ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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学級裁判編3

 

 やっほーっ!やっほーっ!モノクマだよ!あのね、ボクは今とっても気分が悪いの。なぜなら、前回ボクの出番が全くと言っていいほどなかったから!セリフの一つも、地の文で一言も触れられないってあるか!?それもこれもあいつらが不毛な議論ばっかりしてるからだ!やれあいつが犯人だこいつが犯人だ・・・いつになったら真犯人に辿り着くんだよ!15回繰り返すのか!総当たりか!

 と思ったけど、どうやら今回で決着が付きそうなんだよね。さすがに今までやったことがないほど長い話になっちゃって、反省してるらしいよ。誰がとは言わないけど。もっとこう、言葉を凝縮すればいいんだよ。より短く、より意味を詰め込んで言葉を選べばいいのに、やたらと似たような言葉を羅列して小洒落た雰囲気出してるからこんなことになるんだよね。フルーツジュースを見習えってなもんだよねホント。

 だから今回で決着を付けるにあたって、まずは現状の整理、ここまでの総括をしておかないとだよね!ぶっちゃけめんどうくさいから次からはやらないなんて言わないよ絶対!

 

 星砂クンに向いた疑惑は、彼の畳みかけるような言葉の波でもみ消され、逆に雷堂クンの証言を利用して研前サンへの疑惑へと変わり果てました!色んな証拠や証言が出て来てもはや犯人は研前サンで決定かと思ったその時、なんと研前サンを疑う根拠だった証拠の一つが、逆に研前犯人説を否定する根拠になったのです!いやー、人間バンジー祭追うが馬、あ間違えた、人間万事塞翁が馬ってよく言ったものだよね。意味は知らないけど。

 さて、研前サンの疑いはスニフクンの活躍もあり見事晴れたわけですが、次に疑惑の標的となったのは、何を隠そう、みんなのリーダー雷堂クンその人だったのです!彼なら見張りを気にせず犯行を進められるということに気が付いたんだね。ってかその話遅ッ!むしろ最初にしてもいいくらいだったのにね!ここにきて今までのリーダーシップがウソのように戸惑って焦る雷堂クン。いざというときに使えないヤツほどイラつくものはないよね。でもそんな雷堂クンの口から苛立つどころではない言葉が出て来たのです!

 

 ーーーおむつは立派な装備の一環なんだ!ーーー

 

 彼はそっちの人間だったんだねー。え?抜き出し方に悪意がある?そりゃ悪意を持って抜き出したんだから当然だよ。何を言っているの?

 

 そんなこんなでなぜかおむつで疑いを晴らそうとトチ狂ったことをぬかす雷堂クンですが、彼がこんな調子だから今までの議論で分かったことはただ一つ。今回の被害者、茅ヶ崎真波サンは、完全なる被害者だったということ。だけど彼女が加害者か被害者かは、あいつらが思ってる以上に大きな意味を持つのかも知れないね。うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷぷ!

 

 前回よりまとめるの上手くなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学級裁判場の視線は今、一人の生徒の次の一言を待ち焦がれて、その口元に集まっていた。視線を一手に引き受ける荒川絵留莉は自分以外の28の瞳に臆することもなく、純粋な疑問をそのまま口にする。

 

 「本当に些細な疑問なのだが、もし何か深い意味があるのなら教えて欲しい。いや、きく相手が違うな。何か深い意味があるのなら・・・なぜ敢えてそれを伏せるのだ?モノクマ」

 「・・・ほにゃ?」

 「モノクマ?」

 

 唐突に名前を呼ばれたゲームマスターは、とぼけた口調で返す。しかし全員の視線が今度は自分に移ったことに気付き、そしてまた荒川の質問の内容と意図を理解した上で、笑った。

 

 「なんのことだか分かんないなあ?ボク何か言ったかしらん?」

 「モノクマファイルの記述の中で明らかにおかしな点がある。これはお前が書いたのだ。何も意図がないわけがあるまい」

 「勿体ぶらずに言えよ荒川!なんのことだよ!」

 「モノクマファイルの『被害者は“超高校級のサーファー”、茅ヶ崎真波。死体発見場所はファクトリーエリアの廃工場。』という記述だ。なぜここでは『殺害現場』ではなく『死体発見場所』となっている?死体発見場所など、誰も現場を荒らさなければ自明のことだ。わざわざモノクマファイルに書くまでもないことではないのか?」

 「・・・そう言われればそうだけど・・・別におかしいことでもないんじゃない?」

 「単純に殺害現場と死体発見現場が同じだったから、省略しただけなんじゃないの?」

 「いや、廃工場の血の量は明らかに足りていなかった。あそこで殺されたのならもっと大量に血が散っていたり、茅ヶ崎の下に血溜まりができているはずだ。何より夜中にあんな場所に行く理由が見つからない」

 「極のその見知ったような知識はどこから得たんだ・・・」

 「さあな」

 「んも〜、みんな邪推しちゃうんだから!あのね、モノクマファイルはあくまでシロを補助するためのものであって、それでクロが不利になっちゃうようなことはないの!あくまでシロとクロを同じ土俵にあげるためのものなの!だから記述には深い意味も浅い意味もないの!ただ事実を書いてるだけなの!」

 

 ぷんすこと擬音を撒き散らしながら、モノクマはモノクマファイルの意義と荒川の疑問へ遠回しに回答した。書いてあることはそれ以上でもそれ以下でもない事実。だが事実のみを記述し、シロとクロを同じステージにあげるためのものである、という説明からも、それ以上の意味は汲み取れた。そして、裁判場はまた動き出す。

 

 

 【議論開始】

 

 「殺害現場と死体発見現場、この二つの書き分けには何か意味があるのではないか?」

 「考え過ぎだと思うけど・・・でも、死体発見現場なんて“分かり切ったこと”、わざわざ書く必要がないよね」

 「モノクマファイルの記述にウソはない、ウソは書けない。つまり殺害現場とは書けなかったとしたらどうだ?」

 「ん?なんだそりゃ?」

 「死体発見現場である廃工場は、殺害現場ではないということだ」

 「えー?でもあそこ、血がブシャーッ!ってなってたよ♠」

 「刺殺された状況にしては血の散り方が少ない。死体の下に“血溜まりもできていなかった”。刺されたのは他の場所だと言える」

 「なんで極がそこまで詳しいのかは聞かない方がいいのか?」

 「けどよ、廃工場が殺害現場じゃなくてただの死体発見現場なんだとしたら、本当の殺害現場はどこなんだよ?他に殺しがあった痕跡なんて“どこにもない”じゃんか」

 「それはちがうよッ・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 些細な疑問から始まる議論は、潜んだ矛盾を指摘して速度を落とす。死体発見現場である廃工場とは違う場所にある殺害の痕跡に、研前は声をあげた。声をあげずにはいられなかった。自分を追い詰め、そこから救い出したこの証拠が、再び話題に上るのだ。自分の手で示さずにはいられなかった。

 

 「もう忘れたの?廃工場以外に、血の痕が残ってた場所・・・あるでしょ?」

 「・・・けどそれは、結局茅ヶ崎を刺した時の血じゃないって話になったんじゃなかったっけか?」

 「No。マナミさんがおそったなら、ブラッド少ないです。でもマナミさんあそこでさされたなら、クリミナル、ちゃんとプリペアしておそったはずです。ブラッド少なくてもフシギじゃないです」

 「ああそっか。茅ヶ崎が包丁持ち出したんじゃないなら、茅ヶ崎を殺したヤツが最初からそういうつもりで動いてたってことになるのか。だったら返り血を防ぐ装備はあったかもな」

 「ちょ、ちょっと待て!なんで厨房にいた茅ヶ崎が、そんなところで殺されてんだ?そもそも茅ヶ崎の部屋は研前の部屋より厨房に近いところにあっただろ!」

 「部屋の位置が問題じゃなかったから、ではないのか?犯人は少なくとも雷堂の目を盗んで行動したはずだ。周囲を警戒していたにもかかわらず、正面から茅ヶ崎を刺した」

 「待ちなさいよ、アンタなんで正面からなんて分かるの?」

 「包丁が刺さっていたのは茅ヶ崎の左脇腹だった。右手で包丁を持って刺そうとすれば正面からしかない。この中では納見以外は右利きだから・・・という推理だ」

 「うん、いいと思うよ」

 「え?でも、犯人は雷堂くんの見張りをかいくぐって行動してたのよね?誰にも見つからないように。なのに茅ヶ崎さんには正面から襲いかかったの?なんだか・・・矛盾を感じるんだけど」

 「フンッ!!凡俗が!!これだけ情報が揃っていれば容易に推測できそうなものを!!」

 「うおっ!?めんどくせえのが急に復活しやがった!!」

 

 本当の殺人現場のあたりはすぐについた。血の痕が残っていた研前の部屋の前、そこで昨夜何かが起きたことは間違いない。厨房にいた茅ヶ崎が廃工場に移動する理由などなく、犯行はホテル内で行われたことまではその場にいた全員に察しがついた。しかしその先。ではなぜ茅ヶ崎が狙われたのか。なぜ研前の部屋で殺されたのか。それに対する答えを見つけられる者は僅かしかいなかった。その気配を察知したのか、盛大に推理を外して黙っていた星砂が再び大声をあげた。

 

 「ぎっちょうが厨房に来た時には既に半裸はいなかったのだろう?おにぎりや何やらを作り終えた後には、当然部屋に戻ろうとする。勲章は半裸を目撃していない。つまり半裸が部屋に戻ったのは、勲章の目が離れている隙ということになる」

 「見張りのいない間に・・・?っ!じゃ、じゃあまさか茅ヶ崎は・・・!?」

 「ほう、馬鹿でもそれくらいの推理はできるか。その通りだ」

 「馬鹿ってーーー」

 「ヤツは遭遇したのだ。今まさに誰かを殺そうとしている、真犯人とな」

 「・・・!」

 「真犯人って、お前の推理が全然的外れだっただけじゃーーー」

 「半裸が敢えて勲章の目を盗んだのか、たまたますれ違ったのか。それは分からんが、勲章の証言がない以上は犯人が行動できた時間帯と半裸が部屋に戻った時間帯が一致すると考えられる」

 「・・・ボクも、同じことおもいました。それから・・・クリミナル、もともところそうとしてた人も」

 

 そう。茅ヶ崎は犯人と遭遇し、そして殺されたのだった。正面から。状況を理解する間もなく。咄嗟に。唐突に。突然に。そしてそれを示す証拠から推測できる、犯人の本当の狙い。本来この学級裁判の場に立っていないはずだった人物も分かった。

 それを明らかにして何になる?一人確実に犯人じゃない人物が分かる。なぜそんなことをする必要がある?少なくとも間違った選択肢を減らせる。信じていなかったのか?そんな自問自答を繰り返しながら、スニフはその人物を見た。

 

 【人物指名】

 

 

 

 

 

 

 

 「こなたさん・・・あなたです」

 「・・・」

 「こなたさんのゲストルームの前にあったブラッドドロップ、あれが、マナミさんさされたポイントです」

 「返り血の準備を入念に行っていた犯人だっただろうが、ほんの一滴は防げなかったようだな。カーペットに染みてしまえば一晩では消せん」

 「ラストナイト、ルームキーがいつの間にかアンロックされてたの、クリミナルがこっそりあけたんだと思います」

 「半裸の部屋のピッキングツールが使用されていたが、全員に同じものが支給されているならば交換してしまえばいいだけの話だ」

 

 スニフと星砂が交互に状況の証明をする。夜中に研前の部屋の前で起きた一部始終と、現在の状況に繋がる不審点の説明を。血の痕も鍵の解錠も、それだけで説明がつく。もともと狙われていたのは研前だった、ただそれだけで研前の容疑は晴れた。

 

 「た、確かにピッキングツールはみんな同じだったっぽいし辻褄は合うけど・・・けどそれでもまだ分かんねえぞ。返り血を防いだにしろ何にしろ、出血そのものは止められないんだろ?だったらシーツなりタオルなり、血を受けた何かはどこに処分(はこ)んだんだよ?」

 「そ、そうですよ!捜査時間にそんなものを見つけたという話はいよも聞いておりません!どなたかこの中に目撃者の方はいらっしゃいませんか!」

 「見つかるはずないです。だって、それはモノクマがかくしましたから」

 「ド、ドッキーーーン!!」

 「モノクマが?どういうことだ。貴様はシロとクロに公平な立場ではなかったのか?」

 「な、なななな、なにをにを言うのかなかなスニフフクンってばもーーーう!やめてよねってばよ!」

 「動揺が隠し切れてないっつーの!アンタどういうこと!」

 「隠したって・・・でもなんでスニフくんはそれを知ってるの?」

 「モーニング、エントランスのトイレ入れなくなってました。みなさん、ウェルノウンですね?」

 「確か詰まって使えなくなってたんだったな」

 「ああ知ってんぞ。朝っぱらから何やってんだと思ったんだ」

 「トイレつまったのはクリミナルがすてたからです。ブラッドをすったエビデンスを」

 「証拠品をトイレにボンッ!?いやそんなん詰まるに決まってんだろ!犯人なに考えてんだよ!?」

 「いえ、クリミナル、つまることアクシデントだったと思います。トイレにボンしてパーフェクトリーになくせると思ったんです」

 「そうなのお?なんだか分かんないけど、ヘンなもの流したらトイレ詰まっちゃうってマイムでも分かるよ♣」

 「クリミナル、ブラッドうけるために使ったものがトイレにボンできるものだったからです。だから」

 

 犯人が返り血を受けるために使ったものは?

 A.【ピッキングツール)

 B.【消えたおむつ)

 C.【キッチンの包丁)

 D.【ナビ履歴機能)

 

 

 

 

 

 

 

 「トイレにすてられるおむつ、それでブラッドうけたんです」

 「またおむつ!?ってかおむつで血を吸うってなんだよ!?使い方違うだろ!そういうのはーーー」

 「城之内」

 

 その後に続く言葉を極が名前を呼ぶだけで制止した。そして全員の中で点と点が線になる。ショッピングセンターから消えたおむつ、そのせいで雷堂は見張りの途中でトイレに行かざるを得なくなり、結果的に犯人と茅ヶ崎が遭遇するきっかけを与えてしまい、そして犯人はそのおむつで自身へかかる血を防いだ。しかしそれをトイレに捨てて詰まってしまった。

 

 「あれはトイレに流せるタイプじゃなかったのかい?どうして詰まるのさあ」

 「きっとたくさんいっぺんにながしたんだと思います。コーナーぜんぶの使ったので」

 「まあ、普通どんだけ血が出るかなんて分かんないもんな・・・」

 「一番大きいサイズでトイレに流せるタイプ。血を防ぐのと証拠隠滅の両方でうってつけの製品というわけだ」

 「じゃあさじゃあさ!詰まったのがどっちのトイレなのかモノクマに教えてもらおうよ♡そしたら犯人候補が半分になって話しやすいよ♡マイムあったまいいー☆」

 「ダメダメ!そんなデリカシーのない質問には答えるわけにいかないよ!おもしろくないし!」

 「最後のが本音だろテメエ」

 「そうして犯人は半裸を殺した後に廃工場に移動し、再び勲章の隙を突いて部屋に戻り、何事もなかったかのように朝を迎えた。というわけだ」

 「ワタルさんとヤスイチさんがレストランで会ったのがマナミさんさされたあとですから、きっとその時にーーー」

 「反論、させてもらうぞ!」

 

 

 【反論ショーダウン】

 

 「スニフ、お前の言いたいことは分かる。それなら確かに血をほとんど残さずに、俺の見張りさえ凌げば茅ヶ崎を殺せたかも知れない」

 「けど大事なことを忘れてるぞ!」

 「俺はずっとトイレにいたわけじゃない!茅ヶ崎が殺された後の時間帯も見張りはしてたし、鍵のチェックだってした!」

 

 「ボクのロジックにミスはありません」

 「それにワタルさんのルームキーのチェックは、わるいですけど、インパーフェクトです」

 

 「だってそれじゃ辻褄が合わないんだよ。夜中に鍵が開いてたのは、さっきも言った納見と星砂と茅ヶ崎と研前の部屋だけだ」

 「それ以外の部屋は全部、ちゃんと“鍵がかかってた”のを確認したんだ!」

 

 「その言葉、キリます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「ワタルさん、ルームキーがロックされてたのチェックしたって、ホントですか?きちんとロックされてること、ホントにチェックしたんですか?」

 「・・・ど、どういうことだよ?」

 「ルームキー、とってもシンプルなタイプでした。スライドロックするだけです。ちょっとトリックすれば、ウソつくことできます」

 「ウソ?」

 「雷堂。お前はどうやって鍵がかかっていることを確認したのだ?」

 「部屋の鍵は外側の小窓から、鍵がかかってるかどうか分かるんだよ。開いてたら青、閉じてたら赤が小窓から見えるんだ。それを見てた。わざわざ開けたりノックしたりして起こすこともないだろ」

 「でも、キーのカラーがレッドでも、アンロックかもしれないです。だって、カラーをかえればルックスじゃ分からないです」

 「い、色を変えるって、どうやって?」

 「ショッピングセンターにペンキありました。それでペイントすれば、アンロックしててもルックスだとロックだってまちがえます」

 「もうあそこ閉鎖しろよ!おむつとかペンキとかショッピングセンターで調達してなきゃこんなことになってなかっただろ!」

 「ってことは、犯人は事前にショッピングセンターでおむつとペンキを調達して、部屋の鍵に赤いペンキを塗って鍵がかかってるって偽装したのか?いつの間にそこまで準備してたんだよ?」

 「動機が発表されてからほぼ1日あったのだ。時間などいくらでも使えた」

 「ショッピングセンター自体は出入り自由だよね。部屋の鍵に細工をしたってことは、逆に納見と星砂と研前は犯人じゃないって言えるけど・・・でも、それって、結局犯人絞れてなくない?」

 「うっ・・・そ、それは・・・」

 「なぁんだよ!大層なこと言っといて議論自体は何にも進展してねえじゃねえか!マジでこんなんじゃいつまで経っても終わらねえぞ!」

 

 証拠品から、新たな事実が判明する。そして多少、今まで分からなかったことが分かるようになる。事件の全体像も大凡だが見えてきた。だがまだ、犯人が誰なのか、重要な一点だけが分からない。どれだけ事件の全容を暴こうが、犯人を間違えてしまえば全て無意味だ。全員が焦りを感じ始め、必死に頭の中の手掛かりをさらう。しかし分からない。犯人に繋がる手掛かりなど、ないかと思えた。

 そして正地が、縋るように口にした。

 

 「ね、ねえ?荒川さん」

 「なんだ?」

 「もしかして、今のでさっき言ってた疑問は全部解消されたのかしら?」

 「ふん?」

 「聞き間違いだったらごめんなさい。でも、荒川さん、さっき疑問が2つ3つあるって言ってたと思うんだけど。もしかしたら今の議論で全部解決しちゃったのかなって。そうじゃないなら、また疑問を教えてほしいと思うの。このままじゃ何もできないから・・・」

 「ふむ。そう言えばそうだったな。実は今の議論で付随する疑問のほとんどは解決した・・・というより一応の決着を見たのだが、まだ1つだけ残っている疑問がある。せっかくだから言わせてもらおうか」

 

 勿体ぶった荒川が指を立てる。先ほどの疑問は一応納得できる回答を得ることができたとさておいて、残された疑問を自分を含めた全員に発議する。

 

 「茅ヶ崎の腹部に刺さっていた包丁で不自然な点があったのだ。普通、刃先から伝う液体は重力に従い、刃をなぞって、あるいは面を流れて、あごの部分から滴るはずだ」

 「あご〜?包丁のあごってどこ?マイムわかんない♠」

 「刃の最も手元側の、角張った部分だ」

 「だが、茅ヶ崎を刺し殺した包丁は、血が峰を伝って柄に達していたのだ。普通に刺しただけではこの流れ方はあり得ない。この不可解な状況への説明を誰かできないだろうか?」

 

 努めて的確に伝えようとする余り、回りくどくて小難しい言い回しになってしまった荒川だが、その言葉はスニフを除く全員が理解した。イメージも容易だ。要するに、血が下に流れず真横に流れたということになる。そんな超常現象があってたまるかと、頭を回転させる。

 

 「大量に血が出たんじゃないの?下に流れるより先に柄まで噴き出したとか?」

 「刺しただけなら血は噴き出はしない。それに犯人は返り血を防ぐためにおむつを使ったのだ。おそらく、手首から先に巻いて溢れた血をそのまま吸えるようにしたのだろう」

 「手首から先って、なんでそんなことが分かるんだ鉄?」

 「柄にも刃にも手から血が付着した痕跡がないだろう。指紋や滲みのないなら、少なくとも血は肌に接していない」

 「Great logic!!さすが“Ultimate Smith”です!」

 「SmithじゃなくてJewelryDesignerだけどな」

 「だったらなんで柄まで血が伝ってるんだ?血が真横に(はこ)ばれるなんてあり得ないだろ」

 「そーだよ!血も涙も汗もおよだも、みんな下に流れるんだよー☆」

 

 鉄の刃物の知識、荒川の物理計算、そして全員に共通する一般常識が、血が柄を伝うことなどあり得ないという答えを告げる。それは当然の結論であるのだが、それでも現実では血が柄を伝っているのだ。

 そんな非現実的な現実への解は、得てしてあっさりと説明されるものだ。単純明快、故に想定しない。それを可能にする方法が。それが可能となる状況が。それが常識になる出来事が。当たり前のようにそうなる事実が、導き出される。

 

 「じゃあ、柄を真下にすればいいだろ」

 「ん?」

 「いや、お前らが何を悩んでんのか分かんねえんだけど・・・血は下に流れるもんで、柄の方に流れてんだろ?だったら血が流れた時に柄が真下になってたってだけなんじゃねえのか?」

 「あのな下越、よく考えてみろよ。茅ヶ崎は真横から腹を刺されてんだぞ?そんで包丁はそのままずっと刺さってたんだぞ?それが真下になるって、茅ヶ崎が倒れでもしねえとそんなことにはならねえだろ」

 「じゃあ倒れたんだな」

 「倒れたりしたらあ、事件現場のホテルのカーペットに付いた血は一滴どころじゃなくなるねえ。いくらおむつで血を受けてるって言ってもねえ」

 「・・・だけど・・・ナイフを下にしたのかもしれないです」

 「ええ・・・ど、どうやって?」

 「スニフ君、何かひらめいたの?」

 「ちょっと、考えてみました」

 

 至極単純な下越の推理に城之内が呆れて返す。腹に刺さったナイフが下になる姿勢など、況してやそれが誰にも知られてはならない殺人の直後となると、起こりうるのだろうか。そもそも、殺人直後にそんなことをして犯人に一体なんの目的があったのだろうか。与えられた情報を元に、スニフが推理する。

 

 「ブラッドがグリップまでながれてるの、ナイフが下向きになったからだとおもいます。それも、マナミさんがさされてからすぐです。おむつでブラッドをすって、ほっといたらブラッドすぐかたまっちゃいます」

 「ふむ・・・そうだな」

 「だけどさされたマナミさん、そこにライイングしたんじゃないとおもいます。ホテルのカーペットにブラッドおちてたの、こなたさんルームの前だけです。それにワタルさんのガードもありました。すぐにそこからいなくならなきゃいけないです。だから、さしたあと、いそいでクローズドファクトリーにマナミさんうつしたはずです」

 「まあ、そりゃそうか」

 「ブラッドがグリップまでながれたの、さされてすぐ、マナミさんがホテルからクローズドファクトリーにうつってるときのはずです。だから、うつされてるマナミさん、フェイスダウンポーズだったはずです」

 「う、うつ伏せでか?そんなことあるか?」

 「理に適ってはいる・・・のか?確かに柄まで伝っているということなら、血が固まる前にうつ伏せ姿勢になっていたはずだな。しかし、普通人を移動させるときにうつ伏せになどするか?」

 「普通だったらこう、お姫様だっこにするわよね」

 「俺様に同意を求めるな。人を担ぐなど凡俗の労働だ。どう担ぐかなど知るか」

 「さっき私を犯人扱いした推理のときに、お姫様だっこのジェスチャーしてたよ星砂君」

 「さり気なく忘れかけてた傷を抉るとかエグいなお前!いや星砂はいい気味だけど!」

 「おんぶすればお腹の包丁は下になるんじゃないのー♠」

 「刺さった位置的に、おんぶなんかしたら更に刺さっていく。何より犯人の背中にも血が付着しているはずだ。だが今ここにそんなヤツはいない」

 「じゃあどうやって担いだんだ?犯人だってゆっくりしてるわけじゃないだろ。ヘンな担ぎ方してもたもたしてられないのに」

 

 ただ人を担ぐだけなら、方法はいくつか考えつく。だがそれが相手をうつ伏せにするとなると非常に手段は限られる。しかも腹という重心に近い部位に極力触れないような担ぎ方ともなると、もはやその術を知る者などいない。一部を、極一部を、極ら一部を除いて。

 

 「一つ、思い当たるものがある」

 「マジで!?」

 「担がれる者の手と足で輪を作り、そこに頭を通す。こうすると、下になる方の脇腹には触れず、かつ重心は肩にかかるため運びやすくなるのだ。まさにこのような場合に打って付けではないか?ちなみに名をファイヤーマンズキャリーという」

 「想像しがたいな、実践しろ。おいゴーグル」

 「ゴーグルってオレか!?なんでオレ!?」

 「モノクマ、一度証言台を離れても構わんか。議論に必要な実践をしたいのだ」

 「いいですよ!もともとモノヴィークルが走ってようと停まってようと、どうせ不要な演出なんだから・・・活かせてないんだから・・・」

 「なに勝手に落ち込んでんの♣」

 

 モノクマが言うとともにモノヴィークルは速度を落として停止し、呼ばれた城之内は円になった裁判場の真ん中に進み出て、極に身を委ねた。さながらコロッセオのような様相を呈するが、これから行うのは、仮に真の戦闘であればあまりに一方的な試合内容で大した面白味もないであろうカードによるデモンストレーションだった。慣れた様子の極に担がれた城之内は、すぐさま声をあげた。

 

 「あいたたたたたたたたたたたたっ!!!極お前なんだこれいてえぞ!!!」

 「余計なアクセサリーを付けているからだ。本来は消防士や自衛隊が怪我人を救出するための手段だからな」

 「ふむ。だがこの姿勢なら確かに犯人は血に塗れず、包丁も真下を向くな」

 「いよ?ところで、なぜ極さんはこのようなものをご存知で?」

 「たとえばこのまま回転して相手の三半規管にダメージを与えるエアプレーン・スピンという技や、そこから脳天を垂直に叩きつけるデスバレーボム、柔道ならば肩車という技や、難易度は高いが牛殺しという技にも通じる。要は格闘技の予備動作の一つなのだ」

 「おいおいおいおいおい!!!担いだままそんな話すんなよ超怖えわ!!!降ろせよ!!!おろせでででででででででででででででっ!!!」

 「このように、仮に茅ヶ崎が生きていて暴れたとしても簡単にはほどけない。太ももを押さえているからな」

 「全身で一番強い筋肉をそんな風に押さえられたらなかなか厳しいわね・・・」

 「お前ら冷静に言ってっけどオレ必要だったかこれ!?」

 「はい。ダイスケさん、ニーズありました」

 

 なにが悲しくて同年代の女子に奇妙な担がれ方をされて、しかもそれを衆人環視のもとで見せつけられなければならないのだ。そんな城之内の目に浮かぶ涙は、そんな理不尽への辛さ故から、あるいは痛み故か。どちらにしてもそれを見ていた誰一人の心も打つことはなかった。

 

 「だって、もしクリミナル、このやり方をしたなら・・・ボク・・・」

 

 誰が犯人(クロ)なのか、分かりました。その言葉は音を伴わずに、乾いた吐息となってスニフの口から溢れた。ここまで議論を全て踏まえた上で、今の極の発言から得られた情報を付加し、そして振り返る。学級裁判を、捜査時間を、モノクマランドでの日々を、ここに来た当日のことを。あらゆる記憶を総動員して、スニフは頭に浮かんだ結論を否定しようとする。

 犯人が分かった。それが本当ならそれは自分たちにとっては勝利であるはずだ。だが同時に、自分たちの中の誰かを犠牲にすることを意味する。その鉄槌を自分の手で下すのか?その重圧が、緊張が、罪悪感がスニフの思考を鈍らせた。

 だがどう考えても否定できなかった。記憶がその結論を支持する。論理がこの思考に味方する。そしてスニフは意を決し、指さした。この事件を起こした犯人を。誰にも悟られないよう、この学級裁判を混迷に誘導(はこ)んでいた者を。

 

 

 【人物指名】

 

 

 

 

 

 

 

 「ハルトさん・・・あなたが、マナミさんをころした犯人(クロ)です」

 「・・・はあ?」

 「お、おいスニフ。いまお前、なんてった?」

 

 あまりに突然の、名指しの追及。子供の短絡的な思考でも、幼さゆえの安易な推論でもない。況してやいい加減な当てずっぽうでもない。根拠と論理と計算に基づいた、歴とした推理。それができるスニフだと、全員が理解しているからこそ、その発言は無視できなかった。名指しされた須磨倉の嘆息と雷堂の質問に、スニフは拙い日本語で、推理を述べる。

 

 「ファイヤーマンズキャリー、ハルトさんもしてました。ボクたちがモノクマランドきた日です。フェインテッドのマイムさんとアクトさん、クリニックにつれて行きました。そのとき、ハルトさん、ファイヤーマンズキャリーしてました。こなたさん、そうですよね?」

 「変わった担ぎ方だったのは覚えてるよ。うん、あんな感じだった」

 「たまたま・・・じゃ、ないわよね?“超高校級の運び屋”なら、知っててもおかしくない。いえ、知らない方がおかしい、のかしら?」

 「いや、普通に知ってたぞ。ああ、確か皆桐を搬送(はこ)んだ時にしたな。極の言う通り、怪我人とかを移動(はこ)ぶのに打ってつけだからな。人の搬送(はこ)び方も連行(はこ)び方も拉致(はこ)び方も、もちろん知ってる。伊達に運び屋やってねえよ」

 「知ってるだけなら極だって犯人候補だろ?なんで須磨倉だけなんて言い張れるんだよ?」

 「それどころか、これくらいのこと、図書館行きゃ誰でも調べられると思うぞ?知ってたからって別にーーー」

 「クリミナル、ホントはこなたさんをベッドでころすことになってました。でもいきなりマナミさんにチェンジした。ボディをクローズドファクトリーにうつすの、そこで決めたことのはずです。ライブラリでしらべるなんてヒマ、ないです」

 「だとしてもお、それだけじゃあ断言はできないんじゃあないのかい?」

 「このケース、ペンキとかおむつとか、ショッピングセンターにあったものたくさん使ってました。これを使うっていうアイデア、ショッピングセンターたくさん行ってた人だけです」

 「し、しかし・・・ショッピングセンターなら、ここに連れてこられた日に極が探索していたぞ。しかも誰でも出入り自由なのにその理由は弱いな」

 

 いよいよという時になって、自分たちの中の誰かが犯人であるという事実に尻込みし、反論という形でスニフを押さえ込んでいる。というわけではない。誰もがスニフの推理に耳を傾け、意味ある一つの主張として聞き分けている。だからこそ、疑問があれば追及し、綻びがあれば掘り下げる。スニフがどこまで考え、どこまで暴き、どこまで知ったのか、見極めたいのだ。

 

 

 【議論開始】

 

 「クリミナル、ハルトさんです・・・!そのはずなんです!」

 「聞いてやろう。根拠を言ってみろ」

 「ハルトさん、“ファイヤーマンズキャリー”知ってました。クリミナル、マナミさんはこんだのと同じやり方です!」

 「それなら“極も知っていた”ぞ。まあこの時点でクロ濃厚が二人に絞れているわけだがな」

 「それにハルトさん、ショッピングセンターにたくさん行ってました。“おむつ”や“ペンキ”、ショッピングセンターでボウトです!」

 「あの場所は常に“誰にでも”開放されおりました!極さんが初日に探索をしているのでは、根拠と呼ぶには弱いかと!」

 「ううん・・・どっちが犯人かなんて決められなさそうだよ。だって、須磨倉君と極さん、今までの話の中で“決定的な差がない”んだもん」

 「That's wrong!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「こなたさん、そうじゃないです。ハルトさんとレイカさん。ビッグディファレンスあります」

 「そんなのあった〜?うおおおん!思い出せマイムの灰色の脳細胞ォ〜〒」

 「脳みそまでピンク色してそうだよな虚戈って」

 「普通脳みそはピンク色だと思うけどな」

 「実際は血で赤くなっているだけで、脳じたいはかなり白いぞ」

 「キモい方向に話広げんな!!」

 「ええっと・・・須磨倉君と極さんの違いだったわね。何かあったかしら?」

 「クリティカルディファレンス、あります。マナミさんさしたナイフ、キッチンにありました。ラストナイト、レイカさんキッチン来てないです。でもハルトさん、キッチン来ました」

 「え・・・?い、いや、行ったっつっても一瞬だぞ?ってかそれはスニフだってよく分かってるだろ」

 「それでも、レイカさんキッチンに来てもないです。ナイフもっていけるチャンスあったの、おふたりだったらハルトさんだけです」

 「それでも俺にしかできなかったわけじゃないだろ!いい加減にしろよ!死体の遺棄(はこ)び方知ってたのも包丁持ってくチャンスがあったのも、どっちも俺じゃなくたって当てはまるヤツはいるじゃねえか!」

 「まだあります。さっき、ワタルさんずっとガードマンしてなかったテーマのとき、ハルトさん、『どっか行く』って言ってました。だけどワタルさん、そのときまだトイレ行ったなんて言ってなかったです」

 「・・・ッ!!」

 「そ、そうだっけ?」

 「なるほどな。ただ目を離しただけなら、居眠りするなり意識が他に向くなり、考えられるパターンはいくつかあるはずだ。にもかかわらず、ヒゲはなぜ『どこかに行っていた』と断じることができたのか、それは実際に勲章がいなくなっていたことを知っているから、だな?」

 「・・・Yes」

 

 スニフの指摘に、須磨倉の口元が引き攣る。自分の発言に覚えがあり、それが明確なミスであることを理解した故の、無意識の反応だった。雷堂がトイレに離れていることは明らかになったが、それより先に須磨倉は雷堂が席を立ったことに言及してしまった。それは、実際に見たから以外に説明のしようがない。だとすれば、なぜ夜中に部屋の外に出たのか、そしてなぜそれを隠していたのか。そこを疑われてしまうことまで、容易に想像できた。だからこそ、露骨に反応してしまった。

 

 「ま、まさか・・・じゃあ、マジ・・・なのか?」

 「須磨倉、が?茅ヶ崎を・・・こ、ころしたのか・・・?」

 「ハルトさん。ボクのインファレンス、あってますか?・・・ホントのこと、おしえてくれませんか?」

 「・・・ホ、ホントの・・・こと・・・だぁ?」

 

 モノヴィークルの証言台に手をつき震える須磨倉。28の視線を一身に受ける中、その声色には明らかに怒気が含まれていた。その怒りの根底には何があるのか。それは、須磨倉自身にも分からなかった。ただ今は、湧き上がる感情にまかせて言葉を放つしかなかった。

 

 「探偵面してんじゃねえぞガキィァ!!!!」

 「ひっ!?す、須磨倉くん・・・!?」

 「遺棄(はこ)び方知ってたから犯人だァ!?事件前に厨房行ったから犯人だァ!?ちょっとした言葉尻つかまえて犯人だァ!?(よえ)薄弱(よえ)虚弱(よえ)卑弱(よえ)軟弱(よえ)貧弱(よえ)脆弱(よえ)軽弱(よえ)懦弱(よえ)盲弱(よえ)羸弱(よえ)え!!!!そんなもんのどこに説得力がある!!?間接的証拠ですらねえ言いがかりで犯人だなんて言うつもりか!!?ふざけんじゃねえぞォ!!」

 「お、落ち着け須磨倉!気持ちは分かるけどそれじゃまともに話せないだろ!スニフだって萎縮するからーーー!」

 「ボ、ボクだって・・・こんなこと言いたくないです。だけど今までのディスカッションの中で、ハルトさんいちばんサスピシャスなんです。ボク、すごくひどいこと言ってます。だからボクのインファレンス、きいてください。ミステイクあるって、ミスアンダースタンディングあるって、イロジカルだって、言ってください。ハルトさんはクリミナルじゃないって言ってください!」

 

 激昂する須磨倉。スニフは悲痛に叫ぶ。自分の推理が間違っていると否定してほしい。見落としがあると、論理的欠落があると、勘違いをしていると指摘してほしい。そうでなければ、いま自分は一人の人間を追い詰めていることになってしまう。結論が出れば誰かが死ぬ学級裁判で、結論を出そうとしている。論理的欠陥のない自分の推理を否定して欲しい。そんな矛盾した感情で、スニフは須磨倉に懇願する。

 

 「なに分かったようなこと言ってんだ!!俺が犯人だなんて物的証拠がどこにあるんだよ!!お前の推理なんか俺が犯人だって前提ありきじゃねえか!!」

 「フィジカルエビデンス・・・あります。今・・・ここに」

 「はあッ!!?適当なこと言ってんじゃねえぞ!!」

 「ボクのアイデア、まちがってなかったら、ハルトさんがクリミナルなんです」

 「だったら証明してみせろや!!お前のつまらねえ推理なんかズタズタに反論(こわ)してやるよォ!!」

 

 顔を真っ赤にして興奮する須磨倉だが、スニフは一切動じない。声量に任せてめちゃくちゃな言い分を押し通すようなやり方はスニフには通じない。どこまでも論理的かつ合理的に思考を組み立てる。そしてここまでの議論で積み上げてきた全てを振り返った。須磨倉陽人の犯行の全てを、暴き出すために。

 

 

 【クライマックス推理】

 Act.1

 モノクマからコロシアイのモチベーションがくばられた日、ディナーのあとのかたづけでボクたちのおてつだいをするふりをして、犯人(クロ)はキッチンからナイフをこっそりもっていきました。きっとそれより前に、ショッピングセンターでこのあとに使うグッズをかってたはずです。いつから思ってたか分からないですけど、犯人(クロ)はボクたちとのディナーのあいだも、マーダーをプランニングしてたんだと思います。

 犯人(クロ)がいなくなったあと、ボクたちもかたづけがおわってマイルームにもどろうとしました。だけどそのとき、マナミさんはオールナイトでガードマンをしてくれるワタルさんのために、おにぎりをつくるためにのこるって言いました。そしてボクたちはマナミさんをひとりにしちゃったんです。

 

 Act.2

 マナミさんがキッチンからルームにもどるとき、ワタルさんはトイレに行ってていませんでした。だから・・・犯人(クロ)がもともところそうとしてた人のルームキーをピッキングしてるところと、ばったり会ってしまったんです。もともと犯人(クロ)がねらってた、こなたさんのおへやの前で。犯人(クロ)はすぐにターゲットをかえて、マナミさんに持ってたナイフでおそいかかりました。そしてマナミさんはレジストすることもできずに・・・そのままころされてしまいました。

 犯人(クロ)にとってこれはアンエクスペクタブルなことでした。すぐにそこからいなくならなきゃいけなかったから、カーペットにおちたブラッドやナイフのグリップにながれるブラッドにも気付けなかったんです。

 

 Act.3

 マナミさんをクローズドファクトリーにうつしたあと、犯人(クロ)はこっそりホテルにもどりました。ワタルさんが見てないあいだに、ブラッドをすったおむつをトイレにすてて見つからないようにしようとしました。でも、いきなりたくさんすてたせいで、トイレがつまって使えなくなってしまいました。

 犯人(クロ)がホテルにいない間も、ワタルさんはガードマンしてました。でも犯人(クロ)がいないの気付かなかったのは、ルームキーにペンキをぬってロックされてるように見せてたからです。

 

 おむつやペンキをショッピングセンターからもってこられたのも、ナイフをキッチンからもっていけたのも、ワタルさんがいなくなってたこと知ってたのも、ハルトさんが犯人(クロ)だってことになるんです!

 それにマナミさんをフェイスダウンポーズではこぶなんてこと、あなたしかするはずないんです!“Ultimate Smuggler” スマクラ ハルトさん!

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 全てを吐き出した。学級裁判で議論してきた全てを。一分の誤りもない確信を持って。決定的な否定を期待しながら。この推理で決着が付くことを願って。矛盾しているような、屈託のない感情で。スニフの渾身の叫びを、須磨倉はただ黙って聞いていた。黙って、青筋を立て、小さく震えていた。そして高ぶった感情のままに、その心の内を吐き出した。

 

 「バァァァアアアアアアアアアアアアアアアッカじゃねえかテメエエェッ!!!?んなもん俺以外の誰にだって同じようなことができるじゃねえか!!!たまたま俺に目ェ付けて俺を犯人に仕立て上げて、それらしく後付けの理由並べてるだけだろうが!!!そんなもんのどこに説得力がある!!?誰を納得させられる!!?ガキの言いがかりなんかに付き合ってる暇はねえんだよ!!!そうだろうが!!!」

 「・・・」

 「おいおい!黙ってねえで誰かなんか言ってくれよ!いくら天才児だからっつって、あいつの言ってることまさか鵜呑みにするなんてことねえよな?んなバカげた言いがかりで、マジで俺を疑ったりしてねえよな?」

 「だ、だとしても・・・言い過ぎよ須磨倉くん、スニフくんはまだ子供なんだから乱暴な言葉遣いしたら・・・」

 「こちとら命懸けなんだよ!!ガキだろうがなんだろうが人殺しだって言われてんだぞ!!乱暴もクソもあるか!!」

 「フンッ、まったくもって正論だな」

 

 暴言。罵倒。雑言。悪態。批難。須磨倉の口から飛び出す言葉はナイフのように鋭く尖り、スニフの展開した推理を突き刺していく。その一つ一つは拙く、他愛のない苦し紛れだ。だがスニフの推理の隙を、欠陥を無視できないものにするには十分な指し手ではあった。

 いかに論理的であり、現実的に可能であっても、そこに証拠がなければ納得させることはできない。状況証拠ではなく、言い逃れのしようもない決定的な証拠、物的証拠が必要だ。スニフの推理にはそれが欠けている。

 

 「子供(スニフ)、お前の推理は拙い。不完全で、未完成で、非完璧だ。なぜなら貴様の推理には物的証拠がない。矛盾はなくとも根拠がない。学級裁判でねじ伏せたい者がいるのなら、徹底的にやれ。状況証拠で追い詰めて精神を削り、物的証拠で反論の余地を奪え。その推理が正しければ、それだけで答えは出る。故に、貴様では真相を暴けない」

 「うぅ・・・」

 「な、なんだ分かってんじゃねえか星砂・・・!!ま、まあ、俺もちょっと熱くなりすぎた。お互い頭下げてこの話は終わりにしようぜスニフ。な?」

 「故に、ここから先は俺様に任せておけ。よくやったと褒めてやる」

 「・・・は?」

 

 それだけ言うと、星砂は須磨倉の目を睨み付けた。その眼は、確信と自信に満ちた嗜虐的な色をしていた。

 

 「物的証拠があれば、貴様は納得するのだろう?ヒゲよ」

 「な、なに言ってんだよ星砂・・・!?テ、テメエもあんなでたらめ信じるってのかよ!!ふざけんじゃ」

 「そこまで言うのならば、何も問題なかろう。貴様のモノヴィークルのナビゲート履歴を公開するがいい」

 「・・・・・・・・・ぅん?」

 「死体を廃工場に移動させるときに、犯人はモノヴィークルを使って移動したはずだ。夜中に出歩いているところを見られたら一巻の終わりだ。少しでも早く移動できる手段を取るはずだろう。履歴を見せろ」

 「な・・・バ、バカか!もし俺が犯人だったらモノヴィークルなんか使うより脚使った方がよっぽど」

 「なるほど。貴様のような凡俗にも脚力という天授の賜物があったか。ならばなおさら履歴を公開しても問題ないな。では存分に貴様の無実を証明するがいい」

 「いや待て!・・・ま、まてよ・・・おかしいだろそんなの!俺のモノヴィークル調べたところでなにが・・・そ、そうだ!!テメエ俺をハメる気だな!!やっぱり星砂が犯人で、茅ヶ崎を遺棄(はこ)ぶときに俺のモノヴィークルを使ってーーー」

 「モノヴィークルはモノモノウォッチと1対1対応だ。貴様のモノヴィークルを俺様が使うことはできん」

 「おっ!!お、おおおお、思い出したァ!!昨日の夜中に納見に丸太を届ける時に間違って一回廃工場に行っちまったんだ!!だからこの履歴はーーー!!」

 「さすがに無理があるだろそれは・・・なあ須磨倉。もういいんじゃねえか?」

 「ふっざっけんな!!んないい加減な推理と証拠で犯人にされていいわけあるかクソが!!」

 

 自信満々で星砂から突きつけられた物的証拠に、須磨倉は明確に動揺した。その動揺こそが何よりの証拠であるが、須磨倉は今一歩食い下がる。苦し紛れの、その場しのぎの、取るに足らない言い訳を並べ立てて抵抗する。

 

 「あくまでモノヴィークルは証拠にならないと。ならばよかろう。モノモノウォッチを見せてみろ。犯人は犯行のためにおむつやペンキなどを大量に購入したはずだ。一方ヒゲ、貴様は凡俗共から運び屋としてそれなりにモノクマネーを稼いでいたようだな。さぞかし懐も温まっていることだろうな?」

 「・・・ッ!!!い、いやっ・・・!!カジノ!そうカジノだ!!カジノでスっちまって・・・!!」

 「アンタ、前にたまちゃんの誘い断ったじゃん。ギャンブルはしない主義だって」

 「んぐぃっ・・・!!よ、余計なこと言うんじゃ・・・!!いや・・・つい甘いもんとかで無駄遣いして・・・」

 「ただの無駄遣いなのかーもうハルトってばあ♫でもさあ♢だったらなんで一回カジノなんてウソ吐いたの?ねえねえねえ♠なんでなんでえ?」

 「うっ・・・!!うるせえうるせえうるせえうるせえ!!!」

 「見苦しいなヒゲ。貴様は既に詰んでいる。まだ物的証拠が欲しいのか?俺様に嗜虐趣味はないのだがな」

 「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!そんなもんが証拠になるか!!!全部こじつけだ!!!強引だ!!!俺はやってーーー」

 「貴様の部屋の鍵、今ならば開いているだろう?きちんと『青色』になっているかどうか、確かめに行ってみるか?」

 「ーーーーーーぇ・・・?」

 

 星砂の言葉に、須磨倉の時間は止まった。そんなはずはない。夜中に部屋に戻ったときに鍵のペンキは落としたはずだ。捜査時間中にも誰も何も言わなかった。そもそも星砂がそれに気付いていたら、真っ先に言うはずではないのか?しかし、なら星砂のこの自信はなぜだ?自分の記憶違いか?このほかにもまだ物的証拠を持ってるっていうのか?分からない。分からない分からない分からない分からない分からない分からない!!

 

 「ふむ。反論はないようだな。ならばもうよかろう。モノクマ、投票タイムだ」

 「うぷぷ!結論が出たようですね!ではオマエラ!怪しい人物に、お手元のスイッチで投票してください!投票の結果、クロとなるのは誰か!果たしてその答えは、正解か?不正解なのかあ〜?ファイナルアンサーァ?」

 

 ぱちん、という音でモノヴィークルのハンドルからパネルが飛び出す。17個のボタンが円形に並んでおり、それぞれの似顔絵がドット絵で描いてある。実に分かりやすいデザインだ。このボタンを押せば投票ができるのだろう。自分たちを裏切り、仲間の一人を殺したクロを、歪に笑うモノクマの前に差し出すことができるのだろう。それを直ちに理解したからこそ、そのボタンは重く、固かった。

 

 「早く投票してよね!あーもう時間制限つけちゃう!時間内に投票しないとおしおきだよ!」

 

 この期に及んで迷いなど許されない。その先になにが待っていても、進むしかない。いや、待っているものなど決まっている。投票などただの形骸にすぎない。この答えが正解でも不正解でも、待つのはまた誰かの死。そして絶望だけだ。

 それならいっそと棄権することをさえ選ばない事実に、歯を食いしばって、ボタンを押した。

 

 

 【学級裁判 閉廷】




学級裁判編完結!ルビと挿絵をちょっとやってみました。
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