DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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二週間近く更新が滞っていましたが、ようやく更新です。




電子世界にて――『ちょっとした恩返し』

 どんな生物でも肌寒さを感じ始める夜中の町の路上にて、ユウキは先導するエレキモンに着いて行く形で歩いていた。

 

 朝や昼の時には活気を感じられていた街道からはデジモンの姿がほとんど薄まっていて、人間の世界では嫌というほど聞こえていた車の走行音の代わりに元人間(ユウキ)の耳に(ささや)くのは、空気の動きを意味する冷たい風の音。

 

 夜中が静かであるという点に関して言えば、人間の世界もデジモンが生きる世界も大して変わらないだろう。

 

 違う点があるとするなら、その『夜』の間から活発になる生き物がこの世界には多く存在する事ぐらいだろうか。

 

(……いや、変わらない)

 

 人間にだって、暗闇に姿を覆い隠されている時になって『自分の本性』を(さら)け出す者や、やってはならない事を他者から知られないように狡猾に行う者がいる。

 

 その中の一人には、ユウキを襲って来た人物も含まれている。

 

 今になって思えば、あの時は空もすっかり暗くなっていて、辺りには不自然なほどに人が居なかった。

 

 そんな状況だったからでこそ、何らかの『目的』を果たすために襲って来たのかもしれない。

 

 結局、あの男は何者だったのだろう。

 

 皮膚から伝わる異常な冷たさもそうだが、あの男の(すそ)から出た包帯も明らかに非現実的な要素の一つだった。

 

(……あれじゃあ、まるで……いや、でも、現実の世界でそんな事……)

 

 そこまで考えた所で、ユウキは思った。

 

 自分が行方不明になっている事は、現実の世界でどう報じられているのだろうか。

 

 家族は心配しているのだろうか。

 

 家族を含めた自分の関係者は皆、自分のような目に遭わずにいられているのだろうか。

 

 こうしている間にもひょっとしたら、自分と同じように行方不明になる人間は、日々増えてしまっているのだろうか。

 

 実際に人間の世界から行方不明になってしまった以上、そんな事を考えてもどうにもならない事はユウキ自身も理解している。

 

 だが、考えずには居られず、どうしても心配してしまう。

 

 そんなユウキの表情をチラっと見たエレキモンだが、その表情は心配してくれているというより『やれやれ……また考え事かよ』とでも言いたそうな、つまんなさそうな顔だ。

 

 そんなこんなで、夜中ということもあって特に会話も無いまま到着した場所は、子供が自由に遊ぶ事を目的とした平地の広がる公園だった。

 

 夜遊びをしているデジモンは見えないようだが、ユウキはまだエレキモンにこの場所に連れて来られた理由を聞いていない。

 

 到着した所でユウキが理由を聞こうとして、それよりも先にエレキモンが口を開いた。

 

「ここなら俺の家にも近いし、他の奴らの事を気にする事も無く話が出来るってわけだ」

 

「そんな事だろうとは薄々思ってたよ。何を話すんだ? わざわざこんな場所に来ないと話せない事なのか?」

 

「まぁ、少なくともベアモンの近くじゃ言えない事ではあるかもな」

 

 言ってから、エレキモンは続けて言葉を紡ぐ。

 

「お前、アイツ……ベアモンの事をどう思う?」

 

「え?」

 

 予想外な質問の内容に、思わず呆けた声を漏らしてしまったユウキだったが、考えるように『ん~……』と喉の奥から音を鳴らした後、回答した。

 

「まぁ……凄く優しい奴だって印象を受けたな。自分の危険も顧みずに俺の事を保護してくれたし、原因の内に俺の存在がある怪我に関しても咎める所か『あんな事』を言うんだし……ここに来てから会った中でも、一番信用が出来る奴だと思っている、かな」

 

 もっとも、昼の時に言ってた食料に関しての件でのセリフを除いてな、とユウキは言葉を付け加える。

 

 それらの言葉を聞き終えたエレキモンは、何かを言いずらそうにしばらく口を噤んでいたが、やがて一度溜め息を吐くと共に口を開く。

 

「ん~、まぁ俺も大体そう思うけど……俺から言わせてもらうと、今回のお前の足手まといっぷりは正直ブチ切れそうになった」

 

「……だろうな」

 

「アイツはお前の事を許してるみたいだが、俺はそんなに甘くない。結果的にお前が進化した事によって助かったが、俺は一言お前に言っておきたい事があったんだ」

 

 エレキモンは一呼吸を入れ、これから共に活動する事になるユウキに対して怒気を放ちながら、言う。

 

「……もしもお前が原因でベアモンが死んだら、その時はお前の事を殺すつもりでいるからな」

 

 仕方無い、とユウキは思う。

 

 実際、自分が原因でベアモンは死にかけたのだから、その友達と思われるエレキモンから、このような事を言われる事ぐらいは覚悟していた。

 

 むしろ、ベアモンの反応が普通に考えてもおかしいはずなのだ。

 

「………………」

 

 ただ、怖かった。

 

 ユウキがあの時動けなかった理由は、たったそれだけの事。

 

 故に言い訳などせずに、正直にユウキは頭を下げてから言う。

 

「……ごめん」

 

「本当に死んでいたら、謝って済むような問題じゃなかった。だから二度と……足を引っ張るんじゃねぇぞ」

 

「……ああ」

 

 今は、自分が弱かった所為で発生した出来事と結果を、成長するための糧にするしか無い。

 

 そう考えて受け止めるしか、今のユウキには方法が思いつけなかった。

 

(……人間は失敗して成長するって言うけど、その失敗を成功に繋げられないと意味がねぇ……)

 

 この『経験』は絶対に無駄にしない、とユウキは心の中だけで呟く。

 

 もしこれからも同じ事を繰り返してしまうのなら、結局目的を叶える過程で『敵』と遭遇にした時に何も出来ないのだから。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 話を終え、エレキモンと別れたユウキはベアモンの家に戻って来た。

 

 たった一日寝た程度の、愛着と呼べるような物も無い場所で、マンション住まいだったユウキにとっては良いと言える環境では無いが、今のユウキにとっては貴重な安全に眠れる場所であるため文句は無い。

 

 家の持ち主のベアモンの姿は、毛皮の色と暗闇で完全には見えないが、微かに寝息が聞こえるため眠っているのは間違いないようだ。

 

 それを確認したユウキは、あまり物音を立てないように注意を払いつつ、自然の産物を使って作られた寝床(ベッド)に体を預け、そのまま目を閉じる。

 

(……今日は、たった一日の出来事なのに、何だか凄く長いものに感じたな……)

 

 思えば一日の間に様々な事をした。

 

 起きてすぐに町を治めている長老と出会い、そこから戻って来ると家の主が居なくなっていて、それを探すために森の中へ足を踏み入れていたら怪物に襲われて、途中で意識が吹き飛んで、次に目を覚ましたら全く知らない場所で眠っていた事に気がついて、その後はベアモンやエレキモンと共に『チーム』を作る事になって――――とにかく色々な出来事が、たった一日の間に発生している。

 

(……九死に一生とはこの事か。ホント、これからは安心出来る時間が短くなるな)

 

 心の中でそう呟きながら、意識を夢の中に落とそうとした時だった。

 

「……んぅ……?」

 

 ベアモンに対して背を向けるように眠っていた所為で尻尾が当たったからのか、それとも気配を感じ取ったからなのか、言葉になっていない声を漏らしながらベアモンが目を覚ました。

 

「……ユウキ?」

 

「ごめん、起こしちゃったか?」

 

「いいよ別に。家に戻ってからほとんど寝ていたし、嫌な気分にもなってないから」

 

「……それは良かった。魚も一応ベアモンの分……用意しといた」

 

 暗闇と視界がハッキリしていない状態のまま、ユウキはバケツを置いていたはずの場所を適当に指差しながら、そう言った。

 

 ベアモンはそれを聞くと笑みを浮かべ、嬉しそうに小声で(ささや)く。

 

「ありがとう。これで貸し借りは無しだね」

 

「……ああ。()()()()()()()

 

「……命の方は、君が進化して助けてくれたんだし、既に借りは返されてると思うんだけど」

 

「自分の意志でやらないと、まるで他人に返してもらったような感覚になって嫌なんだよ」

 

 この部分だけは譲れないと言わんばかりにユウキは言う。

 

 対するベアモンの方からは、まるで小馬鹿にするような口調の言葉が返ってくる。

 

「意地っ張りだねぇ……その気合いは、もっと別の所に向けた方がいいと思うんだけどなぁ」

 

「む、じゃあどんな所に向けるべきなのか、言ってみてくれよ」

 

「それぐらいは自分で考えてほしいんだけど……まぁ、どうしても借りを返した気分になりたいのならさ……」

 

 ベアモンは案を言おうとして一度、何を言おうか迷ったように無言になる。

 

 何を言おうとしていたのか気になったユウキが、質問をするために口を開こうとした所で、やっとベアモンの方から一つの案が出た。

 

「……よし。じゃあ一回だけ、僕の言う事を()()()()聞いてくれる?」

 

「……ん? ごめん、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれ」

 

「だから、一回だけ僕の言う事を()()()()聞いてくれる? って言ったんだけど」

 

 思わず聞き返したユウキだったが、どうやら聞き間違いというワケでは無いらしい。

 

 今度はユウキの方が無言になり、考え始めた。

 

 このベアモンの性格から考えて、流石に『その場に土下座しろ』的な事や『お前の小遣い寄越せ』的な事といった危険な要求をする事は、無いと見ていいだろう。

 

 だが、言葉の一番最初に付いた『何でも』と言うキーワードがやけに引っかかる。

 

(……いや、別に大丈夫だろ。それに命を助けてくれたんだし、こんぐらいやってあげないとな……)

 

 そんな、無駄に空回りしているような正義感(プライド)を抱きつつ、ユウキは静かに答える。

 

「……分かった。その条件で頼む」

 

「……え? ホントにいいの?」

 

「あぁ。命を助けられたんだし、そのぐらいはな」

 

「……そっかぁ」

 

 ユウキは、ベアモンと背中合わせに寝転がっている所為で気付いていない。

 

 自分の発言を聞いたベアモンの表情が、まるで悪戯(いたずら)を思いついた子供のように、小悪魔的な笑みを浮かべている事を。

 

 そして、後々起こり得る出来事を想像する事も無く、ユウキはベアモンに対して、小さな声で気になっていた事の一つを聞く。

 

「……ところでベアモン。暗くて確認出来ないけど、怪我は大丈夫なのか……?」

 

 記憶に新しい、本来ならユウキが野生のフライモンから受けるはずだった大きな刺し傷。

 

 もしあの時、ベアモンが体を張って助けてくれなければこの刺し傷だけでは無く、毒によって体を蝕まれて命は無かっただろう、とユウキは実感している。

 

 当時その傷から漏れていた鮮血も生々しく、現実の物と受け取れる物だった。

 

(……あれが、戦いなんだよな……俺が想像していた物なんかより、ずっと恐ろしかった……)

 

 だが、その一方で。

 

「あぁ、それなら大丈夫。パルモンが作った薬のおかげで毒は消えてるし、明日になれば()()()()()()()

 

「……は?」

 

 恐らく、普通の人間よりも危険な目に遭って来た回数は多いであろう(と元人間は推測している)ベアモンからは、まるで怪我の痛みや辛さを感じさせない声調で返事が返ってきた。

 

 流石にそれは強がりだろうと思い、ユウキは追求する。

 

「い、いや、流石にあれほどの刺し傷を受けたら、治るまでにかなり時間もかかるんじゃないのか……?」

 

「まぁ僕自身でも理由は知らないんだけど、僕は()()()()()()()エレキモン達と比べても自然回復力が高いんだよね。だから、このぐらいの傷ならそれなりの時間眠っていれば修復しちゃうんだ」

 

「…………」

 

 思わず言葉を失った。

 

 この世界を生きるデジモン達が、成長期の時点でも人間(一部を除いて)よりもかなり高い能力を持つ事は知っている。

 

 免疫力や回復力も、確かに人間よりも高いのなら治りも速くて当然かもしれない。

 

 だが。

 

(いくら何でも、夕方直前の時間から明日になるまで眠っているだけで、あれほどの怪我が完全に治るなんて……それは流石におかしいんじゃないか!?)

 

 ひょっとしたらあのパルモンが作って飲ませていたらしい薬の中に、デジモンが受けた傷を癒す効果でも含まれていたのかもしれない。

 

 そう考える事も出来たのかもしれないが、まだこの世界(デジタルワールド)に順応出来ていないユウキには、その考えを頭の中に浮かべる事も出来なかった。

 

(……デジモンってすげぇんだな。今一度、それを再確認した気がする)

 

「ねぇ、何を無言になってるのさ。何も言う事が無いのなら、もう寝た方がいいと思うよ?」

 

「……あ、あぁ」

 

 デジタルワールドに来てからの生活の二日目は、間も無く眠りと共に終了する。

 

 だがそれは、あくまでも二日目。

 

 これから始まる三日目に何が起きるか、予想する事も想像する事も出来ない。

 

 だが、優先すべき事柄(ことがら)は定まったし、少なくとも一日前よりも状況は良い方向へと進んでいる。

 

 それだけは、確実に想像する事が出来た。




 本日のNG


「……分かった。その条件で頼む」

「……え? ホントにいいの?」

「あぁ。命を助けられたんだし、そのぐらいはな」

「……そっかぁ。じゃあもう使うけど……『百回僕の言う事を聞いて』!!」

「その発想はあったけど無かった……ッ!!」



 NGその6「ん? 今なんでもするって言ったよね?」
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