『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第九部「ジェネシス」   作:城元太

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第百八話

【法琳寺が泰舜が幣帛する。

 天龍 阿修羅 八部鬼神 四大天王 夜叉大将二十八部 総て四十二のバイオゾイド、阿仛薄倶元帥(あたばくげんすい)大将軍たる大元帥明王の元、阿仛薄倶(あたばく)元帥(げんすい)大将上佛(たいしょうじょうぶつ)陀羅尼(だらに)(きょう)修行儀軌(しゅぎょうぎき)の効験を示すべし。

 もし国王ありて元帥に帰せば 即ち一切の将軍衆を領し その国王の国境内を守護し 逆臣を排滅して自ら調伏し 国内にある諸々の疫病の苦 無からしめん】

――ノウボウ タリツ ボリツ ハラボリツ シャキンメイ シャキンメイ タラサンダン オエンビ ソワカ――

 

 群がる角竜型の骸骨竜を前に、純友が呟く。

「機体の差違が判るか」

〝確かに、角の長さや襟に若干の違いがあるように見えます〟

 海賊戦艦を背にし、アクアコングが横並びに隊列を組んだ。

「クラスターコアの臨界と共にアーカディアは地上を離れる。それまでに惟幹と子高を仕留める、良いな」

 承知、の返信が同時に届く。黒き海神は背負ったヘリウムタンクを一斉排除し、長大な銛を翳して構造色に輝く骸骨竜の群れに向かい突進していった。

 先行していた一匹のバイオトリケラが、純友のアクアコング胸部コア目掛けて突入を仕掛ける。凡庸な角竜の突撃は、海神の掬い上げた豪腕によって吹き飛ばされ腹部を晒した。絶妙の間合いで、後続の藤原文元の海神がバイオゾイドコアにリーオの銛を叩き込む。流体金属装甲をボタボタと垂らし、一匹目のバイオトリケラは青い焔を上げて溶解した。

 焔を纏うアクアコングの側面より、間髪入れず蛇腹剣の角が四本同時に飛来する。鉄鎖を曳いた尖頭を二度払い除けるが、残り二本の蛇腹剣が袈裟懸けとなり純友のコングを捕らえていた。

 アクアコングが上体を捻った。勢いを付け鎖の先にある骸骨竜の本体二つを引き寄せる。重量に勝る海神は、二匹同時にバイオトリケラを宙空に舞い上げ、露出した角竜の泉門目掛け銛を穿つ。体内より銀色の飛沫が迸り、二つの塊が奇怪な悲鳴を上げた。骸骨竜を田楽刺しに掲げ、黒い海神が睥睨する。視界に捉えたのは、純友の機体同様に、骸骨竜を次々と薙ぎ払うアクアコングの勇姿であった。

〝坂東の将門殿とやらには感謝せねばなりませぬな〟

 毟り取ったバイオトリケラの角を敵の群の中に投げつけ、藤原文元が純友の機体と背中合わせとなり、接触通信を行う。小次郎によって海賊衆に齎された諸元は、対バイオゾイド戦闘に生かされていたのだ。

「所詮は土魂か」

 バイオゾイドの動きもまた、全てが傀儡師によって操られているように単調であった。三善文公のアクアコングがバイオトリケラの頭部を引き千切る。内部より土偶型の具足を纏った兵士が転げ出る。

「刹那の命しか持たず、人さえ乗らぬ烏合のバイオゾイド群など恐るるに足りぬ。秋茂、氏彦、時成。エアウルフの対地攻撃を開始せよ」

 俟ちかねていた濃紺と白の餓狼が降下し牙を剥く。あらん限りの砲煙弾雨を骸骨竜の群れに注いだ。リーオを仕込んだ弾頭は容赦なく流体金属装甲を貫き、銀色の飛沫となって飛散する。

 斃れ続ける角竜の中、他の骸骨竜とは明らかに異なる回避運動を行うバイオトリケラと、光背の様に付き従う長身の骸骨竜の姿がある。

 純友は悟った。人が操っている。惟幹と、子高だ。配下の海賊を残虐な方法で殺害し、生き残った者にも耳と鼻を削ぎ落し晒しものにした、播磨・備前介が搭乗することを。

「ストームソーダージェット降下、エアウルフと共に退路を断ち生け捕りにせよ。引き摺り出して同じ目に遭わせてやる」

 累々と重なるバイオトリケラと落下炎上したザバットの骸の中、ジャイロリフターのローターを停止した三機のエアウルフが着地した。純友のアクアコングと共に四方を固め、二匹のバイオゾイドを包囲する。

「あの狐火を放つバイオメガラプトルが何か判るか」

 身構える是幹のバイオトリケラに加え、鉤爪を振り上げ威嚇するバイオメガラプトル・グリアームドの全身を捉えた映像が、アーカディアの艦橋で待つ佐伯是基に送られる。

〝先ほどよりディオハリコン反応と、微細な量子振動を察知しております。恐らくは将門殿が戦った赤い流体金属装甲(クリムゾンヘルアーマー)を持つバイオヴォルケーノ同様、ディオハリコンを含有させ装甲を量子転送の媒介とした実験体かと思われます――分析結果がでました。量子エネルギーで流体金属を覆っています、差し詰め〝光装甲(ホロニックアーマー)〟とでも呼べるもの。船長、物理的な攻撃は通じぬやもしれません――〟

「相判った。潰すぞ」

 是基の言葉を遮り、藤原文用と三善文公のアクアコングがバイオトリケラとバイオメガラプトル・グリアームドに挑み掛かった。幾多の骸骨竜を薙ぎ払ってきた豪腕を、唯一残ったバイオトリケラは紙一重で躱した。渾身の突進により包囲よりの脱出を試みるが、エアウルフの重火器の銃撃が撃ち込まれ退路を断ち切る。直後に背後より接近した文用のアクアコングが尾を掴んで引き戻す。

 ランバージャック・デスマッチ。決着まで息つく暇を与えぬ死闘である。二度目のアイアンハンマーナックルは、バイオトリケラの正中線を正確に捉え、強かに機体を殴り飛ばした。

「まだ逝くには早い」

 純友のアクアコングが骸骨竜を受け止めると、振り上げた拳を叩き込み、再度包囲の中心に押し戻す。バイオトリケラとバイオメガラプトル・グリアームドが折り重なり倒れ込むと思われた瞬間、グリアームドの姿が掻き消えた。地表に叩き付けられたバイオトリケラは、僅かに四肢を痙攣させていた。

「これはどういうことだ」

〝量子転送です。あの狐火の能力は、瞬時にして物体を移動させるのです。まさか本体ごと転送できるとは〟

 幾分興奮気味の佐伯是基の報告が届く。だが目の前の獲物の一匹を取り逃がした海賊衆にとって、怒りの矛先は残されたバイオトリケラに注がれることとなる。

 勢い付けたアクアコングが圧し掛かり、骸骨竜は奇怪な悲鳴を上げる。装甲が弾け、肢を全て失い、骨格が露出し、内部より赤黒い循環液を垂らしても、海賊衆のゾイドによる嬲り殺しの狂宴は続いた。

 

 引き摺り出された操縦者は、疾うに肉片と化していた。

「あの面頬に見覚えがあります。島田惟幹に違いありません」

 金属製の骨格にこびりついた肉片の一部に、顔の爛れを覆っていたと思われる仮面が残されていた。

「藤原子高め、これで逃げ遂せたと思うな。我ら海賊衆は地の果てまで貴様を追い詰めてやる」

 残骸と化した島田惟幹の骸を投げ捨て、純友が雄叫びを上げた。

 背後には、完全に展開した翼を広げる海賊戦艦アーカディアの巨躯が夕日に染まっている。間もなく、摂津須岐駅を壊滅させた怪竜は何処ともなく飛び去っていった。

 

 小次郎は上野に逗留していた。下野との国境にも近い只上の、高木兼弘の医術所である。桔梗の病の進行を少しでも遅らせようと、高名な医師に再度縋る思いで桔梗を呼び寄せ、治療を試みていたのである。ゾイドには自動操縦装置が装備されており、戦闘行動等予想外の事態さえ発生しなければ目的地に到達できる(嘗て源家三兄弟に追われた文屋好立のソードウルフが、平真樹の館より脱出した経緯と同じである)。従って桔梗が仮に眠ったままでもバンブリアンは間違うことなく只上の医術所に辿りつける筈であった。しかしさすがに盲た桔梗一人を寄越すにもいかず、止む無くナイトワイズをバンブリアンの背に乗せ、四郎将平を伴わせたのだった。猶、出立の際、多岐が「いっしょに行くんだ!」と散々駄々をこねたのは言わずもがなである。

 下野国衙で俵藤太秀郷との談判が決裂した以上、本拠である唐沢山と、三毳山の巨大要塞ディグの動向を窺わなければならない。小次郎が抜けた石井勢の本隊は伊和員経のデッドリーコングに指揮を任せ、下野国府にソウルタイガー、ディバイソン、ソードウルフ、サビンガ、エレファンダーを残していた。

 この時小次郎は、桔梗の病状を気遣う余り判断を誤っていた。興世王の動きを把握仕切れなかった事である。

 興世王は性懲りもなく下野国衙よりも印鎰をせしめ、国司達を追放する。その際グスタフの手配が間に合わず、路頭に投げ出された国衙の住人達は、止む無く東山道碓氷坂へ赴かされた。僅かな幹了使(=護衛兵)だけを山賊除けに伴わせ、徒手空拳のまま徒歩で追放されたのだ。盛夏の照り付ける日差しの下、下野の国司達は襤褸切れ同然となって東山道を北上し、信濃上田宿に到着したが、出迎えてくれる筈の信濃の国衙の使者もまた見窄らしい姿であった。信濃の国分寺も、嘗て平貞盛を追って闘った小次郎によって焼かれていたからである。

 結果、信濃より「将門反逆 常陸並下野国衙蹂躙」の報告が飛駅によって都に齎された。

 小次郎は更に、言い逃れの出来ない状況に陥っていた。

 

 黙々と診察をする兼弘の僅かな呼吸の変化で、桔梗は自分の病状の悪化が早まっていることが判った。

「背の髄が軋むように痛みます。この躰はもう初秋を越えることも叶わぬでしょう」

 兼弘が少し息を呑み、桔梗を見据える。

「察しの通りです。貴女がこうして毅然と会話ができるのが信じられぬ程に」

「小次郎様には伏せておいて頂けませんか」

 兼弘の返答はない。医術者の誇りとして、嘘偽りを述べる心算はない様子であった。

「申し訳ありませんでした。虚言を願ったこと、お許しください」

 肩に軽く触れられ、横になるよう促された。床に就きつつ、桔梗が告げる。

「兼弘様にお話ししたき義があります。それと、四郎様をお呼び頂けますか」

「将門殿は良いのか」

「……はい、量子転送に関することなので」

 兼弘は桔梗に請われた通り、四郎を呼びに床の傍らを離れた。

 独り仰向けになった桔梗は、目尻から涙が零れているのに気付き、慌てて拭っていた。

「あの怪竜……アーカディアなら……」

 診療所の窓の外には、万が一の敵の襲来を想定し警戒する村雨ライガーの姿がある。

「消されないで。この想いが届くまで」

 廊下から、四郎を伴った兼弘の足音が聞こえていた。

 

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