うっぷぷぷぷ!オマエラ!お久し振りです!え?そんなに久し振りでもない?だけどね、前回からボクのセリフが物凄く少なくて、ボクの存在が薄れてるんだよ!いくらボクが可愛くてマスコットみたいだって言っても、名実ともに置物になるなんてまっぴらゴメンだっての!あーあ、こんなことならモノクマファイルの記述をもっとややこしくしてあいつらを困らせてやればよかったなあ。
で、なんで裁判の途中でボクが喋ってるのかって?そんなの分かり切ってるじゃーん!ここまでの学級裁判の総括をして、ポケットに入れてたイヤフォンみたいにこんがらがった話の流れを整理して、ここから先の学級裁判の展開に必要以上の期待を持たせるために決まってんじゃん!ゲームマスターでありトリックスターであるボクは、こうしたメタい役回りも熟せるんだよ。すごいでしょ?でもさ、よく考えたら学級裁判の途中から読み始めるアナーキーな人なんてそうそういないだろうし、ここまで読んでる人は前回も読んでるだろうから、実際ボクがやってることって必要なんだろうかと思ってしまったり。ボクの存在意義ってなんなんだろうね?メタいことを言えば、簡単に原作との繋がりを示せる記号でしかないのかな。
さて、じゃあボクはボクの仕事をするかな。ここまでの学級裁判の総括をするよ!因みに今回の、というより今作の学級裁判は今までみたいに、息が詰まるような地下深くに閉じこもって、せっかくの広い世界を堪能せずに変わり映えのない背景のまま話をするなんてこと、するわけないよねー!そこでボクは頭を使いました!モノヴィークルを証言台にして裁判場そのものが外を走り回る、アウトドア学級裁判だよ!うぷぷぷぷ!昼は燦々太陽の下で冷や汗と玉の汗を流しながら、夜は花火やビームライトで煌びやかに、サンライズやサンセットを眺めながら優雅な疑心暗鬼をお楽しみくださいませってね!これぞコロシアイ・エンターテインメントに相応しい演出でしょ?ただまあ、実際これは学級裁判の内容には関係しない演出だから、オマエラそれぞれが脳内で補完してよね。
じゃあ無駄話は終わらせて、本当に学級裁判の総括をしようか。今回の事件の被害者は“超高校級のサーファー”茅ヶ崎真波さん。ファクトリーエリアの廃工場でぐったり死んでやがるところを見つかっちゃいました!死因はお腹を包丁でブッ刺されたことによる刺殺でした。特に何の面白味も意外性もない刺殺なんて、もう出尽くした感があるよね。この分かりやすい死に方で一番最初に争点になったのは、凶器がどこから持ち出されたか、そして誰が持ち出したか、まさにその一点だよね。
“超高校級のジュエリーデザイナー”であり鍛冶屋の息子である鉄祭九郎クンによって凶器の包丁は厨房にあったものだって分かりました。そうなると当然疑いは、厨房に出入りしていた人物になるよね。木に成った林檎が地面に落ちるが如く、そうあって然るべき当たり前のことだよね。そんな議論の中で、下越クンや納見クンに疑惑の目が向けられたけれど、一番疑わしいとされた人物は、何を隠そう今回の事件の被害者である茅ヶ崎真波サンだったのでした!事件前日に最後まで厨房に残っていて、夜中に部屋の外にいたという点では、確かに犯人と疑われても仕方ないよね!
茅ヶ崎サンが事件の発起人かもしれないという流れに反対したのは、スニフクンと研前サンのたった二人!それ以外の星砂クンを中心とした他全員の意見は一致して、学級裁判の流れはもう完全に『今回の事件の発端、実は茅ヶ崎説』で推し進めていってるね。このまま犯人は茅ヶ崎サンが最初に狙った人物になるのかと思いきや、ここで議論は大きな壁にブチ当たるわけです!それもそのはずなぜならなんと、この議論の末に犯人の最有力候補となったのは、茅ヶ崎サン発端説を最初に主張し半ば強引に押し通してきた、星砂這渡クンその人だったからです!自分の主張で自分が疑われるわけわかんない状況に、果たして彼はどう対処するのか!そして本当に学級裁判はこのまま終わっていくのだろうか!
うーん、まともにまとめられない!以上!
下らないと笑ってはいるが、笑っていられる状況であることは明白だ。軽率な一言が、迂闊な言葉選びが、即自分の命を危険に晒す学級裁判の場において、自分で自分の首を絞めるような推理をしたことは、星砂が本当にクロであろうとそうでなかろうと、ミス以外のなにものでもない。最終的な結果が投票によるものであることは、少しでも疑われたらアウトになることを意味している。それが理解できないほど、星砂の頭の出来は悪くなかった。
「では俺様が直々に説明してやろう。俺様が犯人ではあり得ない理由をな」
「いや普通に言ってっけど、学級裁判で自己弁護って成立しないよな?言い訳とほぼ変わらないだろ」
「歴とした物的証拠でもあれば別だが・・・まあ、まずは話を聞いてやるとしよう」
「なるべく分かりやすく喋ってもらえると嬉しいわ。星砂くん、一言多いどころじゃないから」
「俺様の主張の要をもう一度説明しておこう。事件当日の夜に厨房にいた半裸が、夜食を作るだなんだと適当に嘯いて残り包丁を持ち出す。そしてピッキングツールで部屋にいた者を殺そうとしたが、返り討ちに遭い失敗。逆に自分が殺されるハメになってしまったと。こういうことだ、分かったか凡俗共」
「だからその前提で推理してったら、アンタが一番怪しいってことになったんでしょ!」
「喧しい。それは貴様ら凡俗が足りない知恵で絞り出した、推理のような何か、でしかない。俺様が犯人という結論に繋がる主張を俺様が通すわけがなかろう」
「ならば、きっちり説明してくれるんだな?お前が犯人ではない証拠を。頼むからこれ以上ヒヤヒヤさせないでほしい」
物的証拠があるのだろうか。疑いようのない状況証拠でもあるのだろうか。あるいははったりか。全員から疑惑の目を向けられても星砂は一片の動揺もなく、自信たっぷりに己の無罪を主張する。周囲から疑われ、懇願され、呆れられてもマイペースを崩さないその姿は、不気味にさえ映った。そして湧き出る毒とともに星砂は語る。
「まず俺様は昨晩、夕食の後に僅かな間部屋に戻っただけで、それ以降はずっと外にいた」
「僅かってどんくらいだよ?」
「ほんの30分ほどだ。シャワーを浴びてすぐに外に出た。それ以降、朝まで部屋には戻っていない」
「朝まで・・・それって、昨日の晩はずっと外にいたってこと?」
「勿論だ。部屋の外で故意の睡眠は掟に反し処罰対象。故に一睡もしていない」
「一晩中モノクマランドを徘徊していたということですか?何のためにそんなことを?」
「無論、脱出する手立てを探すためだ。もっと言えば、このコロシアイ・エンターテインメントを取り仕切っている黒幕を引きずり出し、この手で引導を渡してやるためだ」
「は?く、黒幕?何言ってんだお前?」
「そこにいるインチキパンダを見て、貴様らはそんなことにも思い至らなかったのか?こんなもの、裏で糸を引いている何者かがいて然るべきだろう。そしてもし黒幕が表に出てくることがあればそれは夜の時間帯だ。夜時間などと定義をして一部の区域を立ち入り禁止にし、夜な夜なそこで何をしているのやら。そして新たなルールを追加してまで隔離しておきたい場所があるということもついこの前分かった。ここで俺様の予想は確信に変わった。黒幕は俺様たちに発見されることを恐れている。つまり発見される恐れがある。可能性があるのなら可能にする。それが俺様の“才能”だ。故に俺様は黒幕を探しに一晩中モノクマランドを探索していたということだ。結果、見つかりはしなかったがな。さすがに夜の間は制約が多い上に、地の利は黒幕側にある。何かをしようとして手こずるなど、久し振りの経験だ」
「つ、つまりお前は・・・一晩中部屋には戻らずモノクマランドを動き回ってた。その理由は、黒幕がどこかにいるかも知れなかったから。ってことだよな?」
「理解が早いな勲章。その通りだ」
「なるほどな・・・などと簡単に納得するわけがないだろう。それこそどうとでも言えるではないか。夜中に部屋にいなかったことは雷堂の証言があるにしても、部屋にいなかったことが即ちモノクマランドをうろついていたことにはならない。どこかで茅ヶ崎に襲われ、そして殺したかも知れないではないか」
「では聞こう。俺が夜中にどこにいたのか、貴様らの中の誰か一人でも、ほんの手掛かりでも、知っている者がいるのか?」
そう問うた星砂への返答は、モノヴィークルの駆動音とささやかに流れる風の音だけだった。つまり、そこにいる誰一人、事件当夜に星砂がどこで何をしていたのかを知る者はいなかった。それこそが星砂が疑われる理由になったのだが、それこそが星砂が疑われない理由にもなる。
「誰も知らない。当然だ。俺様が昨日の夜どういう行動をするか、誰一人にも言っていないのだからな。ではそこに来て、なぜあの半裸ごときが、俺様が誰にも口外していない俺様の行動を知り、そして殺せるとまで判断したというのだ。一晩中留まらずにモノクマランドを動き回っている俺様を捜し当て、包丁如きで俺様を殺せると判断できたというのだ」
「そ、それは・・・いや、でもそれは」
「ああ。それは俺様の言葉が真実であり俺様に都合のいいように解釈した場合の話だ。ではこれはどうだ?ヤツは俺様を探して俺様と同じようにモノクマランドを徘徊し、たまたま鉢合わせた俺様に襲いかかり殺された。それがどれほど低い確率かは、そこの子供でなくとも大凡の予想はつくだろう。俺様が部屋に戻ってくることを想定してホテルで待ち伏せしていたとしようか。だが俺様は戻っていない。ならばなぜ俺様はホテルにいる半裸をホテルにいずして殺せるのだろうな?そもそも、俺様は部屋の外にいたのだから部屋に鍵などかかっていなかった。なのになぜ半裸のピッキングツールには使用した痕跡があったのだろうな」
「だ、だったら・・・!!」
「ではもっと根本から否定した議論をするか。俺様が一晩中外にいたというのは嘘で、本当は部屋にいてピッキングツールで鍵を開けられた後、半裸に襲いかかられて返り討ちにし廃工場に捨てたという風に考えるか。これならばピッキングツールが使われていた説明が付くし、半裸が俺様の居場所を突き止めることも難しいことではない。だが現実問題、俺様の部屋の鍵は一晩中開いていたのだ。半裸に殺されかけ、入念に死体をあんな場所まで捨てに行ったというのに鍵をかけないほど不用心の極致にいるつもりはない。それどころか部屋の鍵が開いていただけでこうして疑われていたのだ。この俺様がその程度のことが予想できないと思うのか?」
「・・・」
「他の説明もしてみようか?誰かを殺そうとしている半裸を偶然目撃してしまったというパターンもある。俺様も実は誰かを殺そうとしていてそれが半裸とバッティングしたのかも知れない。あるいはその相手は半裸だった可能性もあるな。俺か半裸がどちらかの協力者で裏切ったという話があってもいいかもな。もしかしたら半裸はとにかく誰かを殺そうとしていて、行き逢ったのがたまたま俺様だったというのはどうだ?」
雄弁に星砂があげつらったいくつもの可能性は、どれも自身をクロとする前提での可能性だった。しかしそれは、どの可能性を詰めようとも自分の無実を確実に主張することができるという自信に裏打ちされた行動だった。なんとか星砂に噛みつこうとしていた何人かも完全に閉口し、先ほど同じ、しかし全く性質の異なる沈黙が裁判場を包み込んでいた。
「故にここまでの議論の結果、得られる一つの方針はこれだ」
そんな沈黙を気にすることもなく、星砂は人差し指をピンと立てて言う。
「一晩中鍵が開いていた俺様やぎっちょうは、犯人と言えない。そもそも人を殺した後に鍵を開けっ放しにしておけるような無神経な者などそういるはずがない」
「じゃ、じゃあ・・・犯人の手掛かりがなくなったってことなのか?だってさっきの雷堂の話じゃ、一晩中部屋の鍵が開いてたのはその2人と茅ヶ崎の部屋だけなんだろ?」
「ああ、一晩中部屋の鍵が開いていたのはその3人だけだ。だが、それ以外にも疑わしい者はいる。そうだろう勲章?」
「へっ?そ、そうなのかよ!?お、おい雷堂!どういうことだ!」
「・・・何の話だよ」
「うん?ああ、そういえばそうだったな。お前には俺様の方から箝口令を敷いていたのだった。いや、凡俗への指示などとうの昔に忘れていた。俺様にとっては瑣末なことだからな。いいぞ勲章、箝口令は解除だ」
「箝口令?何を口止めされていらっしゃるのですか?」
「あっいや・・・そ、それは・・・いや、なんというか・・・ち、誓って言うけど、俺はウソは吐いてないぞ!一晩中鍵が開いてたのは本当にその3人だけだし」
「・・・雷堂。最初に聞いた時から気になっていたのだが、聞いてもいいか?」
「な、なんだ極?」
「なぜお前は『昨日の晩に部屋の鍵が開いていた』ではなく、『一晩中部屋の鍵が開いていた』という言い方なのだ。最初に聞いたときから一貫してその言い方だが、何か他意があるように聞こえるぞ」
「・・・ッ!」
「言われてみると確かにそうだ。一晩中と言えば、大凡昨日の夕食後から今朝までの時間帯のことだ。昨日の晩と言って大した誤解があるわけでもないのに、先の言い方に拘る理由があるのか?」
「ウソを吐いてないって言い逃れようとしたよね。それってつまり、その言い方じゃないとウソになるってことじゃないの?」
「えっと、『昨日の晩』だとウソで、『一晩中』だとウソにならない。うーん・・・な、なんだかややこしいわ。どういうこと?」
「グルーピングで考えたら、『オールナイトでアンロックだった』グループは『ラストナイトにアンロックだった』グループの中にあります。だからこういうときは・・・オールナイトじゃないけどラストナイトにアンロックだったルームが他にもあるってことになります」
「つまり、夜中のある時点を境にして、鍵が開けられた部屋があるということか!」
「お前ら急に推理の連携が半端ないな!!」
「推理対象が大したことないからではないのか?」
「いやもともとお前が俺に口止めしたからこんなことになったんだからな!蚊帳の外っぽい感じで言ってるけども!」
「この場合、他人事と言った方が適切かと!いよーっ!」
「それで、どうなんだよ雷堂。ウソだろうと隠し事だろうと、何かあるなら言えよ。そのせいで裁判の
箝口令という星砂の言葉。そして極の疑問。その二つを手掛かりにして、再び裁判場は活性化する。星砂の語りによって抑えつけられていた分を取り戻すかのように、それぞれがそれぞれに一つの推理を組み立てていく。その勢いに舌を巻く雷堂だが、自分が追い詰められていることを認識すると、観念したかのように口を開いた。厳密には、星砂からの箝口令が解除されてようやく口を開くことができるようになったのだった。
「いや・・・今お前たちに全部言われたから改めて言うのもなんなんだけど、実はそうなんだ。星砂と納見と茅ヶ崎の3人の部屋は、見張りを始めた時からずっと開きっぱなしだった。途中で納見は戻ってきたけど、その3人の部屋は本当にずっと開きっぱなしだった」
「意外と身近にいたな。無神経なヤツが」
「あちゃあ。かけ忘れてたかあ」
「いやまあ、その時は茅ヶ崎さんが殺されてるなんて思ってないわけだし・・・不用心ではあるけど」
「そ、それで・・・実は見張りをしてた時に、ちょっとだけ目を離してた時があるんだ。で、その隙に、かどうかは分からないけど、いつの間にか鍵が開いてた部屋があったんだ」
「そんなのメチャクチャ怪しいじゃねえか!なんで言わなかったんだ・・・って、星砂に口止めされてたんだっけか。なんでだよ!」
「無論、犯人を炙り出すためだ」
「は?」
「なぜその口止めが、犯人を炙り出すことになるのだ」
「考えてもみろ。夜中に途中で鍵が開いていた、そして被害者である半裸の部屋には使用済みのピッキングツール、これはつまり犯人は夜中に半裸によって鍵を開けられたということだ。すなわち、夜中に開錠されたというその部屋の主こそが、この事件の犯人の最有力候補であろう。そしてそのことに気付いているのは本人も同じだろう。故に自分が疑われることになる、この手の議論になることを遮ろうとしてくると踏んだのだ」
「え・・・そ、それって・・・!」
「結果は上々、面白いを通り越して些か拍子抜けだ。肩透かしを食らった気分と言うべきか。今この場で俺様を疑っている者は幾人もいれど、俺様の主張に明確に反論している者はたったの2人」
そう言うとその場にいた14人の視線は、たったの2人に集まる。最も強く星砂の意見に反対し否定していた研前と、その研前を支持するように同調したスニフに。
「で、でもそんなの、どうとでも言えるんじゃねえのか?だって、意見がありゃ反対くらいするだろ!お前の意見が正しいって保証もねえんだしよ!」
「ほう、馬鹿のくせにまともなことを言うではないか。もちろんだ。俺様とて完璧ではない。完成されてはいるがな。間違いはしないが勘違いはする。言うことなすこと全てが正しいというわけではない。故に反論もあり得る。あって然るべきだ。だが言っただろう、肩透かしだと。俺様が勲章から聞いたその部屋の主・・・その2人の内の1人だ」
「なっ・・・!?」
「・・・ッ!そ、その部屋は・・・その部屋が割り当てられてたのは」
そう言って雷堂は視線を飛ばす。自分の口から名前を発することを拒むように、視線だけで全員に知らせようと、ただ見る。無意識に責任から逃げていた。自分の手で犯人を指名することの重さを直感的に理解し、その重圧を避けようとした。それさえも直感的に理解してしまったことで、雷堂はより一層の罪悪感を感じた。しかしその視線を向けられた相手は、そんな感情さえも吹き飛んだような顔をしていた。まったくの“無”表情だった。
【人物指名】
「・・・こなた、さん・・・・・・?」
「時刻は確か、茅ヶ崎の死亡時刻くらいだったと思う。その前には確かに鍵は閉まってたんだ。けど、気が付いたら鍵が開いてた。はじめは夜中にちょっと出てて、すぐに帰ってくるだろうと思ってたんだけど、結局その後、研前の部屋の鍵が閉まることはなかったんだ」
「なっ・・・なんで・・・なんでですかワタルさん・・・?なんでそんなこと言うんですか・・・?」
「・・・ごめんな、スニフ。けど、本当のことなんだ」
「だって、そんなこと・・・マナミさんのルームでは言ってなかったじゃないですか・・・!」
「あの時は研前もいた。まだ捜査の段階なのに本人の前でこんなこと言って、変に先入観を持たせたくなかった・・・それが、こんな形で言うことになるなんて思ってなかったんだよッ・・・!」
「くくく・・・!!はっはっはっは!!言葉も出ないか凡俗!!この俺様の計画通りだ!!まんまと俺様の仕掛けた罠にはまり、自ら己が犯人だという尻尾を出したな!!鍵のかけ忘れなど初歩的なミスをしたものだなアンテナ!!まあ大した真相でもない簡単な事件ではあったが、それなりに楽しませてもらったぞ」
「・・・あのね、星砂君。それに雷堂君」
研前は口にする。勝利宣言をした星砂の言葉への返答を。自らに投げかけられる雷堂の視線への反論を。
「何、言ってんの?」
「くくく、何を言っているか一番分かっているのは貴様自身だろう?」
「鍵が開いてたことくらい・・・朝に気付いたよ。でもそんなの、たまたまかけ忘れただけだよ。それに途中から開いてたって、雷堂君が見間違えたんじゃないの?何かの間違いだよ」
「ほう、勲章の証言を否定するつもりか。そうなると今までの議論はほぼ全てが無駄になるな。俺様の疑惑はもちろん、納見や茅ヶ崎の行動、夜中の部屋の出入りの全てを疑うことになる。そうなれば犯人の手掛かりなど0に近しい。それとも証言の取捨選択をするつもりか?自分に都合の良い証言は採用し、自分に都合の悪い証言は却下か。結構!さぞかし議論しやすそうだな!」
「そうやって言ってないことまで私の意見みたいにして、都合が良いのは君の方だよ。私は昨日の夜はずっと部屋で寝てた。それとも、誰か外で私のことを見たの?」
「いや・・・お前の姿そのものは見てないけど、でも状況的に、一度研前の部屋の鍵が開いたってことは確かだろ?」
「だから、かけ忘れたんだってば。そんな状況証拠だけで私が犯人だなんて言うつもり?やめてよ。私は犯人なんかじゃない・・・そうだよね、スニフ君」
「What!?Well・・・ボ、ボクは・・・その・・・」
唐突に研前に巻き込まれたスニフは、歯切れ悪く答えた。研前を疑う今の状況は、星砂が主張する茅ヶ崎が発端であるという説に基づくものだ。スニフにとってそれは認められない説だった。だが、今のこの状況を受けてスニフは揺らいでいた。もし本当に星砂の言う通りであれば、研前の反論は茅ヶ崎への友情ではなく計算ずくだったということになる。正直なところスニフには、自分の主張を支える確定的な証拠はなかった。そして雷堂の言葉を疑う理由もなかった。つまり、論理的に考えて、星砂の方が正しく思えてきたのだ。
「えっと・・・こなたさんが犯人なのは・・・イヤです」
「イヤ、だと?ふん、もはや議論ですらない。貴様個人の感情など知ったことではない」
「・・・どうしたのスニフ君?反論してよ。私は犯人じゃないって言ってよ。ねえ。私を助けてよ。ずっと一緒にいたでしょ。私が犯人じゃないのは、スニフ君も分かってるでしょ。お願いだから。ねえ。助けてよ・・・助けてよスニフ君!私は犯人じゃないでしょ!!」
感情的に、利己的に、独善的に、研前ががなる。雷堂に指名され、星砂に責められ、他の大勢から疑惑の目を向けられ、そんなことを気にもせずスニフに助けを求める。それがどれほど身勝手で、どれほど無意味で、どれほど逆効果か、研前は理解していなかった。身を刺されるような痛みに苛まれるスニフは、ただ黙って研前から目を逸らすことでしか、居たたまれなさに対処することはできなかった。
【議論開始】
「俺様の意見に刃向かっているという現状、閉じていた鍵が夜中に開いたという勲章の証言・・・ここから導き出される結論として、貴様以外の誰に容疑がかかるというのだ!」
「君の意見に反対してるのは私だけじゃないし、反論したから犯人なんて言ったら議論にならないよ。君が言ってるのは自分の意見のゴリ押し、ただのわがままだよ!」
「しかし雷堂の証言を信じるのであれば、夜中に鍵が開いたことの説明が必要ではあるな。茅ヶ崎にピッキングされたのでないなら、“自ら開けた”ということになるが?納得できる相応の理由が必要だ」
「1人で部屋で寝てたっつっても、そんなのほとんどのヤツに言えることだし。“アリバイにはならねえ”よなあ」
「ホント、あんなヤツの意見に賛成するのは癪なんだけど、でも今は研前しか・・・犯人っぽくないっていうか・・・」
「だから・・・それをやめてって言ってるんだよッ!!本当に私は犯人なんかじゃない!!その証拠は・・・ないけど・・・!でもだからって、私が犯人だって“証拠だってない”でしょ!!」
「それは・・・違うの」
「あ、あの・・・研前さんが犯人だっていう証拠かどうかは分からないけど・・・でも、今しかタイミングがないと思うから言うんだけど・・・」
「なんだ、正地」
「その・・・捜査中に研前さんとスニフくんにも教えたんだけど、研前さんの部屋の前の廊下に、ね。あ、赤いシミがあったの・・・」
「・・・ッ!!」
「ほう。興味深いな。赤いシミと言ったが、それは本当に『赤いシミ』だったのか?もっと明確に言え。正確に、的確に表現しろ。それが一体なんなのか!」
どちらかと言えば責めている立場であるはずの正地の顔色は、星砂に促されるほどに青くなり、徐々に視線は落ちて俯き加減になっている。そして正地は、まるで言ってはいけないことを言うかのように、ささやくように言った。
「・・・血、だったわ」
決定的だった。もはやこの議論を覆すことは誰にも不可能に思えた。その場にいたほとんどの人間が、真相に辿り着いた瞬間のエクスタシーを多かれ少なかれ感じていた。全ての出来事が線で繋がり、事件の全容を頭の中で描くことができ、その謎と闇の中に潜んでいた犯人の顔を暴くことができたと、正義感の皮を被った優越感に。
「そう・・・。そうなんだ・・・そういう風になるんだ・・・」
「くくくっ・・・!!くはっ!はっはっはっはっは!!呆気ないな!!たったそれだけのことで、たったその一言で、貴様の薄っぺらい自己弁護は砕け散った!!そして同時に、俺様の完全なる推理が証明されたというわけだ!!」
「・・・で、でも・・・他には?」
「うん?」
高らかに笑う星砂に、たった1人だけ、異を唱える声があった。それはたったいま犯人と断定された研前ではなく、唯一その味方とされていた、スニフだった。
「他のケースは・・・他のケースはないんですか!?こなたさんがマナミさんをさしたっていうのじゃないケースは!?ワタルさんの考えは?他のみなさんの考えは!?どうしてみなさん、ハイドさんとはちがう考えをしないんですか!?」
「それは俺様が全く以て正しいからだ。全ての道がローマに通ずように、正しい思考を重ねていけば自ずと真実に通ず。数学と同じだ。どのような手順を踏もうと求める答えは決して揺るがない」
「それでも・・・!」
「やめてよ、スニフ君」
「ッ!?」
「・・・やめて。君が何を言ってもこの意見は覆らない。言わせておけばいいんだよ」
「言わせておけばって、それじゃこなたさんはマナミさんをころしたって言うんですか!?でもさっきは」
「もうそうするしかないんだよッ!!お願いだから、今は黙ってて!!」
「い、いまは・・・?」
「フン。何を言っているのやら。意味深なことを言って二の足を踏ませるつもりか?下らん。改めて全容を明らかにしてやる。それで貴様が首肯し、投票だ。まあ餞というわけではないが、なかなかに楽しめたぞ。この俺様をここまで熱くさせたのだ。良い冥土の土産ができただろう」
「・・・ッ!!アンタ、そうやって」
「ぅるさいなァッ!!!!」
「ッ!!は、はあ?」
スニフが研前を弁護する。野干玉が星砂の言葉を咎める。しかしそのどちらも、研前の叫びで遮られた。さっきまでとは打って変わって自らへの矛を防ぐ気も、避ける気も、返す気もない。あらゆる非難も指摘も追及も受けるという姿勢だった。決して堂々と受けて立つわけではなく、唯々諾々と無意味に肯定しているような、諦念さえ感じる姿勢だった。
「・・・光栄に思え。俺様が直々に引導を渡してくれる」
【クライマックス推理】
Act.1
事の起こりは事件当夜、夕食の後に馬鹿と半裸とアンテナと子供がともに厨房で片付けをしていたときのことだ。今回の被害者であるところの半裸は、片付けが終わった厨房に1人残った。寝ずの番をする勲章のために夜食を作るとかなんとか上手いことを言ったのだろう。その3人を騙すためならばそのくらいのウソで丁度良いくらいだ。しかしその真の目的は、厨房にあった包丁を持ち出すことだった。そう、半裸はこの事件では本来加害者であるはずだったのだ。
Act.2
寝ずの番をする勲章に見つからないよう、あるいは包丁は隠して堂々と部屋に戻ったのか?どちらにせよ、部屋でピッキングツールを持ち出した半裸は、勲章の隙を見計らってある部屋の鍵を開けた。そう、その部屋の主こそが、今回の事件では本来被害者であった、しかし一転して加害者となることになった、アンテナの部屋だった。
Act.3
鍵を開けた半裸はこっそり部屋に忍び込んだ。その時アンテナが何をしていたかは知らんが、おそらく普通に寝ていたのだろう。そして半裸は手にした包丁で呑気な部屋の主を殺そうとするが・・・物音で気付いたのか、アンテナはその襲撃に気付いた。気付いてしまった。そして反射的に抵抗した。無論、殺されようとしていれば抵抗するのは当然だ。相手が誰であれ、どんな結末になるか考える余裕もなくな。
そしてアンテナは、格闘の末、半裸を刺し殺した。半裸は自ら持ち出した包丁で、自ら選んだ標的に殺されたのだ。哀れなことだな。
Act.4
咄嗟とはいえ人を殺したアンテナは相当動揺しただろう。とにかく死体を移動させるためにモノヴィークルでも使ったのか?半裸を抱えてこっそりホテルを抜け出し、そして廃工場に捨てた。掟により適当な茂みや池などには捨てられないからな。本能的に見つかりにくい場所を選んだのだろう。しかしその際に部屋の鍵は開けっ放しになっていた。故に、それを勲章に目撃されてしまった。
半裸と仲良くしていた自分が犯人なわけがない。普段から子供とべったりだった自分に犯行を計画する余地などない。非力な私には人を刺し殺す力なんてない。どんな言い訳を用意していたかは知らんが、ここにある全ての証拠が!証言が!事実が!貴様が半裸殺しの犯人だと証明している!!
せめてもの情けとして、或いは俺様を楽しませた礼として、そしてその罪の証として、フルネームで呼んでやろう!!研前こなた!!貴様の所業はいま、すべて暴かれたッ!!
「That's wrong!!それはちがいます!!」
その一言が全てを打ち破った。身振り手振りを交えた星砂の推理を。絶大な信用と説得力を持つ雷堂の言葉を。沈黙の内に感じ取れる全員の賛成を。諦めたように全てを受け入れる研前の絶望さえも。そして一瞬の沈黙と、自分への注目を生んだ。その色は驚きよりも、哀れみや猜疑心、苛立ちの方が多かった。しかしその発言の主、スニフ・L・マクドナルドは、想いを寄せる者の助けになるためであっても、根拠なく誰かを否定することはしない。つまり星砂の推理を否定したということは、相応の根拠があるということだ。
「ハイドさん・・・それじゃあ、そのシナリオじゃあ、エクスプレッション、ノットイナフです!」
「・・・撤回の機会を与えてやる」
「ノーサンキューです。だって今のハイドさんのシナリオだと、おかしなところあります」
「おかしなところお?ううん・・・いま聞いた限りじゃあ、おれには真っ当な推理に聞こえたけどお?」
「マイムもー♢スニフくんむちゃくちゃ言っちゃダメだよ♠」
「ムチャでもクチャでもないです。やっぱりおかしいんです。こなたさんはマーダーじゃないですし、マナミさんがだれかをころそうとしてたなんてまちがいなんです」
「理由を教えてくれるか、スニフ。星砂の推理の何が間違いなのか。だとしたら真実は何なのか。分かるところまででいい。焦らなくていい。話してくれ」
「分かりました」
雷堂が促す。自分の証言により研前は犯人だと責められている。そんな状況から脱却することを期待したのだろうか。或いは主張の元を星砂であると強調することで自らの責任感を誤魔化したのだろうか。いずれにせよ、雷堂は星砂に完全に同意しているわけではなかった。あやふやな自信を打ち砕く何かを、ぼんやりとした自信を支える何かを、矛盾するそれらを期待してスニフを促した。そしてスニフは話し始める。
【議論開始】
「ハイドさんのリーズニングだと、マナミさん、こなたさんのルームキー、ピッキングして中入りました」
「そうだったな。ピッキングツールは“使用済みだった”のだからそこは疑いようはないと思うが」
「スリーピングのこなたさんに、マナミさん、レイドしました。それから・・・こなたさんとマナミさんファイトして・・・マナミさんがころされた。そうでしたね」
「部屋に入っただけで何もしない、なんてわきゃないよな。茅ヶ崎が研前の部屋入ったんなら、そのまま“殺そうとする”のが自然な
「そのプルーフ、こなたさんルームの前の、ブラッドのドロップでした」
「え、ええ・・・私が見つけたヤツだわ」
「どこにも矛盾も過ちもない!あそこに血が落ちていたということは、そここそが半裸の“刺された場所”ということになるではないか!」
「それはイコールじゃないです!」
「ブラッドドロップがあるだけじゃ、あそこでマナミさん、さされたことにならないです。というより、マナミさんが刺されたの、他のところだとおもいます」
「な、なんで?床にシミができるくらいの血なんて、そうそう出ないでしょ?」
「だけど、もし人をさしたら、さしたところからブラッド、たくさん出ます。ワンドロップだけじゃないです。こなたさんのゲストルームでさされたら、ブラッド、もっとたくさんあるはずです!」
「・・・言われてみれば、そうだな。切るより刺す方が出血は少ないが、それでも溢れ出るくらいの量があるはずだ」
「ふん、想像力のない意見だ。そんなもの、シーツやタオルなど返り血を防ぐものがあればどうとでも・・・」
「こなたさんはいきなりおそわれて、うっかりマナミさんをさしたんでしょう?シーツやタオルなんてもってくるタイミングないです」
「・・・」
「もしマナミさんがブラッドをガードする何かをプリパレーションしてても、こなたさんがユーズしたなんてないです。いきなりでそんなこと、やっぱりできないです」
「つ、つまり・・・研前さんが犯人だっていうのは間違いって、そう言いたいの?」
「Yes」
ずいぶんと思い切ったことを言うものだ。それは、ここまでの議論を根底から覆す、今までの議論を無に帰す推理だった。しかしそれはもっともらしい根拠に則った、明確な証拠と筋の通った主張だった。故に否定することは容易ではなく、受け入れることは容易だった。
「そ、そうだ・・・。そうじゃんか!うん!血が足りねえよ!血が!これじゃ、研前が犯人だなんて言えねえじゃねえか!」
「返り血・・・ホテルの廊下や個室にそれらしい跡はなかったな。つまり、犯行現場はホテルではないということか?」
「てゆーかこうなるとさあ?マナミがだれかを殺そうとしてたっていうのもなんだか怪しくなってきたよね♠だって襲われた人は返り血を防ぐ準備なんてしてなかったんだもんね☆」
「馬鹿な!!血の痕跡があるのだぞ!!何を疑うことがある!!返り血など・・・か、返り血など・・・!!」
「残念だけど星砂。こうなった以上、お前の推理をそのまま信じるわけにはいかない。だけど参考になった。お前の推理を検証する上で色々分かったこともあるしな」
「さっ!?さん・・・こうだと・・・!?この俺様の推理を・・・!!凡俗如きが!!参考になった、だと・・・!?」
「ありゃあ、自分の推理を否定されたのがずいぶんショックみたいだねえ。大したプライドだよお」
「いやでもまあ、スニフの意見が理解できてるからこそのショックなんだろうな。んで、そうなると研前は取りあえずシロってことでいいのか?」
「簡単にそう断じるわけにもいくまい。あくまで、星砂の推理によって犯人だと言うことはできなくなったということだ。まあ、それでも部屋の前に血があったことは気に懸けておくべきことだが」
「・・・な、なんだかごめんなさい・・・。私が血があったなんて言ったから、研前さんも星砂くんも・・・なんかこんな感じに・・・」
「なんだ正地、落ち込んでんのか?情報出して悪いことなんかあるかよ!なんだったらオレが慰めてやってもいいぜ!」
「え、遠慮しとくわ」
「貴様、学級裁判が終わったら無事では済まないと思えよ」
「しかしこれは参りましたな・・・茅ヶ崎さんが誰かを殺そうと目していたのならば、鍵開けを使って誰かの寝込みを襲ったのだとばかり思っていましたが、それでは辻褄が合わなくなってしまいました。となると、やはり外にいた納見さんか星砂さんを?」
「ま、またおれが疑われるのかい!?」
「いやいや、だとしても納見と星砂が犯人じゃないってのは、さっきまでの議論と同じように否定できんだろ」
「でもそうなるといよいよ誰が犯人なのか分かんなくなるじゃん・・・もうたまちゃん飽きたんだけど。誰でもいいから早いとこ名乗りでなよ」
序盤から星砂がほぼ1人で組み立ててきた推理のほとんどが瓦解し、15人の高校生たちのまとまりかけていた議論は再び形を失って行く先を迷う。責められ続けていた研前と、予想外に推理が破綻した星砂、そして静かに議論の行く末を見守るスニフ以外が口々に捲し立てる。しかしその混沌とした議論の場を沈めるのは、新たな推理であり、新たな犯人候補であった。
「なあ。一つ思ってたんだけどよ。そもそも誰にも邪魔されずに、人目を気にせずに事を
「えー?誰のことー?」
「いや・・・みんな気付いてて敢えてスルーしてんのかと思ってたんだけど。そもそも見張りをしてる本人なら見張りを気にする必要なんかないし、夜中に起きてる尤もな理由もあるだろ?だから、普通に考えて一番怪しいのって雷堂なんじゃないかって思うんだけど」
「・・・あ」
何人かは、今の須磨倉の言葉で何かを思い出したように目を見開いた。そして今の今までその考えを頭の中から消去していたことに何の疑問も抱かなかったことを悔い、恥じた。なんでそんな簡単なことに気付かなかったのかと、膝を打った。
「そ、そ、そうじゃねえかよ!!一番怪しいのって普通雷堂だろ!!なんで研前とか星砂の話なんかしてたんだ!?」
「なっ!?ちょ、ちょっと待て!」
「でも言われてみればそうじゃん。雷堂の言うことは全部正しいって思ってたけど、よく考えたらそれが本当なんて保証ないよね。たまちゃんうっかりしてた」
「待てってば!じょ、冗談だろ!?俺を疑うのかよ!?」
「まあ・・・避けては通れない議論ではある、とは思うぞ」
「寝ずの番という話も、元々は雷堂が提案したものだったな。犯行を行いやすい環境を整えるためと考えれば・・・辻褄は合う」
「そもそも、雷堂が夜中ずっと見張りをしてたというのも、雷堂自身の証言でしかないからな。冷静に考えれば信用する道理がない」
「そんな・・・!俺はずっと番をしてた!本当だ!」
「ふふふ、では追及させてもらうが堪忍しろよ雷堂。ずっと番をしていたというが、それは本当か?本当に本当か?お前は確かホテルのカウンターで番をしていたようだが、本当に一晩中一瞬たりとも目を離さなかったというのか?」
「い、一瞬って・・・そりゃ、ちょっと目を離した時はある・・・実際、茅ヶ崎は殺されてるわけだし、それは弁解の余地はない」
「おいおい、そりゃ無責任だぜ雷堂。オレたちはそんないい加減な話を信じて命懸けなきゃいけねえってのか?」
「自分から寝ずの番をするって言いだして、途中でどっか行くなんて、そんなのアリかよ!」
「根本から問うが、そもそも番をしていたのか。それすらも疑わしくなってくるな」
落ち着いた裁判場に1人疑わしい人物が現れ、肉に飛びつく猛獣のように一気に雷堂へ疑念が集中する。寝ずの番を名乗り出た意味。夜中の行動。そもそも寝ずの番をしていたかどうか。疑える点は多く、答える口は一つ。いずれも完全に無実を証明することはなく、雷堂への疑念は徐々に膨れていく。
「いやあ、少なくとも寝ずの番はしていたんじゃあないかなあ。おれは夜中にホテルに戻って来た時にい、レストランで雷堂氏と会ってるしねえ」
「そ、そうだ!」
「けどお、そのとき確かカウンターには誰もいなかったなあ。おれが茅ヶ崎氏が作ったおにぎりを食べてる最中に雷堂氏が現れたからねえ。どこかに行ってたんだと思ってたんだけどお・・・そういえばなんだったんだろうねえ?」
「それメチャ重要じゃん!なんで最初に言わないんだボサメガネ!!」
「ボサメガネって。たまちゃん、もうキャラ守る気ないのかしら」
「ううん、ごめんよお」
「いま重要なのはそこではないだろう。なあ、雷堂?なぜお前は寝ずの番を名乗り出ておきながら、納見が帰ってきたその時にカウンターを離れていたのだ?ちょうど、犯行が起きたであろう時間帯に」
「そ、そのときは・・・トイレに行ってた。ホテルのロビーにあるところの」
「トイレか。ならしょうがねえな!」
「いや馬鹿か!簡単に信じすぎだろ!」
「馬鹿って言うな!」
「でも・・・ワタルさん、トイレ行ってたの、リアリーですか?」
「な、なんだよスニフ・・・本当だよ。あっ、で、でも詰まらせたの俺じゃないからな!そんな雑な使い方してないぞ!」
「誰もそんなことは言ってないぞ雷堂。落ち着け」
「スニフくんはなんでワタルのこと疑うのかなー?」
「うたがうというか・・・たしかナイトウォッチするって言ったとき、だれかがトイレのこと言ってたんです。でもワタルさん、なれてるから平気って。それって、トイレ行かなくてもオッケーってことだったんじゃないですか?」
「うっ・・・!?そ、それは・・・!!」
「そんなこと言ってたっけ?よく覚えてるねそんなの」
「いや、オレも覚えてんぞ!この耳ではっきり聞いた!おい雷堂!お前ありゃウソだったのか!?それとも寝ずの番自体がウソだったのか!?どっちなんだ!」
「どっちもウソじゃないって!そりゃ結果的には予定と違って・・・ウソみたいになったのはあるけど・・・」
「雷堂。もしお前が犯人でないならの話なのだが」
疑われたことがよほどショックなのか。それとも自己弁護に焦っているのか。やけに言葉がたどたどしい雷堂に、スニフが追撃をかけ、それを城之内が援護する。確かに雷堂は、トイレは慣れているから大丈夫だと言った。直接明言してこそいないが、それは一晩トイレに行かないくらいは問題ないことを意味していることは、スニフにも理解できた。そんな追及にモゴモゴ答える雷堂に、極が言う。
「裁判の後で私の拳骨を食らいたくなければ、その歯切れの悪さを今すぐなんとかしろ。お前がその調子では進む議論も進まないし、何より私がいらいらする」
「おい雷堂!あいつの暴力はシャレにならねえぞ!吐いて楽になっちまえって!」
「あははっ☆ダイスケ説得力あるぅ♡」
「まあ、雷堂の歯切れの悪さはオレもイラついてたところだ。男だったらシャキッとしろよ!へなへなしてっと温水に浸けっぞ!」
「そんなキャベツみたいなシャキッとさせ方」
「・・・い、いや。その・・・ト、トイレの心配がないって言ったのにウソはなかった。けど、いざ番をするって時になって、準備ができなかったんだ。その・・・予定と違って」
「その予定って何のこと?」
「・・・」
「どうして何も言わないの、雷堂君?君はずっとそうだよね。私を責める時も、みんなに責められてる時も、そうやって黙ってる。誰かに察してもらおうと、無言で強要してる。そんなの、ズルいよ。茅ヶ崎さんは、そんなズルい君のことを想ってたわけじゃない。ねえ。いつもみたいに堂々としててよ!」
長らく黙っていた研前が、痺れを切らしたように雷堂を責める。コロシアイが始まった日から全員のリーダーを買って出たような言動を繰り返していた雷堂が、学級裁判の場にきてメッキが剥がれたように弱々しくなる。誰にも答えず。誰も責めず。誰をも疑わず。雷堂のそんな姿勢は、卑怯に見えて仕方がなかった。
しかしそんなことは、雷堂自身にも分かっていた。自分の行いが卑劣で愚劣で下劣なことくらい、十分過ぎるほど自覚していた。それでもなお腹の底にある言葉は音を伴わずにカラカラと喉を鳴らすだけだった。
「どうして何も言わないんですか、ワタルさん。予定ってなんですか?」
問うたスニフに答える声はない。しかし現状から、推理することはできた。雷堂がなぜ口ごもっているのか。雷堂が予定違いに準備できなかったものが何か。
【連想ディフィニション】
・雷堂は寝ずの番をしている間、いかなる理由でも“持ち場を離れるつもりはなかった”。
・しかし予定違いにより、“席を立つことを余儀なく”された。
・裁判前は堂々としていた雷堂も、この話題になると“口ごもって言いにくそう”にしている。
・納見がホテルに帰ってきたとき、雷堂はちょうど“トイレ”から戻って来たところだった。
これらから連想される、『雷堂が準備できなかったもの』とは?
「もしかして・・・“diaper”、ですか?」
「は?・・・・・・・・・はあッ!!?」
「ディ、ディアパー?スニフくん、それなんのこと?」
「訳せ城之内」
「え、あ、いや・・・おむつ、だと」
「ん?」
「え?」
「いやそういうリアクションになるよな!?オレだってそうだよ!スニフに言えスニフに!」
「おむつ・・・なるほど。確かにそうだな。寝ずの番をしてトイレに立たないためには、その場で用を足すしかない。だとすれば尿瓶か簡易トイレかが必要だが・・・用意の手間を考えたらおむつは手軽か」
「し、しかしそんなものどうやって・・・」
「おむつならショッピングセンターにあったよお。星砂氏にダンボールを運ばされたなあ。スニフ氏と研前氏も知ってるだろお?」
「はいはーい♡マイムとエルリも知ってるよ☆」
目の前に積み上げられた情報から導き出される最適解は、これしかなかった。モノクマも言っていたはずだ。あのショッピングセンターにあるものは全て、誰かにとって必要なものだ。つまりおむつを必要としていたのは、“超高校級のパイロット”である雷堂だということになる。
「本当・・・なのか?およそ信じられんが・・・」
「だ、だよなあ?子供や老人ならまだしも、病気や特殊な状況ならまだしも、健全な男子高校生がおむつって」
「あははー♡ワタルへんなのー♡」
「ど、どうなの雷堂くん?その、おむつを持って行こうとしてたっていうのは・・・本当なの?」
「・・・」
苦汁を飲み、辛酸を舐め、泥水を啜り、その上で苦虫を咀嚼したような顔をしながら、ゆっくりと雷堂は首肯した。
「マーーー」
「な、なんだよその目は!!」
マジかよ、という誰かの言葉を遮るように、雷堂は叫んだ。悲痛の脂汗と涙を浮かべながら、止まらない裁判場で訴える。
「あのな!おむつおむつって言うけど、おむつは赤ん坊や老人だけのものじゃないからな!大国の軍用機パイロットとか長距離航行線のパイロットになるにはきちんと使い熟せるようになる必要だってある、立派な装備の一環なんだぞ!お前たちが想像するようなヘンな感じじゃ断じてないんだ!分かったか!」
「立派な装備の一環ならそこまで必死に訴えなくてもよかろう。お前自身、ちょっとヘンだと思ってる証拠だ」
「うぐっ」
「え・・・っていうかじゃあもしかして雷堂。アンタおむつ履いて一晩過ごすつもりだったの?」
「皆まで言うな、たまちゃん。あくまで雷堂は我々のために必要だったからそうするつもりだったのだ。我々のために、誰も見ていない中たった一人で、誰にも言わず、だがしっかりとそのスーツの下で柔らかなおむつ生地の温かみを感じて一人夜を更かすつもりだったのだ」
「言い方おかしくありませんかね!?」
「けどじゃあ、なんでおむつ履かなかったんだ?ショッピングセンターにあるなら、それ持ってけばいいだろ」
「・・・サイズの合うヤツがなかったんだよ。一個も」
「え?でもショッピングセンターは必要とするものは全部揃ってるんだよね?雷堂君が必要だと思ってたなら、あったはずじゃないの?」
「それが・・・品切れだったんだ」
「品切れェ?」
研前の疑問に対する雷堂の答えは、通常ならば仕方ないと諦める理由に十分足る。だが、この閉塞空間でとなると話は別だ。なぜなら、茅ヶ崎を含めた16人の中でおむつを、況してや雷堂と同じサイズのものだけを必要とする者など、いるはずがなかったからだ。
「ウソにしては大胆過ぎるな」
「ウソじゃないって!」
「いやあ、品切れってのは本当だと思うよお。おむつショップの一角からごっそりおむつがなくなってたからねえ。雷堂氏が使ったんじゃないならなんなんだろうねえ?」
獲得コトダマ
【消えたおむつ)
ショッピングセンターのおむつショップの一角から丸ごとおむつがなくなっていた。成人男性用サイズであり、品揃えの中では一番大きなもの。大量の水で溶ける素材で出来ており、使用後はトイレに流せる。
「じゃあまとめると・・・雷堂くんは、おむつを履いて寝ずの番をしようと思ったけど、肝心のおむつは品切れ。仕方なくそのまま番をして、夜中に1回トイレに行ったってこと?」
「あーいや、2,3回は行った。寿司が美味かったから食べ過ぎてさ」
「美味かったのか!じゃあしょうがねえな!」
「しょうがないことがあるか。それでは夜中に番をしている意味がない。隙を突いて他人の部屋に侵入するくらいのことはできそうなものだ」
「面目ない・・・夕飯の前に装備を用意しておけば・・・!」
「いよーっ!後悔などしても仕方ありませんよ!とにかくこれで雷堂さんの無実が・・・いよ?暴かれておりませんね。納見さんや星砂さんと違って、雷堂さんの無実を証明する証拠が一切ありません」
「あくまでさっきの議論では雷堂の話を信じた上での話だ。それが揺らいだ今、その二人も、ひいては研前の疑惑も晴れたとは言い切れない」
「え・・・そ、それってさ。一言で言ったら“ふりだしに戻った”ってことか?」
「ノリ出汁をもどした?」
「ふりだしに戻った。えーっと、英語だと・・・城之内君」
「取りあえずでオレにふるの止めろ!Back to square oneだよ!」
「Jesus・・・」
複数人へのささやかな疑念。星砂の思考停止。雷堂の信頼の失墜。色々なことを経てきたが、結局議論はここでリセットされた。全員が等しく疑わしい、学級裁判が始まった段階と全く同じ状況へと。ここまでの話の全てが無駄になり、思考の全てが無意味になり、残されたのは疲労感と焦燥感だけだった。それだけだったと思っていた。
「それは、違うよ」
ぽつり、と裁判場に一つの言葉が落とされた。
「ふりだしなんかじゃない。みんながここで議論してきたから分かったことだよ。最初と同じ状況なんかじゃない。少なくとも一人だけ・・・茅ヶ崎さんの疑いだけは、晴れた」
力強く光を宿した眼で、研前は遺影となった茅ヶ崎を見る。無限にも思える可能性の中で、一人の疑いが晴れることは大きな意味があった。自分の部屋の前に落ちていた血から導き出された、一つの結論。しかしその結論が教えてくれることは一つではなかった。
茅ヶ崎真波は誰かを殺そうとしてはいなかった。つまり、誰かに殺されたのだ。理不尽にも、命を奪われたのだ。誰かを傷付けようとも、騙そうとも、陥れようとも、殺そうともしていなかったにもかかわらず、悪意を持って殺されたのだ。
「そうだな、その点だけは今後の議論の前提として共有しておくべきだろう」
「もともと星砂が言いだしたことだし、たまちゃんは最初っから半信半疑だったけどね」
「それでも半分は信じてたんだ」
「まあそれはそれとして、次は何について話す?っていうか、どこまで分かった?」
「・・・ふぅ。議題がないのなら、私から一つ提供しても構わんか?」
途中から星砂の独壇場になっていた裁判場で、その推理が見事に破綻。続け様に雷堂が疑われたという展開に、誰もが議論の途中経過など気にしていなかった。次に何を話し合えばいいのか、というところで、細く白い手が挙がった。ゆらりと幽玄な雰囲気を醸し出してメガネを直しながら、荒川が発言する。
「二、三の疑問点がある。これらについて話し合いたいのだが」
そして裁判場は再び回りだす。この荒川の発議が、真相を切り開く第一の扉であるとは、荒川自身とて知る由もなく。
ハーメルンではじめて色々フォントやルビに挑戦してみました。
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