絹を裂くような悲鳴がテント中に響き渡る。モノクマのアナウンスを掻き消して私たちの耳を劈く。でも耳の痛みなんか気にならないくらい、いま私の意識は舞台上に釘付けになってた。
「こ・・・虚戈・・・!?」
「全員その場を動くなッ!!両手を開いて見せろッ!!」
誰よりも早く冷静さを取り戻したのは、極さんだった。その意味を理解するよりも、迫力に気圧されて私たちは指一本動かせなかった。やがて、誰からともなく言われた通りに手を開いて見せた。誰の手にも、
「・・・クソッ!まさかこんな手で来るとは・・・!」
「見苦しいぞ極、この程度で尻尾を出すような犯人なら苦労はしない」
「・・・!」
「私たちは既に3度の学級裁判を経てここにいる。凄惨な処刑も目の当たりにした。行動を起こす者は相応の覚悟と、勝算を持っているはずだ。この場で証拠を掴ませるヘマをするとは思えない。こんなことに時間を使うより、現場を調べるべきではないか?」
「ああ・・・すまない。私も冷静じゃなかった」
手を見せながら、荒川さんがすごく落ち着いた言葉で極さんを諭した。相応の覚悟と勝算、荒川さんはそう言ってた。学級裁判とおしおきをもう3回も経験したのに、それでもコロシアイを起こすクロの気持ち・・・そんなの考えたこともなかった。たった今、目の前で虚戈さんがひどい殺され方をしたっていうのに、荒川さんは落ち着いてた。
「二人一組だ。互いの潔白を証明するにも牽制するにも、証人が必要だ。見張りに費やす人員もない。異論のある者は」
「うぷぷぷぷ♬なんだかんだオマエラも慣れてきたみたいだねぇ〜!早速捜査を始めようってことですかそうですか!んじゃあボクからのプレゼントはなくても大丈夫かな?」
「モ、モノクマ・・・!」
「テメエ・・・この状況で何が可笑しいんだよ!!虚戈が殺されてんだぞ!!」
「お、落ち着きなって下越氏。モノクマにそんなこと言ったって今更じゃあないかあ」
「いやあそれにしても、今回はずいぶんと大胆にいったよね!ボクはずっと見てたけど、さっきの停電のときはちょっと焦っちゃったからね!非常灯に切り替えるのにもたついちゃったよ!」
「あの停電はモノクマの嫌がらせじゃあなかったんだねえ」
「ボクなんだと思われてんの?そんなことしないよ!」
やっと非常灯の明かりがテントの隅々まで行き渡って、周りが問題なく見えるようになった。でも復旧はまだしてないみたい。この停電の前までは、虚戈さんは確実に生きてた。でも明るくなったときにはもう・・・。ってことは、犯人は停電の間に虚戈さんを殺したってこと?あんな、足下も見えない真っ暗な中で?
「時間が限られてるんだろ?早くファイル寄越せよ」
「とは言ってもねえ、虚戈さんが死んだのはついさっきなんだよ?いくらボクでもそんなすぐに作るなんてできないよ。今まさに作ってる最中だけどさ」
「じゃ、じゃあ・・・いつものファイルはなしでやれってこと・・・?」
「うんにゃ。あれはクロとシロが公平に学級裁判を行えるようにするためのものだから、もちろん今回も発行するよ。でも時間がかかるから、先に捜査を始めててね」
「・・・じゃあ、モノクマ出てこなくてよかったですよね?」
「はうっ!?ピュアな目でそんなヒドいこと言われたらボク・・・ボク・・・とってもコーフンしてきちゃうよ!ハアハア!」
「はあ」
「見ちゃダメだよ、スニフ君」
最低だ。モノクマはスニフ君に投げられた言葉に顔を赤らめながら、客席の隙間に消えていった。モノクマファイルは後で発行されるらしいから、それまでは私たちが自力で事件の手掛かりを掴まなきゃいけない。また、やるんだ。友達が死んだことを思い知らされて・・・友達同士で疑い合って・・・また誰かが死ぬ。私の幸運がある限り、きっと私が学級裁判で負けることはないんだろうけど・・・でもそれだけじゃ何の解決にもならない。
「とにかく、二人一組だ。私は検死と虚戈の死体周辺を調べようと思うが・・・」
「あ、だったら俺が一緒にやるよ。どうせこのスーツ、スパゲッティソースだらけだから、血が付いてもいいし」
「凄惨なものを見ることになるが」
「・・・そんなの覚悟の上だ」
「みっともない格好で格好を付けてもしまらないな。フフフ・・・では私からはスニフ少年を指名させてもらおう」
「え・・・ボク?なんでですか?」
「過去の学級裁判ではスニフ少年の推理が解決へ向けて大きく貢献していたからな。その着眼点や推理の手順に興味が湧いたのだ。不謹慎と言われようが構わん。私は・・・フフフ、君が知りたいのだ」
「あうぅ・・・」
「やめて荒川さん。スニフ君が怖がってるよ」
「顔の怖さは慣れてもらう他ないが」
「だ、だいじょぶです!こわくないですから!分かりましたエルリさん!いっしょに
「じゃあおれは研前氏とだねえ。それとも下越氏、行くかい?」
「・・・いや、オレは正地とここにいる。スパゲッティ片付けねえとだし」
下越君がちらりと見た正地さんの顔は血の気が引いてて、まともに立てないのかうずくまって、椅子にもたれかかってる。もうコロシアイなんて散々な精神状態だったのに、こんなもの見せられたら、こうなっても仕方ない。
「オレらは力になれねえみてえだ」
「仕方あるまい。現場で吐かれたりしてはかなわん」
「・・・ご、ごめん・・・なさい・・・!」
「
正地さんと下越君は客席に残って、私たちで現場を捜査することにした。淡々と捜査に移るこの状況に、ふと気付いた。もしかしたら私たち、人が死ぬことに慣れてきてるのかも知れない。虚戈さんの死を悲しむだけじゃなくて、この後にどうすればいいか、そんなことを冷静に考える自分に気づいて、背中が冷たくなった。
捜査開始
「モノクマファイルがないから、まずは私と雷堂で虚戈の検死を行う。それまでは各チームで気になるところを調べてくれ」
「気になるところと言ってもお・・・一番目立つ虚戈氏がステージの真ん中にいるからねえ」
「・・・?エルリさん、あれなんですか?」
「待て少年、足下に気を付けろ。血溜まりを踏んで現場を荒らすなよ。私が先に行こう」
「ん〜?研前氏、おれはあっち側が気になるんだけどお、ついて来てくれるかい?」
さっきより勢いは落ち着いたものの、まだ虚戈さんの首からは真っ赤な血が噴き出ている。その断面は見るに堪えなくて、なるべく虚戈さんの死体は見ないようにした。荒川さんが血を踏まないよう、慎重に道を選んで舞台裏の方に入ってく。スニフ君はその後をぴったりくっついて行った。ステージ奥に転がってた虚戈さんの頭は、極さんが真っ先に拾って身体の横に丁寧に並べた。うん・・・ありがたいけど、そんなことを躊躇なくできる極さんに、ちょっとだけ距離を感じちゃったりして・・・。
私と納見君は舞台裏には行かず、ステージの反対側まで行った。納見君が気になったのは、ステージ袖にある変な金具だった。ちょうど舞台幕の陰になってて、客席からは見えない場所だ。そこに、床に固定された輪っか状の金具がある。よく見たら舞台のあちこちにあるから、特に気になることはないんだけど。
「これは一体なんだい?」
「ただの金具だと思うけど・・・何に使うのかは分かんないや」
「いやあ、そうじゃあなくてえ。この金具の下に落ちてる黒いのさあ」
「え、そんなのある?」
金具をまじまじ見ながら納見君が言う。暗いから見にくいけど、顔を近付けてよく見てみたら、確かに納見君が言うように黒い粉みたいなものが金具の下に落ちてた。こわごわ指につけて、匂いを嗅ぐ。途端に、咳き込みそうなほど不快な刺激が鼻の奥を突き刺した。
「グッ・・・こ、これ、煤だよっ・・・!」
「煤だねえ。こびり付き方といいべたつき加減といい、どこに出しても恥ずかしくない煤だあ」
「恥ずかしい煤なんてないよ・・・なんで煤なんかがこんなところにあるんだろう?」
「さあねえ。少なくともここに火の気はないからあ、誰かが意図的に何かを燃やしたってとこだろうねえ」
なんだか普段の納見君とは雰囲気が違う。こうやって捜査に積極的なのもいつもと違うし、こうやって鋭く証拠品を見つけるのも。どうして今回に限って?
「何か気になることでもあるのかい、研前氏」
「へっ!?あ、いやべ、別に・・・そ、その金具は何に使う金具なんだろうなって!」
「ふぅむ・・・確かに妙な形だねえ。輪っかになってるしい・・・何かを固定するためのものに見えるよお。サーカステントだしい、大道具も使うだろお」
「そ、そっか」
「ステージの上で気になるのはまずこのくらいかなあ。虚戈氏の死体は極氏と雷堂氏が検死をしてるしい、モノクマファイルが発行されるまでは一旦置いといていいかなあ」
「じゃあ・・・スニフ君たちと合流する?」
「いんやあ。調べられるところは他にもあるさあ。例えばあ、このテントの外とかねえ」
「外?」
今の納見君は行動的だ。事件の解決に前向きなのはいいことだけど、つい勘ぐってしまう。だって、虚戈さんは誰がどう見たって誰かに殺されてる。だから、納見君がクロじゃないなんてことは、今はまだ断言できない。もしかしたら、誰かが見つける前に証拠を隠滅しようとしてるんじゃないか・・・そんなことまで考えてしまう。
「極氏、雷堂氏。おれたちはちょっくらテントの外を捜査してくるよお」
「外?何があるんだよ外に」
「何かあるかを確かめに行くんだろお」
「大丈夫だよ。このエリアにはいるから、何かあったらすぐ合流できるから」
「・・・なら下越、お前もついて行け。二人だけで行かせるのは危険だ」
「オ、オレもかよ!?けど正地はどうすんだ!?」
「いいの・・・私、ここにいるから・・・。このまま下越くんに付いててもらっても、足手まといにしかならないもの・・・」
私の不安を見抜いたのか、極さんは冷静に下越君を私たちのチームに加えた。本当は正地さんについててもらって介抱してて欲しいんだけど、正地さんはもう随分落ち着いたみたいで、無理にだけど笑顔も見せた。客席からはステージがよく見えるから、虚戈さんのひどい有様だってまだ視界に入る。それでも、正地さんは強がった。
「私のために捜査ができなくて、それで学級裁判で負けちゃったら、元も子もないもの。下越くんが、みんなの力になってあげて」
「け、けどオレ、別に頭よくねえし・・・」
「いいから行くよお。正地氏もいいって言ってるんだから来なよお」
ちょっと迷った様子を見せながらも、下越君は私たちと一緒にテントの外の捜査に来ることになった。本当に正地さんを一人にして大丈夫か、私も心配だった。でも客席は極さんたちから見えるし、他のみんなは団体行動してるから、大丈夫・・・だよね?
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【ステージの金具)
機材を立てるための輪っか状の金具。
周囲に細かな黒い汚れがある。
さすがのモノクマランドも夜は暗くて、今はサーカステントの照明も切れてるからフェスティバルエリアの灯りと言えば、テントを大きく囲むように設置されたモノクマ型の山車が走るコースの街灯だけだった。なんとも言えない物寂しさがある。モノモノウォッチには懐中電灯の機能もあって、ちょっと近未来っぽい使い方に少しだけテンションが上がったりして。
「暗くて見づらいねえ。何かにつまづいて転ばないようにしっ──ぶあっ」
「言ったそばからかよ!顔面からいきやがった!」
「せめて受け身はとろうよ・・・」
「あたた・・・いやあ、メガネが無事でよかったよお。それにしても本当に視界が悪いねえ」
「いつもはサーカステントの灯りで眩しいくらいだからね」
「なんで消えてんだ?っていうか、停電あったよな」
「うん。今は非常灯で捜査ができるくらいにはなってるけど、それってつまり、あの停電は演出じゃないってことだよね?」
虚戈さんのステージ中、突然テントが真っ暗になった。ショーの演出の一部だと思ったけど、完全な真っ暗じゃ虚戈さんだって何もできない。だからあれはきっと、他の何かが原因なんだ。
「テントの電力はあ、デッカい発電機で賄ってるって雷堂氏が言ってたねえ。見てみようかあ」
「・・・なあ、納見ってあんなグイグイいくヤツだったっけか?」
「私もそう思ってたんだ」
「二人とも何してんだい?早く行くよお」
「う、うん」
やっぱり私の勘違いじゃなかった。下越君も、積極的な納見君に違和感を持ってた。どうしてこの事件に限って?まさか納見君、何か知ってるの?そんな勘繰りが、ただの杞憂で終わればいいんだけど。
納見君の先導で、私たちはサーカステントの後ろにやってきた。納見君が雷堂君に聞いた話だと、この辺りに大きな発電機があって、サーカステントの電気はそれが担ってるらしい。夜で暗かったけど、モノモノウォッチのライトを当てて、その姿を私たちは捉えた。周りをトゲトゲ付きの金網で囲われてて、なんだか近寄りがたい雰囲気を醸してる。
「なんだよこれ・・・これ1つでこのでっけえテント照らしてたのか?」
「照明だけじゃなくて音響や空調もだろうねえ。ずいぶんと高性能みたいだねえ」
「・・・?あれなんだろう?」
虎柄のペイントまでされた発電機は、それを囲ってる金網も相まってすごく危険だって見て分かった。だけど、その近くに横たわってる影が気になって、私は寄っていった。そのシルエットは明らかに人とは違う。細長くて、片方だけ膨らんでて、もう片方には四角いものが付いてて・・・モノモノウォッチの照明が、暗闇にタイヤを照らし出した。
「あっ、これモノヴィークルだよ」
「ホントだねえ。なんでこんなところにい?」
「誰かがここに乗り捨てて行ったのかな?」
「なんでこんなとこに用があるんだよ」
「そりゃあ停電を起こすためだろうねえ。ってことはあ、このモノヴィークルの持ち主がクロってことになるのかなあ?」
「えっ・・・?そ、そんなにあっさり?」
あっけらかんと言う納見君に、私は思わずつっこんでしまった。あっさりクロが判明することは、別にいいことだ。不必要に疑い合うことも、誰かが傷つくことも、普通の学級裁判よりずっと少ない。だけど、そんな簡単に済むだろうか。
「おや?こりゃあなんだろうかあ?」
「なに?」
「ちょっとモノヴィークルを起こしてみるよお。よっこらせっとお」
倒れてたモノヴィークルを納見君が起こす。よく見る向きになると、納見君が気になったであろう異常にすぐ気付いた。なんだろう、これ。モノヴィークルの正面、ハンドルのすぐ下あたりに何かの切れ端がくっついてた。夜風にそよいで情けなくひらひらしてる。まるで割れた風船みたいな侘しさもあるけど、派手なピンク色がその落ち着きを見事にぶち壊してた。
「おい、今日って別に雨降ってねえよな?」
「へ、なに急に?」
「この発電機の下んところさ、湿ってんだよ。見てみろ、色が違うだろ」
「ホントだ。よく気付いたねこんなの」
「まあな。大した手掛かりになるとは思えねえけど、気付いたから一応言っといただけだ」
自信なさげに頭をかきながら下越君は言う。なんだかこの発電機の周りだけで、色んなものが見つかった。停電のこともあるし、クロは間違いなくこの発電機までやって来て、何かをしたんだ。でも、私たちはみんなお互いに監視できるくらい近くにいた。そんな中でどうやって発電機まで辿り着いたんだろう?
「やっぱり外まで捜査しに来てよかったねえ。意外と重要な手掛かりかも知れないよお」
「・・・納見、お前なんで今回に限ってそんな積極的なんだよ」
「ん?」
「し、下越君・・・?別にそんなこと、いま聞かなくても・・・?」
「だって気になるだろ。変なこと考えてんじゃねえんならそれでいい」
「下越氏も人を疑うことを覚えたってことかい」
らしくなく警戒心剥き出しで納見君を睨む下越君に、納見君は余裕綽々という感じで応える。その態度が余計に怪しげで、余計に下越君を苛立たせて、余計に私を不安にさせる。あの納見君が・・・キャッチボールすらまともにできないほど運動音痴で、酒場の雰囲気に酔っ払ってロデオに乗ったら吹っ飛ばされて牧草に突っ込むような、あの納見君が、こんなに怖いなんて。
「別に大した理由じゃあないって言うかあ・・・今更どうしようもないというかあ・・・あんまり下越氏には聞かせたくないんだけどねえ」
「は?」
「どういうこと?」
「下越氏は動機を見てはないんだよねえ」
「当たり前だろ。見ねえっつったし、そんなもん見たくもねえ」
「そう。おれたちの中で下越氏
「え・・・の、納見君、それってどういう・・・?」
遠回しな納見君の言い方に疑問を感じる。その意味するところを考えたら、言わんとしてることが分かった。そして、今回の事件に限ってそんなに張り切ってる理由も、なんとなくだけど理解できた。
「下越氏、残念だけどおれたちの中で動機を受け取ってないのはあ、キミだけなんだよお」
「は・・・?いや、オレだけじゃねえだろ。虚戈だって・・・」
「虚戈氏は動機を受け取ってたんだよお。おれたちには隠してねえ」
「・・・どうしてそんなことが分かるの?」
「ついこの前だけどお、動機として与えられた研究部屋で考え事をしてたらあ、エレベ〜タ〜がおれの研究部屋がある階の上に止まったんだあ。おれの階の1つ上はあ・・・」
「虚戈さんの研究部屋・・・!」
「で、でもそんなの虚戈かどうかなんて分からねえだろ!他のヤツが虚戈の部屋を勝手に見たんじゃねえのかよ!」
「研究部屋はモノモノウォッチで開く仕組みだからあ、虚戈氏以外の人が虚戈氏の研究部屋のある階に行く理由はないはずだよお」
「・・・!」
下越君は、明らかにショックを受けてた。だって、一緒に動機を見ないって言ってくれてた虚戈さんが、一人でこっそり動機を手にしてたんだ。下越君にしてみれば、それは裏切り以外の何物でもない。ただでさえコロシアイの中で疲弊してるっていうのに、こんなのただの追い討ちでしかない。だから私は、下越君がこれ以上傷つかないようにと願いながら、願望混じりの憶測を話す。
「それが、納見君が張り切ってる理由?虚戈さんが下越君を裏切った理由を知りたいから・・・下越君のために、真相を明らかにしたかったの?」
「そこまで大層な理由はないけどねえ。虚戈氏が動機を受け取ってえ、その直後に虚戈氏があんなひどい殺され方をしたんだあ。無関係だとは思えないよお。だからあのときおれが虚戈氏を捕まえて問い詰めるなりしてたら何か変わったのかもなんて考えてしまうのさあ・・・おれなりの罪滅ぼしのつもりのお、自己満足だと思ってくれていいよお」
「・・・」
私は、ショックで落ち込む下越君と、自分の言葉でどんどん暗くなっていく納見君に挟まれて、何も言えずにいた。二人とも虚戈さんに振り回されて、学級裁判の直前だっていうのに落ち込んでる。有力そうな手掛かりはいくつか見つかったけど、これからの裁判が不安で仕方ない。
やっぱり私、なんにもできないな。虚戈さんや正地さんだったら、この場を明るくしたり励ましてあげたりできるのに。私は二人に引きずられて、一緒に落ち込むことしかできなかった。
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【停電)
虚戈のステージの最中、突如として停電が発生。
しばらく経ったあと復旧した。
【サーカステントの発電機)
サーカステントの電力を賄っている大型発電機。
危険物かつ高価なもののため、有刺鉄線で覆われている。
事件後、設置されている地面が湿っていた。
【モノヴィークル)
モノクマランドの移動手段としてモノクマから支給されている。
個人のモノモノウォッチで起動し、ナビシステムや自動運転システム、安全装置なども搭載された優れもの。
【ゴムの切れ端)
発電機近くに停止していたモノヴィークルに括り付けられていた。
可愛らしいピンク色。
「気になるものとは・・・どれだ?少年」
「エルリさん、こっちですこっち。これ・・・
「ああ、そっちか。見るからにそうだな」
エルリさんに
ボクがゆびさしたのは、マイムさんがつくった
「これ、すごい
「ふむ・・・確かにそうだが、こんな露骨な証拠を残すほど、犯人は間抜けだろうか」
「
「スニフ少年は数学者なのだろう?ならば厳密に考えるべきだ。現場には血を踏んだらしき足跡が残されている。それ以上でもそれ以下でもない。これが犯人が捏造した証拠である可能性を考慮するべきだ」
「
「フフフ、事実は事実として受け取らねばならないぞ少年。我々理系の人間はそういった世界に身を置いているのだ」
「はあ・・・」
いまいちエルリさんの言ってることは分からないけど、
「足跡も結構だが、こっちへ来てみろ少年。一目見ただけで私は捜査場所の選択を誤ったと後悔した」
「Oh・・・
ボクの見つけた
「これを片付けなければならないのだろうか・・・」
「
「いや待て少年、キミも男ならここは率先してやるべきではないかね。それが紳士の振るまいというものだろう」
「ボクまだ
「都合の良いときだけ子供の立場を利用するのか・・・フフフ、キミのような狡猾なガキは嫌いだよ」
「だってこんなのボクとエルリさんだけでムリですよ」
ワタルさんとテルジさんがいてくれればまだよかったと思うけど、ふたりとも他の
「ぜえ・・・ぜえ・・・の、納見ではないが・・・さすがにこれは・・・!」
「
「し、しかしこれで・・・ようやく捜査できるようになったな・・・!」
「あうぅ・・・」
こんな
「なんでこんなことになってるんでしょう」
「ふむ・・・安易にここで結論を出すのは好ましくないが、私の所感はこれだ」
「あっ。
どかした
「この足跡が捏造ではないとすれば、犯人と思しき人物はステージからここへ走って来た。しかし途中で大道具の山にぶつかった。そこで何らかの理由・・・足跡の存在などに気付いて靴を脱ぎ捨てた。どうかね?」
「
「探してみたまえ」
どこかに
「ぺっぺっ!目がすなに入った!」
「逆だな。まったく、鼠みたいに慌てて入り込むからだ」
「なんでこんなに
「演技用の砂袋が破けているからだな。これもおそらく大道具が崩れたときに破けたのだろう。おや・・・この砂袋、ロープが付いているな」
「あ、それボク、モノクマからききました。
「なるほどな。虚戈のような身軽さならそれも可能か・・・ふむ、もう少し詳しく調べてみようか」
「・・・?」
エルリさんは、この
「あっ!ありました!」
「見つかったか少年、しかしここで問題だ。私が少年を見失った」
「ここです!」
いつのまにか
「やっぱりこれですよ!」
「やはりこの大道具の山の中に紛れさせていたか。フフフ・・・私も発見があったぞ少年」
「なんですか?」
「さっき少年が頭から被った砂袋だがな、ロープが繋がっていただろう。その先がこのように、焼け焦げていた」
「
「おそらくな。それともう一つ、この金属線だ」
「巻き付いている部分はしっかりしているが、まるで引き千切られたような痕がある。明らかに不自然ではないかね?」
「う〜ん・・・なんでしょう?わからないです」
「やはりここには色々残されているようだな。あとは・・・」
「虚戈の死体は首を切断されていた。人の首を真っ二つにするなど、容易なことではない」
「そうなんですか?」
「人の身体というものは、思うほど強くはないが、思うほど弱くもないものだ。人の首は複数の骨が連なってできている。骨と骨の継ぎ目に鋭利な凶器で一気に切り込まねば、あんなやり方は不可能だ」
「じゃあ、
「そんな凶器を隠すにも、こうした場所は打って付けだとは思わんかね」
「見てみろ少年。これは・・・いかにも凶器然としてはいないかね」
「
ぬらりとふりかえったエルリさんは、手に
「簡単に払ってはあるが、血が付着している。鞘の中からも微かに血の臭いがする。これは模造刀では・・・なかろうな」
「あ、あぶないですよエルリさん!しまってください!」
「案ずるな少年。その程度の扱いは弁えている。それより少年は、この刀に覚えはあるか?」
「あう・・・えと、マイムさんに
「ということは、この刀は無意味にここにあるわけではなかろうな。フフフ・・・犯人の動きが徐々に見えてきたではないか」
「でも、
「それを明らかにするのが学級裁判の場だ。しかし・・・一筋縄でいくようなものではないだろう。フフフ・・・さて、どうなることか」
そう言ってエルリさんは
「エルリさん・・・たのしそうです」
「そう見えるか?・・・楽しんでいるつもりはないのだが・・・そう映るものらしいな。おかげでよく誤解される」
「
「この見た目で錬金術師などという怪しげな“才能”だ。普通の人間ならば、マッドサイエンティストのするような猟奇的かつ常軌を逸したことを連想する」
「そうですよね」
「正直でよろしい。しかしな、私は生命というものの
「
「故に、私はいまちっとも楽しくない。ただでさえ命懸けの状況なのだ。今さら楽しんでなどいられはしない」
「ごめんなさい・・・ボク、そんなつもりじゃ・・・」
「分かっている。誤解される見た目をしている私にも落ち度はあるのだからな」
エルリさんは
「覚悟を決めねばな、少年」
ボクのかおを見て、エルリさんが言った。かきあつめた
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【足跡)
ステージからバックステージへ続いている血の足跡。
虚戈のステージ中には見当たらなかった。
【崩れた大道具)
ステージ裏に用意されていた大道具。
事件後は激しく崩れていた。
【砂袋)
エアリアルのパフォーマンスを行うときに使う上昇用の重し。
ステージ裏で破けて中身がこぼれていた。
【捨てられた靴)
靴底に血が付着したブラウンカラーの靴。
しっかりした造りだが、軽くて履き心地がいい。
【ロープ)
砂袋に結びつけられたロープ。
先端は黒くなって千切れていて焦げ臭い。
中程に細い金属が巻き付いている。
【細い金属)
ロープの中ほどに括り付けられている細い金属。
引き千切られたように歪に途切れている。
【剣呑み用模造刀)
剣呑みのパフォーマンスに使うダミーの刀。
軽く押すと縮む仕掛けがされているが、素人が扱うと危険。
事件後は鞘に血が付着しており、中は血まみれの真剣にすり替えられていた。
自分から言いだしておいてなんだけど、やっぱり俺、舞台裏とかテントの外を見に行くチームになればよかった、と後悔した。極は平然とした顔で虚戈の頭を持ってきたり、死体を触って検死したりしてたけど、間近で見る虚戈の死体は思ってた以上にグロかった。充満する血の臭いと、まだ首から噴き出す血の音が、あっという間に俺の胃袋を締め上げた。
「吐くなら現場から離れたところに吐けよ」
「うっぷ・・・い、いや、大丈夫だ」
「やせ我慢するな。気分の悪いまま学級裁判を迎えるつもりか。モノヴィークルに酔うぞ」
「・・・ごめんな」
呆れてため息を吐く極の顔が視界の橋から消えていく。客席の下の人目に付かないところに行って、自分の喉に手を突っ込んだ。タイミングがいいのか悪いのか、テント内を汚されたくないのか、いつも通りどこからともなく現れたモノクマの手には、エチケット袋が握られていた。
「勘弁してよね!小学生じゃないんだから!ほらこれ!」
「わ、わるい・・・」
「電車にブレーキ、へそにごま、人には歴史。人生これ、エチケットやで〜」
ワケの分からないモノクマの台詞は無視して、腹の底からこみ上げる気持ち悪さを全部ぶちまけた。さすがにこれをモノクマに丸投げするのは人としてどうかと思ったから、テント内のゴミ箱に捨てて処理した。ちょうど俺たちが座ってた客席の下だったから、そのまま上がって口直しに水を飲むことにした。
俺たちの座ってた客席あたりに、青い顔をした正地が座ってた。足音で俺に気付いて姿勢を正したけど、やっぱり今はまだ捜査するには疲れ切ってる。
「よ、よう正地。大丈夫か?」
「うん・・・少し落ち着いたわ。雷堂くんは・・・どうして戻って来たの?」
「へ?あ、いや、えーっと・・・ま、正地が心配でさ。大丈夫かなって」
「そう・・・ありがとう。だけど、極さん一人に検死させてちゃダメよ。極さんだって女の子なんだから」
「あ、ああそうだな。いやすぐ戻るよ。あ、でも、もしまた停電とかになったら大変だな。正地一人じゃ、怪我するかも」
「無!問!題!モーマンターイ!」
「きゃっ!」
ついさっき客席下にいたモノクマが、今度は天井から降ってきた。本当に神出鬼没なヤツだ。もう驚いてひっくり返る気力もない正地が、小さい悲鳴をあげて縮こまった。
「まったくよお!停電なんてとんでもないことしてくれやがって!おかげでまたボクの仕事が増えるじゃんか!オマエラね、コロシアイしろって言ったのはボクだけどなんでもしていいとは言ってないからな!やっていいことと悪いことを弁えて清潔で美しく健やかなコロシアイをしろよ!」
「もうつっこむのもいやになった」
「私も。それより、停電になったからってそんなに怒ること?今はこうやって非常灯が点いてるんだから、予想してたことじゃないの?」
「どきぃっ!?べ、べべ、別に誰が怒ってるのさ?怒ってないよ」
「とんでもないことって言ってたじゃんか」
「怒ってなんかないって言ってんだろコノヤロー!怒るぞ!」
なんなんだよ、と言いそうになるのを堪えた。陽気に出てきたと思ったら怒りだして、怒ってないと言いながら顔は真っ赤で牙も剥いて怒鳴る。このところモノクマの支離滅裂さに拍車がかかってるな。ま、一貫性がないのは前から同じだし、別に気にすることでもないんだけど。
「そ、そんなことより雷堂クンはお水飲みに来たんでしょ?さっき虚戈サンの死体見て気持ち悪くて吐いちゃったんだもんね!」
「お、おい!なんで言うんだよ!」
「雷堂くん・・・どうして隠したのよ」
「いやだって・・・ただでさえそんな状態なのに、正直に話して正地に心配かけさえたくなかったし、自分から言いだして吐くなんてかっこ悪いだろ」
自分で言ってて顔がどんどん熱くなってくる。吐いたことが恥ずかしいというより、それがバレて自分で自分の気持ちを説明させられてることが恥ずかしい。モノクマはにやにやして客席の下に逃げていくし、正地は呆れたような軽蔑するような、じっとりした目で見てくるし。
「はい、お水」
「あ、ありがとう」
その辺にあったグラスに水を入れて正地が渡してくれた。誰が使ったやつか分からないけど、まあいいか。くっと煽るけど、緊張と焦りと誰が使ったか分からない不安のせいか、変な味がする気がする。
「本当にもう・・・頼もしいんだか頼りないんだか分からないんだから」
「ああいや、まあ・・・そうだよな。停電中もずっこけてこんなんなるし・・・頼りないよな・・・」
「どうしてずっこけちゃうのよ」
「下越とぶつかったんだよ。それに、デカい音もしただろ」
「ああ。そういえばそうね。あれなんだったのかしら。何かが崩れるみたいな音だったけど」
突然真っ暗になったテントの中で、足場も手元も見えないまま、いきなりドデカい音がしてびっくりしたのを思い出した。虚戈以外の全員は客席でしっちゃかめっちゃかになってたはずだから、ステージの方で聞こえたあの音はなんだったのかよく分からない。もしかして、虚戈を殺したクロが何かしてたのか?
「って、もう、雷堂くんってばまた極さんのこと忘れてるじゃない。そうやって女の子を蔑ろにするのはダメよ。特に雷堂くんは女の子の気持ちとかに鈍感だし」
「そ、そうか?あ・・・ま、まあ、そうかも、な」
意地悪く言う正地の言葉で、茅ヶ崎のことを思い出した。そう言えばあいつ、俺におにぎり作るために夜遅くまで厨房にいたんだっけな。極もなんだかんだで一緒にいること多いし、虚戈も一時俺のことを気に懸けてくれてた。思い返してみると、正地の言う通りかも知れない。
「茅ヶ崎とか極とか・・・あと、虚戈も。結構色んなヤツに支えてもらってるんだな、俺」
「はあ・・・そういうところよ、ほんとに」
「ん?」
「いいから、早く極さんのところに戻ってあげなさい」
「お、おう」
正地に追い出されるようにして、俺は客席からステージへと戻った。ふと気になる。モノクマのヤツ、2回も俺のところに現れたけど、モノクマファイルは作れたんだろうか。ずっと死体の側には極がいたはずだから、あいつが検死なんてできないと思うんだけど。
獲得コトダマ一覧
【崩壊音)
停電中にステージの方から聞こえた、何かが崩れる音。
「簡単に情報を照らし合わせてみたが、やはりファイルに間違いはない。死因も死亡時刻も明確な分、ファイルからモノクマの意図を読み取ることは難しいな」
「そ、そうだな」
俺が極のもとに戻ったときには、もうモノクマファイルが更新されていた。そう言えば、あいつは監視カメラで四六時中俺たちのことを見てるんだった。今までの事件だって、クロの行動を見ていれば殺害現場を見ていなくても、死因や死亡時刻なんて簡単に割り出せるはずだ。だからこそ、モノクマを操ってるヤツは俺たちに姿を見せないように検死ができたんだ。
モノクマでさえ自分のすべきことをしてるってのに、俺は気持ち悪くなって戻してただけで、なんだか情けなくなってきた。これからの捜査と裁判で挽回しないとな。
「悪いな極、全部任せちゃって」
「普通の高校生は、この状態の死体を前にして平静ではいられない。お前の反応はまったくもって自然だ」
「そ、そうか・・・逆に極は普通じゃないってことになるけど・・・」
「・・・」
「あ、ご、ごめん」
「はあ。まあいい。それより、一応聞くが、お前は私たちの中で刀の扱いに長けた者は知っているか?」
「刀って・・・やっぱり凶器は刀なのか?」
「自然に考えればな。断面を見れば一目瞭然なのだが」
「や、やめとく。説明だけで十分だ」
普通の感じで普通じゃないこと言われると心臓に悪い。極は真面目な顔で言うからつっこめないけど、相当感覚がズレてるみたいだ。漫画で見るちくわみたいな断面ならまだしも、こんなリアルなものはとても直視できない。
「創作物にあるほど、人の首はそう簡単に切れるものではない。武士が切腹するときの介錯は、相当な手練れでなければ務まらなかったという。だから、あんな停電の短時間のうちに、これほど精密に虚戈の首を刎ねるなど、手練れ中の手練れ、達人の領域にまで達する所業だ」
「お、お前が言うんならそうなんだろうな・・・けど、停電ってそんなに長くなかっただろ。その間に客席からステージまで来て、また客席に戻るなんて、それだけで精一杯だ」
「おまけに凶器の刀も処分しなければならない。さながら忍者のような早業だ」
「そんなことできるヤツが、俺たちの中にいるのか・・・?」
「・・・思い当たらんな、
「い、
意味深に付け加えられたその言葉に、思わず聞き返した。それじゃまるで、本当に俺たちの中にそんな達人級の腕前を持つヤツがいるみたいじゃんか。
「私たちは正地が打ち明けるまで、“超高校級の死の商人”の正体が鉄だと分からなかった。須磨倉の異常な家族愛に気付くことも、追い詰められた相模の暴走も察することができなかった。我々は未だ、お互いに知らず、隠していることがある」
「じゃ、じゃあマジで・・・?虚戈の首を刎ねたヤツがいるのかよ・・・!?」
「少なくともクロがいるのは確実だろう。それが私か、お前でないという保証も、互いに持てないのだ」
シビアな話だけど、極の言うことは間違ってない。3回も学級裁判を経験したってのに、その結論を信じたくなくて、みんなを信用しようとしてる俺の方がおかしいんだろうか。わざわざそれを俺に言ってくるのは、極が俺を信じてくれてるからか、それとも牽制してるのか?こんがらがってくる。誰を信じればいいんだ?誰が信じてくれてるんだ?
「悩むのは裁判の場にしろ。今はとにかく手掛かりを集めなければならない」
「手掛かりったって・・・」
「たとえば、このサーカステントを探索したのはお前とスニフと虚戈だろう。その時に何か気になったことはないのか」
「えっと・・・あ、そう言えば、虚戈のショーの時に停電があっただろ」
「ああ」
「テントの裏に発電機があって、それでこのテント全体の電力を賄ってるんだよ。だから、あの停電ってもしかしたら、発電機に何かトラブルがあったんじゃないかって思うんだけど」
「発電機なら私もショーの前に見た。異常はないように見えたが・・・観察不足だったのだろうか」
「いや、手掛かりって言うからそれっぽいのを思い出して言っただけなんだ。納見たちが外を探してるから、その情報を待った方がいいと思うぞ」
「・・・そうか」
「あ、あと探索のとき、虚戈がステージでのびてたんだよ。空中演技に失敗して」
「虚戈が失敗?まあ失敗することもあろうが・・・何気ない時にもアクロバットをするようなヤツが失敗するというのは気になるな。なぜだ?」
「なんか変な紐があったんだよ。なんつったっけな・・・」
「お呼びですか!!」
「うおあっ!?いでっ!」
あの時モノクマが言ってたことを思い出そうとしてたら、しゃがんでた尻の下からモノクマが飛び上がってきて突き飛ばされた。ステージの下に尻餅をついて、尾てい骨に激しく鋭い痛みが走る。なんでこいつはさっきから俺に対して手厳しいんだ。
「何をやっているんだ」
「大して役にも立たないのになんとなくでリーダーぶってて、そのくせやたらハーレム展開のフラグ乱立してるからジェラっちゃった!」
「なにわけの分かんないことを・・・」
「鈍感なところもまたマイナスポイントー!」
「用件は」
「うーん、極サンは相変わらず冷たいねー。クールだねー」
ステージの上から俺に唾を吐くマネをして、モノクマは妬ましげな言葉を吐く。心当たりがないんだけど、やっぱりモノクマは俺を個人的に嫌ってないか?で、結局何の用で出てきたんだよ。
「虚戈サンがエアリアル中に落っこちたのは、ボクが作った特製ワイヤーの性質によるものなのです!」
「特製ワイヤー・・・ろくでもない予感しかしないな」
「スニフクンにもそんなようなこと言われたよ・・・ホント、オマエラ仲良いな」
「どういう性質だっけか。忘れたよ」
「あのさあ、雷堂クンってホントにコロシアイとか学級裁判にやる気あるの?ポンコツもいいとこじゃないか」
「うるさいな・・・」
だってまさか、あのときにこんなことになるなんて思わないじゃんか。それよりも、こうして出てきたってことはその説明をするために出てきたってことだろ。俺よりずっと詳しいんだから、説明すりゃいいじゃんか。
「ボク特製のワイヤー、その名もモノクマファイバー!ありとあらゆる化学的性質に強く、それでいて軽くて使いやすい!これ一本で超デカい重機も吊せるハイパー優れもの!今なら一本100万えーん!!」
「またブッ飛んだものを作ったものだな。しかし、それがなぜ虚戈の転落に繋がる」
「いや、そのワイヤーって確か塩に弱かっただろ。涙とか汗でボロボロに腐食するくらい」
「なんでそんなことばっかり覚えてんだよコノヤロー!黙っとけ!」
「おごっ」
「仲良いな貴様ら」
そうだそうだ、モノクマファイバーって名前だったな。辛うじて覚えてた情報を付け加えると、モノクマは鳩尾にキックをかましてきた。軽いしふわふわだから大して痛くなかったけど、急所だからそれなりに苦しい。またステージの下に落ちて、腹の上に乗ったモノクマが腕を組んでいきり立つ。
「ったくもう!ホントに雷堂クンって空気読めないし頼りないし鈍感だしそのくせモテる感じだして、どこの主人公だって感じだよね!腹立つ!」
「し、知るかよ・・・捜査の邪魔すんなって」
「へーんだ!どっちにしろもうじき時間だもんね!それから1つ言っておくけどね!今後ボクが用意したものを故意に壊すのは禁止にするから!作るのも直すのも大変なんだからね!」
「ふむ・・・」
「とあっ!」
散々わけ分からないことを喚き散らして、ステージの下に潜り込んでモノクマは消えた。極の検死はもう済んでるし、裁判の展開は他のみんなの捜査状況次第だな。俺も一応推理とかは頑張るけど、今までなんだかんだでクロには辿り着いてる。今回も大丈夫なんじゃないか、って考えるのは楽観的なんだろうか。
「雷堂・・・裁判の前に一度着替えて来い。いつまでもそんな格好でいるわけにはいかないだろう」
「あ・・・そ、そうだな。えっと、一回ホテル戻るしかないか」
結局、何にも捜査の手助けができなかった気がする。
獲得コトダマ一覧
【モノクマファイル⑤)
被害者は“超高校級のクラウン”虚戈舞夢。
死亡推定時刻はついさっき。
首を切断されたことによる即死。
【モノクマファイバー)
モノクマが開発した堅くて頑丈な次世代の金属線。
耐熱、耐刃、耐衝撃性に優れたものだが、塩による腐食に非常に弱い。
【極の証言)
虚戈の首の切り口は非常にきれいで、刃物の扱いに精通した者でなければできないほど。
【サーカステントの発電機)
サーカステントの電力を賄っている大型発電機。
危険物かつ高価なもののため、有刺鉄線で覆われている。
事件後、設置されている地面が湿っていた。
>>>アップデート
高性能ではあるが、ちょっとした衝撃や軽く水に濡れただけで壊れてしまう。
俺一人だけテントからホテルに戻って、裁判までの間に新しいスーツに着替える。まさかこんなところで自前のスーツを一着ダメにするなんて思いもしなかった。ミートソースと血の赤が元の青色に混ざってよく分かんない色になってる。クリーニングでも落ちないだろうし、テンション下がるな。
「はあ・・・シャツにも付いてるじゃんか。せっかくだから全部着替えるか」
肌着以外の全部を脱ごうとするけど、ワイシャツの袖がモノモノウォッチに引っかかる。毎日毎度思うけど、外せないばっかりに風呂入るときも着替えるときも、脱ぐときにこれがすごい邪魔だ。間違って変な機能が発動することあるし。
「っくあ」
今も、間違って手の甲が当たって、ショーの前まで点けてた懐中電灯の機能が点いた。強烈な光が思いっきり目に刺さって、パンツ一丁で一人で部屋でふらついた。ベッドに倒れ込んで、探り探り懐中電灯を消す。ああもう、なんで俺こんなことしてんだ。みんな頑張って捜査してんのに、俺だけちっとも力になれてない。
『よく言われるよね。世の中には知らない方が幸せなこともあるって。でも、知らないことに対して知らなくて良かったと思うことなんて論理的に不可能なんだよね。だって知らないんだから!うぷぷ♬矛盾してると思う?知ることとは絶対に取り戻すことができないギャンブルなのです。知ってしまえば、それがたとえ知りたくない事実でも、二度と忘れ去ることはできない。縦しんば忘れたとしても、それは記憶の底にいつでも存在している。今からオマエラが明らかにするのは果たして、知って良かったと思えることかな?命を懸けて試してみようよ!真実を知る覚悟ができているなら、エントランス広場の池前に集合せよ!』
モノクマのアナウンスが部屋中に響く。このまま寝てしまおうかと考えていた頭を置き去りにして、身体が勝手に反応する。新しいスーツに袖を通して、俺は部屋を出ていつもの裁判場に向かって行く。命懸けの裁判を控えているにしては、あまりにも気が抜けてると自分でも思う。
どこかこのコロシアイが、現実じゃないような気がしてくる。あまりにも現実離れした状況とそれに追いつけない平凡な自分の落差に、思考がゆるやかに死んでいくのを感じていた。
コロシアイ・エンターテインメント
生き残り:8名
さ、犯人は皆様がそれぞれ推理してみてくださいね。
推理いつでも受け付けてます。なんらかの形でいただけたら、によによします