ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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(非)日常編2

 

 下越とともに野菜を収穫してホテルに戻ると、妙な雰囲気に包まれた食堂が待ち構えていた。スニフと研前の姿だけがなく、雷堂が頭を抱えていた。納見と正地は呆れた眼差しで見つめている。ほんの数十分の間に一体何があったのかと思えば、納見がここで起きたことを説明してくれた。要するに、研前が遂に雷堂に想いを告げたが、そのタイミングや言い方があまりにもロマンスからは程遠く、部屋に帰ってしまったと。スニフはそれを追いかけて行ったが、おそらく何もできはしないだろう。

 

 「あれは雷堂氏が悪いよねえ」

 「俺なのか・・・?」

 「理屈はどうあれこういうときに悪いのは男の方って相場が決まってるんだよお」

 「んな無茶苦茶な・・・」

 「納見、それは無茶苦茶だ。女が悪いということもある」

 「いや、そうだよな?別に研前が悪いとは言わないけど、俺のせいかこれ?」

 「それはそれとして、今回の件は雷堂が悪い」

 「結局かよ!」

 「研前さんの気持ち、本当に気付いてなかったのね。それは仕方ないにしても、茅ヶ崎さんのことも気付いてなかったのはちょっと異常よ。普通は意識したりするものよ」

 「・・・まさかそんな風に思われてるなんて考えもしないだろ」

 「最低だな」

 「最低だねえ」

 

 話を聞く限りでは、そもそも研前が熱くなったのは雷堂が茅ヶ崎の気持ちに全く気付いていなかった上に、真意に気付きながらものらりくらりといつもの調子でいたことだそうだ。百歩譲って恋心に気付かないことがあっても、それを知ったのならば相応に言うことや考えることがあるだろう。

 

 「よく分かんねえけど、要するに雷堂が研前泣かしたんだな?だったら謝ってこいよ」

 「逆効果だからそれ!」

 「研前の方も一時の恥じらいや後悔でいっぱいいっぱいになっているだけだ。スニフもやっていることが無駄だと分かればすぐ戻ってくるだろう。もしケアが必要なら・・・そのときは正地、頼んだ」

 「まあこの中だと正地が適任だよな」

 「他人事みたいに言うわね。雷堂くんの鈍感さが原因なのよ?」

 「悪かったって・・・」

 「いいか。今の私たちにとっては些細な啀み合いや揉め事もモノクマに付け入れさせる隙になるのだ。惚れた腫れたなど格好の的だ。私たちにしてみればお前たちがどうなろうが問題ではないのだ。くれぐれも拗らせるようなことはしてくれるなよ」

 「分かってるって・・・」

 「っしゃ!そしたら昼飯の準備だ!もう好き嫌いとか関係なく作るからな!あ、でもちゃんと食べられるヤツだからな!食べられねえのはさすがに出さねえから安心しろ!」

 「そこまで心配はしてないよお」

 

 状況を理解できているのかいないのか、下越が採ってきたばかりの野菜を持って厨房へ向かう。他人の色恋沙汰に口を挟むつもりはないが、雷堂は私の方に困った顔を向けてくる。

 

 「私は知らん。お前も男なら自分で責任を取れ」

 「いやいやいや!責任って、別に俺は研前になんもしてないからな!?」

 

 その後、帰ってきたスニフを加え、研前以外の全員で野菜鍋をつついた。葉物野菜は野菜や肉のふんだんな出汁が染み込みながらも芯が残り新鮮さを感じる。根菜類は箸で切れるほどに柔らかくなり口の中で解ける。ひときわ食べ応えのある肉団子の濃厚な旨味が、繊細な味わいの出汁の中にアクセントをつける。振りかけた七味の痺れる辛さが食欲をそそり、箸が止まらない。

 

 「はふっ、はふっ」

 「研前には後で小せえ鍋で作って持ってってやるか」

 「足りるかねえ」

 「こなたさん、Hungryですよ。たくさんたべたいとおもいます」

 「じゃあ普通の鍋で持ってくか」

 

 研前が雷堂のことを想っていたのは勘付いていたが、色気より食い気だと思っていた。このままではやはり私たちの間の雰囲気に影響が出る。そのままにしていくのもよくない。しかし私は、色恋沙汰にはまるで縁がない人生を送ってきた。どうしたものか。


 昼飯の後、おれは眠い気持ちをこらえてモノヴィ〜クルに乗っていた。下越氏は研前氏のために新しい野菜鍋を作りはじめた。スニフ氏はまた研前氏を連れ出そうと部屋に向かった。まるで天岩戸伝説だねえ。正地氏は雷堂氏と一緒に研前氏になんて謝ればいいかを考えてあげててえ、極氏は食器の片付けを手伝うことになった。んでえ、おれだけその喧騒なんぞどこ吹く風とばかりに抜け出してきたわけだ。それがなぜかと言うとお・・・。

 

 「一体どこへ連れて行くんだい。荒川氏(傍点)」

 

 おれのモノヴィ〜クルの少し前を、ゆっくりしたスピ〜ドで走って行く無人のモノヴィ〜クル。その持ち主は、つい昨日、というか今朝未明の裁判でおれたちの前で処刑された、荒川氏だ。昼食後に温泉にでも行こうと思ってホテルを出たら、ちょうどモノヴィ〜クルの駐車場からひとりでに出て行くこれを見つけた。そういうわけで、おれは荒川氏のモノヴィ〜クルをこうやって追いかけてるわけだ。

 

 「もしかしたらあ、あの言葉の意味も分かるかも知れないねえ。荒川氏はどうしておれたちに殺し合えなんて言い残したのかあ・・・分かるといいなあ」

 

 穏やかな風を感じながらおれたちはエリアを進んで行く。いくつかのゲ〜トを抜けて、小高い丘があるエリアに入る。ここは見覚えがあるねえ。あちこちにある大きな四角い建物はどれも重厚で荘厳な感じがして、なんとなく息が詰まる。

 荒川氏のモノヴィ〜クルは、エリア内を迷いなく進み、ある建物の前で停車した。昼食の時間を過ぎた14時のこと、こんなところに連れて来られるとは思ってなくて、何かの間違いじゃあないかと少しモノヴィ〜クルを確認する。なるほどねえ。

 

 「コロシアイ記念館ねえ・・・。本当にどうしたんだい?ここは荒川氏が一番嫌いな場所なんじゃあないかい?」

 

 命に対する冒涜の塊のような建物。人間の尊厳を徹底的に踏みにじる所業を寄せ集めたような場所。荒川氏にとっては、これほど自分の考えに真っ向から反抗するものもないはずだ。だからこそ、今のこのタイミングで荒川氏のモノヴィ〜クルがここにあることに、大きな意味があるはずだ。

 

 「なんだろうねえ。調べろってことかい?」

 

 到着時刻がモノヴィークルの画面にでかでかと表示されてる。おそらくこれを設定したのは、裁判で自分の敗北が決まったときだろう。モノヴィ〜クルを何かいじっているとは思ったけれど、まさかこんなことをしてるなんてね。今更になって偽装工作なんて意味がないことくらい分かってるだろうしい、生き残ったおれたちへの何らかのメッセ〜ジと考えるのが自然だねえ。となればあ、この数字にも意味があるんだろう。

 

 「ここのファイルには番号が振られてたけどお・・・14:15かあ」

 

 コロシアイ記念館の中で、リングファイルの背表紙に書かれた数字を見ていく。これは14番と15番のことを指してるのか、1415番を指してるのか。と思ったけれど、流石に1000を超えるファイルはなくて、14番と15番のことだと分かった。入口から一つ奥の部屋に行ったところにそのファイルはあってえ、なるほどと荒川氏の意図を理解した。

 14番のファイルと15番のファイルの間に、明らかにコロシアイファイルとは違うファイルが挟まっていた。どこかで見たようなシンボルがクリアファイルに印刷されていた。何かと思ったら、こりゃあ希望ヶ峰学園のシンボルじゃあないか。どうしてそんなものがこんなところに?と思いきや、その中身もずいぶんと首を捻るものだった。

 

 「・・・んんん?」

 

 まずあったのは、荒川氏の名前。相変わらず真顔なのに口角が上がるせいで笑っているように見える顔写真と、身長・体重・胸囲に血液型、既往歴にアレルギ〜、出生時の状況まで、まるで荒川氏の『命』にまつわるありとあらゆる記録がまとめられていた。視力はやっぱりおれより悪くて、どうやら左目は普通に見えるらしいことは新しい発見だった。

 

 「この厚みは・・・不気味だねえ」

 

 めくってみればそこには、須磨倉氏、皆桐氏、野干玉氏に虚戈氏に城之内氏・・・今まで死んでいったみんなのファイルがあった。そして裏にまた新しいファイルでまとめられたものは、まだ生きてるおれたちの分だった。『命』に関する研究をしていた荒川氏がこれの在処を示すものを遺したっていうことは、これは荒川氏の所有物ってことだねえ。もっと言えば、これが荒川氏が“才能”の研究室で手に入れた情報ってことかい。

 それをおれたち生き残りの誰かに見つけさせたってえことはあ、荒川氏がコロシアイを決意した理由ってのはもしかしてえ・・・。

 

 「ヤスイチさん?何してますか?」

 「・・・あっ」

 

 声をかけられてはじめて気が付いた。おれとしたことが、読み物に夢中になって近くにいた人に気付かないだなんてねえ。このコロシアイ記録館には絶対近付くことはないであろうスニフ氏が、まったく純粋におれに尋ねてくる。手元にある資料はその辺に並んでるファイルと違って──いや、ありふれてるファイルも見せたらマズい内容ではあるんだけどお──スニフ氏にはとても見せていいものじゃないんだけどお。

 

 「こんなところで、何よんでます?ヤスイチさん、どうしてこんなとこいるんです?」

 「い、いやあ・・・そう言うスニフ氏こそどうしてこんなところにい?」

 「Hotel(ホテル)からモノヴィークルでどっか行くのみえました。こっそりついてきてごめんなさい。でもボク、ヤスイチさんがきになって」

 「そうなんだあ。えっとお・・・まあ、隠してもしょうがないかもねえ。見られちゃった以上はさあ」

 「なんですか?」

 

 おれは観念して、正直にスニフ氏に話すことにした。その結果、スニフ氏が何を思うかは分からない。もしかしたら理系でインテリ系“才能”の持ち主同士、おれじゃあ考えも及ばないようなことを感じ取るかも知れない。その先に何が起こるか、スニフ氏が何を考えるのかなんて想像もできない。だけど、いつかは明らかにしなくちゃいけないことだ。それに、スニフ氏のことだってここには書いてある。

 

 「あのねえ。おれがモノヴィ〜クルで走ってるときに、前を行くモノヴィ〜クルを見なかったかい?外にも停まってたはずだけどお」

 「はい、ありました」

 「荒川氏が最期におれたちに遺した言葉を覚えてるかい?」

 「・・・コロシアイをしろって」

 「そうさあ。おれは荒川氏のモノヴィ〜クルがひとりでに動いてるのを見てここに来たのさあ。そしてこの紙の束を見つけたってわけえ。要するにこれはあ、荒川氏からの遺言ってことさあ。それを読むことが何を意味するのかはあ・・・賢いスニフ氏ならここまで言えば分かるだろお?」

 「それって・・・!」

 

 スニフ氏の目が、一瞬色を変えた。マズいと思った。なぜって、その色は恐怖や困惑なんかの類じゃあなかったからだ。まるで失くしていたおもちゃを探し出したときみたいにい、好奇と期待と喜びの感情だったからだ。

 

 「もしかしてスニフ氏、荒川氏の遺言の手掛かり探してたりしたあ?」

 「わ、わかりますか?」

 「はあ・・・ま、だよねえ。あんな遺言じゃあ、普通おかしいと思うよねえ」

 「ヤスイチさんは、なんでエルリさんあんなこと言ったかしってますか?」

 「いやあ、おれも完全には分からないよお。でもお、これが手掛かりだっていうことまではさすがのおれでも分かるさあ」

 

 テーブルの上にそれを広げる。さすがにまだ生き残ってるおれたちの分は抜いて、既に死んだ10人の分を見せた。プライバシーの問題もあるし、何より生きてる人の情報はコロシアイに繋がりかねない。殺せない人間の情報なら、まだ危険度は少ないはずだ。それにしても、もう10人も死んだのか。

 

 「これって・・・!?Medical chart(カルテ)ですか?みなさんの?」

 「普通の学校なら身体測定なんて珍しいことじゃあない。希望ヶ峰学園ならあ、他の学校じゃあ採らないデ〜タも測定してておかしくないねえ。教育機関である前にい、“才能”の研究機関なんだからさあ」

 「そうなんですか?」

 「そうだよお。ネットなんかじゃあ有名な話さあ。やたら黒い噂とか都市伝説とかあ・・・ここで話すことでもないかあ。まあ、あれぐらい有名で権威ある組織にはあ、根拠のない陰謀論の一つや二つ付きものさあ」

 「ふぅん」

 

 おれの話には生返事を返して、スニフ氏は近くにあった須磨倉氏の診断書を眺める。一番近い相模氏のに手を伸ばさないのは、彼なりの紳士的振る舞いのつもりなんだろう。こんな状況で紳士もなにもあったもんじゃあないけどねえ。

 

 「これが、エルリさんがボクたちにおしえたかったことですか?」

 「だと思うよお。わざわざモノヴィ〜クルをお、裁判翌日のお、人目に付く時間帯にい、このファイルがある場所を暗示する時刻にこの場所に到着するように設定したんだからさあ」

 「そんなこといつのまにしてたんでしょう」

 「たぶん、自分が処刑されるって理解した瞬間だろうねえ。処刑される中でもお、おれたちにコロシアイをしろって言ってたんだからねえ。自分が裁判で負けて処刑されたときのことまで準備してても可笑しくないさあ。荒川氏は頭が良いからねえ」

 「エルリさん・・・どうしてなんですか。どうしてそこまで・・・ボクたちにコロシアイを・・・」

 

 荒川氏の話になって、またスニフ氏は落ち込んだ顔をした。やっぱりスニフ氏にこの生活は辛すぎるみたいだねえ。おれや研前氏ほど能天気でもいられず、正地氏や下越氏みたいに現実を拒絶できないし、極氏や雷堂氏みたいに覚悟を決めきることもできない。なまじ頭が良くて物事を理解できるだけに、苦しい思いをしてるんだねえ。

 

 「だけどお」

 「?」

 「スニフ氏は勘違いをしてるよお。勘違いというよりも、間違えてるのさあ」

 

 デマカセでも気休めでもいいから、取り合えずスニフ氏を宥めておくとしよう。そうすることが年上としての役目な気がするし、少なくともおれはこう(傍点)考えたい。

 

 「荒川氏がおれたちに言い残したのはあ、殺し合えってことだけかい?もう一つあったじゃあないかあ」

 「こ、ここを出ろって・・・」

 「そうさあ。荒川氏が虚戈氏を殺したのだってえ、それそのものが目的じゃあなかっただろお?荒川氏はあ、誰か一人でもこのモノクマランドの外に出ることを第一に行動していただけさあ。つまりい、コロシアイをさせるのは手段であって目的じゃあないってことお」

 「そうですけど・・・エルリさん、The life()たいせつにしてました。そんなエルリさんが外出るためコロシアイしたんなら・・・もうそれしかWay(方法)がないってことじゃあ・・・」

 「んん・・・ごもっともお」

 

 そりゃそうだよねえ。他に方法があるんなら荒川氏が試さないはずがない。彼女にとってコロシアイってのは、最後の手段だったはずだ。おれのお粗末な慰めには一瞬たりとも騙されないスニフ氏は、やっぱりこの地頭の良さがスニフ氏自身にとっては“才能”の根幹でもあり、悩みの種でもあったり。

 

 「でもまあ、荒川氏に幻滅する必要はないってことさあ。自分の信条を切り捨ててまでも達さなくちゃあいけない目的があったってことだろお?それがなんなのかは分からないけどお、とにかくおれたちはコロシアイなんかに頼らないでここを出る方法を探るしかないのさあ」

 「Of course(もちろんです)

 

 ぶんぶん頭を振って同意するスニフ氏の肩を叩いて、取りあえずおれはテーブルに広げた診断書をまとめ直して、部屋に持って帰ることにした。荒川氏はおそらく、これによってコロシアイを促進させようとしたはずだ。つまり、荒川氏からの動機だ。こんなものは人目に触れない方がいい。

 

 「さてとお、スニフ氏。このファイルのことはシークレットだよお」

 「どしてですか?」

 「これがコロシアイに繋がるものだとしたら論外だろお?黒幕の正体やコロシアイを止める方法に繋がるんだとしてもお、広めすぎるとモノクマに潰されるかも知れないじゃあないかあ」

 「I see(なるほどです)!ボク、ちゃんとSecret(ナイショ)します!」

 「よしよし」

 

 ともかくこのことは今はおれとスニフ氏の秘密にしておかなくては。もともとが荒川氏の研究室にあったものなら、人目に触れないどころか存在すら認識されない可能性すらあったものだ。みんなに共有したときに何が起きるか、もう少し見極める時間が必要だね。


 恋愛事情で悩む女の子と言っても、やっぱりお腹は空いちゃうから、研前さんは自然に部屋から出て来た。それでもお昼ご飯の時間を大幅に過ぎて、心配で食堂に残った私以外はみんな農耕エリアや部屋に戻ってしまった後になってしまったけれども。お昼ご飯の残りは下越くんが冷蔵庫に取っておいてくれてるから、レンジでチンしてから研前さんに出してあげた。

 目元がほんの少し赤く腫れてて、泣いてたんだろうことが見て分かった。

 

 「お水飲んだ?落ち着いてからでいいから、ゆっくり食べるのよ」

 「うん・・・ありがと・・・」

 

 落ち着いてからって言ったのに、湯気を立てる野菜鍋雑炊にレンゲを差し込む。まだ熱いから食べられないっていうのに。

 

 「研前さん、あれじゃ雷堂くんだって困るわよ」

 「・・・分かってる。私、面倒臭いヤツだって思われてると思う」

 「そうかもね。勢いで告白すること自体は悪いことじゃないけれど、そのまま逃げちゃったら、気まずいだけよ?」

 「うぅ・・・」

 「ご飯食べたら、雷堂くんのところ行く?」

 「行かなくちゃダメ?」

 「行かないとますます気まずくなっちゃうと思うわ」

 

 怖い気持ちは分かるけれど、このままじゃ事態は何も変わらないものね。想いを伝えてしまった以上は、雷堂くんが研前さんの気持ちを受け入れるか、拒むか、そのどちらかをはっきりさせなくちゃいけない。雷堂くんのことだから、はっきりさせられるかどうかも心配なのだけど。

 

 「でも私、雷堂君に好きって言うより前に、ひどいこと言っちゃった・・・。なんであんなこと言っちゃったんだろう・・・」

 「その辺はまあ、雷堂くんの天然が悪いっていうか、何とも言えないわ」

 

 もし今、茅ヶ崎さんが生きてたら、きっと研前さんと茅ヶ崎さんで雷堂くんの一挙手一投足に狼狽えて、心配してしまうと思う。まあそこは、雷堂くんに特別な想いを抱いてる人にしか分からない気持ちかも知れないから、私にはよく分からないけれど。

 

 「とにかく、こんなこと言いたくないけれど、いま私たちは惚れた腫れたどころじゃないくらいの問題の最中にいるのよ。良い機会だから、これを機に自分の気持ちにケリを付けるのはどう?どっちに転んでも、半端なままよりはいいんじゃないかしら」

 「ああうう・・・気が重いよ」

 「それはそうだと思うわ」

 「もしフられたらとか思うと・・・怖いんだ」

 「怖い?」

 「・・・もし私が雷堂君にフられたら・・・私の“超高校級の幸運”が、何を引き起こすか分からないってこと」

 「え・・・ど、どういうこと?」

 

 恥ずかしさで思わず逃げ出したり泣いちゃったりするのは分かるけれど、ここまで落ち込むのは行きすぎじゃないかしらと、心のどこかで思っていた。その答えが、研前さんの“超高校級の幸運”なんだとしたら、少しは納得できる、かも知れない。確か研前さんの“超高校級の幸運”は、誰かの犠牲を伴う幸運だったはず。犠牲・・・っていうのは、きっとそのまんまの意味なんだと思う。

 

 「もし雷堂君にフられたら・・・私が何を望むか分からない。それがどんな形で実現するか・・・それも、必ず誰かの犠牲のもとで・・・!私は、それが怖い・・・!」

 

 そこまで言い切るっていうことは、きっと研前さんは今までに同じような経験があったんだと思う。自分をフった雷堂君がその『犠牲』になるかも知れない。雷堂君といつも一緒に行動している極さんが『犠牲』になるかも知れない。もしかしたら、その他の人、私だって『犠牲』の候補なんだ。

 

 「それって・・・研前さんがなんとかコントロールしたりとか、そういうことはできないの?」

 「・・・できない。私の幸運は、私が願った結果を最悪の形でしか叶えないんだもん。私は、犠牲の上に成り立つ幸運なんか欲しくないのに・・・どうしてこんなことになっちゃったんだろう・・・」

 「要するに・・・雷堂君にフられさえしなければいいわけよね?」

 「う・・・うん、まあそうだけど・・・。でもあんな言い方して、こんなに時間あけちゃったら、絶対雷堂君に嫌われたよぉ・・・。というかヒいてるよきっと」

 

 泣きながら落ち込む研前さんはなんだか新鮮で、普通の女の子なんだっていうことをなぜだか今更ながら再認識した。どことなくミステリアスで感情を剥き出しにすることがなかったけれど、ちょっぴり可哀想だけどこうやって自分の正直な気持ちを吐露してるのは、精神衛生的に良いことかも知れない。

 そして、それが本心で、“超高校級の幸運”が発動しないようにするとすれば、やることは一つだわ。こういうのは本人同士の気持ちでしか成り立たないものだけど、今はそんなこと言ってられないもの。

 

 「だ、大丈夫よきっと!雷堂君だって、研前さんの気持ちをきちんと理解してくれるわ!それに雷堂君が鈍感なこととか、女の子とよく話してるのは事実だもの。研前さんの心配も尤もよ」

 「・・・そうなのかな」

 「そうよ。ともかく、雷堂君とは一度腰を据えて話す必要があるわね。研前さんは直接話しづらいと思うから、私が間に立ってなんとかしてあげるわ」

 「え・・・い、いいの?」

 「もちろんよ。私の仕事はマッサージだけじゃなくて、心身共にリラックスしてもらうことよ。こうして目の前で困ってる女の子を放っておけるわけないじゃない。自分の“超高校級の幸運”の心配をするんだったら、私の“超高校級の按摩”の“才能”を信じてちょうだい」


 「と、いうわけなのよ」

 「いや、というわけなのよ、って言われても。オレらにどうしろってんだ」

 「フるもフらないも雷堂の自由だ。波風が立たないようにケリを付けるのには賛成だが、それ以上私たちにできることがあるか?」

 「だから、研前さんがフられたら・・・マズいことになるのよ。研前さん、傷ついて何をしでかすか分からないわ」

 「研前がそんな危ねえヤツだとは思わねえんだけどな」

 「女の子は見かけによらないのよ」

 

 研前さんの“超高校級の幸運”のことには触れないように、たまたまホテルの近くにいた下越くんと極さんを呼んで、外に話が漏れないようカラオケボックスで話をした。納見くんとスニフくんにも話をしたかったんだけど、あの二人ったらどこ行ったのかしら。ともかくここは、できるだけ多くの人に協力してもらって乗り切るしかないわね。

 

 「だから、取りあえず今だけでいいの。少なくともここを脱出するまでは二人を付き合わせちゃえば、ひとまず八方円満でしょ?雷堂くんだって、研前さんのこと嫌いじゃないと思うし」

 「付き合わせると言っても、それこそ雷堂の気持ちだろう。私たちがどうコントロールできると言うのだ」

 「研前さんをフらないように口裏を合わせておくのよ。無理矢理にでも付き合わせるの。もちろん、研前さんに気付かれちゃいけないけれど」

 「ええ・・・いやそれ・・・いいのか?そんなことして。なんかものすげえ悪いこと話してるみてえな気がするぞ」

 「正地の言いたいことは分かる。このままの状態も良くない、フれば角が立つ上に研前の行動は予測不可能。ならば雷堂に力ずくででも研前の気持ちを受け止めさせるのが最善手だ。理屈では(傍点)な」

 

 そう言う極さんは、明らかに私の意見に反対していた。言葉では肯定してるけど、それは否定のための肯定であって、その眼光はいつもよりずっと鋭く見えた。

 

 「恋愛とはそれだけではないだろう。感情を制御することはできない。正地なら分かると思ったのだが」

 「なんだよ極。よく知ってそうな言い方だな」

 「・・・!」

 「ひえっ」

 

 何気ない下越くんの言葉にも、極さんはその鋭い視線で返す。それだけで下越くんは飛び上がりそうなくらいにびくついた。恋愛事に一家言あるみたいだけど、掘り下げるのはNGみたい。私もあんまり自分のことについては話したくないから、そんなものなのかも知れないけれど。

 

 「私だって、こんな話しなくても雷堂くんが研前さんと付き合ってくれるか、それとも上手に断ってくれたらいいと思うわ。でも付き合うのはともかくとして、いざフるとなったときに、雷堂くんに任せてたら絶対研前さん傷つくわ。雷堂くんデリカシーもないし、女心のおの字も分からないし」

 「それはそう思う」

 「異論はない」

 

 自分で言っておいてなんだけど、雷堂くんのその辺の信頼は下の下なのね。あと下越くんも大差ないと思う。ともかく、私の提案は極さんには受け入れてもらえなさそう。こっそり雷堂くんに入れ知恵して、それで雷堂くんと研前さんが上手く行ったとしても、今度は私と極さんの間で軋轢が生まれる。それじゃ意味がないわ。

 だからここは次善の策で。つまり、フるフらないじゃなくて、なるべく研前さんが傷つかないように、雷堂くんを教育する方向に持っていかなくちゃ。

 

 「まずは今の雷堂くんの気持ちを確認する必要があるわね。どこに行っちゃったのかしら」

 「夜になれば自然と戻ってくるだろう。だが、研前はまだ私たちと一緒に食事をするべきではないかも知れないな」

 「なんでだよ」

 「万が一、雷堂が何か血迷って、我々の目の前で研前をフることも考えられる。そうなった場合、研前は確実に傷つく。誰だって傷つく」

 「そうよね・・・そして雷堂くんならやりかねない」

 「そうか?」

 「まずはそこからだ。今日の夕食のときに、雷堂にその話をする。研前は部屋にいてもらう方がいいが・・・研前自身のメンタルはどうなんだ?」

 「まだ雷堂くんと顔を合わせるのは気まずいみたい。だから、私から言っておくわ」

 「そうか。だがそれも今回限りだ。食事を別々にして、私たちだけ一緒に食べているのでは意味がない。全員が揃ってこその食事だ」

 

 生存確認やアリバイ工作の妨害のために、決まった時間にみんなで集まって食事をしている。それでももう4回事件が起きてしまったから、それにあんまり意味があるとは思えない。だけど、一人離れて食事をするなんて研前さんが可哀想だから、極さんの意見には賛成した。

 そしてその夜、私が特に何かをしなくても、研前さんは自然と自分の部屋に戻っていった。雷堂くんと顔を合わせないように少し早めに。一応声をかけてみたけれど、やっぱり私たちが夕食の間は部屋から出たくないみたい。今日のところはまだいいけれど、明日以降どうしましょう。

 そして、夕食の時間には納見くんとスニフくんにも簡単に事情を話して、雷堂くんの教育をすることにした。

 

 「いい?くれぐれもみんなの前でフるなんてしないこと。研前さんと話をするときは、必ず一対一で、誰も周りにいないところでするのよ。分かった?」

 「わ、分かったけど・・・なんでそんなに念押しするんだよ」

 「雷堂氏なら無神経に研前氏を傷付けること言うかも知れないからねえ」

 「お前に悪気がないのは分かっている。だからこそ厄介であって、こうした教育が必要だと判断した」

 「・・・なんか、悪いな。研前と俺の問題なのに、こんなにみんなに迷惑かけて」

 「何言ってんだよ。お前たちの問題はオレたちの問題だ。オレたち全員で解決しなきゃいけねえに決まってんだろ、なあスニフ?」

 「え・・・あ、はい」

 

 下越くんがスニフくんに同意を求めてるけど、それもそれで雷堂くんと大して変わらないデリカシーのなさね。でもスニフくんには悪いけれど、今は雷堂くんと研前さんの関係を造り上げないと。

 

 「というかそもそもお、雷堂氏は研前氏の告白になんて答えるつもりなんだい?元から受ける気ならあ、おれらが余計なお節介焼くこともないだろうにねえ」

 「それもそうだな。そこは確認しておこう」

 「えっ・・・い、いや・・・なんつうか、どうすりゃいいか分かんないっつうか・・・。単純に研前の気持ちは嬉しいんだけど、なんかあいつ怒ってたみたいだし、ホントに俺なんかが付き合っていいのかって思うし・・・」

 「なんでそこまで自己肯定感ないのかが不思議だわ」

 

 少なくとも告白された以上は付き合っていいし、どうすればいいか分からないっていうのもまだ雷堂くんの中で迷いがあるだけだし、そもそも怒らせたのはあなた自身のせいだし。どこからどう矯正してあげればいいのか分からないくらい、雷堂くんのメンタルは歪んでる。

 

 「優柔不断だな。お前も男なら決断しろ。そもそも女子を一人ならず惚れさせておいて、一体何を以て自信を損なうことがある。無責任なヤツめ」

 「ん・・・」

 

 極さんの厳しいんだか優しいんだか分からない言葉にも言葉を詰まらせるだけで、何も返せない。本当に研前さんは難儀な恋愛をしたわね。雷堂くんのメンタルも含めて、私たちで全力サポートしてあげないと。


コロシアイ・エンターテインメント

生き残り:7人

 

【挿絵表示】

 




次の話も書き始めています。
伏線は仕込み終わっているので、日常編でどこまで書けばいいのか困っています。
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