ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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2日目前編

 

 シーン13『2日目の朝はホテルバイキング』

 

 はっ、と自然に眼が覚めた。なんだかすごく幸せな気持ちだった。微睡みながら昨日のことを思い出していた。みんなでハワイに来て美味しいもの食べてビーチで遊んで観光して・・・全部が1日の出来事とは思えないくらい充実してて、全部夢だったんじゃないかと思えてくる。だけど、ふかふかのベッドと見慣れない天井のおかげで、あれが現実なんだって実感が持てた。

 今、何時だろう。集合時間は何時だったっけ。ちょうど良い感じにクーラーが効いた寝室で、雲みたいなベッドの上で寝てると、簡単に二度寝してしまいそうになる。まだ時間早そうだし、このまま二度寝しちゃおうかな。そう思って寝ようとした瞬間──。

 

 「朝だぞ起きろー!!」

 「っ!ふんっ!」

 「うげっ!?ぎゃーっ!!あでえ!!」

 「な、なになになに!?」

 

 いきなり虚戈さんの楽しそうな声が聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には私の頭上を虚戈さんが吹っ飛んで壁に激突してた。虚戈さんが飛んできた方を見たら、ベッドの上で極さんが片足と両手を挙げてて、すぐに立ち上がって虚戈さんに向き合った。なんでファイティングポーズ取ってるの?

 

 「なんだ、虚戈か。紛らわしいことをするな」

 「レイカひどいよー♠マイムは起こそうとしただけなのにー♠」

 「寝込みを襲われたら誰だって応戦する」

 「寝込みを襲われて巴投げできる人なんか世界中でレイカだけだよ♣」

 「何事だ朝から・・・騒々しい」

 「Mumble(むにゃむにゃ)・・・」

 

 どうやら先に起きてた虚戈さんが極さんに飛びついて起こそうとしたのを、極さんが咄嗟に巴投げした瞬間に私が起きたらしい。朝一番から情報量が多い。二人のごたごたで川の字になって寝てた荒川さんとスニフ君も起きて、結局この騒ぎでみんなすっかり眼が覚めた。

 

 「スニフ君おはよー♡寝起きのスニフ君あったかーい♨」

 「むぎゅう」

 「今は何時だ?」

 「まだ6時だよ。虚戈さんずいぶん早起きだね」

 「もうマイムはビーチで朝のダンスをしてきたんだもんね☆見てこれ!ダンスしてたらお小遣いもらったから、コンビニでスパムおにぎり買ってきたよ♬」

 「早朝に人数分のスパムにぎりを買えるほど稼ぐお前のダンスはなんなんだ」

 「今日はハワイだからフラダンスにしたんだよ♬アロハ・オエ〜♡」

 「ほらスニフ君。今寝ちゃったら時間までに起きられないよ。顔洗おうね」

 「あうぅ」

 

 極さんたちがパジャマから着替えてるうちに、私とスニフ君は洗面所に向かった。シャワーを浴びてすぐに寝たせいで、みんな髪の毛がぼさぼさになってた。私も髪を整えてるけど、てっぺんのクセっ毛だけはもう諦めてる。

 

 「あばばばば・・・ぶぅ」

 「こらスニフ君!顔びしょびしょのまま行かない!こっち来て」

 「むがむが」

 「ちゃんと起きて自分で拭いてよ」

 「グッモー・・・です」

 

 冷たい水で顔を洗ったおかげで、ちょっと目が覚めたみたい。普段のスニフ君は朝から元気なんだけど、昨日はよっぽど疲れたのか、今日はまだ眠たいみたい。ようやく自分で顔を拭き始めたから、私が後ろ髪を整えてあげた。スニフ君の髪は柔らかくてサラサラしてる。少し濡らして櫛を通すと簡単に整ってうらやましい。

 

 「スニフくーん♡こなたー♬お着替え終わったよー♬」

 

 いつものだぼだぼセーターとは違う、半袖に蝶ネクタイの飾りがついたシャツを着た虚戈さんが洗面所に駆け込んできた。入れ替わりで私がベッドルームで着替えて、スニフ君はリビングルームの方で着替えた。今日は1日外で遊ぶ予定のはずだから、麦わら帽子でも被って行こうかな。着替えを終えると時計は6時20分を少し過ぎたあたりだった。そう言えば、ホテルの朝ご飯が6時半からって紺田さんが言ってたっけ。

 

 「ねえみんな、朝ご飯食べに行こうよ」

 「研前と行くと注目の的になるから恥ずかしいのだが・・・」

 「そう?確かに日本人の高校生は珍しいかも知れないけど、そこまで見られるかな?」

 「自覚がないのか」

 「ボクもBreakfast(朝ご飯)たべに行きたいです!」

 「じゃあマイムもー!」

 「仕方ない。我々も一緒に行くぞ、荒川」

 「くれぐれも自重してくれ。頼むぞ、研前」

 「何を?」

 

 極さんと荒川さんはなんだか気が進まないみたい。寝起きであんまり食欲がないのかな。私はもうぐっすり寝てお腹ペコペコだから、すぐにでも朝ご飯にしたい。

 エレベーターホールから見える朝のハワイは昨日観た夕景とは違って、でもこれもまたいい景色だった。昇ったばかりの太陽は眩しくていかにも暑そうだけど、早朝の景色はなんとなく色が淡くなったような、爽やかな雰囲気があった。エレベーターで1階に降りると、朝早くからジョギングや散歩をしてきた人たちがレストランの前に群がってた。ちょうど開店するタイミングで来たから、窓際の景色がよく見える席を確保できた。

 

 「早朝からサーフィンしてる人たちがいるよ。茅ヶ崎さんいるかな?」

 「昨日あれだけ遊び回ったのだ。まだ寝ているだろう」

 「私が席で待っているから、お前たちで先に取りに行ってこい」

 「Lady(女性)ひとりじゃあぶないですよ!ボクもいます!」

 「気遣いはありがたいが、ホテルの中だから大丈夫だ。それにスニフがいたらもしもの時に守りながら戦わなければならない」

 「極はなぜそんなに壮絶な事態を想定しているのだ・・・」

 「じゃあマイム一番乗りしちゃおーっと♬」

 「マイムさん!走っちゃダメですよ!」

 

 席の番を極さんに任せて、私たちは早速ご飯を取りに行った。ツタみたいにうねる金色の装飾に小さいライトが付いてて、ホットプレートや大きな丸皿に乗ったたくさんの料理を美味しそうに照らしてた。

 まずはサラダゾーンだ。粒の大きいコーンやぷっくり膨らんだミニトマト、絵の具で塗ったみたいに鮮やかな色のレタス、どれも瑞々しくて美味しそう。マヨネーズで和えたマカロニやカリカリのオニオンチップス、それから多種多様なドレッシングで野菜の味にアクセントを付ける。あとはブラックペッパーがかかったしっとりふわふわのポテトサラダ。こんなの自分じゃ作れないや。

 次はいい色に茹で上がったソーセージや照り焼きミートボール、フグ刺しみたいに並べられたハムが並ぶお肉ゾーン。その奥にはスクランブルエッグやゆでたまご、卵焼き、シェフがその場で焼いてくれるオムレツもある。ミニハンバーグからは肉汁が溢れてお鍋の底にたまってた。あれにパンを浸けて食べたら美味しいだろうなあ。そんなことを考えながらお皿に盛りつけてたら、もういっぱいになっちゃった。一旦席に持って帰って置いといたら、極さんが頭を抱えてた。そんなにお腹空いてるなら私が持ってきたの食べてもいいよって言ったけど、ただ静かに首を振った。

 お肉・卵ゾーンの次は和食ゾーンだ。やっぱり日本人の観光客が多いからこういうのもあるんだ。やっぱり朝は豆腐の入ったお味噌汁に塩鮭だよね。ご飯もお茶碗にいっぱい盛って、味付け海苔も忘れちゃいけない。3袋くらいかな。意外にぬか漬けはあったけど、納豆はなかった。お味噌汁に入れて納豆汁にしても美味しいと思ったんだけどな。冷や奴も食べよ。大豆だし。

 その後はいよいよパンゾーンだ。柔らかそうな食パンに始まり、サクサクのフランスパンにベーグル、クロワッサンにくるみパンにドーナツにプレッツェルまである。どれも美味しそうで食べ逃したくないから、スニフ君にホテルからバケットを借りてきてもらって、そこに一個ずつ入れていった。街のパン屋さんもこういう風にできたらいいのに。プレートだと乗り切らなくていつも大変なんだよね。

 最後にフルーツとヨーグルト、ゼリー、コーンフレークとかがあるデザートゾーンが待っていた。近付くだけでフルーツの甘酸っぱい香りが漂ってきて、宝石みたいに輝くゼリーにつられてつい手が伸びちゃう。ヨーグルトソースもたくさんあって、お皿が何枚あっても足りない。

 あとは忘れちゃいけない。暑いハワイの朝にはフルーツフレーバーのスムージーが欠かせない。和食があるから緑茶も欲しいし、牛乳も持って行こう。

 

 「こうなるから研前とバイキングに来るのは嫌だったんだ・・・」

 「朝からこの量を食べるのか・・・見ているだけで胃もたれしそうだ」

 「山盛りだー♡」

 「ぜんぶもってきたんですか?」

 「食べ逃したくなくて・・・ちょっと取りすぎちゃったかな」

 

 朝からこんなにたくさん美味しそうなのが食べられるなんて思わなかった。どれから手をつけていいか迷っちゃうくらい、いろんな種類の食べ物が目の前にある。こんな幸せなことないよ。

 

 「それじゃ、いただきまーす」

 

 朝はやっぱりお味噌汁からかな。しっかりお味噌と出汁がきいてて、味の染みたお麩が寝起きの胃袋を優しく広げていく。うん、決めた。最初は和食からいこう。ベジダブルファーストで、まずは小松菜のお浸しから。醤油と鰹節が、控えめながらじんわり滲み入る味わいをしっかり主張してる。続けて白米、シャケの切り身、味付け海苔、冷奴と、繊細で上品な和食で畳み掛ける。どれもこれも美味しくてお箸が止まらない。気がつくとあっという間になくなってた。もうちょっとずつ取ってくればよかったかな。

 

 「そのペースで食べ進めるのか」

 「またギャラリーが・・・頼むから研前は腹八分目までで抑えてくれ」

 「だいたいこれで八分目じゃないかな?」

 「ならせめて四分目にしてくれ」

 「ずっとお腹ペコペコになっちゃうよ!?」

 

 自分の分を取って浮かない表情をして戻ってきた極さんが、いきなりとんでもない提案をしてきた。今日1日は思いっきり遊ぶんだから・・・あれ?ご飯食べるんだったっけ?でもお昼までの分を食べておかないといけないのに。和食を全部食べて、次は少し味が濃いお肉と卵に手をつける。その後は一旦胃袋を休ませるためにサラダ、スムージーでさっぱりしたら、その後はパンで仕上げにかかる。

 

 「あ、みんなおはよ・・・研前ちゃん、朝からやってんね・・・」

 「どんだけ食うんだよ!?」

 「あれ、たまちゃんどこ行くの?」

 「恥ずかしいから他人のふり」

 

 食べ始めて少ししてから、他の部屋のみんなもレストランに来始めた。みんなバイキングの品数の多さに驚いてたみたいだった。それにしても、景色がいいのにどうしてみんな私たちのテーブルから離れて座るんだろう。

 

 「みなさま、おはようございます」

 「あ、紺田さん。おはよう」

 「研前様は今朝もすこぶるお元気そうで、結構なことでございます。ハイッ」

 「バイキングで全種類食べて元取ろうとする人いるけど、天然で実行するってもう人外の所業だと思うんだけど・・・」

 「福引の景品旅行だから元も何もないんだけどね。でもせっかくだから食べ逃したくないじゃん」

 「分かるけどできないのが人間なんだがな」

 

 みんなはみんなで好きな物を取ってきて朝ご飯を食べてるみたいだった。皆桐君は朝からがっつり揚げ物やお肉をいくつも取ってきてがっついてたし、鉄君や相模さんははやっぱり和食でキレイにまとめてた。正地さんはサラダやヨーグルトみたいな栄養バランスに気を遣った朝の胃に優しいメニューだったし、雷堂君はパンひときれとコーヒー一杯ってすごく簡素だった。あれでお腹減らないのかな。下越君はここぞとばかりに見慣れない南国のフルーツだとか、よく分からない料理を楽しそうに味わってる。いくつかのメニューを組み合わせて新しい料理を作ったりもしてる。

 みんなの食事も気にしつつ、最後にデザートのゼリーをつるんと食べおわってから、おかわりに立とうとしたら極さんに黙って止められた。なんだか悲しそうな目で見てきたから、ご飯のおかわりは止めて紅茶のおかわりを取ってきた。

 

 「おいしいねー♬」

 「Yummy(おいしいおいしい)

 「スニフ君、口にケチャップ付いてるよ。こっち向いて」

 「フフフ・・・少年はずいぶんと朝に弱いようだな。普段より年相応な部分が出ているのではないか?」

 「()()()()です」

 「たまたま、でしょ?」

 「それでした」

 「スニフ、お前それわざとじゃないか?」

 「わざとじゃないです!」

 

 他のみんなが食べおわるのを、紅茶を飲みながらのんびりと待つ。こうやって朝にゆったりとした時間を過ごせるのも、旅行に来たからこそだ。学園だったらいつも夜遅くまで課題に追われてるから、こんな時間にこんなに優雅な朝食は摂れない。いつもの食堂で朝ご飯定食を急いで食べて教室に向かってるはずだ。

 

 「ふぅ。バイキングなど久し振りだったが、腹八分目で止めるはずが九分目くらいまでは食べてしまうな」

 「もうおなかいっぱいです。Room(部屋)もどってねましょう」

 「食べてすぐ寝たら牛になっちゃうぞ♬スニフ君が牛になったらマイムがさばいて食べちゃうからね♡」

 「なんですかそれ?」

 「行儀が悪いからやめろという戒めだ」

 

 お腹いっぱい食べたら、まだ朝早いせいかちょっと眠たくなってきたかも。紅茶も飲んだんだけどな。今はまだ7時半前。紺田さんが昨日言ってた集合時間まで1時間以上ある。食後の運動と眠気覚ましに、ちょっとホテルの周りを散歩してくるのもいいかも。そんなことを提案してみる。

 

 「それはいいが、早朝とはいえ海外でひとりだけは危険だ。私もついて行く」

 「じゃあボクも行きます!」

 「私は遠慮しておこう。部屋で酔い止めと日焼け止めと胃薬と・・・」

 「エルリそんなにお薬飲んでるの?」

 「ハワイなど初めて来たからな。何があるか分からんから一通りのものは持って来た」

 「虚戈さんは?散歩行く?」

 「マイムはお部屋でもうちょっと寝よっかな☆」

 

 そういうわけで、私とスニフ君と極さんでホテルの周りを散歩することにした。おかわりをしに行ったスニフ君と虚戈さんが食べおわるのをゆったりと待って、私たちは一旦部屋に戻った。お皿を片付けに来たウェイターの人が目を丸くしてた。使いすぎたかも知れないけど驚くほどかな。

 部屋に戻ってポーチにハンカチとか財布を入れて、散歩用の軽い荷物を作る。スニフ君はカンカン帽を被って、極さんは日傘を準備して、それぞれ準備を終えていた。薬を飲んでる荒川さんと、もうベッドでいびきをかいてる虚戈さんを部屋に残して、私たちはホテルを出た。朝のハワイはまだ暑すぎないのが気持ちよくて、キラキラ光る海とこれから1日が始まるという街の雰囲気で、なんだかわくわくしてくる。集合時間まで、あともうちょっとだ。

 


 

 シーン14『登場!ハワイ三銃士!』

 

 「ハイッ!それではみなさま、揃いましたね!」

 「ビーチをひとっ走り行ってきたっすよ!朝の浜辺は気持ちいいっすね!」

 「マイムも朝のダンスしたよー♬ハワイはたのしーねー♡」

 

 昨日紺田さんに言われた集合時間、ホテルのロビーに私たちはいた。2日目は班行動で島のあちこちに別れて行動するから、それぞれがそれぞれの予定に合わせた荷物を準備してきてた。

 

 「本日は皆様が学園で選ばれた4つのコースに別れて行動いたします。ご自分の選ばれたコースはご確認いただいていますでしょうか?」

 「今から変更はできるのかい?」

 「もう予定を組んでしまっていますので、直前での変更は承りかねます」

 「まあ変えるつもりもないけどねえ」

 「ところで紺田(ガイド)

 「なんでしょう星砂様」

 「四班に分かれて行動と言うが、お前はどうするつもりだ?まさか4つの班全てを引率するわけでもあるまい」

 「“超高校級のツアーコンダクター”ともなれば分身ぐらいできんじゃね」

 「おいマジかよ!?すげーなてんちゃん!」

 「Wow(わお)!ニンジャですか!?」

 「残念ながら私は忍びの者ではありませんので、1つの班だけ引率いたします」

 「じゃあ他の3班はどうするの?」

 「私の代わりに皆様を案内する、現地在住のコーディネーターがおります」

 「ここに来てまさかの新キャラ・・・」

 

 紺田さんが指を鳴らすと、ロビーのソファに座って楽しげに会話していた3人の外国人の男の人たちが立ち上がってこっちに来た。どうやらこの人たちがそうらしい。なんだかみんな体が大きくて怖そうな雰囲気がある。タトゥー入ってる人もいるし。でも、紺田さんが自分の代わりにって連れてきた人たちなら、信用してもいい、のかな。

 

 「本日皆様に各コースをご案内する、ハワイ三銃士を連れて参りました」

 「ハワイ三銃士!?」

 「ビーチとスポーツの専門家、ハワード」

 「うっす。よろしく」

 「山と自然の専門家、ワグナー」

 「がんばります。よろしく」

 「グルメの専門家、イカロス」

 「よっす、どうも」

 「この三名にそれぞれ案内していただきます。ハイッ」

 

 ハワードさんは肩から腕にかけておっきな花のタトゥーが入ったガタイの良いの黒人で、坊主頭にサングラスをかけてるから見た目がすごく怖いけど、笑顔が人懐っこくて面白そうな人だ。ワグナーさんはきれいな金髪とエラの張った輪郭が特徴的な白人で、短パンの下に伸びる脚がムキムキで正地さんがすごい顔で見てた。イカロスさんは他の二人より背が低くて恰幅がいいアジア系の顔立ちの人で、鼻の下の整った髭が印象的だ。そして、みんな日本語がすごく上手い。

 

 「オレたちみんな日本に住んでたことあるから、日本語ペラペラなんだぜ」

 「ハイッ。ですから皆様ご安心ください。この三人が通訳も兼ねておりますので」

 「なら安心だな。凡俗に言語が通じないストレスは辛いだろうからな。俺様のいる班では全く問題ないが!」

 「昨日からお前が英語で活躍してるシーン一個もなかったけどな」

 「それでは、まずは海三昧チームの方!ハワードの方へ!」

 

 マリンスポーツ班の皆がハワードさんの周りに集まる。茅ヶ崎さんはサーフボードまで持ってもうやる気まんまんだ。城之内君はハワードさんと英語で二言三言交わして握手の進化バージョンみたいなヤツをやってる。いつもは背が高く見える雷堂君も、ハワードさんと並ぶと普通の高校生くらいに見える。どれだけ遊ぶつもりなのか、大荷物を持った星砂君が雷堂君にいくつかバッグを持たせてた。

 

 「続いて、山登りチームの方!ワグナーの周りにお集まりください!」

 

 これから山登りをするということもあって、しっかりした服装と荷物の皆がワグナーさんの元に集まった。須磨倉君と皆桐君はやっぱり健脚っていうこともあって、割と軽装でストレッチなんかしてた。極さんは日除けの帽子に長袖長ズボンで完全にハイキングにいくおばさんみたいになってた。暑くないのかな。最後に極さんに負けず劣らずおばさんみたいな恰好をした荒川さんが、ちょっと不安げについて行った。本当に、いつも運動なんかしない荒川さんが山登りなんかして大丈夫かな。ワグナーさんがちょっと考えるような顔してるけど。

 

 「文化学習チームの方は私が引率いたします!こちらへ!」

 

 文化体験ということもあって、ここが一番統一感のない班になった。正地さんは夏らしい薄手のワンピースに帽子を被った涼しげな恰好で、鉄君は色の薄い明るい甚兵衛で、虚戈さんはフリルやリボンがついた可愛い派手派手な服装にアクセサリーも付けてる。相模さんは見慣れた和装でホテルの人たちからもサムズアップされてたし、たまちゃんはいつもより大人しめな服装だけど日傘にサングラスに日焼け止めクリームべったりだった。やっぱりステージに立つ人はああいうの気にするのかな、と思いかけたところで虚戈さんが見えたからその考えは消えた。

 

 「最後にハワイ食い倒れチームの方々はイカロスのところへ!」

 

 あとは私とスニフ君と下越君とたまちゃんが集まった。下越君は分かるけど、スニフ君とたまちゃんも食い倒れツアーなのは意外だった。たまちゃんに聞いたら、なるべく外を歩かないでゆっくりできるから選んだみたい。文化体験ツアーは全然興味ないって。相変わらずさっぱりしてるなあ。スニフ君にも聞いたけど、もじもじしてて理由はよく分からなかった。美味しいものいっぱい食べたいのは恥ずかしいことじゃないよ。

 

 「それでは班分けも滞りなく済んだところで、班行動開始です!ハイッ!」

 

 紺田さんの号令に合わせて、ハワイ三銃士の人たちも各班に今日の行程表が載ったパンフレットを配って説明を始めた。私たちの班のパンフレットは美味しそうな料理の写真がたくさんあって、なんだかお腹が鳴りそうだ。

 

 「テンコから聞いたぞ、お嬢ちゃん?びっくりするほど食べるそうだな!」

 「そんなことないですよ。普通です」

 「朝飯食べてすぐにメシの写真食い入るように見るヤツが言うか」

 「それじゃあランチまでに腹を減らしとかないといけないな!まずは街まで軽くランニングといこう!」

 「え゛」

 「なにそれ!?バス移動じゃないの!?」

 「街まで大した距離じゃないし、腹ぺこは最高のスパイスなんだぜアケビちゃん!」

 「その名前で呼ぶな!たまちゃんだろうが!」

 「だろうがって・・・」

 

 いきなり思惑が外れたたまちゃんが怒るけど、イカロスさんは全然気にしてない風で、陽気にランニングコースの説明なんかしだす。一回街と反対方向に行ってから大回りでレストランに行くって・・・割と本気のランニングだ。なんかいきなり思ってたのと違う・・・。

 


 

 シーン15『海三昧チーム①』

 

 「ハワイと言ったら!海・三・昧!」

 「なにそのポーズ?」

 「そいじゃまずはワイキキビーチを通って港に行くぜ!ついといで!」

 「港?ビーチで遊ぶんじゃねーの?」

 「今日は一日無人島を貸し切りだから、まずは島に渡るところからだ」

 「班行動の一部で無人島貸し切りって・・・希望ヶ峰学園ってマジですごいんだな・・・」

 「いや、学内福引でハワイ旅行の時点で普通じゃないから」

 「Let's go(いくぜ)!」

 

 ハワードの引率で、あたしたちはまずワイキキビーチのすぐ近くにある港まで歩いた。完全にビーチで遊ぶつもりだったから結構荷物が多かったけど、それは先に車で送ってくれるらしい。だったらあたしたちもその車に乗って行きたいんだけどな。

 ビーチの近くを歩くと、もう海水浴客でいっぱいだった。確かにこれだけ混んでたら遊ぶのも色々制限がかかりそう。だからってそのために無人島借りちゃうのもすごいけど。

 

 「星砂お前、いつもの格好どうした」

 「阿呆か。こんな暑い中で黒コートなど着ていられるか。城之内(ゴーグル)こそ貴様、あのゴテゴテした格好はどうした」

 「潮風で錆びるから置いてきたわそんなもん!ていうかお前、ろくに腕相撲も勝てねえくせにマリンスポーツなんかできんのか?」

 「はっ!これだから凡俗は!マリンスポーツだろうが潮干狩りだろうが、腕相撲以外で俺様が凡俗に遅れをとることなどないわ!」

 「逆になんで腕相撲だけ遅れを取ってんのかが分からねえ・・・」

 「なんだいホワイトヘッド!腕相撲がどうしたって?」

 「He's proud of strength(自信ありだってよ)!」

 「Don't bullshit(でたらめ言うな), you(貴様)!」

 

 歩きながら前でバカ三人が盛り上がってる。ムキムキのハワードが星砂に筋肉を見せつけて、城之内が笑ってる。三人とも日本語も英語も話せるから、ところどころ何を話してるか分からない。でもなんだか楽しそうだからいっか。

 

 「星砂のヤツ、なんだかんだ楽しそうだよな」

 「へっ!?あ、そ、そう・・・だね」

 

 いきなり雷堂に話しかけられてドキッとした。いつの間に隣にいたんだろう。ていうか同じ班だから隣にいるのは当たり前か・・・。あの三人が楽しく話してると、自然とあたしたちが二人きりになるってわけか・・・。城之内、グッジョブ。昨日から引き続きアンタには借り作りっ放しだわ。日本帰ったら学食くらい奢ってあげよ。

 

 「最初は同じクラスのヤツらともまともに話そうとしなかったのに、よくあそこまで打ち解けたよな」

 「・・・雷堂は、星砂のことよく気にしてるよね。そんな仲いいの?」

 「特別そういうわけじゃないな。まあ、悪くもないけど。あいつが俺以外のヤツと話してるところあんま見なかったから、ちょっと心配だっただけだ」

 「そっか。あ、あのさ・・・全然話違うんだけど」

 「ん?」

 「雷堂、なんでいんの?」

 「・・・え?ご、ごめん・・・」

 「あっ!違う!違うから!そうじゃないから!」

 

 なに今の!?あたし感じ悪っ!?なんでいんのって選んだからに決まってんだろ!そうじゃないし!なに焦ってんのあたし!?緊張してんの!?はあ!?

 

 「お、おい茅ヶ崎?なんか・・・大丈夫か?」

 「違うから!大丈夫だから待って!あ、あの、雷堂がこのコース選んだのがちょっと意外だと思ったから、なんでかなって思って言っただけだから・・・ごめん、変なこと言って」

 「ああ・・・あ、そういうことか」

 「(あ〜、もう最悪!はっず!)」

 「別に、ハワイ来たら海だろってなんとなく思っただけだよ。茅ヶ崎や城之内みたいに、なにか明確な目的があったわけじゃないし」

 「城之内もなんか目的あったの?」

 「水着美女のナンパでもしようと思っただけだろ」

 「ナンパ・・・」

 

 昨日のことを思い出して、なんとも言えない気持ちになった。あいつに助けてもらったけど、あいつも逆にあの二人組みたいなことしようと思ってたのかな。いや、さすがに修学旅行に来てあそこまでやらないか。

 

 「あ、いや!俺はそういうの興味ないからやらないぞ!?」

 「分かってるよ。あんたにそんな意気地ないでしょ」

 「え〜・・・いやまあ、そうなんだけど」

 「・・・ごめん」

 

 雷堂がそこら辺の水着着た金髪美女に鼻の下伸ばしてるところを想像してみたらなんだかむかっ腹が立ったから、つい言葉がキツくなった。なんでこうなるかなあ。一応謝ったけど聞こえてるか微妙だな。そう分かっていながら言い直せない自分が嫌になる。

 

 「HEY!着いたぜBoys&girl!こいつがお前たちを無人島までエスコートしてくれるアルバトロス号だ!」

 「ホバークラフト!?マジかよイカす!!」

 「名前はともかくロマンがあるではないか!名前はともかく!」

 「アルバトロスって?」

 「アホウドリ」

 「やっぱり男子なら一度は憧れるよな!ホバークラフト!水陸両用!高速航行!後ろの謎のプロペラ!これで高まらねえヤツァ男じゃあねえ!!」

 「うおおおおおっ!!サイコーだハワード!!」

 「なんか俺もテンション上がってきた・・・!まさかホバークラフト乗れるなんて・・・!」

 「なにこれ?ついて行けないあたしが悪いの?」

 

 ホバークラフトは意外だったし乗ってみたいとは思ってたけど、なんで男子はこんなテンション上がってんだろ。みんなでハワードのこと胴上げしてる。恥ずかしいからあたしはその真横をスルーしてさっさと乗り込んだ。中は意外と広くって、たった4人の高校生が島を移動するために使うには豪華過ぎるような気がした。ていうか内装の趣味が全体的に海賊っぽくて、ハワードの趣味全開って感じ。

 

 「眼帯とフックグローブつけるヤツ!」

 「俺様しかいるまい!ふははは!この船のキャプテンは俺様だ!ヨーソロー!」

 「オレ操舵手やるぜ!舵輪まで付いてるたあハワード分かってんな!雷堂もなんかやれよ!」

 「えっと、じゃあ俺は航海士とかかな。“才能”的にも」

 「雷堂はシャイだな!ごっこ遊びも満足にできないようじゃ、マリンスポーツを全力で楽しめんのか!?」

 「それとこれとは別だろ」

 「ていうか、ごっこ遊びはいいから早く島連れてってよ」

 

 男子のアホなノリに付き合ってたらとんでもない大火傷するのが目に見えてるから、あたしは一歩引いたところでただ見てた。雷堂もその気配を感じ取って、でも心の底では参加したい気持ちもあって、その間で揺れ動いてた。

 ハワードが操縦室に入ると、すぐにホバークラフトは船体の下から空気を噴射して動き出した。思ったより揺れて椅子から転げ落ちそうになった。でも男子はその不安定さにもテンションが上がってるみたい。

 

 「いっけー!全速前進!」

 「目標は無人島!面舵いっぱいだ凡俗(やろう)ども!」

 「残念、直進だ」

 

 船体の下から空気が噴き出しながら移動してるせいか、下から伝わる振動と窓から入ってくる音が物凄い。でも普通の船より加速も走力も上回ってて、窓の外を流れる景色からホノルル本島が消えて、あっという間に海だけになっちゃった。

 

 「はえー!すげー!」

 「おいハワード。どこの島向かっているのだ?」

 「正面に見えてるだろう?あそこだ!」

 

 操縦席の後ろから前の景色を見ると、小さい島が正面に見えた。全体的になだらかで、岩山の上に森があるけど浜辺の辺りはかなり開けてる。本島からは船で10分程度ってところか。今日は晴れて波と風のコンディションもいいから、いい波乗れそう。

 

 「お嬢ちゃん、サーファーの目になってるね」

 「当然。乗りに来たんだから」

 

 ホバークラフトは浜辺の近くに設置されてた桟橋に付くように停泊して、ハワードが積み込んだ荷物を次々と浜辺に下ろしていった。あたしたちの荷物もあったけど、それ以外にバーベキュー用の器具とかマリンレジャー用の水上バイクなんかもあった。な、なんか多くないかな?今日一日で遊び尽くせるのか心配になるくらいだ。

 

 「着いたー!!上陸!!」

 「俺様が一番乗りだ!!ここをハイド島と名付けよう!!」

 「いつまでそのノリなのよ」

 「お前たち荷物運ぶの手伝ってやれよ」

 

 桟橋の下に見える海は思わず見惚れちゃうくらいに透明で、浅瀬だから泳いでる魚の姿まではっきり見える。遠浅の沖合の方に目をやると、サンゴ礁っぽい影が見える。たぶん軽く潜っただけでもいろんな魚が見えるんだろうな。

 浜辺の方も、高くなった日差しを受けて細かい砂が白く輝いてて、浜辺全体が光ってるみたい。打ち寄せる碧い波が耳に気持ち良い音を規則的に届けてくれる。なんだかこの島を見てたら、私もテンション上がってきた。

 

 「うん!この島すごくいい!」

 「茅ヶ崎の目が輝いてる・・・」

 「よーし!こっからランチまではフリータイムだ!浜辺で遊ぶもよし!マイボードで波に乗るもよし!希望があれば船も出してやるぜ!」

 「ハワード最高かよ!オレはまず普通に泳ぐからシュノーケル貸してくれ!」

 「俺様も泳ぐぞ!みよこの肉体美!」

 「ガリガリじゃねーか。てかいつの間に脱いだ」

 「俺もまずは泳ぐかな。昨日はビーチバレーしかしてないし」

 「お嬢ちゃんはどうする?」

 「当然!サーフィンするに決まってるでしょ!」

 

 サンゴ礁があるエリアからは離れた場所は、大きめの波がどうどう音を立てて浜に打ち寄せてきてる。超いい感じ!早く乗りたい!早速たくさんの荷物から自分のボードを出して、上着を脱いで浜辺に畳んでおく。

 

 「ちぇっ、なんだよ。もう下にウェットスーツ着てんじゃねえか」

 「なに期待してんだスケベ野郎!」

 「ぶわっ!ぶへーっ!!砂飲んじまった!!ぺっぺっ!」

 「昨日だけでも見直して損した」

 「ん?なんかあったのか?」

 「なんも!じゃ、あたしあっちで好きなようにやってるから!」

 「たくよー、冗談通じねえヤツだな」

 「さっきのは貴様が言うと冗談に聞こえんのだ」

 「Hey guys!せっかくだったらシュノーケリングよりウェイクボードしねえか!?」

 「おっ!それも楽しそうだな」

 「シュノーケリングは午後にしようか。茅ヶ崎ひとりだけ離れた場所に行かすのは心配だしさ」

 「いいだろう!ならば昼食の肉をかけてウェイクボード耐久秒数勝負といこう!」

 「望むところだ!おいハワード!できるだけ荒っぽく頼むぜ!Get rough(めちゃくちゃしたれ)!」

 

 

 

 ボードに乗って沖までパドリングで出る。やっぱり船の上から見るのと、実際に海に出風と波の具合を肌で感じるのとでは全然違う。海面を見るだけじゃ分からない大きな水の力を体全体で感じて、次にどんな波が来るのかを察知して、いい波が来るまでいくつもの波をやり過ごす。

 深い水底から突き上げてくる巨大なうなりを感じたらボードの先を浜辺に向けて、タイミングを合わせてテイクオフする。動き出したら勢いを殺さず、流されず、フィンに当たる波を感じながら重心を調整する。希望ヶ峰学園のプライベートビーチで練習してるときはいつも無意識でやってることだけど、新しい場所でやるときは必ず意識するようにしてる。そうした方が、その海、その浜、その波の特徴や癖を掴めるような気がする。ここの波とは仲良くできそう。

 

 「やっぱりイイ感じ・・・!!超イイ感じ!!」

 

 緩やかに浜辺近くまで戻って来て、だいたい波の感じが分かった。たぶんもう少ししたら風が出て来て、波も大きくなってくる。そしたら、もっと色んな乗り方ができるようになるはず。これならお昼まで退屈しなさそう。男子どもはあっちの方で遊んでるはずだから、ちょっとくらいハメ外してもいいかな。

 

 「おーい茅ヶ崎ー!」

 「ん?」

 

 と思ったら、あのスケベの声が聞こえてきた。しかも海の方から。何かと思ったら、ハワードが運転する水上バイクの後ろで水飛沫をあげながら海面を滑ってた。ウェイクボードやっとる!!楽しそう!!ズルい!!

 

 「シュノーケリングは午後に一緒にやることになったから気兼ねなくサーフィン楽しぼらばさばはッ!!!」

 「余所見するからだ!!」

 「あっははは!!大丈夫かあいつ!?」

 「99秒!!ふはは!!その程度か!!」

 「あ〜、なるほどね」

 

 ウェイクボードの耐久でもしてるんだ。また男子のノリか。確かに激しいけど、あれくらいだったらあたしが入ると勝負にならないから、むしろ男子たちだけでやっててよかった。海からあがってきた城之内は長い髪の毛がべったりくっついて妖怪みたいになってる。そのまま船までハワードに乗せてもらって、次は雷堂だ。

 

 「100秒がんばればいいんだな。よっしゃ。飛行訓練で鍛えたバランス感覚みせてやる」

 

 40秒もたなかった。

 

 「情けないな雷堂(勲章)

 「人のこと笑っといて半分もこらえてねえじゃねえかよ!」

 「ぶくぶく・・・」

 「やっぱアホだ」

 

 へっぴり腰だからあっという間にボードから引っぺがされて海面を引きずられてた。面白かったけど、それよりも海でめちゃくちゃにされてる雷堂見てたらなんか、ちょっと興奮してきた。あいつの分もサーフボード持って来て、海でひっくり返してやりたくなってきた。

 

 「よーっしゃ、次はお前だ星砂!あんだけ人のこと笑ったんだから見せてくれよな!」

 「当然だ!穴という穴をかっぽじってよく見ておけ!」

 「死んだかと思った・・・」

 「訓練でなにやってたんだよお前は」

 「じゃあ行くぜホワイトヘッド!」

 

 10秒もたなかった。

 

 「口ほどにもなさ過ぎてひく」

 「かっぽじり損だ」

 「ごぼごぼ・・・」

 「アホがアホなことしてる・・・」

 

 船から離れた瞬間から足下がガタガタしてて、結局動き出した瞬間に頭から海に落ちてた。城之内と雷堂はさすがに落ちるのが早すぎて笑ってもないし、ハワードは落ちたとも思ってなくて明後日の方向に走って行ってる。星砂がカナヅチだったら死んでたな。ていうかあいつがはちゃめちゃになっててもちっとも興奮しない。

 

 「お前・・・やったことないのによくあんな自信満々で・・・」

 「理屈は分かった。体験して要領も掴んだ。次こそは1時間乗ってやる」

 「10秒もたなかったヤツの台詞とは思えない不遜さだ」

 「何がどうなったら10秒未満が1時間超えになるんだよ!っていうか結局オレが最長じゃねえか!」

 「いや、まだだ。おい茅ヶ崎(半裸)!お前もやってみろ!」

 

 結構遠いところからだけど、周りに人がいないのと星砂の声がデカいからはっきり聞き取れる。あたしはもうちょっとここの波に乗りたいんだけど、せっかくだったら普段できないこともしてみようかな。

 

 「まさかパドリングでここまで来るとは」

 「言えばハワードが迎えに行ったのに」

 「これくらい余裕だって。海に関しちゃあんたたちよりずっとエキスパートなんだからね」

 「なんだ。結局お嬢ちゃんもやるのか。いいぜ!乗りな!」

 「女には少々難しいだろう。コツを教えてやろうか」

 「10秒で海の藻屑になるコツか」

 

 自前のボードよりちょっと小さいけど、バランスをとるのには問題ない。素足にかかる優しい波が気持ちよくて、前を行くハワードの水上バイクについていく飛沫がちょっと顔にかかるのもまた気持ち良い。なんか今あたし、夏の海を満喫してる!って感じ。

 

 「そいじゃスタートするぜHot girl(かわいこちゃん)!」

 

 1時間くらい乗ってやった。お昼ご飯が遅くなるって男子たちから泣きが入って終わった。

 

 「なあ雷堂、星砂」

 「どうした」

 「昼飯の肉の賭けさ、なかったことにしようぜ」

 「うむ」

 「そうだな」

 


 

 シーン16『山登りチーム①』

 

 「っしゃー!そんじゃあ今からバスでトレイルコースの入口まで移動だ!キリキリ乗りな!」

 「輸送(はこ)ばれる囚人かよ」

 

 俺たち山登りチームはワグナーの引率で、まずはキラウエア火山のトレイルコース近くの駐車場まで移動するらしい。なんでもキラウエアは火山活動が活発になってきてて、もともとたくさんあるトレイルコースや展望台のいくつかが閉鎖されてるらしい。火口付近にあったとある展望台は崩落したとか。大丈夫なのかよそれ。

 

 「だ、大丈夫なんすか!?いきなり噴火したりしないっすか!?爆発したりしないっすか!?」

 「キラウエアは頻繁に噴火活動を繰り返している活火山として有名だ。溶岩流で集落を消滅させたこともあるが、爆発的な噴火は稀だ。溶岩の粘性も小さく、ハワイ式と呼ばれる特徴的な噴火活動が見られるのも魅力の1つだ。ちなみにキラウエアという名前はハワイ語で“噴き出す”という意味があるそうだ」

 「そういう解説チックなことはオレの仕事だから取らないでくれるかな。インテリジェンスリケジョガール」

 「頭痛が痛いみたいなこと言うな」

 「よく調べて来てるな荒川」

 「すごいっすね荒川さん!物知りっす!尊敬するっす!」

 「ただでさえ山登りなどというチームを選んでしまったのだ。それも活火山という危険地帯なのだから、入念な下調べをしなくては心の平穏を保てないだろう」

 「なんでこのチームを選んだんだお前」

 

 活火山ってことで俺と皆桐は心配気味になって、一番よく調べてるらしい荒川が一番不安そうにしてて、極はめちゃくちゃ落ち着いてた。ワグナーは自分の仕事が取られてしょんぼりしてたけど、そこから駐車場に着くまでは車内を盛り上げるためにゲームとか歌とかでテンションあげにきてた。皆桐は楽しそうにしてたけど、極も荒川もそんなタイプじゃねえし、俺もいまいちノりきれなくて、微妙に気まずい空気のまま、バスはキラウエア火山のトレイルコースの駐車場に着いた。

 

 「さあ着いたぞ!今日のキラウエアはずいぶんとご機嫌なようだぜ!」

 「は?」

 

 バスから降りるとキラウエア火山が目の前にどんと居座ってた。トレイルコースらしい山道がうっすら見える。良い天気なのになんでちょっと薄暗いんだと思ったら、火口付近から雲みたいな灰が噴き出してきてた。空から降ってくるような、地面から突き上げられるような、バカデカい震動と爆発音が一定間隔で繰り返されてる。

 

 「思いっきりななめじゃねえかご機嫌!!」

 「このコンディションで登っていいのか・・・?」

 「火口に近付かなきゃ大丈夫だ。ま、この後火山活動が激しくなって溶岩流が出始めたら一巻の終わりだけどな!」

 「中止だ中止!ホテルに戻らせてくれ!」

 「大丈夫だって。痛みはないから」

 「そんな心配してないっすよ!!」

 

 溶岩らしいものとか、炎とか、飛んでくる石とか、明確に危ないもんは見えねえけど、この火山活動がこの後どう変動(はこ)んでいくかなんか誰にも分からねえのに、なんでワグナーはこんな余裕なんだよ。いくら噴火が日常茶飯事っつったってこれはさすがにやべえだろ。

 

 「ジャパンにもちょいちょい噴火する火山があるだろ?しかも街の近くに」

 「ああ、桜島か。そういえばそうだな」

 「納得するんすか極さん!?噴火してる桜島に登る人なんかいないっすよ!?」

 「退避コースはたくさんある。溶岩流より速く走れれば問題ないから」

 「ああ、なるほどっす」

 「お前もそれで納得するのかよ!」

 「ダメだ。既に多数決で負けている。我々がいくら言っても結局登るぞこれは」

 「それでいいのか荒川も!」

 

 まあ、マジでヤバかったらそもそもこの駐車場に入れるわけもねえんだし、いざとなったら俺はひとりでも逃げ切れる自信があるから、別にいいんだけどよ。気が休まらなくてゆっくり登山なんか楽しめんのかよ。

 

 「トレイルのときはマナーをしっかり守るんだぞ。ゴミのポイ捨てや自然破壊はもちろん厳禁だ。すれ違うグループには一声かける。コースを外れたときはまずどこのコースでもいいから戻って下山。どんなときでも冷静に、だ。守らねえと火口にぶん投げるぞ」

 「今日に限ってはそのジョークがシャレになってねえんだよ」

 「山頂までダッシュするのはいいっすか!?」

 「それ用のコースはあるが、今日は普通に歩くだけだ。またの機会にしな、ブカツボーイ」

 「自然破壊ではないが、研究用サンプルの採取は認められるか?」

 「ちゃんと当局に許可を得てからでないと無理だからやめとけよ。リケジョガール」

 「何しに来たんだお前ら」

 

 山登り前に入念なストレッチで体を温めて、トレイル中の注意事項を確認する。観光客が気軽に登れる山とはいえ、自然をナメてかかったら人間なんか簡単に捻り潰される。よっぽど大丈夫だとは思うが、ワグナーの指示には素直に従っておいた方がよさそうだ。

 

 「よし!じゃあ行くぞ!」

 

 やたら張り切ってるワグナーの後に続いて、トレイルコースを登り始めた。なだらかな山肌だから行く道は結構遠くまで見えてる。こりゃよっぽどのことがない限り迷うことはなさそうだ。足下には思ったより草がたくさん生えてて、うっかり色んな花を踏んだり枝を折ったりしちまいそうだ。荒川が俯きながら歩いてるからテンション低いのかと思ったら、物欲しそうにあちこちの草を見てた。どっちかっていうとあがってんのかこれ?

 

 「ワグナー、頂上までどのくらいだ?」

 「ゆっくり行っても一時間くらいだぜ!あそこに見える展望台から火口を見学して、その後は公園の博物館で火山岩やこの辺の植物の見学をする予定だ」

 「質問っす!昼ご飯はどこで食べるっすか!?」

 「展望台にレストランがあるが、持ち込みも自由だ。そこで噴き出すマグマを見ながら世界一ダイナミックなランチと行こうぜ!」

 「思ったより道が平坦で歩きやすいな。私もこれなら無理なく行けそうだ」

 「健脚自慢におすすめっつってたけど、荒川が大丈夫なら誰でも大丈夫だよな」

 

 他にトレイルコースを歩いてる人を見ると、明らかに観光客っぽい子供連れとか、その辺に住んでる人っぽいサンダルに短パンとタンクトップのおっさんとかがいる。公園って名前がついてるんだし、本当にここは気軽に来られる場所だったのか。噴火活動が活発っつっても、そこまで深刻な雰囲気が出てないのは、やっぱりその程度ってことなのか。

 登山っていうよりは散歩みたいなペースで、ゆったりした坂道をまったり登っていく。頭の上を飛んでいく野鳥や、よく分からない道端に咲いてる花に、ワグナーはいちいち解説を入れてその度に足が止まる。絶対これ頂上まで一時間じゃきかねえだろ。

 

 「フフフ・・・想像以上に楽しめるな、このツアーは。採取禁止の取り決めさえなければ、大量のサンプルが得られただろうことだけが惜しいが」

 「サンプルを得たところで、税関で没収されるだろう」

 「須磨倉」

 「断る!」

 「まだ何も言ってない!」

 「どうせ俺に密輸(はこ)ばせようってんだろ!そんな勝算のねえ話にのれるか!」

 「勝算があったらやるっすか」

 「金次第でな」

 「冗談だと思うから見逃してるけども、なまじ実行できそうな悪巧み大声で話さないでね」

 

 本気でやるっつうなら、税関はともかくここから持ち出すことくらい訳ねえけど、リスクがデカ過ぎるのと俺が旨味を感じるくらいの金を荒川が出せるとは思えない。確かにやろうと思えばやれるから、疑われそうなことは言わねえ方がいいか。日本語分かるヤツもそんないないだろうけど。

 

 「こんな公園でそんなことはないだろうが、私やお前はただでさえトラブルに巻き込まれやすい“才能”なのだ。無駄に危険を冒すようなことはするなよ、須磨倉」

 「分かってるよ。俺だって密輸(はこ)ぶリスクも分かってるし、そんなに成功させる自信ねえよ」

 「う〜ん、なんかおかしいんすよね・・・。やろうと思えばできる感じが」

 「しかし本当にこの公園の環境は興味深い。希望ヶ峰学園ではこれほど火山に近付く体験はなかなかできなかったからな。外国の自然に触れるのもはじめてだ」

 「リケジョガールは自然が好きなんだな!」

 「自然というか、素材、だな」

 「素材?」

 「詳しく聞くな。正気度が減る」

 

 相変わらず怪しげなことを言う荒川にそれ以上は話させないようにしながら、代わりにワグナーのハワイの自然解説を聞いていた。麓にはこの自然を利用したお土産なんかも売ってるらしくて、それなら日本に持って帰ることもできるらしい。弟と妹(あいつら)にも何か買って帰ろうかな。

 

 「さっきから、走って行く人もいるっすね。ここランニングコースにもなってるっすか?」

 「あれはああいうスポーツだ。トレイルランニングっていうな。まあここはそんなに険しい道でもないし、彼らにとってはジョギングと変わらないのかも知れないな」

 「自分も走っていいっすか!?」

 「やめろ。そもそも山道は走るところではない。それに狭い山道を走るのは他の登山客の迷惑になるし、単純に危険だ」

 「あだだだだ!!な、なんで腕の関節キめるんすか!?言っただけっすよ!?」

 「む。すまん。いつものクセで」

 「どんなクセだ。城之内にプロレス技かけすぎなんだよお前は」

 「Oh・・・キミはあれだ。バイオレンスガールだな」

 「なんでもいいが」

 

 皆桐の気持ちも分からないでもないけどな。登り始めてから、何人かダッシュしてる人たちとすれ違ったり追い抜かれたりした。これくらいの山なら走って登るのも楽しそうだ。日本の山じゃこうはいかないだろうからな。

 こんな感じで皆桐が極に間違って間接決められたり、荒川の話で全員の正気度がちょっとずつ削られたり、俺も俺で弟と妹(あいつら)のことばっか考えててワグナーの話が右から左だったりで、ときどき聞こえてくる火山活動の音で気持ちが引き締まったり緩んだりを繰り返してたら、気付いたら目的地の展望台まで辿り着いてた。

 

 「お、もう頂上かよ」

 「いつの間にこんなに登っていたのか・・・平らと言えど山は山だな。海と街がある良い眺望だ」

 「ここからなら火口もよく見えるな。見えてはいけないような赤色も実によく見える」

 「やっほー!!」

 「響かねえよ?」

 「山に登ったら言うもんじゃないっすか!?」

 「反響するもんが周りにないだろ」

 「何言ってるっすか須磨倉さん!山には山彦って妖精がいて、自分たちの声を真似して遊んでるんすよ!」

 「お前が何を言ってんだ」

 

 日本の山ならまだしもキラウエアに登ってやっほーなんて言うヤツ、皆桐以外にいなくて恥ずかしい。極の言う通り、比較的高いところまで来たからか、登ってきたコースだけじゃなくて昨日言ったビーチや、海水浴チームが行ったらしい無人島までちょっとだけ見えてた。こりゃいい景色だ。

 

 「ちょうど雲が流れていってるな」

 「気持ちいい天気になってきたっすねー!火口の周りをひとっ走りしたい気分っす!」

 「トレイルロードはあるが、今は火山活動が活発になってるから立ち入り禁止だ。諦めなダッシャーボーイ。よーしみんなそこに並べ。写真撮るぞー!」

 「しゃ、写真!?そんな陽のイベントに参加してもいいのか・・・!?後から心霊写真だなんだと嗤ったり・・・」

 「しない。寄れ」

 

 ワグナーがカメラを構えた途端に焦りだした荒川の襟首を極が掴んで引き寄せる。悪さしたネコか。どんな人生送ってきたらそんなマイナーな発想が出て来るんだ。走り出しそうにうずうずしてる皆桐を引き寄せて、極と俺で火口を背にしてしゃがみこむ。

 

 「はい、チーズ」

 

 ワグナーがシャッターを押す瞬間に、背後でまたドデカい爆発音がした。大丈夫かこの写真。

 

 「シャバ僧にヤキ入れたヤンキーのプリクラみたいだな」

 「使いどころのない日本語が堪能すぎるな」

 「めちゃくちゃいかつい写真になってるっすよ!?なんでヤンキー座りなんすか二人とも!?」

 「なんかとっさに座ったら自然にこうなっちまった」

 「こんな写真を親に見られたらグレたと思われてしまう・・・ヤンキーと一緒に映るなんて・・・」

 「誰がヤンキーだ。須磨倉はまだしも私は極めて普通の女子高生然としているだろう」

 「普通の女子高生は髪の毛そんな盛り盛りにしねえ」

 

 撮れた写真は、マジでシャバ僧にヤキ入れたヤンキーのプリクラみたいな感じになってた。後ろで爆発が起きてるところがより厳つさを増してる。ハワイで撮ったって言っても誰も信じてくれねえよこれ。学園のスタジオで撮れるわ。

 

 「さてと、ちょいと早いが、この辺でランチにしようか。あっちの、海と火口がよく見えるデッキに行こう」

 

 いい具合に陽が差してきて、(ひさし)がある展望デッキは気持ちいい日光といい景色が同時に堪能できる絶好の昼飯スポットになってた。皆桐がダッシュで場所取りをしてきてくれたおかげで、5人全員が並んで座れる。目の前は噴火口があって、その先に海、頭の上から差す陽はグリーンカーテンが和らげて、納涼床みたいになってた。

 

 「いい場所っすね!サイコーっす!」

 「微かに潮風が薫るな。ところで、ここはただの展望台のようだが、ランチはどうするんだ?」

 「オレがちゃーんと買ってきてあるぜ!ハワイで山登りと言ったらこれしかないだろ!」

 「なんだこれ?」

 

 ワグナーがリュックサックから、発泡スチロールのトレイを2つ重ねた容れ物を人数分出して来た。一緒に箸もついてるけど、なんだこれ。開けてみると、見るからに食欲をそそる良い色の唐揚げがごろごろ入ってた。専用のソースも一緒に付いてるし、マヨネーズも準備してあった。

 

 「わーい唐揚げ!自分唐揚げ大好きっす!」

 「ちっちっち。ただの唐揚げじゃないんだぜダッシャーボーイ。こいつの衣は餅粉さ」

 「もちこ?」

 「うっまあああああああああ!!?なんじゃこりゃあ!!?」

 

 一口食べた瞬間、ざっくざくの衣の食感の奥から飛び出してくるジューシーな鶏肉の旨味で口の中が飽和した。ほんのり香る醤油の風味と、油っこさがないだけじゃなく歯に心地良い感触の衣。自分でも気付かない内にどんどん口に放り込んでいって、はっと手を止めたらあと一個だけになってた。6個くらい入ってなかったか?

 

 「餅粉で揚げるだけでこんなに美味いんすか!?美味くて感動っす!!うおおおおおんっ!!」

 「美味い・・・!はじめて知ったぞこんなもの・・・!」

 「おっ?バイオレンスガールも気に入ったかい?そりゃよかった!はじめてちょっと笑ったな!」

 「え、極が笑った・・・!?」

 「笑うぞ、私も」

 

 なんでも餅粉チキンって言うらしい。餅粉で鶏肉を揚げたからだそうだ。そのままだな。それにしても、この発泡スチロールのトレイで、山の上で良い景色を見ながらだと、2倍増しで美味く感じる。餅粉さえあれば作れるなら、弟と妹(あいつら)にも作ってやろうかな。ワグナーに聞いたら普通にその辺で売ってるらしい。土産(はこ)んでやるか。

 

 「さて、餅粉チキンもいいが、登山と言ったら日本じゃあれしかねえよな!」

 「あれって?」

 「おにぎり!!」

 「そんなことない!!」

 「残念ながら、梅干しや昆布やおかかみたいなお馴染みの具は持って来てないんだ。悪いな」

 「なんでだよ!!自信満々だっただろ!!」

 「私はネギトロがいい」

 「イレギュラー出してくるなよ」

 「だが!ハワイが誇る最高のおにぎりを用意したぜ!!」

 

 やたら勿体付けて、ワグナーがリュックサックをまさぐる。そこから出て来たのは、日本のコンビニおにぎりとは比べものにならないくらいデカいおにぎりだった。四角く切った肉の塊が、卵寿司みたいに海苔で固定されてた。

 

 「スパムおにぎり〜〜〜!!」

 「スパム!の!?」

 「おにぎり!?」

 「顎砕けるほど美味いぞ!」

 「だったら食べたくない!顎砕きたくない!」

 

 聞いたことあるヤツだ。スパムってあの、缶詰に入ってる塩漬け肉だろ。あれをおにぎりにしたのか。絶対美味いヤツじゃんか。

 

 「美味いいいいいい!!スパムの塩気と肉の旨味が米と綯い交ぜになって見事に調和がとれている!!ずっしり手に感じる重さなのにひとつくらいぺろりといけてしまいそうなほど美味い!!」

 「なんすかその解説めいた感想。荒川さんテンションあがってるっすね」

 「いやしかし、無理もないぞ。本当に美味い。グルメチームでなくてもこれほどのものが味わえるとは、得した気分だ」

 「コーラ飲むか?」

 「ワグナー最高かよマジで。一時はどうなることかと思ったけど、このチーム選んでよかったわ」

 「胃袋に正直なヤツだ」

 

 いやマジで煙吐いてるキラウエア見たときは生きて帰れる気がしなかったけど、実際登ってみたら思ったよりしんどくないし、飯は美味いし、景色も良いし、良いこと尽くめだ。なんか他の班のヤツらに申し訳なくなってくるな。

 

 「自分、スパムおにぎりもう一個もらっていいっすか!?」

 「食べ過ぎて動けなくなるぞダッシャーボーイ」

 「大丈夫っす!自分食べてすぐ走ってもお腹痛くならないっすから!」

 「病院行け」

 

 どうやらスパムおにぎりがよっぽど気に入ったらしく、皆桐がワグナーのリュックサックをまさぐってスパムおにぎりを探し出した。ぐるぐる巻きになってるラップを剥こうとしたとき、おにぎりが皆桐の手から溢れた。

 

 「おっとっと」

 「おい何してんだよ皆桐」

 「っとっとっと」

 「皆桐。そっちは柵がないぞ。気を付け──」

 「っと──」

 「皆桐が火口に落ちたあああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 転がってったおにぎりを追いかけて皆桐が展望台から落ちやがった!!柵無いの分かっててなんであんな何の疑問もなく落ちれるんだよ!!?

 

 「皆桐いいいいいいいいいいいいいい!!大丈夫かあああああああああああああ!!」

 「おにぎり取ったっす!!ラップしてたから大丈夫っすよ!!」

 「そんな心配していない!!」

 「おい待て。なんか音がしないか?」

 「なんだ?この地響きのような音は?」

 「まずい!!ダッシャーボーイ!!すぐに上がってこい!!噴火するぞ!!」

 「急展開が過ぎる!!」

 「上がるって言ってもこんな壁みたいな火口登れないっすよ!!」

 「なんとかして戻って来い皆桐!修学旅行で死人はシャレにならん!」

 「目の前で死ぬな!寝覚(はこ)びが悪くなる!」

 「そんなところで死んだらこの辺りの生態系に甚大な影響が出るだろ!」

 「誰も自分の心配はしてくれないっすか!?」

 

 ついさっきまでおにぎりが美味えだの唐揚げが美味えだの言ってたのに、なんで生き死にの話になってんだ!?なんて思ってたら火口の中心辺りがなんだか赤くなってきたし、煙もさっきより増えてる気がする。けど皆桐がいる場所からここまではジャンプした程度じゃ届かないくらいの高さがあって、しかも壁がちょっと反り立ってる。すぐにワグナーがレスキューに電話してるけど、それより絶対噴火の方が早い。

 

 「おい皆桐いいのかそれで!お前それでいいのか!」

 「なんで急に全否定してくるんすか!?ちょっ、助けてーーー!!」

 「お前のダッシュで登れないのかー!?」

 「壁登りなんてできないっすよー!!うおおおおおおんっ!!」

 

 いつもはわけわからん理由で泣いてるけど、このときの涙はガチだな。けどここにはロープもはしごもないし、持って来る時間はないし──。

 

 「っておい!危ねえぞ皆桐!」

 「へっ──うおおおっ!!?熱っ!?」

 「走れ!とにかくどこでもいいから火口からトレイルルートに戻れ!」

 「うあああああああああああああっ!!!」

 

 火口から噴き出してきた煙や水蒸気が皆桐に襲いかかる。見てるだけでめちゃくちゃ熱そうだ。ワグナーが咄嗟に走って逃げろと言ったことに反応して、皆桐は猛烈なダッシュで逃げ出した。落ちた壁を登ることはできなくても、火口の周りを走ることはできるみたいだ。眼から湧き出す涙が流れ星の尾っぽみたいになってる。

 

 「いやあいつどこまで行くんだよ!?火口の反対側まで走る気か!?」

 「んっ?いや、いいぞ皆桐!そのまま走れ!走り続けろ!」

 「どうした荒川。あのまま走ってもいずれ疲れ果てて溶岩に落ちるだけだぞ」

 「バイオレンスガールの発想が悪魔だ」

 「いや。よく見てみろ。あのまま走り続ければ、皆桐はここに戻って来られる」

 

 やけに冷静に眼鏡をクイッと上げる荒川の言う通り、皆桐が走る軌跡に目を凝らす。走ったところは岩が崩れて分かりやすい。最初に走り出したところから、火口の8分の1くらいを走った辺りまでは特に変化はない。けど、そこから先はなんだか火口の中心から距離が離れてるように見える。いま、皆桐はちょうど火口の反対側辺りを全力ダッシュしてるけど、ここから落下ポイントまでの半分くらいの高さまで上がってきてるのが目に見えて分かった。

 

 「おおっ!?マジで!?なんで!?」

 「フフフ・・・火口に沿って走ることで遠心力が発生し、下へ向かう重力とぶつかることで皆桐の体全体にかかる力の向きが火口の斜面に垂直になる。そうすることで──」

 「難しいことはいいから救助の準備だ。皆桐がここに戻って来たところを捕まえるぞ」

 「よっしゃ!ナイスティーチボーイとオレでダッシャーボーイを捕まえるから、リケジョガールとバイオレンスガールは人を集めて、オレたちをしっかり支えておいてくれよ!」

 「壁走りならぬ火口走りかよ。あいつの“才能”もずいぶんブッ飛んでんな」

 「──これは物理学の初歩中の初歩の考え方の応用であるが、理屈で説明するよりも現実は難しくだな」

 「いつまで解説してんだよ!人を呼べっての!」

 「無茶を言うな!コミュ障をなめるな!」

 「ただの人見知りだろ!」

 

 得意分野と苦手分野で態度が極端に違う荒川のケツを引っぱたいて、俺とワグナーは柵の無い展望台に腹這いになって皆桐を待ち構える。もう火口の四分の三までは上がって来てて、だいぶ火口の縁に近いところまで来てる。まだ泣いてるけど、皆桐も自分の状況とこっちの意図は理解したみたいで、完全にこっちに目掛けて走って来てる。

 けどどんどん溶岩も上がって来てて、ちょっとでも気を緩めたらマジでマグマの中に落ちてしまうくらいには危険な状態だ。

 

 「うおおおおおおおおおおおんっ!!!みなさあああああああああああああん!!!」

 「走れ皆桐!!絶対に下を見るな!!」

 「ダッシャーボーイ!!手を出せ手を!!」

 

 火口を走り続けて、いつの間にか皆桐の体は地面とほぼ平行になってる。それにも気付かないほど全力でダッシュしてきた皆桐が、助けを求めるように両手を出した。俺とワグナーがそれを片方ずつしっかり掴む。

 

 「上げるぞ!跳べ皆桐!」

 

 三人で息を合わせて皆桐の体を引き揚げる。皆桐のダッシュの勢いに引っ張られて、飛び上がった皆桐の体ごと斜め後ろに吹っ飛ぶ。俺の体を押さえていた荒川とその辺の観光客たちにだけは当たらないように、体を捻って皆桐を展望台の腰掛け台に落とした。

 

 「うげえっ!!?」

 「だああああああっ!!!いってえ!!!肩よじれた!!!」

 

 木の床を転げ回ったせいで体中が痛い。極度の緊張感で一瞬のうちに全身から汗が噴き出して、それがひいてくと薄ら寒さすら感じた。けど、とにかく皆桐は無事みたいだ。死ぬほど肩で息してるけど、死ぬよりマシだ。

 

 「ぜーっ!ぜーっ!ぜーっ!」

 「み、皆桐・・・!大丈夫か!」

 「・・・り」

 「え?」

 「スパムおにぎり・・・落としたっす・・・!ぐすっ」

 

 何か喉まで出かかったけどぐっと堪えた。とにかく助かってよかった。おにぎりは後でコンビニで買ってもらえ。

 


 

 シーン17『文化学習チーム①』

 

 「ハイッ!それでは出発です!ホテルのすぐ近くが中心街になっていますが、まずはバス移動でございます!」

 「紺田さんが案内してくれるなら安心だわ。やっぱり初対面の人の引率って怖いもの。ね、鉄くん」

 「ああ・・・そうか?」

 「その割には正地氏、ハワイ三銃士の体を結構まじまじ見てたよねえ」

 「いよーっ!?異国の殿方は矢張り惹かれる物が在ると!?然うなのですか正地さん!?」

 「や、やあねえ。そんなことないわよ。変なこと言わないで!」

 「うごっ」

 

 私たち文化学習チームを引率してくれるのは紺田さんだった。ハワイ三銃士も紺田さんが連れてきたんだから心配いらないと思うけど、ハワードさんなんかイロイロ見てみたかったけど、チーム分けは日本にいる時にもう済ませちゃったから仕方ないわよね。

 

 「で、まずはどこへ行くの?」

 「まずは皆様、ハワイの文化に触れようということで、お昼ご飯を食べにポリネシアン文化センターに参ります。そちらはステージイベントもありますので、ディナーショーならぬランチショーですよ!ハイッ!」

 「おお!いきなり素晴らしそうな行程!いよはなんだか胸が高鳴って参りました!」

 「ステージイベントってなんだい?」

 「それは着いてからのお楽しみでございます!」

 

 熱い陽射しが照り返す道を、日陰を選びながら歩いて行く。ビーチから聞こえてくるはしゃぎ声や波のさざめきがちょっとだけ暑さを和らげてくれてるような、そんな気がする。紺田さんが言ってたポリネシアン文化センターまでは距離があるから、ホテルから少し離れたところに待機してたリムジンバスに乗って、島の反対側の方まで行く。とは言ってもそんなに時間もかからず、どんなイベントがあるのか楽しみだっていう話で車中は盛り上がった。

 

 「ポリネシアン文化センターってそもそも何なのかしら?」

 「ポリネシアン文化のセンタ〜だろお?」

 「ぽりねしあんとは?」

 「インドネシアの近くじゃないのか?」

 「オセアニア地域の一部の名称でございます。ハワイ、ニュージーランド、イースター島を含む三角形のエリアを指します」

 「広っ!?イースター島!?」

 「ポリネシアン文化センターは、その中に根付く文化を再現した村が6つも存在し、そこで彼らの文化を体験できる施設です。お土産屋さんやカヌーツアーなどもございます!ハワイにお越しの際は是非お立ち寄りください!」

 「誰に言ってんの?」

 

 私たちにパンフレットを配りながら、紺田さんがそんな説明を簡潔にしてくれる。パンフレットには、カラフルな民族衣装に身を包んだ人たちや、大きなカヌーで川を進んでる楽しそうな光景が収められた写真が載っていた。村の名前はトンガとかタヒチとか、名だたる常夏のリゾート地が名を連ねてる。見ているだけでわくわくしてきて、1日だけじゃ遊び尽くせなさそうなくらい。

 

 「楽しそうなところだねえ」

 「本日は、民族楽器の体験と水で落とせるタトゥー体験、やり投げ、古代のボードゲーム大会などを予定しております」

 「目白押しね。文化系から体育系から」

 「いよーっ!刺青を入れるので御座いますか!?」

 「お湯に浸ければ簡単に落ちるので、お風呂で落とせます。ご安心ください」

 「いざとなったら極氏に頼めばなんとかしてくれるさあ。鉄氏なんかはガタイがいいからタトゥ〜似合いそうだねえ」

 「何言ってるの!鉄くんの体はこれで完成なの!パーフェクトなの!分かってないわね!」

 「おおぅ、ごめんよお・・・」

 「何故鉄さんより正地さんの方が躍起になっていらっしゃる?」

 「風呂で落とせるならやってみたくはあるが」

 

 納見くんの軽率な発言を諫めて、だけど鉄くんの体にタトゥーを入れるならどこにするかをあれこれ妄想(イメージ)してるうちに、いつの間にかバスはポリネシアン文化センターに到着してた。狭い島とはいえ、バスでそれなりに時間がかかるはずだったんだけど、案外近いところにあるのね。

 

 「それでは皆様、まずはバスを降りて入口前に集まってください。ここで記念撮影をします」

 「魂取られる!?」

 「昨日普通に写ってたでしょ」

 「大きいところだねえ。なんだか賑やかな音が聞こえてくるねえ」

 「一般のお客様方もいらっしゃいますので、くれぐれも団体行動を乱さずに男女交互に並んでください」

 「なんで交互?」

 

 紺田さんに言われた通り男女で交互にバスを降りて、センターの入口前に集まった。神様か何かの、大きな彫像が両脇にある背の高い門には、ポリネシアンカルチャーセンターと書いてあった。門を守ってる神様的な何かの彫像は、顔は怖いけどいかにも南国の守り神って感じがする。

 

 「てんちゃんも一緒に写りましょうよ!ほらこっち来て!」

 「は、はい!ありがとうございます正地様!」

 

 カメラはタイマーにしておいて、5人で記念写真を撮った。やっぱりこのメンバーだと鉄くんが頭3つ分くらい抜きん出てて、ギネスブックの写真みたいになっちゃった。その後は早速文化センターの中に入って、まずは民族楽器の体験をしに行った。

 

 「まずはこちら、フィジー村で民族楽器の体験をします!ハイッ!」

 「フィジー、聞いたことはあるが、どんなところなのか全く知らないな・・・」

 「フィジーはポリネシアとメラネシアの境に近いところにある、300以上の島々からなる諸島国家です。特徴的なのはヤシの木などの植物繊維による縫製技術で、船や家を作る際に用いられています。こちらの家は全て手作りですね」

 「手作り・・・なるほどねえ。やろうと思えばこれだけのことができるってことだあ」

 「いよーっ!?是も植物を編んで作ったのですか!?天女の衣は縫い目が無いとは申しますが、此方も相当に緻密な出来映え!いよっ!」

 「楽器というのも、植物を使ったものなのか?」

 「ハイッ!こちらの、デルアという竹製の打楽器です!こちらのテントの中で、体験していただきます!」

 

 村に入るといきなり、村長さんの家があった。全部フィジーの伝統技術で作られたらしくて、木と葉っぱだけでできているらしい。大人が何人入ってもビクともしない頑丈な作りになってて、とても植物だけでできてるとは思えない。それに、どうして切り取った木や葉っぱが傷まないのかしら?

 てんちゃんに通されたテントの中には、周りよりほんの少しだけ高くなった小さいステージがあって、そこにマイクとスピーカーが設置されていた。そのステージに向き合う形で、たくさんのパイプ椅子が並べられていて、もうたくさんの人たちが座って待っていた。年齢も人種も色々で、色んな国から集まって来てるのが分かった。

 

 「こちらが皆様のデルアです。周りにぶつけてしまわないようご注意くださいませ」

 「長い・・・どうやって演奏するんだ?」

 「地面に叩きつけて演奏します。あまり強く叩きすぎると壊れてしまうので、力加減にはお気をつけを」

 

 てんちゃんが、私たちにそれぞれデルアを配る。背が高い鉄くんにはとっても長くて太くて大きいヤツが来た。楽器というより、竹をそのまま切り取ったみたいだった。でも端っこを削った上に何かの塗料を塗って、叩きつけても壊れにくくしてあった。

 

 「さて皆様、そろそろ演奏会が始まりますよ」

 

 ステージに、日焼けしたアロハシャツのおじさんが上がって来た。おじさんもデルアを持ってる。マイクで何か色々話すけど、ところどころは聞き取れるけど通して何を言ってるのか分からない。困って納見くんと鉄くんを見るけど、二人も首を傾げてる。相模さんに至っては最初の挨拶から聞き取れなかったらしくて、首を傾げすぎて頭が痛くなっちゃったみたい。なんだか周りの人たちはくすくす笑ってるらしいから、取りあえず愛想笑いだけしておく。

 

 「ご心配なく。必要なことは私が訳しますので。ちなみに今は傑作のハワイアンジョークを披露されたところでして・・・おっと、早速練習ですよ」

 「ハワイアンジョ〜クが気になるなあ」

 「リズムに合わせてデルアで地面を叩いてください、まずは先生のお手本です」

 「あのおじさん先生なの?」

 

 てんちゃんが話した直後から、トロピカルなゆったりとした音楽が流れてきて、それに合わせてステージのおじさんがデルアで足下の地面を叩き始めた。まずは一定のリズムでトントントン。ちょっとアップテンポでトトトントトトントットトトン。次が難しくてトントコトントコトットトトトン。

 

 「む、難しくないか・・・?覚えられん・・・」

 「鉄氏は音楽の成績悪いからねえ。好きなように叩けばいいんじゃあないかい?」

 「よく分かりませんが、楽しそうですね!いよは斯うした遊戯は得意ですよ!」

 「それではやってみましょう。先生の合図でスタートですよ。せーのっ」

 

 また同じ音楽が鳴り出して、お客さんみんながデルアを持ち上げる。さっき聞いた音楽に合わせて、できるだけついて行けるように集中する。

 

 「むっ、おっ、おおっ・・・?あっ、んう」

 「いよっ♬いよっ♬いよっ♬いよよいよっと♬」

 「こんなに違う?」

 「鉄氏は周りとズレるしデカいしでよく目立つねえ」

 「・・・参った」

 

 全然ついていけないであたふたしてる鉄くんと、リズムに乗って器用にデルアを扱う相模さん。そして何より場数を踏んでるおかげでプロ顔負けの技術を見せるてんちゃん。私と納見くんは普通に楽しみながらも、三人の力量差を見て楽しんでいた。

 

 「思った以上に鉄氏の音楽センスがないことが分かったよお」

 「んん・・・」

 「鉄くんはそういうことじゃないからいいのよ」

 「いよは大変楽しませて頂きました!(さて)、お次は何でしょう?」

 「お湯で落とせるタトゥー体験をします!同じくフィジー村内で行いますので、あちらの建物までどうぞ」

 「どんなタトゥ〜があるんだい?」

 「タトゥーシールですので、現在の在庫状況によりますね。伝統的な文様や動物、船などを模したものが多いです。人気なのは動物ですね」

 

 デルア体験の後は、タトゥー体験をしに別の建物に移動した。先に体験をしてる人たちがたくさんいて、みんな腕とか胸とか肩とか、色んなところにシールを貼っていた。背中一面に貼ったりほっぺにやる人もいた。あんまり落としにくいところはちょっと困るかな・・・。

 

 「シールなので皆様ご自分でも貼っていただけます。背中など貼りにくいところは他の方が貼ってあげても構いません」

 「閃いた!鉄くん!」

 「正地氏、ほどほどにねえ」

 「鉄くん!背中に大きいタトゥー入れてみたくない!?入れてみたいわよね!胸元とか、太ももとか、脇とか腰とかうなじとか!」

 「い、いや、俺はそんなには・・・。というか、どんどん目に入りにくいところになっていってるが・・・」

 「広背筋ー腹直筋ー外腹斜筋のラインにおっきなタトゥーを入れたらきっとカッコイイわよ!脇のところとか腿にこういうの入れたらもうそれはエッ」

 「正地様。自重を」

 「いよぉ・・・親から頂いた大事な体に斯様なものを貼り付けるのは抵抗が・・・」

 「大丈夫だよお。ちゃんとお湯で落ちるって言っただろお」

 「ではいよは控えめに。是を首元に貼ったらお洒落でしょうか?以前に城之内さんに教わりまして」

 「それはちょっと相模氏にしては刺激的過ぎるかなあ。城之内氏を信用し過ぎだよお」

 

 最初は鉄くんのキレイに鍛えられた体にタトゥーを入れるなんて考えられなかったけど、いざ目の前にたくさんのタトゥーシールが並んで、それを鉄くんの体につけているところを妄想(イメージ)したら、なんだかすごく色んなところが熱くなってきた。もう全部あちこちにつけてあげたいと思ったけど、貼った数だけお金かかるみたいなのと、鉄くんがあんまり乗り気じゃなかったから自重した。

 

 「俺はこの小さいヤツを腕にしておこうか」

 「あーーー、逆にアリ。アリ寄りのアリ」

 「ただのアリじゃないかあ。おれはちょっと頑張って鎖骨に貼ってみようかなあ」

 「納見くんがそんなのしてもダメよ。細くて白いのに」

 「筋肉差別がひどい」

 「正地様はどうなさいますか?」

 「私はこれだけでいいわ」

 「いよっ?随分控えめですね」

 「相模さんは可愛いの選んだわね」

 

 相模さんがおしゃれでかわいいタトゥーシールをてんちゃんと選んでたのに対して、私は手元にあった羊のタトゥーシールを選んだ。ちょっと可愛いけど、雰囲気が部族的でちょっと怖い。でも絵柄がどれもそんな感じだ。てんちゃんと相模さんはそれでも、上手いこと組み合わせておしゃれに決めてる。鉄くんばっか見てないでこっちに参加すればよかった。

 シールを貼るのは簡単で、水で濡らしたシールを肌に直接乗っけておいて、少ししたらもう完成だった。ちょっと際どいところに貼る人もいるから、男女でカーテンを隔てた場所で貼るようになってた。さすがにこれをめくってまで鉄くんの体を見に行くほど尊厳は捨ててない。見に行きたかったけど。

 

 「正地様・・・ずいぶん際どいところに貼りましたね」

 「そう?こういうところにあるのがおしゃれじゃない?」

 「いよ・・・腋はいよも抵抗が有りますね」

 「若い女の人のお客さんで、こういうところに入れてる人が多いのよ」

 「ほとんどの方は腕や手の甲に入れたりしますね。私は仕事柄、遠慮させていただいていますが」

 「いよは一の腕に!此の様に!いよっ!と見得を切ると映えるのです!」

 「いつ見得を切るのよ」

 「日頃から!」

 「三人ともお〜?終わったかい?」

 

 納見くんと鉄くんもタトゥーを貼り終わったみたいで、カーテンの向こうから声をかけてきた。早速出来上がったのを見せあいっこした。私のを見せたら鉄くんと納見くんは赤くなってた。さすがにちょっと攻め過ぎちゃったかな、と思ったら私まで恥ずかしくなってきた。

 

 「俺はこんな感じだ」

 「ン゛ァッ!!」

 「どうした正地!?」

 「唐突な上腕二頭筋は心臓に悪いわよ・・・もはや歩く18禁だわ」

 「何を仰ってますでしょうか?」

 「いいのいいのお。おれも鎖骨は止めてお腹に貼ってみたよお」

 「いよーっ!締まりのないお腹ですね!」

 「放っといておくれよお」

 

 いきなり鉄くんの力こぶを見せつけられて、心臓がきゅってなった。辛うじて膝をつくだけで済んだけど、もうちょっと鉄くんは自分の肉体美を自覚するべきだわ。不用心過ぎてどっかのよからぬ輩に狙われて返り討ちにしたりしないかしら。

 

 「いよぉ。真似事と申しても刺青が入るだけで何やら浮ついた気持ちに成りますね」

 「ホテルに帰ったらみんなに自慢したいねえ」

 「納見様はともかく、鉄様は本気に取られてしまうかも知れませんね」

 「気を付けよう」

 「さて、そろそろお昼ご飯の時間ですが、その前にやり投げ体験で汗を流しましょう。タヒチ村の方に移動します」

 「フィジーからのタヒチ・・・贅沢な旅行みたいだ」

 

 タトゥー体験でひとしきり盛り上がった後は別の村に移動になった。タヒチ村っていうところは、パッと見た感じではフィジーとの違いはよく分からなかったけど、なんとなく建物が平屋で背の高いヤシの木が目立つように生えてるのが印象的だった。

 

 「タヒチは元フランス領で、現在では周辺諸島を含んだ委任統治領の首都となっております。フランス料理はございませんが、こちらの村ではセンター内で最もアクティブな村となっております」

 「風が気持ち良いですね!常夏の楽園とは此処の事ですか!いよっ!」

 「やり投げ体験はあちらの広場です!他の方の槍が飛んでくることがありますがありますので、十分お気を付けください」

 「槍飛んでくるの!?怖い!」

 「命に別状はございませんのでご安心を」

 「死ななきゃいいわけじゃないぞ・・・冗談だよな?」

 「やり投げは伝統的な狩猟技術が発展したスポーツです。こちらでは島原産の植物を加工した特別な槍を使って、飛距離を競います。男女で基準が違いますので、基準をクリアしたら豪華景品がございます!」

 「豪華景品って?」

 「お昼ご飯が一皿増えます!」

 「てんちゃん氏それ好きだねえ。こっちには鉄氏がいるから期待できるねえ」

 「できるだけのことはしよう。さっきはみっともないところを見せてしまったからな・・・」

 

 もう何人かの人たちが体験してて、びゅんびゅん槍が飛んでる。扇形に整えられた広場に飛距離のラインが引かれてて、赤い基準値ラインの周りに槍が乱立してる。結構クリアしてる人も多いから、鉄くんじゃなくても私たちも頑張ってみたらいけるかも。

 

 「それではまずは女子から参りましょう」

 「てんちゃんさん!御手本を是非見せて頂きたい!いよは槍投げは初体験故に!」

 「私も見たいわ。てんちゃん、こういうツアーを案内してたらやる機会もあったんじゃない?」

 「おれたちにやらせてばかりだからてんちゃん氏のも見てみたいねえ」

 「せっかくだ。紺田も楽しんでくれ」

 「私にやらせるとなったら急に連携が・・・かしこまりました。これでも“超高校級のツアーコンダクター”、旅行のノリで無茶振りをされたり現地のパフォーマンスに巻き込まれることもあろうかと、行程中に何が起きても対処できるよう特別な訓練を積んでいるのです」

 「あれ、なんか変なスイッチ入っちゃったこれ?」

 

 相模さんが悪気無しにてんちゃんにふったのを私がちょっとイタズラのつもりで言ったら、納見くんと鉄くんもノってきててんちゃんもやる気出し始めちゃった。私も悪気はないのよ。でもてんちゃん、日本からガイドしっぱなしだし、なんだかんだ昨日も一緒に写真撮ったりするときに嬉しそうだったから、これも楽しんでくれるんでしょう。腕まくりして、ヒールと靴下を脱いで素足で芝に立ってるし。本当に本気だわ。

 

 「槍は真ん中よりやや先端よりを、指で引っかけるように握ります。力任せに投げるのではなく、助走の勢いを乗せて腰を捻り、全身を風車のように使って投げます。腕を動かすと槍の飛ぶ方向がブレて飛距離が出ませんので、肘や手首の角度は固定です。射出角度は風向きによっても変わりますが、45度を意識すると良いでしょう」

 「本気の説明が始まったわ」

 「普通にやっても飛ぶんだよな・・・?」

 「せっかくですから、一番飛んだ人にはさらに一皿追加することにしましょうか」

 「てんちゃんさんの其の一皿追加する権限は何処から来るのです?」

 「鉄氏の勝ちに決まってるからそれはいいよお」

 「果たしてそうですかね」

 

 そう言うと、てんちゃんは槍を持ったまま後ろに反った変な恰好になった。私たちがそれに突っ込むより先に一陣の風が会場を吹き抜け、その風に乗るようにてんちゃんは助走をつけ、槍を投げた。

 

 「ヌぇい!!」

 「ヌえい!?」

 「いよーっ!?破茶滅茶に飛んだ!?」

 

 槍が空気を貫く音がしたかと思うと、その影はあっという間に視界の奥に飛んでいって、何メートル先かもよく見えない地点にきれいに刺さった。てんちゃんは投げた勢いをしっかり足で受け止めて、一戦交えた後のレスラーみたいなポーズで佇んでた。

 

 「てんちゃん大丈夫!?体弾け飛びそうな勢いで投げたわよ!?」

 「いえ・・・えへへ、照れますね。少し本気を出してしまいました」

 「最強クラスの台詞!」

 「記録は・・・約55m!?」

 「どれくらいすごいのかよく分からないけど取りあえずおれたちの手が届く領域じゃあないことは分かったよお」

 「皆様、やり方は分かりましたか?」

 「投げ方よりてんちゃんさんを見ておりました・・・。いよーっ!いよも頑張ります!」

 「ここまではやらなくていいと思うぞ」

 

 計測係の人が記録を伝えるとどよめきが起きてたから、取りあえずこれがすごいらしいことは分かった。取りあえず、てんちゃんが投げる前に言ってたことを思い出しながら、できるだけ遠くに飛ぶように私たちもやってみた。でも相模さんが約7m、私が10mちょっと。鉄くんは30mを超える大記録だけどてんちゃんの後だから霞んじゃったし、納見くんは投げ損ねた槍が足下に刺さって一回転して尻餅をついて記録なしだった。

 

 「あいたたた・・・」

 「いよーっ!鉄さんも流石ですが、てんちゃんさんの記録が改めて凄まじい物と見えました!」

 「お見苦しいところを・・・」

 「まあ、なんだ。意外だったが、良い特技だと思うぞ」

 「たくさん運動したからなんだかお腹が減ったわ。いま何時?」

 「正地様の体内時計はとても正確ですね。ちょうどお昼ご飯のお時間です。あちらにレストランがございますので、そちらに移動しましょう」

 

 やり投げも一回じゃなくて何回も投げさせられたせいで、終わってみたらどっと疲労が押し寄せてきた。一息ついたらお腹がぐうと鳴って、いつの間にか結構な時間が経ってたことに気付いた。てんちゃんはさすがに手際が良くて、私たちがお腹を空かせるだろうタイミングを見計らって、きちんとレストランに席を用意していたらしい。しかもこのレストラン、ランチとディナーにはハワイアンショーが見られるらしくて、それを見ながらポリネシア料理を楽しめるっていうところだった。

 レストランはステージを要に扇形に広がった客席に、四人掛けの四角いテーブルが等間隔に並べられていて、松明風の照明や南国っぽい観葉植物が飾られていた。天井はあるけど壁はなくて、明るい陽射しや軽やかな風が外からレストランの中に入り込んでくる。気温は暑いはずだけど、じめじめした気持ち悪さは感じない。むしろ気持ち良いくらい。

 

 「皆様のお席はこちらです。恐れ入りますが、後ろのテーブルにもお客様がいらっしゃいますため、鉄様はこちらのお席におかけくださいませ」

 「ああ、そんなことまで。すまん」

 「いよーっ!鉄さんの正面は威圧感が凄まじいですね!正地さん!代わっていただけませんか!」

 「ダメよ。正面に鉄くんがいたら、ステージに余所見してる場合じゃなくなっちゃうわ」

 「ステージは余所見になりませんので、ハイッ」

 「お料理はコースになっておりますので、ドリンクのみオーダーをお願い致します」

 「おれはウ〜ロン茶がいいなあ」

 「じゃあ、私はココナッツミルクにしようかしら」

 「いよは蕃石榴果汁飲料(ばんざくろかじゅういんりょう)を!」

 「俺は炭酸水にしようか」

 「かしこまりました!」

 

 席につくとてんちゃんが店員さんに代わってドリンクの注文を取った。私たちの注文を流暢な英語で店員さんに伝えるのを見ると、やっぱりかっこいいなって思う。ところで、相模さんのばんざくろなんとかで分かったのかしら。

 

 「相模氏、ばんざくろってなんだい?」

 「ふふん!納見さん、若しや御存知無い?南国の果実にて御座います!赤い其の実から絞った果汁を甘味飲料にすると美味なのですよ!」

 「蕃石榴はグァバのことだ。あまり馴染みがないと思うのだが、よく知っていたな」

 「以前、城之内さんにこういったお店に連れて行っていただいたので!」

 「しれっとデートしてること暴露してるわよ」

 「いよぉ///照れますねえ///」

 

 いきなり相模さんが城之内くんとデートしたときの話をし出した。仲良いと思ってたし、城之内くんが相手ならデートくらいするわよね。相模さんがどう思ってるか知らないけど。

 

 「さて皆様。お飲み物が運ばれてきましたよ。お料理とショーももうまもなく始まりますので、乾杯しましょう」

 

 フラダンスの恰好をした人が飲み物を運んできた。もう本当にこの空間は隅から隅までポリネシアン文化に染まっていて、もともと異国の地だけど、また違うところに飛んできちゃったみたいな感覚になる。最初のフルーツサラダが運ばれてきてすぐ、ステージの方に火の点いた棒を持った裸の男の人たちが出て来た。ファイヤーダンスをやるみたい。

 

 「それでは、ショーとランチを楽しみましょう。乾杯!」

 「かんぱ〜〜い!!」

 


 

 シーン18『食い倒れチーム①』

 

 「はふっ!はふっ!」

 「うおォン!俺はまるで人間火力発電所だ!」

 「うぅ・・・こんなチーム選ぶんじゃなかった。恥ずかしい・・・」

 「たまちゃんさんダイジョブですか?あーんします?」

 「するか!スニフ君はされる側でしょ!」

 「はむっ」

 「よく食べるなキミたち。胃袋に穴でも空いてるんじゃないか?」

 

 オレたち食い倒れチームは、イカロスの案内でホテルの近くにある繁華街にやってきた。ここはハワイ料理はもちろん、日本料理や中華、アメリカンもイタリアンもフレンチもトルコ料理もなんでもアリな、まさに食い倒れストリートらしい。さすがに全部の店は回れねえから、イカロスがセンスで選んだ店を回ることになった。今は最初のステーキハウスで、ドデカいステーキにかぶりついてるところだ。

 

 「やっぱりSteak(ステーキ)はおいしいですね。Good(ステキ)です」

 「料理の美味しさよりも、隣でこいつらが勝手にフードファイトするのが恥ずかしいよ」

 「こんなに美味しいんだからいっぱい食べなきゃ損だよ、たまちゃん」

 「そうだぜ。しっかし柔らけえな。肉汁もどばどば溢れてくる。どうやったらこんな風になるんだ?」

 「厨房見学もできるけど・・・行ってみるかい?」

 「食べおわってからな!食事中に席を離れるなんてマナーがなってねえぞイカロス!」

 「ごめん・・・」

 「謝っちゃった。あんたガイドなんだったらちゃんとこいつら止めてよね!」

 

 昨日の晩飯でもステーキは出て来たが、あのときは食べられなかった部位もあるし、ラムチョップとかカジキマグロなんて珍しい肉のステーキもあるんだ。この後の予定も考えながら、それでも全部制覇しねえと“超高校級の美食家”の名が廃るぜ。

 

 「ていうか、一発目からステーキってどうなの」

 「本当はここのロコモコが美味いから、それのミニを最初に味わってもらおうかと思ったんだけどな」

 「ロコモコか!それもいいな!スニフ注文!」

 「私も食べてみたいな。大盛りにしてね」

 「は、はい!」

 「話聞いて」

 

 なんだよイカロスのヤツ!ここのロコモコが美味いなんて初めて聞いたぜ!早速スニフに注文してもらったけど、たまとスニフとイカロスはいらねえらしい。もったいねえことするな。スニフが注文したら店員がオレと研前のことを丸い目で見てきてた。まあ自分が作った料理を美味そうに食べられてるの見たら嬉しいよな。

 

 「ちなみにこの後ってどういう予定なの」

 「繁華街の方を街ブラしながら、おすすめの食べ歩きスナックを食べる予定だ。マラサダとか、おにぎりとか」

 「もぐ。マラサダって、もぐもぐ、なんだったっけ?」

 「インド風の辛いサラダ?」

 「なにそれ?」

 「ハワイ風の甘いドーナツだよ。中にホイップクリームが入ってて、周りに砂糖がまぶしてあって、パン生地はさっくさくなんだぜ」

 「ごくり・・・ボクそっちの方が食べたいです」

 「それと、おにぎり?ハワイに来ておにぎりなんて食べるの?」

 「スパムおにぎりってのが有名だぜ。塩漬け肉を巻いてあるヤツ」

 「それもいいが、食べるのはシンプルな塩にぎりだ。ハワイには日本にも負けないおにぎりの名店があるんだぜ」

 「じゅるり・・・食べたいです」

 「けどなあ。アンテナガールとポニテボーイが満腹になったら予定を変えなくちゃいけないかも知れないな」

 「うん?全然大丈夫だけど?」

 「自分の腹具合も分からねえで美食家なんか名乗れねえぜ!これくらいじゃまだ満腹にはならねえぜ?」

 「あんたたちホント、いい加減にしなよ。メニュー全制覇するつもり?世にも奇妙なストーリーか」

 「そうだな。ロコモコ食ったら次行くか」

 

 そんなこと言ってたら、すぐにロコモコもやってきた。ほかほか飯の上にぷっくり膨らんだ肉汁たっぷりのハンバーグと黄金色の目玉焼き、新鮮なしゃきしゃきレタスにパプリカも乗ってる。やっぱりハワイに来たらこれ食べねえとな!いやー美味そうだ!

 

 「この店はこれでおしまいか。名残惜しいぜ」

 「いただきます・・・!」

 「散々食べてきてなんでそんな新鮮な気持ちになれるのよ」

 「こなたさんこなたさん、早く次のお店行きましょうよぅ」

 「いま食べるところだから。静かにしててスニフ君」

 「ぴえん」

 

 いくらロコモコが美味そうだからって、そんな無碍にするもんじゃねえぞ。スニフだって早く次の店のマラサダ食べたいんだよな。マラサダにはどんな飲み物が合うだろうかな。っと、いけねえ。まずは目の前のロコモコに向き合わねえとな。

 デッカいハンバーグに箸を通すと、水風船が割れたみたいに肉汁が溢れて真っ白な米に染み込んでいく。ケチャップベースのオリジナルソースをかけて、目玉焼きの黄身を絡めてレタスの葉で米ごと巻く。そのままかっ込むのも魅力的だが、どんぶり物の真髄は自分なりの食べ方をそれぞれが追求できることにある。まずはレタス巻きだ!

 

 「あ〜、幸せ・・・♡」

 「このソース美味しいね。ミニロコモコだけどもっと食べたくなっちゃう」

 「Yummy(うんまー)!」

 「そんで後はひたすらかっ込む!!」カカカカカカカカッ

 「ボクも!!」カカカカカカカカッ

 「お行儀悪いよ二人とも」

 

 やっぱどんぶり物はこうやってかっ込むに限るな!ふわっふわハンバーグの肉感と酸味溢れるオリジナルソースが重なった複雑な味わい!熱々の米と卵がその強い刺激を受け止めてマイルドにしてくれるお陰でくどくなくて、レタスの清涼感が後味をさっぱりとさせてくれる!めちゃくちゃうめーぞこのロコモコ!ここマジでステーキハウスか!?もったいねー!!

 気付いたらあっという間にどんぶり一杯を食べ尽くしてた。最後に水をコップ一杯あおって、この店の食事はそこで終わりになった。さすがにこれ以上食べたら次の店から何も入らなくなっちまう。まだまだこれからカロリーもヘビー級な食事が続くはずだからな。セーブしておかねえと。

 

 「ごちそうさまでした!」

 「本当だよ」

 「どうする?次の店本当に行く?」

 「もちろん!マラサダ食べたい!おにぎりも!」

 「キミたちが食い倒れる前に希望ヶ峰学園の資産が倒れるかも知れないな」

 「ここでの食事代も全部学園が持ってくれるっていうんだから太っ腹だよね。おかげで遠慮無く食べられるよ」

 「たまちゃんたちに遠慮してよ。あんたたちと一緒にいると視線が集まって恥ずかしいんだよ」

 「でもたまちゃんさん、Idol(アイドル)ですよね。見られるのヘーキじゃないですか?」

 「アイドルに向ける目とびっくり人間に向ける目は違うでしょ」

 「はあ」

 

 イカロスが束になった伝票を持ってレジに行って、山ほどレシートを持ち帰ってきた。あれを丸ごと希望ヶ峰学園に送らねえといけねえらしい。大変だな、ガイドってのは。

 オレはこの店で腹4分目くらいまでいった。最初の店だからってちょっと張り切り過ぎたかな。ステーキもロコモコもあるってんだから、まあ今の所はこれくらいでいいか。これから歩いてく中で減ってったりもするだろ。

 

 「研前はいま腹何分目くらいだ?」

 「う〜ん、いっ・・・2分目くらいかな」

 「人間か?」

 「あんたが言うな」

 「じゃあ次のお店に行こうか、みんな。しばらく食べ歩きするから、常識的な量にしてね」

 「もちろんですよ?お腹いっぱいになって食べられないなんてもったいないですからね。ちゃんとお腹と相談して決めます」

 「たまちゃんたちと相談しなさいよ」

 

 店を出るとまだ昼前だった。いつもだったら間食でステーキとロコモコンなんてあり得ねえけど、まあ今日ばかりはいいだろ。その後はイカロスの案内で繁華街の方に歩いて行った。暑くて汗がだらだら出て来て、それだけで腹が減りそうだ。熱中症にならないよう塩を混ぜた水を飲みながら、人混みの中をすり抜けるように歩いて行く。やっぱりシーズンってだけあって、ハワイは混んでるな。

 

 「スニフ君、迷子になっちゃダメだよ」

 「だいじょぶですよ。まいごになってももどってこられますから」

 「下越の方が迷子になったら終わりだよね。研前は幸運だし、たまちゃんだって英語ちょっとくらいできるから」

 「下越君、迷子になっちゃダメだよ」

 「ガキかオレは!」

 

 馬鹿にしやがって!オレだって英語くらい分からあ!Aが「あ」でIが「い」だろ!しかしまあ、離ればなれになって合流するためにあくせくするのも時間がもったいねえし、イカロスの案内がねえとさすがにどこがどこだか分からねえし、迷子にならないように気を付けるに越したことはねえか。当然だが。

 

 「次の店にもう着くけど、本当にキミらお腹大丈夫か?」

 「うん!マラサダって何種類あるのかな」

 「さっきの今でコンプしようとするな!恥ずかしいっつってんだろ!」

 「ここの店だ」

 

 繁華街の海側に、浜辺が見えるように壁が抜けてる店があった。マラサダ専門店っつうより、南国スイーツ全般を扱ってるらしい。マラサダのディスプレイもあるし、フルーツが並んだ八百屋みたいなスペースもあるし、シャーベットやかき氷やハロハロまで置いてある。

 

 「ここではマラサダだけ食べるんだよ。それ以外は経費で落ちないからね」

 「自腹を切ればいくらでも食べていいってこと?」

 「マラサダ以外に手を出すなってことだよ!いい加減わかれ!」

 「ボクこのStrawberry(イチゴ)のがいいです!」

 「私はレモンチーズクリームのマラサダにしようかな。あと」

 「一個だけにして。お願いだから」

 「色んなフレーバーがあるんだな。オレはシンプルなヤツにしとく」

 「たまちゃんはチョコ!」

 

 さすがにここでまた時間を食うのは困るらしく、イカロスが研前にストップをかけてた。マラサダ美味いけど、そう何個も食うもんじゃねえからな。まあ繋ぎに軽くいっとくか。

 店の中はスイーツのディスプレイで全体的にキラキラしてて、控えめなBGMと波の音が混ざって耳に入ってくるから、なんとなく居心地が良い雰囲気になってた。ドデカい氷の塊も店の真ん中に設置してあって、店の中はひんやり涼しかった。ビーチがよく見える席に陣取って、イカロスが注文したマラサダを持って来てくれた。頼んでないジュースまで来たけど、それはサービスらしい。ハワイは観光客に優しいな。

 

 「これがマラサダか〜。確かにドーナツみたい。日本にもあるよね。ムッシュドーナツ」

 「あまァーーーーーーーーい!!」

 「ん?なんかいま懐かしい気配がした」

 「Yummy, yummy(ウマウマ)

 「もっと懐かしい気配がした」

 「揚げたてはやっぱり美味しいね。いくらでもいけちゃいそう」

 「ちなみに本来のマラサダは中にクリームは入ってないシンプルなドーナツなんだ。お土産にするならそっちの方がいいよ」

 「生クリームはさすがに持って帰れねえからな。いくらか買って行こうか」

 「ほらスニフ君、口の周りにクリームと砂糖ついてるよ」

 「むぐむぐ」

 

 外側の生地はカリサクっとして口当たりが良くて、まぶしてある砂糖が口の中で強烈な甘さに変わる。油が染み出てくるようなふわっふわの中の生地が、固めにホイップされたクリームと混ざって、砂糖の甘さを和らげて深みのある味わいにしてる。これは可愛らしい見た目に似合わずジャンキーだ。

 

 「すっごいカロリー爆弾の予感・・・」

 「たまちゃん、カロリーとか気にしてるの?」

 「当ったり前でしょ!たまちゃんはアイドルなんだから、体型維持とか体力作りとか、その辺の運動部より頑張ってんの!」

 「それにしちゃあテレビで見るときは『ボウリング球より重たいもの持てな〜い』とか言ってたような」

 「大概のもの持てるんじゃない?」

 「あんなのキャラ造りに決まってんでしょ。どうせ間に受けてる馬鹿なんかいないんだから、可愛く見せるテクニックは全部駆使するの。そういうもんなの」

 「もぐもぐ」

 「スニフ君、砂糖こぼしてる」

 「むあ」

 

 スニフの小さい口ででっかいマラサダを無理して食べるもんだから、口の周りはベトベトになるしズボンに砂糖はこぼれるし、研前が自分の口は止めないままあれこれ世話してやってた。マラサダばっかで喉が渇いてマラサダがつっかえそうになったから、無料のジュースを飲んでみた。かなり薄味だったけどほんのり酸っぱくて、甘ったるいマラサダによく合った。南国っぽいし雰囲気もばっちりだ。

 

 「こっちのはなんのジュースだ?」

 「ドラゴンフルーツって知ってるかい?ピタヤとも言うんだけど、あそこに並んでる赤い果物さ」

 「見た目は結構エグそうだけど、飲んでみると爽やかで美味しいね」

 「ごくごく」

 「スニフくんもよく食べるしよく飲むね。さすが子供は甘いもの好きだね」

 「子供だからじゃないです!ここのがおいしいからですよ!」

 「はいはい。そういうのはもうちょっとキレイに食べられるようになってから言いなよ」

 「むすっ。たまちゃんさんがいじわるです」

 「いや、実際こぼしすぎだぞ。アロハシャツ砂糖まみれじゃねえか」

 

 美味いマラサダに美味いジュース、ひんやり涼しい空気にときどき吹いてくる熱気混じりの風。絶えず聞こえてくる波の音。やっぱりハワイは最高だぜ。まだ午前中で昼飯前だってのに、このままずっとここにいたい気分になってくる。まだ出会ってないハワイ名物がわんさかあるってのに。

 

 「この後はどういう予定だっけ?」

 「おにぎり屋でおにぎりを食べて、その後レストランで昼食の予定」

 「いや、おかしい」

 「食い倒れツアーだからね。というか最初の店であんな馬鹿食いするとは思ってなかったから、まだ満腹の心配なんかしてなかったんだけど」

 「おにぎり一個くらいなら食べられるけど、それとマラサダとロコモコ丼食べて、そこからお昼ご飯なんて食べられるかな」

 「でも昼食はハワイ名物のカルアポークだよ。豚肉とキャベツを崩せるくらい柔らかくなるまで煮込んで、パンに挟んでサンドウィッチにしたり、プレートでライスと一緒に食べても美味しいんだ」

 「ごくり・・・!カルアポークか!美味そう!」

 

 肉ならさっきもステーキを食ったけど、今度は豚肉か。しかも柔らかくなるまで煮込んだとあっちゃあ、ステーキとはかなり違うもんになりそうだ。サンドウィッチなら軽食程度に食えそうだし、まだまだ胃袋は余裕そうだ。晩飯もあることだし、きちんと調整しねえとな。

 

 「おい研前。ちゃんと晩飯食えるようにしとけよ。あんまり馬鹿食いばっかしてっと、晩飯の時間はトイレに引っ込むことになるぞ」

 「え?なんで?まだまだお腹ペコペコだよ」

 「マラサダおかわりしといて言う台詞じゃねえ・・・」

 「自腹切ってでもまだ食べたかったんだ」

 「おいしいですね!こなたさん!」

 「うん。おいしいね」

 「ちょっとアンタ。引率なんだからちゃんと注意しなさいよ」

 「いやあ、なんかここに水差すのもどうかと」

 

 前から研前の大食いっぷりには冷や汗かかされたこともあったけど、学園が全部持ちの旅行ってだけあって、いよいよこいつの化け物っぷりが本気出してきた。マジで、こいつが食い倒れるのが先か、ハワイ中の食べ物が食べ尽くされるのが先かみたいになってきた。ほとんど災害だろこんなの。

 

 「あんたが言うな」

 

 頭で考えてるだけだったのに、たまに突っ込まれた。心が読めるのか。

 

 「さ、そろそろレストランに行こうか。またここから少し歩くよ」

 「もーたまちゃん暑い中歩きたくないー!バス乗りたいよー!」

 「なるべく日陰歩くから」

 「ちょっとアンタ、日傘貸すから差しときなさい。引率なんだからそれくらいしてよね」

 「え、引率ってそういうことかな・・・」

 「こなたさんもSun burn(日焼け)したらたいへんです!ボクのStrawhat(麦わら帽子)かしたげます」

 「クリームいっぱい塗ってきたから大丈夫だよ。スニフ君が被ってた方が似合ってるよ」

 「じゃあかぶってます!」

 「単純だな」

 「テルジさんに言われたくないです」

 「なんでだよ!」

 

 食器をカウンターに返却して、オレたちは次の目的地に向かって歩き出した。と言ってもハワイは施設が近いし、繁華街は日陰も多いから、たまが言うほど陽射しの下は歩かないで済みそうだ。でもイカロスは気圧されて律儀に日傘を差してた。貧乏くじ引かされたみたいな顔してたような気がしたけど、特に気にしないことにした。さーて、次は昼飯か!楽しみだ!




ハワイ編の更新です。思ったより長くなってしまったので前後編に分けました。
ハワイ行きたい。
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