「私たち、もっとお互いのことを知るべきじゃないかしら」
みんなが集まった食堂で、正地は急にそう言った。オレはここのところろくに鍋も振ってないのに、意味もなく厨房にいたから、正地が何でそう思ったのか、そんなことを言いだしたのかちっとも分からねえ。オレ以外のヤツらもきょとんとした顔で正地を見てた。
「ずっと考えてたのよ。もっと私たちがお互いのことを知れば、色んなことが解決すると思うの。一人で悩みを抱え込んで苦しむこともないし、苦しい人を積極的に助けてあげられるでしょ?それに、みんなで協力することって大事だと思うの」
「そりゃ尤もだけど・・・まさか『弱み』を打ち明け合うってわけじゃないよな?」
「違うわ。お互いを知ることと秘密を持つのは別の話よ。要するに、もっと仲良くなりましょうってこと。この前の探索で納見くんが想像以上にどうしようもないっていうのも分かったし、そういう面がみんなにもあるんじゃないかしら」
「今の流れでおれをさらっとディスるの必要だったかい?」
「しかしまあ正地の言うことは一理あると私も思うぞ。扱うもの、研究するもの、何にせよ対象をよく知らねば正しい扱いなどできようはずもない。コミュニケーションの類は苦手分野だがな」
「私も賛成だよ。せっかく正地さんが提案してくれたんだもん。やってみようよ」
荒川と研前が賛成して、なんとなくそんな流れになってきた。オレは昼飯の献立を考えながらそれを聞いてた。飯を作る必要があるんならそうする。あんまり気は進まないけどな。
「下越君も、いいよね?」
「んえっ?いいって何がだよ?」
「みんなでバーベキューするの、いいよね?」
「バーベキュー?」
「いまここで話してただろ。聞いてなかったのかよ?」
「テルジさん、ぼーっといきてんじゃねーですよ!」
「ああ、わりい。ぼーっとしてた」
バーベキューって、そりゃまた仕込みが大変なもんを選んだな。まあみんなでワイワイ飯を食うってんなら打って付けかも知れねえけど、こりゃ忙しくなるぞ。網だけじゃなくて鉄板や釜も持ってって米炊いてカレーもできるし、焼きそばとかもいいな。
「バ〜ベキュ〜はいいけどお、そんなのどこでやるんだい?」
「プールサイドよ」
「プールサイド?そんなところでできんのか?ってかそれってアクティブエリアのとこだろ?思いっきり屋内じゃんか」
「ワタルさん知らないですか?あそこひろーいですよ!ボクたちわかります!」
「そう言えば以前、納見はあそこで懲らしめたことがあったな」
「いやあ、あのときは参ったよお。極氏が鬼神の如き怒りのオ〜ラを纏ってたからねえ」
「わざわざなんでそんなとこでやるんだよ」
「バーベキューと言えば水場だからよ。雰囲気よ雰囲気。それに、わだかまりをなくすには疲労感と爽快感っていうのは重要なの」
「それマイムも行っていいのかな♣」
「
「ああ。全員が参加することに意味があるのだ」
「水着でね!」
「そう、みず──なんだと?」
「水着よ!プールだもの!水着以外にあり得ないでしょ!」
「わーい水着だ水着だー♡」
なんか正地のテンションがおかしいな。鉄のことで悩みすぎておかしくなったのか?プールでバーベキューってのは悪くねえと思うけど、水着でなんて意味あるのか?
「正地・・・なんかいつもよりテンション高くないか?」
「そんなことないわよ!」
「そんなことあるよ?」
「い、いいのよそんなことは。とにかく、今日のお昼ご飯はプールでバーベキューにしましょ。厨房から道具や食材を運ばないといけないし、水着も準備しないとね。忙しいわよ」
「・・・水着はどうしてもなのか?」
「そこは譲れないわ」
「私情挟んでるだろそれ・・・」
ともかく、妙にやる気まんまんな正地が引っ張って、プールサイドでバーベキュー開催が決定した。肉と野菜の下拵えはこっちでやるとして、道具を運んだりするのに極と雷堂以外はあんまり頼れそうにねえな。あと
水着?海パンくらいショッピングセンターにあるだろ。
「まず何からやるんだ?」
「食材の下拵えはしとくから、先にプールの準備してこいよ。水着いるんだろ?」
「そう?じゃあ女の子チームで行きましょう」
「な゛に゛っ」
「わ、私も同行しなければいけないのかそれは・・・?」
「二人とも女の子でしょ。恥ずかしがることでもないじゃない」
「男子チームはどうしてようねえ」
「俺は仕込みがあるから、お前ら適当に時間潰しとけよ」
「ボクはテルジさんおてつだいします!」
「じゃあおれもそうしようかなあ」
「だったら俺も」
結局、男子全員で食材の仕込みを、女子全員でプールで遊ぶ準備をすることになった。俺は別に、他の男子たちで水着を買いに行くのとかでもよかったんだけどな。それに、9人の飯の準備をするのに、そんなに人手はいらない。ああ、ダメだ。また暗くなる。
「
「やっぱ肉だよねえ。下越氏だったら簡単なセットさえあればなんでもござれだろお?」
「バーベキューと言えば串焼きのイメージがあるけどな」
「いや、肉にゃ部位ごとに適した焼き方食べ方ってもんがあるんだ。それに忘れてっかも知れねえけど、オレは料理人じゃねえぞ」
「でも料理うまいじゃあないかあ」
「バーベキューは肉だけじゃねえからな!野菜も魚介もバランス良く食べねえと肉の美味さが最大限分からねえんだよ!」
「こだわりが強そうだな」
でもまあ、そこまで大量に用意しても余るだけだろ。野菜に限らず、焼きそばなんかもやれば肉はそれほど多くなくて済みそうだ。飯作って食ってれば、少しは気が紛れるかもな。
水着などしばらく着ていないな。体育の授業も水泳は選択しないようにしていたし、プライベートで着る機会などまずあり得ない。研究者として肌を出すなど危険極まりない行為はしないのだ。だからどんな水着を選べばいいのやら全く分からない。まあ、私の貧相な身躯に興味がある男子などいるまいが。
「水着専門店があるのは予想していたが、まさか水着の種類によって店舗が違うとは」
「もはや嫌がらせ級の気遣いだね」
「みんなどんなのにするのかな♡マイム先に選んじゃうからね♬」
「極さんはどれにするの?なんだか大人っぽいイメージがあるけど」
「私は水着はあまり着ないからな・・・」
「意外なところに仲間がいた!極もどういうものを選べばいいか分からないクチか!よし、一緒に恥をかこう!」
「急にどうしたの荒川さん。恥なんてかかないわよ」
先にイロモノ専門店に入っていった虚戈以外の4人で同じ店に入ることになった。自分のものを選ぶもよし、他の者に似合うものを選ぶもよし、ということだったが、自分のことさえまともに分からないのに、人の物を選ぶなどもはや狂気の沙汰だ。取りあえず、主催者である正地について行こう。
「荒川さんは細身だからフレア付きの水着がいいんじゃないかしら?こういうヒラヒラのヤツよ」
「ひょあっ!?」
「びっくりした!何その声!?」
「バ、バカなことを言うな正地!そんなヒラヒラフリフリした水着が私に似合うわけがないだろう!目は確かか!そんなものが胸や股にまとわりついているのを想像しただけでくすぐったい!」
「水着は襲わないから私を盾にしなくても大丈夫だよ」
「こっちのヤツは寄せて上げるヤツよ」
「お゛お゛お゛っ!!やめろ!そんなもの私に着せる気か!?背筋が凍る!」
「なんで?」
「寄せて上げて一体何になる!自分の身体を衆目に晒す前提で服を選ぶなど、なんて浅ましい!いやらしい!穢らわしい!だいたい寄せる肉もないのだ私には!」
「羨ましいなあ」
店の中にずらりと並んだ色とりどり形も様々な水着の数々。しまった、この店はビキニ専門店か。よりによって水着の中でも特に苦手なものの店に入ってしまった。裸体にこんな面積の小さい布切れ3枚で人前に出るなど、考えただけで恥ずかしさと自己嫌悪に押し潰されそうだ。
「とにかく私はそんな破廉恥な水着は着ない!露出がもっと少ないものはないのか!」
「ここビキニ専門店だよ。隣のお店だったらワンピースタイプとかあると思うけど」
「こんなところにいられるか!私はそっちに行く!」
「それダメなヤツ!」
「待ってよ荒川さん。だったら、私たちが選ぶの手伝ってよ。荒川さんだって1人じゃ水着選べないでしょ?」
「ぬっ」
腕を引きながらお願いするような言い方で研前は言うが、私はそれはもはや脅迫にしか聞こえなかった。なぜ水着になどならなければ・・・いや、そこを否定してしまうと、せっかく正地が私たちを気遣ってくれた気持ちを踏みにじることになるが、だとしても水着が必要なのかは甚だ疑問だ。
「正地さんは自分の決めた?」
「私は水着のままだと冷えちゃうから、上から何か羽織ろうかと思って。だから下はあんまり派手じゃないヤツにするわ」
「上着などアリだったのか!?」
「研前さんは?」
「私も地味なヤツにするよ。私じゃ水着に負けちゃいそうだから」
「そんなことないわ。研前さん可愛いんだから。いっそここで一気に雷堂くんとの距離を縮めちゃえばいいのよ」
「ふえっ!?な、なにそれ!?」
「バレていないと思っていたのか。当の本人以外は全員気付いているぞ」
「ええええ・・・そ、そうなの・・・?」
「流石にあれだけ露骨だと私にも分かったぞ」
途端に顔を赤くして、先程の私と同じように、というか意趣返しとばかりに私の白衣の裾で顔を隠している。この反応からして、やはり間違いないのだろう。私も今の今まで半信半疑、というか特に興味があったわけではないが、なんとなく気配は察していた。しかし、スニフ少年はあの年でなんとも儚い恋愛をしたものだ。
「うう・・・みんなひどいよ。知ってたなら教えてくれたらいいのに」
「雷堂本人があの鈍感さだからな。私たちが何かして気付かせるのも何か躊躇われてな」
「ホント、朴念仁よね」
「せっかくの機会だ。これぐらい派手なものはどうだ」
「ドレスタイプだよねそれ!?バーベキューに着てくヤツじゃないよ!」
「気を惹きたいならやっぱり水着自体の派手さより、研前さんの魅力を引き出すタイプのがいいわよね。主張し過ぎず埋まりすぎず・・・」
「片っ端から着せてみればいいのだ。その間に私は別の店で選ぶ」
「着せ替え人形みたいに言わないでよ!」
「極さんはどう思う?」
「私の意見などあまり参考にはならないと思うが・・・それこそ先程のフリルタイプがいいのではないか?」
「そうよね。じゃあさっき研前さんが荒川さんに勧めたヤツ、着てみましょうか!」
「あわわっ・・・い、いつの間にか私が着る流れに・・・」
あのおぞましいビキニを押しつけられた研前が、正地と極によって更衣室に押し込まれている。もう少しで私がああなるところだったと想像すると、身震いがした。
「というか、ここでそんなに時間を使っている場合ではないのではないか?正地」
「何がかしら?」
「明らかに強引にバーベキューをセッティングしたんだ。単にお互いのことを知る以外に目的があるのだろう」
「え?そうなの?みんなで美味しくご飯食べるんじゃなかったの?」
「それは建前だろう」
「・・・極さんは何でもお見通しなのね」
「私でなくとも違和感を抱く者はいたはずだ。そうだろう、荒川」
「いや、私はそういう明るい系のイベントはこういうものかと」
「・・・」
「なんかすまん」
聞く相手を間違えた、と極は押し黙ってしまった。どうやら正地に裏の意図があることに気付いていたのは極だけのようだ。研前は先程の発言の通りだし、虚戈は言わずもがなだろう。しかし、裏の意図とはなんだ?まさか、正地がこんなおおっぴらに良からぬことを考えているわけでもあるまい。
「あのね、私、ここに来てから色んな人とお話して、色んなことを知ったわ。こういうときにどうすればいいかなんて分からなかったけど、自分なりに考えたの。いなくなっちゃったみんなのために、何ができるのかって」
急に落ち着いた口調で正地は話し始めた。いなくなった者、というのは死んでいった者たちが。ヤツらに対して私たちができることなど、私は何もないと思う。死んだ時点でその者の存在は物理的に0になったのだ。悲しもうが悼もうが嘆こうが、それは全て残された私たちの中で完結するものでしかない。
「それで、分かったの。どれだけ考えても、やっぱり私は私にできることしかできないんだわ。そして、この状況に、コロシアイにもモノクマにも絶望しないで、脱出の道を信じ続けることが、生き残った私たちの責任なんだって。だから、私たちは内輪もめなんかしてないで、もう一回結束しなくちゃいけないんだと思うの」
「尤もではあるが、それとバーベキューと何の関係があるのだ?」
「これが今の私にできる精一杯。私は按摩だもの。人の疲れや痛みを和らげて、また明日を元気に過ごせるように癒してあげるのが私の“才能”よ。今、一番ケアが必要な人たちを救うためにはこれが一番いいの」
「一番ケアが必要な人たちって?」
「虚戈さんと下越くんよ」
正地の口から飛び出した名前は、意外な2人だった。虚戈はついこの前の裁判の後、正地に対する態度でスニフ少年と下越を除く私たちと確執が生まれた。その確執がモノクマに付け入る隙を与えていることに気付き、納見はなんとか和解させようと遠回しながら働きかけていた。そのくらいは私にも分かる。
しかし下越というのは意外だった。ヤツは皆桐が処刑されて私たちが疑心暗鬼に陥りそうな中で、ただ1人料理を作り続けて私たちを激励してきた。星砂に対して友好的に接していた。常に実直で朗らかだった。その下越にもケアが必要だというのか?
「虚戈さんは、この前のことできっと私たちに対して遠慮があると思うの。探索のときも、あのことを知らないスニフくんと、人が良くて虚戈さんに強く言えない雷堂くんを真っ先に誘ってたでしょ?」
「自分にとって都合の良い者に寄っていったわけか。単純なヤツだ」
「虚戈さん・・・やっぱり叩いちゃったこと、ちゃんと謝るべきだよね・・・」
「あの状況では致し方ない部分はあるが、明確な和解には必要だろうな」
「だけど虚戈さんは元が明るいから、私たちみんなで一緒に遊ぶ場があれば、きっとまた仲直りできると思うの。問題は下越くんよ」
そう言えば虚戈は隣の店に水着を観に行っていたな。思い返せば、ホテルからここに来るまでの間にも、いつもより口数が少なかった気がする。
「下越くんはずっと私たちのためにご飯を作ってくれてたの。でも、三回もあんなこと繰り返して、さすがに参ってるみたいでしょ」
「そうだな。よほどの事がない限り三食の準備は欠かさなかったヤツが、研前にまるまる投げていたのには驚いた」
「私は別に気にしてないよ?」
「そうではなくて、下越の気持ちの問題だ。確かにヤツも私たち同様、人を喪ったことに心を痛めているだろうが、ケアと言ってもどうするのだ」
「忘れてるかも知れないけど、下越くんは“超高校級の美食家”なのよ。だから専門は食べる方なの」
「専門外であんなに美味しい料理作れるんだから、下越君ってすごいよね」
「でもここに来てから、私たちが下越くんのために料理したことってないじゃない?いつも下越くんが私たちのために作ってくれてたのよ」
「確かに・・・」
「だから、せめてバーベキューみたいな形で、みんなで遊びながら下越くんのために料理してあげたら喜ぶんじゃないかなって思ったの」
「下越君のために料理!いいねそれ!」
そこまで正地が考えてバーベキューを提案していたのには驚いた。なるほど、虚戈と下越を同時にケアするには、良い提案かも知れない。私はあまり料理はしたことがないが、普段から世話になっているのだから少しは善処しよう。極も納得した様子で頷いていた。
「っていう感じなんだけど、おかしいかな?」
「おかしいことなどない。正地が私たちのために考えたことなのだろう。反対する者は誰もいない。ならばやるべきだ」
「・・・うん、ありがとう。極さん」
男子が真意に気付いているとは思わないが、聞いたとて反対する者もいないだろう。納見やスニフ少年なんかは協力的になってくれそうだ。懸念すべきことと言えば、十分な成果が出るかどうかだ。私たちが料理をすると言っても、それで“超高校級の美食家”の舌を満足させられるのか?虚戈も果たして和解することができるのか。
「ねーねー♬こんな水着あったよー♡」
「あっ、虚戈さ──なにその水着?」
「あっちにあったよー♡」
ドタバタと戻って来た虚戈は、なぜか既に水着に着替えていた。水着というか、魚の被り物だ。妙にリアルな質感で興味深いが、間の抜けた笑顔の虚戈が来ていることで、違和感が凄まじい。着ているということは既に支払いを済ませた後だなこれは。どういう散財の仕方だ。
「へっ?な、なんでだ?」
「だから、今日は下越君はいっぱい遊ぶのが仕事なの。ほらほら、水着あるでしょ?着替えたらプールに入る」
「いや、でもバーベキューとか」
「それは私たちでやるから。いつも下越くんばっかり料理してるから、今日は私たちがするの」
仕込みをした肉や野菜、バーベキューの機材をプールに運んだら、既に女子たちが待っていた。虚戈は待ちきれずにプールで遊んでるし、研前と正地は結構大胆な水着に着替えてた。まあ、上から薄いジャケット羽織ってるから、目のやり場に困ることはないけど。あと荒川はなんでスクール水着なんだ?
「デリカシーのない男だな貴様は。調子に乗っていると思われないように地味なものを選び、なおかつ地味の中でも選択した理由を考えるまでもないものとなれば、これしかないだろう」
「自己評価が低いのにやたらと自意識過剰だねえ」
「レイカさんがいませんけど」
「すまない、遅れた」
「どこ行ってたんだ?」
「・・・デリカシーがない男だな貴様は」
「???」
荒川も極もなんだってんだよ全く。それより、これで全員集合だな。早速遊ぶヤツは遊んでバーベキューするやつはバーベキューって流れになったけど、下越が研前と正地と何やら揉めてる。揉めてるっていうか、下越は女子二人に押されて困ってる。
「雷堂くん、下越くんをお願い」
「は?お願い?」
「うん、今日は私たちが料理するんだ。下越君はいつもやってくれてるから、今日は遊ぶ役なの」
「いやでも、ベストな焼き加減とか一緒に焼いちゃダメなのとか色々あるんだよ」
「・・・そういうことじゃあないんじゃあないかい?」
「スニフ君も、バーベキューしたいよね?」
「したいです!
「テールジー♬こっちのお水は楽しいぞー♡」
「ほら、虚戈さんも呼んでるから。後は私たちに任せて!」
「うぅん・・・まあ、そこまで言うんだったらそうするけど。でもアレだぞ。焦がすなよ!火に気を付けろよ!特にスニフ!」
「分かっている。スニフ少年には味付けをしてもらう」
「えー、ボクもやきたいです」
「ほら、行こうぜ。スニフと納見も、取りあえず水着に着替えるぞ」
なんだかよく分からないけど、下越は料理に参加させてもらえないことになった。俺も妙だとは思ったけど、俺以外の全員はなんとなくそれを理解してるっぽかった。なんだよ、俺だけ仲間外れか?
ひとまず男子全員で更衣室で水着に着替えた。一応俺も羽織を持ってきてあったから、それを着て準備完了だ。さすがに海パンだけじゃな。と思ったら、納見とスニフは海パンだけか。スニフはご丁寧に帽子とゴーグルまで用意してる。泳ぐ気まんまんかよ。
「ばっちりです!」
「下越、その髪留め邪魔になるんじゃないか?」
「ん、ああ。前は料理するときは結ぶようにしてたんだけど、めんどくせえから風呂と寝るとき以外はずっと結んでんだ」
「でも今日は料理しないんだろ?」
「あそっか」
「ていうかあ、髪は切ればいいんじゃあないかい?」
「切っても切っても伸びてくっからもう諦めた」
「そういうこっちゃあないと思うけどお」
そう言いながら下越は髪留めをほどいた。少しクセの付いた髪が普段よりも広がって、なんだかいつもと雰囲気が変わって見える。
「新鮮だねえ」
「お前らの前で外したことないしな」
「やっぱり女子みたいな髪型になるんだな。手入れとかめんどくさくないのか?」
「ぶっちゃけめんどくせえ」
そう言って下越はヘアゴムで髪をまとめて、また普段と同じような髪型になった。ゴムも用意してるなんて準備がいいな。
着替えを済ませてシャワーを浴びたら、プールサイドでもう女子たちがバーベキューを始めてた。美味そうな匂いがプールサイドに漂ってくる。
「Wow!おいしそうな
「こらスニフ君!プールサイドは走らないの!」
「あうっ!?きゃあっ!?」
「ぷっ・・・いわんこっちゃない」
「あっ♡スニフ君いらっしゃーい♬あそぼあそぼ♬」
「ぴゅーっ!あ、ボクBBQ・・・ひゃあ〜〜・・・!」
匂いにつられて走り出したスニフが研前に注意されて驚いた拍子に足を滑らせて頭からプールに落ちた。コントみたいにきれいな流れに思わず噴き出した。しかもちょうど近くにいた虚戈に連行されて、しばらくバーベキューにはありつけなくなった。プールサイド走るからだ。
「ちゃんと焼けてるだろうな?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。失敗したら私が全部食べるから」
「そういう問題じゃ──」
「テルジー♬そっち行ったよー♡」
「あン?どああああっ!?いっつめて!?」
「Oh・・・
今日は料理させないって言ったそばから早速バーベキューに向かって行く下越に、虚戈から声がかかる。タイミング悪く、いやタイミング良く振り向いた瞬間、顔面で水風船が炸裂した。顔で風船割るのだけでも痛くて辛そうなのに、水まで入ってるとは。
「何すんだよ!」
「テルジがぼーっとしてるからだよ♣」
「たのしーですよテルジさん」
「ほらあ下越氏。あっちで遊んできなよお。まだ焼けるまで時間あるしい、今日は料理しないんだろお?」
「ん・・・わあったよ!お前ら2人まとめて相手したらあ!」
「わーっ!?ボクなにもしてないですよ!」
「きゃーっ♡テルジが怒ったー♬」
「プールは飛び込まないの!」
煽られてあっさり頭に血が上ったのか、単純なのか、下越はその辺に浮かんでた水風船をひっつかんで虚戈とスニフに投げつけまくった。飛び込んだときに研前に注意されたのは聞こえなかったのか、無視して子供2人とはしゃいでる。疲れそうだな。
「納見はいいのか?」
「おれ泳げないし運動系はてんでダメだからねえ。大人しくこれで浮かんでおくよお」
「浮き輪か。準備がいいな」
「貸し出し用のヤツさあ。やたら準備がいいのはモノクマらしいねえ」
ゆっくりと水に入って、納見は浮き輪でぷかぷかと水面を漂っていった。確かにこっちの方があいつらしい感じがする。俺は今はまだあの輪の中に入って行くのはいいかな。取りあえずバーベキューで女子に混じって肉を焼いてた方がマシそうだ。
「雷堂は泳がないのか」
「ああ。俺はいいよ。荒川こそどうなんだ」
「フフフ・・・見たいのか?20本の指全て同時に攣る姿を・・・」
「い、いや、遠慮しとく。研前と正地はどうだ?えらく気合い入った水着だし」
「そ、そうかな・・・?ちょっと派手過ぎるかなって思ったんだけど」
「せっかくの機会だし水着なんて久し振りだから、ちょっとはしゃいじゃったの」
「ああ、2人とも似合ってるよ」
「私は似合ってないか。標準的なスクール水着すら似合わないほどか。そうか。そうだよな」
「悪いと思って敢えて言わなかったんだけど・・・言って欲しいのか?」
「皮肉か社交辞令としか受け取れないからいい」
「めんどくさいヤツだな」
こんなに水着姿に後ろ向きなヤツは初めて見た。荒川はとことんこういうイベントは苦手らしい。ずっと隅っこで体育座りしてる。というか普段だって白衣羽織ってるけどミニスカに胸元ざっくりしたシャツ着てるじゃんか。よく分からない価値観だな。と、ここで気付いたけど、極は水着に着替えてない普段着だ。
「極は水着にならないのか?」
「見たいのか?お前はさっきから、女子の水着をじろじろと見ているようだが」
「べ、別にそういうわけじゃ・・・」
「あら、そうなの?まあ雷堂くんも健全な男子高校生だし?ねえ研前さん?」
「な、なんで私にフるのぉ!?」
「私は後で着替えてくる。水なら少しだけ浴びるくらいでいい」
「からかうなよ・・・」
極がそういう冗談を言うなんて珍しいな。ちょっとテンション上がってんのか?でも水着になってないってことは、本当に水に濡れるのがあんまり好きじゃないのかな。そんなことを考えてたら、だんだんと肉が焼けてくる匂いがした。もういい具合じゃないのか。
「一足先にいただいちゃいましょ。下越くんたち、まだ夢中で遊んでるから」
「・・・虚戈はあれでいいのか?研前や正地と和解するのが目的なのだろう?あっちで遊んでいてもそうはならないと思うが」
「う、うん・・・まずは、腹ごしらえから、かな?」
「まあ、私たちも人のことは言えんがな」
ため息交じりに、極は火の通った串を取った。肉と野菜が交互に刺さってて、美味そうなタレがかかってる。極は豪快にそれをかじって串から抜いて食べる。
「ワ、ワイルド・・・」
「こうやって食べるものではないのか?」
「極さんって下手な男の子より男らしいわよね」
「・・・あまりいい気はしないが」
「おいしいおいしい」
「研前さんはもうちょっと会話に入る努力しない?もう何串食べたの?」
「まだ3串だよ」
「この短い間に!?」
どうやらしっかり焼けたみたいだな。他の串もイイ感じだ。鉄板の方では焼きそばを炒めて、専用の機材ではスモークチーズなんかも作ってる。下拵えは下越がやってくれたけど、焼きは案外道具さえ揃ってれば俺たちでもできるもんだな。
「ぜえ・・・ぜえ・・・つ、疲れた・・・!なんなんだよあいつら・・・!」
「おう、お疲れ下越」
「さすがの下越も、虚戈とスニフにもまれたらこうなるか」
「子供の体力ってすげえな・・・」
「ちょうど肉焼けたぞ。食べようぜ」
「あ〜〜〜・・・」
「どんだけ疲れてんだよ」
近くのプールサイドに、妖怪みたいに下越が這いずり上がってきた。虚戈とスニフはまだプールの中ではしゃいでるけど、下越はぐったりしてサマーベッドに転がった。こんなに力の抜けた下越ははじめて見た。
「疲れた・・・こんな疲れたの久し振りだ」
「いつもみんなの料理作ってくれてるじゃない。それは疲れないの?」
「・・・いや、疲れねえな。前にも言ったけどさ、オレにはそれしかできねえんだよ。お前らみんなが今日も明日も食っていけるように、疲れてる場合じゃなかったんだよな」
「その体力があってなぜ今そうなっている・・・」
「けど、この前の朝は落ち込んでたよね?みんな心配してたんだ。下越君、大丈夫かなって」
「大丈夫じゃねえよ・・・毎度毎度、だんだん用意する分量が減ってくんだぞ。昨日まで美味い美味いつってオレの作った飯食ってたヤツらが、今日はもういねんだぞ。飯作るのも飯食うのも、オレは大好きなんだよ。けど・・・それが苦痛なんだよ・・・」
仰向けで寝転がりながら、下越は誰に言うともなく、訥々と話す。結局はじめてここで全員で飯を食べてから、半分近くまで人数が減った。その差を一番強烈に感じてたのが下越だったんだ。食べることに関して俺たちのことを一番真面目に考えてくれてたからこそ、辛い思いもさせてたんだな。
「それでも、さっきは自分で肉を焼こうとしてたではないか」
「そりゃ肉だって野菜だって、最高の状態で食ってやるのが食べ物に対する礼儀だろ。半端な調理したんじゃ、素材にも悪い」
「・・・それが下越くんの、“超高校級の美食家”としての流儀なのね」
「だから・・・どうしたらいいか分かんねえんだよ。飯作るのは好きだ、でも辛え。食べるのも好きだけど辛え。じゃあオレはなんなんだ。“超高校級の美食家”なんて言われても、作ることも食べることもできねえなんて、何のためにオレはここにいるんだって、そう思ったりするんだよな」
“超高校級”の“才能”を持ってるからこその下越の言葉は、俺にはなんとなく理解できた。“超高校級の美食家”としていられないと、自分が何なのか分からなくなってくるんだ。俺だって、自分のパイロットとしての何かを否定されたら、自分がどんな人間なのかなんて分からなくなってくる。下越は、それをずっと自問自答させられてたんだ。自然とそうなる場所にいたんだ。
「んもう!下越くんらしくないわよ、そんなにあれこれ難しく考えて!」
「んえっ?」
「ほら、お肉焼けたから食べなさい。きっとそんな悩みなんて吹っ飛んじゃうから」
「お、おう・・・いやでも、オレはもう辛いんだよ。飯食っても余計なこと考えちまって、全然幸せな気持ちになれねえんだ」
「いいから食べる!ほら!」
「もがっ」
「お、おいおい・・・」
焼けた肉串を、正地が下越の口に突っ込んだ。串が刺さって危ないと思ったけど、きちんと先端にも肉が刺さってた。下越は素直に突っ込まれた肉をもぐもぐ食べてたけど、熱くないのか。
「んぐっ・・・ん?」
「どう?ちゃんと焼けてるでしょ?」
「あ、ああ。そこは問題ねえ」
「美味しい?」
「・・・う〜ん」
「あれ?そんなでもない感じ?」
「いや、お前らなんかかけたり塗ったりしたか?」
「何もしていないぞ。お前たちが持ってきた肉をそのまま焼いただけだ」
「なんかおかしいか?」
じっくり味わってよく噛んでから、下越はそう尋ねた。ここに持ってきたものは素材と塩胡椒と焼き肉のタレくらいで、そんな大したものは持ってきてない。焼き肉のタレはさっきからずっと研前が独占してるし、下越は何が引っかかってるんだ?
「自分が仕込んだ肉の味はぜってえに自信があるんだよ。焼き方で風味が変わることはあっても、こんなに違う美味さになるわけが・・・」
「美味い、と言ったな?フフフ・・・“超高校級の美食家”にそれを言わせた時点で我々の勝ちだ」
「勝負ではないし荒川は何もしてないだろう」
「なんでだ??うめえぞなんでだ??」
「こうやってみんなで一緒に、楽しく食べるからだよ」
焼けた肉をまじまじ見ながら考えこむ下越に、研前が呑気に言う。紙皿の上にどっさり乗った肉と野菜を口に運びながら、その合間に喋る。なんだその技術。
「下越君の料理って美味しいんだけどさ、なんか完璧すぎてちょっと緊張しちゃうんだよね。下越君が食べ物とか食べることに真面目でそれ自体はいいことだと思うんだけど、そういう食べ方だけじゃないと思うんだよね。こうやってみんなで一緒に料理して、ちょっと失敗したりマナーが悪かったりしても許せる、そんな食べ方もいいんじゃないかな」
「いや、まあ、確かに焼き方はもうちょっとあると思ったけど・・・」
「お前の完璧主義は分かっている。我々に分け隔てなく料理を振る舞う博愛主義も分かっている。だが、完璧は脆いものだ。博愛は心を痛める選択だ。お前は人のことを考え過ぎだ」
「そうだな。下越は今までずっと俺たちに料理作ってくれてたし、気に懸けてくれてたもんな。俺たちだって下越に何かしてやりたいよ」
「・・・」
なんかいつの間にか、下越を労う会みたいになってきた。けど研前や極が言うことは俺も理解できるし納得できる。誰よりも早く起きて朝飯の準備をして、晩飯の片付けと朝飯の仕込みのために誰よりも遅くまで厨房にいて、下越をそれ以外の場所で見ることなんてほとんどなかった。それが下越のやりたいことなのは分かってるけど、どこか義務感を下越が抱いてたのも事実だ。
「ぷはーっ!おなかペコペコです!おにくおにく!」
「こらスニフ君、ちゃんと身体拭いてからじゃないと食べちゃダメだよ」
「マイムもお腹ぺこやまー♡」
「いい匂いがしてきたねえ」
「いくらでもあるからどんどん食べてね」
「ん〜!!
「おいしーね♡まぐまぐ♡」
プールからあがってきたスニフと虚戈と納見が、身体についた水滴も拭かずに肉串を頬張る。それを見た下越は、ぽかんとした表情をしてたけど、すぐに脱力してまた仰向けに寝転がった。
「・・・どう、下越くん。安心した?」
「やあ下越氏。さすが下越氏の味付けだねえ。美味しいよお」
「ああ・・・美味えよ」
何も口に入れてないのに、下越はそう応えた。これで少しは不安材料が減ったかな。正地と研前はにこやかにお互いを見て、荒川も一安心という風につま先で水を弄んでた。俺もよく火が通った玉ねぎを頬張る。うん、甘みが出てて美味い。
「一旦は成功、ということでいいか?」
「そうね。まだ完全じゃないけど、下越くんが少しだけ前向きになれたわ」
「なんだなんだ?お前ら何か企んでたのか?」
「なんでもないわ。ありがとう、雷堂くん」
「え・・・なんでなんでもないのにお礼言われるんだ・・・?」
なんだかよく分からんけど、女子たちは女子たちで何かが上手くいったらしいから、別にいいか。そんなタイミングで、極が食べ終わった串を置いてどこかへ行こうとした。
「どこ行くんだ?」
「せっかくだから私も泳ごうと思ってな。着替えてくる」
「レイカも泳ぐんだー♬競争しよーよ♬」
「虚戈氏は泳ぎ方めちゃくちゃなのに速いからねえ。わけがわからないよお」
「ヤスイチさん、ボクも
「スニフ氏はあっちのイルカ型の方がいいんじゃあないかい?」
「
納見が指さしたイルカ型の浮き輪、輪って言うかイルカだけど、それをスニフが引っ張り出してきた。萎んだままのイルカは見てるだけで切なくなってくる仕上がりだ。これを膨らませなきゃいけないけど、よく見たらポンプが見当たらない。
「ぷふーっ!ぷふーっ!ぷふーっ!あっぬけた」
「あははっ♬スニフ君膨らますのへたっぴ♡」
「むぅ、ワタルさん、やってください」
「え、俺かよ・・・」
「だって
「刺さるねえ」
「しょうがないな」
スニフからイルカを借りて、思いっきり空気を吹き込む。でもイルカのデカさからしたら一息の量なんて微々たるもんだ。吸っては吐いて吸っては吐いてを何回も繰り返して、それだけで息が上がってくる。徐々にビニールの表面に張りがでてきて、二十回くらいでようやく形になった。
「ぜーっ!ぜーっ!で、できた・・・!」
「
「テイってなんだよ」
「雷堂君がんばったね。はいお茶」
「あ、ああサンキュー研前。意外と大変だなこれ・・・モノクマのヤツ、ポンプくらい用意しとけばいいのに」
「供給は需要から生ずる。欲しければショッピングセンターに行けということだろう」
「何から何までモノクマが支配してるのに経済起こす意味あるのかねえ」
研前からもらったお茶をあおってモノクマに文句を言う。モノクマの意図は分からないけど、まあ大した意味はないんだろう。単純に用意するのがめんどくさかったとか。
「けっぷ。
「元気いっぱいだねえスニフ氏」
「ワタルさんも
「お、俺も?」
「そっち4人はまだ泳いでないだろお?極氏も泳ぐみたいだしい、水着ってことは泳ぐつもりあるんだろお?」
「まあ。じゃあちょっとだけ泳ぐか・・・と、その前にトイレ」
「デリカシーないわねもう。そういうところよ雷堂くん。ね、研前さん」
「ね」
「え?なんか言ったか?」
「なんでもないわ」
「なんでもないよ」
「そういうところだねえ、雷堂氏」
「ワタルさん、ボクも
「スニフ君もそーゆーとこだね♡」
「???」
「???」
なんだかよく分からないけど、俺はそういうところらしい。俺もスニフも首を傾げるけど何にも分からん。まあどうでもいいか。スニフもトイレ行きたがってるし、さっさと済ませて軽く泳ぐか。はじめて来たところだからどこに何があるか分からないけど、だいたいプールサイドのどっかだろ。
「ワタルさん、
「知らないのかよ。俺も分かんないんだよな」
「う〜、
「えっ、なんでもっと余裕もって言わないんだよまったく!ここか?」
だから子供はめんどくさいんだよ。急にもじもじしだしたスニフに急かされて、トイレがありそうな方を探してみた。プールサイドから少し離れた適当なドアを開けて中に入ってみる。
「あ」
「ん?」
一瞬、意味が分からなかった。脳みそが動こうとしないで、目の前の状況をただそういうもんだと受け止めて、バカに冷静なことを考えたりした。この光景を焼き付けようと脳がフル回転したのかな。
黒くしなやかな髪は蛍光灯に照らされて、一本一本見えるくらいサラサラと流れる。白い肌は引き締まって力強く、それと同時に触れたくなるほどきれいだった。普段はレンズの向こうにある鳶色の瞳が、切れ長の瞼からこっちを覗いた。その表情は驚きの中に少しだけ恥じらいが感じられて、なんとなく色っぽかった。そのせいか、俺は無意識に呟いた。
「きれいだ・・・」
「──ッ!?」
「うーっ!ワタルさん!もれる・・・」
「あっ」
「見とれるなバカ者!!」
「ほげばっ!?」
「Eh?レイカさ──あばっ!?」
何歩分か開いてたと思うけど、気付いたときには極の手が目の前に迫ってきたところだった。俺は一瞬意識が途切れて、すぐ冷たい水に突き落とされた衝撃で覚醒して、慌てて息を吸おうとしてがっつり水を飲んじまった。
「うおっ!?な、なにしてんだあいつら。トイレ行くんじゃなかったのか?」
「さあねえ。待ちきれなかったんじゃあないかい?」
「スニフ君もワタルも子供みたいだねー♡って、スニフ君は子供か♬」
「ぶくぶく・・・」
「し、しまった。つい本気の掌底をブチ込んでしまった。たぶん気を失っているから掬い上げてやってくれ」
「極さん?あ、もしかしてあの二人・・・」
「ぶはっ!なんですかレイカさんいきなり!」
「よいしょっとお。あれはスニフ氏と雷堂氏が悪いねえ」
「起きてワタル♬人工呼吸しちゃうよ♡」
「ダ、ダメだよ虚戈さん!」
「う〜ん」
何が起きたかよく分からんけど、気付いたら俺はプールサイドに寝そべってた。周りを見ると虚戈と研前が仲良く組んず解れつになってて、いつの間に仲直りしたのかとなぜか冷静になって考えてた。確か俺はトイレに行こうとして、それで・・・。
「あとで極に謝んないとなあ。あ、そう言えばスニフ」
「はい?」
「お前、トイレはもういいのか?」
「Ah・・・もうだいじょぶです」
そんならよかった。
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若えもんには負けてられん。更新じゃ