あれから月日も経ち20層まで到達したプレイヤー達は、普段と変わらず攻略組とそうでない者との区別をつけたまま毎日を過ごし続けていた。
ただこの日、1人だけ決意を持って17層に降りていたプレイヤーが居る。しかも何故だか知らないが……隣に盲目の男を連れて。
そんなプレイヤーの名は『ラン』。最近攻略組でも活躍し、ヒースクリフが創設したギルドのメンバーの1人。しかも厄介なことにメンバーの中で所謂“二つ名”持ちまで居る始末。
中でも注目されているのは【二面相】の『デウス』、【最強ゲーマー】の『M』などが主。他にもキリトが二つ名を持っているものの、そこら辺は省略しよう。今はランというプレイヤーの物語なのだから。
話しを戻そう。事の始まりはアルゴからの情報であった。何でも、17層の森林地帯の奥深くに不自然に置かれた刀らしき武器があるという。これだけを聞いてランはすぐにアルゴから情報の詳細を買った。なぜそこまで必死だったのかは、ランのみぞ知る。
その刀を手に入れるのにはクエストで受注しなければならないシステムだったらしく、アルゴから聞いたNPCに出会うまでの午後11時まで待ちぼうけであった。
漸くNPCとの話しが終わったと思いきや、今すぐに森の奥にある墓場まで受け取った花を添えてくれないかと頼まれた。時間にして午前0時、それでもランは墓場まで目指した。
その墓場を目指す道中、その盲目の男が森の入口らしき場所の近くで佇んでいた。話を聞く限り男も墓参りに行く様子だったのだが、この森の臭いが強すぎることと何年もの間人の往来が無かったせいで獣道しかなくて迷っていたという。
ランはその男を連れていき、今は獣道を進んで行っている途中である。
「鬱蒼としてるねぇ、嬢ちゃん」
「そうですね……こんな所に刀なんてあるのかしら?」
「何か、言ったかい?」
「いえ何も」
鬱蒼と生い茂る中、ランは邪魔だと思った
「そういや嬢ちゃん、何でこんな場所に来てるんだい?もうとっくに夜だってのに」
「頼まれたんですよ。すぐにお墓に届けてくれって言い分で」
「へぇ、そりゃちょいと……怪しくないかい?」
言われてみれば、確かにそうだ。普通ならば午後11時に現在13歳の少女に頼み込んで今すぐ墓場に花を添えに行ってくれ等と言わないのだから。だがここはゲームの中、それ故に元の開発者の適当さが現れている。
実際にクエストを生成しているのはカーディナルなのだが。
「……まぁ、思いますけど。ただ」
「ただ?」
「その墓場に……刀があるらしくて」
「刀……ってぇと、
「知ってるんですか!?」
ランが驚きそう叫んだ途端、狼型のエネミーが何体も現れてしまった。どうやら声で此方まで来たらしい。
「…………えっと」
「はっはっはっ、一先ず厄介事を済ませちまうか」
狼型エネミーはものの15分で片付けられた。ランの実力が攻略組の前線レベルにまで到達していることも考えられるが、1番の要因はあの盲目の男だ。
盲目故に持っていた杖が実際は仕込み杖であったのだが、刀身を抜いてやって来る狼型エネミーを
「……凄い、目が見えてないのに」
「はっはっはっ。目が見えてなかろうが、耳や鼻、空気を感じ取れば大概のものは分かるぜ、お嬢ちゃん」
お互いに帯刀を行いながらそう語る男、この男は色々と変だと思えるものが幾つかある。まず盲目なのにも関わらず、昔から墓参りに行っていたのかということ。次にその手に持つ仕込み杖、最後に刀を振るう鋭さ……まるで鍛え上げられた1つの技のようで。
しかしそんなことよりも、今は先にその墓場のある場所にまで行かなければならない。男に対する疑問を呑み込み、墓場を目指す。
「おっ、もう行くのかい?」
「えぇ……」
「…………ふぅん。なぁお嬢ちゃんや、ちょっと良いかい?」
「なんですか?」
盲目の男がランを引き止める。少し声の質が荒ぶった様子だが、それを聴き逃さない男ではなかった。それを踏まえた上で、男はランに訪ねた。
「何をそんなに焦っているんだい?」
「っ…………」
現実世界なら感情を隠せたかもしれないが、生憎とここは仮想世界。フルダイブの影響により脳の微弱な電気信号を受け取り反映させてしまうシステムがある。故にランは、図星を貫かれたような表情を浮かべていた。
ランは考えに考え抜いた結果……その男に話した。墓場を目指しながらも、ランは思い耽ながら語り始めた。
「……私、人の役に立ちたいんです」
「へぇ……でも、人の役に立つことと刀を手に入れることは関係ないんじゃないのかい?」
「いえ、必要なんです。
私達の知り合いに、本当によく頼れる大人が何人も居るんです……でもそこで甘えている内に、自分はここで指を咥えて待っていて良いのか悩んでしまって。
少しでも負担を減らせるのなら……あの人達に迷惑を掛けたくないから、私は強くならなくちゃいけないんです」
それこそがランの思い。足でまといになることを恐れたあまり、ラン自身がデウスやM、ゼロやバダン、キリトやアスナ達の様に力を求めて行った結果が、これであった。
新しい武器を手に入れて、強い力を欲する……これが今のランをつき動かしている信念である。
その話しが終わると、いつの間にか墓場の近くへと到達していた。遠目からして墓場が見えているので、どうやら当たりだと踏んだランは急ぎ足になるのだが…………
「そりゃ思い込みだよ、嬢ちゃん」
男の声がランの歩みを止めた。ランは一体何を言っているのか一瞬分からなかったが、一瞬経てば男の言い分も分かった。だが納得がいかない。
「……どういう、意味ですか?」
「言葉の通りさ。お嬢ちゃんは今でも充分に強いって断言するぜ?あっしが言うんだ、間違いねぇ」
「……ありがとうございます。でも、そうだとしても私は」
「そんな力なんてなぁ、本当は何処にも必要ないもんさ。今の世の中じゃなぁ」
「っ……!でも、この世界のモンスターを倒す為には!」
「嬢ちゃん、よく聞いてくれ。所詮刀や剣なんざ人斬り包丁っていう物よ、そんなモン振るうのは……あっしみたいな輩か、処刑人だけで良いもんさ。
本当はそこにある命を殺すだけの、
ゲームの中と分かっていないNPCという存在は、通常ならば誰にも理解されることなく忘れ去られていくのだろう。だがNPCにとってここは現実、故に現実味を帯びた言葉が出てくる。
男はランより前に出で何も躊躇うことなく墓場まで行く。仕込み杖で地面を探り、音の反響で道を選び到着した。その男の行動力にランも驚きはしたが、兎にも角にも墓場まで向かっていく。
墓場に辿り着いた。しかし墓石は1つしか無いのだが、その墓石に供えられているかのように刀が1本あった。先に到着した男はゆっくりと膝を着き、何かを唱えるように呟いていた。
ランは目の前にある刀を見て心が揺らぐ。あれこそが自分の求めていた力なのだと、そう実感できる瞬間であったからこそ心が揺らいでいた。目の前の
ランは止まった手を見て思い出した。ここに来た理由は受け取ったNPCから花を添えてくれと頼まれたから、そしてそのクエストの報酬が刀であったから来ただけだ。もしも目の前の刀が、ランの求めていなかった物であったとしたら……そう考えるやいなや、話しは早かった。
ランは何か念仏を唱えている男の隣に座り、アイテム欄から花束を選択し取り出す。それを少し迷いながらも墓の上に置き、両手を合わせる。
ランの家族はキリスト教を信仰している。あまりこういった日本式の墓参りをする機会も無く、ランは男のする動作を真似てしているだけ。ランはその場で立ち上がり、辺りを見渡すと生い茂っている雑草を引っこ抜き始めた。
「……嬢ちゃん、何をしてるんだい?」
「いえ……!こう生い茂ってたらっ……!フゥ、故人も鬱陶しく思いませんか?」
キリスト教の墓参りは故人に対して祈りを捧げるのではなく、あくまでも神に祈りを捧げるものとされている。クリスチャンは全員天国に行けるということを前提としているが故にだ。
だが墓参りに関しては先にやるべき事と留意すべきことがある。先に墓周りの掃除をして花を添えるのが本来の手順、今回は逆になってしまったがランはやるべき事をやろうとしていた。
「全く……墓参りだと聞いてたものの、何で白い花じゃないんですか」
「……はっはっはっ、嬢ちゃん。ちょいとへっぴり腰過ぎねぇかい?」
「……私、3年前まで病気だったので」
「おっと、こりゃ失敬」
そう言い終えると、男も雑草を引き抜き始めた。子どもがやっているのに大人がやらないというのも、NPCとはいえ些か気が引けるのだろう。
結局終わった頃には朝日が出始めていた。仮想空間では汗をかかないとはいうものの、既に精神的に疲弊しているラン。だが男はどちらも疲弊しているのだが。
「嬢ちゃん」
「なんですか?」
「……刀は良いのかい?欲しかったんだろ?」
男は座り込んだ状態でランに問いかける。ふとランは墓にある刀をじっと見つめると、ため息をついて引き抜いた雑草の山に寝そべった。
「……いえ、もう良いです。疲れましたし」
「そうかい。ならちょっと寝たら、すぐに行くか」
「えぇ……そう、しま……す……」
ランは疲れた様子で、その山の上で寝た。
活動報告にて次回作アンケートを募集中です!
投稿チカレタ(´・ω・`)もう止まりたい……「アシヲトメルナァー!」
幻聴が聞こえてきた……