『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第九部「ジェネシス」 作:城元太
『不本意ながら、一国を討ち滅ぼしてしまった罪は重く、百県を領するにも及びます。之により朝議を仰ぐ間、暫く坂東の諸国を制圧して参った次第。伏して父祖を案ずるに、将門は桓武帝の五代の子孫、例え長く東方大陸の半分を領有したとしても、豈悲運とは謂わぬことでしょう。ゼネバス帝の如く、昔兵威を振るって天下を取る者は皆史書に見る処です。将門、天の与うる処既に武芸にあり、思うに誰が比類出来るでしょうか。而るに公家よりの褒賞はなく、逆に何度も追捕官符を下されています。身を省みれば恥多く面目も御座いませんが、推してこれを察して頂ければ、甚だ以て幸いであります』
幾分言い訳めいた論調がもどかしいが、後戻りできなくなった以上止むを得ない。
『抑も将門の若き頃、
この一文を以て万感のを貫く想いで御座います。将門謹言』
兄小次郎を想う四郎の、記すべき事と記さぬべき事を弁えた心尽くから成る書状であった。飛駅を使い、都の蔵人頭師氏に届けようにも、坂東を直撃している野分の為に送付も儘ならない。通信機器による電文は可能ではあった。だがやはり、肉筆の書簡を届けるべきと判断し、書院机の脇に無造作に置かれたタブレットを見詰めた。
「これからは俺が操作せねばなるまい」
純友との量子暗号を司る端末は、触れたところで硬く冷ややかな感触を残すのみであった。
宇宙の渚に薄紅色と
「太陽から荷電粒子供給は充分な筈。小型でもいい、アーカディアのビームスマッシャーは撃てないのか」
〝集束装置が未調整です。それにクラスターコアも不安定なため、電力を回せません〟
純友は風防越しに輝く極光を恨めし気に見つめる。
「ニードルガンを敵航路上にばら蒔け、腰抜けどもの足止めにはなろう。重力砲もプラズマ砲も使用不能となれば、残るは格闘戦のみ。チタンクローを以て、減速した敵に並走飛行し粉砕する。勝機は一瞬のみ。皆心してかかれ」
アーカディアの爪が一際鋭く輝いた。
音速の数倍で進む物体は、容易に惑星表面を半周する。戦闘域も東方大陸上空を遥かに越え、南極洋ゼロス海より南エウロペ大陸、更に北エウロペ大陸を迂回し暗黒大陸二クス上空を通過、夜の面を晒す中央大陸デルポイの輪郭を示す点描の如き街灯りを遥か眼下に臨む。アーカディアの視界に白い点が現れ、瞬時に天空龍の形となって広がる。
「スパイク戦闘準備。敵進行方向へ並走」
上下の感覚のない宇宙空間で、アーカディアの巨躯が全身を捻じ曲げ惑星の昼の面の明かりを背に受け飛行する。ギルドラゴンの進行方向と平行となり、次第にその距離を詰める。爆発的に磁気振動システムの排気管が火を噴き、瞬時にギルドラゴンの機体表面にチタンクローを突き立てた。
「奴もウィングバリアーを」
爪の先端が弾かれ、痕跡が天空龍表面の空間にのみ刻まれただけであった。
完成された機械生命体ゾイドと、未完成のアーミラリア・ブルボーザとの差であり、完成直後の慣熟飛行状態のアーカディアに対し、長年運用を続けていたギルドラゴンには、出力の安定性に於いて雲泥の差があった。ギルドラゴンにとって、ビームスマッシャーを放ちウィングバリアーを展開することなど雑作もない。だが、戦慣れしていないギルドラゴンも、アーカディアに痛撃を与えることが出来ない。闇雲に放たれるビームスマッシャーが何枚も虚空の彼方に消えた。それでも白い天空龍は、重力の井戸に囚われたままの『南無八幡大菩薩』の旗が翻る黒い怪竜を次第に追い詰めていった。
〝クラスターコアの稼動限界、出力維持できません〟
機動が目に見えて衰えて行く。船長純友に決断が迫られた。
「大気圏再突入を強行する。磁気振動装置を一時切断、全出力を投入しウィングバリアー展開。全員耐衝撃体勢を取れ」
敗走の屈辱より報復の機会を狙う。アーカディアの無限の可能性を確信していた。
「午方向よりギルドラゴン追尾」
「鉛直姿勢のまま自由落下し加速をつけ振り払え。翼を羽ばたかせ落下進路を攪乱、敵の狙い撃ちを避けるのを忘れるな」
〝無理な
「撃沈されれば元も子もない。是基、機関は坂東まで持つか」
〝野分に突入するには軌道を外れ過ぎました。降下予定地点は、北半球の中緯度帯――これは最悪の降下場所になります〟
惑星北半球中緯度の、最悪の降下地点。純友が吐き捨てた。
「トラアングルダラスか」
眼下に広がるダラス海の中央に、黒々とした密雲が奈落となって横たわる。
強磁界に覆われ、全ての機械生命体を狂わす魔の海域、トライアングルダラス。
アーカディアは一直線に、魔の海域に突入しようとしていた。