Dr.ゲムデウス   作:(´鋼`)

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rejectと覚醒 ラン&バダン

「バダン……!」

 

 

「ここに居たのか、ラン。それと…………」

 

 

 

 誰かを投げ付けたバダンがストレアの方へと視線を向ける。ランと一緒にいる時点で多生なりと警戒はしていたのだが、バダンでさえも気配探知スキルを使っても気付くことのなかった()()()()()に警戒するよりも、他のことに対処しなければならないとして、バダンはバダンの用事を優先する。

 

 

 

「話は山積みだが……今回ばかりはそうも言ってられんようだな」

 

 

「っ…………おのれッ……!私の邪魔をするな!」

 

 

「ふっ!」

 

 

 

 バダンは大剣でガードしたままフードを被るプレイヤーに突進していく。STRの対抗はバダンに優先されるようで、そのままバダンとフードをかぶったプレイヤーは森の奥へと向かっていった。残されたストレアとラン、そして起き上がったユウキ。しかし依然として一言も発さないユウキは、2人に向かって【ディープ・ヴァイオレット】を振るう。

 

 

 

「っ!」

「おわっ!」

 

 

 

 冷淡に振るわれる度に生まれる剣閃を避けるも、ランは未だに変身せずユウキに対してどうすれば良いのか延々と考え続けている。ストレアは迷いなく防御から攻撃に移っていく。先ほどまでとは打って変わって、足腰を重点的に置いた剣閃での攻撃を放つストレスであったが、ライダーと通常プレイヤーの差は歴然。反応速度やSTRの差から見ても受け流され防がれる。

 

 

 ストレアが両手剣に光を纏わせる。両手剣SS【カスケード】を放ち重い一撃を与えるが、ユウキの顔面にあるバイザーが紅く光るとその一撃を確実に受け止めた。

 

 

 

「っ……!さっすが、名前が()()なだけあるか……固有能力を知らない訳じゃ無かったけど…………でも!」

 

 

 

 ユウキは何も言わずに受け止めた状態からスルリと流れるように拘束状態から抜け出すと、手際よく剣の位置を変えて左上からの袈裟斬りを放つ。SSの膠着状態がギリギリのところで解除されたストレアは瞬時にバックステップで避け、前髪が少しだけ切り取られたものの、今度は【トーレント】を使用し柄で攻撃する。ユウキはノックバックによって2人との距離を空けさせられた。

 

 

 しかしストレアが目に見えて疲弊しているのが分かる。そもそもの能力値から考えてみても、無謀としか言い様の無い戦いに対してかなり時間は稼げた上に生きている。遠慮なしの攻撃一つ一つを適切に対処し、ダメージを受けることなく戦えている。それだけでも、かなりの戦力になれる逸材だ。

 

 

 そんな逸材であろうと、精神的な疲労だけはどうしようもない。既に両膝が笑うぐらいにユウキに対して神経を注ぎ込んだ。徐々にストレアの焦点が合いそうになくなってしまう最中であろうと、ユウキは無慈悲にも素早く接近し、右逆袈裟斬りを放つ。

 

 

 

「しまっ─────!」

 

 

 

 無慈悲な剣閃がストレアを斬り裂く

 

 

 

 

 

 

 

 

 筈だった。ユウキの持つ【ディープ・ヴァイオレット】が止まり、ユウキの動きも止まる。そしてユウキと対峙するように剣を受け止めたのは、他の誰でもない。

 

 

 姉であるランであった。

 

 

 

「…………ユウキ」

 

 

 

 静かにそう呟くラン。あらゆるステータス値は今現在ではユウキの方が圧倒的に優勢であった。なのでランは素早く鞘を抜き刀を収めながら魔法の言葉を口にする。

 

 

 

「────変身」

 

 

 

【変身シークエンス、起動します】

 

 

 

 ランの体が【ゼロレンジ】へと変わると、上昇されたSTRとDEX値で上手く力加減を調整して押し返し、その隙にストレアは撤退する。押し返されたユウキは数歩後ずさるも、標的をランに変えて見据えた。

 

 

 ランも同じようにユウキを見据える。ただし今のユウキとランには決定的な違いが1つだけあった。その信念、思いがどのような結果になるのだろうか。おそらく見ているであろう監視者(仮面ライダークロノス)は興味深そうな目をするのだろうか。

 

 

 先にユウキが仕掛けた。AGIはランよりも早い故に射程圏内に入ったユウキは、その素早さを生かして突きを放つ。剣先がランの元へと吸い寄せられるように向かっていくが、ランは刀をぶらりと下げた状態のまま動きはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ランは刀を手放した。攻撃する意思なんてサラサラ無かったランの腹部に深く【ディープ・ヴァイオレット】が突き刺さる。ダメージの減りは恐らく継続されていく筈、このままでは命が危ないのは目に見えていた。だがランは深く突き刺さったままの状態で、ユウキの顔に触れる。

 

 

 

「ユウキ───────

 

 

 ()()()()。お姉ちゃんなのに、貴女に対して何にも声を掛けてあげられなかった。

 

 

 ()()()()。貴女を孤独に、1人にさせてしまったこと。本当はすぐに引き止めたら良かったのに。

 

 

 ()()()()。ユウキ……本当に、ごめんね」

 

 

 

 仮面越しにランの思いが吐露されていく。姉とて、あの時の悲しみを知ってしまった。大切な人はいつも近くに居て、離れ離れになった途端にわかってしまうことに。ユウキと離れていた暫くの間、本当にランは苦しかった。こうも食欲が無くなってしまうことも、こうも生きる気力が起きないことも、若干13歳にして経験してしまった。

 

 

 以前のようにHIVウィルスに感染していた時は、家族一同キリスト教徒であったが故に“これも神様が与えてくれた試練なんだ”と家族で割り切れた。だがユウキが殺人を犯し、離れてしまったことでランの何かが崩れてしまった。

 

 

 ランも孤独を恐れていた。ユウキを失う痛みが、耐えられなかったが故に壊れかけてしまった。

 

 

 ランの体が意識を失ったかのようにユウキの方へと倒れ込む。腹部に剣は刺さったままだがユウキが支えとなり、ランの体は膝から崩れてそのまま倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねえ…………ちゃん……?」

 

 

 

 第一声が、それだった。それを見たストレアはすぐにランの腹に刺さっている【ディープ・ヴァイオレット】を抜き取り、鞘に収めて変身を解くとアイテム欄を操作して回復結晶を取り出す。体力は全快したものの、継続ダメージが続いている。ストレアはさらにポーションをランの口へと流し込み何とか減少量を抑えようとする。

 

 

 後ずさる音が聞こえる。ユウキがその場から逃げようとしていたが、すぐにストレアがユウキの右手首を掴み捕らえる。逃げようとユウキは身じろぐも、STRの差が脱走の障害となった。

 

 

 

「……ダメだよ、ユウキ。お姉さんが折角捜しに来てくれたのに、逃げちゃダメだよ」

 

 

「離して……離してってば…………」

 

 

「ずっとユウキを探してたのに?心配そうにしてユウキを探してたのに、それでも──」

 

 

 

 

 

 

「離して!ボクはお姉ちゃんに会う資格もないのに!

 

 

 お姉ちゃんの前で人を殺して!今度はお姉ちゃんやストレアを殺そうとした!

 

 

 もういやなんだよぉ……ボクの周りで、ボクが人を殺しちゃうことが…………いやなんだよぉ……!怖いんだよぉ……!」

 

 

 

 若干13歳にして、殺人という大罪を犯してしまったことへの重さがユウキを孤独の苦しみへと追いやっていた。もうあんな顔も見たくないし、殺されていく人達の顔だって見たくもないし思い出したくもない。毎晩毎晩悪夢となって蘇ってくるから。

 

 

 今にも崩れそうなユウキであったが、ストレアはユウキの体を引っ張って真正面に対面させるとユウキの頬をおもいっきり引っ叩く。突然のストレアの行動に頭が一瞬空っぽになるが、すぐに顔を見合わせられるようにストレアが両手で押さえて向けさせた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけないで!貴女のお姉さんは、ずっと貴女を探していたんだよ!?これがどんな意味なのか分かってて言ってるの!?

 

 

 ()()()()()()()()()()()()の!例え誰かを殺してしまったとしても、お姉さんにとって貴女は大切な“家族”なのよ!?この世界で1番大切な家族で、たった1人の妹なんだよ!?

 

 

 人を殺してしまうのが怖いのなら、誰かに助けを求めたら良いじゃない!それこそ、貴女の姉や、頼れる仲間たちに!貴女にはいっぱい居るでしょ!助けてくれる大切な人達が傍にたくさん!これでもまだ分からないの!?ユウキ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ……キ…………」

 

 

「っ……!おねえ……ちゃん…………!」

 

 

 

 ストレアの声が、ユウキの悲痛な声が聞こえいたのか。一時的に意識を失っていたランが目覚め、ユウキを呼ぶ。ランの手はユウキへと伸ばされていくが、倒れているためどうしても届かない。

 

 

 その余白を、ストレアが埋めた。ユウキをランに近付けさせて、ランの手を握らせる。例え仮想世界であろうと、この手の温もりだけは本物だと思えた。その温度に、ユウキは留めていた枷が崩壊していく感覚を覚えていく。

 

 

 

「あぁ……良かった。また、一緒に居られるね。ユウキ」

 

 

「っ…………!」

 

 

 

 遂にユウキにも限界が訪れる。頬には涙が伝わり、地面へと落ちていくとポリゴンへと変貌する。その煌めきが2人の再会を喜ばしく思っているように思えた。

 

 

 

 

 

 

「ごめ……ん……なさい…………!お姉ちゃん……!ボク………………ボク!」

 

 

「良いのよ……私は、ユウキが無事で安心したわ。私の大事な大事な妹なんだもの、お姉ちゃんは心配しましたよ」

 

 

 

「ボク……も…………!怖かった……!1人は……寂しかった……!お姉ちゃんが、居なくて……!悲しかった……!」

 

 

「それじゃあ…………これからはずっと、一緒に居ようね。ユウキが苦しかったら、私が傍に居てあげなくちゃ」

 

 

「あり……がとう…………!ありがとう……お姉ちゃん…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキが2人を襲っていたあいだ、フードを被ったプレイヤーとバダンが森の奥で戦っていた。かなり大きめな鉈と、黒き大剣。両者とも拮抗していたが、優勢であったのはバダンであった。

 

 

 

「チィ!貴様、この私と互角に戦うか!」

 

 

「貴様をこの世界から消すためだ!この地球にお前(ヤプール)を存在させてなるものか!」

 

 

「っ!」

 

 

 

 大剣が縦横無尽に振るわれる中、その剣閃を必死に避けるヤプール。防御に徹していたヤプールであったが、何かに気付いた様子を見せると舌打ちをする。

 

 

 

「……チッ、洗脳が解かれたか。やむを得ん」

 

 

「させるかっ!」

 

 

 

 剣先をヤプールに向けて距離を詰めるバダン、だがヤプールは素早くテレポーテーションを駆使しその場から退散するが、すぐにバダンの頭に声が流れ込んでくる。

 

 

 

〔まぁ良い、この世界にはまだまだ多くの人間が居る!貴様の仲間である()()()を絶望に落とすのも容易いわ!〕

 

 

 

 不吉な笑い声だけがバダンの頭に木霊していく。それっきりヤプールの気配が無くなったことが分かると、バダンは舌打ちをして3人の方へと急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい先ずはユウキちゃん救助。ついでに姉妹仲も格段に良くなって……あら?こんな所に百合の花が植えられて


お次はゼロの希望ターン。

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