ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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学級裁判編1

 

 モノヴィークルが唸る。それに乗った6人の高校生たちと、11の遺影。それらが互いを見つめ合うように円形に並び、裁判場が形作られた。前回の裁判から増えた遺影は二つ。今なおその真意が分からない怪しげな笑みを浮かべる“超高校級の錬金術師”荒川絵留莉と、伊達眼鏡の奥から鋭い眼光を覗かせる“超高校級の彫師”極麗華の二人の遺影だ。

 荒川が遺した言葉に従うように、再びコロシアイは起きた。その犯人を突き止めるため、或いは犯人がこのモノクマランドから脱出するため、学級裁判は幕を開ける。天頂に向かい昇りつつある太陽の暑さを堪えながら、“超高校級”の彼らは互いに身構えた。

 

 命懸けの推理、命懸けの糾弾、命懸けの弁明、命懸けの嘘、命懸けの投票・・・行われる全てが自らの命運を左右する究極の緊張感。5度目ともなれば多少の慣れは感じつつも、強く早くがなり立てる心臓が、嫌と言うほど恐怖心を露わにしていた。

 

 「それじゃ、はじめようか!」

 

 場違いなほどに明るいモノクマの声を合図に、開廷を告げるファンファーレがランド中に鳴り響いた。

 


 

 獲得コトダマ一覧

【モノクマファイル⑥)

被害者は“超高校級の彫師”極麗華。死亡推定時刻はたった今。

目立った外傷はないが、特徴的な麻疹がある。死亡直前に全身の痙攣が見られた。

 

【正地の証言)

極の死体には目立った外傷などはないが、首元に発疹がある。

毒に対して麻疹が出ることはあるが、全身に毒性物質が回るのには時間がかかる。

 

【診断書の束)

コロシアイ参加メンバーそれぞれの健康診断書の束。

元々は荒川の研究室にあったものだが、事件後にモノクマによって公開された。

当人すら知らない身体についての情報がつぶさにに記述されている。

 

【極の『弱み』)

3つ目の動機として与えられた極が隠したがっていること。

極から雷堂に明かされたが、雷堂は極の尊厳のために裁判まで黙秘している。

 

【農耕エリア)

第四の事件の後に開放された、農作物を栽培している広大なエリア。

生物由来の薬品類を保管する小屋と、他のエリアに繋がるゲート前にはアルコールによる消毒がされる通路がある。

 

【下越の証言)

事件当日の朝、農耕エリアに収穫に行ったときに普段と異なる違和感を覚えた。

具体的なことは分からないらしい。

 

【タトゥーニードル)

極の“才能”研究室にしまわれていた真相ルーレットの近くに落ちていた入れ墨用の器具。

研究室に元々備わっていたものであり、絵筆のように先端が広がっている。

 

【水の乾いた跡)

極の“才能”研究室の机に残されていた白い痕跡。

事件前には見られなかったもので、この日はモノクマの清掃も行われていない。

 

【モノクマランドの『掟』)

モノクマランドにはコロシアイ生活を送る上で様々な掟が定められている。

その拘束力は強く、モノクマでさえそれを無視しては行動できない。

 

【『真相No.2 超高校級の絶望』)

かつて存在したと言われる、全世界規模のテロリスト及びテロ組織。“超高校級の絶望”そのものである江ノ島盾子を首魁とし、多くの人々が洗脳されテロ行為に加担したと言われている。

世界は一度絶望によって壊滅したが、希望ヶ峰学園で行われたコロシアイ学園生活内での江ノ島盾子の死亡及び残党の分裂や希望による掃討により、徐々にその影響は少なくなっていった。現在では歴史上の出来事として位置付けられており、当時の資料や大規模破壊の痕跡が文化遺産として遺るのみである。これらについて懐疑的な見方をする立場もあり、未来機関による各国への政治介入を正当化するための情報操作だという噂が実しやかに囁かれている。

しかし、絶望は消えていない。世界に人が、光が、希望がある限り、絶望は際限なく生まれる。そして江ノ島盾子の絶望を受け継ぐ者が、世界のどこかに潜んでいる。未来機関はその捜索、そして殲滅に全力を注いでいる。

 

【『真相No.5 未来機関』)

希望ヶ峰学園の卒業生及び教員(現役を含む)で構成された国際機関。政治、経済、教育、金融、軍事など各分野において専門家を配し、加盟国政府へ指導や援助、制裁などを行なっている。かつて存在した多様な国際組織を統合したような役割を果たし、その過剰な集権性を危惧する声もある。

この機関の発足には、『超高校級の絶望による人類史上最大最悪の絶望的事件』が関わっている。超高校級の絶望の中心人物であった江ノ島盾子が起こしたと言われるこの事件により壊滅状態に陥った世界を絶望から復興させることを目的として、希望ヶ峰学園卒業生の宗方京助を中心に組織された。その後、江ノ島盾子をコロシアイ生活にて処刑した英雄、苗木誠に代表されるように、絶望の殲滅及び世界の復興において多大な功績を残した人物を多く輩出した。

現在は、世界に残る“超高校級の絶望”の殲滅及び未だ復興途中の地域への援助と並行し、新たな絶望の兆しを生まないように世界を管理下に置く計画が進行中である。

 


 

 

学級裁判 開廷

 

 「えっと・・・まず最初は何から始めたらいいのかな?」

 「取りあえず各自が持ってる情報の整理でもしてみるかい?時間がかかりそうだけどお、全員が同じ視点に立てるようにするってのは重要だよお」

 「待って。それよりも、正しく状況を知らなくちゃいけないと思うの。極さんがどうやって亡くなったのか・・・私なりに検死もしたの。だからまずはそれを──」

 「んな細けえこたぁどうだっていいんだよ!犯人はこの中にいるんだろ?だったら名乗り出やがれ!コソコソ隠れやがって卑怯だぞ!」

 「There's no way he do such a thing(言うわけないじゃないですか)!」

 「あれえ?何この始まり方?オマエラ、もう4回も同じことしてきたんでしょ?なんでそんな方向性バラバラのぐだぐだスタートなわけ?」

 

 いきなり全員の目指す議論の方向が食い違い、混沌とする裁判場に、思わずモノクマが声を上げる。それもそのはずで、今まで学級裁判を支え、ときに牽引してきた荒川と極という存在を、二人まとめて喪ったのだ。代わりに音頭を取る者もおらず、道標をなくした旅人のように、6人は議論の始め方を理解していなかった。

 

 「み、みなさん!Please calm down(落ち着いてください)Deep breath(深呼吸)してください!ほら、す〜は〜」

 「なんだよスニフ。ずいぶん余裕あるじゃんか」

 「そうじゃなくてです。みなさん、バラバラになってちゃDiscussion(議論)なんてできないです。Theme(テーマ)きめて、ちゃんとIn order(順序立て)しないとダメです」

 「だ、だから私は極さんのことからちゃんと確認しようって・・・」

 「まどろっこしいってんだよ!」

 「正地氏の検死結果ももちろん聞くけどお、先に情報共有をさあ」

 「ちょっと待ってよ!そうやって話したいことから話そうとしたって上手く行かないってスニフ君は言ってるんだよ!」

 「んん・・・いやあ、おかしいねえ。今までの裁判じゃあこんなことはなかったのにねえ」

 「・・・っつうかよ、まだ何も喋ってねえヤツがいるんだけど、お前は何か言いてえことはねえのかよ。なぁおい、雷堂?」

 

 下越の言葉で、全員の視線は雷堂へと注がれる。各々が好き勝手に喋ろうとする裁判場の中で、その中に加わるわけでもなく、スニフのように制するわけでもなく、ただ黙って俯瞰するように腕を組んだままの雷堂が、その視線を受けて生唾を飲んだ。この独特の緊張感の中で、さらに注目を浴びることで一気に汗が噴き出す。

 

 「お、俺は・・・今までの裁判だったら、まず被害者の状態とモノクマファイルの確認からしてた、から・・・だから、正地の案が・・・良い、と思う」

 「ずいぶん自信なさげだねえ」

 「仕方ないだろ。今まで()()()()()は極の役割だったじゃんか」

 「その極さんが亡くなったから・・・雷堂くんが代理を務めるのは自然な流れだと思うけれど」

 「くっ・・・始まって早々腹が痛くなってきた・・・!」

 「How weak mentally(メンタルよっわ)

 「えっと、と、とにかく、まずは正地さんの検死結果も聞きながら、極さんの状態を確認することから、かな?」

 「ちっ。しゃーねーな」

 

 リーダーのような、議長のような、責任重大な役割を押しつけられたことのプレッシャーで腹痛を訴える雷堂。未だわだかまりを残したままでどこか気の引けている研前。一応は裁判場の方向をまとめることに成功はしたが、そこからどうすればいいかは全く見えていないスニフ。なんとも頼りない三人が中心となって、5度目の裁判は仕切り直される。

 

 「それじゃあまず、モノクマファイルの確認からするわね」

 「とは言っても今回の殺人は全員の前で行われたからねえ。詳しいことは正地氏に任すとしてえ、死亡推定時刻とか何の役にも立たない情報ばっかりだよお」

 「役に立たないとは失礼な!オマエラが円滑に学級裁判を進められるようにボクはあれこれ手を尽くしてるのに、いきなり想定外のぐだぐだっぷり発揮してるオマエラに言われたくないよ!もう!」

 「ぐうの音も出ないよお」

 「なんも出さなくていい。無視しとけ納見」

 「死因はここに書いてないから分からないわ。だけど、亡くなる直前に苦しそうに胸を押さえてたり、出血も見られなかったのが特徴として挙げられるわね」

 「見てました・・・すごくくるしそうでした。レイカさん・・・Poor you(可哀想に)・・・」

 

 人が死ぬ瞬間を目撃したのは、それが初めてではなかった。モノクマランドに来た初日には皆桐が見せしめとして処刑されるところを全員が目撃したし、これまでの裁判の後には必ずおしおきという名の処刑があった。それでも、モノクマの手によらない、コロシアイによる死を目の当たりにしたのは初めてだった。圧倒的な力を持つ謎の存在などではなく、隣にいる誰かの手による殺害。手の届く場所にある殺意、それをまざまざと見せつけられた気がした。

 

 「正地さんと私で極さんの体を調べたんだけど、やっぱり怪我とか出血とかはなかったよ」

 「ってことは・・・状況的に考えてもやっぱり極を殺した凶器はアレしかないだろ」

 「あれ?」

 「毒だよ。極が死んだのは、ちょうど朝食が終わったくらいのタイミングだっただろ。誰かが料理に毒を盛ったんだ」

 

 雷堂による推理は、推理と呼ぶのも憚られるほど短絡的で、だがだからこそ全員が無視できない可能性でもあった。そしてその可能性を議論することは、ある人物への疑いをも避けられないことを意味していた。

 

 「料理に毒を盛ると言っても、いつの間にそんなことしたの?食堂でそんなことをしたら私たち全員にバレちゃうだろうし、厨房にはずっと下越くんがいるのよ?」

 「いやあ、そりゃあもう自分で自分の質問に答え言ってるようなもんじゃあないかい正地氏?」

 「何言ってんだ納見!?オレにも分かるように言えよ!」

 「つまりい、誰にもバレずに料理に毒を盛ることができたのは下越氏しかいないってことだろお?」

 「はあ!?ぁんだと!?バカ言うな!!んなバカなこと誰がするかバカ野郎!!」

 「バカって言い過ぎだよ・・・」

 「いいかお前ら!フツーに考えてだぞ?毒なんか入れたら死ぬだろうが!!」

 「だから、そういうはなししてるんですって」

 「なんか前にもあったなこんなくだり・・・まるで成長してない・・・」

 

 下越にとっては殺人の容疑をかけられていること以上に、料理の味を損ねるような行為をすると疑われていることが許せないようだった。しかし下越が料理に毒を入れていたとしても、辻褄の合わないことはある。その程度で明らかになるような事件ではないことは全員が理解していたが、避けては通れない話だった。

 

 「でもでも!でもですよ!テルジさんがDish(料理)Poison()入れたんだったら、レイカさんだけKill(殺す)されるのおかしいです!ボクたち、なんでPoison()へいきですか?」

 「そうだよね。今日の朝ご飯は大皿料理だったんだし、私もたくさん食べたから・・・極さんだけっていうのはおかしいよね」

 「極氏が特に毒に弱い体質だったとかあ・・・ていうのはあり得ないよねえ。都合が良すぎるよお」

 「じゃあご飯には毒は入ってなかったってこと?だったらどこに・・・」

 「他に毒を仕込める場所か・・・」

 

 

 議論開始

 「料理に毒なんか入れたら味が悪くなんだろうが!バカなこと言ってんじゃねえよ!」

 「今朝のご飯は大皿料理だったから、みんなが同じお皿から食べたはずだよ」

 「レイカさんだけ死んだってことは・・・Poison()が入ってたのDish(料理)じゃないです!」

 「じゃあ他に毒が仕込まれてそうなところってどこかしら?」

 「極の死んだタイミングからして、あの食堂で毒を盛られたのは間違いないはずだ。料理じゃなきゃ、極の使った箸やフォークに毒が仕込んであったんだ!」

 「That's wrong(それはちがいます)!」

 


 

 「ワタルさん、それRealty(現実味)ないです」

 「なんでだよ?」

 「ボクたちのつかってたTableware(食器類)は、どれもおんなじ見た目で、だれかのなんてDistinguish(区別する)できませんでした。レイカさんをAim(狙う)してPoison(毒を盛る)するなんてムリです!」

 「いや・・・そうかも知れないけど、あいつの座る席が分かってれば極に毒を盛ることはできるだろ。だいたいいつも座る場所は同じなんだから」

 「だいたいは同じだけど、毎日同じってわけじゃねえぞ。一席隣だったり、入れ替わってたり、意外と動いてるもんだ。厨房から見てっとよく分かるんだぜそういうの」

 「それに事件当日はほら・・・雷堂くんと研前さんが何回も席移動したから、そのせいで極さんや私たちも席を動かなくちゃいけなくなったりしたじゃない。二人とも怒られて」

 「そ、そうだったな・・・うぅん」

 「・・・」

 

 研前と雷堂が気まずそうに顔を伏せる。極を狙って毒を盛ることを考えると、料理や食器を使って毒を摂取させる試みはいずれも不可能に近い。日々の習慣を利用してある程度狙いを付けることはできても、今回の事件が起きた朝に限っては不確定要素が多すぎるのだ。

 

 「たとえばあ、席の移動にかかわらず下越氏ならあ、料理に毒を盛っても最後まで手を付けなきゃあいいことだしい。食器に毒を塗ってたとしても新しいものを厨房から持ってくれば自爆することもないしい」

 「なんだそりゃ!オレが犯人だって言いてえのかよ!」

 「いやいやあ、そんなに怒らないでくれよお。料理に盛ったとしても食器に盛ったとしてもお、それは全員が手を付けるものに毒を盛ったってことになるからあ、現実的にはあり得ないのさあ。こうして裁判をしている以上はねえ」

 「うんと・・・心当たりがあるわけじゃないんだけど、例えば・・・極さんだけに効く毒とか、そういうことはない?特別な成分が入ってるとか」

 「そんな魔法みたいな毒あってたまるかよ・・・なんでもありったって限度があるぞ」

 

 非現実的な案が浮かぶようでは、現段階で真相を明らかにすることはできないだろう。研前の突拍子もない発言によって、全員がその兆候を感じ取った。そうなれば次にすることは、話題の転換である。クロはどこから綻びるか分からない自分の策を悟られまいと、シロはどこにあるか分からない解決の糸口を探ろうと、互いに疑い合い、迷いつつも信頼し合い、裁判は進む。

 

 「極にどうやって毒を盛ったかは分かんねえけど、とにかく極が毒を食らったことは間違いないんだろ?だったら一旦それはいいじゃねえか。それよりオレはもっと気になることがある」

 「なんですか?」

 「なんで極が殺されたか、だ」

 「確かに・・・そこは気になるところよね」

 

 下越と正地が口を揃えて疑問点としてあげるのは、なぜ殺されるのが極でなければならなかったか、だ。四度目の事件のように被害者が被害者たる必然性があるようには見えなかった。

 

 「極さんは人一倍警戒心が強かったし、こういう命のやり取りも・・・はじめてじゃなかったみたいでしょ?そんな人を敢えて狙うなんて、何か意味があると思うのよ」

 「Umm(う〜ん)・・・レイカさん、ボクたちのLeader(リーダー)だったからじゃないですか?Top()がいなくなったら、みんなこまりますから」

 「うん・・・だけど、極さんは私たちみんなを助けてくれようとしてたんだよ?そんな極さんを殺す理由がある人なんて、私たちの中にはいないと思うけれど・・・」

 「だったらあ、おれたちの中の人物じゃないんじゃあないかい?」

 「え、いや納見・・・それって」

 「もう事件も5度目だろお?人数も減ってきたことだしい、こういうイレギュラーも起きそうなものじゃあないかい?そうだろおモノクマ?」

 「はにゃ?ごめん今聞いてなかったよ。何の話?」

 「聞いとけよ!お前がやらせてんだろこの学級裁判!」

 

 納見の仮説は、これまでの学級裁判やコロシアイ生活を根底から覆すものだった。ゲームマスターであり絶対的優位の立場にあるモノクマが誰かを殺害したとなれば、それは自らコロシアイ生活を崩壊させる行為に等しい。そんな危機感はどこ吹く風とばかりに、モノクマは間の抜けた返事をする。

 

 

 議論開始

 「そもそもなんで極さんが殺されなくちゃいけなかったのか・・・そこに大事な理由があると思うの」

 「レイカさん、ボクらのLeader(リーダー)でした。Leader(リーダー)いなくなったら、のこった人たちPanic(パニック)になります。それが犯人(クロ)Purpose(目的)なのかもです!」

 「そんなことして得する人が私たちの中にいるとは思えないけど・・・」

 「可能性だけならおれたち以外にも極氏を殺害することができる人物はいたよお。ずっとおれたちの行動を監視していてえ、極氏のような影響力のある人物がいると困る誰かさんがねえ」

 「もったいつけずに言えよ!」

 「つまりはあ、モノクマが極氏を殺したんじゃあないかってことだよお」

 「That's wrong(それは違います)!」

 


 

 「そーだそーだ!スニフクン言ってやれ!ボクに極サンを殺すことなんてできっこないって!」

 「Shut up(黙れ)

 「き、厳しいな・・・」

 「ヤスイチさん、ボクといっしょにきいたじゃないですか。モノクマだって、モノクマランドのThe law()をまもらなくちゃいけないって」

 「ああ、そういやあそうだったねえ」

 「そうなのです!掟がある限り、ボクがオマエラに直接危害を加えることはできないのです!うぷぷ♬だからおしおきのときは痛快スカッとするんだけども」

 「F**k yourself(すっこんでろよ)

 「こらスニフ君!いくらモノクマ相手でも、そんな汚い言葉使う人はきらいだよ!」

 「Boohoo(うわーん)!ごめんなさいこなたさん!もう言わないです!」

 「と、とにかく・・・モノクマが極さんを殺したっていう可能性は、もう考えなくていいわけね?」

 「やっぱり犯人は俺たちの中にいるってことか・・・それはそれで、いっそモノクマだったらとも思うんだけど」

 

 モノクマランドにおけるモノクマの影響力は大きいが、掟はさらにそれを上回る強制力を持っている。モノクマといえどその枠組みの中でしか行動できないのであれば、やはりモノクマによる殺人は考える必要がない。それは同時に、自分たちの中に犯人が潜んでいることの証にもなるため、雷堂は複雑な表情をする。

 モノクマによる犯行でないのであれば、リーダー格たる極を敢えて殺害する理由は、なおさらコロシアイ参加メンバーにはないはずである。謎は解決されないまま、深まるばかり。その中で、控えめながらも一つの可能性を示す手が挙がった。

 

 「あの・・・いいかな?私、極さんが狙われる理由に・・・心当たりがあるわけじゃないんだけど、ちょっと気になることがあるんだよね」

 

 遠慮がちに、なるべく目立たないように意識しているのか、注がれる視線に返さないよう足下を見つめたままそう言う研前。スニフの言葉遣いを注意していた先程と打って変わって、自信のなさが表情にも声色にも態度にも強く表れている。

 

 「何かあるんなら遠慮することはないよ研前氏。なんだい?」

 「あのね、これは極さんがあんまり話したがらなかったことなの。だから、あくまで議論を進めるために言うのね。だから、誤解しないでほしいんだけど・・・」

 「大丈夫よ。研前さんが口が軽いだなんて思わないから」

 「・・・みんな、たぶん薄々感じてるとは思うんだけど。極さんってね、その、いわゆる、裏の人たちっていうか・・・あんまり良くない人たちと関係があったんだって。はっきりとは言ってなかったんだけど、たぶん、間違いないと思う」

 「なんだよ良くない人たちって!言うなら言うでぼやかさずにはっきり言えよ!」

 「Bad people(悪い人たち)ですか?」

 「いわゆるヤのつく自由業ってヤツだねえ。スニフ氏に分かりやすく言うなら、ジャパニーズギャングだよお」

 「Oh(おおっ)Yakuza(やくざ)ですか!」

 「普通に言うのかよ!?研前と納見が言葉濁した意味察しろよ!」

 「Oh(おっと), my bad(めんご)

 「まあ・・・前々から極さんの発想とか格闘技術とか、あと彫師っていう“才能”とか・・・そんな感じはしてたと言えばそうだから、そこまで重大発表って感じはしなかったけど」

 「んん・・・」

 

 全員がそれぞれになんとなく気付いていた、公然の秘密とも言えるレベルで察せてしまっていた極の秘密。それでも確証がなかったので可能性でしかなかったが、研前の言葉によってそれは事実であると決定づけられてしまった。そう考えれば、あの剛胆さや城之内に対する女子高生らしからぬプロレス技の技術も、分からないこともないくらいには受け入れられるようになる。

 

 「で、それがなんだってんだよ」

 「うん。極さんが狙われた理由ってそれなんじゃないかなって」

 「Um()?なんでですか?」

 「私はよく分からないんだけど・・・その、極道の人たちってやっぱり、普段から命のやり取りっていうか、そういうことがあると思うの。だから極さんも、それに巻き込まれてとか・・・。あとは、極道と繋がりがある人が近くにいるのが怖かったからとか・・・」

 「うぅん。どうかねえ。確かに極道ってのはいいイメ〜ジはないけどお、だからって極氏を殺す理由になるかなあ?少なくとも極氏はおれたちに危害を加えようとはしてなかったしねえ」

 「その人脈が理由で殺されたんだとしたら、今ここにいる私たちの中にも、極さんと同じような人脈を持ってる人がいるってことになるけど・・・」

 「おいおい怖いこと言うなよ!そんなことあり得ないだろ!希望ヶ峰学園が反社なんか入学させることなんかあるのか!?」

 「前例はあるねえ」

 「あるんだ」

 

 極の人間関係も、それまでの極の態度からある程度予想はしていた。それを理由にして殺人を起こすと言うのなら、もっと早い段階で起きていてもよさそうなものである。少なくとも極自身に悪意がないと分かっている今になって極をその理由で殺害することは、不自然に感じられる。

 

 「っていうか、そもそもやくざもんと繋がりがあるってのは研前の予想だろ?それだけで殺すって決めるとか、結論急ぎすぎだろ」

 「うぅ・・・だ、だけど、極さんの様子見てて、みんなも感じたでしょ?私たちとは違う世界の人なんだって。自分のこと、普通の女子高生だって思ってほしいって、言ってたもん。それって、自分では普通と違うって分かってるってことでしょ?」

 「だったらはっきりさせりゃいいんじゃねえか?たぶん、そのことを極の口から聴いてるヤツがいるだろ」

 「え?そんな人いるの?」

 「自分で分かってんだろ。黙ってねえでなんか言えよ」

 

 

 人物指名

 スニフ・L・マクドナルド

 研前こなた

 須磨倉陽人

 納見康市

 相模いよ

 皆桐亜駆斗

 正地聖羅

 野干玉蓪

 星砂這渡

 雷堂航

 鉄祭九郎

 荒川絵留莉

 下越輝司

 城之内大輔

 極麗華

 虚戈舞夢

 茅ヶ崎真波

 

 

 

 ▶雷堂航

 


 

 名指しされた雷堂は、意外そうに目を見開いて下越を見返した。下越以外の全員の頭に?マークが浮かぶ。なぜ雷堂が極の秘密を知っていると、下越は思っているのだろう。

 

 「オレはしっかり覚えてるぞ。極の『弱み』を聞いたのは、お前じゃねえか」

 「あっ・・・ああ、そっか」

 「Ah(あっ)!そうです!ワタルさん、レイカさんと『Weak point(弱み)』おしえあいました!ボクもそれききました!」

 「そ、そうなの・・・あ、そう言えばそんなこと言ってたわね。極さん」

 「・・・」

 「ああ、た、確かに俺は極の『弱み』を聞いた。けど、その時も極には絶対口外しないようにって釘を刺されたし、それをまた俺が言うのってマズいんじゃないか?」

 「ワタルさん、それInvestigation time(捜査時間)も言ってました。Class trial(学級裁判)では言うって言ってたじゃないですか!ズル──」

 「そんなのズルいよ!」

 「!」

 

 全員に極の『弱み』を明かすことを期待されても、雷堂はまだ覚悟が決まらない様子で口ごもる。捜査時間のときには気持ちに整理を付けるというようなことを言って逃れたが、この期に及んでまだ雷堂は煮え切らない態度をとる。それに怒ったスニフの言葉を遮って、強く雷堂を糾弾したのは、より雷堂に近いところにいた、研前だった。

 

 「そうやってはっきりしない態度で誤魔化さないでよ!雷堂君はいつもそうやって・・・あっ」

 「と、研前さん・・・!」

 

 言葉を途中で切って、研前ははっとした顔で口を塞ぐ。

 

 「あっ・・・ごっ、ごめん・・・なさい・・・!!」

 「えっ、いや、あっ・・・いや・・・」

 「おいおい!お前は間違ってねえぞ研前!言ったれ言ったれ!お前はな雷堂!優柔不断過ぎんぞ!」

 「んん・・・どっちもどっちだねえ」

 

 いつかの食堂での勢い任せの告白と同じように、研前は雷堂の曖昧な態度に怒って喚き散らそうとしてしまった。それで今なお自分も雷堂も苦しんでいるのに、また同じ過ちを繰り返した。それに気付いた研前はすぐにでも逃げたしたい衝動をギリギリで堪え、それでも雷堂とは目を合わせないように反対側を向いていた。雷堂も気まずそうに俯く。

 

 「ったくお前らホントめんどくせえな!ガキじゃねえんだから惚れた腫れたでモジモジしてんじゃねえよ!」

 「下越くん!デリカシー!」

 「はあ・・・えっとお。取りあえずその問題はさておいてえ、雷堂氏は極氏の『弱み』を言いなよお。もう隠す理由もないだろお?」

 「・・・わ、分かったよ」

 

 いま最も話しにくい研前からも責め立てられたことで、雷堂は観念して極の『弱み』を明かす覚悟を決める。襟を正して、話す態勢を整える。それでも手揉みをしながら話す様は、自信のなさや困惑がにじみ出て、頼りなさを感じる。

 

 「じゃ、じゃあ話す前に一つ言っておくけど、俺だって極の『弱み』を明かしたくて明かすわけじゃない。それにあいつの『弱み』を聞いたときには驚いたけど、それで極に敵意とかを持ったわけじゃない。今までの議論聞いて思うところもあるけど・・・それだけは分かってくれよ」

 「もちろんよ」

 「極の『弱み』は・・・さっき、えっと、と、研前が言ったように・・・やくざと深い繋がりがあるってことだ」

 「やっぱりそうかあ。ふぅん、いざ確定してもお、極氏が危険人物とは思えないねえ」

 「俺だってそう思ってたし、今だってそうだ。だけどあの荒川や虚戈が殺人を犯したり、それを唆すようなことをしてたんだぞ・・・!誰が何考えてるかなんて分からないじゃんか・・・!だから、このことを知って極も危険だって判断するのも、分からなくはないって・・・思う」

 「それって、モノクマのMotive(動機)Suspicion(疑心暗鬼)になっちゃったってことですか?」

 「・・・い、いや!俺は犯人じゃないぞ!?そういう風に感じたヤツがいるかも知れないってことだよ!」

 

 焦りながら釈明する雷堂の言葉に重なるように、全員のモノモノウォッチが、既に聞き慣れた機械音を出した。画面には、誰かの『弱み』が明かされたことを示すように、一つ増えた数字が表示されている。もはや確認するまでもないような状況だったが、これによって雷堂が口にしたことが『弱み』であったことは証明された。

 

 「動機は全員が見れたんだろ?だったら疑心暗鬼になったのも雷堂じゃねえかも知れねえじゃねえか。結局、そこからは犯人絞れねえんだろ!?」

 「う〜ん・・・と言うより、モノクマの動機って、疑心暗鬼になるようなものじゃなかった気がするけど?」

 「一回目はスニフ氏が間違って回したときのものでえ、二回目は誰かが極氏の“才能”研究室にあるものを回したんだよねえ」

 「あうっ、ごめんなさい・・・」

 「もう謝らなくていいんだよ、スニフ君」

 

 情けない失態を思い出してスニフが申し訳なさそうに俯く。モノクマから動機が与えられたその日のうちに、一度は過失とは言え二度もルーレットが回された。少なくとも生き残りメンバーの中に、外の世界の情報を欲して全員を裏切った者がいるということだ。その事実こそが疑心暗鬼の種になり得るのだが、与えられた情報や二度目のルーレットが回された状況の謎の方が、今のスニフたちにとっては重要だった。

 

 「でも、ボク1回しか回してないです。Second(二度目)、だれがどうやって回しましたか?」

 「二度目のが回されたとき、真相ルーレットは全部極さんの研究室にあったのよね・・・それが偽物で、本物を誰かが隠し持ってたとか?」

 「だったら・・・似たようなものを造れるヤツが怪しい、ってことか?それだと・・・」

 「納見だな!」

 「おっとお、おれかい?まあ、あれくらいシンプルな造形だったら簡単に造れるけどお、研究室にしまうときに雷堂氏が触ってたじゃあないかあ。さすがにあれくらい近くてベタベタ触れば違いはバレるさあ。それにい、おれは動機が発表された後はあ、ほとんど雷堂氏と一緒にいたじゃあないかあ。下越氏もお」

 「そうだった!おい違うぞ正地!」

 「下越くん、ちょっと落ち着きましょうね」

 

 人差し指を立てて軽くあしらわれる下越とは対照的に、納見は穏やかな表情だが的確に反論する。納見に限らず、ほとんどの者が動機発表後は誰かと行動を共にしていたため、極の研究室に集められたルーレットは全て本物だと考えていいと結論付けられた。しかしそうなると、どうしてもある問題にブチ当たる。

 

 「っていうことは・・・二度目のルーレットを回した人は、密室の中にあるルーレットを回したってこと?」

 「そういうことになるわね」

 「密室トリックかあ。ここまで来たかって感じだねえ。はてさてえ、誰も立ち入れない部屋の中にあるル〜レットを回すにはどうすればいいかあ」

 「わりいけどオレはもうわけわからん!部屋の中にあるルーレット回すんだったら部屋ン中入るしかねえだろ!」

 「It's hopeless(ダメだこりゃ)

 

 

 議論開始

 「極氏の研究室の中にあるル〜レットをお、いわゆる裏切り者はどうやって回したんだろうねえ?」

 「Closed room trick(密室トリック)ってヤツですね!むずかしそうです・・・!」

 「やっぱり、本物のルーレットを隠し持ってたんじゃないか?」

 「もしかしたらあの機械以外にもルーレットを回す方法があったとか・・・かな?」

 「つうか極しか入れねえ部屋にあったんだろ!?だったら普通に考えて極が回したとかじゃねえのか!?」

 「それはないんじゃないかな。ルーレットが回ってすぐのときに、全員1階の廊下に集まってたよ」

 「やっぱり、Gimmick(カラクリ)がしかけてあったんですよ!」

 「そうだと思うよお」

 


 

 「まあ、順当に考えてえ、みんなでル〜レットを集めたあのタイミングでえ、誰かが自然にル〜レットを押すような仕掛けを作ってたんだろうねえ」

 

 度重なる裁判の影響か、必要以上に疑り深くなってしまった雷堂たちが示唆する可能性は、スニフのストレートな案によって呆気なく棄却された。最初に検討すべき可能性が最初に浮かばないことで、自分たちがコロシアイと学級裁判に毒されていることを自覚して、複雑な感情になる。

 

 「そこまで言い切るってこたあ、なんか根拠があるんだろうな?」

 「もちろんさあ。正直言うとお、トリックは大方予想がついてるのさあ」

 「マ、マジかよ!?じゃあ、それを仕掛けたヤツも・・・?」

 「いやあ、実際このやり方は誰にでもできるしい、全員の目を盗むタイミングさえあればすぐに済むからあ、あんまり犯人の特定には繋がらないねえ」

 「どういうやり方なの?」

 

 下越と正地に尋ねられた納見は、飄々とした態度と雰囲気は崩さないまま、ポケットから証拠品を取り出した。素人とはいえ、殺人事件の真相の手掛かりとなり得る証拠をそのままポケットに突っ込む無神経さにツッコミを入れたくなる気持ちを抑えて、全員が掲げられた物に注視する。

 

 「なんだそりゃ?絵筆か?」

 「あっ・・・そ、それ、刺青の針?」

 「そうだよお。よく知ってるねえ正地氏。これは極氏の研究室にあったものだよお」

 「・・・“才能”柄、見る機会があるだけよ。意味深なこと言わないで」

 「犯人がそれを使ってルーレットを回したってこと?」

 「これだけじゃあないさあ。これはル〜レットのボタンを押すためのものでえ、ある程度の重さと固さがあればなんでもいいのさあ。むしろもう一つの方がこのトリックには重要でねえ」

 「いよいよ探偵染みてきたなあオイ、納見よお」

 「前回も言っただろお?本気にならないといけないと思ったってことさあ」

 

 のんびりとした口調はそのままに、鋭く明確に事実のみを述べる納見の推理は、不思議な説得力があった。そして納見が言うもう一つの証拠品というものは、納見は持ち合わせていないという。

 

 「これはものを見せることはできないからあ、スニフ氏、おれと研究室を捜査したときに見つけたものを言ってごらん?」

 「えっ、ボクですか?えっと・・・」

 

 

 証拠提出

 A.【モノクマランドの掟)

 B.【診断書の束)

 C.【水の跡)

 D.【タトゥーニードル)

 


 

 「Table(テーブル)の上に、水のかわいたあとありました!それのことですね!」

 「その通りさあ。分かりやすく言えばあ、風呂場の鏡に白い水の跡が付くだろお?あんなようなものが残ってたんだあ」

 「ああ、分かる分かる。あれなかなか消えなくて困るんだよね」

 「ボクしってます!Vinegar()でキレイになります!」

 「そうなんだ。スニフ君は物知りだね」

 「Smug(どやあ)!」

 「いや、なんでこっち見るんだよ・・・?」

 

 なぜか雷堂に向けてドヤ顔を披露するスニフ。返ってきたのは雷堂の微妙な返答だけだった。真相解明には全く関係のないことなので、納見にはスルーされてしまう。

 

 「水の痕跡があるっていうことはあ、そこに水があったってことだろお?」

 「水と針でボタンを押すのか?どうやってだよ?」

 「それだとただ刺青針を濡らすだけじゃない。なんの仕掛けにもならないわよ」

 「そうだねえ。だからこの水はあ、もともと水じゃあなかったってことだろうねえ」

 「水じゃない?」

 

 納見は意味深な返答をする。水の痕跡が残っていたにもかかわらずそこにあった水はもともと水ではなかった。それが意味する、トリックに使われたものが何かを全員が考える。その答えは、そう悩むことなく出てきた。

 

 「氷、ってこと?」

 「うんその通りだよお。おそらく犯人は氷を支えにしてえ、タトゥーニードルを固定したんだろうねえ。ちょうどお、氷がなくなれば針が落ちてえ、その下にル〜レットのボタンが来るようにセットしたってことさあ」

 「そ、そんな上手くいくものかな・・・?だいたい、それってバレちゃわない?」

 「いや・・・意外とできるかも知れないぞ。氷なんて小さいものだったら置いてあったって分かりにくいし、針だってもともと研究室にあったものだろ?」

 「それに、レイカさんボクたちにAttention(注目)してました。Table(テーブル)見てないとおもいます」

 「ある程度の固さと重さがあるタトゥーニードルをお、スニフ氏の目線くらいの高さがあるテーブルから落とせばあ・・・まあ、ボタンを押すくらいの力は生まれるよねえ」

 「あんな短い時間に、それも私たち全員の前で、犯人はそんなことしたっていうの?そんな・・・」

 「いい度胸してんじゃねえかよ・・・!ナメくさりやがって・・・!」

 

 納見の推理に異論を唱える者はいない。研究室の捜査を納見とスニフで行った以上、スニフが特に異論を挟まなければこれ以上追及のしようもない。少なくともこの中でひとりは嘘や誘導で裁判を誤った方向に持って行こうとしているはずだが、それがいつどのタイミングで行われているのか、それが分からない。誰を疑い誰を信じればいいのか、あらゆるタイミングでその決断を迫られるストレスに、体はほとんど動いていないのに疲労がたまっていく。

 

 「そこまでして・・・どうしてその人は、動機を欲しがったのかな。どんな情報が手に入るか分からないのに、なんで外の世界の情報にこだわったんだろう・・・?」

 「その真相で、モノクマの正体が分かる可能性に賭けたとか・・・そんなんじゃないか?」

 「分かったってそのせいで極殺してんだろ!意味ねえじゃねえか!っつうかその真相っつうのも、オレにはよく分かんねーんだ。2つあったことは覚えてんだけどなあ」

 「確か、『未来機関』と『超高校級の絶望』についてだったわね。どっちも信じられないような話ではあるんだけど、真相っていうことは・・・そういうことなのよね?」

 

 モノモノウォッチを触りながら、正地が不安げに言う。『超高校級の絶望』なる世界的な過激派テロ集団も、『未来機関』なる圧倒的な権力を持つ国際機関も、ここにいる全員聞いたことがない。そんなものがあればニュースや学校で知らされないわけがないからだ。だが一方でモノクマはこれを世界の真相だと言う。

 

 「ボクおもうんですけど、このInformation(情報)は、きちんとOrganize(整理する)しないと()()()()()()()()おもいます」

 「()()()()()()()()でしょ?」

 「あっ、それでした!」

 「まあ確かに、今のままじゃ結局外がどういう状況なのか、正直よく分かってないしな・・・」

 「下越くんも諦めないでついて来てね。モノモノウォッチで確認できるから」

 「なるべくゆっくり話そう。下越君も理解できるようにさ」

 「難しい言葉もできるだけ避けてえ、スニフ氏や下越氏にも分かるように気をつけよお」

 「お前らオレのことなんだと思ってんだよ!」

 

 不満げな下越だが、全員からの頭脳の信頼は非常に低い。モノクマの動機もろくに理解できていない可能性が高いままでは、今後の議論にも支障を来す。なるべく平易な言葉とゆったりしたペースを心掛け、全員で動機を確認していく。

 一度は世界を滅ぼすも、今はその痕跡がわずかに残るのみまで衰退した“超高校級の絶望”というテロ集団。そしてその殲滅と世界の復興を目的として立ち上がり、今は世界全体を管轄する超巨大組織へと成長した未来機関という存在。どちらもにわかには信じがたく、その存在の証すら動機として与えられた文書以外にはない状態である。真偽の判断などつくはずもない。

 

 「下越くん、分かった?」

 「なんとなく!」

 「これでもなんとなくかよ・・・」

 

 なるべく全員で分かりやすく振り返ったつもりだったが、下越は思ったほどは理解していなかったようだ。それでも、議論を続ける分には問題ない程度には情報共有ができたはずだ。そう考えなければやってられない。

 

 「世界が一度滅びたってねえ・・・簡単に書いてあるけどお、やっぱり信じがたいことだよお。警察や軍事組織はごまんといるはずなのにい、どうしてそんなテロ集団、それも高校生がリ〜ダ〜をしてるような組織に負けたんだろうねえ」

 「せ、世界が滅びたって、私たちの家族や友達はどうなったのよ・・・!希望ヶ峰学園は?お母さんは・・・どうなったの・・・!?」

 「・・・まあ、敢えて言うこともないだろ」

 「うぷぷ!知りたい?自分の家族がどうなったか知りたいの?でもそれ最初の動機の真相だもんな〜、教えるわけにはいかないな〜!うっぷぷぷぷ!ま、法も秩序もなくなって暴力と絶望が支配する世界で、自分の身を守る手段さえ持たない人間がどうなったかなんて、キャンプファイヤーより明らかだろうけどね!」

 「じゃ、じゃあ・・・ボクのDuddy and mommy(パパとママ)は・・・!?」

 「須磨倉氏や相模氏や星砂氏が浮かばれないねえ。彼らはみんなあ、元いた世界の人や価値観のために人を殺したってのにさあ。たとえ学級裁判に勝っても待ってるのは望んだものなんか何一つない世界だったってわけだあ」

 「くそったれ・・・!!外道にもほどがあるぞコラァ!!」

 「ボクなんも言ってないよ!オマエラが勝手に勘違いして勝手にコロシアイを始めたんだろ!」

 

 全く悪びれることなくモノクマは言い放った。あくまでコロシアイは生徒同士の行為であり、モノクマは動機を与えこそするものの不干渉の立場を貫くようだ。もはや存在しない可能性を餌に人心を弄び、道を踏み外させる。そんな行いに義憤にかられる下越だったが、殴ることさえできないフラストレーションが溜まるだけだった。

 

 「外の世界のことも気になるけどお、おれがもっと気懸かりのはこのお、江ノ島盾子っていう人なんだよねえ」

 「そいつが“超高校級の絶望”のリーダーなんだってな。それがどうしたんだよ」

 「いやあ、ずうっと気になってたことがあるんだよお。ミュージアムエリアに飾られてたあのお、バカにデカい彫像がさあ」

 

 納見の言葉を聞いて全員が脳裏に同じ物を浮かべる。一斉に思い出せるくらい、あの彫像はあの場所で異彩を放っていたし、人の印象に残りやすく、そして美しかった。

 

 「一体あの像が誰なのかあ、何のためにあんなところに飾ってあるのかあ、タイトルの『“絶望”の国が建つ日』ってのはどんな意味なのかあ。おれなりに色々考えてたんだけどお、ちっとも分かんなくてねえ」

 「ヤスイチさん、そんなこと考えてましたか?言ってくれたらいいのに」

 「考えがまとまらなくてさあ。だけど今になってようやく仮説が立てられるくらいにはなったよお。あの妙にデカくてグラマラスな彫像はあ・・・あの彫像のモデルになった人物こそがあ、この江ノ島盾子なんじゃあないかって思うのさあ」

 「ん・・・?ってことはだぞ?“超高校級の絶望”のリーダーの像がここにあるってことは・・・」

 「このモノクマランドは、その絶望の残党の・・・アジト・・・!?そんな・・・!」

 「お、おいおいおいおい!納見!変なこと言うなよ!正地もスニフもビビってるだろ!それに、そんなの極を殺したクロを暴くのに関係ないだろ!」

 「ごめんよお。つい話の流れでねえ。まあ要するにい、モノクマも江ノ島盾子も“超高校級の絶望”とは何らかの関わりを持ってたってわけだからあ、モノクマがこのコロシアイのゲ〜ムマスタ〜をしてる以上はあ、そこに何らかの繋がりがあるはずってことさあ」

 「ううん・・・分かりそうで分からない・・・」

 「要するに、事件とは何の関係もねえんだろ!だったら後回しだそんなもん!」

 「思い切りがいいな」

 

 モノクマの支配下にあることには何の変化もないが、“超高校級の絶望”の首魁と言われている江ノ島盾子の彫像があることで、その脅威がより身近に感じられた。正地は思わず身震いし、スニフは緊張して自然と全身に力がこもる。だとすれば、このコロシアイを裏で牛耳っている黒幕も、江ノ島盾子あるいは“超高校級の絶望”に関係している人物であるはずだ。そのヒントが得られたのは、黒幕との戦いに備えているスニフにとっては大きな意義を持っていた。

 

 「But(でも)・・・まだ足りない。もうちょっとなんだけど・・・」

 「何か言ったかい?スニフ氏」

 「N, No(い、いいえ)!なんにも!」

 

 今の情報が納見から出てきたと言えど、油断はならない。完全に信用していいと確信を得なければ、そう簡単に黒幕を倒す話などすることはできない。

 そうしてしばらく思案するスニフだが、下越の言葉で我に返った。この裁判は黒幕の正体を暴くものではなく、極を殺害した犯人を見つけるためのものだったはずだ。殺害動機が分からない以上、見つかっている証拠から導いていくしかない。

 

 「・・・もしかしたら」

 

 危うくすれば聞き逃してしまいそうな小ささで、そしてはっきり聞こえる声で、そう言ったのは正地だった。

 

 「関係・・・あるかも知れないわ。“超高校級の絶望”と・・・極さん・・・」

 「・・・は?」

 

 数人の目が丸くなる。そう発した正地自身でさえ、その推理の脆さは自覚している。それでも、思い付いたのだから議論するしかない。たとえ最後に答えを誤ろうとも、後悔しないために。迷いに迷いを重ねた末に、正地は語り出す。極麗華という人間について。

 

学級裁判 中断

 


 

コロシアイ・エンターテインメント

生き残り:6人

 

【挿絵表示】

 




だいぶ間隔があいてしまいました。
次の話はもう書き終わってます。投稿作業がめんどくさいんです。
年内に5章終わらせたいな〜
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