ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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(非)日常編3

 ボクたちは、みんなで池の前にあつめられてた。ボクたちはもうここには来たくなかったのに、モノクマがモーニングアナウンスで来ないとどうなるかわかんないなんて言うから、来るしかなかった。ナーバスになってる人も、泣きそうになってる人も、なんでかチャックリングしてる人もいる。ボクは、ただこなたさんのとなりにいて、チアーするために手をつないでた。こなたさんの手は、少しカタカタふるえてた。

 

 「ダイジョブです、こなたさん。ボクがついてます」

 「・・・うん。大丈夫、だよね」

 

 つい何日かのまえに、ここであれがあったんだ。アクトさんがモノクマに、エクゼキューズされたあの事件。だけど今ここには、血のワンドロップもなかった。モノクマがクリーンアップしたのかな。だけど、こんなにキレイになると、あれがホントにただのナイトメアだったんじゃないかって思えてくる。アクトさんなんて、ミナギリアクトなんて人は、はじめからいなかったんじゃないかって、思えてくる。それがとってもひどいことだって、分かってるのに。

 

 「で、いつまで待たせるつもり?たまちゃん朝シャンしたいんだけど」

 「ふわあ・・・眠いねえ。ろくに寝てやしないせいであくびが止まらないよお」

 「呑気かよお前ら。これから何が起こるか分からねんだぞ」

 「ビビってんのか須磨倉ァ?案外、モノクマのヤツ飽きて解放してくれっかもしれねえぜ?」

 「もしヤツが私たちに飽きたのなら、その場で全員殺すだろうな」

 「いよーーーっ!?発想が鬼畜です!?」

 「まあわざわざ呼び出して集めたんだ。ただで済むことはないだろうな。はあ・・・」

 「ため息やめなよ。アンタらしくないじゃん」

 

 いろんな人が、いろんな風にモノクマをまつ。モノクマの方からアナウンスでコールしたのに、もうずいぶんまたされてる。サイクロウさんみたいにカクゴ決めてまってるのも、なんだかつかれてきちゃった。

 そんな気分になってきたとき、また池の水がスプラッシュしだした。前とちがってホースみたいにまがったりキラキラしたり、なんだろう。ショーみたいだ。そして、これだけ池でファンタスティックなショーをしておいて、モノクマは草の中から出て来た。

 

 「ぺっぺっ!うえ〜!ひどい演出だなあ。誰だこんなの考えたの!ボクだ!」

 「出たな綿埃。用件があるなら迅速に済ませ。俺様は忙しいのだ」

 「お前なんかよりボクの方が5000兆倍忙しいっつーの!っていうか今回なんで呼び出されたのかオマエラ分かってんのかこんにゃろーーー!!」

 「急にキレた!?なんだよ!?」

 「葉っぱまみれで待たされたこっちの身にもなってみろ!」

 「それはあなたが勝手にやったことじゃない」

 「呼び出された理由など・・・皆目見当も付かないな。どうせ碌な事ではないのだろう?」

 「あははっ♡サイクロー汗でべしょべしょ〜♡ばっちい♠」

 「いよで拭かないでください!手拭いお貸し差し上げます故!」

 「ちーんっ♡」

 「いよぉおおおおっ!!?ちり紙ではありません!!」

 「ボクの絡まない範囲で盛り上がるなクマーーーーッ!!」

 

 なんかもうむちゃくちゃだ。みんなモノクマのことこわくないのかな。ボ、ボクはこわがってるわけじゃないですけど!こなたさんにもしもしのことがあったらちゃんとお守りします!

 

 「いいか!ボクは前にここでなんて言った?オマエラにはコロシアイをしろって言ったんだよ!」

 「・・・無駄だ。俺たちは絶対コロシアイなんて」

 「貴様の努力が足らんのだ。どうせまだ何か隠していることがあるのだろう?殺人ミステリーを所望するのなら、それなりの舞台を用意することだな」

 「意見噛み合ってねーーー!!っていうかお前ワガママ過ぎだろ!!このモノクマランド建てるのに0が何個繋がったと思ってんだ!!」

 「そうだねえ。まあ5個や6個じゃ足りないだろうねえ」

 「ここから出るためだったら、たまちゃんもそれなりに覚悟決めるけど・・・。でもたまちゃん、暴力とかキライだし」

 「野干玉ちゃん・・・そういう問題かな?」

 「野干玉言うなアホ毛!」

 「とまあこんな感じで、オマエラを閉じ込めて一人殺してみせただけじゃ、現代っ子のオマエラはコロシアイには走らないということが分かったわけです。まあだとは思ったけどね」

 「無意味に話を引き延ばすな。何を企んでいる?あるいは、何も考えていないのか?」

 

 モノクマが何をしたいのかがわかんない。でもボクたちをコールしたっていうことは、きっと何かダイレクトにアナウンスしたいことがあるんだ。ボクはそれが不安で、モノクマの次のフレーズをハラハラしながらきいてた。

 

 「ボクは勉強したのです。これだけの舞台を用意して、オマエラを監禁して、凶器や偽装工作用の道具も充実したショッピングセンターも建てた、生意気なこと言うヤツを一人殺して緊張感も与えた!なのになんでコロシアイが起きないのか!それは大事なものが一つ欠けてたからだよね!」

 「大事なもの?」

 「そう!ミステリーに必須の要素!それはね・・・」

 

 くっく、とわらって、モノクマはたっぷり間をあけて言った。

 

 

 

 「『動機』だよ!!」

 

 

 

 モチベーション?ボクはヘッドをカクンとたおした。それが、モノクマの言う大切なもの?

 

 「そりゃそーだよね。いくらなんでも何気ない日常の中で人を殺すなんてこと思い付かないよね。ボクとしたことがうっかりしちゃってた!と、いうわけで、オマエラには今回『動機』をプレゼントすることにしました!いや〜ボクってやっぱり気が利くクマ?」

 「プ、プレゼントって・・・いらないわよそんなもの!だいたい動機って、なんのこと!?」

 「落ち着け正地。動機って言ったってなんだか分からない。惑わされちゃダメだ」

 「ふーん、冷静なんだね雷堂クン。じゃあたとえば、リンドウクンとかフルナガクンとかヒノクマ先生とかがどうなってるか、気にならないのかな?」

 「ッ!?」

 

 ボクたちがモノクマのカーススペルみたいな言葉にナーバスになるより先に、ワタルさんがモノクマとの間に立った。モノクマの言うことにボクたちはいちいち不安になんてなってられないんだ。それをリメンバーさせてくれた。と思ったのに、モノクマが言った何人かの人の名前を聞くと、ワタルさんは、顔色がホワイトなった。

 

 「な・・・!?なんで・・・お前がその名前を・・・!?」

 「うぷぷぷぷ、あとはそうだねえ。オマエラの中にも気になってる人がいるんじゃないのかな?ドイアンスケ、そろそろAD卒業とかなんとかで張り切ってたけどいつもみたいに鈍くさいミスして、とんでもない事故を起こしたりとかしてなきゃいいよねえ?サガミムサシは喉の経過は良くなってたみたいだけど、彼はもう気付いてるのかな?喉なんかよりもっと大変な病魔の存在にさ!あとはリキウチタケかなー。あんなとんでもないことしでかしちゃって、さすがに指だけじゃ済まないよね!今頃は東京湾で超体感型アクアリウムを堪能してる頃かな?」

 「あぁ!?今なんつった!?」

 「・・・ッ!き、貴様・・・!?」

 「いよぉ!!?な、何故にお前がお父様のお名前を!?」

 

 どの人もボクにとってはストレンジャー、知らない人だった。だけど、ダイスケさんやレイカさん、いよさんがそんなにホットでもないのにスウェットを流してリアクションした。それがどんなミーニングなのか、見れば分かる。まさかモノクマは・・・!

 

 「うぷぷぷぷ、オマエラ、気になるよねえ?オマエラの、オマエラにとっての大切な“誰か”が!オマエラはここに来て数日間、呑気に過ごしてたけど、外の世界がどうなってるかなんて考えてもなかったんだろ?ボクがオマエラを攫ってきたのに、オマエラの周りのみんなは無事だと考えるなんて、甘ちゃんも甘ちゃん!じぇじぇじぇのじぇーーーって感じだよねーーー!!」

 

 こいつ、ボクたちの周りの人たちに何かしたのか?いや、ネームくらいちょっとサーチすれば・・・でも・・・!

 

 「というわけで、今回オマエラに与える『動機』は『大切な人たち』だよ!言っておくけど、ボクはオマエラ以外の誰にも手を出してないよ!ただ、ボクが手を下さずとも“何か”が起きてるみたいだけどね・・・うぷぷぷぷ!」

 「大切な人かー♡まいむはだれかなー?楽しみだなー♡」

 「何かと思えば、期待外れだな。俺様は人間関係などに固執しない。せいぜい凡俗どもの不安を駆り立てるような内容であればいいが」

 「テ、テメエら・・・!それどういう意味だよ!!」

 「止めておけ須磨倉・・・。俺たちが不和になっては、モノクマの思う壺だ」

 「で、でもどうなってるかなんて、そんなのたまちゃんたちの取り越し苦労って可能性もあるし・・・。別に、あんたに何言われたって、人を殺すなんてこと・・・!」

 「だよねえ。やっぱりボクは、オマエラにその目で確かめて欲しいんだよ!今オマエラの『大切な人』がどうなってるかを。というわけで、オマエラのモノモノウォッチにそれぞれの動機映像を配信しました!好きな時に何度でも再生できるから、じっくりその目に焼き付けておきな!」

 

 モノクマがそう言うと、モノモノウォッチがまた小さくバイブした。ディスプレイを見ると、ニューコマンドができて、プレイボタンに赤く①のマークがついてた。これが、モチベーションムービー?

 

 「別にどこで見てもいいけど、プライバシーに関わることだから一人で見ることをオススメするよ。どこでもいいけど」

 「みんな!腕を降ろせ!こんなもの見ちゃいけない!今すぐ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー『“超高校級の神童”星砂這渡の動機映像! 〜母からの頼り編〜!!』ーーー

 

 

 

 

 

 ワタルさんが言い終わらないうちに、ハイパーノイジーなサウンドが辺りに鳴った。その音のセンターにいるハイドさんは、クールな顔をして自分のモノモノウォッチを見てた。ボクたちは・・・ただフリーズしてハイドさんを見てた。

 

 『こんにちは、どーちゃん。お母さんですよ。どーちゃんが、あの希望ヶ峰学園に入学することが決まったとき、お母さんは嬉しくて嬉しくて、思わず泣いてしまいました。どーちゃんは、本当に心の底から喜んで、入学通知を何度も、何度も何度も何度も読み返してたねえ。お母サんはそレガッ・・・ガガガッななななな・・・ジッ』

 

 聞こえてくる音は、レディの声だった。きっと、ハイドさんのママだ。ビデオメッセージ?でも、ハイドさんはボクたちと同じで、ついこの前キボーガミネに入学する予定だったはずだ。いくらなんでもハイドさんのママは気が早すぎる。

 そんなことを考えてると、ハイドさんのママのメッセージが乱れ始めた。ノイズがまざって、同じ言葉をリピートして、ブロークンラジオみたいに不気味なメッセージを流して・・・そしてそのノイズは、消えるのも急だった。

 

 『・・・・・・ハイ、ド・・・!』

 

 さっきまで聞こえてたやさしい声はなくなって、聞こえてきたのは、フィーブルな、消えちゃいそうな声。助けを求めて、苦しそうに、辛そうに、何かをこわがった声で、聞こえないくらい小さい声。

 

 「・・・『果たして、愛する母はどうなってしまうのか。結末は失楽園の後で!』」

 

 ボクたちに背中を見せたまま、ハイドさんは、たぶんディスプレイにあるだろう言葉をリードした。ボクたちオールメンバーに聞こえるように、大きくクリアに。

 

 「だ、そうだぞお前たち。くっくっく・・・・・・スニフのような子供ならいざ知らず、これでは他の者の動機も高が知れているな。俺様が、母親を磔にしたくらいで人を殺すと思ったか?」

 「・・・」

 

 モノクマは何のアンサーもないまま、サイレントにハイドさんを見てた。そのアイズには何のエモーションもなくて、ただの2つのビーズにしか見えなかった。まさか、自分のモチベーションムービーをみんなの前でプレイする人がいるなんて、思ってなかったんだ。

 

 「下らんな。用件が済んだのなら俺様は失礼する。図書館で調べ物をしたいのだ」

 「・・・ま、いいけど。あーあ、なんか空気読めねーヤツのせいで白けちゃった。オマエラもう解散でいいよ」

 「あっ、ちょっ・・・」

 

 呼び止める声も聞こえないふりをして、モノクマはまた草むらの中に入っていった。モノクマとハイドさんにおいていかれたボクたちは、ただそこにいた。どうすればいいか分からなかった。だって、ハイドさんのモチベーションムービーがあれってことは、ボクたちも同じように、さっき言ってたような大切な人が・・・。で、でも、これをプレイするってことは、コロシアイのためのモチベーションを・・・。

 

 「あ、あたしは・・・!」

 「!」

 

 長いような、短いような、そんなサイレンスを、たまちゃんさんがブレイクした。みんなが一斉に見る。

 

 「あたしは見るよ・・・!人を殺すとか、そんなんじゃなくて・・・だれがどんなことになってるか・・・気になるから・・・!」

 「見たって何も変わらねえだろ。やめといた方がいいんじゃねえのか?」

 「ふふ・・・臭い物には蓋、という言葉もある。触れない方がいい禁忌というものもある。私も気にはなるが、それは悪手だぞ」

 「えー?見ちゃダメなのー?まいむは見たいなー♣っていうか、まいむにとっての大切な人がだれなのかも知りたい♢だってまいむパパもママもいないし、だれがどんな目にあってるのか気になるー♡」

 「・・・好きにしろよ、野干玉」

 「・・・ッ!」

 

 みんながたまちゃんさんを止める中、ワタルさんはたまちゃんさんを止めなかった。それがたまちゃんさんにとってもアンエクイスペクテッドだったみたいで、ちょっとサプライズしてた。でも、そのあとすぐにホテルの方に走っていった。きっとだれにも見られないようにゲストルームで見るんだなって思った。

 

 「いいのかい?雷堂氏。たまちゃん氏、動機を見るって言ってたんだよお」

 「俺には、あいつの大切な人が誰なのか分からないし、きっとその人にとっては野干玉も大切な人なんだ。俺にはその代わりはできない。心配になって見たい気持ちは理解できるだろ」

 「で、でも・・・動機を見ちゃったらたまちゃん・・・」

 「大丈夫だ。あいつは俺たち全員の前で、動機を見ると公言した。つまり、自分は疑われても構わないって言ってるようなもんだ。こんな状況で馬鹿なことするようなヤツではない。少なくともそれだけは、分かる」

 「たまちゃんのこと、信頼してるんだね」

 「頭の悪い奴じゃないからな」

 

 たまちゃんさんが行ってから、他の人たちも一人、また一人どこかに行ってしまった。ムービーを見に行ったのか、それともそこからいなくなりたかったのか、ボクには分からない。ボクはただ、こなたさんがどこかに行かないようにずっとそこで手をにぎってた。

 

 「どうすんの、アンタは」

 「・・・あいつがさっき言ってた名前。希望ヶ峰学園の前に俺が通ってた学校の、クラスメイトだったんだ」

 「じゃあやっぱり・・・モノクマは、私たちの身近な人たちに何か・・・?」

 「ハイドさんのムービー、ハイドさんのママが・・・メイビー、ボクたちのも・・・」

 「動画の内容はだいたい予想がつく。あいつの目的も。だからこそ俺は見ない。意味が無いからな」

 「でもそれ、解決になってなくない?」

 「冷静にはなれる。お前たちも、映像は見たっていい。けどそれで取り乱したり変な気を起こしたりするんだったら、見ない方がいい。それじゃモノクマの思う壺だ」

 「・・・」

 

 池の前にいたマナミさんもボクもこなたさんも、ワタルさんの言葉に動けなかった。このムービーで、だれがどんなことになってるのか、気になってしかたがない。だってそこにいる人は、さっきのハイドさんのママみたいな目にあってるはずだから。だけど、それを見てボクは・・・外に出たいって、ホームに帰りたいって思わないなんてこと、言えるはずがない。

 

 「そんなの、アンタ無責任だよ!見たきゃ見ろ、でもそれで変な気は起こすなって・・・それじゃモノクマと言ってること一緒だよ!アタシたちに責任なすりつけてるのと一緒だよ!」

 「・・・ごめんな。でも、俺には何もできない」

 「そんなの、雷堂君らしくないよ。前みたいに私たちを元気づけたり、みんなをまとめたり・・・」

 「そうです!ワタルさん、リーダーシップ見せてほしいです!」

 「買い被りすぎだ。俺は、ただの航空訓練生でしかない」

 

 いきなりモノクマからむりやり渡された、絶望的なムービー。どうすればいいのか、ボクたちだけじゃなくワタルさんもどうすればいいか分からないんだ。だからこんなにナーバスになってる。そのうち、マナミさんもおこってどこかに行っちゃった。ワタルさんがイレスポンシブルなんじゃなくて、モノクマがむちゃくちゃなんだ。だけどボクはマナミさんを追いかけはしなかった。

 

 「こなたさん、どうします?」

 「うん・・・私は気になるから、見ようかな。スニフ君は?」

 「ボクは・・・」

 

 ワタルさんのことを考えると、なんだか見るっていうのも言いにくい。だけど、ママやパパがどうなってるか気になる。ボクは、ワタルさんをちょっとだけ見て、サイレントにうなずいた。

 

 「じゃあ、雷堂君、私たちも行くね」

 

 こなたさんが手を引いた。ボクはこなたさんに連れられて、ホテルへ、ボクのゲストルームにもどった。でもボクはまだ、見るか見ないか、こまってた。見たって今のボクには何もできない。だけど、見ないままにするのはイヤだ。

 ゲストルームまで来ると、こなたさんはボクの手をはなした。そして何も言わないまま、自分のルームに入っていった。ボクも何も言えないまま、ボクのゲストルームに入った。

 

 「・・・」

 

 ゲストルームに一人でいると、あのモチベーションムービーのことが気になる。見ちゃダメだって分かってるのに、ボクはモノモノウォッチのことが気になって仕方がない。みんな見てるのかな。見て、何を思うんだろう。あんな・・・ハイドさんのムービーみたいなことが、ボクのパパやママに・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ハァイ、スニフ。元気ですか?希望ヶ峰学園での寮生活には慣れた?友達はできたかしら?』

 

 モノモノウォッチから鳴るママの声が、ひとりぼっちのゲストルームにさびしくリサウンドする。つい何日か前にフェアウェルしたのに、なんだかとってもノスタルジックな気分になる。となりにいるパパがスマイルで手をふるのに、ボクはちっとも安心できなかった。ハートがバクバクビートを打つ。

 

 『希望ヶ峰学園からスカウトが来た時は驚いたわ。だけどスニフなら大丈夫よね。たくさんお友達を作って、楽しい青春を過ごすのがスニフのしたかったことよね。パパもママも、あなたの楽しい学園生活の話をたくさん聞きたいの』

 『困ったことがあったら、いつでも電話してきなさい。パパとママはいつでも、スニフのためなら喜んで相談に乗るよ』

 「・・・パパ・・・ママ」

 

 何日かぶりに聞いたパパとママの声に、ボクはいつの間にかリラックスしてた。変わらないやさしい声と、変わらないスマイル。ほんの何日かしかはなれてないのに、なんだかすごくホームに帰りたい。今すぐパパとママに会いたい。そう思ってしまうことが、モノクマのトラップだってこと、わかってたはずなのに。

 

 『今度の夏休みには、パパとママとおじいちゃんとおばあちゃんで日本に遊びに行くわ。その時はスニフが私タちをあンナッ・・・アッ、なんああンアナなななあンあなんなんナナななああ・・・ジッ』

 「!」

 

 急にムービーは乱れて、ママの声はメカニカルな音に変わった。グレーになったムービーがもういちどカラーになったときには、その画面にパパもママもいなかった。ただ、思わず吐き気がするくらいの赤色が、画面いっぱいにひろがってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『果たして、今まで支えてくれた彼らはどうなってしまうのか。結末は失楽園の後で!』

 

 ムカつくテロップで、その映像は終わった。プロデューサーもマネージャーも、ファンのみんなも、みんな真っ赤に染まって磔にされてた。周りにはあのふざけたクマと同じマスクを被ったヤツらがうろついてる。こんなのデタラメに決まってる。いくらなんでもこんなことできるわけがない。無茶苦茶過ぎる。分かってるはずなのに、どうしても頭の中でその映像がリピートする。

 

 「うぅ・・・うううっ・・・!イヤ・・・だよ・・・!みんながいなくなるのは・・・イヤだよ・・・!!」

 

 体が勝手にカタカタ震える。考えたくもないことが頭の中をぐるぐる回って、心臓がバクバク音を立てる。どうしてこんなことになってるの?たった何日かしかここにはいないはずなのに・・・なんで?やっと・・・やっと、ここまで来たのに・・・。

 

 「イヤだ・・・!」

 

 頭が急に重くなったみたいに、足が覚束ない。そこからの記憶は零れていったみたいで何も思い出せない。でもきっと、安心が欲しかったんだと思う。部屋に一人でいても暗くなるし、映像のことが気掛かりで仕方ない。だから、何もかも忘れたかった。やっぱりあたしは、こんな場所にいるしかないのかな。

 

 「いよっ?たまちゃんさん」

 「あん?野干玉か。やっと来やがったな」

 

 気が付いたらあたしは、カジノにいた。ここに来てから毎日通ってる気がする。この人工照明に包まれた視界、射幸心を煽る機械の音や光の演出、カラフルな景色、シックなBGM、この空間を構成する全てが、あたしにとっては居心地がいい。あたしの、戻るべき、戻りたくない場所。

 あたしがカジノにいることを気付かせたのは、そんな周りの世界じゃなくて、その世界に居座ってた二人だった。カモと場違い。

 

 「カモ、城之内と・・・・・・さがみ?」

 「いよっ!?その間と尻上がりの発音は、まさかいよ、たまちゃんさんに名前を覚えて頂いていなかった!?路傍の石が如き取るに足らない存在だったのですか!?」

 「っていうか今、オレのことカモって言いかけたろ!ってか言い切ったろ!」

 「・・・元気だね」

 

 こっちは変な映像見せられて最低な気分だってのに、こいつらは空気も読まずに騒ぐ。うるさいな。なんであんたたちがここにいるんだ。ここはあたしの場所だ。

 

 「なんでここにってツラしてんな。ま、オレらもお前と一緒だよ。気分転換だ」

 「吽・・・やはりあんなものは見るべきではありませんでした。触らぬ神に祟り無しとはよく言ったものでごぜえます」

 

 テーブルには花札が散ってて、点数表には山も谷もないありきたりな、つまんない点数が書かれてる。こいこいで遊んでたみたいだけど、こんないくらでもイカサマし放題で、よくこんなかったるい勝負してるって逆に感心した。つまんないヤツが二人揃うと、こんなにつまんないことになるんだ。

 

 「あんたたち、つまんないね」

 「なんだいきなり。お前こそつまんねえ顔して、ハスラーアイドルだかじゃなかったのかよ」

 「・・・っさいな」

 「ん?」

 「うるさいっつってんだよ!!」

 

 バカみたい。なんであたし、こんなヤツにムキになって大声出してんだろ。そんな風に冷静なあたしが、次から次へと声を張り上げるあたしを一歩引いたところから見てた。ポカンと間抜け面してる二人に向かって、あたしは恥ずかしげも無く喚き散らす。

 

 「アンタなんかに何が分かるんだ!あたしがどんだけイヤなことや面倒臭いことを我慢してきたか知らないくせに!あたしがどんな思いしてステージに立ってるか知りもしないくせに!軽々しくアイドルなんて言うな!」

 「・・・まあ、お前の経験そのものは知らねえけど、でも似たようなヤツの話なら聞いたことあるぜ。これでも音楽界の端くれにいるからな。もちろんお前の歌も聴いたことある」

 「うるさいうるさいうるさい!アンタは何も知らない!あたしの苦労も努力も我慢も悔しさもなにもかも知らない!そんなヤツが偉そうなこと言うな!」

 「・・・あのよぉ、野干玉」

 「野干玉って呼ぶなあ!!」

 

 なにヒスって金切り声上げてんだろ。喉痛い。なんであたし泣いてんだろ。もう分かんない。こいつが悪いんだ。偉そうなこと言って何も知らない。あたしのことを何にも分かってない。場末のビリヤード場で草臥れた男共に媚び売って、ダーツもトランプも客が機嫌を損ねないように、でもお店が損をしないよう自然に調整できるようになるまで来る日も来る日も練習して・・・やっとステージに立てるようになったんだ。歌も踊りも中途半端だけど、それでもあたしのファンになってくれる人たちがいてくれるんだ。

 

 

 

 「お前、この世界ナメてんじゃねえぞ」

 

 

 

 ぐるぐる頭の中を、思い出したくもない頃の記憶が巡る。それが余計に目頭を熱くさせて、胸から湧き上がる喚きを大きくさせて、有り余った衝動が地団駄をさせる。だけど、城之内の一言がその全部を一気に抑え込んだ。水を浴びせられたみたいに、冷たくて、重い一言に感じた。

 

 「は・・・?な、なにそれ!意味分かんない!ナメてんのはアンタでしょ!?あたしのこと何も知らないくせに、偉そうに言って!」

 「お前のことってのはなんだ。デビュー前の下積みのことか?イカサマの練習か?やりたくもねえことやったことか?ファンには見せねえ苦労や努力のことか?そんなもん、知るまでもねえ。当たり前にやるべきことだろうが」

 「なっ・・・!?あ、当たり前・・・!?当たり前!?何が当たり前なんだよ!!」

 「一丁前にステージに立って、歌って踊るんだろ。ファンの金と時間を使って良いモン魅せてやるんだろ。だったら相応の努力も苦労も練習も我慢も当たり前だろうが。ちょっと才能がありゃ誰でもできるとナメてかかって、思ったより辛かったらそれを知って欲しい、褒めて欲しいだと?甘ったれもいいとこだ。言っとくが、歌だけだったらお前なんかより良いモン持ってるヤツごまんといるぜ」

 「・・・ううぅ!あうぅ・・・!」

 「芸ってのはそういうもんだ。なあ、相模?」

 「いよっ!?ここでいよに話を振るのですか!?いや、まあ・・・煌びやかな世界は存じませんが、いよが弁を立てる時は題材となる映画や小説は少なくとも10周は鑑賞し味わいます!1度目の魅力と10度目の魅力、異なる魅力をどう1度の弁に込めるか、その真意は何か・・・考えることは凡そ数えきれませんな!」

 「そういうことだ」

 「何が・・・そういうことだ、だ・・・!説教なんかして・・・アンタだってあたしと同じくせに・・・!」

 「あ?」

 「アンタだって、あたしと同じようなもんだろ!デビューが早いからって先輩面しやがって!」

 

 とにかく今のあたしは、負けを認めたくなかった。だって、城之内の言ってることは正しいって分かり切ってるから。あたしの過去とか苦労を知って欲しい、知った上で応援して、褒めて欲しい。それがわがままで甘えだってことくらい分かってる。でも、それを認めちゃうと、今のあたしはもう立ち上がれなくなっちゃう。支えてくれる人たちがいなくなって、あたしの努力も知ってもらえなくて、あたしは何に頼ればいいのか分かんなくなっちゃうから。だから、あたしは苦し紛れにまた喚く。

 

 「少なくともオレは、オレのしてきた苦労を無闇に話すことはしねえぜ。そうだなあ、だったらその分の酸素で一人でも多くの女を口説くぜ」

 「ふざけんな!アンタのその、偉そうで余裕ぶった態度が気に入らない!ギャンブルじゃあたしに勝てないくせに!アンタだって人に頼ってるくせに!」

 「別に頼るのが悪いとは言ってねえだろ。人一人でできることなんか意外と限られてんぜ。スタッフチームがいなきゃオレだけでラジオ番組なんか成り立たねえしよ」

 「そいつらがいなきゃアンタは何もできないただのチャラ男でしょ!誰もアンタの曲なんか聴かない!誰もアンタのことなんか助けない!」

 「まあ・・・そりゃそうかも知れねえな」

 

 あたしもこいつも、同じようなもんだ。あたし達自身にできるのは、みんなに見て貰うことだけ。みんなに知られて、ファンがついて、みんなが支えてくれるから成り立つ。誰にも知られなくなって、誰も助けてくれなくなったら、おしまいなんだ。そうなったら・・・絶望だ。

 

 「だったら・・・!」

 「けど、それでもオレは“超高校級のDJ”城之内大輔だ。自他共に認める超一流のDJ様だぜ?聴かれなくたって、存在を知られなくったって、それは変わらねえ」

 「そ、そんなの・・・!」

 「それにオレは、オレの聴きてえ曲を、聴きてえように、聴きてえ時に聴くだけだ。シンパシー感じるヤツがいりゃそれでいいし、誰にも理解されなくても、オレはいい。オレは、オレのためにDJしてるからな」

 

 そんなの、屁理屈だ。強がりだ。自己満足だ。そんな簡単なもんじゃない。

 

 「お前はどうなんだ?お前は、お前のためにやってるんじゃねえのか?」

 

 あたしは・・・あたしは、あたしのためにステージに立ってる。こんなんじゃ全然足りない。もっとたくさん歌を聴いて欲しい。テレビにたくさん出て、色んなところに行ってみたい。女優や声優もやりたい。芸能界でやりたいことはたくさんある。だけどどれも、あたし一人じゃ成立しない。助けてくれる人が、受け取ってくれる人がいるからできること。でも、でもだったら・・・。

 

 「あたしは・・・どうしたらいいの?」

 「それはオレが答える質問じゃねえよ。ま、よく考えるこった。そうそう簡単に答えは出ねえよ。やりたいこととやるべきことの区別が付かねえうちはな」

 

 分かったようなこと言って、城之内はまた相模と花札をし始めた。睨み付けるあたしの視線なんかお構いなしで。ムカつく。マジでムカつくこいつ。でも・・・言ってることはその通りだって、納得するしかないんだと思う。まだ、そのこと自体に納得してないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯の時間、あんなことがあったのに、レストランの集まりはよかった。みんな、一様に面持ちは暗かった。それでも、みんなお腹は減るんだ。それとも、一人でいるのが怖かったのかな。たぶんみんな、配られた動機を見たんだと思う。私も・・・我慢できずに見ちゃったから。あんなの見せられて、私たちはどうすればいいんだろう。だれも何も言わない。だれも、何も。

 

 「っしゃあオラ!!おい男衆!!ちょっと手伝ってくれや!!重てえんだ!!」

 「・・・?」

 

 重たい沈黙を破るように、厨房から彼の元気な声が聞こえてきた。みんながそっちに注目すると、いつもの黒いTシャツにジャージの上を腰に結んだ格好とは違って、板前衣装に身を包んだ下越君が、おっきい魚を抱えて出てきた。

 

 「いよーーーっ!?そ、それはクロマグロではありませんか!?」

 「おう!活きがいいぜこいつぁ!ホラ鉄も須磨倉もボサっとしてねえで、おひつと他のネタ持って来いよ。飯にすんぞ」

 「め、飯ってお前・・・なんだよそれ」

 「酢飯と魚っつったら寿司に決まってんだろうが!生魚苦手なヤツはいるか?スニフにゃ外ネタもあるぞ!なんでも食いたいネタ言え!マッハで握ってやんよ!」

 

 そう言いながら、下越君は机を組んで作ったカウンターに醤油やお箸やガリを並べていった。あっという間にレストランは寿司カウンターに変わった。須磨倉君が持ってきたおひつから酸っぱい匂いが立ちこめて、色とりどりのネタが照明を受けてキラキラ光る。やっぱり日本人だからかなあ、思わず食欲が湧いてくる。

 

 「ネタの順番をうるさく言うつもりはねえが、まずは淡白な白身魚から始めたりギョクで店のレベルを量ったりとかいろいろ・・・」

 「はいはいはーーーい!おいなりさーん♡」

 「いよはえんがわが良いです!」

 「車エビ、いくら、たまごだ」

 「聞けよ!」

 

 虚戈さんと相模さんと星砂君の注文に、下越君はほぼ同時に手を動かしてお寿司を握った。カウンターの後ろから見てても、その手際と握られたお寿司のキレイさに、私たちは自然と次々席に着いた。いつの間にか下越君以外の15人全員、カウンターに並んでた。

 

 「美味いもん食べて寝て、イヤなことは全部忘れちまえ!今日はお前らの食べたいもん全部食べさせてやる!」

 「私、白子の軍艦食べたいわ」

 「タイショー!アボカドサーモンとカリフォルニアロールください!」

 「納豆巻き」

 「タコくれ!分厚いヤツ!」

 「シャコ2貫とカンパチ、赤貝、ウニ1貫ずつくださいな」

 「穴子」

 「ネギトロ頼んでもいいかい?」

 

 あっちからこっちからのべつ幕無しひっきりなしに注文が飛んできて、私も注文しといてなんなんだけど、下越君は全部の注文にしっかりキレイなお寿司を握ってくれる。しかも、どれもすっごく美味しくて、気付いたら飲み込んでて次の一貫が欲しくなる。

 

 「よーし!そんじゃそろそろ、このマグロ、解体すっぞ!」

 「よし来た!バラせバラせ!オレ大トロ特大の予約だ!」

 「あっ!ズ、ズルいぞ城之内!オレも大トロ!」

 「わあってるよ。大トロは全員に一貫ずつだ。なんなら目玉も握ってやるぜ?」

 「グロ!いらねえ!」

 「馬鹿なこと言うんじゃねえ!マグロの目玉はDNAがギュンギュンに詰まってんだぞ!食べると頭が良くなるんだ!」

 「頭の悪いセリフだな。DNAではなくDHAだ」

 

 お侍さんみたいに腰に差してた出刃包丁を取って投げて、ヌンチャクみたいに振り回すパフォーマンスを見せてから、さっき持ってきたクロマグロをまな板に乗せた。黒くて艶のある鱗肌に刃を沿わせて、背びれや胸びれをすっと落とす。エラに手と包丁を突っ込んで、頭を落とした。そこから目にも留まらぬ早業で、次々にマグロの体を解体して、あっという間に美味しそうな赤身を取り出した。すごく重たそうだけど、軽々と身を移して、解体が終わるとすぐに手を洗ってご飯を手に取った。

 

 「あいよ!捌きたて活きのいいクロマグロの赤身だ!」

 

 一人一貫ずつ、赤身のお寿司をゲタに乗せてもらった。一切の紛れがない真っ赤な身がキラキラ光る。粒だったお米とお酢の甘く、酸っぱい香りが私の食欲をまた刺激する。思わず唾を飲み込んだ。美味しそう。

 

 「うんめええええええええッ!!!なんじゃこりゃ!!?今まで食ったマグロの中でぶっちぎりでうめえぞ!!」

 「まさに職人技、高校生とは思えない腕前だ」

 「ううぅ・・・!」

 

 出されるや否や食べた城之内君が大袈裟なリアクションするから、ますます期待が高まっちゃう。でもたぶん、大袈裟じゃないんだろうなあ。そんな城之内君を尻目に、なぜか納見君は泣いてた。感極まるほど美味しいのかな。

 

 「おっ!?おいどうした納見!?マグロ苦手だったか!?ムリして食べなくていいんだぞ!?」

 「いやあ、そういうことじゃなくてえ・・・お、おれは感動してるんだよ下越氏!寿司の美味さもさることながらあ、下越氏の心遣いにさあ」

 「心遣い?」

 「左端の席だけが箸の向きも小皿とガリの位置も左右反転していておれの特等席になってたしい。ゲタに寿司を置く時もおれの時だけ左手で握ってくれてたろお?その心遣いがあ、左利きにとってはとっても嬉しいんだよお」

 

 美味しさかと思ったら、下越君のそんな気遣いに感動してたんだ。私たちにはあんまり分からない感覚かな。感動するほど嬉しいって、利き手に関してよっぽど色んな経験をしてきたんだね。

 

 「テルジさんのカインドネスはすごいですよ。ボクにサビヌキしてくれます」

 「あ!そういえばまいむも!」

 「当たり前だろ。飯に集中するんだから利き手だ薬味だで変に気ぃ散らしてらんねえじゃんか」

 「やろうと思ってもなかなかできないものよ。すごいわ下越くん」

 

 私の気付いてないところで、下越君はそんなに色んな気を回してくれてたんだ。そう言えば、スニフ君のために海外ネタも出してた。あれはそういう気遣いの一環の一貫だったんだ。みんなに料理を振る舞うだけじゃなくてそんな細かいところまで、本当にすごい。

 

 「フンッ、たかが利き手のことで喧しい限りだ」

 「たっ!?たかが!?たかが利き手と言ったのかあ!右利きのキミたちがそんな意識だからいつまで経っても左利き差別がなくならないんじゃないかあ!」

 「・・・地雷を踏んだな」

 「とんでもなく面倒臭い地雷だよなあコレ」

 「左も右も大して変わらんだろう。左ぎっちょうが被害妄想逞しく少々の不便を大袈裟に騒ぎ立て、差別だなんだと弱き暴力を振るうなど、目障りで耳障りで気障り甚だしい」

 「左ぎっちょうって言うなああああああああああッ!!少々の不便がどれだけ世間に蔓延してるか知らないだろお!!右利きが気付きもしないレベルで右利き主義は根付いてるんだあ!!左利きのストレスを知りもしないくせに左利きのテーゼを暴力と呼ぶなあああああああッ!!」

 

 星砂君のせいで、なんだか納見君がどんどんヒートアップしてきて、もう楽しいご飯の時間が左利きの主張の時間になってた。わざわざ納見君の怒りを煽るようなことを言う星砂君もだけど、納見君も利き手で熱くなりすぎな気もする。でもやっぱり、右利きの私にはよく分からないことなのかな。

 

 「テーゼとは大層だな。そうやって大声を出して喚き散らすなど犬のようなことで通せる主張なら高が知れるな」

 「だったらあ・・・おれなりのやり方で分からせてやろうじゃあないかあ・・・!!明日の朝に吠え面かかせてやるよ星砂氏!!」

 「口調が崩れるほど怒ってるのか」

 「うおおおおおん!!久し振りに創作意欲が湧き上がって止まらないよお!!須磨倉氏!!また丸太とペンキを持ってきてはくれないかあ!!」

 「またかよ!ってか今からかよ!?」

 「アクティブエリアに武道場があったはずだねえ。あそこがいい!先に行ってるから持ってきておくれよお!」

 「ってコラ納見!飯の最中に席立つんじゃねえ!まだ中トロも食べてねえだろ!」

 「そういう問題!?」

 

 下越君が止めるのも聞かずに、納見君は走ったところから発火してタイムスリップしそうな勢いでレストランを飛び出して行っちゃった。私たちは唖然としてその後ろ姿を見送った。納見君からまた配達の依頼を受けた須磨倉君は、ちょっと迷ってたみたいだけど、すぐにカウンターに座り直した。

 

 「まあ、下越の寿司食ったら行くか」

 「届けんの?お金欲しいからって、あんな左バカ、シカトしとけばいいのに」

 「金が欲しいからな。モノクマネーでも金は金だ」

 「くだらんことで騒ぎ立てて、せっかくの寿司が台無しだな」

 「どちらかといえば大事になったのは星砂君のせいな気がするね」

 

 納見君がいなくなったカウンターで、下越君は引き続きマグロの握りのフルコースを振る舞ってくれた。ネギトロにユッケに中トロ、大トロまで・・・どれもほっぺたが落っこちそうなくらい美味しかった。一通り食べ終えて、後はみんながそれぞれ好きなものを注文した。私たちは満腹になったけど、下越君はずっと握りっぱなしで大丈夫なのかな?

 

 「ごちそーさまでした!」

 「ごちそーさま♡」

 「お粗末さん!」

 「下越君はお腹減ってないの?」

 「オレは余った皮とか骨で満足できんだよ。鮭の皮寿司とか骨せんべいとか、結構腹ふくれるもんだぜ」

 「次は是非そっちも食べてみたいものだな」

 「へへへっ、いつでもいいぜ」

 

 てきぱき片付けをしながら下越君は頼もしく笑う。ホント、どこまでもみんなのためになれるなんて、羨ましいなあ。私の“才能”じゃ、そんなことはできないから。人のために何かをすることなんて、私にはできないから・・・。

 

 「なあ、みんなちょっといいか?」

 「なんだ雷堂?デザートか?寿司は酢の残り香も含めて味わうもんだぜ」

 「いやそうじゃなくて、今晩のことについて提案があるんだ」

 「提案?」

 

 お茶を飲んだり寝転んだりして思い思いに食後の時間を過ごしてる皆に向かって、雷堂君がおもむろに立ち上がって言った。今晩のことについての提案って、今日の夜に何かみんなで約束してることがあったかな?

 

 「みんな、今日モノクマから配られた動機の映像は・・・観たヤツも観なかったヤツもいると思う」

 「ちょっ・・・アンタなに言ってんの?今そんな話しなくたって」

 「今じゃなきゃダメなんだ。今じゃなきゃ・・・手遅れになるかも知れない」

 

 動機、って言葉にみんなの表情が変わった。あのひどい映像のことで、みんな神経質になってるんだ。星砂君はお母さんだった。きっと、みんな自分の大切な人が人質にされてるのを見せられたんだ。私も・・・そうだったから。だから、茅ヶ崎ちゃんみたいにその話を避けたいのも分かる。だけど、雷堂君の言う通り、話し合わなきゃいけないことでもあると思う。

 

 「映像を観たのが誰かなんて追及しないし、観たこと自体をとやかく言うつもりはない。問題はそこじゃない。モノクマは、いよいよ本格的に俺たちにコロシアイを強いてきた、それが一番の問題なんだ」

 「ど、どういうこと?」

 「正直、俺は映像を観た。そして、本気でここから出たいと思った」

 「それはつまり、この中の誰かを殺す算段を立てたということか?」

 「いや。出たいとは思ったけど、やっぱり誰かを殺してまで外に出るなんてこと、想像できなかったし、想像したくなかった。ここから出る時は、みんな揃って出る。それしかないって改めて分かったんだ」

 「それを俺たちの前で告白するということに、どういう意味があるんだ?」

 

 真剣に、真摯に、真正に話す雷堂君は、その内容は私たちにとって不穏なことのはずなのに、すごく安心できた。誠実な態度を見せて、正直な告白をしてくれた彼は、信じることの危うさや怖さをちっとも感じさせなかった。きっと、私たちにそう思ってもらおうとして、こんな告白をしたんだと思う。

 

 「俺みたいに、動機映像に触発されて、変な考えを起こす誰かがいてもおかしくない。そうも思ったんだ」

 「・・・!」

 

 それは、私たちにとっては爆弾発言だった。拉致監禁されてコロシアイを強いられた状況。既に一人の犠牲者が出てる絶望的な状況。動機と称して人質の映像を見せられた心が不安定な状況。そこに、私たちの疑心暗鬼を加速させるような発言が、モノクマからならともかく、雷堂君の口から出てくるなんて。

 

 「俺はもちろんみんなのことを信じたい。みんなだってそう思ってるはずだ。でも、ただ信じるってだけじゃ無責任だ。疑いもせずに薄っぺらな言葉で信じるなんて、そんなんじゃ簡単にメッキが剥がれる」

 「長いな。結局、お前はどうしたいのだ。俺様の貴重な時間を貴様の自慰スピーチに付き合わせるな」

 「ああ、悪かった。だからとにかく俺は、みんながみんなのことを信じられる証拠が必要だと思ったんだ」

 「ふむ・・・要するに、信頼を形として表す必要があるということか。しかし抽象概念を具体事物に変換するなど、それができたら現代科学は根底から覆るな」

 「そんな大袈裟な話じゃない。今夜、みんなは普通に部屋で寝てもらってていい。俺が、廊下の前で寝ずの番をするってだけだ」

 「ネズミに小判?」

 「寝ずの番、一晩中寝ないで見張りをすることだよ。でも・・・それが信頼の証になるの?」

 「動機の映像を観てもコロシアイをしないって固い意思があるなら、部屋からは誰も出て来ないはずだ。もし誰かが早まってしまっても、俺が止める。これでもハイジャック対策の訓練だってしてきたんだ」

 「なるほど納得です!誰も何もしなければ、それこそがいよ達の結束の証になるということでありますか!そしてその証人は雷堂さん・・・申し分もありませんな!」

 「けど一晩中ってのは結構長いぜ雷堂?一人で大丈夫なのかよ?だいたいトイレだって必要だろうが」

 「デカい飛行機だと夜通しフライトすることだってあるんだ。それくらい慣れてるから大丈夫だ」

 「やりたいと言っているのだ。やらせればよかろう」

 

 意外にも、一番最初に雷堂君の意見に賛成したのは、ずっと背を向けて話を聞いてた星砂君だった。てっきり、下らないとかなんとか言って反対すると思ってたのに。

 

 「それで気が済むのならすればいい。個室の前にいるだけなら俺様たちに何の不都合もなかろう。定期的に叩き起こされるわけでもあるまい」

 「ああ。きちんと鍵がかかってるかどうかの確認だけだ。個室の鍵は内側からしかかからないからな。それだけで十分だ」

 「別に、たまちゃんはどーでもいいから、早くシャワー浴びて寝たい気分」

 「あっはー☆がんばれワタルー♡」

 「・・・寝不足で次の日頭痛くなっても知らないから」

 「心配すんなって」

 「は、はあ!?意味分かんない!か、かんちがいしないでよね!別にアンタのこと心配してるわけじゃないんだから!」

 「テンプレートみたいなセリフね。本当に言う人はじめて見たわ」

 

 雷堂君の提案に反対する人はいなくて、みんな賛成した。部屋の外にいるだけなら、私たちには何の影響もないし、もし何かあっても助けてくれるってことだもんね。信じて・・・いいんだよね。

 そのあと私たちは解散した。下越君が一人で何も言わないで片付け始めたから、スニフ君と私と茅ヶ崎さんで手伝うことにした。下越君は最初は断ろうとしてたけど、ごちそうになっておいて片付けもさせてもらえないなんて、それこそ私たちの方が気負っちゃう。他に手伝うって言った人がいないことはともかくとして。

 

 「わりいなお前たち!料理手伝わせちまって!」

 「洗い物でしょ。これくらいしないと、あたしたち作ってもらいっぱなしで悪いじゃん」

 「やられたらやり返す、倍返しです!」

 「お返しだね」

 「それでした!」

 「スニフは包丁さわるなよ。ちゃんとケガしねえように見とけよ茅ヶ崎」

 「分かってるって。ホラ、おはし自分に向けない」

 「お姉さんみたいだね、茅ヶ崎さん」

 「マナミさんおねえさんみたいです!」

 「や、やめてよ・・・」

 

 私と下越君が洗い物、茅ヶ崎君とスニフ君がから拭きで分担して、包丁とかおはしとか尖った危ないものでスニフ君がケガをしないように、茅ヶ崎さんがきちんと見てくれてた。子供って言ってもスニフ君だって賢い子だからよっぽど大丈夫だと思うけど、やっぱり茅ヶ崎さんが見てくれてると安心する。

 

 「よーぅ、これどこ置いときゃいい?」

 「あっ、須磨倉君に鉄君。おひつとケース持ってきてくれたの」

 「女子供に運べるものではないと思ったからな」

 「いいもん食わせてもらったんだからぶの手伝うくらいのことするわ」

 

 重すぎたり大きすぎるから後で運ぼうとしてたおひつやケースを、須磨倉君と鉄君が運んでくれた。思ってもなかったお手伝いで、なんだか心が温まった。これなら、雷堂君の言う信頼の証明も難しいことじゃなさそうだなって思えた。

 その後、須磨倉君は納見君に丸太を届けに、鉄君は城之内君と温泉に行くためにキッチンから出て行った。洗い物も一通り終わって、私たちもそろそろ部屋に戻ろうとした。その時に、茅ヶ崎さんがちょっとバツが悪そうにしてた。

 

 「あ、あのさ、下越」

 「ん?なんだ」

 「その・・・あのさ、んと・・・なんていうか・・・」

 「なんだよ歯切れ悪いな。言いたいことがあるならはっきり言うもんだぜ!」

 「うん・・・。あのさ、おにぎりの具ってさ・・・何がいいのかな?」

 「なん?おにぎり?そりゃ、梅干しとかシャケとかおかかとかだよな。ツナマヨと昆布はありゃ意外と難しいから初心者にゃオススメできねえな」

 「そっか。そうか・・・うん、ありがと!」

 

 なんでこのタイミングでおにぎりの具の話なんかするんだろ。って顔で下越君は首を傾げてるけど、私とスニフ君にはすぐ分かった。特に私は、茅ヶ崎さんの気持ちと、誰に作るのかも。

 

 「なになに茅ヶ崎さん?おにぎり作るの?誰のため?」

 「へあっ!?べ、別に雷堂のためとかじゃないから!!た、ただの心付けっていうか!!チップ的なことだから!!」

 「ワタルさんのことなんてだれも言ってないです」

 「・・・はっ!はわっ・・・!」

 「あー、そういや寝ずの番するっつってたな。オレとしたことがうっかりしてた。よっしゃ!いっちょ眠気も吹っ飛ぶ激辛えスープでも作って・・・」

 「いやいや下越君、ここは茅ヶ崎さんに任せましょう」

 「はっ!?あ、いやっ、べ、別におにぎりくらい、あたしでも作れるし!あいつに下越のなんて勿体無いって !」

 

 そんなこと普段言わないのに、無理しちゃって。やっぱり、寝ずの番をする雷堂君のために作ってあげるんだ。つつけばつつくほどどんどん自分で言っちゃうから、もっとつつきたくなっちゃう。でも、無粋なことしようとする下越君は連れて帰る。

 

 「下越君、馬に蹴られたくなかったら、大人しく帰ろうね」

 「馬?ここに馬なんかいねえだろ」

 「人のこうじをジャマする人はホースにキックされてバイバイキンなんですよ!」

 「なんかもうむちゃくちゃだね。こうじじゃなくて恋路でしょ?」

 「それでした!」

 「こ、こいじって・・・!!ああうぅあうあ・・・!!」

 「お、おい。茅ヶ崎が茹でたタコみたいになってんぞ」

 

 こんなにあからさまだったら分からない人なんていにいよ。うん、雷堂君に茅ヶ崎さん。いいと思う。真面目で人のために熱くなれる雷堂君に、クールだけど優しくて尽くしてくれそうな茅ヶ崎さん。見た目はびっくりする組み合わせだけど、相性いいんじゃないかな。

 

 「じゃあ、私たちはお先に。茅ヶ崎さん、私、応援してるから!」

 「そ、そんなんじゃないってば・・・!」

 「本当だよ。本当に・・・応援してるから」

 「?」

 

 それだけ言って、私はスニフ君と下越君を連れてキッチンを出た。もうみんな部屋に戻ったみたいで、私たち以外は誰もいない。雷堂君が寝ずの番をするためなのか、フロントに雑誌や飲みものが用意してあった。

 下越君はおにぎりの作り方で茅ヶ崎さんを心配してたけど、明日の朝ごはんの注文をしたらすぐに忘れて、サンドイッチの具材選びに息巻いて部屋に入っていった。

 

 「テルジさん、とってもイージーな人です」

 「スニフ君、そういうこと言っちゃダメだよ」

 「すみません。ディフィカルトな人です」

 「それもちがうかな」

 

 スニフ君と私は、部屋の前で挨拶をしてそれぞれの部屋に入った。雷堂君がチェックするから、ちゃんと部屋の鍵を閉めなくちゃ。

 

 「おやすみなさい、こなたさん」

 

 ぺこりと頭を下げて言うスニフ君に、私は年上らしくもなく、簡単に返した。

 

 「うん。おやすみスニフ君。また明日」

 

 部屋の鍵はすごく重くて、かけた指が痛くなるくらいだった。

 

コロシアイ・エンターテインメント

生き残り:16名




1日1000字を実践してみると、案外いけることに気付きました。今まで更新が滞っていたのは、進捗0字の日が多すぎたんだと思います。
0と1の差って本当にデカいんだなって感じました。
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