はっ、と目が覚めた。自分でも気付かないうちに寝ていたみたいっす。ぼーっとする頭を叩き起こして、座って何かにもたれかかった姿勢のまま寝てる身体を伸ばした。
「・・・?んんん?」
ここはどこっすか?どうやら自分は木にもたれかかって寝ていたようっすけど、自分はそんな寝心地の悪い寝方はしないっす!寝るなら寝るでしっかり休めるよう布団に入る主義っすよ!自分の目の前にはきれいに整えられたトラックがあって、中にはサッカーゴールが向かい合ってたっす。ゴールを取っ払えば一通りのスポーツはこの中でできそうな広さっすね。いやこんな場所知らないっすよ・・・。
「な、なんなんすかこれ?誰かいないっすかあ!?」
周りには誰の姿も見えなくて、広いグラウンドに自分一人ぼっちっす。なんとなく不安になってきたっすけど、このくらいであたふたしてられないっす。目を擦ってからもう一回周りをよく見たっすけど、走り甲斐のありそうなサッカーグラウンドを囲むトラック以外は特に何もなかったっす。
「ええっと・・・」
なんで自分はこんなところに?確か、自分は寝る前には・・・そうっす!希望ヶ峰学園!あの希望ヶ峰学園から入学通知が来て、嬉しくなって、それで誰よりも一番に登校しようと家を出て・・・。
「んん・・・」
そこから先がどうしても思い出せないっす。記憶が曖昧っすけど、家から希望ヶ峰学園まで猛烈ダッシュしたはずっすけど、どうしても学園に着いてからのことが思い出せないっす。学園には絶対に入ったはずなんすけど・・・それとも、夢?
「希望ヶ峰学園の入学通知から・・・全部夢!?そんなあ・・・!!うおおおおおおおおっ!!!そんな夢を見てこんなところで居眠りするなんて、自分はなんてダメな奴なんすかああああああああっ!!!」
そりゃ自分だって足には自信あるっすけど、だからってそんな簡単に希望ヶ峰学園からスカウトが来るはずないっす!情けない!知らず知らずのうちに自分の実力を過信してたなんて!そのせいでろくに体調管理も怠って、挙げ句こんなところで・・・!!そう考えると猛烈に悲しく、情けなく、悔しくなってきたっす!!うおおおおおおおおおおッ!!!
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!
「きゃあああっ!?」
「!!」
急に聞こえた女性の悲鳴に、無意識のうちにブレーキをかけたみたいっす。目の前のこともろくに見えないまま、何かを振り払うように一心不乱に走ってたら、いつの間にかさっきのグラウンドから離れてたみたいっす。涙を拭いて視界がはっきりしてくると、尻餅をついて目を丸くした女の人が自分を見上げてたっす。こ、この状況・・・!!!もしかして・・・!!
「うおおおおおおおおおおおッ!!!」
「ひいっ!?」
「申し訳ないっす!!お怪我ないっすか!?いきなりぶつかってしまってなんてお詫びしたらいいか!!自分はとことんダメな奴っす!!最低っす!!責任とってもう・・・陸上は辞めるしか・・・!!!」
「ちょ、ちょっと待って!落ち着いてあなた!」
地面に額をつけて謝罪する自分の肩を、その人は優しく叩いてくれた。びっくりして、怖くて、痛かったはずなのに、そんなに優しくしてくれるなんて、なんて人間ができた人なんすか!聖人かなにかっすか!?
「ぶつかってはないから。あなたが泣きながら突進してきたからびっくりして、私が勝手に転んだのよ。だから安心して。流れるように土下座される方が困るわ」
「な、なんて優しい・・・!!うおおおおおおっ!!!あなたの優しさが温かくて痛いっす!!うおおおおおおっ!!!」
「落ち着いてってば!」
ぶつかってない・・・そういえば自分も何かにぶつかった衝撃は感じなかったっす。とはいえ転んだ原因は間違いなく自分だっていうのに、自分の汚い涙をエプロンの裾で拭ってくれて、やめてください!そんなことしたら、ますます涙が止まらなくなるっす!自分の涙腺はもう決壊寸前っす!!
「ふう・・・ふう・・・だいぶ落ち着いたっす」
「ひとしきり泣いたものね。あ、おでこから血が出てる」
「いえ、これは自分なりのケジメっす。ご迷惑をおかけしたので。自分が悪くないと言ってくれるのは嬉しいっすけど、せめてこれはカンベンしてほしいっす!」
「ばい菌が入ったら大変よ。絆創膏はるからじっとしてて」
「え、あ、ちょっ・・・」
絆創膏はるって、せめて自分に貼らせてほしいっす。そんな体勢で貼られたらエロエロと当たったりなんだり・・・。
「熱もあるのかしら?」
「い、いえ!もうたくさんっす!」
「?」
「ああ、いえなんでもないっす。ありがとうございます」
「どういたしまして」
さっきまでの不安とか焦りとかが消えて落ち着いてくると、今度はこの人の優しさや自分の他に人がいた安心感とか、そういう気持ちでまた涙がこみ上げてきた。けど、もうこの人の前で情けない姿を見せたくないっす!これ以上ご迷惑おかけするわけにはいかないっす!
「あなた、ここに来る前のこと覚えてる?」
「前っすか・・・?う〜んと、その、実は覚えてないんす。長い夢を見てたみたいで」
「夢?」
「情けない内容なんすけど、自分が希望ヶ峰学園にスカウトされて、嬉しくなって校舎までダッシュするっていう」
「希望ヶ峰学園?あなた・・・それ夢じゃないんじゃない?」
「へ?」
「実は、私もそうなの。私も希望ヶ峰学園からスカウトされて、門をくぐったはずなんだけど・・・」
なんと!まさかこんなところで、本物の希望ヶ峰学園の生徒さんに会えるなんて思ってなかったっす!ということはこの人、あの“超高校級”の“才能”を持ってるってことっすか!なんて大人物!事故とはいえそんな大人物と知り合えるなんて、禍転じて福と成すとはこのことっすね!
「あ、そういえばまだ名前知らなかったわね。私、正地っていうの。よろしくね」
『“超高校級の按摩” 正地聖羅(まさじせいら)』
「ああ!すいません!希望ヶ峰学園の生徒さんに先に名乗らせてしまって!自分はただの高校生なんす」
「・・・いえ、きっとあなたも“超高校級”よ」
「ええっ!?」
「だって入学通知が来たんでしょ?」
「いや、それは自分の夢というか妄想というか・・・今は確証がないっすよ」
「その確証って」
先に正地さんに自己紹介されて、自分のちっぽけでつまらない自己紹介がしづらくなってしまったっす。でもここで自己紹介しないのも十分失礼っすし、恥を忍んでするしかないと思ってたら、正地さんが自分のことをまじまじ見つめてきたっす。な、なんすかむず痒い。
「私じゃダメかな?」
「へあっ!?」
「按摩ってね、要はマッサージ師のことなのよ。だから私、体付きとか動きとか見るだけでその人の身体のことが結構分かったりするの。触ってみるのが一番だけどね」
「は、はあ」
「あなたのこの大腿四頭筋と大腿二頭筋、かなり鍛えられてるわね。下腿三頭筋も固くて太くて大きいし、大臀筋も無駄なく発達してるわ」
「あ、いや、あの・・・正地さん!?そんな触られると・・・!」
「“超高校級の按摩”として断言するわ。あなた、“超高校級”の器よ!それも短距離系陸上競技の選手として!」
「ド、ドキィッ!!?」
ぬおおおっ!!スキンシップが激しすぎるっすよ正地さん!!初対面の女性にいきなり下半身をあちこち触られまくるのは男子にとって刺激が強すぎるっす!とはいえ変に暴れたら今度は本当に怪我をさせてしまいそうで、どうにもできないやら恥ずかしいやら気持ちいいやらでおかしくなっちまいそうっす!
と思ったら正地さんは自分の“才能”を知ってるかのように指摘するし、なんなんすかこれ!?“超高校級”ってこんな人たちばっかりなんすか!?悪い人じゃないのは分かるっすけど、ちょっと変っすよ!
「だから自信を持っていいのよ?自己紹介、して?」
「はあ・・・じゃあ、一応“超高校級”ってことで・・・」
『“超高校級のスプリンター” 皆桐亜駆斗(みなぎりあくと)』
「大会とかではそれなりに実績は残してるつもりっすけど、やっぱり実感湧かないっす。自分が“超高校級”だなんて」
「そんなものじゃない?私だってまだよく分からないもの。雰囲気で言ってみただけ」
「自分乗せられたっすか!?」
くすくす笑う正地さんを見てると、なんだか一人で騒いでる自分が馬鹿らしくなってきたっす。大人の余裕みたいなのを感じて、こっちまで安心してくるっす。とはいえこれは妙な状況っすね。
「この建物、中はプールだったわ。普通の25mプールとか流れるプールとかウォータースライダーとか、大きいレジャー施設並よ。私はここのプールサイドで寝ちゃってたみたいなんだけど、見覚えがないのよね。建物伝いであっちにも続いてたけど、そっちは見てないの」
「自分は向こうのグラウンドっす!一通りスポーツはなんでもできそうなくらい広かったっすよ!」
「これだけ広くて、いるのは私たちだけかしら?」
「分からないっすけど・・・一人じゃないと心強いっすね。あ、すいません。自分がしっかりしなきゃいけないのにそんなこと」
「ううん。心強いのは私も同じよ」
心強くはあるっすけど何の解決にもならないっすね。グラウンドの方は自分が調べた限りじゃ何にもなかったっすし、この建物はまだ調べた方がいいんじゃないすかね?もしかしたら正地さんが言ってた向こうの方の施設に、誰か係員の人がいるかも知れないっすし。
「あっちの方探しに行ってみるっす。これだけ広いんすから、他にも人がいるかも知れないっす」
「そうね。ここがどこなのかも分からないんじゃ、どうしようもないものね」
ひとまず、正地さんが目を覚ましたっていうプールのある建物の中を探すことにした。入ってすぐカウンターがあって、その奥がプールに続いてるみたいっす。あっちはもう正地さんが調べたから、カウンター前の通路を通って隣の施設に移動してみる。ボイラー室とかリネン室とか浄水室とか、関係者以外立ち入り禁止的な部屋がたくさんある通路を抜けると、さっきと同じようなカウンターに『スポーツジム』っていう立て札が立ってた。
「スポーツジムっすか。グラウンドといい、やっぱりスポーツ施設なんすかね」
「私がプールサイドで寝てたくらいだから、ここにも誰かいるかも知れないわね。入っていいのかしら?」
「失礼しまっす!」
「躊躇ないわね」
こんな困った状況なんすから、営業時間とか関係ないっす!まず自分たちが助かってから、後で謝るなりお礼すればいいはずっす!話せば分かってくれるはずっすよ。
「だれかいないっすかー?すいませーん!」
カウンターにも誰もいないっすし、ジムの中の方まで探しに行ってみるっす。結構しっかり設備が整ったジムみたいで、サウナルームやシャワー室はもちろん、診療所の案内まであったっす。ここならトレーニングから体育大会まで全部できるっすね!急な不調や怪我にも対応できるなんて、スポーツマンにとっては天国っすよ!
少し低くなった床まで階段で降りると、かなり広い空間が広がってたっす。ランニングマシーンやベンチプレス、チェストプレスマシンなんかはよくあるやつっすけど、ラットプルダウンマシンもアブダクションマシンも、レッグプレスマシンもあるじゃないっすか!特別珍しいものでもないっすけど、やっぱり見つけるとテンションあがるっすね!
「こりゃすごいっすね!感動するっす!」
「また泣きそうになってるわよ皆桐君。それにしても・・・」
「あっ、す、すいません勝手にテンション上がってました!あんまり得意じゃない人もいるっすよね!」
「そういうわけじゃ・・・」
一応窓はあるっすけど小さくて、なんとなく空気がこもってたっす。それもまたジム特有の雰囲気なんすけど、隣で顔をしかめて口元を押さえる正地さんを見て、正気に戻ったっす。やっぱり女性でこういうところが苦手な人っているっすもんね。見たところ人もいなさそうっすし、他の所を探そうと思ったところで・・・。
「おらぁっ!!」
「ほぎゃああ!?」
「!?」
「あれ?」
いきなり横っ面に何か飛んできたっす。飛んできたって言うか、投げつけられたっす。頭の中にゴスッて鈍い音がして、同時に冷たい感じもして、それ以上に普通に痛くて、変な悲鳴をあげてしまったっす。
「ったあ〜!」
「み、皆桐君!?大丈夫!?」
「あ・・・ご、ごめんなさぁ〜い!やっちゃったあ!」
「な、なんなんすかいきなり!?」
とっさに手すりに掴まったからよかったようなものを、危うく階段から落ちるところっすよ!足下に転がってたのは、冷やされて水がついたスポーツドリンクのペットボトルだったっす。こんなものちょっとした鈍器じゃないっすか!いきなりこんなもの投げつけるなんてどんな野蛮人っすかと思ったら、慌てた様子で謝ってきたのは意外にも女の子だったっす。
「ま、ま、間違えちゃったのぉ!怪我してないですか?んもう、たまちゃんったら本当にドジなんだから・・・!本当にごめんなさぁい!」
「今の、あなたがやったの?」
「何をどう間違えたらいきなりペットボトル投げつけるんすか!?」
「ふえぇ、ご、ごめんなさい・・・!怒らないでくださいぃ・・・!」
「うう・・・」
紫色の髪の毛に大きなリボンをつけて、足には底が厚いブーツを履いてたっす。ピンク色で白いふわふわのついた温かそうな服を着ていて、可愛らしい格好をしてるんすけど、このジムの中ではメチャクチャ浮いてて場違いな感じがしたっす。
ペットボトルをぶつけられた頭を撫でられて涙ながらに謝られると、これ以上こっちからは何も言えなくなってしまうっす。なんかズルい気がするんすけど。
「あ、で、でもよかった!あいつ以外にも人がいたんだ!たまちゃん、ほっとしたよ!」
「あいつ?たまちゃん?」
「もしかして、あなたも気付いたらこの辺にいたの?」
「そうなの。こんなむさ苦しいところ、たまちゃんは知らないの!もっとふわふわであったかくて甘い良い匂いがするお部屋ならまだしも、誰の汗が染み込んでるか分からない雑菌だらけのベンチなんかで寝てたの!お風呂入りたいよ〜!」
「お、落ち着いてほしいっす!一旦話を整理しないと何がなんだか・・・」
泣きそうで泣かないギリギリ感を漂わせたまま、その子はピーピー騒ぎ始めたっす。お風呂入りたいと言われても、自分たちもこの辺のことはまだ全然分からなくて戸惑ってるところっす。女の子にしては背が少し高いのに、性格が子供みたいでなんとなく扱いに困るっす。
ひとまず、スポーツドリンクを冷やしてるクーラーボックスがあったんで、そこから冷たいのを取って飲みながら整理することにしたっす。その子が言うには自由に飲んでいいらしかったんで、遠慮無くいただくっす。
「私たち、この施設のことを知ってる人を探してるの。私はあっちのプールで、皆桐君は外のグラウンドで目を覚ましたみたいなの」
「ってことは、たまちゃんと同じ?・・・ちっ」
「ん?」
「ねえ、もしかして二人も、“超高校級”だったりするの?」
「『も』ってことは、もしかしてキミもっすか?」
やっぱり、って感じっすね。この子もどうやら希望ヶ峰学園の生徒みたいで、“超高校級”の“才能”を持ってるみたいっす。
「じゃ、自己紹介!はーい!あなたのハートをブレイクショット♫心コロコロ手球にしちゃうぞ♡みんなのハスラーアイドル、たまちゃんですっ☆」
「たまちゃん・・・?」
「ああ、私知ってるわ。テレビとかも出てるわよね?」
「そうなんすか!?テレビっすか!?」
「たまちゃんはアイドルだからねっ。ハスラーアイドルなんだよ!」
「ハスラーってなんすか?」
「ビリヤードが得意な人のことをハスラーっていうんだよ。すごいんだよたまちゃん!ビリヤードで負けたことないの」
「それは分かったけど、たまちゃんって愛称よね?あなた本名は?」
「え〜、それはヒ・ミ・ツ♫アイドルには秘密の一つや二つあるものでしょ?」
「でも状況が状況だから、自己紹介もきちんとしておいた方がいいと思うの」
「・・・っぜ」
「え?」
「ダァーメ!それは、禁則事項です!」
いや、アイドルだから本名教えないって。そりゃ分かるっすけど、状況が状況なんだから正地さんの言う通りっすよ。それでもたまちゃんさんは頑なに名前を教えることを拒否し続けるっす。アイドルのイメージを損なう以外に、何か不都合があるんすかね?
「それじゃ、自己紹介も終わったし、いつまでもこんなところいないでどっか行こ」
「え、ああ・・・でも、どこに?」
「どこでもいいよ。この建物出て、なるべく遠くに行った方がいいと思うな。もっとたくさん人がいるところ行こうよ」
「人がいるの?ここがどこか、あなた分かってるってこと?」
「・・・ぇな」
「え?」
「たまちゃんもさっき起きたばっかりで分かんないのぉ〜!でもこの建物出た方がいいよ!」
「なんでっすか?なにか焦ってるんすか?」
「なんでもいいから早く!早くしないとあいつが戻ってくる・・・!」
「待たせたなヌバタマよ!!」
「!!」
妙に建物から出ることをせがむたまちゃんさんに戸惑ってると、さっき自分たちが入ってきた入口から、今度は男性の声が聞こえてきたっす。なんというか、物凄く自信に満ちあふれているような、なんとなく凄い人なんだって思わせるような声だったっす。その声が聞こえた瞬間に、たまちゃんさんの顔が一気にしかめっ面になったっす。自分と正地さんが声のする方を見ると、これまた妙な格好の人が立ってたっす。
「やはり診療所には何も手掛かりはなかったな。無論、この周辺には貴様が期待するようなものはシャワー室以外に何もない。しかし建物の外に行けばまだまだ・・・ん?ふむ、貴様、そいつらはどうした?なぜ貴様風情が俺様より手柄をあげている?」
真っ白な髪をかき上げながら、まるで劇の一部のように高らかに語りながら階段を降りてきて、自分たちを見つけてまた芝居がかった動きでにやりと笑ったっす。首から下は黒いコートに黒いズボン、黒いブーツなんて真っ黒くろすけで、言葉尻が物凄く取っ付きにくい感じがしてくるっす。
「知らねーよ、こいつらが勝手に来ただけだっつーの。つうかあんた、あたしのことはたまちゃんって呼べっつったろ。耳クソで鼓膜コーティングされてんの?」
「「たまちゃん!!?」」
「なるほど。これは意外だったな。まあいい何も言うな。凡俗などに余計な時間を割くことはしたくない。左腕を出せ」
「な、なんすかあんた!?」
「出せ」
その人が出てくると、たまちゃんさんの口調と声色が急に変わって、さっきまでのアイドルっぽかったしゃべり方と違う乱暴な言葉や暴言が出て来て物凄くびっくりしたっす。しかも白髪の人は自分たちに有無を言わさず腕を出させる。そこで始めて気が付いたっすけど、自分の腕にも正地さんの腕にも、変な腕時計みたいなものが付いてたっす。よく見たらたまちゃんさんもその白髪の人も、同じものを左腕に付けてるっす。
「な、い、いつの間にこんなもの・・・?」
「ほう、貴様らも“超高校級”か。皆桐亜駆斗と、正地聖羅・・・ふむ、『日焼け』と『エプロン』でいいだろう」
「日焼け!?」
「エプロン!?」
「そいつ、人にテキトーな仇名付けて呼ぶよ」
「ふん、凡俗どもが俺様に名を授かったことで感激の涙を流してもいいのだぞ?特に日焼け、貴様相当な泣き上戸だろう。涙を耐えるのは身体に悪い、泣け」
「いや泣けと言われても」
「泣け」
「自分に選択肢はないんすか!?」
命令されたのとは違う涙が出たっすけど、それで一応は納得して貰えたみたいっす。それにしてもなんなんすかこの二人?一人はまともに名前を教えてくれないアイドル、もう一人は変な仇名をつける高慢ちき。変態っすか!?変態なんすか!?
「凡俗どもだけ自己紹介して、俺様たちがしないというのも不公平だな。おいヌバタマ、貴様も左腕を出せ」
「あんた絶対殺すから」
もうさっきまでのたまちゃんさんはどこに行ったんすか?目つきまで変わってきたっす。人によって態度を変えることがあるとは聞いたことがあるっすけど、もはや人格変わってるっすよこれは。女の子って怖いっす・・・。
そんなことを考えながら泣いてたら、その二人も左腕を出して、白髪の人が2人分の腕時計みたいな機械の画面を指で操作したっす。時間が表示されてた画面が後ろに消えて、代わりに機械を付けてる人の顔写真が表示されたっす。
「こいつはヌバタマ。面白い名前だろう?だから特別にそのままの名前で呼んでやっているのだ」
『“超高校級のハスラー” 野干玉蓪(ぬばたまあけび)』
「だからそのダセえ名前で呼ぶなっつってんだろ白髪!」
「優れた人物は若白髪になりやすい、稀代の傑物であれば一本残らず白くもなるというものだ」
「そう、野干玉さんっていうのね」
「んぐっ・・・!だから!その名前で!呼ぶなコラァ!!」
「だからたまちゃんって呼ばせたがるんすね」
「だってそっちの方がカワイイでしょ?ね、だからおねがい、本名のことはヒミツにして?」
「秘密にするのはいいっすけど、その感じもう通用しないっすよ」
「あっ・・・!こ、このことも!アイドルってイメージが大事なんだから、こんなの知られたらあたし・・・!」
「当然、俺様は貴様の地位になど興味が無い。そのキャラクターが貴様の『商品』ならば、それを破壊する理由がない」
「元はと言えばテメエがあたしの本名を強引に調べたのが原因だろうがアァン!!?白髪全部引き千切って食わせんぞ!!」
「1回キャラが崩れたらもう容赦ないわね・・・」
「まあ凡俗同士仲良くしてやるといい。そして、この面子では少々浮いてしまうかもしれんが、俺様の名を教えてやろう」
『“超高校級の神童” 星砂這渡(ほしずなはいど)』
どうやらこの機械、ただの腕時計じゃないらしいっす。いつの間に付けられたのか分からないっすし、なんで自分の写真なんか表示されてるのか分からないっすけど、一人一人が付けてるってことは、これは自分のものってことでいいんすかね?
「一生忘れられない名だ。ありがたく覚えろ」
「ずいぶんな自信家なのね。“超高校級の神童”って、どういう“才能”なの?」
「万能の才能、天才を超越した天才、人類の最高傑作、それがこの俺様だ。俺様にできないことはない」
「なるほど、分かんないっす!」
「凡俗には理解できんだろう。分からんことを話しても仕方がない」
「っていうか、あんた診療所行ってたんでしょ」
「なんで診療所なんかに行ったんすかね?」
「俺様が目覚めた場所がそこだからだ。貴様らも別々の場所で目覚めたのだろう?」
どうやら自分たちと同じか、それ以上の情報を星砂さんは持ってるみたいっす。この妙な機械を躊躇なく操作してたっすし、もしかしたらこの状況や場所について何か知ってるんすかね?でもなんか偉そうな態度だから聞くに聞けない感じで・・・。
「ふむ、ここがどこかは俺様にも分からない。情報が少なすぎる」
「だから外出ようって言ってんでしょ」
「自分はグラウンドにいたんすけど、この建物を出た先にもまだ道があったっすよ」
「なるほど。俺様たちが目覚めた場所を考えると、この先の建物などに、同じ状況の者がいる可能性も考えられるな」
「4人も“超高校級”がいるんだから、きっと大丈夫よ。行ってみましょう」
「俺様と貴様ら凡俗を同列に語るな。そんな称号など、俺様にとってはあって当然のものなのだ」
「ホンットめんどくさいこいつ」
やっとのことで、全員で外を探索することに決まりかかったとき、ふと、自分たちの腕につけた機械がブルブル震えた。
「!」
どうやら全員のものが同じように震えたらしく、みんなそれぞれの機械に目をやってたっす。自分も自分の腕を見ると、また画面は変わって、三角形と赤い点滅が表示されてたっす。そしてジム内に響く妙ちくりんな音楽。そしてその後に続く放送のせいで、自分のまとまりかけてた考えがまた掻き乱されてしまったっす。
『オマエラ!おはようございます!ただいま、地図に表示された場所に、至急集合してください!オマエラ!おはようございます!ただいま、地図に表示された場所に、至急集合してください!』
連日投稿に挑戦!!ギリギリですが。
今作のキャラも濃ゆ〜く濃ゆ〜く濃縮してますので、その一部分でも気に入っていただけたらなと思います。