シーン23『3日目の朝はまたホテルバイキング』
昨日の夜はとことん楽しかった。ビーチで焼きたてのステーキをお腹いっぱい食べて、お酒を飲んで酔っ払ったハワイ三銃士がファイヤーダンスを見よう見まねでやったら服に引火して、慌てて海に飛び込んだらそのまま帰って来なかったことがあったけど、夜寝る前くらいに紺田さんが安心した様子で電話をしてたから、たぶんどこかの防波堤に引っかかってたんだと思う。
私たちは昼間の疲れもあって、お腹いっぱいのままホテルに帰ってシャワーを浴びたらすぐにベッドに入った。本当は修学旅行定番のお部屋でトークとかもしたかったけど、そんな元気もなくなっちゃうくらいに昨日は楽しみ切った。
「んん・・・」
部屋に戻ってきてからの記憶が曖昧だ。荒川さんは食い倒れて極さんに肩を借りてた気がする。虚戈さんはテンションがあがってスニフ君を胴上げしながら帰ってきてたかも知れない。カーテンを閉めたりバスルームの換気扇を付けることも、何もしないままベッドに倒れ込んだ。
壁に掛けてある時計をふと見る。昨日の夜、紺田さんは次の日の朝、何時集合って言ってたっけな。飛行機の時間があるから、厳守でって言われてたけど。
「起きろォ!!遅刻だ!!」
「わあっ!?」
「きゃっ」
いきなり横から聞こえてきた大声に、ベッドの上で飛び上がってそのまま床まで落ちちゃった。その勢いで虚戈さんとスニフ君と荒川さんも床に落ちた。寝起きのせいで声がいつもの調子と少し違うけど、リビングルームから髪を下ろしたままの極さんが寝室に怒鳴り込んできてた。
「うっかり二度寝してしまった・・・私としたことが。急いで荷物をまとめて出るぞ!飛行機に乗り遅れるぞ!」
「なん・・・だと・・・!?」
「うわーん!まだ眠たいよー♣」
「ハワイに取り残されたいヤツは残れ。私はお前たちを見捨ててでも日本に帰る」
「朝っぱらからすごい大事になってきた」
「ま、待て・・・メガネメガネ・・・」
昨日の朝も虚戈さんのせいでてんやわんやだったけど、今朝もてんやわんやだ。時計を見ると、紺田さんが教えてくれたロビーの集合時刻の3分前だった。まだ寝起きで頭が上手く回らなかったけど、それがまずいことだけはなんとなく分かった。
「なんで誰も目覚まし時計をかけてなかったんだ!」
「昨日はみんな疲れてたから忘れて寝ちゃったんだね♢」
「レイカさんどーしてもっと早くおこしてくれないんですか!」
「起こそうと思ったのだが、余裕があったからリビングでうたた寝してしまっていた・・・」
「うたた寝っていうか二度寝なんじゃ・・・」
「いいから早く準備しろ!」
大慌てでその辺にうっちゃってた服をかき集めて、洗面所に行って顔を洗って髪を梳かして服を着替えてちょっとスマホを・・・。
「置いて行くぞ!!」
慌ててるはずなのに、ついいつものクセでのんびりしちゃいそうになる。ハワイでこんなに忙しなくなるなんて思いもしなかった。結局、紺田さんに言われた時刻を10分くらい過ぎちゃってから部屋を出た。これでも髪はボサボサのままだったし、コーディネートもその辺にあったものを適当に合わせただけのものだし、こんなんで人前に出るのちょっと恥ずかしい・・・。でも飛行機に遅れちゃうよりはマシだ。
「皆様、昨夜は遅くまでお楽しみだったようで、皆様が一番乗りでございます。仕方がないので、集合時刻は1時間ほど遅らせて、その間に朝ご飯としましょう。飛行機は余裕を持ってスケジューリングしておりますので、ご心配なく。ハイッ」
「睡眠時間を返してほしい」
「・・・なんかすまん」
「極さん、今日はなんかもうボロボロだね。まだ疲れてるんじゃない?」
「そうかも知れん・・・私はもうひと眠りして来る」
「朝ご飯は急遽ですので、昨日と同じバイキングになります」
「うーん、なんだか寝起きで胃袋が開いてないけど、何か入れておこ」
「完全なフリだねこれー♬」
極さんは頭を抱えながら、荷物を持って部屋に戻っていった。私たちは紺田さんから渡されたチケットを持ってバイキングに行って、昨日と同じようにご飯を食べた。私たちがレストランに入ったら、ウェイターさんが真っ青になってシェフの人たちがどかどかと厨房に入って行ったけど、これから混む時間帯なのかな?
「
「朝はパーン♡パパンがパン♬」
「和食まで用意されているのはやはりありがたい・・・叩き起こされて弱った胃袋に味噌汁の出汁の味が染み渡る・・・」
「今日はちょっと控えめにしておこうかな」
「3皿はひかえめですか?」
「それも全部山盛りー♡」
「忘れていた・・・研前とバイキングに来ると大恥をかくというのを忘れていた・・・。極め、体よく逃げたな」
コーンポタージュからゆっくり飲んで、徐々に体を目覚めさせていく。食道から胃に落ちたポタージュの温もりが、指先までほぐすように体全体を温めていく。新鮮なサラダで口の中をさっぱりとさせてから、味の薄いおかずやご飯から食べて徐々に味覚を本調子にしていく。しょっぱいおかず、甘いおかず、辛いおかず、旨味深いおかず、さっぱりしたおかず、コクのあるおかず、色んな味が次から次へとお皿から口に運ばれていく。うん、だんだん調子出て来た。
私たちが朝ご飯を食べおわる頃、ようやく他の部屋のみんなと極さんが降りてきた。みんな昨日の夜は疲れ果ててそのまま寝ちゃったらしい。むしろ私たちは早く起きた方だ。極さんが叩き起こしてなかったら、たぶんみんなと同じくらい遅くまで寝てたんだろうな。朝ご飯を食べ損ねるところだった。
「ハイッ!皆様、よくお眠りになりましたか?いよいよハワイも本日で最終日。飛行機の時間までまだ余裕がありますので、最後にお土産ショッピングをしに参りましょう」
「やったー!お土産ショッピング!」
「ここは自腹だからな。あんまり無茶な買い物できないぞ」
「いよ・・・然し此の様な海外旅行が出来ぬ様に為る日が若しや来るやも知れません。今の内に思い残しの無い様、又日本に帰った後に布哇の思い出を思い起こす事が出来る様に、良いお土産を選びたいものです」
「いや、いつでも来られるだろ。授業終わりでも間に合うぜ?」
「やっぱりお土産と言えばマカダミアナッツだよねー」
「てんちゃんオススメのお土産も教えてほしいわ」
「ハイッ!それでは皆様、バスにお乗りください!お土産ももちろんですが、これから参りますはこのハワイ最大のショッピングセンター!世界中の一流ブランドが軒を連ねるまさに観光客にとっての理想郷!行き先はもちろん、アラモアナショッピングセンターでございます!」
「わーい舌噛みそうな名前ー♡」
がっつり寝たおかげで、みんなしっかり英気を養って元気いっぱいだ。私たちはお腹いっぱい朝ご飯を食べられたけど、他のみんなは紺田さんがホテルのバイキングからもらってきたパンにバターやジャムを塗って、バスの中で食べてた。私もちょっともらった。
シーン24『アラモアナショッピングセンター!!!・・・そして帰国』
これから今日1日は着替えや旅行用品がたくさん入ったスーツケースと一緒に行動するから、お土産選びも気を付けなくちゃいけない。両手に大荷物を持ってさらにスーツケースもあるんじゃ、財布を出すのも一苦労だ。そういう隙を狙ったスリもいるって聞く。荷物は少ないに越したことはない。
そんなことを考えているうちに、バスはすぐにアラモアナショッピングセンターに到着した。荷物をバスに残して貴重品だけを持って、私たちはバスを降りる。紺田さんの案内でショッピングセンターに入ると、ひんやりと涼しい空気が顔から全身を包み込む。ちょっと肌寒く感じるくらいだ。
「うっひょーーー!!でっけーーー!!」
「すご・・・!これ全部お店?」
「中庭もあるぞ!!ヤシの木がめっちゃ生えてる!!」
「最終日までよく晴れて、本当によかったな」
「皆様に一枚ずつ智頭をお渡しします。お土産物ショップはこちらのエリアにございます。高級ブティックや時計店など、高価なものが並ぶエリアもありますから、みなさま身の振り方にご注意を」
「さり気なく見下されてる?」
「そんなことはありません。高級店の雰囲気にあてられてワケの分からない買い物をしてしまう観光客が後を絶ちませんので。もちろん、その場では正式な取引のため、私はお止めできませんのであしからず」
「アンタみたいなヤツがそうなんのよ」
「オレより野干玉の方だろ!」
「集合は13:00にこちらの広場にしましょう。ショッピングをしてからお昼ご飯を食べて、その後空港に向かいます。本当にハワイで最後に訪れる場所になるので、思い残しをしませんように」
「「はーーーい!!」」
「散ッ!!」
「周りの迷惑にならないようにお願いします!!」
紺田さんが言う集合時間までは、だいたい2時間くらいだ。それまでにいいお土産を見繕って、予算内に収めなくちゃいけない。お土産を買うのには十分なくらいは残してるけど、こうやって色んなお店が並んでるとどこで何を買おうかすごく迷う。定番のお土産や簡単な民芸品なんかはきっと空港でも買える。だからここでしか買えないものを買いたいけど、何がいいかな。
「見て研前さん、ここジュエリーショップよ」
「うわあ・・・きれい・・・」
「鉄氏的にここはどうなんだい?信頼していいところかい?」
「当たり前だ・・・。ここにある店はどれも真っ当な商売をしてる。昨日のところと一緒にしたら失礼だぞ」
「どれもすっごい値段だね。さすがにこれは予算内に収まらないよ」
「高級店が並ぶエリアだからねえ。店員さんに声かけられる前に早いとこ退散した方がいいよお」
「ねえ、ジェラート食べない?」
「おい・・・予算が減るぞ」
「お腹が減ってるんだよ」
「さっきパン食べたでしょ。お昼まで我慢なさい」
「こなたさん、ガマンです」
「おいしそうなのに・・・」
ジュエリーショップやブティックやブランドショップ、時計店まで、ここにある0全部でいくつあるんだろう、なんてことを考えてしまうくらい高級な品物が並んで、目が回ってくる。納見君が言うように、早いところ離れないと金銭感覚が狂ってきそうだ。慌ててお土産物エリアまで移動すると、今度は色んなものに目移りして仕方ない。
サーバーの中でかき混ぜられてる色取り取りのスムージーや、ショーケースの中に並んだカラフルなジェラートの数々、香ってくるクレープの甘い香りに、艶やかなフルーツたち。民芸品の人形があちこちで首を振ったり手を振ったり、踊ったりして存在をアピールしてくるし、天井近くの壁には怖い顔のお面や置物がじっとこっちを見つめている。かと思えば目線の高さには、ハワイの観光地を模したマグネットやフラダンス人形のくっついたボールペンがずらりと並んでいた。ペナントに絵葉書にサングラス・・・なんだか、さっきまで高級店エリアにいたせいで、すっごくチープに感じる。これはこれで金銭感覚が狂いそう。
「スニフくんスニフくん」
「なんですか──」
「ばあっ!」
「
「あははっ、驚き過ぎよ。ただのお面よ」
「ティキで遊ぶな正地・・・それを買うのか?」
「こういうのがあると部屋の雰囲気がグッと変わるのよね。ハワイアンマッサージを突き詰めるなら、こういうのを買うのもありかも」
「どうやって持って帰るつもりだい?」
「・・・鉄くん、お願い」
「それはさすがに断らせてくれ」
ティキっていうハワイの守り神らしい木彫りの像やお面があちこちにあって、正地さんに驚かされたスニフ君はそこら中のティキと目が合っては飛び上がってた。意外にも正地さんがこういう民芸品的なヤツの中でもあんまり買って帰らないヤツを気に入ってる。納見君は無難にお菓子や置物を見てるけど、徐々にティキの複雑な作りに興味津々になっていった。これは二人ともティキ買う流れだ。
鉄君とスニフ君はティキから離れて、お菓子の試食やガラス細工やハワイの観光地を模したマグネットなんかを手にとって見る。私もそっちの方に行こうっと。お菓子食べたいし。
「マカダミアナッツにクッキー、バターにハチミツ、ハワイアンコーヒーも。選り取り見取りだね」
「あ。ティキ・・・」
「え?」
「すまん、研前。スニフを見ていてくれ。俺もティキを買うんだった」
「え!?なんで!?急にどうしたの鉄君!?」
「やめたほうがいいですよサイクローさん!よるに
「止めてくれるな。俺にはやらなければならない理由がある」
「何を背負ってお土産選んでるの・・・?」
「ああ、そうだスニフ。ひとつ英語を教えてくれ」
「なんですか?」
「“この店で一番大きなティキをください”って何て言うんだ?」
「
スニフ君に丁寧に英語を教えてもらった鉄君は、ぶつぶつ復唱しながらお店の奥に向かって行った。たぶん家まで配送してもらうんだろうけど、鉄君までティキを欲しがるなんて・・・。もしかしてティキって結構メジャーなお土産だったりするのかな?知らない私の方がおかしいのかな?
「こなたさん!こなたさんはティキいらないですよね!?ティキらないですよね!?」
「大丈夫だよスニフ君。私はさすがにティキらないから。それに私のお小遣いじゃ、ティキったら他に何も買えなくなっちゃうから」
「よかったです。こなたさんまでティキったらボクいやでした」
「結構ティキってるお店が多いみたいだから、他のみんなももしかしたらティキってるかも知れないね・・・」
「ボクそんなのヤです。みなさんティキってても、ボクたちはティキらないでいましょうね」
「うん、そうだね」
ティキるってなんだろう。
「いよーっ!金銀宝石雨霰!!玉手箱をひっくり返したかの様な煌めく玉の数々!!素晴らしいですね!!城之内さん!!」
「ったりめーだ。ハワイ最大のショッピングモールだぞ?さてと、なんかおもしれーもんねーかな。リスナープレゼントだろ。スタッフ用だろ。出待ちファン用だろ。それからそれから・・・」
「いよ?城之内さんは随分と沢山お土産を買われるのですね」
「ハワイうろついてるのファンに見られちまったからなー。見られたからにゃなんかプレゼントがねえとファンが羨ましがってしょうがねえからさ」
「いよも父上、母上、父方の祖父母、母方の祖父母、その他親戚ご近所さんに先生方お弟子さん方諸々等々」
「お前も十分多いじゃねえか!配送料幾らになるんだよ!」
「然しいよは布哇土産については何が良いのかとんと見当が付きません。城之内さんも一緒に選んで頂けませんか?」
「いいぜ!お前らの親戚がブッ飛ぶようなモン選んでやるよ!」
「相模ちゃん、やめといた方がいいと思う」
「俺も」
「んだよ!入ってくんじゃねーよ!」
ショーケースにへばり付いて目を輝かせる相模に、城之内が怪しく近付いて行く。まあその気になればちゃんとしたものも選べそうだけど、今のは完全にネタに走る感じだった。相模の家のことはあんまり知らないけど、たぶんそういう冗談が通じる相手じゃない。相模がいざ城之内に言われるがまま土産を持って帰ったら、マジで全員ひっくり返りそうだ。
「おい茅ヶ崎!ちょっとこっち来い!」
「な、なんだよ」
「せっかく俺がお前と雷堂を二人っきりにしてやろうと思って、相模の相手をしてやってんだろ。ちゃんと空気読んで引っ張っていけよ。雷堂にゃ絶対分からねえんだからよ」
「なっ・・・!!よ、余計なお世話だッ!!別にアタシはそういうつもりで来てねーし・・・普通にハワイ楽しむつもりだっただけだし・・・」
「お前なあ、普段の学園生活で言い出せねえヤツが、修学旅行で海外来てこれ以上のチャンスなんかねえぞ?あったとして次のチャンス卒業式だぞ?いや、それより前に紺田とか、カリキュラム近いヤツに取られるかも知れねえぞ?」
「うぅ・・・そ、そりゃ紺田さんは肌白くてキレイだし・・・背筋も伸びてしゃっきりしてて、なんか雷堂の隣が似合ってるけど・・・」
「なんでこんなに奥手かねえ。カッコはヤr──ほばっ!!?」
「き、極ちゃん!?」
「不埒の気配がした。大丈夫か茅ヶ崎」
「だ、だいじょぶ・・・」
「うわーっ!?城之内が吹っ飛んだと思ったら極がいた!?なんだ今の!?必殺技かよ!?」
「ただの掌底だ。それより、何の騒ぎだ」
「お前が一番の騒ぎだこんにゃろう!!いてえな!!」
「うわっ!生きてた!」
一瞬目を閉じたと思ったら、開けたときには城之内のいた場所に手を付きだした極がいた。吹っ飛ばされた城之内は店の商品の隙間に器用に倒れ込んで、俺と茅ヶ崎と相模は呆気にとられるばかりだった。首をヘンな方向に曲げながら城之内は極に抗議する。なんだこの状況。
「お、おい極。いきなりどこ行ったかと思ったらこんなところで何してんだよ・・・ってなんだ。雷堂たちじゃねえか」
「須磨倉。お前が極と一緒なんて珍しいな」
「いやあ、まあな。妹に買ってく土産を選んでもらってたんだ。俺には女のチビが喜びそうなものなんか分からないからさ」
「私も須磨倉の頼みを受けるのに吝かではないが、この輩を放置しておくのは気が引ける。いつ相模と茅ヶ崎に手を出すか分からん」
「出さねえよ!!オレはファンとそういうのはしねえ主義だ!!」
「誰がファンだ!!」
「なんでもいいけどよ。あんま騒ぐと紺田に叱られんぞ。それよか極。早く行こうぜ」
「二人とも、何かあったらすぐに私の名前を呼べ」
「どこのヒーローだ」
相変わらず極は城之内に手厳しい。ていうか、極の本気の技を受けてぴんぴんしてる城之内の頑丈さも大したもんだ。案外相性がいいのかも知れないな。
「あ〜くっそ、なんの話だったか忘れた」
「アンタ、まだ首ヘンだよ。絵本の挿絵みたいな角度になってるよ」
「逆になんで折れてないんだ・・・正地に治してもらいに行ってこいよ」
「ああ、そうする。おい相模。歩くの手伝ってくれ。このままじゃ真横しか見えねえんだ」
「いよーっ!お安い御用!では参りましょう!おいっちに!おいっちに!」
頼まれた相模は意気揚々と城之内の手を引いて、正地を探しに行った。前に同じようなことになったときに正地の施術を見たけど、見てるだけで首のあたりがざわつく治し方だった。極にどつかれて正地に治されて、そのうち城之内の首、一周するようになるんじゃないかな。
と、気付いたら茅ヶ崎と二人になってた。参ったな。茅ヶ崎はこうなるとなんだか言葉数が少なくなるし、目も合わせてくれなくなるんだよな。たぶん嫌われてんのに、俺なんかと二人きりになったら気分悪いよな。
「・・・なあ茅ヶ──」
「ら、雷堂!!」
「うおっ!?な、なんだ・・・?」
「お、お土産・・・選ぼうか!」
「え・・・ああ。そ、そうだな。選ぶか・・・」
やけに鼻息荒くして、茅ヶ崎は海産物を使った土産物がたくさん並んでる店に入っていった。何を緊張してんだろ。ああ、高い買い物するからか。荷物持ちくらいはしてやらないと、さすがに悪いな。俺なんかと一緒に土産物選びしてくれる上に、無理して会話までしてくれてんだから。別に無理しないで城之内と一緒に行けばよかったのに。
うおおおおおおおおおおっ!!自分はハワイの超特急SLっす!!どこまでも!!どこまでも突っ走っていくっすよ!!うおおおおおおおっ!!
「たまちゃんさん!!ダチョウのカバン買ってきたっす!!お釣りどーぞ!!」
「オストリッチのバッグって言いな。釣りはあげる。お駄賃」
「ありがとうございます!!次はどこまで走ったらいいっすか!?」
「じゃあ今度は行列のできる限定クレープでも買ってきてもらおうかな。アイスが溶けないうちに、崩れないように全速力で丁寧に持って来てよ」
「無茶苦茶言うなよ!?」
「行ってくるっす!!」
「皆桐ーーー!!なんでお前はそんなに素直なんだ!!」
たまちゃんさんに言われるがまま、自分はアラモアナショッピングセンターのあちこちを走り回って、キレイな宝石とか豪華なカバンとか、クレープにアイスにアクセサリーに、色んなものを買ってきてるっす。色んなお店が並んでて歩いてる人たちも色んな国の人がいて、こんなに走ってて飽きない場所はないっす。もちろん、紺田さんに迷惑をかけないよう言われてるっすから、人混みを避けて間を縫うようにステップを踏んでるっす。ちゃんと身体的距離もとってるっすよ。皆桐は急には止まれないっすから!
たまちゃんさんに言われた人気のクレープ屋さんは、お昼前だからかちょっと人気が少なかったっすけど、店の前に並んだクレープのサンプルはどれもこれもキラキラしてて美味しそうっす!どれにするか迷うっすね。そういえばたまちゃんさんに何味を買って来ればいいか聞き忘れたっす!どうしよう!
「ん〜。やっぱここはハワイらしくココナッツミルク入りのパインクレープじゃねえか?」
「いいや。ヌバタマはストロベリークレープが好きだ。いかにもイチゴが好きそうではないか。そうは思うわんか、
「そうっすねえ・・・あれえ!?なんで下越さんと星砂さんがいるっすか!?じ、自分、もしかしてお二人に追いつかれるくらいのスピードしか出てなかったっすか!?」
「最短距離と反対方向に走って行ったからだろうが。まったく、俺様たちが最短距離を歩いて着くより先に最長距離を走って到達しおって。どんな脚をしているんだ」
「地図ぐらい見ろよお前・・・」
「な、なんと!!自分の直感は間違ってたんすか!?うおおおおおおんっ!!自分、まだまだっす!!」
「アラモアナショッピングセンターを直感で走るなよ」
改めて地図を確認してみたら、なるほど、自分は確かにクレープ屋さんの反対方向に走って行ってたみたいっす。直感で最短距離を見つけられないなんて、自分はまだまだ未熟っすね。
「で、たまちゃんさんにはどれ買って行ったらいいっすかね?」
「オレはこっちのアップルシナモンもいいと思うけどなあ。ハワイならココナッツは外せねえしなあ」
「ヌバタマはともかく、俺様はレモンミントを買うぞ」
「自分たちの買い物してるじゃないっすか!?あ、そうだ。せっかくだから荒川さんにも買って行きましょう」
「荒川は・・・なんだろうな。チョコって感じでもねえし」
「アサイーなんかもよさそうっすよ」
「チョコバナナでいいだろう」
自分にはどれも美味しそうに見えて、どれを買って行っても喜んでもらえそうな気がするっすけど、食べ物のプロの下越さんと、たまちゃんさんとよく一緒にいる星砂さんの意見を聞いて、ココナッツミルククリームにイチゴトッピングのチョコソースをかけたヤツをたまちゃんさんに買って、荒川さんにはベタに生クリームとチョコバナナのヤツを買ったっす。自分たちもそれぞれ好きなのを買って、こぼれそうなクリームを舐めながらゆっくり戻りました。
「アンタたち遅かったじゃん・・・って、なんでアンタらもクレープ食ってんだよ!」
「せっかくだからな。なかなか美味いぞ」
「あたしの金だろうが!!」
「荒川さんにも買ってきたっすよ。どうぞ」
「おお、気が利くな。ありがとう」
「普通に4人分奢らされとる!この野郎皆桐!金返せ!」
「細かいことを言うなヌバタマ。こう考えてみろ。さっきまで渡していたお駄賃で買ったと思えばいいのだ」
「・・・・・・いや、クレープ代渡してるし!」
「騙されなかったか」
「騙されるヤツがいるのか?」
案の定たまちゃんさんは勝手にみんなの分のクレープを買ったことに怒ったっすけど、星砂さんがいいからいいからって言うもんすから、てっきり自分の考え過ぎかと思ったら、特に考えも無しに言ってたっすね。
「ところでたまちゃんさんのお土産はたくさん買ったっすけど、皆さんはいいんすか?」
「私の土産はこういうところでは手に入らないからな。ワグナーに頼んで市場まで買いに行ってもらっている。飛行機の時間には間に合うだろう」
「どうせまた怪しげな薬品やら気色の悪い民芸品をたんまり買い込むのだろう」
「税関通らなくてもたまちゃん知らないよ」
「フフフ・・・問題ない。こちらには須磨倉がいる」
「
「オレも土産は空港でいいや。ハワイ飯の味は舌が覚えてっから、そっちの方がいい土産だしな」
「そういう皆桐はどうなのだ?お前もここに来てまだクレープしか買ってないだろう」
「ふーん・・・そうっすね。せっかくだからシャツとか見てみるっす!さっきココヤシのポシェット見つけたんすよ」
「なんちゅうもん欲しがってんだ」
「さて、皆様!お土産はしっかり買われましたか?」
「「はーい!」」
紺田さんに言われた集合時刻に、紺田さんに言われた場所にみんな集まった。解散したときと違って、みんなたくさん紙袋やビニール袋を抱えて、なんだか一気に旅の終わりって雰囲気が出て来た。
集合したフードコートは18人分の席が用意してあって、もう既に呼び鈴みたいなブルブル震えるやつが置いてあった。私たちの名前が書いてあるプレートも並んでる。
「お料理は既に注文しております。きっと皆様お気に召すかと」
「えー、自分で選ぶんじゃないの?」
「希望ヶ峰学園が旅費を出しているので、その都合です」
「うちの学園、アラモアナショッピングセンターと提携してんのかよ・・・!?」
「それでは持って参ります。須磨倉様、下越様、鉄様。お手伝いいただけますか?」
「よしきた」
希望ヶ峰学園って本当にすごい学園なんだな。特に詳しい説明をしてくれないのがなんだかちょっと不安だけど、ご飯を食べるくらいだから心配いらないよね。紺田さんたちがおっきなプレートに乗せて持って来たのは、できたての証拠に湯気を立てて、それと一緒に鼻の奥をくすぐる芳醇な香りを醸し出す魅惑の一皿。
「ハワイアンカレーです!」
「ハワイアンカレー?なんだよ?ハワイってカレーが有名なのか?」
「そういうわけではありませんが、これも希望ヶ峰学園のためと思って、召し上がってください」
「え?たまちゃんたち何に巻き込まれてんの?」
「どうぞどうぞ。細かいことはお気になさらず。食べてしまえばどうでもよくなりますから」
「何か混ぜてんのか!?」
やっぱりカレーを前にすると一気にカレーの口になる。スパイスの香りとつやつやのお米、細かく切ってある野菜とごろっとしたお肉、一緒に運ばれてきたラッシー風ココナッツジュースはよく冷やしてあって汗をかいてる。ごくりと喉が鳴った。ハワイアンカレー。はじめて聞くしはじめて見る食べ物だ。たぶん実際にはないし(?)。
「では皆様、手を合わせまして」
「「いただきまーす」」
スプーンで、ライスとルーをちょうどいい割合ですくう。溢れそうなほど乗っかったルーがライスに染み込んで、見た目の時点ですでにかなりのマリアージュを生み出している。口元に持ってくる瞬間にカレーの香りが一層強くなって、まるでカレールーの中に浸かってるみたい。微かに漂ってくるフルーティな香りは、ハワイのフルーツかな?
「さっきの紺田の態度見てて、よく普通にいけるな研前」
「美味しそうなんだもん。美味しい食べ物の誘惑には逆らえないよ」
若干ひいてるみんなの視線を独り占めしながら、私はハワイアンカレーを口に含んだ。
「・・・ど、どうですか?おいしいですか?」
「うん・・・!おいしい!なんか知ってるカレーと違う感じ。コクがあって辛いんだけどすっきりしてて・・・ちょっと甘い。たぶんフルーツだよこれ。ルーもゆるくって、スープみたい」
「米もよく見たら日本のと違えな。パラパラだ」
「どっちかってえと雑炊だねこりゃあ」
私が一口食べたのを見てみんな安心したらしく、一口ずつ試してみる。心配したような怪しげなものは入ってなくて、でも想像してたカレーとはずいぶん違う味と食感にちょっとだけ驚いた。一緒に運ばれてきたガラムマサラを降ったり、甘みを足すために特製ソースを入れたり、みんなそれぞれにアレンジもし始めてる。なんかこう、このままでも美味しいんだけど、工夫次第でどんどん美味しくなっていきそうな、可能性を感じる一皿だ。
「いかがでしょうか?今後、希望ヶ峰学園が事業の一環で発売する予定の、その名も希望カレーです!」
「なんで私立高校がカレー出すんだよ・・・意味分からん」
「レトルトカレーなんてものは名前つけてしまえば中身はなんでもよろしいのです。ハイッ」
「そんなことねえよ!!企業努力ナメんな!!」
「しかもハワイで売るってますます意味ふー♡おいしいけど♢」
「せめて下越とかご飯関係の“才能”の人とやればいいのに・・・」
「そうすると卒業後に作れなくなってしまいますので」
「フフフ・・・カレーを作って売らなければならないほど学園の経済は危機的状況・・・ということだな?」
「そもそも日本で食べられるわよね、これ」
「みなさま気に入っていただけたようで」
「いよっ!?何を如何して聞けば其の結論に!?」
「有無を言わせない圧力を感じる。深く聞かない方がよさそうだぞ」
「め、目から光が消えている・・・」
もしかして紺田さん、学園から何か言付けられてるのかな。分かんないけど、取りあえずこのカレーは美味しい。ひとしきり食べた後は、紺田さんから“ナンノヘンテツモナイアンケートヨウシ”が配られて、ハワイ旅行とカレーの感想を書かされた。特にカレーの感想を重点的に。
「旅行の最後に何をさせられたんだオレたちは」
「考えない方がいいわ」
「そう言えばこの旅行の費用、ほとんど学園が出してるんだった」
「まだ空港にも着いてないけど、一気に現実に引き戻された気分がするね」
「それでは皆さま!空港に参りましょう!楽しかったハワイ旅行も、いよいよ最後の移動となります!バスへどうぞ!」
美味しいご飯と微妙な空気のまま、私たちは空港行きのバスに乗り込んだ。これからまた長い空の旅が始まる。茅ヶ崎さんたちと思い出話をたくさんしたいけど、バスに揺られるうちに、いつの間にか寝ちゃってたみたいだ。気がつくと、もうバスは空港の目の前に来ていた。
「それでは皆様、お忘れ物のないようにしてくださいね。荷物が多くて大変かと思いますので、まずは手荷物預かりカウンターに参りましょう」
「う〜ん・・・」
「ねむ」
「ここに来て旅の疲れがどっと出たねえ」
「3日間遊び通しだもの。そりゃ疲れるわよ」
「ぐーすかぷー♨」
「いよっ!?虚戈さん!?寝ながら歩いている・・・否ッ!!歩きながら寝ている!?」
「危ないからちゃんと起きて歩きなさいね」
「んごっ」
「しっかしまあよくこんなに買ったな。空港はいいとして、日本着いてから持って帰れるのか?」
「日本にも送迎用の観光バスを用意しております。空港から希望ヶ峰学園までの専用直通バスですよ」
「至れり尽くせりも極まれりだな。人をダメにする修学旅行か?」
虚戈さんほどじゃないけど、私も寝起きで瞼が重たかったから、半分目を閉じた状態で空港の中を歩いてた。スニフ君は鉄君におんぶされてて、背中でぐっすり眠ってる。こういうとき、体が小さい子供は羨ましい。荷物預かりカウンターで、行きより数倍重たくなった荷物を丸ごと預けて、貴重品と身の回り品だけを持って税関を通る。案の定荒川さんと須磨倉君が小部屋に連れて行かれて、荒川さんがバツの悪そうな顔をして出て来た。須磨倉君が半べそかきながら出て来たのは、その30分後だった。
「“超高校級の運び屋”ともあろう者が、こうもあっさり捕まってしまうとは。見損なったぞ」
「あのな!ふつう
「まあそう泣くなって。むしろ30分で済んでよかったじゃねえか。危うく日本に帰れねえところだったぞ?あ、いや、強制送還か?」
「いずれにせよ碌な結果にならないだろ。荒川も反省しろ」
「くっ・・・これだから税関は嫌いだ・・・!」
「密輸。ダメ、ゼッタイ♠」
「ホントだよ」
普通に犯罪だけど、こんなあっさり許してもらえたのは城之内君の英語スキルのおかげか。それとも希望ヶ峰学園っていうバックの存在か。前者だと思いたいけど、たぶん後者なんだろうなあ。相変わらず外国の人たちに囲まれてる相模さんを助けに行った紺田さんが、事情を聞いて頭を抱えていた。今までなんとか弱みを見せずにいた紺田さんがこんなことになるなんて、いよいよ“超高校級”の人たちってメチャクチャなんだなって思った。
「いよいよハワイ旅行も終わりか・・・なんか、長かったようで短かったような気がするね。楽しかったこともあったし大変だったこともあったし」
「うん。それも、ここにいる皆とだからだと思うよ。皆とじゃなかったら、きっとこんなに楽しくなかったと思う」
「そうかな・・・うん、そうかも」
私たちが搭乗する飛行機が、ゆっくり頭を回転させて搭乗口の方へやってくる。疲れ切った皆がそれをなんとなく眺めて、傾き始めた太陽がより一層眠気を誘う。きっと飛行機に乗ったらすぐ寝ちゃうよ。
「それでは皆様、お忘れ物のないように。ご搭乗ください」
紺田さんにそう言われて、私はソファから立ち上がった。最後に忘れ物がないか、自分が座っていた場所をよく確認する。きっとこれが、ハワイで見る最後の光景になるんだな、と思うと、なんでもないソファもなんだかすごく名残惜しくなってくる。
まだハワイに残っていたいような、早く希望ヶ峰学園のベッドに横になりたいような、わがままな気持ちを抱えたまま、私は搭乗口に向かった。きっとこんなに楽しいことは、もうしばらくはないだろう。
希望ヶ峰学園の皆と、“超高校級”の皆と、一緒に来られた楽しい旅行。こんなに贅沢で豪華で賑やかなハワイ旅行は、他の誰もしたことがないだろう。だから、これは“超高校級のハワイ旅行”だ。
「ふふっ」
日本に帰ったら、皆とハワイの思い出話がしたいな。
ハワイ旅行編、完結です。
いつもならQQ解説編を載せる番なんですが、間違って消してしまったのでこちらを。
たぶんこれが年内最後の更新ですね。先に言っておきます。
みなさん、あけましておめでとうございます。