Side:下越輝司
「・・・しくった」
こんなところの探索を引き受けるんじゃなかった。前に来たときより雑草がいくらか茂り始めた遺跡エリアに着いてから、そう思った。でもま、ここがやべえところだってのを知ってるのは今はオレしかいねえか。間違って他のヤツが怪我なんかでもしたら大変なことになるしな。少なくともオレは、ヘンな怪我だけはしねえように気を付けよう。
靴にまとわりつく赤土を、石畳につま先を打ち付けて落とす。その辺の木の枝で隙間に挟まってる湿った土をこそぎ落として、ひんやり冷たい空気の漂う通路に入って行く。取りあえずここは安全なルートだったはずだ。
「相変わらず気持ち悪い絵だな・・・」
巨大な遺跡には3本の道がある。この壁画の道は、入口から奥の部屋まで壁にびっしりと壁画が描かれてる。その辺の雑草を煮詰めて色を絞り出したような、気持ち悪い色合いの絵が続くと思えば、絵の具を使った彩り豊かなもんも出てくる。物語調になってるらしいが、絵だけじゃどんな話かよく分からねえ。
ふたりの女が出てきて、ひとりがひとりを殺したり、他にもたくさんのヤツらが出てきては死に、出てきては死に、最後には最初の女も死んだ。後には、どっかの島で同じように殺し合ってるヤツらの絵もある。とにかくそんな趣味悪い絵がひたすら続く道だ。もうひとつの冒険の道よりはよっぽどマシだが、モノモノウォッチの懐中電灯に照らされた不気味な絵が薄暗い中から急に出てくるのは心臓に悪い。なんだってこんな薄気味悪いもんを描くんだ。どうせ意味なんかねえくせに。
通路を抜けると吹き抜けの大ホールに出る。ホールの奥にある祭壇みたいなところは、確か極と荒川が何か話してたな。生贄がどうのこうのとか。そんなことやるヤツなんているわけねえけど、この場所はなんとなく気味が悪い。日はもう傾き始めて、丸く切り取られた空はまだ明るいが、今日という日の終わりを感じさせる色になってきている。頼れる灯りはモノモノウォッチくらいだから、こんなところで夕方になったら気持ち悪くてしょうがねえ。くまなく捜索するってんなら、冒険の道と、あとまだ行ったことのねえ神聖の道ってのも見ていかなきゃならねえ。モノクマのことだから、むしろそっちの道に何かがある方があり得そうだ。オレは道に踏み入る前に思いっきり息を吸い込んだ。
「うわあああああああああああああああっ!!!」
ちょこざいな罠なんかに時間かけてられっか!なんかスイッチ押したり罠に引っかかったりしても、ダッシュすりゃ仕掛け食らうより前に逃げられんだろ!
カチッと床が沈む感覚がすると、後ろから金属が壁に叩きつけられる音がした。矢が飛び出たらしい。顔面にかぶさってくるクモの巣はそのたび、雑に手で払った。槍が飛び出たり岩が転がってきたり針天井が落っこちてきたり、怪我じゃすまねえほどの罠が次から次へと現れては後ろに消えていく。意外といけるぞこの方法!
「ぜぇ・・・!ぜぇ・・・!」
思ったより道が長かったが、モノモノウォッチのおかげで床や壁の見落としはなかった。その証拠に、食らいそうになった罠はだいたい覚えてるしな。取りあえず逃げ切った!ざまあみろモノクマ!あとは神聖の道っつうところを探索すりゃ終わりだな!壁画の道はそのまんま壁画、冒険の道は罠だらけってことは、神聖の道にあんのは・・・分からん!行ってみるしかねえか。
「・・・はあ」
神聖の道は、壁画の道と似たような感じだった。違うのは、あっちが壁一面に気味悪い絵が描かれてるのに対して、こっちはヘンな風に着飾ったモノクマの像が並んでるだけだった。像に触るのは禁止されてるらしい。どぎまぎしながら突入したオレの緊張を返せ。それにしてもこのモノクマども、どうもどっかで見たような恰好してんだよな。どこで見たんだっけな。思い出せねえ。
Side:納見康市
ファクトリ〜エリアは茅ヶ崎氏の遺体を捜査するときに入ってからは近付いてもいなかった。内部構造は初日に捜査した雷堂氏から聞いていたけど、本当に迷路みたいになっている。ただ、今はモノクマから渡された地図とモノヴィ〜クルっていう足がある。星砂氏はこれを頭脳だけで攻略したっていうんだから、やっぱり能力はあったんだな。なんてのんきに考えているうちに、ヴィ〜クルは目的地に着いた。
曲がりくねって数m先も工場の陰になって見えない道をひたすら進んで、辿り着いたのはいかにも怪しげな巨大工場だった。もうもうと煙突から立ち上る灰色と、でっかいおばけがいびきでもかいているようなうねり、複雑に入り組んだパイプや迷路と無機質な壁が、何とも言えない不気味さを醸し出している。
「誰か連れてくればよかったかなあ」
今更になって怖じ気づいてきた。けど誰かを呼びに行ってる時間はないし捜査の手が減るのは困る。何より覚悟を決めてからでないとここには入れない。意を決して、おれは敷地に立ち入った。モノヴィ〜クルは入口脇に停めておいて、歩いて工場まで入って行く。
内部は思いのほか清潔な感じにまとめられてて廃工場みたいな雑多さはなかった。稼働してるってことは中でモノクマでも働いてるのかと思ったら、誰もいない。機械がひとりでに動いてるみたいだ。それとも、おれに見つからないように隠れてるだけ?そう考えると真後ろに誰かがいそうな気がして、思わず振り返る。下手なおばけ屋敷なんか目じゃないくらいの緊張感だ。
正面の大きな扉は重厚で、なんだかどっしりと構えて隙がないような印象を受ける。横道に逸れた廊下の先には自動ドアがあって、そこの奥からは何だか重い機械音が幾つも重なって聞こえてきた。気になって、そっちに進む。
「うわあ・・・なんだろうねえこりゃあ」
少し広い部屋の中には、夥しい数の機械やベルトコンベアが並んでいて、何かの製造ラインだと一目で分かった。ロボットアームがそこかしこで自動で動いて、同じものを次々生み出していく。出来上がった製品が流れていくコンベアに近付いて見てみる。
「・・・?小さいねえ。なんかのパーツかなあ?」
出来上がった製品が大量にパック詰めされては箱に詰められていく。その箱が部屋の奥へと流れていって、その先は立ち入れないようになっていた。小さすぎてなんだかよく分からないけど、ネジやボルトの類とは違う、超小型の精密機械って感じがした。何があって何をしているかはよく分かったけどお、何のためのものかはよく分からないなあ。
元の通路を戻って、大きな扉の前に来た。病院の手術室に繋がるような、観音開きの扉だ。稼働中のランプがついていて、衛生服を着て全身消毒を受けないと入れないようだった。顔まですっぽり覆った上からなら、消毒液をかけられても平気だ。装着して、ドアに手をかける。
奥には、このコロシアイの真相に繋がる手掛かりが眠っているはずだ。これ以上ないってくらい緊張した胸を深呼吸で落ち着かせて、ノブを引いた。
「・・・?」
白を基調とした明るい通路からやけに暗い部屋に入ったせいか、視界がぼやけて部屋の中の状況がすぐには理解できなかった。だけどヤバい薬品を作っていたりゾンビを強力に肉体改造してたりするわけじゃあなさそうで、ひとまずそこは安心した。
どうやらこの部屋は工場全体をぶち抜いているらしい。部屋の中央には巨大な円筒形の装置があって、そのてっぺんから大小さまざまなチュ〜ブやパイプが髪の毛みたいに延びている。それらが繋がる先は、何がなんだか分からない文字の羅列が表示されてるコンピュ〜タ〜や、見上げるほど高いところの壁に開いた穴の向こう側で、ここからは正体が掴めなさそうだ。
中央の円筒形の装置を取り囲むように、人ひとりが余裕で入れるサイズの巨大カプセルがずらりと整列していて、中は妙な色の液体で満たされている。それ以外は空っぽに見えるけど、もっと近付いてみないと判断できない。足下のチュ〜ブやらでつまずかないよう慎重に進んで行く。近付いてみると、別の出入り口に繋がる平らな通路もあった。部屋の中はごうごうという機械音だけで満たされていて息苦しい。やっとの思いでカプセルの前に辿り着いてみると、そのカプセルも案外高い場所に設置されてることが分かった。下を覗くとハッチになっていって、壁面には何かを上げ下げするためのレ〜ルも敷かれている。これだけじゃあなんのこっちゃ分からない。
「んん?」
部屋の高い場所から軽い機械音がすると思ったら、壁に開いた穴からア〜ムが伸びてきていた。その先には何かが握られている。それはゆっくり円筒形の装置に近付くと、カプセルの真上で止まった。ひとりでにカプセルの上部がフタのように開いて、ア〜ムは握ったものを液体の中に浸す。そこで何が行われてるか分からないけど、すぐにア〜ムは空っぽになったそれを持って戻っていった。とにかく手掛かりが欲しい。そのア〜ムの行く先を追ってみた。
ア〜ムが繋がっていたのは、巨大な装置がある部屋のすぐ隣だった。装置のある部屋よりも厳重な衛生管理に加えて、紫外線や超音波みたいなものにまで気を遣っているらしい警告がドアに貼り付けてある。重いドアを開くのは二度目だからか、さっきより抵抗なく開けた。
「さてえ、なんだろうねえこりゃあ」
今度はそれほど広くない部屋に、さっきのカプセルと同じ妙な色の液体が詰まった水槽が並んでいた。ア〜ムが握っていたのはこれだったみたいだ。よく見ると棚に整列してるんじゃなくて、水槽は一列になって徐々に動いていた。ア〜ムが部屋の左奥天井付近から伸びていて、水槽は超低速のベルトコンベアで部屋を移動していた。立体的な動線をしている理由はなんだろう。そもそもこの水槽はなんなんだろう。ここまでくると好奇心の方が強くなってきた。そのうちひとつを覗いてみる。
薄く黄ばんだ若干粘りけのある液体。水槽はフタが分厚い以外に不自然な点はない。よく見ると何か浮いている。黄ばんだ視界の中でも薄く輪郭が見える。小さい丸い形をしていた。そこから伸びる小さな出っ張り。目で形をなぞる。未熟ながらも複雑な形をしたそれは──。
「ッ!!うああああああああああああっ!!!?」
気付いた。気付いてしまった。見てしまった。理解した瞬間に背筋が凍った。金縛りにあった。腹の底から嗚咽がこみ上げてきた。恐怖で口が勝手に叫んでいた。目に焼き付いたそれを掻き消すように目元をこする。足がひとりでに部屋の外へ飛び出した。逃げ出した。
「ハァ・・・!ハァ・・・!」
見間違いじゃない。確信を持って言える。言い切れる。いま自分が見たものが何なのか。
「どういう・・・ことだぁ・・・?」
ふと、視界の端に階段があることに気付いた。上へ続く階段だ。そういえばさっきの巨大な部屋の上部には、せり出したガラス張りの部屋があった。とにかくさっきの部屋から離れたい。気持ち悪い。そんな思いだけでおれは、その階段を上った。
「ハァ、ハァ・・・ここかあ」
階段の先にあったのは思った通り、さっきの巨大装置がある部屋を一望できる部屋だった。簡易な放送機器や本棚の数々、いくつものモニターが並んでいるあたり、ここがこの工場の中心なんだろう。ひとつのモニタ〜の電源が点いたままで、コンピュ〜タ〜にはメモリが刺さっている。表示されているのは、そのメモリに記録されているファイルだった。
「『特殊化合物組成法リスト』、『ゲノム配列図』、『培養槽取扱説明書』、『生命製造技術理論書』・・・」
もうたくさんだ。これだけではっきり理解できた。こんなものが隠されていたなんて、想像だにしなかった。これが、荒川氏の行動が180度変わったきっかけで、虚戈氏が死を簡単に受け入れた理由か。つまり──。
「この工場ではあ・・・ヒトを造ってるってことかあ」
Side:スニフ・L・マクドナルド
「
「・・・スニフ君」
モノヴィークルにのって
「自分のところの捜査はもう終わったのかな?お疲れ様」
「へっちゃらです!こなたさんも
「どうしてここに来たの?」
「あっちの方はヤスイチさんとしらべましたから、こっちの方はまだ見てないんです。だからです」
「ああ・・・そうだったね。私も、こっちの方が気になったから来てみたんだ。あんまり調べるところもないけどね」
とくに何かあるわけじゃないこの
ボクたちがはじめてこのモノクマランドに来た日、ここでおきたことがすべてのはじまりだった。モノクマに
「あんなことしてまで、モノクマはどうしてそこまでコロシアイにこだわるんだろうね」
「・・・」
あのときのことを思い出す。モノクマから
「・・・こなたさん。こなたさんは、おぼえてますか?アクトさんのこと」
「忘れられないよ」
「ボクも、おもいだしてました。でも、分からないです。なんでアクトさんは
「うん?どういうこと?」
「ボクたちに
「うーん・・・自分に逆らうとこうなるぞ、って私たちを脅すためだったんじゃないかな」
「・・・そうですよね」
やっぱり、こなたさんもそう思ってる。だけどボクはそれだけで
「もう、時間になるね」
「・・・
「分かんないや。今までの裁判だって、大丈夫だったことなんてなかったし・・・あっ。で、でも、うん。がんばるよ」
ボクの
「こなたさん?」
「スニフ君・・・ホテルに戻ろうか。もうみんないると思うから」
「・・・はい」
ぜんぜん大丈夫そうじゃないのに、こなたさんは
「やあ、おまたせえ」
「時間がねえ。さっさと食べて話すこと話してから行くぞ」
「そうね」
「あんまり食べながら話すことじゃあないんだけどお」
「食べ終わってからでいい」
「こなたさん、
「・・・う、うん」
「研前さん?無理することはないけど、裁判は夜遅いから今の内に食べて元気付けておかないとダメよ。スープだったら飲めるかしら?」
「ありがとう・・・」
ボクが見つけてきた
こなたさんはまだ元気がないみたいで、セーラさんにわたされた
「おいおい。研前はマジで大丈夫なのかよ?裁判どころか、部屋にだって帰れそうにねえじゃねえか」
「仕方ないでしょ。今日一日で色んなことがあり過ぎたもの・・・心が参ってるのよ」
「確かにい、長い一日だったねえ。このあとまだ裁判があるだなんて信じられないよお」
「
「早えなスニフ。ちゃんとかんだか?」
「
「やる気があるのはいいけどお・・・研前氏は食が進んでないみたいだしい」
「そういう納見くんも、なんだかいつもより箸が進んでないみたい」
「いやあ・・・」
モノクマとの
そう思って
「み、みなさん・・・?ボクたち、じかんないですよ?このまま
「いやあ、情報の共有は必要だとは思うよお。体力の温存もねえ。だけどお・・・ううん、ちょっと刺激が強すぎると言うかあ」
「分かっちゃいるんだが・・・どうしても手が進まねえんだよ」
「なんでですか!ボクたちの
「スニフ君の言うことは分かるよ・・・。うん。がんばらないとダメだよね・・・」
まだ
「ウェーーーーイ!!」
「どわあっ!?」
「きゃあっ!な、なに!?」
おもたくなった
「な、な、なに!?モノクマ・・・!?」
「ああああっ!!おいコラテメエ何しやがる!!晩飯が台無しだ!!どうしてくれんだ!!」
「知らないよ。オマエラが勝手に台無しにしたんでしょ」
「お前がびっくりさせるからだろお。あ〜あ、とてもじゃないけど食べられないねえ」
ならんだ
「まーまー、この一食抜いたところで死ぬわけじゃないし。ドンマイドンマイ」
「何しに来たの・・・?まだ裁判の時間じゃないでしょ」
「いや〜、裁判前にオマエラがあんまりにも絶望してるみたいだから、ちょっと発破かけようかと思って。ボクとしてはもうちょっと希望を持って臨んでもらった方が叩き潰し甲斐があると言うか」
「わがままだなあ。そんなこと言ってえ、どうせ他に目的があるんじゃあないのかい?」
「うぷぷぷぷ♬まあね。実はここまでオマエラに与えたヒントだけじゃ、ちょっと真相に届くには不十分かなって思ってさ。だから、ボクから最後にもう一つ、ヒントを与えてあげようかと思ったの。ボクは気遣いと心配りができるよくできたクマだからね!う〜ん!やっさしー!」
「うるさ・・・」
「さいごの
「うぷぷ♬それはモノモノウォッチに送っておいたよ!ま、ぶっちゃけ言うとまた写真なんですけど!」
「写真・・・4回目の動機みたいなものってこと?」
「さーねー!見てみて考えてね!」
ボクたちのモノモノウォッチがピロン、となった。モノクマはそれだけ言ってまたきえた。
「・・・なんだこの写真?」
「私たち・・・よね?また、身に覚えがないけど」
「んん?これはあ・・・一体どこだろうねえ?モノクマランドでもないみたいだけどお」
「あっ・・・!」
何かに気付いたこなたさんが、ちいさいこえを出した。
「私たち、みんなおんなじ服着てる・・・これ、制服だよ。希望ヶ峰学園の」
「キボーガミネ?」
「希望ヶ峰学園の制服を着て・・・じゃあ、ここは教室?」
「いや、おかしいだろ」
「オレらは希望ヶ峰学園に入学する前にここに来たんじゃねえのか?」
「そうだよねえ。おれは入学式に参加した覚えはないしい、そもそも学園の前に立った記憶すらないよお」
「・・・じ、実は私も・・・電車で学園に向かう途中から、ちっとも思い出せないの」
「みなさんもですか?ボクも、
「でも、そしたらこの写真は?」
「モノクマのでたらめ・・・ってのを疑う段階じゃあないよねえ。散々言ってきたことだもんねえ」
「・・・どういうこった?これが本物ってことは、オレらはもう希望ヶ峰学園に入学してたってことかよ?」
「入学してたどころか、これを見る限りではしばらくは学園で生活してたんじゃないかしら。みんな、すごく仲よさそうにしてるもの。入学してすぐにこんな風にはならないわ」
モノクマランドでのボクたちの
「・・・」
いきなりモノクマがおしつけてきた
「あ」
モノモノウォッチの
コロシアイ・エンターテインメント
生き残り:5人
3月中に投稿しようと思ってましたが、ギリギリセーフですね(?)
この先を書きたくてウズウズしてるので、次の話もすぐ書き上がりそうです。
真相予想もしてみてね