DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
8月24日追記。
感想を参考に、ところどころに修正を加えてみました。
10月8日追記。
他作品ネタになっていた部分と他にも気になった部分を修正、差し替えました。
時刻は午後の一時。
日差しが数時間前よりも強くなり始め、街中の市民の片手に見られるペットボトルとタオルの比率が高くなってきたようだ。
これほどの日差しの強さと気温ならば、虫眼鏡でも使った暁には太陽光線を容易に生成出来る凶器にでもなるだろう。
尤も、そんな事をせずとも既に人体の皮膚に焦げ色が出来る事ぐらい自然な事なのだが。
それはともかく。
ゲームセンターで
既にトレイの上には、二つの薄いパンの間に肉や味付けされた玉ねぎにケチャップソースが挟まっている食べ物……つまる所ハンバーガーがそれぞれ一つずつ、包み紙の上に置かれている。
そしてその奥の方にはコーラの入った紙コップが置かれており、更にその手前にはフライドポテトが置かれている。
二人合わせて総額
食事中、先に口を開いたのは雑賀だった。
「やっぱり思うんだよな。最近のアレって怪人か悪の秘密結社か何かがやったんだって」
「うん、とりあえず現実を見ようか」
雑賀の言う「アレ」とは、無論勇輝も朝のニュースで確認した
「でもよ、いくら何でもおかしいと思わね? 人間がやった事なら何か証拠が残っててもおかしく無いだろ。誘拐なら誘拐された時の目撃状況とか誰かから聞けててもおかしくないし」
「それもそうだけどさ、単に偶然が重なっただけで超スゴ腕の犯罪者って可能性もあるし。怪人とか悪の秘密結社だとか……非現実的すぎるだろ」
現実的に考えれば、勇輝の言う通り怪人や悪の結社などと言うバトル漫画のような悪者が、現実に居るわけが無いだろう。
しかし、雑賀は興味からか、はたまた何か引っかかるのか勇輝の返答に対して更に返答する。
「この事件自体が非現実的くさいんだけどなぁ……だってさ、どんなにスゴ腕な犯罪者が仮に居たとしても、完璧な犯罪なんて存在しないだろ? 血跡も所持品も、この数ヶ月の内に一切見つから無いって時点で十分非現実的だろ」
「まぁ、確かにそれも一理無くはないけど……というかさ、別に身内が行方不明になってるわけじゃないんだし、そこまで詮索しなくてもいいんじゃないか? どうせ警察が無事に解決するだろ」
そう言いながら、勇輝はトレイの上にあるフライドポテトを摘んで口に放り込む。
「お前さ……ちょっとは行方不明者の事を心配に思わないのか。死んでいるのか、生きているのかも分からんのに……薄情な奴だなぁ」
その様子を見た雑賀はハンバーガーを一口食べると、現在進行形でフライドポテトを食べるスピードを速めている勇輝に嫌味を飛ばす。
それを聞いた勇輝は顔を一気に真剣な物に変え、フライドポテトを摘む指を止めると共に雑賀の嫌味に返答する。
「そりゃ心配だけど、何も出来ないだろ。ペラペラ喋ってるだけで物事が変わんのか?」
「………………」
無言でいる雑賀を見て、勇輝は言葉を紡ぐ。
「それに俺達は……まだあくまで学生だ。警察とか医者みたいに、誰かを救う事なんて出来やしないだろうが。馬鹿みたいに理想論を語る以外、何が出来るんだよ?」
「……分かった分かった。変な事を言って悪かったよ……」
「ったく……」
何処か冷めたような目で返答をしてきた勇輝に雑賀は一言謝ると、残りのファーストフードを処理し始める。それに続くように勇輝は、雑賀と同じく残り物を地道に食し始めた。
『………………』
それから二人は話のネタが尽きたのか、はたまた気まずいからか、店に居る間は一切の雑談を交えなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
ファーストフード店を出て、次に二人の青年が向かったのは……自宅から
辺りには二人と年が近そうな青年や少年等の姿が見え、フリースペースではカードを使った対戦が行われていたりもする。
店内ではとある学生が「俺の嫁のあのデジモンのカードが既に在庫切れ、だとッ……!!」などと呟いていたり、他にも自分の財布に入っている金額とショーケースに入っているカードを見比べて、何やら葛藤をわざわざ口に出して呪詛のように呟いている学生がいたり、もう色々とヤバい状態になっているが、ショーケースを覗いているのは二人も同じだったりする。
「おぉぅ……ゴッドレア仕様のベルゼブモン
「こっちのデュークモンもだ。自力で引き当てる方が安く済むのか? 連コインも覚悟しないとな……」
二人の視線の先に存在するカードには、黒い翼を生やして片腕に陽電子砲を装備した魔王のイラストと、深紅の色をした騎竜のような形をした機械に乗って盾を構える鎧騎士のイラストが描かれている。何気にその二枚を並べてみると、一枚の繋ぎ絵になるようにも見える。
だがその値段はそれぞれ約
二人とも、欲しいと言う欲求を行動に移さない代わりに、奥歯を強く噛み締めている。
まぁ、彼らは所詮高校生。私用に使える金額などそう多く無いのだから、買えなくても仕方が無いのである。
ちなみに、二人の目の前で商品として飾られている金箔の入った二枚のカードのテキストにはそれぞれ。
『デュークモン(グラニ搭乗)』、そして『ベルゼブモン・ブラストモード』とキャラ名が書かれており、そのショーケースの上側に書かれているキャッチコピーには『
どうやら正義の味方が悪を討つ系のよくあるストーリーらしい。
店内ではそれらのカードゲームを元にしたアニメの映像が宣伝用に流されており、効果音や台詞などによって店の中を賑やかしている。
カードと言う商品が売れるのは大方、イラストの元となった作品の面白さや
「ん~……仕方無いし、今回はあっちとこっちに抑えておくか。一応持ってないやつだし」
そういう勇輝は、ショーケースとは反対側の方でUFOキャッチャーの景品のようにぶらぶらと吊らされているカードに手を伸ばしていた。
「お前さ、本当にゲームの守備範囲が幅広いよな……」
「まぁ、こっちも好きだからな」
雑賀の言葉に対して当然のように軽口で返し、三枚ほどカードを取った勇輝はお店のレジの方へと向かう。値段は三つ購入した事で割引の条件を満たし、二百円で収まったようだ。
雑賀は特に買おうと思える物が無いらしく、安物のカードの方に手を伸ばす事は無かった。
「……ん?」
カードを買った後、お店の中を適当にふらついていると、二人の耳に不満そうな幼なそうな声が聞こえた。
その声が自分達に対して向けられた物では無いのも分かってはいたが、気になった二人は声のした方を向くと、そこに居たのは上段に両手を伸ばしているが背が低くて標的のカードに手が届かずにいる、一人の10歳ぐらいかと思われる少年だった。
興味本位でその少年の近くに寄り、二人は声を掛ける。
「君、何してんの?」
「あそこにあるのが取れなくて……」
少年は声を掛けた雑賀に対してそう返答して上段の方にあるカードを指差すが、上部には他にもカードがあるため『どれ』を指しているのか二人には分からない。
「あそこって何だ……?」
「あそこっていったらあそこー!!」
とりあえず。
雑賀は子供の声を聞きながらぶら下がっているカード群に向き合って、指を動かしながら子供にとって正解のカードを探す事にしたようだ。
「これか?」
「違うよ、もっと上~」
「じゃあこっち?」
「違うってば。そこから二つ左~」
そんなこんなで、雑賀がぶら下がっているカード達の中から確保したカードは、正確に言えばカードに書かれているキャラの名前はと言うと。
「……いや、その……コイツは……」
「あったあった、デクスドルグレモンのカード」
「どうしてこうなった。そいつそんなに子供向けなデザインだったか!? 原種じゃなくてデクスの方を選んだのは何かの間違いなの!? ちゃんと見ろ、イラストの50パーセントが真っ赤に染まってるじゃんか!?」
子供には見せられないよ!! とでも言わんばかりにイラストに返り血のような彩色が為された、黒と赤の色が特徴的で蛇のような舌をだらりと出しているドラゴンのようだ。
しかもイラストをよく見てみると、そのドラゴンから逃げ惑う可愛らしいキノコのような姿をしたキャラクターが
とまぁ、人それぞれ好みが違うと言うのはまさにこういう事で。
「……え、えぇ~っと、こっちのサイバードラモンの方がカッコいいんじゃないかな~?」
「デクスドルグレモン」
「あっちのウイングドラモンとか」
「デクスドルグレモン」
「ウィルス種のメタルグレ」
「ほ~し~い~!!」
右手に持ったグロテスクなイラストの中にドラゴンが書かれているカードを見て、変な汗をかいている雑賀に向かって少年はカードを掴もうとぴょんぴょん飛び跳ねている。
雑賀はしばし考え、観念したようにカードを少年に渡す。
「……わ、分かった。分かったからシャツの
「わぁ~い!! お兄さん達ありがとう!!」
少年はカードを受け取ると、うきうきした様子でレジの方へと向かって行った。
よく耳を澄ますと、少年の履いているズボンのポケットの中から小銭がチャリチャリ鳴っているのが聞こえる。
一応お小遣いは用意しているようだったが、買ったカードを見て少年の親はどんな表情を見せるのだろうか。
(頼むから……)
(次からは……)
((保護者同伴で来てくれ……))
この後も、カードショップに来ていた別の客と持参したカードやゲームで対戦したり雑談を混ぜたりと、満足のいくまで遊ぶ事が出来て、気付けば時刻は四時になっていた。
店内の人だかりも時間的な都合で徐々に少なくなっているらしく、勇輝と雑賀の二人はもうこの日に外出してやっておきたい事を済ませた事から、用事の済んだカードショップを出て自分達の自転車に
店の中に居た時には内部に
日もたいして落ちてはおらず、日光による熱も健在だ。
「
呟きながらペダルを漕ぎ、自転車を進ませる。
「明日からまた学校だな……はぁ、とっとと宿題済ませて自由になりたい」
「ま、確かに宿題が終われば夏休みはただのパラダイスになるな。お前は部活とか入っていないし」
「俺、夏休みに入ったら消化中のゲームを全部クリアするんだ……」
「おいやめろ。それはゲームする前に宿題で
「誰が馬鹿だって?」
「お前だよ」
「なん……だと……?」
愚痴や冗談を交わし、夏休みの予定に期待を膨らませながら二人は自宅への
やがて、
「んじゃ、また明日な」
「ああ、またな」
『また会おう』と別れの言葉を交わすと二人は互いに別々の横断歩道を渡って、まだ遠い位置に見える自宅を目指して自転車を漕いで行った。
彼等は気付かなかった。
「……そうか、あの子達が……」
二人の事を、まるで得物を見るような眼で見る……夏と言う季節の温度には明らかに適していない濃い青色のコートを羽織った男の姿と、その視線に。
物語の幕は既に開かれている。
演者の意志に関係無く、傲慢で残酷な脚本家の悪意によって。
次の話で、人間側のプロローグが終われば……いいなぁ。