DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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この小説を読む前に、作者のページから活動報告を確認しておく事をお勧めいたします。

8月24日追記。

感想を参考に、ところどころに修正を加えました。


序章 ―掌の中の平和―
七月十二日――『朝のデジタルバトル』


 

 

――ピピピピッ!! ピピピピッ!!

 

「……ぅん、ん~……」

 

 目覚まし時計の機械音声(アラーム)が響く、色々な物を()らかしている部屋の中。

 

 一人の青年が、室内に立ち込める蒸し暑さに(うめ)き声にも似た声を発しながら意識を覚醒させる。

 

 視界にモザイクが掛かってよく見えないまま、機械音声を発している目覚まし時計の上部のボタンを押す。

 

 音が止み気だるそうに体を起こすと、口から大きな欠伸(あくび)が出た。

 

「朝、か……」

 

 もっと寝ておきたいと言う睡眠欲(すいみんよく)を押さえ込み、青年は寝床(ベッド)から這うように出て茶色い箪笥(タンス)を開く。

 

 中には黒や緑といった様々な色のシャツやズボンが混ざった形で収納されており、青年はそこから適当に選んだ黄緑色(きみどりいろ)のTシャツと紺色(こんいろ)のジーンズを取り出すと、無作法に足で箪笥を閉めた。

 

 足元に散らかっているカードやプリントを踏ん付けてしまわないように注意をしながら、寝る際に来ていた青と黒の縞々模様(しましまもよう)が特徴のパシャマを脱ぎ捨て、取り出した二つの衣服に体を通す。

 

 衣服を外出可能な物に着替えた青年は、確認のために時計の針に目を向ける。

 

 時計にある二つの針はそれぞれ、六時(ろくじ)三十分(さんじゅっぷん)を指しており、青年は自宅から出発する時間までまだ余裕がある事を理解すると、自室のドアを開けてリビングに存在する台所へと足を運んだ。

 

(お母さんはまだ寝てるか……)

 

 青年はリビングの直ぐ隣の部屋でまだ寝ている母を尻目に、冷蔵庫の中にある鳥の唐揚げと書かれた冷凍食品の袋を開け、食器入れから取り出した一枚の皿に三個ほど乗せて電子レンジで加熱し始める。

 

(ただ待っているのは時間が勿体無いし、ニュースでも見るかな……)

 

 内心で青年はそう呟くと、リビングに設置されているテレビの電源を付け、リモコンを操作してニュース番組にチャンネルを合わせる。

 

 テレビにはアナウンス用のマイクを持った男性が映されており、その背後には大きなマンションが建てられているのが見えている。画面の右側にはテロップの表示で『原因不明の行方不明事件、再び犠牲者が』と書かれている。

 

『こちらのマンションでは―――に住んでいる十六歳の――――君が突然行方不明になってしまい、両親の――――さんと――――さんが、我が子の無事を切に願っています。これらの行方不明事件。発生原因も何も分からないままこれまでに何十人もの人達が犠牲になっており、解決の目処が立たない状態に陥っています』

 

 青年はニュースの内容に顔を(しか)める。

 

 数週間より発生している、子供や大人を問わず突如原因不明なまま行方不明になる事件。

 

 人為的な証拠も一切残っておらず、何が原因なのかも分かっていないらしい。

 

(本当に怖いな……何も分からないってのが、一番怖い)

 

『警視庁はこれらの事件を消失(ロスト)事件を呼称。事件の解決に乗り出すために、行方不明になった被害者の身元や人間関係などを調べ――』

 

 ニュースの内容に耳を傾けている中、電子レンジからチーンと音が鳴り、青年は加熱が済んだであろう鳥の唐揚げの乗った皿を電子レンジから取り出し、リビングに設置されているテーブルの上に乗せる。

 

 食器棚から茶碗を取り出し、炊飯器からしゃもじで白飯を確保。茶碗に放り込み、唐揚げを乗せた皿と同じようにテーブルの上に乗せる。

 

 その後、青年は唐揚げをおかずに米を頬張り始めた。テレビに映されたニュースに目を向けながら。

 

 

 ――不思議と、この日の唐揚げは普段より塩辛く感じた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 無情に輝く太陽の日差しが大地を熱し、通りすがる人物の片手には小さめの団扇(うちわ)が見られる夏の街。

 

 ふと上を向くと、綿菓子(わたがし)のような形の入道雲(にゅうどうぐも)が悠々と泳ぎ、青く美しい空を形成しているのが見える。

 

 建物の中には機械によって作られた冷たい空気が流れ、外の暑さが嘘のように涼しく心地よい空間が形成されている。

 

 月日は七月の十二日。時は十一時。

 

 この日、青年――紅炎勇輝(こうえんゆうき)は友達とある店で集まる約束をしていた。

 

 自転車を漕ぎ、風を感じながら坂道を突き進む。

 

 そのすぐ隣では車が通っており、エンジンの音が街中に響き渡っている。

 

 家を出て十五分(じゅうごふん)程度の距離に、目的の場所であるゲームショップはあった。

 

 休日だからかまだ午前にも関わらず、かなりの人だかりがある。

 

 勇輝はそれらにぶつかってしまわないように避けながら、視線の先に見える友達の方へと向かった。

 

 友達の背後にはアーケードゲーム用の機械(マシン)が見え、画面にはデモムービーが流れっぱなしになっている。

 

「お、来たな勇輝」

 

「あまり待たせるのは悪いと思ってな」

 

 互いに顔を会わせると、ポーチバッグから数枚のカードを取り出す。

 

 カードの端にはバーコードのような物があり、カードには何かのモンスターと思われるイラストと強さの基準となるステータスがテキストに書かれている。

 

「んじゃ、早速対戦するとするか」

 

「おっけぃ。こっちの準備は万端だ」

 

 ポーチバッグから財布を取り出し百円玉(ひゃくてんだま)を一つ投入すると、機体(マシン)の下部にあるカード取り出し口に一枚のカードが出てくる。取り出し口に手を突っ込み、取り出して内容を確認した勇輝はそれをジーンズのポケットの中に入れた。

 

 そして、ゲームのプレイヤーが操作出来るように画面が移り変わる。

 

 一人で遊ぶモードに二人で遊ぶモードなど、よくあるアーケードゲームに用意された選択肢から二人で遊ぶモードを選択するボタンを押すと、もう一つ百円玉を投入するように画面(モニター)から指示が出る。

 

 最初の百円玉は勇輝が入れているため、二つ目の百円玉は友達が投入した。最初に百円玉を入れた時と同じようにカードを取り出し、勇輝は左側に、友達は右側の方へ立つ。

 

 その間に再び画面が移り変わり、カードをスキャンするように画面から指示が出る。

 

「お前が使うのは……あ、やっぱりそれなのな」

 

「当たり前だろ。これが俺の好きな奴なんだから」

 

 勇輝が親指と人差し指で摘んだカードを機械の中央に空いている空間に通すと、カードのデータが読取(スキャン)され、画面に映された誰も居ない草原のようなフィールドに、一匹の生き物が現れる。

 

 その姿は上半身が機械(サイボーグ)化している深紅(しんく)色の(ドラゴン)だった。

 

「メガログラウモンねぇ……相変わらず、その中途半端に機械化したデザインはどうにかならなかったのか」

 

「うっさいわ。俺は好みなデザインだからいいんだよ」

 

 友達の呟きに唾を返しながら、勇輝は続けて三枚のカードを連続で赤外線を通して読み取らせる。

 

 すると、メガログラウモンの姿(シルエット)が画面の中で光り輝く演出と共に変化していき、やがて姿は明らかに竜とは違う、背中に深紅のマントを羽織り、胸部に刻印が刻まれている白銀の鎧を身に纏った騎士へと変貌する。

 

 その右手には一本の槍を、左手には紋章の描かれた大盾を装備していた。

 

「オプションは≪それでもへっちゃら!≫に≪生き残るために≫と……≪デジソウルチャージ≫か。思いっきり単騎でやる気満々だな。てか、やっぱり早速進化させるのな」

 

「まぁな。完全体だとやっぱり厳しいし……てか、そういう雑賀(さいが)はいつも究極体を即スキャンしてるじゃねーか」

 

「対戦ゲームは(パワー)数値(ステータス)が全てだ。さぁて、そっちがそいつならこっちはコイツでやらせてもらうぜ」

 

 互いにツッコミを入れながら、今度は友達――雑賀がカードを読取(スキャン)する。

 

 画面(モニター)に出現したのは、顔に両目と額の部分に穴が開いた仮面を被り、黒いジャケットのような服を着ており、腰の部分に爬虫類を想わせる尻尾を伸ばした両手に拳銃を携えた……バイクの似合いそうな魔王。

 

 そのデジモンの名を、自身が登場させた騎士の名と同じぐらいに勇輝はよく知っていた。

 

「お前明らかに狙ってるだろ……デュークモン対ベルゼブモンとか」

 

 騎士の名はデュークモン。

 

 魔王の名はベルゼブモン。

 

 それぞれ、あるアニメに登場し競演した実績を残している人気のキャラクター達である。

 

「狙ってるも何も、俺のフェイバリットはコイツなんだから仕方無いだろ。偶然だ偶然」

 

「……てか、ベルゼブモンってパワーキャラでは無かったような」

 

 勇輝のツッコミを無視しながら、雑賀は勇輝と同じように三つのカードを用意し、それを機械に読み込ませる。

 

 店内に響く宣伝ムービーの音声に気を取られる事は無い。

 

 何故なら、二人がやっているゲームの音声もそれなりに音量が高く、それが原因で周りの音に耳を傾ける事が難しいからだ。

 

 それでも互いに会話が出来ているのは、意識を向けているか向けていないかの問題だが。

 

「そういやさ、お前……例のニュース見たか?」

 

 カードの読み込みを終えた雑賀は突然、勇輝に話題を持ちかけた。

 

 例のニュースと言う語句を聞いた勇輝は、画面内で対戦が開始される中で雑賀の話に耳を傾ける。

 

「見た。全然解決の目処が立ってないらしいが」

 

「世界中で行方不明になってるのってのが不気味だよなぁ……」

 

 口で話題を交わしながら、手でボタンを押して技を選択する。

 

「ここ最近はあまり自然災害とか起きてなかったし、人がやってる事なんだろうけど……まるで神隠しだよな。お前の言う通り不気味だ」

 

拉致誘拐(らちゆうかい)とも考えにくいしなぁ……おっと、先手は貰ったぜ」

 

「早急に解決してほしいもんだ。願わくば被害者の無事を祈る……おのれェスピードの差で取られたか! だが聖盾イージスの防御力は伊達じゃぬぇ!!」

 

 話題に内容が真剣な物であるのにゲームの話題もちゃっかり忘れていない辺り何と言うか、この二人は色んな意味で駄目なのかもしれない。

 

 だが脳裏に過ぎった不安を忘れる、一種の逃避のための手段とも言えるのだろう。二人は確かに楽しんでいた。

 

 お互いの押すボタンが見えないように二人は両手で自分が押すボタンを隠しながら選択する。

 

「ははははは! ダブルインパクトだと思ったか? 残念ダークネスクロウでしたァ!!」

 

「畜生め、今度はこっちのターンだ。さぁグラムとイージスのどちらの必殺技を食らいたい? 暴食の魔王名乗ってるんだから、防御(ガード)せずに食らいやがれェェェ!!」

 

「だが断る。お前がそこで露骨にセーバーショットを使ってくる事はお見通しなんだよ!!」

 

「なん……だとッ……!?」

 

 どんどん口調(キャラ)が崩壊しているのだが、本人達は全く気にしない。

 

 これらの気分の高まりがあってこその娯楽(ゲーム)なのだから。

 

 幸いにも二人の青年の台詞は周りの雑音に掻き消され、他人には聞こえない。

 

 途中、勇輝が「悪魔に魂を売った者の銃弾など俺のデュークモンには当たらない!」と多少格好(カッコ)つけて言った直後に、雑賀のベルゼブモンの二つの銃弾(ダブルインパクト)が見事に炸裂するなど、第三者から見れば内心でほくそ笑むようなトークを交わす。

 

「それならお返しのファイナル・エリシオン……と見せかけてのロイヤルセーバーを喰らえや!!」

 

「ぬぉぉおお!?」

 

 口では喋って両手はボタンを押す事にしか使われていないが、実際に戦っているのが画面内で作られた電子(デジタル)のポリゴンで作られたキャラクター達。

 

 先ほどから、槍から輝くエネルギーを放出したりなど派手な演出(バトル)を繰り広げている。

 

 やがて片方のキャラが倒れ、勝敗が決すると勝者が決定した。

 

「ぐぬぬ、スピードの差はやっぱり厳しいか……」

 

「銃は剣より強し! ん~やっぱ名言だなこれは」

 

 結果のみを言えば、勇輝が出したキャラであるデュークモンが敗北し、雑賀の出したベルゼブモンが勝利を収めた。

 

 敗者の勇輝は悔しそうな声を上げるが、その表情はすぐに清々しい物へと変わる。

 

「やっぱお前は強いよなぁ……次は絶対に勝つし」

 

「あー、それは分かったが勇輝。とりあえず後ろに次の利用者(プレイヤー)が来てるんだから席を譲ろうぜ」

 

「へ? ……あっ」

 

 雑賀の指摘でようやく自分の後ろで番を待っている少年の存在に気付き、勇輝は少し済まなそうな表情を見せながら席を譲った。

 

 雑賀も同じく席を立ち、少年のプレイを後ろから傍観する事にしたようだ。

 

「お、エアドラモンとはまたマニアな奴を使うねぇ」

 

「まぁ、使うのは人の好み次第だし良いんじゃないか?」

 

 平和。

 

 それは一般的には安寧した状態の事を指す仏教用語だが、まさに今のような状態の事を指すのかもしれない。

 

 不安を紛らわすために茶化しているだけに過ぎないが、少なくとも彼等はこの小さな平和を、現在(いま)だけでも満喫したかった。

 

 それが例え、ただの平和ボケだと理解していても……しがみ付きたかったのだろう。

 

 その『当たり前の平和』に。




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