第九話 瞬間、心、重ねて
旅行から帰ってきたイッセー達は、また元の生活に戻った。だが完全に今まで通りでは無かった。例えば住居の変更だ。
「このマンションが私達の引っ越し先ですか」
「そうらしいにゃ。新築の高層マンション、それも最上階。悪魔政府からの賠償だってさ」
「……ま、ボロアパートよりも遥かに良いですけど」
そう言って白音は目の前に聳え立つ真新しいマンションを見上げた。成る程、確かに以前の家とは比べ物にならない。
「広いユニットバスに最新のシステムキッチン! しかも光熱費やらは全部悪魔が負担! 最高だにゃー!!」
「ミッテルトさんと同じ事を言ってる……。あれ、そう言えば姿が見えませんね。イッセーさんも」
「二人で引っ越し祝いの寿司を買いに行くから、先に向かってろとさ。合鍵も貰ってるわよ」
ああ、と納得した。どうやら買い物デートらしい。通称『邪神の裁き』と呼ばれるあの一件以来、彼等の距離は大幅に縮まった。ナチュラルにイチャイチャする程に。
「極端と言うか……」
「別に良いんじゃない? 見てる方が楽しいにゃ」
欠伸をしながら姉妹は仲良くマンションへと歩を進めた。
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「いらっしゃいあせー。店内でお召し上がりですかー?」
駅前の某回転寿司店で働いて1ヶ月。バイトの山田は珍しい客を見た。シャツにサンダルのラフなスタイルの青年とゴスロリ外人幼女の二人組だ。
ラフスタイルは暑い夏の季節ともなれば見慣れているが、生で後者を見るのは初めてだったらしく、そのまま口をあんぐり開けていた。
だが山田や他の客達の視線にも気付かないまま、バカップルはメニューを片手に注文を始めた。
「いや、持ち帰りで頼むよ。特上詰め合わせを3つで。ミッテルトもそれで良いか?」
「それで充分っス! 帰りにコンビニでお菓子も買うっスよ!」
「へいへい」
犯罪臭がする組み合わせである。美人局か、今話題の援助交際か。どちらにしても幼女まで平然と手を染めるとは物騒な世の中だ。
などと考えながら出来上がった詰め合わせを丁寧に袋に入れていき、手渡す。特上詰め合わせが3つだがイッセーにとっては安い買い物だ。
「あざっしたー。またお越しくらさいませー」
「ミッテルト、行くぞ。コンビニに寄るんだろ?」
「うん!」
何にせよ妙な客だった。山田は平常心を保ちつつ、何とか次の仕事に移った。決して羨ましい訳では無い。
「……抱き着かれると歩きにくいんだが」
「こんな美少女を侍らせるなんて自慢になるっスよー。必殺、ツルペタおっぱいサンド!」
「サンドになってないぞ」
後ろからの妬みの視線を無視してイッセー達は店を出た。辺りはすっかり暗くなっている。
繋がった手に自然と力を込めた。
「さっさと買って帰ろう。あいつらも待ってる」
彼は自分にとってミッテルトが大切な存在なのだと気付いた。彼女を救出した際にはとても安堵したのだから。
故にもしミッテルトを傷付けるような輩があれば。二人の時間を邪魔すると言うならば。
一片の容赦もせずに消滅させなければならない。
「はっじめまして、邪神メルヴァゾア! 我こそは、ロキだ!! 別世界の神話体系である貴様を排除し──」
「くたばれ、雑魚」
突如現れたロキを一瞬で灰塵にすると何事も無かったかのようにイッセー達は再び歩き始めた。
今度こそ君だけは幸せにしてみせるよ。