしら?」
「んな時は誰かにぶちまきゃ良いぞ。悩み事なんざ抱えてるだけ時間の無駄だしな」
「ゼロは悩む時間を増やしなさいよ。いっつも前に出て……」
「へへっ、悪ぃ悪ぃ」
確かに悩みを誰かに話すのは効果的とも言える。だが未だ知り合って3週間以上経ったとしても、他人には言えない事というものは存在する。今のアスナは、そんな状態に陥っている。
ふとシノンがアスナの顔を見た。そして何かを悟った様子を浮かべたシノンは、ゼロに振り向き耳を塞ぐジェスチャーを取ると面倒そうにシノンと同じことをした。そしてシノンはアスナの元に近付く。それに気付いたアスナは疑問符を浮かべている。
「し、シノンさん?何かな?」
「アスナ……貴女…………
好きな人、居るのかしら?」
アスナの体がビクッと震えた。図星らしい。
「な、何でそうなるのかなぁ!?」
「見たら分かるわよ、恋する乙女の表情位は。で、誰なのかしら?ゼロには耳塞いでもらったから、ここで言っても恥ずかしがることは無いわよ」
「うぅぅぅぅ…………」
図星による恥ずかしさや思いを向けている誰かに対してなのか、アスナの顔は紅潮している。余談だが、フルダイブ型VRゲームは感情を隠すことは出来ない。脳からの信号をナーヴギアに伝えている為、感情という脳からの電気信号も素直に受理してしまうからだ。
つまるところ、幾ら感情を隠そうと努力しても殆ど無意味。フルダイブ型VRゲームでも感情を隠そうとするとなると、感情の信号を受け取らせない様にすることが無難な選択とも言える。
アスナは両手で顔を覆い、同性のシノンならと……自分の胸中をポツポツと話した。
「昔……病気にかかってた頃にね…………」
「ゆっくりで良いわよ」
「担当医の人がさ……凄く優しくてね……」
「うんうん」
「話してる内にね……安心…………してね。何だか、落ち着くなって思っちゃったの」
「成程」
「いつの間にか……その人の暖かさ……っていうのかな?気付いたら、ずっとその人を……考えてたの」
「病気が治ってもね……その気持ちだけは全然……変わらなくてね……」
「じゃあその人は……今何処に居るのかしら?」
「今は色んな人の為に努力してて
今は他の人には言えない秘密を抱えてて
それでも人を助けようとしてる……そんな人」
シノンは考えた。今のところそんなプレイヤーは居そうだなと考えているし、もしかしたら現実世界で待っている人かもしれない。
だがシノンは先に、仮想世界で思いつく辺りのプレイヤーを考えた。色んな人の為に努力している……ここでは何故かMとデウス位しか思い付かなかった。いや1番医者として活躍しているのは違いないのだが。
次に秘密。秘密の時点で……何となく想像は付いた。そして最後の人助け、もうたった1人しか居ないと断言しよう。
「もしかして、デウス?」
アスナは何も言わない。いや、何か行動はした。その場で蹲り、コクコクと2回だけ頷いた。因みにアスナはこれが初恋にも該当していた。
元々の家柄が結城財閥とあって、かなり制限された生活を送っていた日々。そんな中で好意を向ける人物というのは殆ど居なかったと考えられる中で、唯一脳裏から離れなくなったのがその時担当医の
「……意外とアスナって、一途なのね」
「で、でも……ね…………時折先生を見てたら、何だか不安になってくるの」
「何に?」
「年齢差とか……こう、乗り越えられない壁っていうか。それに……」
「それに?」
「何かは分からないけど、何だか……とてつもなく胸騒ぎがするの……先生を思っていると……」
こういうのを乙女の勘というべきか。否、恐らくアスナは自身の考えうる1つの可能性に一抹の不安があるのだろう。その時シノンは…………
「ともかくアスナ、デウスのことは好きなのよね?」
「うん……」
「だったら当たって砕けてきなさい。年齢差?世の中の愛に年齢差なんて関係ないと謂わんばかりの夫婦だってごまんと居るのよ?」
「ふうッ……!?」
「それにその嫌な予感かしら、デウス本人に直接聞いてみれば良いじゃない。それで解決出来るなら」
普通こんなことを思い付くのだろうか。アスナの恋路を聞いたシノンであったが、核心とも言える部分を言う辺りどんな成長をしてきたのかが気になる。
そんな時、シノンとアスナの目の前にメッセージが届く。差出人はバダンからで、内容は……
「“ボス部屋の発見”……か。バダンのチームが見つけちまったか」
「でもまぁ、これで攻略が捗るのも間違いは無いわよ。……競争には負けたけどね」
「アイツ頭は俺より良いんだよなぁ……けど次こそは!」
「はいはい、頑張れ頑張れ」
そんなやり取りがあった中でゼロ、シノン、アスナの3名は迷宮区から抜け出しトールバーナの街に戻っていった。
「はぁっ!?売った!?ボス部屋の情報を!?」
トールバーナの宿の一室でゼロの声が聞こえてくる。その1室にはゼロと旧知の中であるバダンも居り、男2人だけで話し合っていた。
「落ち着けゼロ、最後まで話を聞け」
「いやボス部屋の情報を『ディアベル』に売ったつったよな!?アホかお前は!?アルゴに言えば良い話だったろ!」
「だから落ち着けと……あぁ良い、先に言おうか」
面倒そうにバダンはあの時のことを話す。
「ディアベルに売ったのにも訳はある。1つはリーダーの分散とも言うべきかな。今のゼロはプレイヤーを導く光として見られているが、あの時の演説の効果も薄れてきたのは分かるよな?」
「まぁ……時間だけは、どうにも出来ねぇし」
「それに幾らお前でも約1万の数をクリアまで導くには骨が折れる。というより不可能と言っても過言では無い。そこでだ、アルゴすら知らない情報を後から来たディアベルに渡し攻略会議の際に言ったとしよう。どうなると思う?」
「……あぁ、お前の腹ん中がよ〜く分かったぜ。つまるところ頼られるプレイヤーを増やそうって魂胆だな?俺だけに重責を乗せず、ほかのプレイヤーでも導かせることで減らそうって魂胆か」
「理解が早くて助かる。それに、今回ばかりは……このガイドブックも役に立たん情報があったしな」
そのガイドブックと呼ばれた手帳サイズの本を見せながら言うバダン。ボスの確認には全員でボスの攻撃を避けつつ確認したところ、βとは違う点もあった。
「ボスの【イルファング・ザ・コボルトロード】の持ち物に“刀”と思わしき装備があったとなればな」
「刀ってか……10層でお目に掛かる代物だぞ。俺達βならまだ可能性はあるが、ルーキー共は難しいぜこりゃ」
「この情報もディアベルに売った。キリトには怪訝な反応をされたが、あくまでも目的はリーダー的ポジションのプレイヤーを増やすことも兼ねている。ディアベルには悪いがな」
「まぁそん時は俺もフォローに入るか。2人のリーダーって感じでさ」
「お前らしいな……」
そんなやり取りがあった様だ。
そしてそれから翌日、この日はデウスも攻略会議を聴くために態々帰ってきたとも言える。他人から聞くより、自分で聞く方を優先した。しかしデウスは全員にあることも話した。
このゲームの脱出ルート……謂わばデマ情報の対処に当たっていたことをデウス以外の全員が知る。誰が何故そうしたのかは知りえないが、デウスは精神科医の立場からの推察を披露した。
「見たいんだと思う、プレイヤーの絶望した表情を。
そして楽しんでるんだ。プレイヤーが死にゆく様を」
「そんな……ことが…………」
「既にこれを確認しに行った12名は……もう…………」
それだけ伝えた。だが既にデウスはこれを解決、来ていたプレイヤーや遭遇した情報屋の『アルゴ』に伝えて広めてもらっているらしい。
そんな重い心境のまま、ボスの攻略会議が行われることとなった。
キリ×アスだと思った人挙手(・ω・)ノ
ここではデウス←アスナの一方通行なり。