DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

28 / 86
デジモン新作アニメ発表で顔面バーストモード不可避。

8月25日追記。グラウモンが『彼』を助ける際の描写を一部消去修正しました。

『刻印のある腹』→→『グラウモンの腹部にはデジタルハザードの刻印がねぇ!?』。


第一章・外伝 
異世界にて――『突発的な救助と対面と』


 今更ではあるが、確認しておこう。

 

 紅炎勇輝は、デジモンに成ってしまった人間である。

 

 ひょんな出来事で犯罪者(私見)の目的に巻き込まれ、ひょんな出来事で架空の存在として認識していた存在と対面し、自身も同じ存在と化している事に驚愕したりするのはまだ序の口。

 

 その後に起きた突発的な出来事で、巨大な羽虫とエンカウントして死に掛けたり、食料の調達のために向かった山の中で鎧のような物質を纏った竜に奇襲された死に掛けたり、その帰り道でやはり死の危険に見舞われたり。

 

 ……そういった『経験』がある故に、彼は突発的なイベントに対する耐性が高い。

 

 人生とは偶然と理不尽の連続である、を地で行く『経験』は伊達では無く、戦闘能力も少しずつだが上がってきている。

 

 何より、今の彼には二匹の仲間がいる。

 

 一匹は、青に近い黒色の体毛を生やした子熊のような姿をしたデジモン――ベアモンのアルス。

 

 もう一匹は、赤い体毛にプラズマのような青色の筋が通った七本の尻尾を生やしたデジモン――エレキモンのトール。

 

 彼等(を含めた協力者)のお陰で生き延びられた事だってあるし、何より一人では無いという事実が何よりもユウキの心に安心感を与えてくれる。今はとある事情で別行動を取っており、食料の確保に向かっている所ではあるのだが。

 

 きっとこれから、どんな出来事があっても取り乱さない。

 

 仮にまた命に関わるような問題が発生しても、仲間と一緒なら乗り越えられる。

 

 そう、このポジティブ思考が大前提。

 

 さて、では視点を現実へと移行しよう。

 

 

 

 

 

 此処は、とある森の中。

 

 ギルモンのユウキの視線の向こうでは、正体未確定の物体――――というか、記憶上に存在しているシルエットによく似た竜のようなデジモンが上空を旋回していて、何の前触れも無く地上に落下を始めていた。

 

 いかにも、意識を失っているように。

 

「…………………………………………………」

 

 硬直。

 

 無想。

 

 そして一度、現実から目を背けるように目を閉じる。

 

 これはきっと夢だ、目を開ければそこには青く美しい空だけが見えているはず。

 

「…………………………………………………」

 

 そう思いながら目を開けたが、何だか目に映る落下中のシルエットに変化は見えない。

 

 まるで『おっかしぃなぁ、こんな所にあんなデジモンがいるわけ無いのに何でなんでなんや~』とでも口に出してしまいそうなほどに呆けた顔をしていたユウキだが、そこでようやく現実を直視する。

 

 よく見ると、落下しているシルエットがバーコードのような何かに一瞬包まれ、そこにはユウキがよく知る存在が見えているではないか。

 

 少なくとも爬虫類型とか獣型のデジモンには馴染みの無い衣服を着ていて、肌はとても見覚えのある色で、その額には同じく見覚えのあるゴーグルを装着している、そんな存在を示す一つの名をユウキは知っている。

 

 一週間近く『それ』と出会う事が無かった所為か、思わずその実感を忘れそうになるユウキだが、今はそれを考えている暇も無いらしい。

 

 そういうわけなので、思わずユウキは一言。

 

「……親方!! 空から人間がッッッ――――!!」

 

 あの高さから落ちたら、間違い無く大怪我では済まない。

 

 そしてよく見れば、ユウキの居る位置と『それ』の落下位置は明らかに離れている。

 

 つまり、この場合やるべき事は決まっていた。

 

「―――――――――――――――――!!!!!」

 

 落下位置に向かって走りながら、自分の中のスイッチを切り替えるように、喉の奥がはち切れんとするほどの声を上げる。

 

 それと共に鼓動が急加速、電脳核(デジコア)の回転も急加速。

 

 ついでに理性も吹き飛ばしてしまいながらも、ユウキはその身を変化させる。

 

 小さな赤色の恐竜のような姿のギルモンから、巨大で狂暴な銀髪を生やした竜――グラウモンの姿へと。

 

 当然『進化』を発動させる際に抱いていた『目的』は明確だったので、自我が無くともグラウモンは迷う事も無く落下予想地点へ向かう。

 

 途中に生えている樹木を邪魔だと言わんばかりに薙ぎ払いながらも進むその様は、救世主というよりは明らかに怪獣だったりして、温厚な野生のデジモンは本能的な恐怖から散らばるように逃げ出す者ばかり。

 

 グラウモンの視線は常に落下を続けている『人間』の方へと向けられている。

 

「グゥラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 いかにも『テメェ落ちてるんだからいい加減起きろこの馬鹿~!!』と言わんばかりに大きな声を出すが、やはり起きない。

 

 何らかの異常が起きて、意識が断絶しているのだろうか。

 

 そんな思考を抱けるだけの理性が無いが故に、叫ぶか走るかぐらいしかの事しかグラウモンには出来そうに無いのだが。

 

 それでも『目的』を第一の優先順位として並べているため、彼は落下中の人間を『助ける』ために、この状況で最も有効な手段を取ろうとする。

 

 彼は器用にも、スライディングでもするかのように後ろ足の方から滑り込み、落下地点が自身の腹の部分に来るような態勢になったのだ。

 

 そのお陰もあって『人間』の体は、竜種特有の腹がクッションになってくれたらしく、体に負担をかける事も無く危機を脱する事が出来た。

 

 尤も、その『人間』が本来味わうはずだった衝撃などは、クッション代わりとなっていたグラウモンが全て引き受ける事になっているわけで。

 

 腹に溜まっていた空気(と若干の火炎)が全て上向きに吐き出され、古いテレビが叩いて直されるように彼の自我が若干戻り、ようやく吸収し終える事が出来た。

 

 茂みの向こうから、同じものを目にしたからか、見知った顔が近づいて来る。

 

 『進化』による声帯周りの変化もあってか、野太くなった声で彼は呟く。

 

「…………ドウシテ、コウナッタ…………」

 

 説明しなければなるまい。

 

 何故、彼等がこのような状況に陥ってしまったのか、その経緯をッ!!

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 時は『ギルド』への入団を果たしてから、およそ五日が過ぎた頃だった。

 

 この日彼等――『挑戦者たち(チャレンジャーズ)』は、とある事情で普段は魚釣りのために向かう場所――町から一時間ほどの場所にある海岸に、手ぶらな状態でやって来ていたのだ。

 

 その事情は単純。

 

 彼――ギルモンのユウキの経緯に関する情報を少しでも獲得するために、そもそも彼が『偶然にも』この海岸に流れ着いた理由が、この海岸に残されているかもしれないからだ。

 

 幸いにも、食料などに関しては保存分の物で賄えるため、確保するための道具を持ち寄らずとも問題は無かった。

 

「……普通に考えれば異常なんだよな。何で、お前みたいなのが海で流れ着くんだよ」

 

「って言われてもな……俺も、ここで発見される『前』の出来事を知っているわけじゃないし……」

 

「とにかく調べよう。どうせ砂浜には何も無いだろうし、やっぱり探すとしたら海の中!!」

 

「あんまり深い場所までは行かないようにな。危険だから」

 

 そんなこんなで、初の水中探索である。

 

 ベアモンもエレキモンも不思議な事に泳ぎは普通に出来ていたし、ユウキ自身にも人間だった頃の経験から泳ぎは難しく無かった。

 

 人間から爬虫類型のデジモンに成ったからか、水中でゴーグルを付けずに目を開けていても痛くは無い。

 

 経験上から『敵』の襲撃に警戒を怠らずに、何か水中に『異常』な物が無いかを探索する。

 

 それを、一時間ほど続けていた時だった。

 

(……ん……?)

 

 ユウキが水中で、何か『異常』な物を発見した。

 

 黒くて、深くて、明らかにそれは『海』という環境においては『異常』として認識されるであろう色。

 

 その、発生点を。

 

(……調べてみる価値はありそうだな。どの道お先真っ暗なんだ。多少の危険は許容すべき……か)

 

 一度水上へと顔を出し、酸素を取り入れた後に。

 

 彼は、ちょっと深い場所に見える黒い渦らしき物の発生点に向かって潜行した。

 

 ベアモンとエレキモンは、一端ひと休みするために海岸で待機しながら、彼の居るであろう方向を見つめていた。

 

 そうしてユウキが、その『黒い渦』に接近し、ある程度の距離を詰めた、その時だった。

 

 まるで大きなプールからホースを抜いた時のような、凄まじい吸引力が渦を中心に発生したのだ。

 

(な……ッ!?)

 

 突然の出来事に、彼は反応する事が出来ても抵抗する事が出来なかった。

 

 必死に両腕を動かしてもがいても、状況が好転してくれる事は無い。

 

 何より『進化』を発動しても、圧倒的な水の力には逆らえない。

 

 精一杯の抵抗も空しく、彼は『黒い渦』の中へと吸い込まれていった。

 

 だが、それだけでは無く。

 

「ちょ……」

 

「何……!?」

 

 発生した巨大な歪みは海流を大きく乱し、津波のような物すら発生させ、海岸で待機していたベアモンとエレキモンを、一瞬にして飲み込んだ。

 

 そして彼等も『黒い渦』の中へと吸い込まれる。

 

 

 

 

 

 そして、目を覚ますと。

 

 彼等の目の前には、何故か広大な森の空間が広がっていたのだ。

 

 ふと上を見てみるが、水中で見つかった『黒い渦』は欠片も視界には映っていない。

 

 このような状況が初な彼等でも、これが『異常』な状況である事ぐらいは理解出来た。

 

 だから、この場にやって来た初日は安全確保と進路の決定も兼ねて特に大きな移動をせずに、野宿をして消耗した体を休めていた。

 

 次の朝になり、三人はそれぞれ朝の食料や周囲の地理を求めて別行動を取り。

 

 ふと、遠い目で空を眺めていると、大きな竜型のデジモンが辺りを見回すように旋回していて――――突然、人間に変化すると共に落下を始めているのを、別々の場所から三匹が確認していた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 そして、今に至る。

 

 自我が一時的に戻り『目的』が達成された事もあってか、冷静になったグラウモン――ユウキは『進化』する前の姿であるギルモンへと戻っていた。

 

 ベアモンとエレキモンは、初めて見る『人間』に明らかな興味を示している。

 

「もしかして……その子が『人間』?」

 

「……ああ、間違いない」

 

「マジかよ……『人間』って本当に居たのか。おとぎ話だけの存在だと思ってたが」

 

 二匹の問いに多少答えながら、ユウキは助ける過程で『進化』に使った体力から疲れを感じる体を動かし、前足で『人間』の所有物の入っているのであろうポーチバッグの中をあさり出した。

 

 いかにも『人間』に馴染みの深い道具が入っているのを見て、ユウキは心の中に何処か懐かしさのような物を感じながらも、その中から白いふかふかとした布の一枚――タオルを取り出した。

 

 彼は、震える心を無理やりに押さえつけながら、ベアモンとエレキモンに対して言う。

 

「ベアモンとエレキモンは、この子のための食料を調達してきてくれ。俺は近くにあった川で、これを水に浸してくる」

 

「うん、分かったよ」

 

 状況が状況だからか、二匹とも異論を唱える事も無く従ってくれた。

 

 恐らく『人間』の事を自分達以上に知っているだろう、と思ったからだ。

 

 二人が食料の調達のために茂みの向こう側へ向かい始めるのと同時に、ユウキは水の音を頼りに見つけた近くの川にタオルを浸し、絞る。

 

 そして元の場所まで戻り、タオルを額に乗せる前に、意識の有無を確認した。

 

「おい、おい。俺の声が聞こえているか?」

 

 あまり大きな声を出しても意味が無いと思ったので、耳元に囁くように声を出してみた。

 

 すると、少しずつ『人間』の繭が動き出した。

 

 意識がある。

 

「……ふぅ」

 

 それを確認すると、ユウキは水で絞ったタオルを『人間』の額に向けて落とす。

 

 同時に『人間』の意識は回復し、彼はタオルを受け止めた。

 

 ユウキの事を視界に入れると、彼はシンプルな質問をした。

 

「もしかして、俺を助けてくれたのか?」

 

「助けたというより、落ちてきたのを拾ったんだけどな」

 

 ユウキはそう説明しながらも、思わず肩をすくめていた。

 

 実際には『進化』を発動させて、ギャオギャオバキバキとした荒事が入っていたのだろうからだ。

 

 一方で『人間』は、ユウキの事を怪しそうに見ている。

 

 ユウキも『人間』とは違う理由で、じっと見つめている。

 

 とりあえず話題を引き出すため、ユウキは『人間』に対してどうしても気になる事を質問した。

 

「二つ聞いていいか?」

 

「俺に答えられる質問ならな」

 

 ユウキが真剣な表情をしている事に気付いたからか、回答者の『人間』も背筋を伸ばす。

 

「お前、人間か? 人間にそっくりなデジモンとかじゃなくて、正真正銘の人間か?」

 

「ああ」

 

 多少疑問を残すような声で『人間』はそう返答した。

 

 そしてユウキは、その返答から示し出される僅かな可能性を問う。

 

「じゃあここは、人間の世界なのか!?」

 

「えっ? と、違う。ここはデジタルワールドだ」

 

「そうか……」

 

 まぁ、そもそもデジモンが存在している時点で、そうである事の予想は付いていたのだが。

 

 それでも、元居た場所に帰れた可能性の事を思うと、ユウキは少し残念そうな表情になった。

 

 ユウキからの二つの質問が終わり黙った事を確認した『人間』が、今度は自分の方から質問してくる。

 

「なあ、俺の方からも二つ聞いていいか?」

 

「俺に答えられる事ならな」

 

 さっきの質問の意味でも聞くのだろうかとユウキは思ったが、質問の内容は予想と大きく異なっていた。

 

「ついこないだまでここで戦いが起きてたって知ってるか?」

 

「いや、知らない」

 

 一つ目の質問に関しては本当に心当たりも無かった。

 

 自分達の来た事のある場所での戦いなら覚えているが、このような場所には来た事も無いからだ。

 

「じゃあ……二つ目。最近黒くてでかい、渦だか球だかみたいなものに吸い込まれなかったか?」

 

 二つ目の質問には、とても心当たりがあった。

 

 というか、ここに来た原因がそもそも『それ』なのだ。

 

「あぁ。二日くらい前にその黒い渦だか何だかに引きずり込まれたばかりだ。気が付いたら見覚えのない場所にいた」

 

 呆気に取られながらも、そう事実を述べるように告げた、直後だった。

 

「うわあぁぁぁぁ……」

 

 突如『人間』が喉の奥から絶望すら感じさせる呻き声を上げ、頭を抱えだした。

 

 そして、その姿勢のまま脳天を地面に押し付ける。

 

 突発的な出来事の次は突発的な土下座(未完成)である。

 

「おい、どうしたんだ!?」

 

 思わず、といった調子でユウキは『人間』の肩に前足を置く。

 

 すると『人間』がそれをガシッと掴み、勢い良く体を起こして、ユウキに向かってこう絶叫した。

 

 

 

 

 

「何で()()()()デジモンがまだここにいるんだーっ!! もう時空の歪み閉じちまったんだぞーっ!!」

 

 突然訳の分からない事を叫ばれ、困惑して気押されながらも『人間』の声に負けじと声を上げる。

 

「いきなり言われても何の事か全然わかんねえよー!!」

 

 ちょうど。

 

 そんな時に、森から食料調達を終えたのであろうベアモンとエレキモンが、それぞれ林檎(りんご)や魚を持ちながら足を止めていた。

 

 とりあえず、といった調子で一言。

 

「え? なにこれ?」

 

「直接ユウキに聞け。俺は知らない」

 

 ベアモンは本当に、言葉通りとでもいった風に。

 

 エレキモンは、あまりにも混乱を極めた状況に対して逃避するように、そう言っていた。

 

 そして、二匹の姿を確認した『人間』が、恐る恐る聞いてきた。

 

「……この二人もお前の仲間か?」

 

「あぁ」

 

 即答に、『人間』がまたもや地面に突っ伏した。

 

 とりあえず訳の分からない状況なので、現時点で唯一の希望なのが目の前に見える『人間』なのだが、とりあえず絶望顔から復帰しない限りはまだ話が出来そうになかった。

 




 と、いうわけで急いで書いたら思いの他早く完成しました。

 星流さんの、アメーバブログにて連載中の『デジモンフロンティア02―神話へのキセキ―』とのコラボ回の、こちら側の視点です。

 向こう側では詳しく書かれなかった状況を書いてみたら、ユウキが進化してまた環境破壊してたり、何と本編よりも先にグラウモンとしての言葉が出てきたり、と色々と展開が完成してしまいました。

 まだ見ていない人からすれば訳分からないと思いますが、今回登場した『人間』の正体。

 『デジモンフロンティア』というキーワードがあれば、予想もつく人が居るのでは?

 では、次回もお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。