DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
「ところでさ、ちょっと聞きたかったんだけど」
「何だ」
「お前、戦闘は出来るのか?」
エレキモンがユウキにそんな問いを飛ばしたのは、森に入って数分ほどの時が経過した頃だった。
突然の問いの内容に対して、少し考えてからユウキは返事を返す。
「殴る蹴るぐらいの事しか出来ない。マトモに戦ったことも無いし、あまり戦力にはならないと思う」
嘘は吐いていない。
ユウキ自身もギルモンという種族の持つ技を知っているため、戦闘における攻撃手段は理解している。
だが、格闘ゲームを取扱説明書を見ずにプレイするのと同じように、技の『出し方』が分からないため、自分の意志で技を繰り出す事は出来ない。
そして、彼自身が覚えている限り、実際の生物同士の戦いなど一切経験が無い。
それ故にあまり期待されても困るので、ユウキは自分が『弱い』事を強調して返答した。
「そうか、最低でも格闘戦は出来るって事だな」
「何でいきなりそんな事を聞いたんだ? 大体の理由は察するけど、何か訳があるなら教えてくれないか」
意味深な事を呟くエレキモンに、今度はユウキの方から問いを飛ばす。
返事は、意外と直ぐに帰ってきた。
「いや、野性のデジモンに襲われた時とか、わざわざ俺が護ってやる必要があるのかと思ってな。格闘戦が出来るんなら、自衛ぐらいは出来るんだろ?」
「……まぁ、多少は」
「それならいい。自分の身ぐらいは最低限自分で守ってくれよ? オレは知り合いのために命張れるほど、お人よしじゃねぇんだから」
エレキモンはそう言って話を閉めようとしたが、疑問に思う事があったのか、ユウキは自分から別の問いと飛ばす。
「……そういや、大丈夫なのか?」
「何がだ」
「この森の事は知らんけど、野性のデジモンが生息しているんだよな? もし仮にあのベアモンが、一度に多数のデジモンに出くわしたら、そんでもって戦いに発展したら、アイツは大丈夫なのか?」
実際、現在進行形でそういう事態になっていたりするのだが、質問したユウキ自身も質問されたエレキモンにもそれは分かっていない。
実際にあり得る事態とも思ったのか、その問いに対してエレキモンは、う~んと声を漏らす。
「……まぁ、大丈夫だろ……多分な」
◆ ◆ ◆ ◆
で、そんな二匹に不安を抱かせている主な要因であるベアモンはと言えば。
(う~ん、どうするかな。なんか僕の事を明らかに『敵』と認識しているみたいだし、話し合いとかでどうにかできる状況じゃあないよね……)
意外にも、すごぶる余裕を持っていたりする。
自分に敵意を向けて鳴き声を上げている幼虫型のデジモン――クネモン達に対して罪悪感を感じ、攻撃を躊躇う程度には。
無論、そんな心情をまったく知らないクネモン達は、容赦無く『味方ではない』ベアモンに対して攻撃の態勢をとっており、一匹が自身のクチバシから幼虫らしく糸を吐き出そうとする。
「エレクトリックスレッド!!」
だが、その放たれた糸は帯電しており、糸というよりは一種の電線に近かった。
ベアモンは素早く横に動く事でそれを避けるが、今度は別のクネモンが木の上から避けた方向へと糸を放つ。
「くっ!!」
咄嗟に地面を転がってそれをかわすが、逃がさないと言わんばかりに別のクネモンが時間差攻撃で糸を放つ。
そのサイクルが連続して行われ、何とか避けているベアモンだったが、最早戦闘行為は避けられない状況に追い込まれていた。
放たれた糸は地面にしつこく電気と共に残っており、足場を少しずつ狭めている。
クネモンという種族が必殺技として吐き出す糸が帯びている電気には、成長期レベルのデジモンなら確実に気絶させる電力が備わっている。
普段から日常生活の中で、ボケに対するツッコミという形でエレキモンの電撃をくらっているベアモンだが、触れてしまえば意識を刈り取られてしまう可能性のほうが高い。
(このままだとマズイなぁ……戦うのは嫌いだけど、甘い事を言えるラインは既に過ぎちゃってるし……やっぱり、戦闘力を奪う以外に安全策は無いか。逃げる事はこの状況だと厳しいし)
ベアモンは糸を避けながら目を泳がせ、自分自身に敵意を向けているクネモンの数と位置を見直しだす。
(木の上には三匹、地上には四匹かぁ……)
視界に映る合計七匹のクネモンが、時間差攻撃で自分に襲い掛かっている。
それを知ったベアモンは、最早背中を見せて逃げる事は難しい事を察する。
(……仕方が無い)
徐々にその目は闘志を示し始め、握る拳にも力が入り始める。
視線で最初の
そして、ある程度の未来設計を整えると、ベアモンは右足に力を入れ、一気に前方へと駆け出す。
「子熊正拳突き!!」
視界に入っている帯電した糸を掻い潜って回避すると、ベアモンは上にクネモンが乗っている木の一本に向かって、
「キィィィ!!」
デジブドウを採った時以上の揺れが発生し、木の上にムカデのようにしがみ付いていたクネモンの一匹が、悲鳴を上げながら落ちてくる。
ベアモンはその落ちてきたクネモンの頭部に向かって「ごめんね」と呟きながら拳骨を決めると、目と思われる部位のすぐ上にある触角らしき部位を両手で掴む。
「……悪いけど、相手の力量も理解せずに、本能のまま襲い掛かった君達にも非はあるからね?」
頭の上でヒヨコがぐるぐる回っている状態のクネモンを、ベアモンは
クネモン達もそれに気付いて反撃しようとするが、直撃コースの糸のほとんどはベアモンが鈍器代わりに使っているクネモンの方へと絡まっていく。
彼等自身はその電気を帯びた糸の上を進行出来るように、体に電気に対する耐性を持っているが、この場合は彼等自身にとって利点にはなっていない。
電気を帯びた糸がベアモンの方に届く前に、自分達の同族が盾のように使われているせいで全く電気が効いていないのだから。
振り回されている幼虫の稲妻模様が涙を表すようなカタチへと変化しているのは、きっと気のせいだろう。
「ほいさぁっ!!」
「ギィッ!?」
両手でとにかく振り回し、ベアモンは地上にいるクネモン達をボカスカと無双感覚で蹴散らす。
「ちょいさぁっ!!」
「ギィィィ!!」
そこから更に、ベアモンは両手に思いっきり力を入れると、木の上から攻撃しているクネモンの一体に向かって鈍器代わりにしていたクネモンを投げた。
見事に縦回転を描きながら激突し、二匹のクネモンは茂みの中へと落ちる。
ベアモンは地上でのびている別のクネモンを、再び鈍器代わりに掴むと、次の狙いを絞り始める。
まさに、クネモン達にとっては地獄絵図だった。
少し前まで自分達の方が優勢だったのに、いつのまにか狩る側と狩られる側が逆転していたのだから当然なのだが。
ベアモンにクネモン達の心境は詳しく分かっていないが、少なくとも自分に恐怖している事だけは理解出来た。
故に、確かな威圧感を含んだ声を視線でベアモンはクネモンに告げる。
「……まだやるなら、君等もこの子みたいにやってあげるけど、どうする?」
既に戦闘可能なクネモンの数は最初の半分以下にまで減っており、残りは三匹。
そして、ベアモンの手にはまた別のクネモンが鈍器として触角を掴まれている。
「キ、キィィ……」
思わず、数少ない地上に残っていたクネモンが後ろにたじろぐ。
流石に、逃げようとする相手に追い討ちを仕掛けるほどベアモンも鬼にはなれない。
故に、立ち向かってこない限りは自分から手を出さない。
だが、野生の世界はそう甘くない。
『キィィィィィィ!!』
「!?」
追い詰められたクネモン達は突如、遠吠えのように奇声を発し始めたのだ。
突然の高音量に思わず、ベアモンは耳を両手で塞ぎ目を細める。
だが、クネモン達は奇声を発した後、ベアモンに背を向けて一目散に逃げていった。
「? 逃げた……?」
ただの威嚇行動だったのか、それとも何か別の意図があったのか。
ベアモンは疑問を覚えたが、ひとまず戦闘が終わった事に対して安堵のため息を吐いた。
「災難だったなぁ……これだと、デジブドウは諦めた方がいいかも」
結局、味を楽しみにしていた果実を口に出来なかった事に対してベアモンは残念そうに俯くが、すぐさま立ち直ると果実の成っていた木に背を向け、また別の食料を探して歩き始めようとした。
「……ん?」
だが、歩き出そうとしたベアモンの足が突然止まり、ベアモンは背後に振り返って耳を澄ませる。
遥か遠くの林から、ブーンとノイズに似た雑音がベアモンの耳に入ったからだ。
音の発生源が視界に入っていないため、ベアモンにはただ疑問を覚える以外に無かったが、やがて音がどんどん大きくなっていくと、ベアモンは額に冷や汗をかき始めた。
「……まさか」
そう呟いた時、既にベアモンは半歩ずつ後ろに下がり始めていた。
(……ヤバイ。こればっかりは本気でマズイ)
「お~い!! ベアモ~ン!!」
「……ん?」
ベアモンは雑音とは別の声がした方へ顔を向けると、そこにはベアモンの事を探しに来ていたと思われるエレキモンとギルモンのユウキが、駆け足で近づいてきているのが見えた。
だが、ベアモンの表情は喜びというより困惑の色を示している。
「……あのさ、この状況で来てくれた事が幸運なのか不幸なのか、よく分からないんだけど」
「おいおい、せっかく探しに来たってのにその言い草かよ。何かあったのか?」
ベアモンの言葉に対して、エレキモンは不満そうに返しながら質問する。
だが、その質問に対して返答するよりも早く。
「……てか、何だ? 向こう側から何か……ッ!?」
ユウキがそう呟くのと、ほぼ同時に林の向こう側からノイズの発生源は姿を現した。
その外見は蜂のようで、背中から四つの目のような模様がついた紫色の禍々しい羽を持ち、黄色と青の硬い外殻に守られ、大きな鉤爪と毒針を持った昆虫型のデジモン。
その名は、フライモン。
ベアモンやエレキモンといった『成長期』のデジモンよりも、一つ上の世代である『成熟期』に位置するデジモンの一体。
「げっ、コイツは……!!」
「フライモン……!!」
「ッ……!!」
このフライモンは、どうやらクネモン達の虫の知らせによって来たようで、明らかに敵意を向けている事がベアモンにも、来たばかりのエレキモンとユウキにも嫌でも分かった。
そして、縄張り意識以外の理由の無い容赦無き攻撃が、引き金を引くかのように速攻で放たれる。
「デッドリースティング!!」
「ッ……!! 避けろ!!」
エレキモンの叫びと共に、唾を吐くようなスピードでフライモンの尻尾の先から毒針が放たれた。
しかし、目の前の脅威に対する恐怖で、ユウキは一瞬だけ行動が遅れてしまう。
そして、その一瞬が命取り。
「!!」
ユウキはハッと我に返り、先の事を考えないまま横に倒れこむ。
毒針はユウキの真横を過ぎていき、その後ろにあった木へと刺さる。
木は毒針が刺さった場所から紫色に変色し始めており、毒針に含まれている毒の危険性を示しているように見える。
仮に反応が更に遅れていたら、ユウキ自身に刺さっていた事は言うまでも無い。
「バカ!! 自分の身は自分で守れっつったろ!? とっとと起き上がれよ!!」
ユウキの動きの鈍さを傍目で見ていたエレキモンは、思わず怒声をあげている。
フライモンの尻尾の毒針は、弾丸を装填するかのようにいつのまにか生え変わっており、それはいつでも毒針を放つ事が出来る事を示していた。
ユウキ自身も、フライモンというデジモンがどのような技を持っていて、どれだけ厄介なデジモンかどうかを知ってはいる。
だが、目の前に突然現れた怪物の存在に、理性よりも先に恐怖心がこみ上げてしまう。
自然と、情けなく手が小さく震える。
動かないといけないという事が分かっているのに、体が言う事を聞かない。
「あ……」
ふと視線をフライモンが居た方に向けた時には、既に毒針が迫ってきており、ユウキは不意に目を閉じていた。
「……?」
だが、その時疑問が生まれた。
痛みが来ないのだ。
理由を調べるために、知る事に対する恐怖心を押さえ込みながら目を開ける。
「……んなっ……!?」
デジタルワールドに来て、早二日目。
突然の遭遇戦の中、ユウキが見たのは。
「ぐぅっ……!!」
目の前で両手を広げ、自分が受けるはずだった毒針を右肩に受け、苦しそうに呻き声を上げるベアモンの姿だった。
今回は珍しく文字数が5000に到達しました。
まぁ、作者から言える事があるとするなら、今回の話での主人公を責めないでほしいって事ぐらいですかね。
だって、現実的に考えたら
・自分の体躯よりずっと大きな蜂が、
・不気味な羽を広げて高速で空を飛び、
・敵意むき出しに自分の方へと向かってくる
って事ですもの。
……あれ、こうして考えると、やっぱりデジモンアニメの主人公達って凄くね? 精神面が。
さて、今回はシリアスなのでNGを入れる余裕がありませんでした。
早く書きたい話があるので、ガンガン進めていきたいです。