ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

23 / 66
学級裁判編2

 

 うぷぷのぷ〜!オマエラ!おはようございます!毎度お馴染みモノクマによるミニコーナー『前回の学級裁判!』だよ!ぶっちゃけ前回は思ったよりも展開が進んでなくてびっくりしたんだよね。もっと先まで進めるかなと思ったんだけどなぜか長くなっちゃうんだよね。それもこれもあいつらが無駄に話を盛ったり、色んなヤツが自分勝手にウソ吐いたり思わせぶりなこと言うからだよね!こまったこまったこまどりキラー、なんつって!

 

 さてさて、今回の被害者は“超高校級のDJ”城之内大輔クン!ボクが配った動機『悪夢』に対して、寝なけりゃいいじゃんって安易な対策を考えた上に、そのパーティの真っ最中にぶっ殺されてしまいました!今回はその殺し方がとっても斬新でエグいのが特徴的でしたよ。大晦日に鳴らす鐘の前に縛られて、撞木で何回も頭をどつかれるなんていう、拷問としてもやり過ぎな殺し方だよねえ。完全に中身こぼれちゃってたし!うぷぷぷ!メタいこと言うけど、色んなコロシアイがある中でも指折りのエグさだよね!そう自負しております!

 裁判はまず城之内クンを捕まえて縛り上げられる人に容疑がかかりました。スニフクンを除く男衆に疑惑がかかるけど、そこにまさかの極サン投入!彼女の腕っ節に敵う人なんて、単純な筋肉量では鉄クンくらいでしょうね!早くも犯人候補が絞られてきたと思いきや、実は城之内クンは自らの意思でお寺まで来たということが、モノヴィークルの履歴から判明しました!

 そしてそこから裁判の流れは右往左往し、いつの間にか城之内クンが犯人に捕まって拘束されてから実際に殺されるまで間が空いてることが明らかになりました。城之内クンを捕まえた犯人はなぜその場で殺さなかったのか?なぜパーティが始まる時間まで城之内クンを放置してから殺したのか?その答えにあの白髪えばりんぼ──もとい星砂クンが弾き出した答え、それは『アリバイトリック』でした!犯人は夜中のパーティに出席していたというアリバイの元で城之内クンを殺したと主張する星砂クンの主導により、全員のアリバイについて考えることになりました。この時点でもう長くない?

 

 キネマ館でパーティに参加してたメンバー、演芸場でリハーサルをしてたメンバー、ホテルに籠もってたメンバー、その全員に事件当時のアリバイが証明され、ここで議論は一度ふりだしに戻ってしまうのでした!延々議論し続けてふりだしに戻るこの台無し感!無意味さ!もったいなさ!こうして人はどうでもよくなっていくんだね・・・うぷぷ♫

 

 だけどそこでへこたれるようなあいつらじゃなかったんだ。伊達に一回学級裁判を乗り切っちゃいないね。その後の議論は、事件直前まで城之内クンの近くにいた野干玉サンと虚戈サンの二人のアリバイを追及する展開になっていきました。そこで明らかになった野干玉サンのウソ!怪しまれたくないからってウソなんか吐いたら学級裁判で不利になることくらい分かるだろーよ!バカな女だよねー!案の定ウソ吐いたことを追及したら本人は泣き出すし全員から疑われるし、引っかき回してくれるよねー!

 そして混沌とした裁判の流れに待ったをかけたのは、我らが主人公のスニフクン!裁判中はみんなの言葉を理解するのに一生懸命で言葉数は少ないけど、やるときはやってくれるよね!まあ戦犯にならないように気を付けてね。うっぷっぷ♫

 イージョウッ!!⊂(・∀・)⊃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まさかですけど・・・たまちゃんさん犯人(クロ)じゃないってプルーヴできるかもです!」

 

 スニフの放った言葉は打ち上がる花火の音を従えて裁判場を打ち叩いた。スニフを見る全員の顔は、色とりどりの光に照らされて色を潜める。期待、困惑、猜疑、興味、恐怖、不安、希望、絶望・・・続くスニフの言葉を全員が待った。

 

 「マイムさん。ダイスケさん見つけたときのこと、ワンモア、おしえてください」

 「いいよ♡んっとねー、ダイスケが全然戻って来ないからたまちゃんとマイムで一緒に探しに行ったんだよ♫お寺の横を通りがかったときにマイムは血生臭〜いのに気付いてダイスケのところまで行ったんだ♢その後でたまちゃんもダイスケのところ来て、びっくりして腰抜かしちゃったんだよね〜♡」

 「全体的に軽い・・・もうちょっと深刻そうにさあ・・・」

 「それってことは、マイムさんとたまちゃんさんはセイムタイム、ダイスケさん見つけたってことですか?」

 「ちょっとラグはあったと思うけど、そんなに変わんないんじゃないかな?」

 「それがどうしたの?何か閃いたのスニフ君?」

 「・・・みなさん、ちょっとボクのエクスプレッション、イングリッシュがまざってディフィカルトだと思います。ごめんなさいですけど、がんばってボクのプルーフロジック、きいてください」

 「い、いよぉ・・・仰っている事は分かりますが、いよはもう既について行けなさそうな気がしてなりません・・・」

 「オレもだ・・・」

 「理解できん者は捨て置けばいい。他の凡俗は知らんが、少なくとも俺様は理解してやろう」

 

 スニフが頭の中に思い描く論理、そしてそこから導き出される結論は、しかし今のスニフの日本語能力では十分に説明ができなかった。それでも説明しなければならない。故にスニフは、全員に予め忠告する。悔しい気持ちを堪え、やるせない気持ちを押し殺し、必死に伝えようと説明する。

 

 「みなさん、『死体はっけんアナウンス』は知ってますか?」

 「し、死体発見アナウンス・・・?なんだ、その物騒な名前は」

 「・・・例の放送か。私たちがキネマ館で聞いた」

 「はい。モノクマが言ってました。ボクたちの中のだれか3人死体見つけるとアナウンスします。だからダイスケさんの死体、3人に見られてます」

 「3人?なぜ3人なんだ?1人が見つけたらアナウンスでいいだろ」

 「それは、公平を期すため、とだけ答えておきます!」

 「ねえモノクマ。その3人の中に、犯人って含まれるの?」

 「ケースバイケースって言っときます!シロとクロが平等に学級裁判に臨めるように、ボクなりに状況に配慮してカウントするかどうかを決めます。でもどっちにしたかは教えてやーらない!」

 「ちょっとでもモノクマに期待した私がバカだったわ」

 「だけど、ダイスケさんの死体3人が見てるなら、たまちゃんさんとマイムさんノットギルティ言えます」

 「んん?分かりそうで分からない・・・なんでだよスニフ?」

 

 移動式玉座に腰掛けて腹を抱えるモノクマに、ほとんどの面々が頭を抱える。死体発見アナウンスという新たな要素を全員が把握するが、それが何を意味するのか、なぜ野干玉と虚戈の容疑が晴れるのか、そこまで一度に整理して考えることができる者は少ない。

 

 「もしたまちゃんさんとマイムさんのどっちかが犯人(クロ)のとき──」

 「はっ!?ちょ、ちょっと待ってよスニフくん!たまちゃんは犯人じゃないって言ったじゃん!なにそれ!?」

 「たまちゃん焦りすぎ♡」

 「いよぉ、お気持ちは分かりますが。スニフさん、お先をどうぞ」

 「えっと、もしどっちか犯人(クロ)で、アナウンスのカウントに犯人(クロ)を入れてたとします。そうすると、たまちゃんさんとマイムさんじゃないもう一人、ダイスケさんの死体を見つけた人がいます。だけどその人は、犯人(クロ)じゃないのにそれかくしてます。おかしくないですか?」

 「ふむ・・・クロでなければ事実を隠匿する必要がない、というだけか?」

 「というより、死体を見つけたのに誰にも知らせないっていうのが、犯人じゃない人だとおかしな行動だよね」

 「もしカウントに犯人(クロ)を入れてないんなら、そのときはたまちゃんとマイムさんのどっちも犯人(クロ)じゃないってなります。どっちか犯人(クロ)なら、もう二人、ダイスケさんの死体を見つけたのにだれにも言ってない人がいることになります」

 「それは・・・ますますわけ分かんないな。犯人以外に二人も隠し事してるヤツがいるんじゃ、まともに議論なんかできないぞ」

 「ちょ、ちょ、ちょっと待てスニフ!いやみんな!今の話をまとめると・・・つまりここには──」

 「少なくともクロ以外にもう一人、ウソを吐いている者がいる。野干玉と虚戈が見つけるより前に、城之内の死体を見た者が」

 

 拙いながらも必死に日本語で論理展開するスニフに、極と雷堂は理解を示しながらも不理解の表情を浮かべる。焦る鉄に代わって、極がその先を口にする。それは、裁判場を覆う疑心暗鬼を更に加速させる事実だった。そしてその事実は、城之内を殺した当人、クロにとっても不測の事態であった。

 

 「クロじゃないのにウソ吐くなんてことがあんのかよ!?」

 「ウソって言うか、隠し事だよね?そんなに大袈裟なことかな?」

 「言わなくちゃいけないことを言わないなんて、クロじゃなかったらそんな無責任なことないわ」

 「だ、だ、だれなのよ!命懸かってんのにウソ吐くなんてどういう神経してんのよ!」

 「たまちゃん氏よくそんなこと言えるねえ・・・」

 「・・・疑いたくはないが、確かにスニフの論理に間違いはないよな。その目星とか付いてるのか?」

 「Uh・・・Yes」

 「いよっ!?ま、真ですか!?」

 「言います。ウソをついてるのは──!」

 

 疑心暗鬼とモノヴィークルが加速するにつれて全員が互いを猜疑の視線で突き刺す。巡る裁判場を照らす光が全員の顔色を宵闇に浮かび上がらせ、焦燥や恐怖を彩る。しかしその中でスニフだけは、明確な結論を持っていた。この議論の間、更に言えばその前から、ずっとウソを吐き続けている者が一人いる。スニフはその人物を、ゆっくり指さした。

 

 【人物指名】

 スニフ・L・マクドナルド

 研前こなた

 須磨倉陽人

 納見康市

 相模いよ

 皆桐亜駆斗

 正地聖羅

 野干玉蓪

 星砂這渡

 雷堂航

 鉄祭九郎

 下越輝司

 荒川絵留莉

 城之内大輔

 極麗華

 虚戈舞夢

 茅ヶ崎真波

 

 

 

 

 

 

 

 「──ハイドさん。あなたです」

 「!」

 

 スニフの指の動きに合わせて、モノヴィークルは速度を落とす。円形の裁判場は半円に形を変え、糾弾される罪人の如く星砂をその中心に据える。前方180度をヘッドライトのハイビームに照らされて、全員の視線が強制的に星砂へと集う。完全に標的にされたその状況でも、星砂はまったく落ち着いていた。

 

 「ハイドさん。あなたは、クラストライアルの前から、ずっとボクたちにウソついてます」

 「・・・くくく、子供。貴様に理解できるとは思っていないが、言ってやる。『笑止』と!」

 「しょ・・・?」

 「バカバカしくて笑えるってことだよ」

 「俺様の発言の一体何がウソだと言うのか。俺様がいつウソを吐いたというのか!貴様のことだ、それなりの論理を用意しているのだろう。聞かせてみろ!」

 「これを論破するのは骨が折れそうだな」

 「スニフ氏、大丈夫なのかい?」

 「だいじょぶです。ハイドさん、先言います。わすれたなんてナシですよ!」

 

 余裕の表情を浮かべる星砂に、スニフの方が緊張してくる。責める者が責められる者に圧倒される奇妙な構図に、それでもスニフは立ち向かう。退けば自分だけでなく、自分を頼りにしている全員の命を危険に晒すことになると知っているから。

 

 

 【議論開始】

 

 「ボクたちが死体はっけんアナウンスをムービーシアターできいたあと、ハイドさんが来ました」

 「確か、捜査しに来たって言ってたね」

 「ああ。少々あの場所に気になることがあってな」

 「そのときハイドさんは、ボクたちにどこに死体があるか知ってるって言いました」

 「事実知っていたからな」

 「死体のある場所を知っていた?ならばそれが死体を発見した証明になるのではないのか?」

 「ふん、これだから凡俗共は。貴様らの中の誰一人として気付いていないとはな。あのアナウンスに隠されたヒントに」

 「ヒント?ヒントなんかあったのか?」

 「愚問だな!この広いモノクマランドで、どこに死体があるかなど情報も無く探し当てられるはずもなかろう。死体発見アナウンスには、どこに死体があるかを示すヒントが隠されている!」

 「That's wrong!それはちがいます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 威勢よく放った星砂の言葉を、スニフが真っ向から否定する。スニフの思惑通り、星砂は自ら土壺に嵌まっていった。正攻法では隙を見せない星砂に対抗するため、スニフが仕掛けた誘導に星砂はまんまと乗った。だがそれが全て分かった上でなのか、或いはスニフの策が見事に功を奏したのか、それは星砂本人にしか分からない。

 

 「ハイドさん。そんなチープなロジック、いいえ、ロジックでもないただのインチキじゃ、ボクはナットウしません」

 「納得でしょ?」

 「あっ、それでした・・・」

 「・・・安いインチキ、だと?何を言っている、子供」

 「死体はっけんアナウンス、死体あるポイントのヒントなんかないです。ホントに、死体が見つかったことだけおしえてくれます」

 「それは貴様の凡庸な脳で考えた結果に過ぎんだろう!この俺様が気付いたと言っているのだ!或いは貴様にできるのか!?ヒントが“なかった”ことの証明が!」

 「ないことの証明ってえ・・・そりゃあ悪魔の証明ってヤツだよお」

 「No。デビルズプルーフちがいます。ヒントがあるかは、アナウンスした人にきけばいいんです。でしょう、モノクマ!」

 「ド、ドキィッ!?話聞いてなかったけど名前呼ばれたから驚いてみました!」

 「適当だな!?」

 

 話を大きくし、軸をずらして逃れようとするも、一度標的と認識したスニフからはそう簡単に逃れられない。苦し紛れに飛び出した悪魔の証明さえも、スニフにとっては単なる事実の照合で解決される。その鍵を握るモノクマは、立会人にあるまじき発言で返す。

 

 「死体はっけんアナウンスのことおしえてくれたとき、ボク言いました。あのアナウンスじゃ、死体どこあるか分かんないって」

 「そうだっけ?ボクはいちいちそんなことまで覚えてないなあ。なんてったってキミたちの監督役として忙しい立場なわけですから!」

 「ええ、確かに言ってたわ。そしたらモノクマったら、逆ギレして逃げたのよ」

 「監督役として最低の態度だな」

 「それがどうした。子供、貴様ではアナウンスの真の意味に気付けなかったというだけの話ではないのか?」

 「No、そうじゃないです。もしもアナウンスでどこに死体あるか分かるなら、モノクマはアングリーじゃないです。でもモノクマはアングリーでした。それはだから、ボクにつかれたからじゃないんですか!」

 「・・・つかれたって、何が?」

 「その・・・アレです!ずぼ、し?」

 「うん、合ってるよ。モノクマは図星を突かれたから怒ったんだよね」

 「.。゜+.(゜∀゜*)゜+.゜。ヤタッ」

 「今更スニフさんの日本語の間違いなど気にする方は居りませんよ。心配せずとも」

 「つまり、モノクマがその意図なくしてアナウンスした以上、あのアナウンスに死体の位置情報など含まれていなかったということか」

 「ふーんそうなんだ♣じゃあハイドはなんでそんなウソ吐いたのかなあ?」

 「・・・」

 

 おそるおそる覚えたての日本語を口にしながら不安げに研前を一瞥した。研前は優しく微笑んで言いたいことを伝え、改めてスニフはびしっと決めた。そして同時にウソを追及された星砂は、しかしその程度ではまだ揺るがない。

 

 「ふん、そこの似非パンダがどんな態度を取ろうが知ったことか。まあそれを聞いて、あの手掛かりがモノクマさえ意図しない形で混入したものだということは分かったがな」

 「なあ星砂、だったらどうやってあの放送で死体の場所が分かったか教えてくれないか?」

 「・・・まあいいだろう。今となっては隠す意味もない。あの放送には、モノクマの意図しなかった情報が紛れていた。死体の在処を示す、『音』がな」

 「音?」

 

 あくまで死体の在処はアナウンスで知ったと言い張る星砂に雷堂が踏み込むが、それを予想できない星砂ではなかった。しっかり答えを用意し、自信満々に言ってのける。

 

 「釣鐘の中に風が入って鳴る音、死体の重みで麻縄と木製の梁が軋む音、周辺の木の葉が擦れる音・・・微かにではあったがそれを聞き取って推理したに過ぎない。モノクマだか黒幕だかが死体の側で放送したのだろう」

 「そ、そんな音したか・・・?全然気付かなかった」

 「死体発見ばかりに意識が向いて、そんな周囲の音なんぞに注意する余裕はなかった。本当にそれを聞き分けたというのか?いまいち信じられんが」

 「信じられないというのなら、説明してみろ。俺様がアナウンスから死体の在処を見つけられなかったということを。あのアナウンスには死体の位置情報など込められていなかったという証明を!」

 「ま、また悪魔の証明ってわけかい?そんなことできるわけないじゃあないかあ!」

 「モノクマに言わせちゃえばいいんだ!ちょっと!なんとか言いなさいよアンタ!」

 「残念でした♫ボクは学級裁判の立会人、議論に参加することはできません。だから証言することもできませーん!」

 「いよっ!?然うなのですか!?ま、まさか星砂さんは其れすらも加味して・・・!?」

 「いずれにせよ貴様の論は立証不可能。俺様の言葉を疑うことはできない、ということになるな。実に呆気ない。この程度か?」

 「ハイドさん、ごまかさないでください」

 

 12人から同時に疑惑の目線と尋問の猛攻を受けても星砂は動じず、逆に尋問側に悪魔の証明を課して自らの論の正当性を主張する。ウソを吐いている疑惑が濃厚な以上、尋問側が崩れるわけにはいかない。ため息を吐いて呆れる星砂に、スニフが次なる手を打った。

 

 「誤魔化す、だと?この俺様が、貴様ら凡俗共を相手に逃げの手を打ったと言うのか?」

 「だって、いま大事はハイドさんがダイスケさんの死体いつ見つけてたか、です。どう知ったか、は大事ちがいます」

 「だから死体発見アナウンスで在処を知ったと言っているだろう」

 「それはちがいます。ハイドさん、アナウンス前にビッグテンプルにいたんです!エビデンスだってあります!」

 「証拠、だと?」

 

 

 星砂が鐘楼付近にいた証拠は?

 A.【翡翠の皿)

 B.【モノヴィークルの履歴)

 C.【ボタン)

 D.【拘束具)

 

 

 

 

 

 

 

 「これです」

 「それは・・・私が境内社で見つけたボタンではないか」

 「ちょっとすまん。境内社ってなんだ?」

 「本社に祭られている神と縁故のある神やものを祭っている、小さな社のことだ。あの寺には確かにいくつか境内社があったな」

 「すごーいサイクロウ♡物知りなんだねー♢」

 「・・・」

 

 万歳をしながら喜んで褒める虚戈に鉄は照れて目を逸らす。スニフが取り出した黒いボタンを見やすくするように、どこからともなく飛行型スポットライトマシーンがやってきてスニフの頭上を取り囲む。

 

 「ハイドさん、これ、あなたのボタンじゃないですか?だってボクたちに、ハイドさんじゃなくてブラックのボタンあるふく来てる人いないです!」

 「で?」

 「え?」

 「それがなんだというのだ?それが俺様のボタンであったとしても、アナウンスの後に俺様は貴様らに連れられて現場に行ったのだ。その時に落ちたのだろう。盛り髪には乱暴を働かれたからな」

 「チキンウイング程度だ。言うほどのことはしていない」

 「極さん!それ十分乱暴してるから!」

 「でもボクたちとダイスケさんのところ行ったとき、ハイドさんはベルタワーのとおいところしか来てません。ケイダイシャ、ベルタワーの近くだったのに!」

 「ならばアナウンスを聞いてから死体を確認しに行った時に落としたのだろう!既に捜査を開始していたのだからどこかにボタンを引っかけることくらいあろう」

 「アナウンスからハイドさんがボクたちに会うまでほんのちょっとです。ベルタワー行ってしらべて来るのなんて間に合わないです!」

 「ええい往生際が悪いぞ子供!とにかく!その程度のことで俺様を屈服させようなど甘いというのだ!これ以上何もないのならいい加減に──!」

 「まだあります。ハイドさん、あなたのウソのエビデンス!」

 「!?」

 

 強引に話を終えさせようとする星砂に、スニフは今一歩食い下がる。明らかに星砂の表情が変わった。スニフのしつこさに苛立ち、焦り、困惑し始めている。拙い証拠だと一笑に付すが、じわじわと追い詰められていることの表れだ。少しずつ必要な情報を並べ、最後の結論までの道筋を作る。複雑な等式の証明をするように、結論への最後の一手をスニフは撃った。

 

 「ハイドさん。おしえてください。なんでさっき、ミュージアムにいましたか?」

 「・・・?質問の意味が分からんな。下らん問答に付き合うつもりはない」

 「見たいものあったんじゃないですか?どうしてその話しないですか?」

 「なんだスニフ?何か重要な手掛かりでもあったのか?」

 「おしえてください、ハイドさん。あなたは知ってます。とても、とても大事なことを!」

 「ど、どうなんだよ星砂!」

 

 敢えて疑問系の言葉を投げることで、星砂が発言しなければならない流れを生み出す。平時の星砂ならば軽くいなせたものを、追い詰められ始めた今となっては12の視線は鋭く突き刺すような感覚を与える。無意識に歯を食いしばり、額に汗が滲む。星砂は、小さく舌打ちして口を開いた。

 

 「冗談はやめろ」

 「──は?」

 

 

 【議論開始】

 

 「き、貴様ら・・・本気で言っているのか?おい、俺様をあまり困らせるな。凡俗といえど仮にも超高校級の肩書きを有する者たち、多少はマシだと思っていたが、まさかここまで格差があるとは・・・。俺様はいよいよ呆れも通り越して恐ろしくなってきた」

 「──は?」

 「熟々俺様は思う。貴様ら凡俗共は眼を開けば見えるのに眼を開かず、自然に聞こえてくる音を聞き分けず、考えれば分かるものを考えようとせず、而してその全てができる者を天才と呼び讃え、或いは妬む。実に理不尽で不条理で非合理で無理解で反知性的であるッ!!」

 「ど、どうしたの星砂くん・・・?言ってる意味が・・・」

 「なぜ博物館にいたかだと?なぜ陳列された美術品を見ていたかだと?なぜその話をしないかだと?決まっているだろうッ!!鐘楼に遺された決定的な手掛かりが・・・被害者のダイイングメッセージがあったからだッ!!」

 「That's strange(それはおかしいです)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 オーバーな身振り手振りで向けられた疑惑を振り切り、強引に自分の優位を主張して逃れようとする星砂。意を決した大声はしかし、冷静なスニフの一声でいとも簡単に下された。その瞬間、星砂は理解した。スニフが自分を名指しした瞬間から、全てはこの一言を引き出すための下準備に過ぎなかったのだと。

 

 「ハイドさん。おかしいです。そんなはずないです」

 「・・・!何が、おかしいと言うのだ・・・!」

 

 その言葉は敢えて言ったのか、それとも苦し紛れにそう言うしかなかったのか。食いしばった歯の隙間から溢れた星砂の言葉は、次のスニフの言葉を促す働きをした。

 

 「ハイドさん、アナウンスあとにダイスケさんの死体見たら、ダイイングメッセージなんて言わないんです」

 「・・・!」

 「だって、ダイイングメッセージは・・・!」

 「お、お待ち下さい!一体何のお話をしているのですか!?いよには何が何だか全く・・・!」

 「俺もだ。ダイイングメッセージ?鐘楼にそんなものあったか?」

 「そんなもの、私は聞いていない。鐘楼には雷堂と虚戈と極、私は鐘楼の付近でずっと捜査していたが、ダイイングメッセージらしきものなど何も・・・!」

 「なん・・・だと・・・!?」

 「お、おいスニフ!星砂!なんでお前らだけそんなもの知ってんだよ!ちゃんと説明しろよ!」

 「ううん。二人だけじゃないよ」

 

 星砂の口から飛び出した、ダイイングメッセージという言葉。その意味するところは全員が理解できる。それほど強烈で犯人を示すのに十分な証拠が、今の今まで秘匿されていたことに、ほとんどの者は動揺と混乱を禁じ得ない。なにより、鐘楼を捜査していた者は数名いるにもかかわらず、それに気付いていないことが不可解だった。その理由は、スニフでも星砂でもない、別の口から語られる。

 

 「みんな、ごめんね。実は私も知ってたんだ。ダイイングメッセージのこと」

 「ッ!?と、研前・・・!?なん、で・・・!?」

 「ごめんなさい、雷堂君。私の──私たちのこと信じてくれてたのに、それを裏切るようなことして・・・」

 「お前が何の理由もなくその事実を隠すとは思えん。今ここで告白したということは、それを話す踏ん切りが付いたのだろう?」

 「うん。スニフ君、もう話していいよね?」

 「おねがいします」

 

 静かに手を挙げた研前に、スポットライトが向けられた。法廷で弁述するように、研前は一つ一つ思い出しながら告白する。

 

 「実はね、星砂君に連れられて城之内君の死体を見たとき、私とスニフ君で鐘楼に上がったの。そうしたら、城之内君の死体の近くに、血文字でダイイングメッセージみたいなのが書いてあったんだ」

 「いよおっ!?何ですとおっ!?」

 「でも・・・俺たちはずっと城之内の死体の近くにいたけど、そんなもの見つけられなかったぞ。むちゃくちゃ細かい字で書いてあったのか?」

 「ううん。すごく見やすかった。だけど、捜査時間にはもうそのメッセージは消えちゃってたんだ」

 「・・・話が見えんな。捜査時間前にあったメッセージが、捜査時間にはもう消えていたのか」

 「消えたっていうか、消されちゃった、の方が正しいのかな」

 「メ、メッセージが消されたって、それって消した人がいるのよね?だれなの?」

 「それは──」

 

 

 【人物指名】

 スニフ・L・マクドナルド

 研前こなた

 須磨倉陽人

 納見康市

 相模いよ

 皆桐亜駆斗

 正地聖羅

 野干玉蓪

 星砂這渡

 雷堂航

 鉄祭九郎

 下越輝司

 荒川絵留莉

 城之内大輔

 極麗華

 虚戈舞夢

 茅ヶ崎真波

 

 

 

 

 

 

 

 「虚戈さん、あなただよね」

 「ッ!!」

 

 研前は視線だけで、虚戈を示した。普段は場違いなほど明るく、迂闊なほど能天気で、危険なほど楽観的な虚戈だというのに、その研前の視線に対してはひどく怯えていた。気付けば先ほどから、口数がいやに少ない。

 

 「あなたが、ダイイングメッセージを消したんだ。血で書かれたメッセージの上に、更に血をぶちまけて」

 「あ・・・あわわ、あわわわわわ♠」

 「ちょっ・・・!?あ、あんたまさか・・・!ウソでしょ・・・?」

 「ほう。虚戈が?これは私も予想外だ」

 「ちょ、ちょっと待って♠待って待ってストップ〆ストーーーップ〆言っとくけどマイムはダイスケを殺してなんかないからね♣ただダイイングメッセージ消しちゃっただけだから♢わざとじゃないよホントだよ♠」

 「なぜ隠していた」

 「だってだってだって♣怒られると思ったんだもぉん×いけないことしたらなかったことにするか人のせいにするしかないんだよ×じゃないとマイムがオシオキされちゃうから×でも、スニフくんやこなたのせいにするのはマイムいけないと思ったんだ♫だってスニフくんはマイムの方がお姉さんだし、マイムこなたのこと好きだし♡だから隠すしかないかって思ったんだもん×」

 「申し訳なさそうにしてっけど言ってること最低か!」

 「その場で私もスニフ君も、一旦内緒にするって約束しちゃったの。だから虚戈さんだけを責めないであげて。やっちゃったのはしょうがないけど、隠してたのは私たちにも責任あるから・・・」

 「ぐすん☂こなたありがとう♡」

 「いや研前がそこまで言うことないと思うけど・・・まあ、今は隠してたことを責めてる場合じゃない。それより責めるべきヤツがいる。そうだろスニフ」

 「はい。ボクたちついてすぐ、マイムさんダイイングメッセージけしちゃいました。だから、アナウンスあとにダイスケさん見つけたなら、ハイドさんがメッセージのこと、知るなんておかしいんです」

 「・・・ッ!!」

 

 大きく回り道して、スニフは本題へ戻った。城之内の死体がスニフたちの目の当たりに晒されてすぐに消えたダイイングメッセージ。その存在を知るのは、消される前のメッセージを目にした者だけ。つまりアナウンス後に死体を発見したスニフと研前以外には、虚戈のようにアナウンスより前に城之内の死体を発見した者だけのはずだ。

 

 「メッセージがあること知ってた。それからそのメッセージの中身。それまで分かってるのは、ハイドさんがアナウンス前にダイスケさんを見つけてたことになるんです!まだ何か言い訳ありますか!ハイドさん!」

 「・・・」

 

 数々の小さな疑惑で自分とそれ以外の者による対立構図を作り上げ、露骨なほどの誘導で決定的な言葉を引きずり出され、終いには自分の吐いたウソを全てひっくり返す論理を平易な言葉で表す。真っ当で筋が通っていて合理的で分かりやすく理路整然とした説明に、星砂は──。

 

 「・・・ククッ

 

 ただ笑った。

 

 「ククク・・・そうか。道理で誰も博物館に来ないわけだ。まさかダイイングメッセージを消すなどという暴挙に出るとは・・・やはり凡俗の行動は予測不可能だな」

 

 目線を隠すように手で覆い、肩を震わせながらぼそぼそ言葉をこぼす。徐にレーザーが仄かに色づく夜空を仰ぎ、一つため息を吐いた。ほどける指の隙間から覗いた眼は、その表情は、その場にいた全員(特に虚戈)への感情を強く表していた。

 

 「これだから凡俗というモノは煩わしい」

 

 その表情は、不快感に満ち満ちていた。入念にプランした旅行計画を朝寝坊で台無しにされたような。丹念に作り上げた脚本を三流俳優のアドリブで台無しにされたような。そんな苦々しい苛立ちだった。

 

 「如何なるボンクラでもダイイングメッセージが強力な証拠であることは分かるだろう?クロが先に発見し隠滅したわけでもなく、消えてしまった事実を知らせるわけでもなく、ただ事故で消してしまい剰え隠蔽するとは・・・貴様ら本当にこの学級裁判に勝つ気があるのか?シロが裁判を掻き乱してどうする」

 「「お前が今一番言うなッ!!」」

 「みとめますね?ダイスケさん、アナウンス前に見たの」

 「勿論だ。もはや隠す必要もないし、やりたかったこともほとんどできなかった。今回の俺様の計画はご破算だ」

 「け、計画ってなんだよ!どうせアンタ、またろくでもないこと考えてるんでしょ!?」

 「なんということはない。他愛ない遊びだ」

 「遊びィ?」

 

 死体の発見者となったことも、その事実を隠蔽していたことも、どちらもシロならば学級裁判を大いに掻き乱す行為に他ならない。だがダイイングメッセージを損失し、そのことをなかったことにしようとした虚戈たちの行いもまた良いことではない。その全員がシロであればの話だが。しかし星砂はそれを軽く一笑に付す。他愛ない遊びだと言う。

 

 「確かに俺様はアナウンスの前にあの死体を発見した。おそらく第一発見者だろう。しかし、なぜ第一発見者たり得たと思う?」

 「何が言いたい。話すのなら端的に話せ」

 「そう急かすな。口を慎め。俺様は質問しているのだ。なぜ俺様が第一発見者たり得たのか、その理由を考えろと言っているのだ」

 「んなこと考えても分かるわけねえだろ!たまたまそこにいてたまたま見つけたんじゃねえのかよ!?」

 「ほう、馬鹿の割に的確だな。その通り、俺様が城之内(ヤツ)城之内を見つけたのは、()()()()だ。たまたまスピリチュアルエリアを徘徊して、たまたま入った寺で、城之内(ヤツ)を発見した」

 「たまたまたまたまってたまちゃんみたい♫理由もなんもなーい♡それ質問の意味あるのぉ?」

 「ふむ、少々言葉が足りなかったか。では補足しよう。俺様はたまたま寺に停めてあった城之内(ヤツ)のモノヴィークルに気付き、寺に入って城之内(ヤツ)を発見した。ただな──」

 

 得意気に、ピンと指を立てて星砂は言った。

 

 「俺様が()()()見つけたとき、ヤツはまだ生きていた」

 「生きていた・・・!?」

 「先ほどの議論で言っていただろう。ヤツは犯人にスタンガンで気絶させられ、拘束されたまま一定時間放置されたと。俺様が城之内(ヤツ)を発見したのは、まさにその拘束されてから殺害されるまでの今際の際ということだ」

 「なっ・・・!?ほ、星砂くん・・・!何を、言ってる・・・の?それじゃまるで・・・あなた・・・!」

 「現場を見てすぐに俺様は理解した。この男は時期に死ぬ、殺されると。そして拘束されている場所からして殺害方法もなんとなく当たりはついた。だから──」

 

 先ほどの不快感とはまるで違う、愉悦の至りの色を浮かべて、星砂はその猛り吐いた。

 

 「()()()()。近くの境内摂社に隠れて」

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、全員がその言葉の意味を理解できなかった。脳が、理解することを拒んだ。あまりに逸脱した行為に。あまりに歪んだ精神に。あまりに疎ましい感情に。その存在を自分の記憶から抹消しようとさえした。それも適わず、目の前にいた被告人はいつしか、狂気を孕んだ目撃者と化していた。

 

 「殺人の実行現場などそうそうお目にかかれるものではないからな。城之内(ヤツ)の主催するパーティなんぞアサリの毛ほどの興味も無かったが、実に興味深い殺人(えんもく)を見せてもらった。裁判が終わったら城之内(ヤツ)とクロの墓には食塩でも供えてやるとしよう」

 

 たった今、ウソを暴いたからこそ分かる。この言葉、感情、態度、悪意には、何の偽りもないのだと。本心からそう思っているのだと分かった。だからこそ逆に恐ろしい。なぜこの男はここまで残酷になれる?なぜここまで非道になれる?このコロシアイの場において、目の前でみすみす殺人を見過ごした意味が、全く分からない。

 

 「いや、塩だと清められてしまうな。特にクロは。まあどうでもいいか」

 「なんで・・・!?なんでそんなことしたんですか!!」

 

 たまらず声を上げた。仲間の一人が無惨な死を遂げることを分かっていながら、見て見ぬフリをするどころか、堂々と見物したその行いが理解できない。論理的にも、感情的にも。だからスニフは声を上げた。上げずにはいられなかった。

 

 「子供よ。俺様はな、ただ殺人が起きて現場検証をし、証拠から簡単に推理をして犯人を突き止め、めでたしめでたしなどという陳腐な展開は求めていないのだ。せっかくのコロシアイ、せっかくの“才能”、せっかくのトリック・・・これを楽しまずにいては、それこそウソだろう」

 

 前髪を退屈そうに指先で弄びながら、星砂は答える。

 

 「だというのに、今回の事件のクロはあまりに粗雑だった。トリックに趣向を凝らしたつもりかも知れんが、知恵もひねりも工夫も足りん。だから、俺様が少し手を加えてやったのだ」

 「手を・・・加えた・・・?」

 「貴様らは気付かなかったのか?現場にあったダイイングメッセージの“違和感”に」

 「い、違和感・・・?」

 

 長く延びすぎた一本を引き抜いて、ふっと捨てる。すかさずスポットライトのうちの一台が髪の毛をキャッチし、地面に落ちる前に回収した。このまま地面に触れていたら掟に抵触すると、赤いサイレンで警告する。それに臆することもなく、星砂はマイペースに続ける。

 

 「ではおさらいしようか。この事件の、ダイイングメッセージに纏わる“違和感”を」

 

 

 【フレーズスナイプ】

 『ダイイングメッセージの違和感に繋がる発言を撃ち落とせ』

 1.「ダイイングメッセージは血で地面に書かれていた

 2.「城之内(ヤツ)の死因は頭部を激しく殴打されたことによる撲殺

 3.「クロは殺害前に、拘束した状態で城之内(ヤツ)を放置した

 4.「目隠し、猿ぐつわ、麻縄など拘束は何重にも施されていた

 

 

 

 

 

 

 

 「待てよ。違和感って・・・もしかして、()()()()()()か?」

 「気付いたか、勲章」

 

 一つ一つ要点を並べる星砂の言葉から、雷堂が真っ先にその意図に気付いた。考えてみれば当然の、ごく当たり前のことだった。

 

 「ああ。ふふふ、そうか。そういえば、そうか。私としたことがうっかりしていた」

 「Oops・・・ボク、なんで気付かなかったでしょう」

 「え?え?なになに?みんな何に気付いたの?たまちゃん分かんないよぉ!」

 「ダイイングメッセージは・・・星砂、お前が書いたんだな」

 「・・・いかにも」

 「ッ!?」

 

 雷堂の指摘に、星砂は待ってましたとばかりの笑みを以て応えた。その言葉に、理解が間に合わなかった者たちに衝撃が走る。ダイイングメッセージを遺したのが、城之内ではなく星砂である。それが意味することが何なのか、それは星砂のみぞ知る領域である。

 

 「ここまでヒントを出さねば気付けんとは、俺様は本当に貴様らに期待していいのか?」

 「だ、だからなんだってんだよお!人を馬鹿にしてなんなんだよお!」

 「考えてもみろ。あのダイイングメッセージには違和感だらけだろう。まずダイイングメッセージとは死の間際に犯人の手掛かりを遺すためのものだ。だがスタンガンで気絶させられ、目隠しをされた城之内(ヤツ)がどうして犯人が誰かを知り得たというのだ?」

 「・・・あ」

 「さらにメッセージは血で地面に書かれていたが、麻縄で梁に手を繋げられていたヤツがどうやって地面にメッセージを遺すというのだ」

 「・・・ああっ」

 「そもそもヤツは頭部を潰されて死亡している。たとえ手が自由であったとして、眼はおろか脳すらまともに働かん中で、やたらとトンチを利かせたメッセージを遺すことができると思うか?」

 「・・・あああ!」

 「ここまで違和感を詰め込んだのだ。さすがに早々に気付かれるだろうと思っていたというのに・・・貴様らはどこまで俺様の期待を裏切れば気が済むのだ。猛省しろ、凡俗共」

 「何様だ・・・」

 「だが先ほどの勲章の指摘は正解だ。ダイイングメッセージは俺様が付け足した。あまりに殺風景だったからな。少し()()()を加えてやったのだ」

 

 自らのしたことを嬉々として語り、人命も人道も蹴飛ばして、ただ己の欲求と好奇心にのみ忠実な、イカレた男。学級裁判場にあっては多数と少数の対立構図など意味を成さない。最も力があるのは、人心を揺さぶる者である。星砂はこの中で、それが秀でているというだけの話だ。

 

 「だからこれはゲームだ。俺様の用意したダイイングメッセージ(死者からの言伝)・・・いや、リヴィングメッセージ(生者からの言伝)を使って真なる結論に、貴様ら凡俗は果たして辿り着けるか。あのメッセージは間違い無くこの事件のクロを示している。凡庸なるクロに代わって、俺様が貴様らを試してやろうと言うのだ」

 「意味不明だな。犯人が分かっているのならさっさと言え。貴様がシロであるならば徒に私たちを試すようなマネをする意味がない」

 「あるのだ、意味は。貴様ら凡俗共には到底理解しえないだろうがな」

 「・・・本当に、犯人が分かってるんだな?」

 「勲章、俺様を二度揺さぶろうとしても無駄だ。先ほどのウソを看破したのは見事と言ってやろう。だが“これ”は紛う事なき事実だ。俺様は、この中に潜んだ醜い殺人犯の正体を知っている」

 「!」

 

 ウソを暴かれたにしてはあまりにも尊大な態度。学級裁判の真相に辿り着いたにしてはあまりにも無駄な前置き。シロにしては理解不能なほどの利敵行為。クロにしては危険過ぎるブラフ。その場にいる誰もが『意味不明』の四字に脳を支配された。今この人間は、何をしているのか。全く理解できない。にやりと裂けた口の奥は、深淵にさえ思えた。

 

 「みんな!()()()()()()!」

 「え・・・なに、雷堂君?」

 「ショックを受けてる場合じゃない。いま星砂が言ったことが本当なら、スニフたちの見たダイイング・・・リヴィングメッセージには、確実に犯人が隠されている。だったら、これを解明すれば真相に辿り付けるってことだろ?」

 「待て。水を差すようだが・・・ふふふ、信用していいのか?星砂のことだ。虚実織り交ぜているだろうが、ダイイングメッセージが真実だという保証はどこにもないだろう?」

 「ちがいます。ハイドさん、シロです」

 

 怪しいほどにお膳立てされた状況に、警戒心を露わにするのは荒川だけではない。星砂がクロでないことを証明できなければ、縦しんばできたとしても、その言葉は簡単には信用できない。しかしその星砂を、スニフがはっきりと庇った。

 

 「死体はっけんアナウンスのシステムは、3人死体見つけたらなります。ハイドさんクロだったら、たまちゃんさんとマイムさんの他、まだ1人ダイスケさんの死体見つけたの、かくしてます」

 「そういう話だったわね。さすがにもう、こんなことする人はいないわよね?」

 「いよーっ!?然う成ったら愈々混沌としてしっちゃかめっちゃかです!ご勘弁願いたい!」

 「だからダイイング・・・リヴィング、ああもうめんどくさい。星砂の書いたメッセージがこの学級裁判の結論を決めるんだ。癪なことにな」

 「ククク・・・はっはっはっはっは!!考えろ!!悩め!!そして導き出せ!!貴様ら凡庸共の限界を見せてみろ!!そして、たった一人孤独な闘いに堪え忍ぶ、愛すべきクロよ。俺様のメッセージの意味に、貴様はシロより先に気付かなければならないのだ。知恵を絞れ!足掻け!逃げろ!そして覚悟を決めておけ!たとえ凡俗共が辿り着かずとも、俺様は貴様の喉元に突きつけた銃の引き金をいつでも引けるのだ」

 

 いつの間にか、裁判場の形は星砂を尋問する形ではなくなっていた。モノクマとは別にもう一人、星砂という絶対的優位者の膝元に、ただ従うしかないクロとシロの12人が半円状に並ぶ、まさに独壇場となっていた。その状況に苦しみ、不服を抱きながらも覆すことのできない12人は、掌で踊らされていると知りながらそこを降りることができずにいた。

 

 「じゃあまず、私たちが見たメッセージをみんなに共有しておこうか。えっと、なんだっけ?スニフ君」

 「はい。メッセージはイングリッシュでした。“JADE DISH killed me”ってかいてありました」

 「ジェイドディッシュ?なんだそれは?」

 「DISHはおさらです。JADE、ジャパニーズでえっと・・・」

 「確か、翡翠だったね。あの宝石の」

 「直訳で、“翡翠の皿がオレを殺した”、になるわけか。翡翠の皿とはなんだ?心当たりのある者は?」

 「おれあるよお。ミュ〜ジアムエリアの博物館に、古代の工芸品が飾ってあったんだよねえ。おれの創作意欲にビンビンくるからちょこちょこ観に行ってたんだけどお・・・翡翠の皿も確かにあったよお」

 「いよっ!ぴーんと来ました!犯人はその翡翠の皿を使って城之内さんを殺害し──」

 「いや、凶器はもう撞木と釣鐘で確定だ」

 「それにあの翡翠の皿はねえ、固定されたガラスケ〜スの中にあって触るの厳禁だったからねえ。そもそもお、翡翠は壊れにくくて古代から珍重された宝石だけどお、皿の形状で鈍器になんかしたらさすがに壊れるよお」

 「私たちが博物館に行ったときには、翡翠のお皿はちゃんとケースの中にあったもんね」

 

 メッセージの意味を、何のひねりもなく、シンプルに意味だけを考えればそうなる。だが星砂がその程度の謎だけで容赦するはずがなかった。余裕の笑みで見下す星砂を一瞥し、更に考え続ける。

 

 「そういえば、捜査時間に星砂君は博物館に来てたよね。翡翠のお皿も見てた」

 「翡翠の皿はおそらくダミーだろう。メッセージはやはり直訳ではなく、何か意味があると考えるべきだ。スニフ、JADEやDISHという単語に別の意味はないのか?それかJADE DISHでイディオム的な意味があったりするのか?」

 「えーっと・・・JADEはヒスイじゃなかったら、うんと、あの・・・」

 「言いずらそうだな。まあ子供にこんなことを言わせるのも忍びない。代弁してやろう。あばずれという意味だ」

 「あばずれー?なにそれー?あばずれなにそれー♫きゃははっ♡」

 「DISHはごはんってジャパニーズもあります」

 「直訳の候補が、翡翠の皿・翡翠の食事・あばずれの皿・あばずれの食事の4つか。翡翠の皿以外はどれも意味が通らんな・・・」

 「イディオムもないです」

 

 ダメ元で試した直訳から解読しようとするが、そこからは何も分かりそうにない。そもそもそんな単純なはずがないのだ。自らを、天才を超えた天才、人類の最高傑作、神域に達する逸材と称する星砂が、訳せば分かるような細工にするはずがないのだ。何か、別の意味がある。

 

 「えっと、なんだっけか?じゃで?ぢしゅ?なんて読むんだっけか?」

 「ジェイドディッシュだ。ジェイドはともかくディッシュすら読めんとは、いくらなんでもひどいな下越・・・さぞかし苦労したことだろう」

 「しゃ、しゃーねーだろ!オレは食べ物のこと以外はさっぱりなんだよ!“超高校級”なんてそういうもんだろ!」

 「ディッシュはお皿って意味だから、下越くんは読めた方がいいわよね・・・」

 「マジか!?あっ!!メインディッシュのディッシュってこのディッシュか!!」

 「うぅっ・・・」

 「ど、どうしたぬば──た、たま、ちゃん?」

 「あんまりにも下越がバカで、なんか泣けてきた・・・よく分かんないけど、なぜか・・・」

 「オレが泣きてえわっ!!だいたいなんでダイイングメッセージが英語なんだよ!!日本語でいいじゃねえか!!」

 「・・・?」

 

 さり気なく呟いた下越の一言から、あっという間に裁判場は下越の英語力の低さへの同情の雰囲気になっていった。若干ひき気味の荒川に、ため息を吐いてツッコむ正地に、なぜか涙を誘われる野干玉に、頭を掻きむしりながら下越が叫ぶ。

 

 「星砂氏のことだしい、一部の人にしか分からないようにしたんじゃあないかなあ?読めもしないヤツは挑戦する資格すらない!とかなんとか言ってさあ」

 「だったらやっぱり、翡翠のお皿が何かのヒントなのかな?」

 「城之内は英語が堪能だったからな。ヤツが遺したものと誤認させる意味合いもあったのだろう。今となっては無意味だが」

 「単純に英語知ってるアピールしたかっただけだったりして♫ハイドえばりんぼだから♡」

 「・・・」

 

 各自があれこれ自由に推測をする。星砂は目立った行動をしているが、そのどれも理由がある。問題は、その理由がまさに常人の域にないことだ。まともな、倫理と理性と道徳を供えた真っ当な思考回路では、その意図を推し量ることはできない。ではどうすれば推し量れるようになるのか。実は簡単なことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 倫理と理性と道徳の箍を外せばいい。

 

 「イングリッシュにするいみ・・・それだけじゃないです、きっと。ダイスケさんからの・・・ダイイングメッセージにすることに・・・いみがある、なら」

 「・・・ククッ」

 

 少しだけ倫理観を無視し、観察し推察した事柄を合理的に組み立てる。その過程でスニフの口から溢れた言葉が耳に届くと、星砂は眼を見開いた。夜中でもはっきりと分かるほど、爛々と怪しく煌めいた。

 

 「気付いたか子供・・・いや、気付け、子供。貴様がなるのだ。この事件のクロを射抜く断罪の矢の鏃に・・・!貴様こそが!」

 「スニフが?なにか、気付いたのか?」

 「やっぱり、おかしいですよ。なんでハイドさん、ダイイングメッセージなんてしたんですか?なんでジャパニーズじゃなくてイングリッシュなんですか?」

 「だからそれは、城之内君が遺したものだって誤解させるために・・・」

 「ダイスケさん、ボクみたいなガイジンじゃないです。ジャパニーズならジャパニーズがいちばん分かりやすいです。それにさっき、ダイイングメッセージなんかダイスケさんはのこせないって言いました。ハイドさんはそれが、バレてもよかったんです。バレなきゃいみないんです」

 「どういうことだ少年。バレなくては意味がないとは・・・?」

 

 再び注目の的になるスニフ。ぽつりぽつりと自分の思考を整理するように、断片を紡ぎ出す。まだ見えないながらも形をつかみかけている真相に、脳髄の歩調が早くなる。

 

 「アルファベットじゃなきゃダメなんです。でないと、ヒントになんないから」

 「ヒント?」

 「メッセージのmeは、ダイスケさんのことです。ハイドさんは、ダイスケさんの代わりにメッセージかきました。ダイスケさん、自分が死んでるのわかっててかいたとしたら・・・」

 

 

 【議論開始】

 

 「メッセージのmeはダイスケさんのことです。だから、あのメッセージは・・・!」

 「分かったぞ!城之内を殺した凶器がヒントになってんだな!」

 「そんな物はとうの昔に分かっています!いよが思うに、至極単純に犯人の名前を示しているのでは在りませんか!?」

 「殺害現場がヒントなんじゃないか?異常な現場だったし・・・」

 「異常といえば、城之内の死に方もまた、異常だったな」

 「I agree with you(それに賛成です)!」

 

 

 

 

 

 

 

 「レイカさん、それです。ハイドさんのメッセージをアンダースタンド、するために、ダイスケさんの死に方がヒントなんです」

 「死に方・・・だと?」

 「うわーん♠️ハイド悪趣味だよ♠️」

 「ど、どうヒントになってるの・・・?」

 

 この推理が合ってるかは分からない。今から言う推論の結果は、まだ犯人が誰かを示すものとは言えないからだ。だが星砂の思考回路は、間違いなくそうした非道なベクトルに向いている。生唾を飲んで、スニフは意を決した。

 

 「シンプルなパズルです。ダイスケさんはあたま・・・HEADをつぶしてころされました。だから、H・E・A・Dをデリートするんです」

 「(HEAD)を潰す、ということか・・・なるほど。なぞなぞのような仕掛けだな」

 「そ、そうすると・・・犯人が分かるのか?」

 「えっと、ちょっと待てよ。JADE DISHからH・E・A・Dをそれぞれ消すと・・・これDが二つあるぞ。二つとも消すのか?」

 「きっと、一つだけです。だって、あたまは一つしかないですから」

 「スニフくんなんかこわーい♣」

 

 懐から手帳を取り出して雷堂がスニフの推理を試してみる。H・E・A・Dを一つずつボールペンで線を引いて消し、残った文字列を読み上げた。

 

 「JDIS killed me・・・なんだJDISって?」

 「そういう単語か、何かの略称か?」

 「ウン・・・ボク、わかんないです。ごめんなさい」

 「やっぱりDは両方消すんじゃないの?JISならたまちゃん聞いたことあるよ」

 「それは日本工業規格のマークだねえ。意味はあるけど関係なさそうだなあ」

 「んー・・・そっちなのかな?」

 

 できあがったメッセージからは、なおも犯人の正体は見えてこない。そもそも頭を意味する英単語の綴りを消すという解き方が正しいのかさえ分からない。行き詰まりそうになる裁判場に、研前の一言が差す。

 

 「そっち、っていうと?」

 「頭を潰すってことだったから、私はてっきり頭文字を消すんだと思っちゃって・・・でも、JとDを消してもADE ISHでまだ意味分かんないね」

 「かしらもじ・・・イニシャル・・・?」

 「ううん、やっぱり間違ってるみたいだから忘れて。他の可能性を探そうよ」

 

 研前の言葉がスニフの脳内で実体を持って動き出す。頭を潰す、HEADを消す、イニシャルを消す・・・そのどれが正しいというのか。もしかしたらどれも正しくはないのか。或いは───。

 

 

 

 

 

 

 

 「(まさか・・・あなたが)?」

 

 閃きは一瞬にして体内を駆け巡り口から出て行く。パズルのピースがはまるかの如く、一度意味不明の文字列に意味を見出すと、もはやそうとしか思えなくなる。

 星砂の意図。現場の猟奇性。研前の言葉。それらが一つの結論へと一斉に向きを揃えた。

 

 「ダブルミーニング・・・」

 「へ?なんつったスニフ?たまごミートローフ?」

 「ちがうよ×スニフくんはだましカンニングって言ったんだよ☆」

 「下越。虚戈。お前たち少し静かにしていろ」

 「何がダブルミーニングなんだ?」

 「あたまをつぶすっていう、ヒントがです。JADE DISHからけすアルファベットが、2パターンミーニングありました!」

 「研前が言った、イニシャルを消すってヤツか?それでもよく分かんなかったけどな」

 「ちがうんです。ダブルミーニングだから、HEADの4字も、イニシャルもけすんです。ころされた、ダイスケさんのイニシャルを!」

 「城之内くんの・・・!?」

 

 閃きは傍証を伴って推理に、推理は口に出すことで論理に、論理は観察を持って確信へと変わる。スニフは自分が口にした論理を聞くにつれ、動揺を隠しきれなかった犯人を見逃さなかった。

 

 「HEADをけして、JDISです。そこからダイスケさんの、Daisuke Jonouchiのイニシャルをけすと───」

 「残るはI・Sとなる。これが何を意味するか・・・もはや凡俗共にも分かろう。そうだ、これこそがこの事件のクロ、あの凄惨な事件現場を生み出した咎人の、イニシャルだ」

 「ボクたちの中、このイニシャルの人は1人だけです」

 

 

 【人物指名】

 スニフ・L・マクドナルド

 研前こなた

 須磨倉陽人

 納見康市

 相模いよ

 皆桐亜駆斗

 正地聖羅

 野干玉蓪

 星砂這渡

 雷堂航

 鉄祭九郎

 荒川絵留莉

 下越輝司

 城之内大輔

 極麗華

 虚戈舞夢

 茅ヶ崎真波

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Sniff Luke Macdnald

 

 Konata Togimae

 

 Haruto Sumakura

 

 Yasuichi Nomi

 

 Iyo Sagami

 

 Akuto Minagiri

 

 Seira Masaji

 

 Akebi Nubatama

 

 Hyde Hoshizuna

 

 Wataru Raido

 

 Saikuro Kurogane

 

 Eruri Arakawa

 

 Teruji Simogoe

 

 Daisuke Jonouchi

 

 Reika Kiwami

 

 Mime Koboko

 

 Manami Chigasaki

 

 

 

 

 

 

 

 「いよさん。あなただけです」

 「・・・!」

 

 電飾に照らされた中でも一際強く主張する緑の着物に身を包んだ相模を、短く伸びた指でスニフは示した。ダイイングメッセージの意味を理解した全員の目がそれに従い、早々にその答えに気付いていた相模は、思いの外動揺は小さくその指名を受け入れた。

 

 「いよぉ・・・いよとて羅馬式くらいは分かります。故にスニフさんが仰ろうとしている事は分かって居りました。確かに名前の頭文字がISなのはいよだけですね」

 「ほう。言い訳せんのか。つまり罪を認めて処刑を受け入れるということか?」

 「いいえ、そんな訳無いでしょう。斯うした結論に達した以上、星砂さん、貴方の言う事など始めから信じるに値する物ではな無かったと言うだけの事でしょう。貴方の様に胡散臭い事ばかり言う方が、今回に限り協力する等、裏が在るに決まって居ります」

 「いや、まあ星砂は怪しいけど・・・っていうかオレはまだ半分くらいしか信じてねえんだけど・・・」

 「けど、死体発見アナウンスのことがあるし、理屈上はシロで確定なんだろ?だったらひとまず信じていい・・・んじゃないか?」

 「貴様ら、未だに俺様のことを半信半疑なのか。論理的に潔白が証明されたのだからウジウジ言うな」

 「日頃の行いが悪いからだろう」

 

 自分のイニシャルくらいは把握していた相模は、さらりとスニフの追及を逃れた。星砂という使いやすく分かりやすい身代わりを立てて、薄れていた疑心暗鬼を再び呼び起こす。たとえどれほど論理を固めようと、星砂が疑わしい感情は全員が共有している。その迷いは、クロへの追及を緩める隙にもなる。

 

 「仮に俺様が信じられずとも、俺様がシロであれば着物が最も疑わしい、俺様がクロであれば貴様らは俺様に投票すればよかろう。14択クイズが2択クイズになるのだ。7倍分かりやすかろう?」

 「何択かは存じませんが、抑もからしてですね、剰りに無理が在る推理では有りませんか?」

 「何が無理だと言うのだ」

 「万が一いよが犯人だとすれば、いよは弁を立てて居る間に映写室を離れてお寺へ参り、城之内さんを殺害してから亦映写室に戻り、何事も無かったかの様に弁を再開したと。然う言う事に成るでは有りませんか」

 「そうではないのか?」

 「無声映画を無音の儘垂れ流しにする弁士が何処に居りますか!剰えいよは何時如何なる時も此の和装で御座います。只でさえ宵闇の暗く一寸先も漆黒の中を、斯様に動き難く目立つ装いで迅速に事を運べよう筈も無いでしょう!」

 「モノヴィークルを使えば服装など関係ないのではないか?」

 「彼の乗り物は大変目立ちます。隠密に動くのなら不適当では有りませんか?」

 

 あくまで自分は犯人ではないと、落ち着いた様子で相模は弁明する。キネマ館で無声映画を流し続け、その弁を立てていた時間に殺人は起きた。仮に僅かな間があったとしても、エリアを跨いで移動し城之内を殺害してから戻って弁を立てるなど、現実的に考えて不可能だ。そんなことはスニフも重々分かっていた。

 

 「でもいよさん。うごきにくいなら、そのオキモノ、ぬいだんじゃないですか?」

 「・・・ッ!何故そう思うのです?」

 「ダークの中うごくの、グリーンじゃめだちます。だから、いよさん、下にブラックのウェアきてますよね?それ、めだたないようするためじゃないんですか?」

 「!」

 

 スニフに指摘されると同時に、相模は咄嗟に袖を握り肩をいからせて胸元を隠した。着物の隙間から覗く肌着を見えなくするが、既に全員の視線を集めていた相模は、刺さるような疑惑の視線に耐えきれずに、大きくため息を吐いた。

 

 「はあ・・・皆様、一応お尋ねしますが、其の眼は、いよに『脱げ』と申すのですね?」

 「だ、だれがんなこと言ってっかよ!下着見せろってことだろ!」

 「同じ意味だし、その言い方の方がなんかやらしいわよ」

 「やれやれ、いよは困りました。事態が事態とは言え年頃のおなごに下着をはだけさせよう等と、妙な劣情に駆られて理路整然たる議論の場が汚される事に、いよは遺憾のため息を禁じ得ませぬ」

 「それは観念したと捉えていいのか?」

 「否。いざ見よれ。確かに着物の下には斯様の肌着は有りますが、近う折は冷える。暖を取るために着る此を、何故にして闇に潜じる為と言い切る事が出来ましょうか?」

 

 踏みとどまるかと思いきや、相模はあっさりと袖をまくって肌着を露わにした。上質な生地でできているらしい黒い肌着は、ぴったりと相模のきめ細かな肌に吸い付いて、その輪郭を殊更強調していた。だがそれを、相模はあくまで暖を取るためと言い切る。

 

 「抑も、何色の襦袢を身にしようと、其の様な事で殺人の誹りを受ける謂われは在りません」

 「ん?殺人の謂われは無くとも、それはお前の弁士としての矜恃に反するのではないか?」

 「・・・は?」

 

 何気ない荒川の一言に、相模は目を丸くして聞き返した。瞳に映るのは疑問の色ではなく、困惑と、怒りと、そして僅かな恐怖心だった。しかし一度疑惑を持たれた人物への追及は始まったら止まらない。

 

 「確か、正地の主催で女子だけで風呂に入ったことがあった時に、お前が言っていたはずだ。相模家の流儀で肌着は白と決まっているのだろう?」

 「・・・!其れは・・・!」

 「ああ、そう言えばそうだったな。俺様も聞いた」

 「聞いてんじゃねえよふざけんなアンタ!!」

 「家のしきたりで白の肌着しか着てはいけないお前が、なぜ今日この日に限って黒の肌着を着ているのか。さして気にしていなかったが、今となっては見過ごすわけにはいかないな」

 「其れは・・・只、偶々然う言う事に成ってしまったと言うだけでしょう」

 「たまたまって、そんなんで言い逃れされたら議論にならないだろ。否定するならそれなりの理由を──」

 「囂しいですよ。慎みなさい」

 

 偶然の一致などと言い逃れようとする相模に、雷堂が今一歩食い下がる。だがその追及を、相模は冷たく言い放って打ち止めた。陽気で活発な普段の声色、喋り方とは異なり、冷たく刺すような言い方は、それだけで聞いた者の背筋に寒気を走らせた。

 

 「先程から聞いて居ればぴいちくぱあちくと、在りもしない咎を責められるのは斯くも不愉快な物で有りますか。居並ぶ麗しき淑女方に比すればいよ如きは瑣末な者でありましょうが、恥を忍んで肌着を晒したので御座います。其れに報いる仕打ちが此ですか」

 「貴様がどれほど恥をかいたかなど興味もない。論理的に、状況証拠も物的証拠も揃っている中で、貴様の反論は実に感情的で非合理的だ。本来ならここで打ち切って貴様を処刑してもいいのだが?」

 「いよーっ!星砂さん!全く以て論理的ではありませんよ!いよが城之内さんを殺害したと仰りたいのなら、一つ大きな問題が在ることをお忘れではありませんか!?いよには彼の時間に城之内さんを殺害する事など不可能だったのですよ!?其の事実はスニフさんがよぉくご存知では有りませんか!」

 「そうなのか少年?」

 「・・・」

 

 その指摘に、スニフは再び論理を組み立てる。ダイイングメッセージの謎が解けた瞬間から、すぐにそのことを考え始めていた。城之内が殺された時間帯、スニフはキネマ館で研前らとともに映画を観ていた。スニフだけでなく、研前、雷堂、極、正地、納見の計6人がそこにいたのである。

 

 

 【議論開始】

 

 「いよが城之内さんを殺害した犯人?冗談はお止めくださいな」

 「冗談だとは思えないけどお、でもスニフ氏は相模氏のアリバイの証人でもあるわけじゃあないかあ」

 「相模は確か、キネマ館で弁舌をしていたのだったな」

 「然様です。城之内さんが殺されたとされる時間を跨いで、打っ通しで弁を立てて居りました!其の事実が在る限り、いよの弁を聞いていた方々が居る限り、いよが映写室を離れなかったのは明白な真実で在る訳です!」

 「That's wrong(それは違います)!」

 

 

 

 

 

 

 

 「何でしょうかスニフさん?徹底と粘着は異な物です。女性に執こくするのは感心しませんよ」

 「ボクたち、みんないよさんのムービートークきいてました。それはちがわないです」

 「では其れ以上何を──」

 「でも、いよさん見た人、いないです」

 「──!」

 

 スニフの一言は、どこか余裕さえ感じた相模の不愉快そうな顔に、一瞬にして焦りの色を塗りたくった。気付かれてはマズいことに気付かれてしまったような。咄嗟に何かを言おうとした口は、しかし冷たい理性に閉ざされる。

 

 「いよさんの声、ずっと近くできこえてました。それからムービーのストーリーといよさんのトーク、どっちもピッタリ合ってました。だからボクたち、プロジェクションルームにいよさんいるって、ミスアンダースタンドしてたんです」

 「でもスニフ君。映写室にいた相模さんがいなくなったら、あの弁は誰が喋ってたの?」

 「プロジェクションルームに、オーディオイクイップメント、たくさんありました。レコードしたのプレイすれば、ボイスだけならごまかせます」

 「よく分からないけどお・・・まああれだけの設備があればできるかも知れないねえ・・・」

 「それでもだ、スニフ。相模の弁はタイミングも何もかも完璧だったぞ。いくらなんでも録音じゃあ、どうしたってズレが出てくるんじゃないか?」

 「いや、『八百屋お七』は相模の十八番中の十八番なのだろう?何百と熟した題目なら、況してやフィルムを確認する余裕があったのなら、完璧に合わせた弁を録音することも可能だろう」

 「だろうな、なにせ“超高校級の弁士”だ」

 「・・・ッ!!」

 

 直接舞台に立っての弁ではなく、映写室から放送を通しての弁という特殊な状況。行き届いた音響設備に十八番の演目。無声映画を楽しむための完璧な環境に交じった一つのイレギュラーが、たった一つの疑惑をきっかけに悪意を孕んだ仕掛けに見えてくる。皮肉たっぷりの星砂の言葉に、相模は下唇を噛む。

 

 「だとしても!!だとしてもォ!!」

 「まだ何かあるのか?」

 「録音して弁を流して居たとして!其の隙に城之内さんを殺害しに行ったとして!其の物的証拠は在るのですか!?いよが録音した事を示す物など、一体何処に在るというのですか!」

 

 のし掛かる疑惑を振り払うように、相模は結んだ髪を振り乱しながら大きく叫ぶ。弁を立てていた時のアリバイを崩されるようなことがあれば自分の立場は不利になる。それが分かっているからこそ、必死に自身に降りかかる火の粉を払おうと腐心する。

 

 「黒い肌着を着ていたから犯人!?頭文字がISだから犯人!?録音した弁を流して偽装工作が出来たから犯人!?馬鹿馬鹿しい!いよが然うしたと言う証拠が一つでも在りましたか!?単なる推測の寄せ集めでしか無い薄っぺらな推理で、誰を疑うて居るのですか!弁えよッ!!」

 「さ、相模さん・・・!?気持ちは分かるけどそこまで怒らなくても・・・」

 「証拠も無く人を疑うのなら虚戈さんは如何ですか!たまちゃんさんは如何ですか!宿に居られた方々は如何ですか!星砂さんは如何ですか!いよよりよっぽど自由に動ける人など多く居ります!態々然様な工作をするより楽に事を運べた人の方がよっぽど疑わしいのでは在りませんか!」

 「お、落ち着け相模!そんなに捲し立てられちゃ話ができないだろ!」

 「・・・物的証拠があればいいのだな?」

 「いよっ!?」

 

 よく回る舌で紡がれる自己弁護、論者否定、他者糾弾。それらは機関銃のような勢いで乱射される。心震わす詩の旋律は戦慄へ、悲哀を歌う言葉の並びは鞭のごとくしなって打つ。真っ赤になった顔で自分以外の全員に敵意を吐き出す相模へ、星砂が静かに一言かけた。ただそれだけで、相模は言葉を止めた。

 

 「実は貴様らが寺で死体を見ている間、俺様は一足先に捜査をしていた。貴様が犯人であることは分かっていたからな。キネマ館で証拠を探していたのだ。そして案の定・・・これがあった」

 「・・・なに?それ」

 「フィルムだ。建物は古くさいくせに設備や物は良い物が揃っているようだ。このフィルムには音声も録られている」

 「そ、それはァ!?」

 「見ろ」

 

 懐から取り出した映画フィルムを、星砂は乱暴に引き出した。ビニールが擦れる音とともに、グレーのマスしかないフィルムが露わになる。

 

 「全く何も記録されていないフィルム。だが音声部分だけはしっかりと記録されているのだが・・・一体これは何を記録しているものなのだろうな?」

 「・・・!!」

 「なんなら今から場所をキネマ館に移して映写機で回してもいいだろう。もしそれで貴様の弁ではない物が残っていたのなら・・・まあ頭の一つくらいは下げてやることも検討してやろう」

 「検討止まりかよ!?」

 「そ、それを・・・!なぜ・・・!?」

 

 星砂は頭を下げない。そのフィルムが犯行に使われたものだと、相模がアリバイトリックのために用意したものだと分かっているからこその強気な発言だ。言葉に詰まり、何も言い返すことができない相模は、パクパクと口を動かし下唇を噛むばかりだ。

 

 「自分が仕掛けたトリックの肝をまんまと握られて呑気にシラを切っていられるとは、この大間抜けが。俺様が手を加えてやらねば、こんな杜撰で退屈な事件はなかったわ」

 「う、嘘だッ──!」

 「もはやこの状況を覆すことは不可能だ。もういい。貴様に用はない。さっさと去ね・・・いや、待てよ」

 

 ふと、少しだけ考える素振りを見せた星砂は、視線を僅かに移して短く()った。

 

 「おい子供、ここまでの話は理解しているな。お前がやれ」

 「・・・え?」

 「この女に引導を渡してやれ」

 「ボ、ボクが・・・?」

 「お前が。お前の言葉で。お前の手で。だ。やれ」

 「だけど・・・」

 「“超高校級の神童”に逆らうつもりか?俺様がやれと言ったらやるのだ。終わらせろ」

 「・・・!」

 

 迷うスニフ。星砂の言う通りに裁判にケリを付けることはできる。だが、なぜ自分がしなくてはならない?なぜ星砂は敢えて自分にさせようとする?そこまでする必要があるのか?

 

 「終わらせろ」

 

 

 

 

 

 

 

 【クライマックス推理】

 Act.1

 モーニングに、モノクマがボクたちにあたらしいモチベーション、あたえました。それがはじまりです。ナイトメアのせいでねむれなくなったボクたちに、ダイスケさんはねなくていいようにオールナイトパーティーをプランニングしてくれた。ダイスケさんのミュージックと、たまちゃんさんやマイムさんのステージ・・・それから、犯人(クロ)のサイレントムービーも。きっとこのときから、犯人(クロ)はダイスケさんをころすトリックを考えてたんだ。

 

 Act.2

 ステージシアターでダイスケさんたちのリハーサルがおわったあと、ダイスケさんはたまちゃんさんとマイムさんとは別々になった。モノヴィークルのログから考えたら、ダイスケさんはこのとき、ビッグテンプルに行ったんだと思います。そこで犯人(クロ)が、自分をころそうとしてるなんて思いもせずに。どうしてダイスケさんがそんなところに行ったのかは分からないけど、レディとアポイントメントしててうれしかったんじゃないかな。そして犯人(クロ)は、ケアレスになってるダイスケさんをスタンガンでロストさせて、すぐにバウンドして、にげられないようにベルタワーのビームにロープでむすんだ。だけど犯人(クロ)はまだダイスケさんをころさなかった。アリバイトリックをするために、ダイスケさんは生きてなくちゃいけなかったんだ。

 

 Act.3

 パーティがスタートして、ボクたちがキネマシアターに行って犯人(クロ)のトークがはじまりました。だけどリアルには、犯人(クロ)がレコードしたトークをアナウンスして、そのあいだにキネマシアターを出てまたビッグテンプルにもどったんです。キネマシアターでトークをしてるっていうアリバイをメイキングしながら。

 でもそうしてるうちに、あるイレギュラーがおきました。それは、ハイドさんが、まだ生きてるダイスケさんを見つけてしまったことです。ベルタワーの近くにラークして、ピーピングしてるハイドさんに気付かないでもどってきた犯人(クロ)は、ハイドさんの目の前でダイスケさんをころしてしまった。ベルハンマーを、何回も、何回も、ダイスケさんのヘッドにぶつけたんだ。

 

 Act.4

 そうやってダイスケさんをころした犯人(クロ)は、そのままキネマシアターにもどった。サイレントムービーとトークがおわったあと、犯人(クロ)は何もなかったフリをしてボクたちにジョインするつもりだったんだと思います。だから、そのうちにハイドさんがベルタワーにトリックをしかけられた。そのトリックっていうのが、ダイスケさんのブラッドでダイイング・メッセージをかいた。このケースのトゥルースのヒントを、そのばにのこした。それはきっと、ボクたちシロがそれに気付いてクラストライアルをすぐおわらせたり、犯人(クロ)がそれに気付いてミスリードさせようとしたり・・・とにかく、ボクたちのクラストライアルをコンフューズさせるためだったんだと思う。ホントに、ただ、それだけだ。

 

 ボクたちだけだったらきっと、犯人(クロ)のアリバイトリックに気付かなかった。気付いても、犯人(クロ)がだれかなんて分からなかった。ハイドさんがたまたまダイスケさんを見つけて、ダイイング・メッセージをのこしたから、ボクたちはこのトゥルースにたどりつけた。

 だけどボクはちっともうれしくない。ボクは少しもこれでよかったなんて思わない。どうしてこんなことしたんですか・・・?どうしてあなたがこんなバカなことをしてしまったんですか!おしえてください。ちゃんとボクたちにおしえてください!“Ultimate Rhetorician”サガミ イヨさん!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 「あ・・・うぁ・・・!?」

 「どうした?何か言え着物。もっと言い逃れをしろ。醜く足掻け。ここで黙れば貴様は確実にクロとして処刑される。どうすればいいかなど貴様の粗末な頭でも分かるだろう」

 「・・・ぎっ!!っぐぐぅ・・・!!」

 「貴様は“超高校級の弁士”だろう。口が商売道具だろう?舌が誇りだろう?言葉が武器だろう?その程度で終わりなのか?俺様に完膚なきまでに論破されたと認めるということか?それで貴様のプライドは許すのか?」

 「ううぐっ・・・!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

 「もうやめてよ!!」

 

 苦しそうに口角に泡を吹く相模を見かねて、正地が叫ぶ。瞳孔が開き、青ざめた顔からは冷や汗を流し、絹のような髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した相模は、恨めしそうに星砂を睨むばかりで、それ以上何も言うことはできなかった。

 そして、ただ、呻きながら崩れるようにその場にしゃがみこんだ。

 

 「う゛う゛う゛ッ・・・!!」

 「真相は明らかになった。異論はなかろうな」

 「・・・」

 

 得体の知れない何かが裁判場に這い蹲るような、重苦しく気味の悪い瞬間だった。誰一人、相模を直視することはできず、明らかになった真相に安堵する者や歓喜する者は一人としていなかった。ただ、後味の悪い真相だけがその場に居座っていた。

 

 「結論が出たみたいですねえ?うぷぷ、そんじゃあオマエラ!お手元のスイッチで、クロと疑わしい人物に投票してください!果たしてその答えは、正解か?不正解なのか?ほっとんど答えが出てるようなもんだけど、テンション上げていきますよ!イエーーーイッ!」

 

 空気を敢えて読まないモノクマの空回りは、同じく空気を読まないアトラクションの煌めきによって掻き消される。全員のモノヴィークルが映し出した投票スイッチは、早々に結論を出した。モノクマが両手を広げると噴水が吹き出し、そこに投票結果が映し出される。

 全く以て無意味な疑心暗鬼。無意味な推理。無意味な検証。全員が踊らされた裁判の幕は、全員を弄んでいた星砂によって独り善がりに閉じられる。感動も爽快も解放もなく、飽きられたオモチャのように乱暴にうち捨てられた。

 

 

 

 

 

 

コロシアイ・エンターテインメント

生き残り:13人

 

【挿絵表示】

 




色々やるようになってから、投稿にかなり手間取るようになってしまいました。
ミスがあったらすぐ教えて下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。