ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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【タイトルの元ネタ】
『世界は恋に落ちている』(CHiCO with HoneyWorks/2015年)


Prologue.『“セカイ”は絶望に堕ちていく』

 ホテルエリアからテーマパークエリアに戻ったボクたちは、次にどこのエリアを探索に行くか相談してた。行けるエリアはあと2つ。わざわざハイドさんと組んだワタルさんが心配だったけど、どこのエリアに行ったのか分からない。

 

 「荒川さんもいるから大丈夫だと思うけど」

 「エルリさんがいるから心配でもあるんです」

 

 あの3人が仲良く探索するかなあ。ワタルさんが大変そうだ。それはそうと、ボクたちはどうしよう。テーマパークエリアで困っていると、遠くの方ではしゃぐ声が聞こえた。一緒に泣き叫ぶ声も聞こえてきた。この声の主はすぐに分かるぞ。

 

 「皆桐くんと」

 「マイムさんだ!」

 

 2人で顔を合わせた。声がするってことは、先に走っていったアクトさんに追いついたんだ。すごいなハルトさんとマイムさん。ボクたちは声のする方へ行ってみた。広いテーマパークと言っても声が聞こえるところだ。それほど時間はかからずに会えた。

 地面にへたりこんでぜえぜえ息を切らしてるハルトさんに、悔しそうに泣いてるアクトさんに、近くのライトにのぼってはしゃいでるマイムさんがいた。何やってるんだろう。

 

 「みなさん、こんなところで何してるんですか?」

 「へぇ・・・へぇ・・・お、おお、スニフに研前か・・・。いや、もうこいつが・・・ものすげえ速さで・・・」

 「うおおおおおおおッん!!自分は自分が情けないっす!!やっぱり自分が“超高校級”なんて10年早いんす!!・・・っは!10年経てば“超高校級”に並べるなんて甘い考えをしてしまった!!うおおおおおおお!!自分はろくに反省もできないんすかああああああッ!!」

 「うるっせえな!!あんだけ走りまくってどこにそんな元気あるんだよ!!」

 「ハルトさんもまだ元気そうですけど」

 

 いきなり走り出したアクトさんをハルトさんとマイムさんが追いかけていったんだっけ。それで今の今まで走ってたアクトさんに、やっとハルトさんとマイムさんが追いついたらしい。“Ultimate Sprinter”のアクトさんはスピードはすごいけど、スタミナはあまりないらしい。“Ultimate Smuggler”のハルトさんはその逆。だから少しずつ追いついたみたいだ。

 

 「おまけに無鉄砲に走り出して須磨倉さんと虚戈さんに迷惑までかけて!!挙げ句これだけ走り回ったっていうのに・・・なんの成果も!!得られませんでしたァ!!」

 「あのな、成果はあったぞ。このテーマパークエリアはマジで出口がねえ。隠されてるか分かんねえけど他のエリアに繋がるゲート以外に移動できる場所がないってことが分かった」

 「つまり、テーマパークエリアじゃ何も分からないってことが分かったんだね」

 「アクトさんは泣き虫なんですね」

 「うう・・・面目ないっす。自分だって泣きたくはないんす。もっと強くなりたいんす。でも自分の不甲斐なさとか情けなさを思うと・・・自然と涙が」

 「走ってる最中も泣くんだぜ。途中から涙の跡おっかけて走ってた」

 「なにかの歌詞みたいでステキだね」

 「実際そんないいもんじゃねえぞ」

 

 空回りしてるけど、アクトさんがやたら張り切ってるのはそういうわけか。どうしてもボクたちの役に立ちたいんだね。わんわん泣く姿はなんとなく清々しくて、自分の気持ちをかくすよりよっぽどいいや。

 

 「で、虚戈さんはあそこで何やってるの?」

 「高いところからパークを見渡せば出口が見つかるはずだって、今し方登ったとこだ。あんな足かけるとこもない街灯にどうやって登ったんだか」

 「“超高校級のクラウン”は伊達じゃないってことだね」

 「あぶなっかしくて見てられねえよ。見ろ、出初め式みたいなことしてるぞ」

 「あっ♡スニフにコナタだー♡おーい♡」

 「逆立ちしたまま手を振ってる。すごいね」

 「見物料取るレベルを自然とやってんぞ。あいつはよく分かんねえなあ」

 「うおおおおおおおッん!!虚戈さんはまだあんなことができるほどスタミナ残ってるっていうのに、自分はこんなところでへばってるなんて!!陸上選手として恥ずかしいっすッ!!」

 「マイムさんの“才能”もスタミナがいりますから、そんなに比べなくても」

 

 何かにつけてすぐに泣いちゃうなあこの人。あれだけスピード出せるんだからもっと自信持てばいいのに。

 

 「虚戈さん、何か見える?」

 「うーん♣なーんにも見えないよー♠あっちはキラキラこっちはモクモクそっちはひろびろどっちもガヤガヤ、マイムはもう何が何だかくらくらするよ♠」

 「高くてあぶないですから、気を付けてくださいね」

 「大丈夫だよ♡マイムはクラウンだからね♡ほーら!こんなこともできるよっ☆」

 「きゃっ!」

 「Woo・・・見てるこっちがひやひやします」

 

 マイムさんはボクたちに自慢するみたいに、なんでおっこちないのか不思議なポーズをしたりアクロバットを見せたり、本当にショーを見せてもらってるみたいだ。くるくる回ったりぴょんぴょんはねたり、目が回ってくる。マイムさんは本当にスタミナがあるんだなあ。それにずっとスマイルだ。

 

 「いい気なもんだ。あいつ途中から俺の背中に勝手に張り付いてたんだぞ。皆桐追いかけるのに夢中で気付かなかった。背負(はこ)ばせんなら金払えってんだちくしょう!」

 「気付かないのもどうかと思うしお金の問題なの?」

 「ったりまえだ!脚は俺の商売道具だぞ!」

 「それじゃあハルトも、マイムの芸みたから見物料ちょーだい♢」

 

 ぷんすか怒るハルトさんもちょっとズレてるような気がするけど、マイムさんもなかなか手強い。お互いに自分の商品を使ったってことでイーブンかな。

 

 「見せびらかしてんだろ!あとお前早く降りてこい!さっきからスカートの中丸見えだぞ!」

 「へっ?きゃっ♢もうハルトのエッチ・・・あっ♠」

 「あっ!」

 「あや〜〜〜ッ!!」

 

 ハルトさんに言われるまで、ボクも気付かなかった。だってすごいアクロバットに夢中で、そんなスカートの・・・な、中なんてところ・・・うう、ボクが気付いてやんわり教えてあげればよかった。気付かなかったとはいえずっと女の子のスカートをのぞいてたなんて、紳士じゃないよ。

 マイムさんも言われて気付いたみたいで、とっさにスカートを両手で押さえた。マイムさんなら足だけでバランスを取ることもできたけど、いきなりのことでそんな余裕もなかったみたい。

 

 「あぶないっす!!」

 「うおっ!?」

 「や〜〜〜ふぅげえ!!」

 「うぶすっ!!?」

 

 真っ逆さまに落ちていくマイムさんが地面にぶつかる直前、ボクたちの後ろからものすごいスピードでアクトさんがスライディングしてきた。ぶつかる瞬間は思わず目を背けてしまって、二人の声だけでどうなったか分からなかった。

 

 「ああ!」

 「二人とも大丈夫!?」

 

 おそるおそるマイムさんが落ちたところを見ると、スライディングしたアクトさんのお腹の上にマイムさんがひっくり返ったまま落っこちてた。マイムさんの落下速度とアクトさんのスライディングの速さも相まって、ものすごい勢いでぶつかったんだ。ふたりともちっとも動かない。

 

 「「きゅぅ・・・」」

 「Oh my god!!大変です!!どうしましょう!!」

 「落ち着け。のびてるだけだ」

 「急いで手当しないと。あっちにホテルがあるからそこで・・・」

 「いや、アクティブエリアってとこに診療所があるらしい。そこに行こう」

 「二人を連れて行かないと!ボクがアクトさんを・・・」

 「スニフにゃ無理だろ。研前、虚戈を頼む。俺が皆桐を・・・よっと。はあ、まさか皆桐まで搬送(はこ)ぶことになるとは」

 「大活躍だね、須磨倉くん」

 「一銭にもならねえんだろ・・・俺が泣きてえよ」

 

 ハルトさんはアクトさんをうつ伏せにして、うでとひざで作ったリングに頭を入れて担ぎ上げた。自分より大きなアクトさんを軽々と持ち上げて、急いで走り出した。さすが“Ultimate Smuggler”だ。ケガした人のはこび方まで知ってるなんて、頼りになるなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートを潜ると、広々としたエリアが現れた。大きな建物が一つだけあって、その向こうには広いグラウンドがあった。サッカーもベースボールもラグビーもテニスもできそうだ。手前の建物は色んなスポーツセンターが一緒になってるみたいで、ハルトさんはその中に真っ直ぐ入っていった。

 中は長いろうかといくつかのブースに分かれてるらしくて、ボクたちが入ったのはジムにつながるブースだ。ジムに向かう途中でクリニックへの道があって、そこの奥にはセーラさんがいた。一度に現れたボクたちを見てびっくりしたみたいだ。

 

 「まあ、どうしたのみんな?そんなに血相変えて」

 「虚戈と皆桐がぶつかってのびたんだ。手当するからベッド貸してくれ」

 「もちろんよ。待ってね、いま氷枕持ってくるわ」

 「うう・・・セーラさん!ボクにも何かお手伝いさせてください!」

 「スニフくん?そうね・・・じゃあ、二人を下着だけにしておいてくれる?体を楽にさせなくちゃいけないから」

 「わかりました!」

 「虚戈ちゃんは私がやる。男子は覗いちゃダメだからね」

 「Of course!!」

 「へいへい」

 

 セーラさんがクリニックを出て行った後に、ボクとハルトさんでアクトさんの服を脱がせた。シャツとゼッケンとショートパンツだけだったからすぐに終わった。戻って来たセーラさんはちょっと顔を赤くしながら、アクトさんとマイムさんをウェットタオルで手当してくれた。

 

 「はあ・・・これで一安心か」

 「もう、なんでこんなことになっちゃったの?須磨倉くんもいたのに」

 「俺が軽率だったというか、虚戈がアホだったというか、皆桐がファインプレーだったというか」

 「皆桐くんは腕と脚も擦りむいてるじゃない。転んだの?」

 「実はガクガクジャラジャラで」

 「かくかくしかじか、だよね?」

 「それでした!」

 「漫画じゃあるまいし、それじゃ分からないわよ」

 「えっ!?ジャパニーズはこれでだいたいわかるんじゃないんですか!?」

 「漫画の読み過ぎだお前」

 

 うーん、ジャパニーズはむずかしいしミステリアスだ。

 

 「虚戈さんが街灯に登って出口を探してくれてたんだけど落っこちちゃって、皆桐くんがとっさに下敷きになったの」

 「なるほどね。もう、二人とも動けるのは分かるけど無茶しちゃダメじゃないの」

 「いえ、マイムさんがおっこちたのはハルトさんがスカートの中をのぞいたからです」

 「どういうことかしら?」

 「覗いたんじゃねえよ!街灯なんか登ったらイヤでも見えるだろ!」

 

 テーマパークでのごたごたを話すと、セーラさんは呆れてた。みんなが自分にできることをしただけなのに、どうもこう上手くいかないものだなあ。

 

 「もう、しっかりしてちょうだい。スニフくんも須磨倉くんも、男の子でしょ。女の子を危険な目に遭わせちゃダメじゃない」

 「めんどくさいです」

 「面目無い、でしょ?」

 「それでした!」

 「ああ、間違えたのね。いきなりスニフくんに拒絶されたのかと思ったわ」

 「ごめんなさい。ニホンゴ、ベンキョーします」

 「んなことより、この辺りに脱出口はあったのか?」

 「ないわ。いま相模さんと下越くんが詳しく調べてくれてるけど・・・」

 「いよーーーっ!!相模いよ!!探索を終え只今舞い戻りましたよ!!」

 「腹減ったなあおい!!お前ら何が食いたい?なんでも作ってやるよ!」

 

 セーラさんにしっかり怒られて、ボクとハルトさんはどっちも反省した。でもボクらに責任ってあったのかな?なんだかよく分からないけど。

 で、セーラさんと一緒にペアを組んだいよさんとテルジさんが、タイミングを合わせたみたいに戻ってきた。どっちもクリニックいっぱいに響き渡る大声を出して。

 

 「二人とも大きい声出さないって約束したでしょ!」

 「此は失礼いたしました!いよっ?其方はスニフさんに研前さん、須磨倉さん虚戈さん皆桐さん!此は此は揃いも揃っていかがなすったんです!?何か見つかったと見ましたよ!」

 「なんだなんだ!?出口見つかったのか!?よっしゃ!出て行く前に祝賀会だ!腕が鳴るぜ!!パーティメニューといったらやっぱ」

 「いや、こいつらの手当しにきただけだ」

 「「なんじゃい!!」」

 「ふふふ、面白いね。二人とも」

 「もう、静かにって言ってるのに・・・」

 「楽しそうな気配ッ!!マイムふっかーつ!!」

 「もっとうるさくなりそうなのが復活しやがった!!」

 

 二人がいるとやっぱりにぎやかになるなあ。せまいクリニックだからすごくうるさい。それにつられてマイムさんも起きちゃうし、もう手当てどころじゃないや。

 いよさんとテルジさんはアクティブエリアを調べてたけど、結局何も見つからなかったらしい。広いグラウンドとプールやジムが一つになったこの建物くらいしかなくて、とにかく運動するのに困ることはないってだけ分かった。

 

 「そしてなななんと!此のアクティブエリアにはもう一つ目玉施設がァ御座いましたぁ!!」

 「そう!目玉だぜ!」

 「目玉?なんだかきもちわるそうですね」

 「注目すべきってことだよ」

 「この施設の二階見たか?なんとそこにはなあ、温泉があったぜ!!」

 「いよーーーっ!!此ぞ日本人の心!!広い湯船で裸で語らえばァ!!心身ともに癒され和むことでしょう!!いよっ!!」

 「FanTAstic!!オンセンですか!ボク知ってます!ニッポンジン毎日オンセン入ります!こなたさんこなたさん!」

 「行きたいんだね。でも着替え持ってきてないし、今は探索でしょ?」

 「あう・・・そうでした。ごめんなさい。でもオンセン行きたいです」

 「時間あったら、後で行ってみようね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つい舞い上がっちゃったけど、ボクたちはいま出口を探してるんだった。のんびりオンセンに入ってるヒマなんかない。でももし、もう少しこの場所にいることになったら・・・その時は入ってみたいな。

 まだのびてるアクトさんはセーラさんとハルトさんに任せて、ボクたちはまた別のエリアの探索に向かった。あと残ってるのは、マイムさんがモクモクって言ってたエリアだ。ゲート近くに来てみると、他のエリアとはちがうフインキだった。

 

 「なんだろう、ここ。モノクマはテーマパークって言ってたよね?」

 「きっとこういうテーマなんですよ!・・・たぶん」

 

 ボクたちの前のゲートは、古いシャッターを思わせるメタリックでシミやサビだらけだった。テーマパークにはにあわない、ゴーストタウンかなにかにあるようなさびしい感じがした。

 

 「ダイジョブです!何かあってもボクがこなたさんも守りますから!」

 「ふふふ、ありがとう。頼りにしてるね」

 「お任せです!」

 

 はなればなれにならないように、しっかりこなたさんの手をにぎってエリアに入った。あちこちに伸びた道はグネグネで見通しが悪くて、頭の上を太かったり細かったり長かったり短かったり、色んなパイプがクモの巣みたいにからまってた。

 並んでる建物はどれもこれもメタリックで、モクモクけむりを吐いてはうなってる。アトラクションのエントランスみたいなかざりや、ガイドなんかもない。ここは、あそぶための場所じゃない。

 

 「なんでこんな所に工場群が?」

 「へんなテーマパークですね」

 「奥の方も調べてみよう」

 「はい。こなたさん、ボクからはなれちゃダメですよ」

 「うん」

 

 なんとなくデンジャラスな感じがして、こなたさんの手を引きながらそっとそっと奥に進んでく。どこまで行っても同じような景色で、道が曲がりくねってるせいでまるでフャクトリーラビリンスだ。せまくなったり広くなったりあがったりさがったり、どれくらい歩いたんだろう。

 

 「うん・・・?」

 

 ファクトリーラビリンスの先にいきなり現れたのは、見るからにもう使われてない、捨てられた建物だった。サビやカビやツタだらけで鉄骨はむき出し、なぜか回り続けてる見上げるほど大きなファンがキイキイ音を立てて、今にも崩れそうだ。

 

 「廃工場だね」

 「こんなところにこんなものが」

 「入ってみる?」

 「えっ!?ダ、ダイジョブですなんですか?」

 「何かあっても、スニフくんが守ってくれるからね」

 「へっ!?あ、ああそうです!もちろんです!・・・何もなければいいけど」

 

 そうだった。ボクが弱気になってちゃいけない。さすがにこれがくずれたら守り切れないかもしれないけど・・・何があってもボクがこなたさんを守るんだ!

 ドアもこわれて倒れてるから、そのまま中に入れた。くずれたかべの隙間から陽が差し込んで、床に散らばったガラスがキラキラ反射する。それでも中は薄暗くて足下に気を付けないと、変なものを踏んだり落とし穴に落っこちたりしちゃいそうだ。

 

 「こ、こなたさん。気を付けてくださいね。ぜったいにボクからはなれちゃダメですよ」

 「うん。それにしても、ここ何の工場だったんだろうね」

 「テーマパークの中にあるので、ただのかざりだと思います」

 「でも他の工場はちゃんと動いてたよ。何かを作ってたんだよ」

 「う〜ん・・・なんでしょう」

 

 かべを見ても落ちてるものを見ても、ここが特別な何かとは思えない。むしろはじめからスクラップになったファクトリーを作ったような・・・パークの演出なのかな?

 中を探検してみても見つかるのはほこりとゴミばかり。階段をのぼってろうかを曲がると、広い部屋に出た。真ん中に仕切りがあって奥の方が見えない。キイキイいう音が大きくなったから、たぶんさっきのビッグファンのある部屋なんだろう。

 

 「何もありませんでしたね。ホッとしました」

 「おばけ屋敷みたいだったね」

 「こなたさんっておだやかでマイペースな人ですね。そんなところもステ・・・ッ!?」

 

 やっぱりこなたさんはいつでもボクの心をおだやかにしてくれるステキな人だ。こんな不思議なところもホラーハウスみたいって楽しむなんて、ボクにはできない。また心をいやしてもらおうと手を繋いだままこなたさんの顔を見上げた。でもそのとたん、ボクの体は石になったみたいに動かなくなった。

 こなたさんの肩の後ろ、まるでそこに乗っかってるみたいに、陰気でおそろしい女の人の不気味に笑う顔が浮かび上がって・・・!!

 

 「キャアアアアアアアアアアアアアッ!!?」

 「えっ?どうしたの?」

 「こ!こここ、こなたさん!うし、うしろろろ!!!」

 「え、後ろ?・・・ああ、荒川さん」

 「ふふふ・・・一体私はどっちに突っ込めばいいのだ?」

 「へ・・・エ、エルリさん?うわああっ!こ、こなたさん!ごめんなさい!」

 

 思わず大声を出しちゃったけど、こなたさんはものすごく冷静にそのオバケと話をしてた。オバケというか、オバケに見間違えたエルリさんだった。ボクとしたことが、女の人をみて悲鳴をあげるなんて、こんな失礼なことはない。それに気付いたらこなたさんに飛びついてた。

 

 「騒がしい子供だ。お前たちここで何をしている?」

 「探索に来たんだ。荒川さんたち、このエリアにいたんだね」

 「あ、あれ?でもワタルさんやハイドさんといっしょだったんじゃ?」

 「そうだな。ならばなぜ私がここに一人でいるか。その理由はたった一つだ。たった一つの単純な理由だ・・・はぐれた!」

 「迷子になっちゃったんだ」

 「この複雑に絡み合い分かれては出会いまた分かれる道、どこへ行っても同じような景色の連続、方向感覚さえ奪う密集した工場・・・このエリア自体が迷路になっているようだ」

 「一つのアトラクションなわけですね」

 「困っているところにお前たちがこの廃工場に入っていくところを見たから、追いかけてきたというわけだ」

 「だからってあんなオバケみたいに出て来なくても・・・」

 「オバケみたいにしたつもりはない」

 

 エルリさんって本当にまとまって行動ができないんだなあ。ペアを組むときもワタルさんに声をかけられるまで一人でオロオロしてたし、きっとワタルさんなら迷路で女の人を置いてくなんてしない。それでもはぐれるなんて・・・ワタルさん今頃心配してるだろうな。

 

 「この廃工場はあの巨大換気扇がある以外は特徴もない。工場だらけで視界も悪いから目立ちもしない。長居は無用だな」

 「なんだかオバケも出て来そうだよね」

 「確かにそうだな。昼間でもこの暗さだ。夜などうじゃうじゃ出そうだ」

 「ええ!?エルリさんオバケ信じるですか!?」

 「霊を科学的に説明しようとする説はいくつかある。バカげていると否定していては進歩は望めないぞ少年。たとえ実体がなくとも概念として存在していることは間違いないだろう」

 「スニフくん、怖いの?」

 「こ、こわくなんかありません!オバケなんてヒカガクテキですから!」

 「ふふふ・・・非科学こそ科学の糧だ、少年。古代人が鉄を金に変えようと夢をみた結果、実践的化学実験技術は飛躍的に進歩した。15世紀の冒険家たちは黄金の都を求め我々の住む星の姿を明確にした。16〜17世紀の宗教家は神の居た世界を知ろうとして、太古の地球の姿を知った。18世紀には無限のエネルギーを夢に描いて熱力学の発展に貢献した。20世紀以降、人類は時を超越しようとして宇宙の仕組みが明らかになりつつある。いいか?人は夢を見る生き物だ。そして科学は夢とともに進化してきた。非科学的な夢が、現実の科学を進化させるのだ」

 

 たかがオバケでそこまでの話になるのかな。エルリさんは吊り上がった口をさらに細く開いて、にやける口元をこらえながら語る。確かにそうかも知れないけど、でもやっぱりオバケなんているとは思えないし、正直いてほしくないかな・・・。

 

 「数学も同様だろう?0という発明や虚数の発見は、それまでの概念を覆す偉大なものだったはずだ」

 「ちょっとちがう思いますけど・・・」

 「ごめんね、私には難しい話は分からないけど、とにかく荒川さんはこれからどうするの?」

 「これから?ふむ・・・そうだな。迷宮を抜け出すだけなら右手を壁について歩けばいい。合流はとうに諦めたから、私は一足先にあの広場に戻っている。もし奴らに出会うことがあったらそう伝えてくれ」

 「ダイジョブかなあ」

 「星砂はこの迷宮の中心に行くと言っていた。中心などがあるのかは不明だがな」

 

 女の人を一人で行動させるのは不安だけど、だからといってワタルさんとハイドさんが二人っきりになってるのを放っておくこともできない。エルリさんは一人で戻れるって言ってるし、取りあえずはいいかな。廃工場を出て、エルリさんは壁伝いに元の場所に戻っていった。

 

 「では頼んだぞ」

 「エルリさんも気を付けて」

 「ふふふ・・・この壁が周囲から独立していないことを祈ろう・・・」

 

 なんかぶつぶつ言ってた。ボクたちは二人を探すことにした。でも探すと言っても、二人がどこにいるか見当がつかない。テキトーに歩き回ってて会えるほどこの迷宮はせまくない。どうやって中心に行くんだろう。そもそも中心なんてあるのかな?

 

 「星砂くんはどうやって中心があることを知ったんだろうね?」

 「そうだ!マップを見たんじゃないですか?」

 「このエリアは詳細が見られないみたいだよ。やっぱり迷路だから」

 「それじゃあどうやって?」

 「適当に進んでみようか。運が良ければ見つかるかもよ」

 「Ah!そうですね!なんてったってこなたさんは“Ultimate Lucky”ですもんね!」

 「どうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こなたさんがいればラビリンスなんてなんともないや!そこからボクたちは、こなたさんのカンに、いや、こなたさんの“Ultimate Lucky”に任せて進んだ。来た道を戻ったり曲がったりくねったり、迷ってるような迷ってないような、変な感じのままラビリンスを歩いた。なんだかだんだん頭の上のパイプが少なくなって来たみたいだ。

 どれくらい歩いたかな。曲がり道が多くて本当の長さよりも長く歩いてたような気がする。最後にこなたさんが何かのスペルで決めた道に入った。

 

 「なのなのな、こっち」

 「ニッポンのチュージングスペルもマスターしてるなんて、さすがこなたさんです!」

 「こんなのただの当てずっぽうだよ。こんなんで迷路の真ん中に行けるはずが・・・」

 「着きました!」

 「え?」

 

 曲がった先の道は、分かれ道もわき道も行き止まりもない一本道だった。その向こうには、ぎちぎちに寄ってた工場たちがそこだけ避けるように広くスペースがあった。そして、その隅っこには、エルリさんが言ったようにワタルさんとハイドさんがいた。でもなんだか様子がおかしい。

 

 「悪い話ではなかろう?」

 「お前は何を言ってんだ!俺たちは敵になる必要なんかない!力を合わせてこの状況を打開するんだろ?」

 「完全なるものに不純物はいらん。今回は妥協してやろうと・・・ん」

 「ワタルさん!ハイドさん!そんなところで何してるんですか?」

 「スニフ、研前・・・」

 「ちっ・・・、まあいい。よく考えておけ」

 「あれ?ハイドさんどこへ」

 「邪魔だ、子供にアンテナ」

 「ボクは子供じゃないです!ハイスクールスチューデントで」

 「ふんっ」

 

 ボクの話もろくに聞かないまま、ハイドさんは怒ったように行っちゃった。なんなんだろう。残されたボクとこなたさんは、取りあえずワタルさんの話を聞くことにした。

 

 「お前ら、どうやってここに?」

 「こなたさんの“Ultimate Lucky”です!」

 「そんな、偶然だよきっと」

 「運だけでこんな迷宮をクリアするなんて、すごいんだな。“超高校級の幸運”って」

 「たまたまだってば」

 「ハイドさんと何のお話してましたか?ボク、気になります!」

 「いや、あいつに協力を持ちかけられてな。よく分からなかったんだが・・・なんか妙なこと言ってたんだよ」

 「協力?妙なこと?」

 

 意外だ。ハイドさんがワタルさんに協力を頼むなんて。こんなかくれた場所でやるってことは、何かはずかしかったのかな。

 

 「さっきのモノクマとかいうやつは、必ず俺たちに何かをする、或いはさせる。だからもしあいつが何かしらのゲームを強制して来たら、こっそり手を組もうって話だ。変だろ?」

 「ゲーム?なんでしょうか」

 「さあ、実際あいつがなんなのかも分かんないから、今は信じられなかった。それに協力するなら俺たちだけじゃダメだ。全員が一致団結しないと。それで少し言い合いにな」

 「星砂くんは、何か知ってるのかな?」

 「推理らしいぞ。“超高校級の神童”にかかればなんでもお茶の子さいさいだと」

 「ひのほっぺ!ですね!」

 「へのカッパ、だよ」

 「それでした!」

 

 モノクマがボクたちに何かを?そうなのかな?そういえば言われるがままにモノクマランドを歩いてるけど、考えてみればなんでボクらはここにいるんだろう?あのモノクマってクマの目的はなんだろう?

 そんなボクの考えをかき消すように、これ以上ボクたちが会話するのを許さないように、あのへんてこりんな音楽が流れた。もちろん、さっきのダミ声も一緒だ。

 

 『えー、オマエラ!探索は順調でしょうか!順調に進んでるオマエラも、まだまだのオマエラも、噴水広場に集合だ!いっそげ〜!!』

 

 どっちでもいいってことだ。フンスイヒロバ、最初にボクらが集まったところだ。それじゃあ、早速行こう。

 

 「ってあ!星砂の奴置いていきやがった!どうすんだよ・・・道順覚えてないぞ・・・」

 「大丈夫だよ雷堂くん。壁に右手を当てて歩けば、出口まで行けるんだよ」

 「そうなのか?なんでだよ?」

 「知らない。荒川さんが言ってた」

 「ボクが説明します!ロジカルにね!」

 

 壁に手をついていくと必ず出口に着けることを、歩きながら色んな言い方で証明した。時間が余ったからトレモー・アルゴリズムも説明して、こんなラビリンス、スタミナさえあれば誰だって解けるってことまで証明した。こなたさんもワタルさんも納得してくれたみたいだ。Mathmaticsってすごいでしょ!

 

 「と、いうわけでオールレングスの倍歩けば、必ずゴールできるんです!Q.E.D!」

 「なあんだ。要はしらみ潰しじゃんか」

 「しらなみともし?」

 「そんな風流なものじゃないよ。あ、でもちょうど出られたね」

 「どんなもんです」

 「えらいねスニフくん。ありがとう」

 「はい!ありがとうございます!」

 

 えっへん、と胸を張ってボクはワタルさんとこなたさんを出口まできちんと案内した。それでもってこなたさんにホメられた!That's great!!

 

 「それじゃ、噴水広場に急がなきゃね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広場に着いたのはボクたちが最後だった。エルリさんもハイドさんもとっくに広場についてて、みんなボクたちを待ってたみたいだ。

 

 「悪い、待たせた」

 「で、なんなの?結局、出口見つかったの?たまちゃんもうここ飽きたんだけど」

 「各エリアを隅々まで探したけど、本当に外に通じる場所はなかったみたい。発見はいろいろあったよ。少なくとも、ここでしばらく生活してくのに困らない設備が整ってるよ」

 「いやいやいや!マジでここで暮らすつもりかよ!?」

 「まだまだ未知のエリアに通じるゲートも散見された。この“セカイ”はかなり広そうだ・・・フフフ」

 「こ、こんなことして、さっきのなんとかクマは何をする気なのかしら・・・?なんだか怖いわ」

 「する気、ではない。させる気だ」

 

 それぞれの探索の成果を話し合うボクたちは、このモノクマランドに出口がないということを分かち合った。エルリさんが言うように、ゲートが閉じてるエリアの向こうにあるのかも知れない。じゃあ、ボクたちはここでどうすればいいんだろう?

 そんなことを考えてたら、またあの音楽が聞こえてきた。調子外れでまとまりがなく、音と音がケンカしてるノイジィな音楽。そして水のスクリーンは当たり前のように浮かび上がってくる。

 

 『うぷぷぷぷ!オマエラ!探索お疲れ様!どうだった?これで分かったと思うけど、オマエラには出口なんかないの!』

 「おいコラ!こんなことしてただで済むと思うなよ!なんのつもりだ!」

 「お、おい、落ち着け城之内。あまり刺激しない方がいい」

 『文句も不満もクレームも受け付けてませーん!ここがオマエラの“セカイ”なの!オマエラはここで過ごしていくの!ずっとずっとず〜〜〜〜っと!死ぬまでね!』

 「は?」

 

 なにかのついでみたいにモノクマが言った言葉に、ボクたちはあり得ないと思っていた、思おうとしていた現実を叩きつけられた。ずっと?死ぬまで?ここで暮らしていくの?この、モノクマランドで?それを考えてて、理解したとたんに、どす黒い感情が心の底に広がった。これは・・・絶望感だ。

 

 『みんな一度は考えたことあるよね!遊園地やリゾート地に住んでみたいって!その夢が、いま叶いました!おめでとう!うぷぷぷぷ!』

 「バカバカしい。一生ここで暮らせだと?そんな無理が通ると思うな!」

 「そーだそーだ!早くマイムたちをおうちに帰せー♠︎おいしいご飯にポカポカお風呂、あったかい布団でねむらせろー♠︎」

 『文句や不満は受け付けないって言ったでしょ?まったく人の話を聞かないんだから』

 「お前だよ!」

 「いいからさっさと本題に入れ」

 「本題?」

 

 いきなりこんなわけわからないところに閉じ込められて、みんな怒ったり怖がったり色々なのに、ハイドさんはなんだか落ち着いてる。そして、本題に入れと言った。本題ってなんだ?一生ここで暮らす以上にショッキングなことがあるの?

 

 『うぷぷ、それじゃあ本題に入りましょうか』

 「いよっ!?今のが本題では無いのですか!?」

 「閉じ込められて出口がなければ、助けを待つか一生ここで暮らすかの二択は必然だ。ただの事実の言い換えに一喜一憂する凡俗共には分からんだろうがな」

 「本題ってなんすか!」

 『オマエラの中には、どうしても家に帰りたいって甘えん坊もいるみたいだね。だからボクはそんなオマエラにぴったりなプランを提案しまーす!その名も“失楽園”制度!』

 「しつらくえん?」

 「ロスト・パラダイスですね。アダムとイヴが知恵の実を食べちゃって、神様にエデンの園を追い出されたお話です」

 「すごい、よく知ってるねスニフくん」

 「ふふん!このくらいジョーシキです!」

 「つまり、このモノクマランドという楽園から追放、脱出できるわけか」

 『失楽園っていうのはオマエラ知ってる?旧約聖書の神話で、アダムとイヴが禁断の果実を食べちゃって、神様から楽園を追放されたって話だね!その神話に準えて、オマエラが楽園を出て行くための制度です!』

 「いま聞いたわ!」

 

 なんだかこった言い方だけど、イヤな予感がする。このモノクマランドっていう恐ろしい場所を楽園と言ったり、脱出することを追放と言ったり。まるでボクたちは、このモノクマランドにいた方が幸せみたいじゃないか。だとしたら、禁断の果実で罪を背負うってことが意味するものは・・・。

 

 『要するにオマエラは、罪を犯せばいいのさ!楽園から追放されるほどの大罪を!』

 「罪ねえ。含みがある言い方じゃあないかあ」

 「っかあーーー!あのなお前ら!!さっきから俺にはひとっつも分かんねえぞ!!つまるところどうすりゃこっから出られるんだよ!」

 『とは言え、ボクはサハラ砂漠のように広い心と、マリアナ海溝より深い慈しみを持ってるからね。物を盗むとか嘘をついたとかいう程度では追放なんてしません。ただ、ボクが許せないのは二つだけ。創造主であるボクに逆らうこと。そしてもう一つ、この楽園を追放されるに相応しい大罪は』

 

 そこでモノクマは、必要もないのに大きく息を吸うマネをして、吊り上がった口をますます鋭くして言った。

 

 『人が人を殺すことだよ』

 

 人が人を殺す、それが楽園を追放される大罪。言葉だけみれば当たり前のことだ。だけどボクたちにとってそれは、全くちがう意味を持つ。このモノクマランドを出て行きたければ人を殺せ、モノクマはそう言ってるんだ。

 

 「なるほど」

 「な、なんだそれ!ボクたちに・・・人を殺せって?そんな・・・!そんなこと・・・!」

 「ちょっとウソでしょ!?ふざけんないでよ!そんなことできるわけないじゃん!」

 「人を殺しちゃいけないんだよっ♠︎マイムはそんなことしないからね♠︎」

 『だからオマエラ、仲良く、平和に、お互いを尊重しあって共同生活を送っていきましょう』

 「そ、そんなこと・・・!そんなことさせないっす!」

 「そうだそうだ!」

 

 いつの間にかチープな神様のコスプレをしたモノクマが、穏やかな言い方をする。だけどそれは逆に、ボクたちに殺人をさせようとしているだけだ。ここにいる、たった17人の中で。

 そんなボクたちの中でひときわ大きな声でモノクマに食いかかったのは、意外にもアクトさんだった。もう体調はよくなったみたいで、青ざめて震えながら、スクリーンのモノクマに怒った。

 

 「ひ、人殺しなんて・・・自分たちはぜ、絶対しないっす!それに自分たちを誘拐して・・・いまに警察や希望ヶ峰学園が助けに・・・」

 「皆桐の言う通りだ!そのうち助けが来るに決まってる!」

 「希望ヶ峰学園を敵に回したのだ。お前は長くない。潔く覚悟を決めた方がいいだろう」

 「バーカバーカ!」

 

 声がだんだん震えを増して、涙も混ざってきた。そんなアクトさんをサポートするみたいに、ワタルさんやテルジさん、レイカさんが声をあげる。

 

 「人を殺してまで出ようとなんて・・・そんな怖いこと考える人は、いないわよね?」

 「んまあ一世一代の決断になるだろうねえ」

 「でもその条件って、たまちゃんとかスニフくんとか不利すぎない?きっと本気じゃないんだって」

 『でも、もしオマエラの中に誰かを殺したいっていう人がいたら、いつでも相談においでね。ボクはオマエラのことを無碍にした入りはしないよ。いろいろ教えてあげるから!』

 「自分は人殺しなんか絶対しないっす!!お前なんかの言いなりには絶対ならないっす!!」

 『え?』

 

 そう叫んだアクトさんの言葉に、今までボクたちの声なんか聞こえてないみたいに勝手に話を進めてきてたモノクマが、明らかにリアクションした。ただそれだけのことなのに、ボクたちはそれだけのことに背筋がぞわりとした。ほんの少し、さっきよりモノクマの赤い目の光が強くなってるような気がする。

 

 『いま、なんか言った?皆桐亜駆斗くん?』

 「えっ・・・?な、なんすか・・・!?」

 『さっき言ったはずだよ。ボクは優しさと慈しみを持ってるけど、ボクに逆らうことは許さないって。それなのに・・・それなのにそんなことを言うのか!!』

 「い、いや・・・うっ!?」

 

 モノクマが爪を立てて怒る。それと同時にメタリックな音が聞こえた。アクトさんがぎょっとして足下を見ると、池の前の植え込みから足を押さえるアームが伸びてきてた。それにつづいて、アクトさんのうでを、こしを、首を、体のあちこちをつかむアームがのびてきてた。

 

 「ッ!?」

 『ボクに逆らうヤツには・・・おしおきだよ!!』

 「な、なんすか!!はなせ!!はなせえええええええええええッ!!!」

 『オマエラよく見ておきなよ!!ボクに逆らうとどうなるか!!』

 「ッ!?」

 

 スクリーンの中でモノクマが笑うと、どこからともなくハンマーを取り出した。叩くと軽い音がするおもちゃだ。そしていつの間にか目の前にあった赤いボタンを、そのハンマーで思いっきり叩く。スクリーンいっぱいに映し出される、アクトさんそっくりなドット絵のキャラクターが、同じくドット絵のモノクマにひきずられていった。

 

 「はなせッ!!はなせえええええええッ!!!」

 「おしおきターイム!!」

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 どこからともなく数え切れないくらいのアームが現れた。その先にある黒いものたちは・・・。ピストル、ハンドガン、マシンガン、アサルトライフル、カービン、マスケット、スナイパーライフル、ショットガン、アンチマテリアルライフル、火縄銃・・・シンプルで、それでいて強力な殺意のかたまりたちが、皆桐亜駆斗を狙う。何が起きてるのか分からない。なのに次に起きることは簡単に想像がつく。だが、そこにいる誰も信じられなかった。

 

 「ひっ・・・!い、いやだ!!いやだあああああああああああああッ!!」

 

 パンッ、と乾いた音がした。その一発は皆桐亜駆斗の頬を掠めて遠く彼方に消える。

 実感を伴う強烈な痛み。硝煙の揺れる銃口と、未だ沈黙する数々の銃口。心臓の鼓動が早く大きくなる。まるでこれが鳴り納めだとばかりに激しく。溢れ出てくる涙が頬を伝って逃げていく。強張る体は無力で足掻くことも許されない。

 ほんの一瞬だった。はじめの一発を合図に他の銃口は一斉に火を吹く。

 

 「ッ!!!」

 

 豪雨のように連続する銃声とともに、皆桐亜駆斗の頭部は激しく仰け反る。強い衝撃が何度も打ち付けられる。その度に顔が欠け、割れ、折れ、外れ、砕け、壊れ、崩れ、潰れ、破れ、弾け、裂け、削られていく。そこになにものの存在も許さないがごとく、ありとあらゆるものを破壊していく。

 全ての銃口から硝煙が昇る。標的は完全に消滅し、赤黒い肉塊と血の滴りとなって地面に散らばった。首から上を毟り取られたような残骸は、かつて一体だった血肉の上へ無造作に捨てられた。

 

 

 

 

 

 目を伏せる時間すらなかった。スクリーンの向こうでモノクマが笑って、アクトさんは処刑された。粉々になるまで、ほんの少しの欠片も残さないくらいの連射で殺された。今、目の前で起きてることを理解できなかった。アクトさんの体が落ちてきた音、血と火薬の臭い、それらがボクらに、この現実を強烈に突きつける。

 

 「うわああああああああああああああああああああああッ!!!?」

 「な、ななななっ!!?なんじゃこりゃああああああああああああああッ!!?」

 「み・・・皆桐・・・!!皆桐が・・・!!」

 「ウソだ・・・!!ゆ、夢だ・・・!!全部・・・悪い夢・・・!!」

 『これが、現実だよ』

 

 涙を流す人、ただ叫ぶ人、その場に倒れこむ人、気持ち悪そうにする人、だれもまともじゃいられなかった。たった今、目の前にいたアクトさんが死んだ。殺された。それを、だれも受け止めきれなかった。

 

 『他にボクに逆らうヤツはいるか?』

 「!」

 

 なんだこれ?意味が分からない。なんでアクトさんはこんなことに・・・!?モノクマに逆らったから?言うことをきかなかったから?たったそれだけで?それだけの理由でこんなひどいことを?それだけで・・・ボクたちは殺されちゃうの?

 

 『いないみたいだね。それじゃあオマエラ・・・』

 「?」

 

 スクリーンのモノクマは短く言ってカクンと力が抜けた。そして少しだけだまった。

 

 「とーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!!!」

 「!!?」

 

 いきなりの大声、そしてスクリーンの真ん中が、はげしい水しぶきと一緒に穴が空く。そして出て来たのは・・・。

 

 「オマエラ!素晴らしいコロシアイ・エンターテインメントを期待していますよ!」

 「ひいっ!!」

 「で、でたあああああああああああッ!!!」

 

 スクリーンからそのまま飛び出してきたような、モノクマそのものだった。アクトさんの体の上に着地すると、ずぶぬれになった体をふるって水を飛ばし、悪意に満ちた声と表情でそう笑った。

 

 「うぷぷ!!うぷぷぷぷ!!うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!」

 

 ここがどこなのか、モノクマはなんなのか、どうやったら帰れるのか。何一つ解決してないのに次々とボクたちは苦しめられる。もう何をどうすればいいのか、何がどうなってるのか、何も分からない。それでも一つはっきりしてることがあった。この、頭も心もうめつくす途方もない絶望感だけは。




ダンガンロンパカレイドは平和な創作論破。誰も死にません。

と言ったな。あれはウソだ。
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