DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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電子世界にて――『食生活は計画的に』

 

 『ギルド』の見学を負え、怪我をしているベアモンを彼自身の家まで送ってから、およそ一時間と半が過ぎた。

 

 元人間のデジモンことギルモンのユウキは、あまり体を激しく動かす事が出来ない(と思われる)ベアモンと、何よりこの日の朝から何も口にしていない自分自身の食料を調達するために、先日自分が発見された海岸へエレキモンと共にやって来ていた。

 

 人間の世界と違い、何所かに時計が置いているわけでも無いので、現在の詳しい時刻は分からない。

 

 だが太陽が徐々に落ちはじめている所を見るに、夕方になるまでの時間はそこまで残っていないようだ。

 

 エレキモンから釣りのやり方をある程度聞いた後、早速ベアモンから許可を得て貸して貰った釣り竿を使い、魚が当たるのを長々とユウキは待っていた……のだが。

 

 岩肌の上に立ち、ルアーの付いた糸を海の中へ投下してから、早十分。

 

「………………」

 

 魚が一向に喰い付いて来ない。

 

 彼自身、人間だった頃は近くに海が無い地域に住んでいたため、そもそも『釣りをする』と言う行為そのものが初体験ではある。

 

 スーパーやコンビニでお金を使い、購入する事でしか食料を入手した事の無い人間が、いざ食料を自分で入手しようとすると、こうも旨くいかないものなのだろうか……と、元人間のデジモンは思う。

 

 冷静に考えれば十分しか経っていないが、夜になるまでに食料を確保して町に戻りたいユウキにとっては、一分すら惜しい時間と感じられてしまう。

 

 ふと砂浜の方に居るエレキモンの方に顔を向けると、何やら前足を使って砂を除けているのが見えた。

 

 その行動の意図を理解しようとはしないまま、ユウキは小さくため息を吐く。

 

(……食料を確保するだけで、こんなに手間をかける事になるなんてな……)

 

 思えば。

 

 ユウキは、これまで自分で直接食料を確保した事が無かった。

 

 現在社会では基本的に、食料はスーパーマーケットやコンビニなどで『お金を使えば簡単に手に入る』と認識をしている人間が多い。

 

 それ等の人間は漁師として海に出ているわけでも、農業を行って汗水を垂らしているわけでも無いからだ。

 

 ユウキもその一人であり、このような状況に遭遇しなければ考えもしなかったかもしれない。

 

 そもそも食料を『直接』確保する側の存在が無ければ、例え硬貨を持っていても食料を『間接的』に確保している側は食にありつけない可能性があるという事を。

 

(……こういう時になって、漁師さんとかに感謝する事になるとは思わなかったな)

 

 この世界で生きていくためには力だけで無く、生き抜くための知識も当然必要だ。

 

 人間で言う『社会』で生きるための能力は、デジモン達の生きる『野生』では殆ど役に立たない。

 

 それ等の事項を再度確認しようとするが、具体的にどうするのかはまだ決まらないし分からない。

 

(……まるで受験勉強みたいだな。違う所は、落選(イコール)死亡って事だが)

 

 自分の目的を叶えるために必要な能力は、たった一人で手に入れるには、あまりに多すぎる。

 

(……けど)

 

 今は一人では無い。

 

 自分よりも強いデジモンが二人、味方になってくれている。

 

 不安は拭い切れないが、それでも希望は見え始めている。

 

(大丈夫だろ。きっと……)

 

 そんな事を考えていると、両手で掴んでいる釣り竿が、ようやく(しな)り始めた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「……おっ、帰って来たかぁ?」

 

 所属している組織の拠点である建物の中で寝転がっていたミケモンは、外部から聞こえる音に耳を傾けながらそう呟いた。

 

 わざわざ体を起こして確認しに向かうまでも無いまま、建物の入り口から三体のデジモンが入って来た。

 

「……帰還した」

 

 一体は緑色の体毛に子ザルのような外見をしており、背中に自分の体ほどはあるであろう大きなYの字のパチンコを背負った獣型デジモン――コエモン。

 

「ういーっす」

 

 一体は鋭く長い爪を生やした前足を持ち、尻尾に三つのベルトを締めており、外見はウサギに似ているようで似ていない、二足歩行が出来る哺乳類型デジモン――ガジモン。

 

「ただいまもどりました~!!」

 

 一体は二本の触覚を頭から生やした黄緑色の幼虫のような姿をしている幼虫型デジモン――ワームモンだ。

 

 彼等の姿を見たミケモンは、最初に一言。

 

「チーム『フリーウォーク』……近隣の町までご苦労さん」

 

「マジで疲れたわ。というか、別に目的地までの距離に文句はねぇんだが……」

 

「……近隣とは言え、行きと帰りに数時間は掛かる。その上、道中に野生のデジモンにも襲われるのだから疲れないはずが無い」

 

「だけど無事に依頼は達成してきました~」

 

「ま、お前等の顔を見ていりゃ分かるさ。報酬も貰ってるのが列記とした証拠になってるし」

 

 そう言うミケモンの視線は、コエモンが右手に持っている布の袋に向けられている。

 

 彼等のチームが依頼を無事完遂した事を確認したミケモンは、続けて言う。

 

「今日は時間も押してきてるし、お前等は先に引き上げていいぞ」

 

 言われて最初に反応したのは、彼等の中ではリーダー格と思われるガジモン。

 

「アンタはどうするんだ? やっぱり留守番か?」

 

「やっぱりなんて言うな。他にも帰ってくるチームが居るんだし、何よりリーダーが帰って来ないと留守番を辞められない。勝手にサボったら説教食らいそうだしな」

 

 もっともそうな理由を述べると、今度はコエモンが冷静な声で言う。

 

「……いつも退屈そうに寝ている事は、説教されないのか……?」

 

「別に寝ていたりしねぇよ。ただ横になって、適当にボケ~っとしてるだけだ」

 

 それを聞いたワームモンは、あからさまに怪訝な視線を向けながら聞く。

 

「それって要するに寝ているんじゃ……」

 

「だから寝てねぇって言ってんだろ。そんなに言うならお前等が留守番係やれよ。俺だって外に出て開放感に浸りてぇんだけど、リーダーの指示なんだから逆らうワケにもいかねぇんだ。そりゃあ時折(ときおり)意識(いしき)が遠のいて色んなものを見るけどよ」

 

「……それを普通は『寝ている』と言うのではないか?」

 

 コエモンの言葉を聞いたミケモンは一瞬固まったように無言になり、そこからすぐに言葉を返そうとしたが。

 

「……ね、寝てねぇよ!!」

 

 結局、三体の子供(ガキ)に苦笑いされるミケモンだった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 やがて時間は静かに経ってゆき、空はオレンジ色に彩られた夕焼けに変わる。

 

「……つ、疲れた……そんなに動いていたわけでもないのに、マジで疲れた……」

 

「お前、忍耐力無いなぁ」

 

 ギルモンのユウキは、一応この世界(デジタルワールド)での暮らしの先輩であるエレキモンと共に、食料となる海鮮類が詰め込まれたバケツを二つ持って発芽の町に戻って来た。

 

 ユウキが右手で持っているバケツの中には、初釣りで手に入れた魚が両手の指の数を少し超える程度の数だけあって、左手に持っているバケツにはアサリやハマグリといった貝類が多く入っている。

 

 当然前者はユウキが確保したもので、後者はエレキモンが集めたものだ。

 

「砂浜の所で手を動かしてて何をしてるかと思ってたら、潮干狩りだったのなアレ……てか、貝ってそんなにお腹が膨れるイメージが無いんだけど……」

 

「ま、俺の方はそれなりに食料が余っているし、たまには趣向を変えてな。」

 

「……大体、お前が持って来てたはずのバケツを、何で俺が持つハメになってるのかが理解出来ないんだが」

 

「だって俺、今日は戦闘とか色々あって結構疲れてるし~? あと、お前の方がこういう事には向いていると思った。それだけ」

 

「まぁ、別にいいけどさ……朝から何も食べていないから、腹と背中がくっ付きそうなんだよ」

 

「良かったじゃねぇか。()せれば素早くなれるぜ?」

 

「うん、その言葉から一切喜べる要素を感じないのは何でなんだろうな」

 

 そんな他人からはどうでもいい会話を交わしながら、ユウキとエレキモンはベアモンの家に到着した。

 

(……また暗号を残してどっかに行ってるなんてオチは無いよな?)

 

 嫌な未来図(ビジョン)を想像しながらも中に入る。

 

 幸いにもベアモンは安静を心がけていたらしく、ぐっすりと眠っていた。

 

(……俺、この世界に来てから色んな事に対して不安を浮かべてる気がするなぁ)

 

 内心でそう呟くユウキに対して、エレキモンは一度ベアモンの寝顔を確認してから声をかける。

 

「時間も時間だし、このまま寝かしとく方がいいだろうな。魚を必要な分だけ食って、残りはそいつの分として残しとこうぜ」

 

「……あ、あぁ」

 

 エレキモンの提案に同意したユウキはバケツの中から三匹の魚を掴み、目をつぶった状態でそれらを丸ごと一気に口の中へと放り込んだ。

 

 口の中で何度も嚙み続け、食欲を失いそうな絵図が頭に浮かぶ前に飲み込む。

 

 魚の苦味と旨味が舌に伝わる中で、ユウキは思った。

 

(……これ、昨日は特に考える余裕が無かったから思いもしなかったけど、口の中が血塗れになってないか……?)

 

 何せ、何の調理も行っていない魚を食しているのだ。

 

 火で内部までしっかり焼いた物ならそのような事は無いが、一度想像してしまうと生々しさから吐き気を感じてしまう。

 

 だが、この世界で生きる以上は、生物(なまもの)を食べる事を何度も容認する必要がある。

 

 少しでもこの気分の悪さを解消するためには、最低でも人間が食べる料理に近い形に調理出来るようになるか、野菜や果物などを主食にする以外に無い。

 

 そうなると、一番に思い浮かぶ調理方法は『火で(あぶ)る』事だろう。

 

 ユウキ自身何度も考えた事だが、改めて確信した。

 

 

 

 自身が成っている種族(ギルモン)の『必殺技』をモノにする必要がある、と。

 

 

 

「……おい、食い終わったのなら、ちょっと来てもらいたいんだけど、いいか?」

 

 そんな事を考えていると、横からエレキモンに話しかけられた。

 

 特に何も言わずに首だけ縦に振ると、エレキモンはベアモンの家から外へと向かい出す。

 

 もう一度だけベアモンの様子を確認した後に、ユウキはそれに付いて行くために家を後にした。

 

 空は、あと数時間ほどで夜の闇に包まれる。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ギルドの建物内。

 

 留守番係を任されているミケモンにも、時間の関係からか眠気を徐々に感じるようになっていた。

 

「……ふぁ~、ねみぃ」

 

 チーム『フリーウォーク』との会話の後から今に至るまでの間、依頼を達成したチームは次々と帰還している。

 

 しかし、まだ組織(ギルド)を治めているリーダーは帰って来ていない。

 

「……ったく、他のチームが受けきれていない依頼を()()行うためとはいえ、時間を掛け過ぎだっての」

 

 リーダーであるデジモンの強さはミケモンもよく知っている。

 

 決して短くはない付き合いなのだから当然だが、待たされている側の気持ちを少しは考えて欲しい、とミケモンは思いながら呟いた。

 

 空はもうすぐ夜になる。

 

 そうなると視界が悪くなり、夜行性のデジモンが出没するようになるため、決して安全では無くなる。

 

 それでもミケモンは心配しない。

 

「……ふわぁ~……あぁ、眠い」

 

 だが、やはりずっと動いていない状態だと眠気は容赦無く襲ってくる。

 

 夢と言う名の安らぎに意識が沈んでいく。

 

(どうせ帰ってくるまではやる事も無いんだし、いっそこのまま眠っていようかね)

 

 そう考えたミケモンは、睡魔に抵抗せずに瞳を閉じる。

 

 よほど疲れていたのか、退屈だったのか、数秒ともしない内に喉の奥から(いびき)が聞こえ出した。

 

 

 

 

 

 それから時間は更に経ち、空が夜の闇に包まれ出した頃。

 

 『ギルド』の拠点である建物の中に、とあるデジモンが入って来た。

 

 その姿は、暗闇に包まれている所為でよく分からない。

 

「………………」

 

 そのデジモンは眠っているミケモンを見るとため息を吐き、静かに右手を額に当てながら内心で呟く。

 

(……退屈なのは分かるが、重要な仕事なのだから真面目にやってもらいたいものなのだがな)

 

 やがて左手に持っていた複数の布袋をカウンターの上に乗せると、そのデジモンは建物の外に出る。

 

 体に月の光が当たり、姿が明らかになる。

 

 その姿は獅子(ライオン)と人間を掛け合わせたような獣人の姿をしていて、腰元には何らかの刃物を収納するための(さや)(たずさ)えられており、下半身には黒いジーンズが穿かれている。

 

 彼は(たてがみ)を夜風に靡かせながら、静かに、受けた依頼で向かった場所の事を思い出しながら、誰にも宛てていない言葉を内心で呟く。

 

(……この『平和』は、あとどのぐらい続いてくれるのだろうな……)

 




本日のNG。

 真夜中の発芽の町で、刀を携えた獣人型のデジモンが夜空を眺めながら、ふと何かを思い出したように呟いた。







「……何故、私の種族は『あるくしぼうふらぐ』などと呼ばれるのだろう?」

 答えは誰にも、多分誰にも分からないッ!!

 NGその5「俺、この戦いが終わったら(以下略)」
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