DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
あと少しで一区切り付ける事が出来そうなので、頑張っていきたいと思います。
まず、目が覚めたら辺りに色んな意味での死臭が漂っていた。
それを認識した直後、初見の相手に突然声を掛けられた。
返答したが、家の中に充満していた臭気が鼻の中に入ってくる事を本能的に恐れたために、両手の位置はしばらくの間固定されていた。
換気が完全に終わり、少し前まで家の中の空間に漂っていた臭いとは別の甘い香りで上書きした所で、ようやくマトモに喋れるようになったユウキは、とりあえず目の前にいるこの家の持ち主であるパルモンに対して自己紹介……をしようしたのだが、どうやら気を失っている間にエレキモンから既にユウキの事は聞いていたらしく、自己紹介はあっさり終了した。
その後、気絶しているバカ二匹を無視しつつ、ユウキとパルモンの間で情報交換が行われた。
自分が行く宛も帰る宛も無いデジモンである事。
偶然自分の事を見つけたベアモンの家に居候させてもらえる事になった事。
そして今日、家の中から居なくなっていたベアモンを探しに森の中へと入り、フライモンに襲われた事など、ベアモンとエレキモンが自分を見つけてからここに至るまでの経緯をほとんど話した。
話していない部分があるとするなら、自分が元は人間だったという事ぐらいだろう。
しかし、その経緯を聞いたパルモンは何か引っかかるような疑問を覚えたように首を傾げると、ユウキに対して質問をした。
「今の口ぶりで気になったけど……アンタ、自分がフライモンを撃退してから町まで二人を運んで来た事を覚えていないのかい?」
思わずユウキは『は?』と聞き返していた。
「エレキモンの話によると、アンタはフライモンとの戦闘で殺られそうになった時、突然一時的に進化を発動させて圧倒したらしいよ。アタシは見ていないから知らないけど、本当にアンタは自分がやった事を覚えていないのかい?」
まったく記憶に無い出来事に対する言及だった。
ユウキ自身、フライモンとの闘いで起きた事は途中までしか覚えておらず、進化したなどという実感は湧いていない。
しかし、目を覚ましてからユウキは身に覚えの無い疲労感と頭痛を感じている。
それが何よりの証明なのかもしれないと思ったが、やはりとても信じられない事だった。
返す言葉に困っているユウキの反応を見たパルモンは、何かを確信したのか言葉を紡いでいく。
「覚えてなかったのね……町の入り口付近でアンタを目撃した時、アンタが進化したと思うデジモンの目に理性は感じなかった。多分その時のアンタは無意識だったか、本能的にやっていた行動だったんでしょうね。そんな状態の中でも、自分を助けてくれたそこの二人を助けたかった……勝手な推測だけど当たっているかしら?」
その回答が本当に正解なのかは、言ったパルモンにも言われたユウキにも分からない。
そもそも、進化後の自分の体を動かしていた意思が自分の物だったのか、それすら分からないのに誰がその答えを知っているのだろう。
正しい答えを探そうとして、結局返事を返す事は出来なかった。
そんな様子を見たパルモンは一度浅くため息を吐くと、一度仕切りなおしてから言葉を紡いでいく。
「まぁ、無理に考えなくてもいいと思うわよ。それよりもアンタはベアモンの家に居候するらしいけど、何か行動の方針は決まっているワケ?」
「それは……」
その質問に、ユウキはまたもや言葉が詰まってしまう。
ユウキの目的は『自分が人間からデジモンに成ってしまった理由』の解明だが、それを話すという事は、自分が元人間だという事に関する説明が必要となる。
しかし、それを話すと余計に事が面倒な方向へと移行してしまうのが容易に想像出来る。
(……どうする。話すべきでは無いけど、下手に言い訳しても疑われそうだしな……)
んー、と喉から音を鳴らしながら考え、ユウキは言葉を紡ぐ。
「とりあえず、この町で働いていこうと思う。いつまでになるかは分からないけど、どの道行く宛も無いから……」
「なるほどね。そういう事なら歓迎するけど……」
ユウキは、ひとまず話題を切り抜けた事に内心で安堵した。
その一方でパルモンはユウキの回答を聞くと、気絶しているベアモンとエレキモンの方へ視線を向ける。
そして、何を思ったのか突然両手の先に見える爪をツタ状に伸ばし出した。
「まず、あのバカ二人を起こした方が良さそうね」
そう言った次の瞬間。
パルモンは両手から生えているツタを鞭のように扱い、ベアモンとエレキモンへと振り下ろした。
「ブバッ!?」
「ぎゃふんっ!?」
バチィン!! と手のひらで頬っぺたを叩いた時のような乾いた音と同時に、本日二度目となる悲鳴のデュエットが家の中に響き、多少強引だがベアモンとエレキモンは意識を取り戻した。
二人は叩かれた時の痛みで反射的に体を起き上がらせると、視線をそれぞれユウキとパルモンの方へと向かせる。
「パルモン……マジで痛いからその起こし方やめてくんねぇかな。額がマジでヒリヒリするんだわ……」
「ホントだよ。てか僕は怪我してるんだから手加減してもらっていいんじゃないかな?」
「確かにそうね。でも私は謝るつもり無いから」
ひどっ!? と見事に二人の声がハモる。
実際の所、数分前に二人が下らない動機で喧嘩を始めなければこんな事態にはならなかったとも言えるので、結局は二人の自業自得だったりするのだが。
二人の弁解を無視してパルモンは話を進める。
「まぁそんな事は今はどうでもいいんだけどね。それより、彼の事でアンタ達と一緒に考える必要が出て来たから、真面目に話を聞きな」
「……ん? いや、僕達は話を聞けてないんだけど」
「だな。何を一緒に考える必要が出て来たんだ?」
「彼……ギルモンが、この町で暮らす上で行う仕事の事よ」
その言葉にエレキモンと、珍しくベアモンが文字通り真面目な表情になった。
この
そして、ユウキが疑問符を頭の上に浮かべていると、先にエレキモンが口を開いた。
「森に向かう途中で言ったよな? 『手が無いわけじゃない』って」
「ああ……でも、それが何なのかは結局聞けてない。いったい何なんだ?」
「………………」
エレキモンは一度無言になると、ベアモンに何かを耳打ちした。
すると、エレキモンの代わりに怪我人であるベアモンが口を開いた。
「『ギルド』って言ってもユウキは分からないよね?」
「……ギルド?」
思わず呆けた声でそう返してしまったが、ベアモンにはその反応が予想通りだったのか首を縦に振り、そのまま声を紡ぐ。
「ギルドって言うのはデジタルワールドに何個も別々に存在する組織の名称なんだけど、目的を具体的に言えば何かで困っているデジモンの依頼を受けてそれを遂行したり、時には町の資源となる物資を獲得するために冒険したり……まぁ、自由度の高い組織だよ。情報もかなり入ってくるし、行動する範囲はかなり広がると思う」
「………………」
ユウキはベアモンの言う『ギルド』の内容を聞くと、表情を強張らせる。
ベアモンは話を続ける。
「ただね。この組織に入るためには条件もあって、集団での行動を主にするからまずは『チーム』を作らないといけない。最低でも三匹のデジモンで構成された、実力もそれなりにある三匹によって構成されたやつをね」
そこまで聞いた所で、ユウキは思った。
チームを作る必要があるのは分かったが、よもやそんな組織にあっさり入れるはずが無い、と。
考えた事をそのまま口にすると、ベアモンからは予想通りの答えが返って来た。
「その考えは間違っていないよ。確かに、『ギルド』に入るためにはその実力を知るための『試験』を突破しないといけない」
だけど、とベアモンは言葉を付け加え、話を進める。
「実力と言っても色々あるからね。知識力に行動力に精神力に……戦闘力。野生のデジモンが横行する場所に向かう事が多いんだから、一番最後に言った部分はかなり重要だよ」
「………………」
わざわざ強調して言った辺り、ベアモンも理解している事なのだろう。
その重要な部分が明らかに足り無さすぎるのが現状のユウキだったりして、本人は流石に自覚があった事もあり、言葉のナイフで心を刺されたユウキは(精神的に)ヘコんでしまった。
その光景を傍から黙って見ていた、エレキモンとパルモンはと言えば。
(……まぁ、あんなビビり状態じゃあなぁ……)
(……あら、進化したって言ってたけど……)
可哀想とは思っていても、やはり内心で戦闘力の低さをフォロー出来てなかったりする。
ユウキはマイナス思考のまま口を開く。
「……やっぱ俺には無理なやつじゃん……」
「そんな事ないよ」
呟いた言葉をベアモンはバッサリ切り捨て、正直に思った事を次々と言葉にして放つ。
「確かに、森での闘いの時はハッキリ言って足手まといだったよ。だけどね、ユウキにとってはアレが初めての実戦で、しかもその相手が成熟期のデジモンだったんだし、仕方が無いでしょ」
「でも、俺があの時に動いていたら……ベアモンは右腕をやられたりしなかった」
「こんなのちゃんと治療すれば治るよ。肩から先が無くなってるわけじゃあるまいし」
「あのままだと右腕だけに留まらず、毒に体を蝕まれて死んでいたかもしれないんだぞ……」
「その時はその時だよ。そもそも、あの森が今危ないって事を知っていたのに向かった僕が悪いんだし……君が居たおかげで、僕もエレキモンも助かったんだよ? むしろ感謝するのは僕の方だよ」
「………………」
ベアモンの優しさと自身の不甲斐無さが合わさり、思わずユウキは歯軋りする。
優しさが心を癒すどころか、むしろ自身を惨めにしているようにすら思ってしまう。
「……ふざけんな」
そして、ユウキはベアモンに向けて苛立ちを含んだ声で言った。
「何でだよ。何でベアモンはそんな風に、自分より他人の事ばっかり考えられるんだよ!! 俺はお前にとってそんなに価値のあるデジモンか!? 何も恩を返せて無いのに、こっちは与えてもらうだけで何も出来て無いだろ!! それに俺はお前の友達でも何でも無いんだぞ? ただの居候予定のちっぽけなデジモンだろうが!! 何でそんな俺のために命まで賭けられるんだよ!?」
その言葉には苛立ちと悔しさしか含まれていない。
正論かどうかなんてどうでも良くて、言う度に余計に苛立ちや悔しさは増えるばかりだ。
そんなユウキの言葉に対して、ベアモンはかくも当然のように返す。
「……あのさ、じゃあ逆に聞くけど。恩とか価値とかが無いと、誰かを助けちゃ駄目なワケ?」
「それは……」
「そういう物が無いと何もしないの? 目の前に見える、自分が助けたいと思った誰かを助けちゃ駄目なの?」
「…………ッ」
ベアモンの言葉は冷たく、鋭くユウキの苛立っていた心に突き刺さり、反論を許さなかった。
言葉に詰まるユウキに構わず、ベアモンは言葉を紡ぐ。
「僕は『助けたい』と思ったから助けた。君はどうなの? 僕等の事を、恩とかそういう理屈抜きで本当に『助けたい』と思ったからでこそ、進化出来たんじゃないの?」
「……分からない」
「僕にも分からないよ。ユウキが何を考えているかなんてね」
ベアモンがそう言った時、流石に喧嘩ムードとすら思える重い雰囲気に耐えかねたエレキモンが、改めて口を開いた。
「ったく、ベアモンお前言い過ぎだ。お前の性格は理解してっけどコイツの言う通り、お前は自分自身の被害を気にしなさすぎだ」
「……ごめんごめん。熱くなりすぎたよ」
エレキモンはベアモンを宥めると、すっかり落ち込んでいるユウキに声を掛ける。
「わりぃな、ベアモンはこういう性格なんだ。お前の気持ちも分からなくは無いけどよ、落ち込んでても仕方が無いだろ」
「……まぁ、そうだけどさ」
「結局、どうする? 『ギルド』に俺達と一緒に入るか?」
「………………」
ユウキは黙り込み、ベアモンが言っていた『ギルド』の事を考える。
情報が集まりやすく、行動範囲が広がる事はユウキにとって、プラス以外の何者でも無い恩恵だ。
しかし、ベアモンの言葉から察するに、これから闘いが頻繁に行われる事は確定だろう。
そんな中で、自分は生き残る事が出来るのだろうか。
そして何より、こんなにも自分より強いベアモンやエレキモンと一緒にやっていけるのだろうか。
「ユウキ」
そんな事を考えていた時、ユウキはベアモンから改めて声を掛けられた。
「自分の弱さを気にしているのならさ、一緒に強くなろうよ。それでも力が足りないのなら、互いに力を合わせようよ」
「……!!」
それは独りでしか考えなかった故に、至らなかった答えだった。
「それとも、僕等はそんなに頼り無い? 確かにエレキモンは腕っぷしも弱いけどさ」
「おいちょっと待て。何気に酷い事言って無いか」
「事実じゃん」
「ちょっと電撃でも食らわせてやろうか」
「あんた等……どうやら懲りてないみたいだね?」
「「ひっ!?」」
ユウキは不思議と思った。
彼等のようなデジモンと一緒なら、どんな困難な道でも一緒に歩んでゆけるかもしれない、と。
「……ははっ……」
思わず笑みがこぼれる。
最早、迷いはほとんど無かった。
ユウキは、パルモンに現在進行形で『お願いだからその臭いだけはー!!』と懇願している二人が気付くように、わざと大声を上げる。
「ベアモン!! エレキモン!!」
「ん?」
「何?」
「俺決めたよ。『ギルド』に入る。色々不安だけど、立ち止まってたら何も始まらないしな。だから……」
一度言葉を区切り、ユウキは二人に向かって言う。
「こんな俺でも良いのなら、仲間に入れてくれ。頼む!!」
対するベアモンとエレキモンは、その言葉に笑みを浮かべて返答する。
「断ると思う? これからよろしくね!!」
「右に同じくだ。コイツだけじゃ色々不安だし? お前の事は少なくとも信用出来るからな」
こうして三人は、友情を誓う握手を交わすのだった。
まだ道のりは厳しいが、彼等が互いを信じている限り、歩みは決して止まらない。
シリアス一直線の話だった故に、NGとして弄れる台詞が無かったです。
それはともかく、今回の話ではようやく主人公二人の心理を多少は書けたと思います。まだ至らない部分も見えますが、やっぱりデジモンの作品では心理的な『成長』も書いていきたいものです。
それにしても、こんなに物語の進行スピードが遅いのに……お気に入り登録者数が30を超えていて驚きました。こんな小説でも応援してくれるお方がいると考えただけでも、執筆する意欲が湧いてきます。
では、次回もお楽しみに。感想や指摘など、いつでもお待ちしております。