17台のモノヴィークルがビューティフルハーモニーをならす。ファンファーレの中でカラフルなピースがふって、モノクマのすわってるキングチェアのモニターには、カジノのビッグルーレットがうつってた。ハルトさんのイラストがかかれたポケットにボールが入って、モニターの中でモノクマのメダルがたくさんあふれでてきた。
「うぷぷぷぷぷ!!!大大大せいかーーーーーーーーい!!!オマエラお見事です!!今回、“超高校級のサーファー”茅ヶ崎真波サンを殺したのは、“超高校級の運び屋”須磨倉陽人クンだったのでしたあ!!!景気よくまずは第一関門クリアだね!!!」
「・・・ちっ・・・ちくしょおおっ!!!!ちくしょう・・・!!ちくしょぉ・・・!」
うつむいて苦しそうにうなるハルトさん。ボクたちがそんな彼に向けるのは、うまく言えないけれど、きっとおこってるとかこわがってるとか、そんなんじゃない。たしかなことは、ボクが今ハルトさんに感じてるこの気持ちが、ボク自身も分からないってことだ。
「ほ、本当に・・・お前が茅ヶ崎を殺したのか・・・?」
「・・・ああ」
「ア、アタシたちを裏切って、一人だけここから出ようとしてたの!?」
「・・・そうだよ」
「なんで・・・?なんでそんなひどいことしようとしたの?須磨倉くんは・・・なんでそこまで──」
「仕方ねえだろ・・・。お前らだって同じはずだ。俺は・・・俺は早く助けに行かなきゃいけねえんだよ!!こんな裁判なんかしてる暇だってねえ!!今すぐ家に帰んなきゃいけねえんだよ!!」
「・・・」
ハルトさんの言葉で、ボクたちはみんなその意味がわかった。ハルトさんが何をあせってるのか、なんでこんなことをしてしまったのか、そのコウズは、ボクたちみんながもってるものだった。あのとき、モノクマがボクたちに見せたモチベーションムービー。ハルトさんのそれには何がうつってたんだろう。
「くだらんな。どうせあの動機映像を観てそう思ったのだろう。あんな安い映像を本気にするような状況でここに来た時点で、どちらにせよ破滅は免れないのだ。気に病む価値すらない」
「・・・っんだと!?」
「おおよその内容は予想がつく。だがそれが本当の映像かどうかの保証もないというのに真に受け、こんなお粗末な計画に命を賭すなど愚の骨頂だ。俺様ならより周到に計画を立てる」
「テメエに・・・!!テメエに何が分かるんだよ星砂ァ!!!」
「んっ!」
「お、おい止めろ須磨倉!そいつを殴ったって意味なんかない!!」
「ああ意味ねえな!!けどどうせ俺は茅ヶ崎を殺したことがバレちまったんだ!!今からモノクマに殺される!!どうでもいいんだよもう!!」
「殴りたければ殴るがいい。負け犬の拳なんぞで何ができるのか見せてみろ」
「・・・!!んのやろおおおおおおおおっ!!!」
すごくこわいかおをしてハイドさんにつかみかかったハルトさんは、ワタルさんがストップするのもスルーして、でもハイドさんのプロヴォケイションにまたヒートアップして、真っ赤になったゲンコツをふり上げた。だけど、そのパンチはハイドさんにはとどかなかった。
「よせ須磨倉。もうやめてくれ」
「・・・くっ!!」
「どうして・・・どうして殺人なんか・・・」
「そこまでさせるなんて、お前の動機映像には何が映ってたんだよ?」
「・・・そこまでさせる、だと?」
「?」
「じゃあよ・・・逆に教えてくれよ、なあ。なんでお前らは・・・
「え・・・?」
「お前らだって見たんだろ?動機の映像をよぉ・・・!何が映ってたか知らねえけど、同じようなもんだろ。なんでお前らは外に出ようと思わなかったんだよ!!」
サイクロウさんに止められたハルトさんは、今度は大声でシャウトした。ボクたちに向かって、まるでコンデムするみたいに、わるいことをしたのはボクたちで、ハルトさんが正しいことを言ってるような気になってくる。
「あんなもん見せられて、なんで平気で今までと同じ生活をしようって思えるんだよ!!今すぐ出て行って助けに行ってやらなきゃいけねえだろうがよ!!誰を殺しても!!テメエの命懸けるくらいの覚悟しなきゃいけねえだろうが!!」
「な、なに言ってるの・・・?」
「なんでお前らは誰も殺そうとしなかった・・・!!人殺しがなんだかんだと言って、そんなもんは逃げる口実だろうが!!人を殺す度胸がねえから、人質よりテメエの命の方が大事だから、ビビって死ぬリスクから逃げただけだろうが!!人質を見捨てたんだろうが!!」
「バッカじゃないの!?なんでたまちゃんたちが命なんか懸けなきゃいけないのよ!人質がいるからって・・・!」
「じゃあ他に殺しをしない理由でもあるのか?安否の分からねえ大切な人の命と、ここ何日か一緒にいただけの他人の命。どっち切り捨てるかなんて迷うわけねえだろ!!綺麗事なら聞かねえぞ!!」
「・・・須磨倉、お前何を観た?お前の動機に何が映っていた?」
「・・・ッ!!」
ハルトさんはサイクロウさんにおさえられたまま、何も言わずにうつむいた。ボクの頭の中では、今のハルトさんの言葉が何回もリピートされてた。ムービーの中にいたパパとママのことを見捨てたなんて思わない。だけどボクが今ここで、こうしている間にも、二人に何が起きてるか分からない。分かろうとしないボクは、見捨てたのと何がちがうんだ。
「うーん、須磨倉クンはシャイで自分のことを喋りたがらないようなので、ボクが代わりにお答えしましょう!うぷぷぷぷ!もうちょっと楽しませてもらうよ!」
「なっ!?なんだよテメエ!しゃしゃり出てくんじゃねえよ!」
「オマエラも映像を観て察した通り、動機映像にはオマエラにとっての『大切な人』が映っていました!恋人だったりお世話になった恩人だったり仕事仲間だったり・・・須磨倉クンの場合はそれが『家族』でした!いや、もっと厳密に言うなら『家族のようなもの』でした!」
「か、家族のような・・・もの・・・?」
「うぷぷぷ、その心はねぇ」
「・・・俺の“弟”と“妹”、それから“母親”だ」
「あれ?結局自分でしゃべるの?」
映ってたのは俺の実家、俺の“弟”と“妹”と“母親”だ。俺が希望ヶ峰学園に入学することになって、母親は諸手を挙げて喜んだ。弟と妹にはよく分からなかったみたいだが、俺が家を出ることには不安がってたみたいだ。映像の中の母親は、バカみてえに薄っぺらい言葉並べて俺を褒め称えてた。弟と妹は拙いけど遠くにいる俺を励ましてくれた。
映像を観て何の間違いだと思ったさ。弟と妹はともかく、俺はろくでなしの母親なんかどうだってよかったんだ。弟と妹がいたから、弟と妹さえいれば、俺は殺しを決意したはずだ。こいつらのために、俺は何度だって命を懸けてきた。運び屋ってのはそういうもんだ。危うい綱渡りなんて日常茶飯事だった。
「なんで・・・そこまで?弟さんと妹さんのためだけに、命まで懸けるなんて・・・」
「・・・俺が、愛されなかったからだ」
俺の親父は、優秀な男だった。詳しいことは知らねえが身なりのいい背の高い男だった。けど、家庭に興味を持たなかった。しかも徐々に酒と金に溺れて、酒に酔って暴力は振るうわ、ギャンブルで金はスるわ、クソみたいなヤツだった。ろくでなしの母親はその寂しさを他の男で埋めて、親父の子供である俺を愛さなかった。弟と妹はどんな関係だと思う?どこぞの男が押しつけてきた、誰と誰の子かも分からねえガキだよ。俺と同じように、親に愛されずに終いにゃ捨てられた子供だ。そんなもん・・・放っておけるわけねえだろ。
「・・・ちょ、ちょっと待って?じゃあ、その弟と妹って、本当のきょうだいじゃないの?っていうかそれ以前に、血のつながりも何もないの?」
「だからなんだってんだよ!血が繋がってなくても赤の他人でも、あいつらは俺の『家族』だ!まだ取り返せる、
「で、でも、だからってこんなこと──」
「あいつらの未来のために俺は運び屋やってんだ。殺しなんか今更なんだよ。あいつらのためなら俺は、他人の未来を奪って俺の未来を捨てたっていい。俺はお前らとは違う。大切な人のために命を懸けられる人間で、お前らはそうじゃなかったってことだろ」
動機映像を観てなくても、いつか家族のことが心配になる。どうせ俺は誰かを殺してた。少し早くなったか、それだけのことだ。あいつらはあんな
「けどよく考えりゃ、研前、お前を狙った時点で、俺は失敗だったのかも知れねえな・・・」
「え・・・?」
ハルトさんはゆっくりと、リグレットしながらつぶやいた。その言葉にこなたさんは身体がびくってなってた。また大声を出してあばれるのだろうか、それともこなたさんを責め立てるのだろうか、そんなふうにビウェアした。だけど、そのあとにハルトさんが言ったことは、とてもシンプルなことだった。
「お前は“超高校級の幸運”だもんな。狙った時点で俺の計画が失敗するのなんか、確定事項じゃねえか。バカだよなあ俺・・・ホント、バカだよな・・・」
それは、ただのジョークなのか。それとも自分のやったことが全部バレたことを、せめて説明をしようとこじつけたのか。それはハルトさんにしか分からない。だけどその言葉に、こなたさんは何も言わないで、ただうつむいてた。
「くだらんな。愛だの家族だの、そんなことのために殺された半裸が不憫になってくる。振り回されたヒゲもな」
「でもねー☆マイムにはちょっと分かるよ♡ぜんぜん知らない子でも一緒に遊んだらもう友達だもんねー☆」
「お前らは相変わらずだな。まあもうどうでもいいけどな。俺のやったことが間違ってないとも思わねえし、裁判中も一瞬だって落ち着けなかったし、いいもんじゃねえな。星砂も研前も雷堂も、俺のやったことのせいで疑われたわけだ。ここで俺が負けて、お前らはまたこの前までの生活を繰り返してくんだろ?信用を失っちまった結束なんて脆いからな。まあ・・・上手いことやってってくれや」
「なに呑気なこと言ってんだバカ野郎!モノクマがこのままお前を放っとくわけねえだろ!逃げろよ!」
「逃げられるわけねえだろ?こいつは・・・常識なんて通用しねえんだぞ?」
クラストライアルの前にモノクマが言ってた。クラストライアルで負けたクロには、おしおきという名前のエクスキュージョンがまってる。アクトさんが頭をふっとばされたあのおしおきが、今度はハルトさんをころそうとしてる。それなのに、それを分かってるのに、なんでハルトさんはこんなにおちついていられるんだろう。さっきまであんなに大声を出してたのに。
「バカげてる・・・こんなことがあっていいのか。須磨倉・・・お前は本当にこれでよかったのか」
「・・・さあな。もう自分でもよく分からねえや。なあ、なんで俺は、赤の他人のために命なんて懸けたんだろうな。・・・なんで俺は、愛してもらえなかったんだろうな。俺とお前らの違いって、なんだったんだろうな」
「そんなものだ。誰でも他人と違うものを抱えて生きている。お前の場合はそれがたまたま『家族』に纏わるものだっただけだ。そしてお前が凶行に走った理由は・・・モノクマの動機が最も有効に働いたと言う他にないな」
「そこまで『家族』のことを大切にするなら、人殺しなんてしてまで戻って来て、弟さんと妹さんが喜ぶなんて思ったの!?」
「いいんだよ。俺はあいつらのために徹底的にヨゴれるって決めたんだ。まあ・・・それさえももう、できなくなっちうんだけどなあ・・・」
「ハ、ハルトさん・・・!」
そう言うハルトさんの声は、カタカタふるえてうわずってた。やっぱりハルトさんもこわいんだ。だけど自分がやったことがどんなことで、マナミさんに何をしたのか、それもしっかり分かってる。だから逃げもかくれもしないんだ。キングチェアに座るモノクマは、そんなハルトさんを見て、なんだかつまらなさそうに言った。
「なんだかなー。しょっぱななんだからイヤだイヤだイヤだ!!的なリアクションを見せてテンションあげてほしいよね!おしおきを受け入れるなんてリアリティがないんだよ!周りのオマエラもボクを止めようともしないでさ!まあ須磨倉クンを差し出したのはオマエラだし?大事な大事な仲間の茅ヶ崎サンを殺した犯人をさっさと同じ目に遭わせてほしいのかな?」
「バカかよお前・・・おしおきって処刑だろ?死、そのものだろ?そんなもん・・・うっ、受け入れられるわけねえだろ!!」
「・・・ッ!!」
「こええよ・・・!!あり得ねえほど・・・!!今すぐ逃げ出してえよ・・・!!け、けど脚が・・・震えて・・・これじゃ逃げることも・・・!!」
「ハ、ハルトさん・・・!」
「・・・はっ、ははっ・・・・・・!なんて顔してんだよスニフ・・・!分かってるよ・・・俺は殺されなきゃいけねえよな・・・。茅ヶ崎を殺したんだ・・・人を、殺しちまったんだ・・・死刑なんて当然だよな・・・!大丈夫だ、お前は・・・正しいことをした・・・そ、そうだろ?」
ガクガクふるえる足を必死におさえて、ハルトさんは言う。ボクはきっと、すごくおびえたフェイスだったと思う。だけどハルトさんは、そんなボクにやさしい言葉をかけてくれた。ボクのしたことは正しいって、ハルトさんが
なんでそんなことを言うんだろう。それじゃまるで、ボクがハルトさんをこんな風にしたみたいじゃないか。ロジカルなボクの考えが、ハルトさんを追いつめたみたいじゃないか。
「うぷぷぷぷ!ではでは、お楽しみの時間といきましょうか!今回は、“超高校級の運び屋”須磨倉陽人クンのために、スペシャルな!おしおきを!用意しました!」
「さ、最期にさ・・・」
キングチェアの前に出て来た真っ赤なボタン。それを押したくてうずうずしてるモノクマは、すごくうれしそうで、楽しそうで、幸せそうだった。その目は、ガクガクふるえて汗をかいてペイルフェイスなハルトさんをにがさないように見張ってた。もう逃げられない。止められない。だれが見ても分かるそんな中で、ハルトさんはだれに言うわけでもなく、つぶやいた。
「マ、マジで図々しいっつうか・・・烏滸がましいっつうか、厚かましいんだけど・・・た、頼みが、あるんだよな・・・」
「なに?」
「それでは!張り切っていきましょーーーう!!」
たのみごと?こんなときに?だれもがクエスチョンマークをうかべたハルトさんの言葉に、しっかりアンサーを返したのは、こなたさんだけだった。
「お、俺が死んだってこと・・・
「おしおきターーーイムッ!!」
ふりあげたトイハンマーを、ボタンめがけてスイングする。ピコッ、とハンマーがライトな音をたてると、モニターにはハルトさんがうつった。モノクマにひきずられていくアニメーションといっしょに、カタカナとひらがなでシンプルになにがおこるかがプロジェクテッドされた。
【スマクラくんがクロにきまりました】
【おしおきをかいしします】
華々しい音楽が耳を割るほどの大音量で鳴り響く。太陽の昇りきった朝のモノクマランドは、なおもその存在を誇示するかのように毒々しい彩りをきらめかせていた。停まっていたあらゆるアトラクションが、この瞬間を待ち構えていたかのように一斉に動き出した。その全てはただ演出であり、引き立てに過ぎず、メインイベントを飾る以上の意味はなかった。
あまりに突然に目を覚ましたモノクマランドのアトラクションにどよめく高校生たちの中から、メインイベントの主役である須磨倉陽人は引き抜かれた。どこからともなく伸びてきた鎖が身体に巻き付き、抵抗するという意思すら置き去りにして須磨倉を連れて行く。
「ぐああああああああああああああああッ!!?」
急激な後ろ向きの加速に、須磨倉の身体はついていけず肺の空気が圧迫され、苦しみの雄叫びとなって出て行く。乱暴に引きずられるまま、服も肌も地面に削られながら、須磨倉はただ声をあげることしかできなかった。弾け飛ぶ汗の一滴まで、須磨倉の眼に宿る恐怖の色まで、巨大なスクリーンは全てを見せつけるように映し出し、その場で起きているかのような音声中継に、その様子を見守る者たちに逃げることさえ許さない。
ようやく須磨倉は鎖による引き回しから解放された。それはまたあまりに唐突で、解放されたことへの安堵など一縷も感じさせない形だった。自分を散々引きずっていた鎖は、いまや大人しく自分の身体を縛り付けていた。胸の前には安全バー。少し狭い座席。モノクマの意匠が施された先頭車。船のような各車両。一目でそれがジェットコースター、いや、スプラッシュコースターだと分かった。
発車ベルが鳴ると同時にコースターは動き出す。急加速により須磨倉の身体はシートに押しつけられる。むちゃくちゃな速度にまで加速したコースターが向きを変える度、体重の何倍もの力が須磨倉の身体にのしかかる。身体が引き裂かれそうな苛重にミシミシと身体が音を立てる。上下へ、左右へ、前後へ縦横無尽に揺さぶられて意識が朦朧とする。コースターは山に見立てたトンネルに突っ込む。その中に待ち構えていたのは、大鋸の群れだった。
「・・・ッ!!?」
薄れる意識の中でも、本能的にそれが危険だと察知し、意識を取り戻す。須磨倉を引き裂かんと火花が散るほど回転する鋸の中に、コースターは問答無用で突っ込んで行く。鋸は須磨倉の頬に、肩に、腕に、首に、頭に。確実に、だが致命傷にはならない程度の傷を刻んでいく。飛び散った血がコースターに模様を描く。冷たい風が傷口に染みる。乱雑な走行に身体はますます悲鳴をあげる。しかしまだ須磨倉は生きていた。
やがてコースターはトンネルから抜ける。上向き傾斜から見える青空はどこまでも広く、視線さえ外の世界には出すまいとモノクマランドの一部が地平線を隠す。コースターはレールに従い頭を垂れてその先の景色を臨む。レールの続く先にある、泡立ち、沸き立ち、湯気立つ黒い沼を。
「!!」
それが何なのか理解する暇も与えず、コースターは急降下する。ただレールに従い無情な運命に突き進む。車頭が黒い沼に突き刺さり、沼を水を巻き上げる。どろりと粘ったその液体は、恐怖に歪んだ須磨倉ごと、コースターに覆い被さるーーー。
空気が打たれるような、激しく焼ける音がモノクマランドに響き渡った。
泥のような煙が晴れて奥から現れたコースターは、辛うじて形を保つばかりだった。運命を共にした須磨倉陽人だったものは、泡立ち、沸き立ち、湯気立った黒い塊となっていた。コースターの揺れごとに身が崩れて、一欠片さえ面影を残さずに。
「うぷ、うぷぷぷぷ♬」
「・・・ッ!!?」
「うぅ・・・!」
「こ、こんなのって・・・!!」
「なんだよこれはあああああああああああああああああああッ!!!?」
「あーっひゃっひゃっひゃっ!!エクストリィィイイイーーーーームッ!!!」
ボクたちは何もできなかった。ただハルトさんがころされていくのを、引きずられて、切りつけられて、溶かされていくのを、ただたえて見ることしかできなかった。これがホントに、今おきたことだなんて信じられない。ボクはどうかしてしまったんじゃないかって思うくらい、リアリティがなかった。人が、こんな風に死んでいいはずがない。
「どうオマエラ?ショッキングだったでしょ?スリリングだったでしょ?ちょーーぅエキサイティンッ!!だったでしょ?これこそコロシアイの醍醐味!ふう!堪能したぁーー!」
「こんなこと・・・!!あってたまるか・・・!!ふ、ふざけている・・・!!」
「あわわわわ・・・!!」
「ここまでする必要があったのか・・・!!須磨倉のしたことは、これほど重い罪だったのか!!」
「はあ?罪に重いも軽いもないでしょ。どんな罪にどんな罰を与えるかはボクの裁量なの!だってここはそういうセカイ!生も死も希望も絶望も過去も未来もすべてが等しくある、夢の国モノクマランドなんだからね!」
ひとりでエキサイトしてるモノクマの声はだれにも届かない。意味がわからない。あまりにショッキングなことに、パスアウトしてしまいそうになる。モノクマの笑い声が、それさえもゆるさないように耳にリフレクトする。
「くだらんな。凄惨な処刑を見せてどうしろというのだ?貴様は俺様たちにコロシアイをさせたいのだろう?」
「緊張感だよ。シロもクロもノーリスクで学級裁判なんてつまらないでしょ?これで分かったと思うから、次からはもっと緊張感のある裁判を期待してるよ!」
「つ、次って・・・!?それじゃまるでまた・・・!」
「まるでじゃない、コロシアイは起こるよ」
モノクマはそう言い切った。はっきりしたその言い方に、ボクたちはみんなゾッとした。そのせいか、そのあとにモノクマが言う言葉を、ついきいてしまった。
「オマエラが何をしても無駄、ボクは必ずオマエラにコロシアイをさせるよ。それに・・・うぷぷ♬オマエラの中の、“超高校級の死の商人”だって、誰かを殺したくてたまらないはずだからね」
「・・・は?」
「そいじゃ、ボクはこれから準備をしてくるよ!あ、それから学級裁判勝利ボーナスとしてオマエラ全員に10万モノクマネーと、茅ヶ崎サンと須磨倉クンの所持金を分配しといたから!これで美味しいものでも食べな!そんじゃオマエラまた明日〜!」
いきなりモノクマからアナウンスされたその言葉に、ボク以外のみんなはかたまった。ボクにはモノクマが言った言葉がなんなのかよく分からなかったけど、きっと何かよくないことなんだっていうのは分かった。そしてモノクマは、そんなボクたちをおいてさっさといなくなってしまった。とりのこされたボクたちは、どうすればいいか分からないままただ立ってた。
「・・・」
「うっ・・・うぅ・・・な、なんでこんなことに・・・!なんなのこれ・・・!もうイヤ・・・!!」
「なんであたしがこんな目に遭わないといけないの!もういい加減にして!コロシアイなんか・・・!!」
「コロシアイなんて・・・起きてたまるかよ!ふざけんなよ!オレはコロシアイのためにお前らに飯作ってるわけじゃねえぞ!」
「何を言ったところで無駄だ。凡俗共が何をしようが、何を考えようが、ヤツは何らかの手を打ってくる。貴様ら凡俗が凶行に走る動機を用意してくる。コロシアイは避けられんのだ」
「“超高校級の死の商人”か・・・さも我々の中にいるかのような言い方をしていたが」
「・・・そういうことなんじゃねえのかよ?」
泣き出す人、おこりだす人、あきらめる人、周りをうたがう人、何かを考えこむ人・・・いろんな人がいろんな風に、今のこのシチュエーションへのリアクションをしていた。だけどボクはそんな人たちのことなんかちっとも気にせずに、ただうつむいたままのこなたさんのことばかり見ていた。
「・・・こなたさん?」
ハルトさんがころされたムービーを見てからずっと、こなたさんはうつむいてずっとうごかない。すごくショッキングだったけど、他の人はみんなそのあとのモノクマの言葉やこれからのボクたちのライフスタイルを心配してあわててる。だけどこなたさんだけは、そんなみなさんとちがって声もあげない。
ボクは思わず、声をかけた。そばについて、手をにぎろうとした。
「ーーーッ!?」
少しだけさわったこなたさんの手は、びっくりして手を引いてしまうくらい、つめたかった。近くによってみてシルバーブロンドのヘアーのすきまから見えたこなたさんの目は、まるでそこにホールがあるみたいにまっくらだった。
「私のせいだ・・・。やっぱりいけなかったんだ。私のせいだ・・・。どうしてあんなことしたんだろう。私のせいだ・・・。私がいたからこんなことに・・・。私のせいだ・・・私の・・・・・・私のせいだ・・・」
何もうつさない目で、こなたさんは何もないところにむかって何かをつぶやいてた。すぐ近くにいるのにボクには気付くこともなく、こわれたラジオみたいに同じことをリピートしてた。
「こ、こなたさん・・・?こなたさん・・・!こなたさん!」
「ーーーッ!えっ、あっ・・・!あぁ・・・あああぁっ・・・!!」
このままじゃいけないと思った。なんでそう思ったのかも分からないし、どうすればいいのかも分からない。だけどこなたさんをこのままにしてちゃいけないと、手をにぎってコールした。それでやっとボクがいることに気付いたようで、サプライズされたような顔でまわりを見た。ボクの顔を見て、心配そうにするワタルさんやコンフューズするみなさんを見て、白かった顔をますます白くして、小さくふるえはじめた。
「!」
「うあっ!?こ、こなたさん!?」
そしてこなたさんは、何も言わないままどこかへダッシュした。クラストライアルをしたところからうごけなかったみなさんのことなんか見もせずに、ただただどこかへエスケープするように。なんだか分からなかったけど、ボクはとにかく追いかけた。
「お、おい研前!スニフ!どこ行くんだよ!?」
「・・・放っておけ雷堂」
「いやでも、こんなときにバラバラになったら・・・!」
「さっきの今で妙な考えを起こす者などいないだろう。連れ戻したところで、我々には何もできない、違うか?」
「んぐっ・・・!!」
ボクがいなくなったあとのあのプラーザで何があったのかは知らない。だけど今のボクにとっては何よりも、こなたさんがどこに行くのか、何を考えてるのか、どうしてあげるのがいいのかを知ることの方が大切だった。
ロンカレ第一章のおしおきに関する解説
おしおきタイトル『新鮮一番!サンチ直葬』について。これは“超高校級の運び屋”、須磨倉陽人のおしおきですが、「サンチ」がカタカナになってます。ちゃんとこれ意味があります。
運び屋なので、「産地直送」から連想したことはすぐに分かると思いますけど、実はそれ以外にも3つ意味があります。つまりこの「サンチ」には4つの意味が込められてるわけですね。
1つ目は、新鮮な食材をお送りするという意味での「産地」
2つ目は、クトゥルフ神話TRPGでお馴染みの正気度を意味する「San値」
3つ目は、おしおきの途中で鋸に全身切り刻まれるところがあります。そこで飛び散る血という意味の「散血」
4つ目は、おしおきのラストで熱濃硫酸の池にぶっ込まれるので、「酸池」
以上4つです。
で、これらのワードをおしおき挿絵の中に仕込んでます。「産地」の下に不自然なスペースがありますが、背景と近い色で他3つのワードが隠れてます。自分としては隠しすぎたと思ってます。