ゼロが【ultimate human】というスキルと、【Planet ark】と呼ばれるアイテムを手に入れてから早1ヶ月半。現実はクリスマスやら正月やらというイベントがあるだろうが、このSAO──もといCAO──でもそのようなイベントはあった。ただプレイヤーの殆どは攻略に徹するあまり、イベントというイベントを楽しんでいなかった。
それでも楽しもうと努力していた者は居た。レベルの低さの割にステータスがゲムデウスウィルスによって異常な物になっているデウスが先行しつつ、クリスマスはリーゼ・ロッテと2人きりで楽しんだり、正月限定のクエストで餅つきの様なものをしたりと案外楽しんでいた。
その気に乗せられたゼロも楽しんだ。クリスマスは男女ペアのクエストでシノンと協力してクリアしたりと楽しもうとしていた。因みに他のメンバーはというと、アスナは落胆しリズベットがそれを慰めたり、ランとユウキとシリカの3人は街を巡っていたり、キリトとバダンとヒースクリフは攻略に明け暮れていた。
その1ヶ月半で、攻略は一気に5層にまで進んだ。順調といえば順調だろう。残された約9000人以上のプレイヤーの中の攻略組が、誰1人として欠けなかったことを踏まえると。
メンバーの平均レベルも上がった。相変わらずデウスだけ上昇率が著しく低いが、それでも現在の安全マージンを越えていることに変わりはない。漸くデウスはレベル20に到達し、Mもレベル22と随分上に位置している。これでダブルガシャットの本領が発揮できるのだ。
そして現在、攻略組は5層のボス部屋を発見しており道を進んでいた。今回のメンバーはデウス、ユウキ、ラン、ゼロ、アスナ、ヒースクリフの6名がレイドを組み攻略に参加している。
そんな移動の最中、というよりも今の今までゼロは自分の得たスキルについて悩み惚けていた。珍しくバダンにも話さず、ただ1人悶々と考えていた。何故だかバダンにも相談し難いと感じており、普段とは違う感覚を覚えているゼロ。
「どうしたのゼロ、何か暗いよ?」
不意にユウキが話しかける。ゼロは一旦意識をユウキに向けて考えを止めて話をする。
「あ、あぁ……いんや。って暗いってどーいう意味だコラ?」
「えーだってさぁ、いつものゼロのハッチャけ具合がまるでないっていうかさぁ……いつもはボクとハイタッチするのに最近はしないし」
「何お前?俺のことよく見てんのな、視姦趣味か?」
「しかん……?」
「「ユウキ、知らなくて良いから。ゼロ?」」
「へーいへい」
「ゼロ、そういうのは歳が経ってから言うものだよ。流石に女性に対してだと、どうかとは思うけどさ」
「私も何やらセクハラ紛いの事を言って彼女に粛清されたことがあるんだ……ゼロ、悪いことは言わない」
「お、おう……苦労してんのな」
攻略中に話す内容ではないと思うのは自分だけだろうか、そう思いながらボス部屋を目指す攻略組であった。一部和気あいあいとしているせいか、次第に攻略組の中にもそのような雰囲気が漂い始めていく。
さてそんな話しも弾む中、漸くボス部屋の前に到着した。そこでレイドの足取りも一旦止まり、何やら前方で色々と話しているが聞いていても注意しろ的なことしか言わないので特に聞こうとも思っていない。
「さてっと、そろそろ準備しなきゃ不味いな」
「おーし、張り切って行こー!」
「ちょっと落ち着こうかユウキちゃん」
「あぁもう、すみません先生。この子久々に先生と一緒だから、ついついはしゃいじゃって」
「姉ちゃんも先生のことで昨日“眠れないー”とか言ってた癖に」
「ちょっ!ユウキ!」
「中々モテてるじゃないか、デウス君」
「はははっ、勘弁して下さいよ。リーゼが居るのに」
「…………むぅ」
色々と気を引き締めろと言われているのだが……今この世界はHPが無くなれば死ぬというシステムの中、このような雰囲気が漂われているのは少し異様とも取れる。
そんな話しの最中、漸くボス部屋の扉が開かれる。その中に居るのは……何とプレイヤーであった。カーソルは緑色に表示されているのだが、そのプレイヤーは上半身の装備だけが何も無かったのだ。
「お、おい!プレイヤーが居るぞ!?」
「!?ちょっとすいません!通らせて下さい!」
いち早くデウスがレイドを掻き分けて、そのプレイヤーに近寄る。一言だけそのプレイヤーに断りを入れると質問を幾つか投げ掛ける。
「大丈夫ですか?この部屋で何があったんですか?」
『宿主!そいつから離れろ!』
「えっ…………うおっ!?ガッ!?」
「「「先生!」」」
「デウス君!?」
デウスの首に何か締め付けられる感覚を覚えた途端、その体がこの部屋の壁にまで押し付けられる。HPはそこまで減ってはいないものの、首を拘束されておりダメージの蓄積が入る。
「馬鹿な奴だ。この男も、ここに居る
「人間……?」
「何で俺がここに存在するのかは分からないが……そんなことはどうでも良い』」
目の前のプレイヤーの体が変質していく。内側からボコボコと膨れ上がると、体内から青い光が発せられていく。その光が収まると、本性を現した。
誰もが初めて見るモンスター。βテスターのゼロでさえもこの姿を見るのは初めてで、ヒースクリフでさえもこのモンスターを知らない。言葉では形容し難いその姿の真上には、こう名前が記されていた。
「っう……うぉアァ!」
「『ッ、何っ!?』」
デウスは両手斧を片手で持ち、デウスの首を締め付けている尻尾を斬りつけて落とす。ゲムデウスウィルスとて便利なだけではない、その証拠に首を締め付けられた感覚が現実にも反映しているようで……
『宿主、危機一髪だったな。心臓のバイタルが一時的に呼吸困難の状態になっていたからな』
「っはぁ!はぁ……!はぁ……!何だよ……あれ?」
『私にも分からん。未知のモンスター……いや、私でもモデルすら見たことがない』
「デウス君、平気か!?」
「先輩……!」
デウスの容態を確認するためにヒースクリフが来る。攻略組は既にBeast the oneに対して攻撃を始めている。尻尾の攻撃の風圧がデウスとヒースクリフの近くにまで来るが、ダメージはない。
しかし危ないと判断して、一旦離れる。
「先輩、あれは一体……」
「いや……私は、あんなモンスターを実装した覚えは無い!おのれ檀正宗ェ……!」
〔いいや、檀正宗でもあんなヤツは知らん〕
「黎斗さん……じゃあ、あれは一体誰が?」
〔それもあるだろうが、そのことは私が調べてみよう。今は君たちの使命を全うしてくれ〕
「分かりました……それじゃあ、行きましょうか!」
「あぁ、そうさせてもらおう!」
デウスとヒースクリフはそれぞれの武器を手にし、目の前のBeast the oneに向けて攻撃を開始し始めた。
「『えぇい!死に損ないどもめがァ!ウロチョロと引っ掻き回しやがってェ!』」
「ハンッ!図体がデカいだけかよボンクラ!デウスの速さが鬱陶しいだろぉなぁ!?」
「フッ!」
「『ぐおっ!たかが人間風情が……!この俺に何度も傷を付けやがって……!』」
時間が経過し、攻略組の面子も大分Beast the oneの動きに慣れていった頃、そのBeast the oneのHPバーは既に3本目の半分にまで到達していた。主な火力であるデウスの一撃必殺型のSSが、この層のボスにとっては非常に厄介なのだが、デウスは攻撃に当たったのは1度だけである。
このBeast the oneの攻略に対して、誰もが希望を持っていた。そう、このまま進んでいけばの話だが。
「『ならば…………■■■■■■■■!』」
「っ!?」「ぐっ!?」「み、耳がっ!」
突如雄叫びをあげたBeast the one。またも形容し難いと思わせる雄叫びは、1つの叫び声にも似たようなものを感じていた。
と、ここでだがヒースクリフが妙なものを見つけた。それはSAOに実装されている鼠型のモンスター【Iron un topo】と呼ばれるのだが、そのモンスターがBeast the oneに向かって行っている。
ここで不思議な出来事が起きた。そのモンスターを取り込んで、Beast the oneは新たな形態に変化したのだ。大きさは既に部屋に収まりきらず、カーディナルの作用なのか一瞬にして部屋から居なくなった……かと思いきや、外から咆哮が聞こえる。
つまりカーディナルがこの部屋では容量超えが起きると結果を出した故の行動。
「くそっ!全員ボスを追いかけろ!フィールドに出たら不味いことになる!」
「行こう、みんな!」
レイド全てが一気にフィールドへと駆け出す。しかし誘導したデウスは、1人残っていたゼロを見つけると不思議に思い、ゼロに近寄る。
「ゼロ、どうしたんだい?早く行かなきゃ」
「あ、いや……わかってはいるぜ。けどちょっと待ってくれねぇか?何か通知が届いてんだよ」
「通知?」
ゼロがメニュー画面を開き、通知欄を開く。題名は
「ゼロ、それは一体……」
「俺でも何か分かんねぇけどよぉ……多分、やれって意味かもしれなくてな」
ゼロはそう言うと、そのPlanet arkを回した。そのアイテムはバネが内蔵されているみたく一瞬で伸びると、中から見えるボタンらしき場所に左手で触れた。
ゼロはPlanet arkを左手で持つと、ゆっくりと弧を描く様に上に向けて、そのボタンを押した。その刹那、Planet arkの先端から視界が潰される程の光がボス部屋に充満していった。
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