『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第九部「ジェネシス」   作:城元太

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第百拾六話

 ガイア仮説。

 古の地球で唱えられた、惑星自体を一つの巨大生命体と見做す考え方である。惑星自体が恒常性(ホメオスタシス)と称される機能によって維持され〝生きて〟いるという説であり、反証する方法はなく、概念として成り立つに過ぎない。

 顧みて、惑星Ziは『惑星大異変』~『神々の怒り』に至る、度重なる天変地異によってその存在が脅威に晒されてきた。繰り返される大量絶滅の原因が、未知の伴星ネメシスによるものなのか、或いは銀河系振動によるものなのかはわからない。ただ、ガイア仮説に基づき、惑星が一つの巨大生命体であるとすれば、生命維持の為の純粋な防衛本能が機能することも在り得る。

 

 岩雪崩と同時に発生した爆風が、岩屑と火山灰を巻き込んだ黒い水蒸気の突風となり、麓に流れ込む。山体崩壊(セクターコラプス)によって生じた亀裂の中、不死山を凌ぐ大きさの影が胎動する。

 大地の鳴動によって目覚めた人々は、閉ざされた視界の中で為す術もない。

 払暁の空の乏しい明りの中、影の正体は容易には捉え難く、駆け下りる灼熱の黒雲も視界を遮る。ゴジュラスギガの内部で、操作盤の熱感知画像だけを頼りに不死山の峰を探知していた源経基は、見覚えのある熱源の意匠に身震いした。

「バイオゾイド、否、死竜なのか」

 

――旧世界の惑星Zi。黄金の虎を駆る若き皇帝は、ガイロス国の都ヴァルハラが最悪に至る崩壊を食い止めた。その際誘爆せずに埋没した死竜のコアは忘れ去られ、地中での永い眠りに就いたのだった。

 惑星Ziという生命体は、破滅をもたらす隕石群の再襲来に備えた。『神々の怒り』に伴う大陸変動により東方大陸へと流転したコアを、自己防御の手段として育んだとも考えられる。

 自己増殖、自己進化、自己再生の能力を持つオーガノイドシステムを有するコアは、地の底、不死の火山脈内部の「時のゆりかご」に託された。奇しくも、龍宮が生み出したバイオヴォルケーノのクリムゾンヘルアーマーの断片と結合したとき、惑星史上最凶と称させるキングゴジュラスをも凌ぐ破壊力を持つゾイドが誕生しても不思議ではない――。

 

 ギガの視界が赤黒い光に閉ざされた。

 光の柱が天空の凶星に向かって放たれる。

 光の奔流は、数刻を越えても消え去らず、やがて肥大化した妖星に到達した。

 

 惑星Ziの赤道面での自転速度は、凡そ地球の八割程度(約1400km/h)であり、衛星軌道より進入する小惑星との相対速度は更にその二倍近くとなる。高速で移動する標的に、光の柱は途絶えることなく照射された。恰も、地上と天上とを繋ぐ架け橋のように。

 征東軍を始め、事態の経過を見守る人々には、赤黒い光の柱を放つ者の正体を未だに掴めなかった。黒い水蒸気が晴れても、全体が雷雲に覆われ見渡すことができなかったからである。

 雷雲。巨体自身が、雷霆を纏い閃光を放っていた。

 やがて、小惑星が燃え上がった。

 惑星Ziの意志は悟っていた。落下する物質を破砕したのでは、破片によって地上に多大な被害を及ぼす。荷電粒子砲の特性では、物質の破砕は可能でも瞬時に高熱を発し熔解させることは不可能である。荷電粒子のみならず、生体の発する熱量(エラン・ヴァイタル)を加え更なる高熱と成し、同時に重力崩壊(=ベッケンシュタイン・ホーキング輻射)の爆縮によってプラズマ化した素粒子が高熱を生み出し熔解を促進させる。差し詰め〝バイオ荷電粒子砲〟とも呼べる破壊兵器が、迫る小惑星を迎撃したのだ。

 無重力下では、液体は球状となり飛散を止める。虚空に浮かぶ溶鉱炉と化した小惑星は、瞬時に惑星大気温を十数度も上昇させた。重力圏より弾き出された天からの異物は、スウィング・バイ(重力カタパルト)によって落下軌道を離れ、再び虚無の空間へと押し戻されていく。

 刹那の太陽は燃え尽き、赤い尾を曳く彗星となり、本来の太陽によって引き寄せられていった。

 小惑星落下を阻止した影は、遂に全身を晒すことなく再び不死山の亀裂の中に身を潜めていく。一部始終を見守っていた源経基は、爆風の中、クリムゾンヘルアーマーに覆われた赤い裁定者を垣間見ていた。

「――バイオ・デスザウラー」

 ギガの内部で、呆然と経基が呟く。

 その日、惑星Ziに夜の訪れはなかった。

 

温羅(ギルベイダー)がトライアングルダラスより脱出したか」

 青いドラグーンネストの格納庫で、タブレットを手にした追捕山陽南海両道凶賊使、小野好古が嘆息する。

「隕石破壊の混乱に乗じられては無理もないことで御座いましょう。はてさて、純友殿はどこまでも悪運の強い御仁のようだ」

 狡猾な笑みを浮かべる初老の男が、僅かに前屈みとなって好古の後で手もみする。卑屈な姿勢でありながら、大きく見開かれることのない瞳には鋭い眼光が湛えられていた。

「納得できぬのは、ソラは純友へ従五位下という破格の官位を授けるとの解状を伴い、甥の藤原明方をデルダロス海に向かわせたことである」

「子高殿、それこそが、ソラが坂東の将門追討に本腰を入れた証左であろう。追って海賊討伐の機会は巡って来る。それまでに、このグリアームドを手懐けておかねばなるまい」

 格納庫には、燐光を放つ骸骨竜の姿があり、その足元には、十数機のシーパンツァーが輸送用の帯によって固定されていた。

「藤原成康と遠方は征東軍に従いましたが、やはり瀬戸内海のことは瀬戸の者しかわかりませぬ。好古様、子高様共々、純友鎮撫の後にはくれぐれも――宜しく願いまする」

「恒利、海賊風情が分を弁えよ」

 薄ら笑いを浮かべ、初老の男は深々と頭を垂れ去っていった。追捕使の攻撃により消息を絶った瀬戸海賊衆の副将は、純友の元を離れソラに寝返っていたのである。

「純友は必ず舞い戻る。その時まで、我らは力を温存するのだ」

 グリアームドを固定する整備塔が燐光を放ち、光装甲を有する骸骨竜は暫しの眠りに就いていた。

 

 飛行甲板上に白い翼がひしめく。アイアンロックの郷より取って返し、下総に向かうディグの艦上には、眩しい程に純白の孔雀の群れが羽を休めていた。

 貞盛は白孔雀の翼を見上げ、幾分苦々しい表情を浮かべる。

「将門の奥方に手酷い目に遭わされたのが不服か」

 貞盛は無言のまま苦笑した。フェニックス単体で良子のレインボージャークに挑んだものの、海賊衆のストームソーダージェットの介入により撃墜されていたからだ。

「バイオプテラを搭載するものとばかり思って居りましたが〝ホワイトジャーク〟だったとは」

「使用耐久時間の短いバイオゾイドより遥かに信頼できる機体だ。それに操縦法も得ている」

 嘗て良子しか操縦を受け付けなかったレインボージャークを、桔梗は強制的に従え小次郎と共に上洛した。その際の操縦法を、最初の桔梗の死亡によって記憶が量子転送され、秀郷の手元に残っていたのだ。

 アイアンロックの郷の懐には、様々なゾイドの試作品や未完成品が眠っていた。秀郷が目を付けたのは、謂わばレインボージャークの量産型である。

「一部にバイオプテラとの混成部隊を編制するが、主力はこのホワイトジャークに任せる。貴公の〝隼〟が紛れるにも都合が好かろう」

「痛み入ります」

 白孔雀の群れが途切れる端に、機体規模には不釣り合いなバスタークローを具する白い飛行ゾイドが組み上げられている。

 ジェットファルコン。貞盛にとっての切り札、最強の唐皮たるブロックスゾイドであった。

 

               第九部「ジェネシス」了

 

 

 

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