モノクマの、ここまでのあらすじのコーナー!
さあというわけでですね、今回も前話までの流れをおさらいして、オマエラの数週間前の記憶を呼び覚ましていこうと思っていきます!モノクマのモノモノチャンネル、よければ本文一番下のリンクからチャンネル登録もしてくださいね!ねーよそんなもん!ただでさえ長ったらしいのに広告なんか流したら読みにくくなるだけだろうが!
さて、今回の被害者はみんな大好き“超高校級のクラウン”虚戈舞夢さん!無邪気で天真爛漫で飾らない純朴少女だったけど、不穏な発言や空気を読まない言動で三章以降はなかなか浮いてたね。前回の裁判後に研前さんと決定的な出来事があって、スニフクンと下越クン以外とは険悪な感じになっちゃったんだよ。正地サンの計らいでなんとか回復してきたと思ってきたそばから殺されちゃったねー!和解しようたってそうは問屋が卸さないってね!
サーカステントで首ちょんぱで殺されたんですねー!いやーエグい殺し方してくれちゃっておっもしろいよね!停電中の一瞬の内に行われた犯行に、学級裁判は混迷を極めに極めてますよ。ステージ裏に続く足跡や、停電中に聞こえた謎の崩壊音、そして虚戈サンの首を刎ねたと思しき日本刀などなどトリッキーな証拠が飛び交う中で、いち早く事件の状況を語り出したのは荒川サン!錬金術師とか言いながら普通普通言われてたことが悔しかったのかな?張り切ってるね!張り切ってると言えば納見クンも今回はやたらと張り切ってたけど何かあるのかなー?どうかなー?
そして前回、裁判の中盤で荒川サンによる断頭トラップの解説がされましたよ。ぶっちゃけこの証拠品だけでトリック暴くってどんだけ妄想逞しいんだって話だけど、そこはまあご愛敬ってことで♡ボクのプリチーさに免じて許してね☆
でもそのトリックの説明に噛みついたのは下越クン!他のメンバーも疑問や納得できないことがある様子。それは、罠が仕掛けられてることに虚戈サンが気付かないわけがないということ。そりゃそうだよね!ステージに仕掛けられた色々な仕掛けと、ステージ裏にある様々な偽の証拠品、これを完全スルーしてステージなんかやって間抜けにぶっ殺されちゃったなんて、いくらあのパッパラピーな虚戈サンでもおかしな話だよね!だけどそんなことは荒川サンには既に想定済みだったのだ!最後の一言がこの裁判の展開を大きく変えていく!
──虚戈舞夢は単なる被害者ではない、ということだ──
さあーてこの一言は一体何を意味してんだろうか!そして学級裁判の行方はー!?
ぶっちゃけ結末は分かり切ってるけどね。
「虚戈舞夢は単なる被害者ではない、ということだ」
荒川が発したその言葉に、裁判場は水を打ったように静まりかえった。薄々勘付いていたことだ。自分たちを励まそうとしていようが、ショーをしようが、幸せを願おうが、全てはあの虚戈舞夢のすることなのだ。共感性がなく、空気を読まず、サイコパスな言動ばかりの虚戈だ。何も裏がないと本気で思って裁判に臨んだ者は、誰一人としていない。
「でも・・・ボク、しんじたくないです。マイムさん、ボクたちに
「少年。自分の想いに正直なのは良いことだが、それはこの場所では特に危険なことだ。冷静に物事を見極めなければならないぞ」
「まあ虚戈氏の性格を考えたらあ、そういう結論に至ってもおかしくないよねえ」
「そもそも荒川は、単なる被害者ではない、としか言っていない。スニフ、お前のは何か虚戈が犯行に関わっていると確信しているような言い方だぞ」
「つまり、スニフもどこかで気付いてるってことだな。虚戈自身がこの事件を
「あうっ・・・そ、それは・・・」
反射的に否定しようとするスニフを、極や雷堂がキツく制する。自ら墓穴を掘る形になったスニフが口ごもる。スニフだけでなく、正地と研前も荒川の推理には納得しかねるが、反論する根拠を持たない。
「で、でもマイムさんはやっぱりそんな人じゃ・・・」
「そんなヤツだろ。虚戈は」
「え・・・」
なおも食い下がろうとするスニフの言葉を止めたのは、いつになく冷たい言い方をした下越だった。腕を組んで眉をひそめ、低く冷徹な声だった。
「オレはあいつを信じてた。虚戈がオレたちと違った感覚持ってるヤツだってのは知ってた。それでも、あいつは最初に言ってたんだ。誰も殺したくないし、誰にも殺されたくないって。だから、ちょっと変なヤツだったとしても、信じられるって思ったんだ。それでも・・・あいつは裏切ったんだ」
「裏切ったって、虚戈さんは被害者なのよ?殺された側なのに、裏切るもなにもないじゃない」
「ただの被害者ならな。だが虚戈はこの事件においてはそうではない。コロシアイを
「それは分からないけど・・・でも虚戈さんは死にたくないってずっと言ってたんだよ?引き起こした側って言うなら、自分で自分を殺す計画を手伝ったっていうことになるけど・・・それっておかしくないかな?」
「そ、そうですそうです!それです!」
冷たい下越の言葉に、スニフたちは異様な雰囲気を感じた。人を怒ることはあっても、決して人を悪く言わなかった下越が、はっきり“裏切られた”と口にした。それは、下越が虚戈をただの被害者ではないと認識していると考えていることの表れでもあった。
そんな下越に対し言いにくそうにしているスニフの言葉を、研前が代弁する。虚戈はモノクマにコロシアイを強いられた初日に、殺したくも殺されたくもないと言っていた。殺されて放置されていた城之内の死体を目敏く見つけたり、自分に対する敵意を察知したり、人の死に対しては敏感であるにもかかわらず、その死に対する考えは非常に淡白だった。如何なる理由があったとしても、自分から死を選ぶことなど、虚戈においては考えられないのだ。
「確かに、虚戈はあんな性格ではあったが、自分が死ぬ可能性が低くなるように動いていた。雷堂への依存もそうだ」
「依存っていうか・・・まあ、確かにちょっと距離感はおかしかったよな」
「そういうところよ、雷堂くん」
「え、何が?」
「そういうところだねえ」
「まあ、コロシアイなどという異常な極限状態なのだ。多少考えに変化が起きてもおかしくはないと思うがな」
「いやでも・・・やっぱり俺は納得できない。虚戈が死にたくないって思ってたのは本当だ。いくらなんでも、その考えが180度変わるなんて思えないんだよ」
「フフフ・・・そうだろうな。被害者が自らを殺害するトリックに協力するというのも考えにくいだろう。だがな、この事件の中で未だ解決していないことについて考えてみれば、ヤツの関与は疑いようのないものになる」
「解決してないこと・・・?」
もう一度、事件の全体像を考え直して、未だ解明されていない謎を洗い出す。偽の証拠を暴き犯人の行動を明らかにした。直接手を下していないながら猟奇的な殺害方法を暴いた。あとは何が分かっていないだろうか。
証拠提出
A.【モノクマファイバー)
B.【崩れた大道具)
C.【停電)
「なぜ停電が起きたか、だねえ」
「ああ、そうだ。あの停電がどのようにして引き起こされたかを、明らかにしなければこの裁判は終われない」
「そういえばそうね・・・いきなり停電してびっくりしたわ」
虚戈のショーの最中に突如として起きた謎の停電。都合良く偶然で停電が起きたはずもなく、いくつかの証拠品が示すように、明らかに人為的に引き起こされたもののはずだ。しかし全員がサーカステント内で相互監視の状況下で、人為的に停電を起こすなど、可能なのかと全員が首を傾げる。
「そもそも、犯人は自動殺人トリックで虚戈を殺害したのだろう?ならば、なぜ停電させる必要があるのだ?」
「ああ、そういえばそうだよね。別に自分がステージまで行くわけじゃないんだから、停電なんかしなくたって犯人は分からないままじゃないかな」
「それでは虚戈の殺害方法がすぐに明らかになってしまうだろう。偽の証拠品として用意した日本刀や足跡も全く意味を為さなくなってしまう。停電させることで、犯人が直接手を下したと印象づけたかったということだ。それができる者は限られているからな」
「てことはあ、逆説的に自分で虚戈氏の首を切れる極氏はあ、犯人じゃあないってことにならないかい?100%シロってわけじゃあないけどお、99%くらいはさあ」
「どうだろうな。裏をかく、ということもあり得る。決定的な根拠がなければ、99%も0%も一緒だ」
メガネの奥の細い目をより細めて、納見が呟く。それに対し、大きな丸メガネを光らせて荒川が答える。今回の裁判で何度もシロかクロか議論の俎上にあげられている極の瞳は、動揺することなくメガネの奥に構えている。議論は、停電の意味を確認したところで、本題に戻る。
「では、どうやって停電を起こしたかの議論に戻るとしよう。分かっていると思うが、我々は全員が相互監視下にあった。直接電気を消すことはできない」
「分かった!虚戈のヤツが電気を使いすぎたんだな!ド派手な演出ばっかだったからな!あれでサーカステントのブレーカーを落としたんだ!」
「そんな電力じゃあなかったと思うけどねえ。むしろステージを目立たせるために客席側の照明は抑えられてたしい、音響や照明はステージエンターテイメントの要素だからねえ。それを賄う程度の電力は準備されてたと思うよお」
「そう言えば、テントが停電してたとき、モノクマランドの他のエリアはどうなってたの?もしかして、モノクマランド全体が停電してたり・・・?」
「モ、モノクマランドは電気の力なんか使ってないよ!夢と魔法と絶望のエネルギーを変換して動いてるんだ!だから停電もないし燃費もいいんだよ!っていうかテントだけ今も停電直ってなくて大変なんだからね!」
「何言ってんだか」
「正地さん、テントが停電したとしても、他の場所には影響がないはずなんだ」
捜査のことを思い出しながら、研前が証拠を提出する。サーカステントが停電した原因は、電気の使いすぎなどではないはずだ。だとすれば捜査時間中に復旧してもいいはずだが、実際は裁判をしている今も停電は戻っていない。その理由は、研前にとって明白だ。
証拠提出
A.【足跡)
B.【サーカステントの発電機)
C.【モノヴィークル)
「サーカステントは他の建物と違って、専用の発電機が設置されてたんだ。テントの裏に置いてあるんだけど、トゲトゲの柵に囲まれてあったよ」
「ボクも知ってました!」
「捜査中におれと下越氏も確認したしい、正地氏以外は全員知ってたんじゃあないかい?」
「そうなの・・・ごめんなさい。私、ずっと客席にいたからそんなことも知らなくて・・・足手まといよね」
「そんなことないです!
「う、うん。ありがとう、スニフくん」
サーカステント裏の発電機は、その膨大な電力を賄う性能故に、簡単に手を加えられないよう鉄柵に囲まれて護られていた。それでもなお、停電は引き起こされた。
「あの発電機を、壊したというのか?ヘタに触れば有刺鉄線で怪我をするばかりか、感電する恐れもある。怪我をすれば決定的な証拠になってしまうリスクを考えても、愚行と言うしかないな」
「だけど捜査のときは、特に壊れてた感じはしなかったぞ。鉄の柵だってどこも切れたりしてなかった」
「いやあ、あの発電機は明確に壊れてたよお」
「その証拠があるのか?」
「あの発電機の下の地面が濡れてたんだよお。あんな夜中でえ、雨も降ってないってのにい、そこだけ濡れるなんてのは明らかに人為的な何かが働いた結果だよねえ」
「
「そりゃ、水をぶっかけたからじゃねえのか?」
「何度も言うが、我々は全員サーカステントにいたのだぞ。どうやって水をかけるというのだ」
「雨か!」
「降ってないって言ったじゃない・・・」
「だいたい、水に濡れたら一発で壊れるような機械を雨ざらしにしておくのもどうかと思うよね」
「その点は無問題です!フェスティバルエリア周辺は特殊なエリアなので、雨が降ったり雪が降ったりすることなんてないんです!」
「いよいよ天候まで操り出すのかよお前・・・!?」
水で濡らして発電機を故障させて停電を起こす。仕組みは分かるが手段が分からない。全員がテント内にいることを確認しているのに、どうやって水をかけるというのか。先の見えない展開ながらも議論は起こる。
議論開始
「どうやってテントの中にいるまんま発電機に水をかけるってんだよ!」
「雨や雪などの自然現象によるものでないというのなら・・・やはりなんらかのトリックを使ったということになるな」
「時限式の仕掛けを用意してたとか?水鉄砲を改造したりなんかしてさ」
「
「そんな複雑なことができるとは思えないな。たとえば、自動で発電機に水を運ぶような装置があれば可能になると思うんだけどな・・・」
「その通りだとも」
「ふむ。なかなか鋭いではないか雷堂。お前の言う通りだ」
「え・・・俺の言う通りって、荒川はどうやって停電させたか知ってるのかよ?」
「当然だ。虚戈がこの事件の単なる被害者でないと言いだしたのは私だ。その虚戈がこの停電を引き起こしたのだから、そのトリックも推理しているに決まっているだろう」
「なんだろう、星砂を相手にしてたのを思い出すこの感じ・・・」
何の気なしに呟いた雷堂の言葉に荒川が同意した。既に自分の中で結論を出していることを、敢えて全員に議論させて説得力を持たせる。星砂がしていたようなワンマンプレイだが、誰が犯人か分からない中で意思を統一させるのには有効な手段でもある。荒川は自分の左側を横目に見ながら話し出す。
「前提として、あの停電を引き起こしたのは虚戈だ。ヤツは被害者でもあり共犯者でもある故、犯行を補助するために停電を起こしたのだ」
「な、なんで虚戈さんが共犯者なんかにならなくちゃいけないのよ・・・」
「気にはなるけどお、今はそこじゃあないよお。正地氏」
「どうやって停電を起こしたか、だよね。うん、どうやったの?」
「雷堂が言った通り、自動で水を運ぶ装置を作ったのだ。いや、作ったという程のことでもないだろうが」
「水を運ぶって、どうやってだよ?」
「知っているだろう。我々全員に共通して与えられている、自動で物を運べる装置だ」
証拠提出
A.【モノヴィークル)
B.【砂袋)
C.【ステージの金具)
「モノヴィークル、ですよね?」
「さすがだ少年。その通りだ」
「モノヴィークル・・・に、そんな機能あったっけか?」
「オートパイロット機能だ。登録した場所までモノヴィークルが自動で運転する機能がついている。時間指定まで可能なものだが・・・なるほどな。大凡見えてきた」
「で、でもモノヴィークルの
「そんなものは証拠を探すまでもない。自明の理だろう、少年」
そう言って荒川は、虚戈の遺影が立つモノヴィークルを指さした。そのモノヴィークルは、裁判が始まる直前に正地が口にしたように、遺影が立っていること以外に1つ見逃せないほどの違和感が存在した。虚戈のモノヴィークルに全員の目が向けられる。
「そこに括り付けられている、ピンク色の物体はなんだ?」
「考えてみるといい。モノヴィークルの動きを邪魔しない程度には小さくて軽く、なおかつ発電機を故障させるのに十分な量の水を持ち、発電機の前に来れば自動的にその水を放出するものを」
「軽くて・・・水を放出できるもの・・・?」
閃きアナグラム
み ず ふ う せ ん
「水風船か!」
「水風船?」
「そうだとも。あの発電機には、むしろあの発電機にこそ、水風船は格好のトリックとなり得るのだ」
「じゃ、じゃあ虚戈さんのモノヴィークルに引っかかってるアレって・・・水風船なの?」
「そうみたいだねえ」
「そういやオレ、プールであいつに水風船投げつけられたぞ」
円形に並んだモノヴィークルの、虚戈の遺影が立てられたものには、ピンク色のゴム片が括り付けられている。それが何を意味するのかが、ようやく理解できた。改めて説明が起きる。
「てえことはだよお。モノヴィークルに予め水がたっぷり入った水風船を括り付けておいてえ、モノヴィークルのオートパイロットシステムでえ、時間になったら発電機まで自動で行くように設定しておくとお。発電機の周りには有刺鉄線があるからあ、風船は割れて発電機に水をかけるってな寸法で停電が起きたあ、それであってるかい?」
「ああ。さすがにここまで言えば分かるだろう」
「わりい、もっかい説明してくれ」
「
「モノヴィークルは個々のモノモノウォッチに対応している。虚戈のモノヴィークルにゴム片があるということは、先の説明にあるようにして停電を起こせたのは虚戈しかいない、ということだな」
「うぅん・・・本当にそうなのかな?」
「どうしたの研前さん?何か気になることがあるの?」
「モノヴィークルとモノモノウォッチが対応してるから虚戈さんしかできないっていうの、分かるんだけどそうは言い切れないんじゃない?」
「なんでだよ?」
「だってついこの前、星砂君がたまちゃんの二つ目のモノモノウォッチを手に入れてたんだよ?また誰かが虚戈さんのモノモノウォッチのスペアか何かを手に入れてたりしたら・・・」
「それは違うよ!うぷっ♫ちょっと口挟ませてもらっちゃいますよ!そこまでいくと推理ものって根幹が揺らぎそうだからね!」
「娯楽もののように言うな」
「なんてったってコロシアイ・エンターテインメントですから!」
「で、なんなの?」
研前の疑問に答えたのはモノクマだった。学級裁判のゲームマスターとしての使命をようやく果たせるとあって、心なしか浮き足立っているように見える。
「モノモノウォッチはハイパースペシャルなハイテクマシーンで、これ一つあれば色々なことが可能になります!あまりに便利だから一人一つまでで手放すことはできないって制約を設けたんだよ!だからそう簡単に新しいものをホイホイ渡すわけにはいかないんだよ!在庫も限られてるしね!」
「あるにはあるんだね」
「じゃあ星砂が手に入れたのはなんだったんだよ」
「あれはボクからのスペシャルボーナスだよ。やっぱ3回目ともなるとマンネリ解消も考えなくちゃいけないわけ。GMであるところのボクとしては、派手な事件を起こしてほしいからね」
「つまり、他人のモノモノウォッチを手に入れるチャンスはあれきりだったということか」
「そゆこと!ま、手に入れたと思ったら星砂クンあっさり裁判に負けちゃったしね!せっかくのボクの心遣いを無駄にしやがって!」
「OKです。分かりましたから、モノクマだまっててくださいね」
「辛辣!スニフクンが辛辣だよう!」
各々に一つずつ配られたモノモノウォッチは、星砂が見つけた特例を除いて二つ手に入れることはないとモノクマが説明する。その前提を念頭に置いて推理してみれば、研前の心配は消失する。そしてそれは、虚戈がこの事件に共犯者として関わっていることを決定づけるものでもあった。
「これで確定したな。モノモノウォッチが二つと手に入らないということは、虚戈のモノヴィークルを動かせたのは虚戈しかいない。ということは、停電を起こしたのは虚戈ということになる」
「うぅ・・・マイムさん、どしてですか・・・」
「ス、スニフくん泣かないでよ・・・」
「どしてそんな
「・・・まあ、スニフの気持ちは分かるけどな。虚戈と一番仲良かったのはスニフだし、自殺なんかされたらたまらねえよな」
「いいや。これは虚戈の自殺などではない」
「へ?」
虚戈が関与していたのがよほどショックだったのか、スニフは悔しげに泣き出してしまう。それを見た正地や下越は同情の意を示す。しかしこの事件が虚戈の自殺という形で幕を閉じることは、頑として拒絶された。涙を流すスニフを冷ややかに見つめる、荒川によって。
「自殺だとすれば目的がない。我々全員に対し、幸せであれ、と言った虚戈だぞ。このコロシアイにおいて、複雑なトリックを用いて自殺を選ぶことの意味を理解していないわけがない」
「コロシアイにおける自殺・・・自殺と明らかにならなければ誰かがクロの濡れ衣を着せられ、答えを誤った生存者全員が処刑され。つまりは全滅に結びつくわけか」
「い、いや・・・あの虚戈だぞ?苦しんで生きるくらいならいっそ死んで楽にとか・・・考えそうじゃないか?」
「・・・わ、私は、別に虚戈さんを悪く言うつもりはないけど・・・もし虚戈さんがそういう考え方をするんだったら、自分で直接私たちの誰かを殺しそうよね・・・。こんな回りくどいことしないで」
「そもそもあいつは死にたくないっつってたんだろ。あり得ねえよそんなの。まあ・・・幸せになろうってあの言葉が本心で言ってたかどうかは分かんねえけどな」
「うぅん・・・自殺でもありそうだし自殺でもなさそうだねえ。ここに来てまた虚戈氏の考えの読めなさに困ることになるなんてえ、思ってもみなかったよお」
「もしかしたら・・・虚戈さんを自殺に追い込んじゃったのって、私・・・?私が・・・虚戈さんのこと叩いちゃったから・・・それで、明るく振る舞ってただけで・・・!」
「
事件への関与が確定的となった虚戈に対して各々が発言する。単なる被害者ではない形で関わった虚戈を、どこか責めるような言葉だった。その流れを、スニフの甲高い声が止める。今までにないほどの怒気を伴った声に、思わず全員が肩を跳ね上げた。
「
「お、おいおいスニフどうしたんだよ!?急に何キレてんだよ!?」
「落ち着いてスニフ君・・・!虚戈さんのことが大切なのは分かるけど、今はそんなこと言える時じゃあ・・・!」
「みなさん分かってないです!マイムさんはやさしい人です!ボクたちのこと
「それは私たちも知っている。星砂が処刑されたあと、私たちだけ裁判場に残っただろう。虚戈がその後どうなったかは想像がつく」
「むしろなぜ少年がそれを知っている?」
「
「なるほどな・・・」
激昂するスニフを宥める。裁判場にいる者の中で誰よりも虚戈のことを理解していたつもりのスニフは、死んでなお虚戈が全員に受け入れられていない事実が認められなかった。幼さ故の素直さのために、虚戈の異常さも異質さも理解できていなかった。だからこそ虚戈はスニフを可愛がり、スニフもまた虚戈を慕っていた。
「まあ虚戈がどのような心持ちであのショーに臨んだかは私の知るところではないが、これが虚戈の自殺ではないというのは決して感情的な主張ではない」
「つまりい、論理的な根拠があるってことだねえ」
「フフフ・・・そうだ。先に説明した通り、虚戈を殺したのは大掛かりな仕掛けによるものだ。あの仕掛けの発想や、立ち位置と力の計算、そして複雑かつ多様な物理計算や停電と合わせて仕掛けが動き出すタイミングの計算。さらには不確定要素による乱数のカバー。これらが虚戈に可能だったとは、お世辞にも言えない」
「んまあ、そうだよな・・・別に頭が悪いヤツじゃなかったけど、そこまで高度なことはできないと思う」
「っていうことは・・・それをやったのが犯人ってこと?」
「ああ。そういうことになるな。だが、それが誰なのか、もう全員が分かっているのではないか?それほどの計算が可能で、なおかつ虚戈を
人物指名
スニフ・L・マクドナルド
研前こなた
須磨倉陽人
納見康市
相模いよ
皆桐亜駆斗
正地聖羅
野干玉蓪
星砂這渡
雷堂航
鉄祭九郎
荒川絵留莉
下越輝司
城之内大輔
極麗華
虚戈舞夢
茅ヶ崎真波
「そうだろう。
その瞳は、すぐ隣で驚愕の色を浮かべるスニフの顔を真っ直ぐ捉えていた。それ以外の全員は虚を突かれた顔で、睨み合う二人を傍観する。荒川の言が一定の説得力を持っているにもかかわらず、その結論があまりに受け入れがたいものだったからだ。
「ス、スニフ・・・!?スニフが、虚戈を殺したっつってんのか!?」
「ああそうだ。装置を作動させるのに必要な計算ができるのは、この中ではスニフ少年しかいないだろう?」
「そう・・・なのかしら?イメージするしかないからよく分からないけれど、そんなに難しい計算なの?」
「仕組み自体はそこまで複雑ではない。ただ、失敗すれば自分の命が危うい一世一代の大仕掛けだ。あらゆる可能性を考慮して膨大な計算が必要になることは想像に難くないだろう」
「どうしてスニフ君が虚戈さんを殺すなんて・・・!信じられないよ!」
「そ、そうです!ボクは
「私はいたって冷静だとも。冷静に考えた結果、この犯行が可能なのは少年しかいないと結論付けたのだ」
虚戈を殺害した断頭トラップがどれほどの計算が必要な代物なのかは、理系学問に明るくないほとんどの者にとっては想像することしかできない。ただ、その事実が却ってスニフの犯行であることに説得力を与えている。“超高校級の数学者”であるスニフなら可能だろうと、研究室の複雑怪奇な計算式を見た下越以外の全員には感じられる。
「何よりこの犯行を実行に移すには、被害者である虚戈の協力が必要不可欠だ。全てを知り、承諾した上でヤツはステージに立ち、その運命を受け入れていた。騙されていたのでなく、はっきり理解していた。だとすれば、虚戈と強い結びつきのある少年でなければできないだろう。虚戈は、誰彼構わず信用するほどお人好しでもなかったからな」
「信用してんだかしてないんだかよく分かんなかったけどな・・・」
「じゃ、じゃあ足跡とか刀とかそういう偽の証拠品ってもしかしてよ・・・」
「虚戈自身が用意した・・・ってことになるよな。犯人は捜査時間までステージに近付けなかったわけだし、偽物なんだったらショーの前には用意しとかないといけないし」
「その辺りのことも含めて虚戈氏の協力が必要だってことだねえ」
虚戈がこの事件で果たした役割は、停電を起こすだけに留まらない。ステージ裏に残されていたダミーの証拠品は、殺害方法や全員の行動から、事件前に用意されていたものだと結論付けることができる。それに疑問を抱かない時点で、虚戈がそれらに関与していたことは言うまでもないことだった。
「それで?当のスニフは何か言いたいことがあるのではないか?」
「あ、あります!ボクはそんなのやってないです!ボクにはマイムさんを
「うぅん、それは反論になってないねえ。それを信じてたら学級裁判は終わらないよおスニフ氏」
「そ、そんな・・・!」
「ちょっとみんな・・・ひどいよ!あんまりだよ!スニフ君はまだ子供なんだよ!それなのにそんな寄って集って責めるようなこと・・・!」
「この場に居並んでいる以上、大人も子供もない。スニフには犯行が可能だった。それを否定する根拠がない。今はそれだけだ」
極の言葉は冷徹だったが、正しくもあった。裁判の状況を冷静に判断した時に、最も疑わしい者がいる。そこに疑いを向けるのは当然であり、年齢を理由に疑いが晴れることは決してない。
「どうすればスニフ君の疑いが晴れるの?」
「そりゃ、他の誰かに犯行が可能だったっていう別の可能性を示すか、スニフには無理だったって証明するしかないだろ」
「と言ってもお、例の仕掛けは必要なものが揃ってれば誰にだって仕掛けることはできたわけだしい?スニフ氏ができなかった理由も思い当たらないしねえ」
「そんなわけないです!ボクやってないですから、どこかに
議論開始
「全ての仕掛けを考案し、虚戈を殺害することができたのは、スニフ少年以外にいないのだ・・・!」
「信じられないけど・・・本当にスニフくんが犯人なの?」
「ちがいます!ボクじゃないです!だからきっと、どこかに
「でも荒川の推理でおかしいところなんてあったか?」
「現場に残ってるものから矛盾が見つかることもある。見逃している証拠品もあるかも知れん」
「えっと、今回の事件で大事な場所と言ったら・・・ステージか舞台裏か客席かサーカステントの裏だよね」
「そこに答えがある・・・!」
なんとかしてスニフの疑いを晴らそうと、研前が候補を挙げる。その中の一つが、極の思考に引っかかった。どこまでも冷静に、冷徹に、真相を追究することに終始する。
「荒川、スニフが犯人だと言うのなら、一つ説明してもらおうか」
「何か気懸かりなことでもあるのか?この期に及んで一体なんだというのだ」
「お前の推理通りなら、虚戈はモノクマファイバーなるものによって首を切断されたそうだな。それは大道具の山付近で見つかったロープに括り付けられていたと」
「ああ、そうだ」
「では、お前たちが捜査したときも、輪っか状になったモノクマファイバーがロープに括り付けられていたはずではないか?」
「そ、そんなのなかったです」
「なるほどな」
極の確認にスニフが応える。それを聞いた極は納得したように頷き、指を額に当てた。何かを逡巡するように唸った後、荒川を見据えて反論をはじめた。
「ならば、モノクマファイバーはどこにいったのだ。殺害方法の明確な証拠になり得るモノクマファイバーが消えていたというのなら、それは犯人が持ち去ったのだろう」
「ああ、そうだろうな」
「私はショーの前に持ち物検査を行った。全員の持ち物を確認したが、スニフは金属繊維を切断して持ち去れるような刃物は持ち合わせていなかった。素手で引き千切れるほどヤワいものでもなかろう」
「あっ・・・そ、そうだよね!スニフ君にモノクマファイバーを持ってくことなんてできなかったはずだよ!」
「そんなことか。思い出してみろ。モノクマファイバーには特殊な性質があっただろう」
議論開始
「スニフ君にはモノクマファイバーを持ち去ることなんてできなかったよ!」
「私は全員の持ち物検査をしたが、怪しげなものを持っている者は1人もいなかった。当然、スニフは刃物の類は持っていなかった」
「モノクマファイバーはモノクマが作った特殊な金属線なんだよねえ。まさか素手で引き千切るなんてできっこないしい、だとしたらスニフ氏には無理だったんじゃあないかなあ?」
「いや・・・俺はそうは思わないな。モノクマファイバーは、結構簡単に千切れるんだ」
「その通りだ」
極に便乗した研前が、必死にスニフを擁護する。それは、スニフのような子供が虚戈を殺したという現実を受け入れたくないがための、苦し紛れの反論でしかなかった。その気持ちは、雷堂と荒川によっていとも簡単に打ち砕かれてしまう。
「雷堂とスニフ少年は、サーカステントで説明を受けたのだろう?モノクマファイバーの特殊な性質について」
「・・・はい。ききました」
「モノクマファイバーは、汗とか涙とか、ほんのちょっと塩分を含んだ水でめちゃくちゃ脆くなるんだ」
「ナ、ナメクジみたいね・・・」
「ってことは、ちょっとした塩水があればいいってことになるよな?んなもんスニフ持ってたか?」
「オレンジジュースを持ち込んでたよねえ」
「あんなのしょっぱくないです!ちがいますよ!」
「一応塩分はあるっちゃあるけど、そこまで濃くはねえな。人の汗とかの方が濃いんじゃねえか?」
「微妙なラインだが・・・そこはどうなのだ、モノクマ」
「オレンジジュースはしょっぱいか?しょっぱくないだろう!だったらモノクマファイバーはそんなのに負けないよ!」
「じゃあスニフくんはモノクマファイバーを回収できなかったってことになるわね」
「馬鹿な!体液で溶けるような物質だぞ!自分の汗や涙を使えば容易に回収可能ではないか!」
モノクマファイバーの回収方法が明らかになる。人の体液で簡単に千切れるほど脆くなる特殊な性質を利用すれば、誰でも何の道具もなしに回収することができるようになる。それがスニフに犯行が可能であることを説明すると同時に、他の誰にでも可能であることも意味していた。
「それはボクだけのことじゃないです!モノクマファイバーもってけるの、だれでもできます!」
「そうだとしても、殺害に用いた断頭トリックを作成することができたのはスニフ少年だけではないのか?」
「本当にそうか?」
間髪入れずにスニフの弁明を否定する荒川に、極がすぐさま反論する。荒川の目が、スニフから極に移る。
「荒川。なぜお前はそこまでスニフに固執する?」
「固執?意味が分からんな。私の推理によれば最も疑わしいのはスニフ少年だ。ならばその可能性を徹底的に精査するのは当然ではないか?」
「お前がスニフを糾弾し始めたときから引っかかっていた。虚戈を殺害した仕掛けを作れたのはスニフだけと言っていたが、果たして本当にそうか?そのトリックを
「・・・何が言いたい?」
睨み合う極と荒川。その話に割り込むこともできない他の面々は、冷や汗を流しながらその行く末を見守る。全員の視線を一手に受けて、それでも極は冷静に、結論を述べる。
「虚戈を殺害した犯人は、お前ではないのか?荒川」
「・・・!!」
「What's!?エ、エルリさん・・・!?」
「荒川さんが虚戈さんを・・・?」
「極氏はなんでそう思ったんだい?」
「先に言ったように、スニフにあまりに固執していることがまず一つだ。虚戈を殺害した仕掛けを作れたと言うが、そこまでの計算が可能ならば、もっと証拠を少なく、手間もかからないやり方が思い付きそうなものだ。わざわざ首を斬るなどと難しい殺害方法でリスクを冒すのも、合理的ではない」
「そりゃそうだな。いやでも、それは誰でも同じじゃねえか?」
「合理性を無視してまでその殺害方法を選ぶということは、犯人は首を斬ることに何らかの意味を感じているということだ。皮肉交じりに錬金術師などという肩書きを与えられている荒川は、まさに犯人像にふさわしいと思うのだが?」
「フフフ、そんなものは極の勝手なイメージだろう。まともに取り合うだけ時間の無駄だ。そんな曖昧な根拠だけで私を犯人だと?合理性を無視しているのはお前の方ではないか。全く以て認められん。“才能”の肩書きも同じだ」
「日本刀を扱えそうというイメージで一度は私を糾弾し、数学者という肩書きでスニフを犯人としている今のお前に、それが言えるのか」
「・・・!」
決して声を荒げず、しかし互いに交わす言葉は議論の外で聞くものすら身を強張らせるほど鋭い。固唾を呑んでその行く末を見守るその他全員は、どちらの意見に賛同すべきかを決め倦ねていた。
荒川の推理は論理的矛盾はないように思える一方、極の言う荒川の不審な糾弾は見過ごせない。もし荒川が犯人だとすればスニフに容疑を押しつけていることになるが、かと言ってこれまでの荒川の推理は全てデタラメだと断じることはできないほど、証拠の説明も一連の流れも綻びはない。どちらを選ぶにしても、相応のリスクが伴う。
「雷堂、お前は私に賛成していたな。極の意見はどう思う?」
「はっ!?お、俺?いや俺は・・・極の言うことも一理あるとは思うけど、荒川の言うようにスニフにならできるんじゃないかとも思う・・・から、でも荒川にもできるんじゃないかって言われたらそんな気もしてくるから」
「はっきりしねえな!荒川に賛成か、極に賛成か、どっちかだろ!」
「じゃあ下越くんはどうなの?」
「オレはどっちもよく分からねえ!誰か簡単に説明してくれ!」
「なんでそんなに自信満々?」
堂々と分からない宣言する下越に全員が呆れて、裁判場の空気が緩む。しかし議論のテーマは、全員の命運を握る重要なものだった。犯人は果たしてスニフか、荒川か。信じる者は、極か、荒川か。その選択がこの学級裁判の行く末を左右する。そう簡単にどちらかに賛同することさえもできない緊張感が全員にのし掛かる。
「まあどちらの意見を採用するにしてもお、犯人は二人に絞られてるわけだよねえ。そこに異論のある人はいるのかい?」
「・・・ううん。私は今は・・・まだ他の人が犯人だなんて思えないわ」
「私もそう。っていうか、スニフ君が犯人っていうのも納得できてないから、実質極さんに賛成なんだけど・・・」
「へえそうかい。ってえことはだよお。要するに犯人は荒川氏かスニフ氏のどちらかってことに全員賛成なんだよねえ」
「そうなるな」
「だったらあ、二人の違いを考えてみたらいいんじゃあないかい?それぞれにできたこととできなかったこととかあ、知ってたことと知らなかったこととかあ、違いがはっきりすればどこかで手掛かりが出てくると思うよお」
「よかろう。スニフと荒川、その違いを明らかにしようではないか」
「うぷぷ!イイ感じに意見真っ二つな感じ?これって出し時な感じ?それでは今回もいってみましょーう!可動式裁判場が可能にする対立意見のガチンコバトル!議論スクラームッ!」
議論スクラム
『極と荒川、どちらの意見に賛成する?』〈荒川に賛成〉VS《極に賛成》
──アリバイ──
〈荒川さんは事件が起きたとき、私のすぐそばにいたわ〉
《スニフ君だって私のすぐ隣にいて、返事もしたよ》
──動機──
〈スニフは動機を見たし、自分の研究室も見ただろ〉
《下越以外の全員が動機を受け取ったのだ。そこに違いはない》
──モノクマファイバー──
〈トリックの要になるモノクマファイバーを回収できたのはあ、スニフ氏なんじゃあないのかい?〉
《ボク、エルリさんといっしょでした!ボクにできたんなら、エルリさんだってできます!》
──断頭トラップ──
〈虚戈を殺した斬首の仕掛けは高度な計算を要する。スニフ少年になら可能だろう〉
《けど荒川だって錬金術師なんて言われてんだろ。オレからしたらどっちも同じくらい頭いいと思うぞ》
──トラップの作動──
〈殺害トラップを作動のタイミングを正確に計れなければ全ては終わりだ。虚戈のショーの時間まで勘定に入れるほどの精密な計算ができるのはスニフ少年しかいないだろう!〉
《あの
「これがボクたちのこたえですッ!!」
拮抗する議論。互いに譲らない主張。平行線を辿る裁判。しかしその中で唯一、形勢を変えるものがあった。そして変わったことに気付くと、なぜその議論が今までされていなかったのか不思議に思えるほど、不自然な議論の流れに見えてくる。
「エルリさん、ボク気付きました」
「フフフ・・・バカなことを言うな。お前も紳士を気取るのなら、潔さを知ったらどうなのだ」
「ボクは、どうしてエルリさんがこんなことしたのか分かりません。でも、これが
「ミスをしたのはお前の方だスニフ。自分が最も自信のあるやり方をしたばかりに、それが決定的な証拠になってしまったのだ!全ては私の推理で説明されている!」
「だったら・・・おしえてください、エルリさん。どうして、
「・・・!」
発言は問いかけの体裁を保っていたが、それは決して問いかけではなかった。スニフの一言は荒川の耳から背筋を貫き、一瞬全身の筋肉を硬直させた。しかし、次の瞬間にはもう荒川は紅の目を爛々と怪しく光らせ、ぬるりと言葉を紡ぎ出す。
「前のこと、とはなんだ?」
「
「時限式の仕掛けをしておけば可能だな」
「その
「砂袋が結びつけられてたロ〜プ?ええっとお、どんなんだったっけえ?」
スポットセレクト 『罠で、時限式に作動する仕掛けが施されていたところは?』
A.ロープの先に括られていた砂袋
B.ロープの中程に結ばれていたモノクマファイバー
C.ロープの先にある焦げた跡
「これか・・・!」
「確か、モノクマファイバーが結びつけられてたロープは、砂袋と反対側が焦げてたんだよな?」
「・・・ああ。そうだ。おそらく輪っか状にしてあったのだろう」
荒川が提示した証拠を思い出して、雷堂が確認する。ロープの先端は焦げており、輪っか状になった一部が焼き切れていた。これと関連した証拠は、既に見つかっている。
「焦げてるってことは、火を使ったのか?」
「火と言えば、ステージ袖にあった輪っかの金具にも、煤けた痕があったよ。それと関係あるんじゃないかな?」
「さっきの荒川氏の罠の説明だとお、ステージ袖の金具にロープを括り付けて固定したって言ってたよねえ。ってえことはあ、あの煤はロープを燃やしたものってことになるねえ」
「
「小さな火種を金具に仕込んでおけば、時間とともにロープは少しずつ燃えていき、最後には焼き切れて罠が作動するわけか」
「う〜ん、なるほどな。なんとなく分かったぞ。で、それがなんで荒川が犯人って話になるんだよ?」
「エルリさん、ボクのこと
「フンッ、単に説明するまでもなかったことだからだ。こうして、我々全員で議論すれば簡単に説明がついたことだろう?」
「だったら、ボクの
「なんだというのだ」
「ボクはどうやって
「着火だと?そんなもの、いくらでもやりようがあるではないか。火の輪くぐりの器材があるのだから、火気を使えばいい」
「それはできないんです」
「何を言っている?」
徐々にヒートアップしていくスニフと荒川の一対一の議論。互いを糾弾するだけの閉じた議論であるにもかかわらず、見守る全員がその行く末に緊張していた。次のどちらかの一言で全てが決まるかも知れない。それが自分たちの命運すら握っているのだから、尚更聞き逃せない。
「マイムさん言ってました。
「そんな言葉を信じろと言うのか?ならばここにいるスニフ以外に問おう。お前たちの中でサーカステントを隅々まで調べた者はいるか?一切の火気がないと断言できる者はいるか?いないだろう!いなければ証明不可能!お前の自己弁護は論にすらなっていないということだ!」
「もしあそこに
「・・・うん?」
スニフの一言で、荒川の動きが止まった。極に見つかっているはず、その言葉の意味を理解するのに少しの時間を要した。その意味をようやく理解した荒川は、ズレたメガネの位置を直して乾いた笑みを浮かべる。
「極に、見つかっているはず・・・フフフ、そうか。そう言えば極は持ち物検査をしていたな。だが、舞台裏に捨ててしまえばそんなもの簡単に隠滅できるだろう」
「なら、エルリさん、
「・・・ッ!」
そんなものは見つかっていないことは、荒川が一番分かっている。そこを捜査したのは自分で、今までそんなものの可能性を口にしていなかったのも自分だ。舞台裏に火の気は全くなかった。それはつまり、スニフには火を起こすことができなかったことを意味している。
「フフッ・・・そうか。そうかそうか・・・極は持ち物検査をしていたな。ああ。確かにしていた。スニフ少年は何も持ってはいなかっただろうとも」
「え?なに?それって・・・認めるってことにならない?荒川さん」
「認める?馬鹿なことを言うな。極よ、お前は全員の持ち物を検査したのだろう」
「ああ」
「ならばスニフ少年だけではない。私も同様に火を起こす道具など持ち合わせていなかっただろうが!ならば火を点けられたか否かなど、犯人を断定する材料になり得ないではないか!誰にでも不可能に見える、のならば何らかの手段で火を起こしたか虚戈を利用したのだ!そう考えれば辻褄が合うだろう!」
「いや・・・虚戈がやったってことはねえんじゃねえか?」
必死の形相で反論する荒川を冷静な意見で封じたのは、下越だった。勢いに任せて荒川は捲し立てるが、その内容はそれまでの論と明らかな矛盾がある。
「虚戈が火ぃ着けたらよ、犯人がやったことっつったら、罠作るだけだろ?それって、むしろ虚戈の方が犯人で、罠作ったヤツが共犯者になるんじゃねえのか?」
「・・・あっ」
「その辺はどうなんだよ、モノクマ」
「えー?もうめんどくさいなあ。罠作っただけで犯人になっちゃったらややこしいことになるでしょ!クロってのは直接手を下した一人のことなの。だからこの場合は、罠を作動させた人になるわけ!」
「ってことは、虚戈が罠を作動させたら、クロは虚戈ってことになるな」
「ええ・・・それじゃ、スニフくんと荒川さんのどっちが犯人とか、そんな話じゃなくなっちゃうじゃない・・・」
「
「つまり他の誰かが火を点けた。その人物がクロになるわけだが・・・」
「まあ、この流れだと荒川氏ってことになるよねえ」
視線が集まる。冷静に、論理的にと努めていた荒川が、徐々に追い詰められていく。額には汗が滲み、瞳は一点を見続けることがなく、口角が下がりはじめる。裁判場全体の雰囲気が、これまでの議論の流れが、状況証拠が、荒川がクロであると囁いている。しかし、それは何ら決定打にはなっていなかった。
「フッ・・・フフヒッ・・・!!フフヒハハハッ!!ならば!!ならば問おう!スニフ少年!お前が私に対して投げた疑問を、逆に私からお前に問う!私は
「ありますよ。エルリさんなら、
「・・・フフッ」
追い詰められていく荒川は、もはや小さく笑いを漏らすことしかできない。しかし、サーカステントで火気の類を持っていなかったことは極が証明している。僅かでも不審なものであれば極が見逃すはずがなく、特殊な薬品を使ったり使い捨ての着火剤を用いたわけではないことは、全員が理解した。
「言ってみるがいい・・・少年」
ただ一言、諦めとも、挑発ともつかない、無機質な言葉を投げた。それに応えるスニフは、同じく平淡な口調で告げた。
「エルリさんの
「はっ?メ、メガネ?」
「メガネで着火って・・・何をどうしたらそうなるの?」
「・・・フフ、フフフフフフ」
肩を跳ねさせる荒川が、スニフに示されたメガネをくいっと上げる。奥に見えていた紅の目は、伏せられ様子が伺えない。意外な言葉にほとんどの者が目を丸くするが、スニフの表情は至って真剣である。こんな状況で冗談を言えるほど、スニフは能天気な性格をしていない。
「
「ああ。小さい頃に遊びでやって火傷しかけるヤツだよな」
「分かるけどあるあるみたいに言わないで」
「エルリさんの
「いや・・・あれは虫眼鏡でやるもんだろ!?いくらなんでもメガネで火起こしなんてできんのかよ!?だったら荒川、光見たら目ェ焼けるじゃねえか!」
「強ちない話じゃあないよお。前に荒川氏のメガネとおれのメガネを間違えてかけたとき、ものすごく度が強くてくらくらしたもんねえ。あれくらい度が強いと集光もしやすいだろおしい?光源も強烈なら十分だよねえ」
「・・・」
「エルリさん。もし
展開されていく推理に、荒川は何も言わない。反論もせず、抗弁もせず、自己弁護もせず、ただ進んで行く推理に耳を傾けていた。その表情は既に落ち着いており、この先に待ち受ける運命を受け入れているようにも、起死回生の一手を模索しているようにも見えた。はたまた、絶望的な未来へ一縷の希望を見出そうとしているのか。そんな荒川の不自然な顔色にも気付かないまま、スニフは推理をまとめあげる。
クライマックス推理
Act.1
Act.2
ほかにもマイムさんは、
Act.3
マイムさんの
Act.4
そしてマイムさんの
そうですよね?“
冷静に推理を述べる。一言一言が荒川を追い詰める。反論することもなく、抵抗することもなく、荒川は目を閉じて唇を噛み締めていた。額に浮かべた汗は諦観の色に染まり、ただただ悔しそうに腕を組んで指名を受ける。スニフ以外の視線は、その荒川の次の挙動に注がれる。
「エルリさん、
「・・・ハァ」
深いため息を吐いて、荒川は白衣のポケットを弄る。出てきた手に握られていたのは、夜の暗闇の中では光が反射することでようやく存在を認識できるほど細い、モノクマファイバーだった。乾いた血がこびりつき、そこに込められた殺意の残滓をまざまざと見せつけていた。
「潔いな」
「・・・犯行の全てを明らかにされて、無駄に足掻く私ではない。こうなったらこうなったで、
「そ、それは・・・認めるってこと?」
「物的証拠を見せたってことは、そういうことだろ」
「はぁ・・・そうかい。どうしてだい、荒川氏。どうして虚戈氏を殺す必要があったんだい?」
「およよ?結論は出たっぽいよね?出たよね!?出たんなら無駄口は利かないでさっさと投票だよ投票!さあオマエラ!お手元のスイッチで、最もクロと疑わしい人物に投票してください!果たしてその結果は、正解か!?不正解なのかァ〜!?ワックワクのドッキドキだよね!」
もはや言い逃れのできない状況で、荒川は無意味な反論をしない。物的証拠を素直に提出し、スニフの推理を肯定して自身の犯行を認める発言をする。しかし、
「投票の前に話しておくべきことがある・・・!終わらせるわけにはいかない・・・!」
「な、何言ってんだよ・・・!?お前が虚戈を殺した犯人なんだろ!?だったらオレらは・・・お前に投票しねえとダメじゃねえか・・・!」
「分かっている。これまで三度、私はお前たちと同じ立場にいた。だから分かる。ここで私に投票しない意味はない」
犯人だと判明し、全員から投票対象として認識されてもなお、荒川は冷静さを失わない。だが徐々にその発言は歪んでいく。混乱を招きはじめる。そして荒川は、完全に動きを止めたモノヴィークルを降りて膝をつく。次に何をするか、全員が理解する。理解しているからこそ、意味が分からない。
「全てを承知の上で頼む・・・!私を『失楽園』させてくれ!!」
「は・・・はあっ!?何言ってんだお前!?」
「・・・荒川。自棄になっているのか?発言の意味が分かっていないわけではないだろう」
「意味も分からずこんなことは言わん。だが、これが
「だからって・・・自分が失楽園になればいいって言うの・・・!?そんなの、本末転倒じゃない!」
「それ以外に道がないのだから仕方がないだろう!!」
「こらこら!まだ裁判が終わってないのに勝手に関係ない話をし始めちゃダメだよ!先に投票しなさい!今から5秒以内に投票しないとおしおきだよ!」
「ッ!貴様ッ・・・!」
投票そっちのけで荒川の身勝手な頼み事に話題が移りそうになり、モノクマが慌てて軌道修正する。裁判をほったらかしにされること以上に、荒川に勝手気ままに発言されるのを防いだようにも見える。しかし急な制限時間に、全員が慌てて投票スイッチに手を伸ばす。その意図を察した荒川は、迂闊な発言をしないよう頭を回転させる。もはや逃れられないこの運命の中でできることを考える。どうすればいい。何ができる。
誰になら、『明日』を託せるのだろう。
コロシアイ・エンターテインメント
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