霞、猫になる。   作:坂下郁@リハビリ中

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 霞(猫)…小学生以下の知識
 提督(変態)…違いの分かる男
 曙…霞に芸風が近いが、デレさせ方が違う


コウノトリの日

 「猫は嫌がるって聞いてたんだがな、お前はお利口だな。暴れるどころか身動き一つしない」

 

 ぶるぶるっ。

 わしゃわしゃわしゃ。

 ぶぉ~。

 

 クズの部屋は…そうね、一般的な部屋で言えば1LDKみたいな作り。LDにあたるのが執務室で一番広く、アイツが仕事をするための部屋。正面から見ると真正面に執務机と秘書艦席、その右奥にある扉の奥にはクズの寝室、壁を隔てて簡易キッチンや泊地唯一の男性用のお風呂など水回りが集中している。

 

 で、何であたしが身動き一つできず、クズにいいようにさせているか…お…おふ、お風呂に入れられてしまったのよ。

 

 初めて入ったクズのお風呂場、脱衣所の大きな鏡にはあたしの絵が書いてあった。…アンタ絵心あるのね、上手じゃない。でも中破絵ってゆーのは…ほんっっとクズッ。ここにお風呂上がりのクズが立つと、破れた制服の美少女がまっぱの変態を振り返り気味に叱りつける構図じゃないの。うん、どん引きすぎてどうすればいいか分からなかった。

 

 何一つ身に付けず生まれたまんまの姿で、いやまあ猫だから元々何も着ていないんだけど、顔から背中からお腹、尻尾、耳、そして足の裏まで余すところなくクズの手で触れられちゃった。もう、あいつの指が触れてない所なんて、私の体には残っていない。何でそんなに丁寧に…優しい手つきでゆっくり洗うのよっ! 力…入んないじゃない、おまけに変な声まで出ちゃうし。力加減は絶妙、時には触れるか触れないかの微妙な感覚…甘く、痺れるような感覚とあわあわの滑らかさ、こ、これは…またさせてあげない事もないというか、まあ、そうね、今晩でもいいかしら。

 

 

 ※お忘れかも知れませんが、これは猫の話です※

 

 

 湯上りには、猫は猫らしく、折々体をぶるぶるって震わせて水気をとばす。これ、一回やってみると癖になるくらいすっきりする。そしてクズがバスタオルで私をわしゃわしゃして、ドライヤーで乾かしてくれる。で、また私は体をぶるぶる。これをしばらく繰り返して、ふわふわの毛並になった♪

 

 

 「よし、このくらいでいいかな。(すぅー)うん、いい匂いだな」

 ふわふわになったあたしの毛、うん、確かに気持ちいいわね♪ だからってあたしの首筋に顔を埋めて思いっきり息を吸い込むの…止めてよね。アンタ、猫アレルギー大丈夫なんでしょうね? …まぁ、これだけ一緒にいて色々されて、そういう気配はないから問題ないと思うけど…。でももし万が一そうだったら…どうするのよ? 触ってももらえなくなるから、あたしが泣くわよ。ってかいつまでやってんのよっ。体をよじってクズの手から逃れ、たたっと自分の部屋(段ボールハウス)に駆け込んで丸くなる。

 

 -ほんと、どうすればいいのかな、あたし…。今の状況も、悪くないかな、って思い始めてる自分がいるんだけど…どうしよ…。

 

 クズはあたしが急にいなくなってきょとんとしていたが、猫はほんと気まぐれだよな、とか言いながら立ち上がると背伸びをして、大きなくしゃみを二つ三つしていた。そりゃパンツ一丁でうろうろしてたらそうなるわよ。ああもう、いいっ? Tシャツとかはクローゼットの左下、もういい加減寒いんだから、ジャージかスウェットでも着たらどうなの? トレーニング系のウェアは右上だからねっ。ホント世話が焼けるったら…。

 

 

 

 「今日の臨時秘書艦は私、曙よ。って、こっち見んな! このクソ提督!」

 

 “霞”が行方不明になって以来、頑なに次の秘書艦を任命しないクズ司令官。それでも仕事が減る訳じゃないから、日替わりで臨時の秘書艦が入れ代わり立ち代わりやって来る。今日の子は…曙。相変わらず口が悪いわね。クズとクソ。言ってる事はあたしとあんまり違いは無いんだけど…じとーっとした目でクズ司令と曙のやりとりと見守る。

 

 「何? 何か用?」

 「だから、ジロジロ見んなって、このクソ提督っ!」

 「ホント、冗談じゃないわ」

 

 なんでこの子はこんな口のきき方をするんだろう、刺々しくて、あたし以外の子がクズを悪く言ってるのを聞くとムカついてくる。自覚はあるけど、あたしもほとんど変わらない。で、でも、あたしはほら…その…、あ、愛があるからっ! あのクズで変態でだらしない司令官を、一人前の、どこに出しても恥ずかしくない立派なオトコに育てるっていう、おっきな目標があるのよ! それをクソクソ何のつもりなのよ。あ…クズ…じゃなくて司令もさすがにいい顔してないわね。

 

 かたっと手にしていたペンを置くと、クズ…じゃなくて司令官が曙の事をじろりと見据える。さすがに曙もやばいと思ったみたいで少しうろたえた表情になるけど、強気の姿勢は崩さない。肩で笑うようにして、敢えて突っ張ったような言葉。でも、語尾が少し震えてるのに気付いちゃった。

 

 「気に入らないなら、外せば? …べ、別に構わないし」

 

 「外すも外さないもない、曙。仕事は仕事だ。私を罵るのは構わないが、もしやる気が無いのなら、ここにいるべきではない。秘書艦席は、霞の様に私を支えてくれる者だけに座ってほしい。そもそも、君の過去に何があったかは聞いてはいるが、私には関係のないことだ」

 

 ふうん、あたしに支えられてるって自覚はあったんだ♪ ま、まあ、いい心がけよ。でも、その言い方はちょっとキツいんじゃない? ほらぁ、曙がすっかり頑なな表情になっちゃたじゃない。私も聞いたことあるけど、アレは…辛いと思う。珊瑚海海戦では護衛してた翔鶴さんが大破炎上、その責任を問われてミッドウェーでは前線から外されて護衛する筈だった赤城さんと加賀さんを喪失、その後の船団護衛も失敗、さらに救援に向かった最上さんを結果的に雷撃処分…これだけ重なって、自分が悪くない事まで責任を負わされて責められたら、あたしだって嫌になると思う。ほら、曙がキレそうじゃない…と思ったら、叫び出そうとする曙を手で制し、クズが席を立ちあがると曙に近づいて意外な事を言う。

 

 「私が関係しているのは、今と将来だ。曙、お前が私をどう思おうが関係ない、だが、私はお前が昔に引きずられて後ろ向きになる度に、必ず前を向かせる。お前は何度も負け戦に立ち合った。なら、お前が言う通りにすれば少なくとも負けはしない、そうだろ?。いいか、物事はお前が考えてるより単純なんだ。成功したらお前達艦娘のおかげ、失敗したら俺の指揮がクズだったから、それだけなんだよ」

 

 ぽん、と曙の左肩に手を置くクズ…じゃなくて司令官。な、なによ、真面目なことも言えるんじゃない。ちょっと…見直しても、いいかもね。曙も目の縁を真っ赤にして何とか涙が零れるのを堪えてるみたい。少しは素直になってもいいと思うな。

 

 「クソ提督のクセに…カッコつけちゃって…」

 曙はそう言いながら司令官の手に右手を重ね、愛おしそうに頬擦りし始めた。はいはーい、そこまでよっ! 前言撤回、何なのよ曙、頬まで染めちゃって。前から思ってたけど、キャラ被り気味なんだからっ!! 部屋(段ボール箱)から飛び出して、にゃーにゃー言いながら割り込むように二人の足元にまとわりつく。

 

 「わ…にゃーこだぁ。可愛い…」

 へえ、あんたそんな表情できたんだ、というくらい、優しそうな笑顔を向けながら、曙がしゃがみ込んで私を抱き上げる。

 「曙、少しそいつと遊んで気分転換しなさい。その後、一気に仕事を片付けるが、やってくれるよな?」

 

 曙は私をだっこしたまま、力強く宣言した。口調はあんまり変わらないけど、明らかに前向きな言葉。

 「大丈夫よ! 私を誰だと思ってるの、このクソ提督♪」

 

 

 

 「それじゃあね、クソ提督。またねー、にゃーこ♪ …ゴホン、ど、どうしてもまたあたしに秘書艦をさせたいなら、声を掛けなさいよ。気が向いたら、手伝ってあげてもいいわ。分かった? 声を掛けるのよ」

 

 ばたん、とドアが閉まり、来た時とは打って変わって楽しそうな表情で帰っていった曙。誰がにゃーこよ、あんたキャラ変わり過ぎ。これもなでぽの一種なのかしら…と思いながらクズ…じゃなかった司令官を見上げる。椅子の背もたれに体を預け、大きく伸びをしたかと思うと、そのまま机に突っ伏し、ぼえーとため息をつく。

 

 「悪くはなかったが…違うんだよな」

 秘書艦としての業務ぶりのことね。そんなに悪かったかしら? 最初の内はかなりぎこちない、っていうかアンタに反発しまくりで見てるこっちがハラハラしたけど、ク…司令官の一喝の後は見違えるようによく動くようになったじゃない。そりゃアンタ専用の秘書艦のあたしに比べれば、誰だって見劣りするかもしれないけど…とか思っていたら、やっぱりクズはクズだった。

 

 「曙のは罵りっていうよりは心の悲鳴みたいなもんだし、これで少しは無用な虚勢みたいのを張らなくなるといいんだが。それにしても…霞に『このクズッ』って罵られたい、クズって罵られながらスカート捲ってさらに罵られたい…。指先で背中をつつーってしたいっ! 霞が、小さく漏れる声を堪えてびくんって体を伸ばした後、顔を赤くしながらぎゃーっとなる姿を見たいっ」

 

 安心しなさい、いくらでも言ってあげるわ。このクズクズクズクズッ! 話の前半と後半の落差がひどすぎでしょっ! 違うって曙と私のリアクションの話!? あ…あんたねぇ、私を何だと思ってるのよっ?

 

 「んー? どうした? そんなに騒いで。ああ、分かった。今日はずっと曙に構ってたから妬いてるのか?」

 

 な、何言ってるのよっ!! そんなこと…きっとあると…思う。戦艦とか空母みたいに体が大きくて気持ちも大人な艦娘相手には全然何も感じなかった。でも…曙は違う。駆逐艦艦娘同士だし、同じじゃないけど似た言動、他の子の時はこんな気持ちにならなかったのは確か。

 

 「ああもう、そんなに騒ぐな騒ぐな。ほら」

 

 前足の付け根に手を入れられひょいっと抱き上げられたあたしに、クズの顔が近づいてくる。

 

 

ちゅっ。

 

 

 え…あの…今、何…された、の? てか…猫にそういうこと、するの?

 

 ぎゃーーーーっ!! な…なんてことするのよーーーー!! あ…ありえないっ、ケ…ケッコンもしてないのにっ。これじゃあ…あ、赤ちゃん出来ちゃうじゃない…。今のあたし、猫なのよ? こ、このままだったらネコ耳の赤ちゃん…あたしとアイツ、どっちに似るかな、てかどっちに似ても可愛いか………違うぅ、そうじゃなくてっ!

 

 

 決めた! とにかく元の体に戻るっ! このままじゃ赤ちゃんがケモ●レみたいになっちゃうっ! って、その前に、このクズには絶対責任とってもらわないと!!

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