霞、猫になる。   作:坂下郁@リハビリ中

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 霞(猫)…ジェラる
 司令官(変態)…匂いに敏感
 夕張…レアでアレな物を作る
 愛宕…ぱんぱかぱーん


ジェラシーの日

 「司令官に言わないで、って…どうして!? 隠す意味なんかないでしょう、司令官に協力してもらって、艦娘の姿に一日も早く戻れる方法を探しましょうよっ」

 

 知ってる? 猫だっていろんな喜怒哀楽が顔に出るってこと。あたしは間違いなく悲しそうな顔をしていると思う。明石さんを見て、ふるふると首を横にふる。

 

 『どうやったら元に戻れるかもよく分かんないのに、これが霞よ、って言ったらアイツどんな顔するのか…。アイツ…あたしがいなくなって…泣いてた。中途半端に期待させたくない、私も…期待したくない。だから、アイツに言うのは、せめて元に戻る方法が見つかってから…それか、もう完全に元に戻れないと分かってからにして…お願い』

 

 明石さんと夕張さんは困った表情で顔を見合わせている。少し時間をください、そう言い残し二人は別な場所へと移動して話を続けている。なによ…あたしの問題なんだから。あたしの思う通りにしてくれていいじゃない…。それに…。

 

 しばらく経ってから戻ってきた二人は、ディスプレイを見て固まっている。私も…こっくりさん(ウィジャボード)に操られて勝手に動く前足を止められずに慌てている。秘密をゲロさせるスグレモノ…ああそうねっ、大した機械だわっ! てか技術の使い方致命的に間違ってんじゃないのっ!?

 

 『それに…猫じゃないとできない事もたくさんあるって分かったしね。抱っこされたり頬ずりしたりされたり…。仕事をしているアイツの膝の上で丸くなって、時折顔を見上げながら、ぬくぬくするのは…霞だったら無理ね。それに、時々…アイツのほっぺをぺろぺろ舐めたり…これは特権よねっ。ま、まあ、黄金体験(こないだ)みたいなのはちょっとアレだけど。艦娘に戻れるとしたって改装ドックは壊れたまんま、修復にまだ時間かかりそうだし、しばらくは猫ライフも悪くないかな』

 

 引きつった笑いを浮かべながら、明石さんと夕張さんの方を見ると、やっぱり二人も引きつった笑いを浮かべていた。あああぁーーーーーっ!! これじゃあちょっとキツ目の美少女のイメージが台無しじゃないっ!!

 

 「霞ちゃん、意外と余裕っぽいというか…ま、まあ、確かに改装ドックの修復にはまだ時間がかかりますし、当面霞ちゃんの言う通りでいいんじゃないですか?」

 ははは、と乾いた笑い声を立てながら明石さんに同意を求める夕張さん。明石さんもしぶしぶ、という表情で頷いた。

 「霞ちゃん、今のあなたは決して正常な状態じゃないのよ? だから、ちょっとでも異常を感じたらすぐにあたしの所に来ること、それが条件です。司令官にも同じように、少しでも具合が悪い様ならあたしの所に連れてくるように言います。いいですね」

 

 それくらいの条件は呑まない訳にはいかない。あたしはこくこくと頷き、ウィジャボードの上のマウスを両方の前足で動かす。

 「…アリガトウ…オ礼ニ…アイアン…ボトム…サウンドニ…シズミナサイ…」

 -え? えっ!? 何これ!? 私こんなこと考えてないっ。てか何でいきなり片仮名?

 

 「あちゃー、やっぱりダメかあ。このこっくりさん(ウィジャボード)、長時間使っていると、中に封じた戦艦棲姫の魂に憑依されちゃうんですよー、あははー」

 

 あははー、じゃないっ! 何とんでもないもの人に使わせてるのよっ!!

 

 がしゃこん、という音とともに明石さんが振り下ろしたハンマーでウィジャボードは破壊され、ついでに夕張さんもオシオキを受けた。うわぁ、…えげつない…。明石さんには逆らわないようにしなきゃ、そう心に誓った。

 

 まともな翻訳ツールを作る事を条件にオシオキから解放され、涙目で床にへたり込んでいる夕張さんの次の言葉に、あたしは飛び掛かってぽかすか猫パンチを繰り出す。

「じゃあこれで丸く収まりましたね。ところで霞ちゃん、黄金体験って何の事ですか?」

 

 -わ、忘れなさいよっ!!

 

 

 

 さて、と。

 

 段ボール箱(自分の部屋)から顔だけ出して、ジト目で執務室を見渡す。

 

 かたかたとキーボードを叩く音とかりかりと走るペンの音のユニゾン。キーボードを叩く音は、司令官の席から聞こえる。当然だけどクズが仕事をしているから。なによ、その真面目くさった顔は。どうせそんな顔してえ、えっちなサイトでも見てるんでしょっ! 今までだって、『なあ霞ちゃん』とか呼びかけて、あたしが振り返るとらんじぇりーのサイトなんか見せてきたくせに。あんなの下着じゃないわよ、ただの紐よっ。しかも、あたしが思わず興味津々で覗き込むと画面を切り替えて、アイツが『これが似合うと思うんだよ』って選んだのは、コットン製のストライプ柄。どういうことよっ!!

 

 走るペンの音がするのは、秘書艦が作業してるから。

 

 確かに、いつまでも秘書艦不在って訳にはいかないわよね…。この泊地は最前線だし、資材の消費も半端ないから。補給物資の種類と員数を大本営と交渉して調整、安全な補給ルートの選定と護衛、大本営からの補給を待つだけじゃなく、自分達でもできる資材回収として効率的な遠征計画の策定と実施。それを踏まえて装備の開発と更新、練度の上がった艦娘の改装…やることはいっくらでもあって、資材はいっくらあっても足りない。

 

 

 クズ司令官の左隣、秘書艦席(あたしの席)にいるのは、愛宕さん。

 

 見た目ゆるふわだけど仕事はできる人で、紐でも糸でも似合いそうなすっごいナイスバディ。演習でもばいん、実戦でもたゆん、入渠中の姿なんて男の人が見たら間違いなくぱんぱかぱーん…それは認めるわ。私も、おっきい胸はお湯に浮くって、愛宕さんを見て初めて知ったもの。クズも…やっぱりクズだからああいうのがいいのかな…?

 

 「ふふふ、できましたー、司令っ」

 愛宕さんはクズに寄り添うようにして書類を提出している。…ブラウスの胸元、開けすぎじゃないの? がじがじとダンボール箱の縁をかじっちゃった。

 「…内容に問題は見受けられない。助かった、今日はもういい、部屋に帰って休むように」

 注意深く見ていると、クズは愛宕さんに目もくれていない。ふ…ん、当然でしょ、仕事中なんだから。私にしたみたいに、愛宕さんの髪の毛触ったり、背中を指でつーっと撫でたりしたら………………………泣くわよ。

 

 「司令ってほんとにクールですねー。そういう所もかっこいいんですけど。それでは愛宕、本日の臨時秘書艦業務を終了します。明日は浜風ちゃんの番ですから。…霞ちゃん、早く見つかるといいですね。それではおやすみなさーい」

 

 ぱたん、とドアが閉まり執務室に静寂が戻ってくる。臨時ってことは、クズは…愛宕さんを秘書艦に任命した訳じゃないんだ? 明日は浜風…そっか、臨時だから日替わりって事ね。クズなりに頭使ってるじゃない、そっか、そうなんだ♪ ふりふりふり尻尾が勝手に動く。な、なによ、猫だって感情表現くらいするわよっ。………ん? あ、アイツ大人しいと思ったら…やっぱりクズクズクズッ。

 

 「(すうーーーーっ)…いい匂いだ」

 執務席に浅く腰掛けたクズ司令官は、腕を組み目を閉じ、鼻の穴を広げて、愛宕さんのいたあたりの空気を思いっきり吸い込んでる。

 

 確かに愛宕さんはいつもいい匂いがする。有名な香水を付けてるって言ってたっけ。名前は…聞いたけど忘れた。それはいいけど、あのクズ、愛宕さんの残り香に興奮してる訳っ!? …うわぁ、さすがに引くわ。秘書艦席の座る所に顔を埋めて、アンタ一体何がしたいのよっ。

 

 「いい匂いだ。けど、違う。霞の匂いじゃない」

 

 不意に真面目な顔になって、椅子から顔を離し立ち上がるクズ司令官。寂しそうに秘書艦席(あたしの席)を見つめている。思わずくんくん自分の体の匂いを嗅いじゃった。わ、あたしの匂い、覚えていてくれるんだ………そしてハッと我に返る。いや、カッコいい事言ってるつもりかもしれないけど、やってることはただの変態だからね。

 

 「霞の…あの乳臭くて甘酸っぱい匂いじゃない」

 

 -わ、悪かったわねっ!! ど、どうせ子供っぽい匂いって言いたいんでしょっ。…艦娘に戻ったら、愛宕さんが何の香水使ってるのか、教えてもらおうかしら…。

 

 「どこに行っちゃったんだよ…。帰ってこいよ、お前の匂いを忘れる前に………」

 

 クッションで丸くなり、両方の前足で耳を塞ぐようにする。アンタのそんな声、聴きたくないわよ。ほんと、だ、だらしないったら…私まで…悲しくなるじゃない…。やっぱり、ちゃんと艦娘に戻らなきゃ…。明日また明石さんの所に行こう。

 

 

 と、思っていたら抱きかかえられた。

 

 

 「さて、俺も寝るとするか」

 

 -寝ればいいじゃない。それとこの行動に何の関係があるって言うのよ? ひょいっと持ち上げられ抱っこされたあたしは、怪訝そうな表情でクズ司令官の顔を見上げる。…この角度から見るっていうのも、猫ならではよね。そんなあたしの疑問の視線を気に留めず、クズはすたすたと執務室と扉一枚で繋がっている寝室へと歩いてゆく。

 

 「流石に最近は夜冷えるし、お前を抱っこして寝ればあったかいからな」

 

 -はあっ!? な、何言ってるのよアンタはっ。

 

 人でも猫でも驚きすぎると固まって動けなくなるのは一緒。あたしはクズ司令官に抱っこされ何も抵抗できないまま寝室に連れて行かれた。

 

 -だ、だって…一緒に同じベッドで寝るなんて…その…ケッコンもしてないのに、 そんなの…そんなのまだ早いわよっ。…って、そういうことじゃなくてっ。

 

 「んー、どうした? そんなに体をこわばらせて。ひょっとして怖いのかな」

 

 -はぁ!? あたしが怖がってるですって? べ、別に構わないわよ、こんなの何でもないんだから!

 

 

 ※くどいようですが、これは猫の話です※

 

 

 とかなんとか言ってるうちに、あたしはベッドサイドに下ろされた。そして、クズ司令は躊躇うことなくあたしの目の前で制服を脱ぐと適当にぽいぽいぽい放り投げ、あっという間にパンツ一丁になる。びっくりして毛を逆立ててふぎゃーって叫んだ私だけど、すぐに不機嫌になった。そんなことしてるから、あたしが何度アイロンかけてあげても制服がしわしわだったのね! まったく、だらしないったら!

 

 うー寒ぃ、と体を縮こまらせながらぶるぶる震えるクズ司令官。そりゃそうでしょう、寒いって言いながら裸になってるんだから。パジャマくらい着ればいいのに。クズ司令官はベッドに潜りこむと、掛布団を持ち上げ、あたしの場所を作りおいでおいでしている。

 

 -えっと…そ、そうよ、これは寒いから。そう、クズ司令官をあっためてあげるだけなんだからっ。

 

 身体をしなやかに伸ばし、シーツに爪を立てないようにしてベッドに上る。空いてる場所は、クズ司令官の左側、秘書艦席と一緒。

 

 「おやすみ」

 

 ぴっというリモコンの電子音がして照明が落ちる。あたしはクズ司令官の横で丸くなっている。あたしが緊張のあまり身動きできないでいると、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。布団の中から這い出るようにして枕元へ移動する。

 

 -少し、やつれたわね。ちゃんとご飯食べてるのかしら。

 

 こうやって見ると、疲れが顔に残っている。ごめんねの気持ちを込めて、キスする代わりに頬をぺろっと舐める。そして布団の中に戻る。

 

 -あ、あったかい…。

 

 その夜、寝返りを打ったクズ司令官に抱っこされてしまい、目がらんらんとしちゃって朝まで眠れなかったのは、内緒。

 

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