DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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今回のお話で、やっと人間側のプロローグが終わります。

8月24日追記。

感想を参考にして、修正をところどころに加えてみました。


七月十二日――『夕方・夜中間近の白い蛇』

「…………」

 

 まだ赤くはなっていない日に照らされた街。

 

 歩道を通る人並みは言うほど多くは無く、それと対照的に車道を通る車の数は多い。

 

 もう何度も通った事のある道なりだが、風景に楽しめる要素も無ければ愛着が湧いているわけでも無いため、ただ長いだけ道はただの消化作業のようにも思えてくる。

 

 そうなれば自宅に帰るまでの間、自身の退屈を紛らわせる事が出来るのは脳裏に過ぎる妄想や想像ぐらいだろう。

 

 勇輝は機械が同じサイクルの作業を行い続けるが如く、手と足で自転車を操りながら自宅への道を進んでいる。

 

 そんな中、頭の中の思考回路は平常運転だった。

 

(家に帰ったらどうすっかな……宿題は今の所余裕があるし、適当にBGMでも流しながらネトゲでもすっかな……)

 

 無意識の内に鼻で自分の好きなアニメの曲を歌い始める勇輝は、車道から聞こえる五月蝿(うるさ)いクラクションやエンジンの音に特に反応を示さない。

 

 市街に響く音は、常に車の音だと相場が決まっている。一々反応(リアクション)をしていては疲れるばかりだ。

 

(ホント、今思えばゲーム以外に休日にはやれる事が無かったな……)

 

 内心で自分自身に大して自嘲気味に呟く。

 

 大して疑問にも思っていなかった事で当然だとも思っていた事だが、それ自体が疑問を招じさせる問いだった。

 

(……だけど、他にやれる事が無いんだよな……)

 

 だが出来る事が無いかと自問自答を繰り返しても、決定的な答えが出る事は無かった。

 

 運動(スポーツ)や学問に興味を感じられない。

 

 毎朝液晶画面を眺めても、その先で起きている出来事はあくまでも他人事。

 

(退屈だなぁ……)

 

「……はぁ」

 

 変化の見えない日常。将来の夢が浮かばない自分。

 

 いくら頭の中で考えても、答えを得られない事が余計に不安を煽る。

 

(――――)

 

 不意に脳裏に思考が過ぎる。

 

「……ッ!?」

 

 思わず自分で考えてしまった事に、勇輝の思考回路は拒絶反応を起こしハッと正気に戻る。

 

 自分でも狂っていると思ったのだろう。

 

 その思考を瞬時に別の物に入れ替える事で、何とか誤魔化す。

 

 そんなわけが無いと自分に言い聞かせるが、彼は気付かない。

 

 無意識の内に、自転車を漕ぐスピードを上げている事に。

 

 まるで逃げるようにペダルを押す力を強めている事に。

 

(落ち着け……)

 

 外側の表情は変えずに、冷静に深呼吸をする事で自分の心を落ち着かせようとする。

 

 そんな彼の視界に、高校生になってからはあまり来る事の無くなった公園が見えてきた。

 

 少なくとも偶然とは思えない思考に、自然と自転車を自宅とは違う方向へと向ける。

 

(……別にちょっとぐらいいいよな。帰る時間が遅れても特に支障は無いわけだし)

 

 疲れた体と気分を少しでも癒すためか、それとも単なる気まぐれか。

 

 勇輝は自身の衝動にも近い思考に任せて、公園の中へと向かって行った。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 到着した公園は特徴と言える物体のある場所では無く、滑り台やブランコといった遊園用のオブジェクトがそれぞれ一つずつ設置された、いたって普通の公園だった。

 

 地面は草原が生えているわけでもなく、学校の体育などに使われるグラウンドのような砂地が広がっている。

 

 無造作に小型のゴミが捨てられていたり、タバコの吸殻が灰皿に置かれる事無く放置されていたり、あまり良い気分のする光景では無い。

 

 公園の周りには囲うような形で植えられた植林があり、それらが唯一公園を彩る植物だ。

 

 草花の姿はそれ以外にまるで見えない。

 

 こうして見ると、まるで小規模な砂漠の上に遊園用のオブジェクトを飾っただけのような場所だ。

 

 勇輝はそんな公園に二つ並んだ状態で設置された、茶色いベンチの一つに腰掛けていた。

 

 自問自答の思考を繰り返すものの、納得が出来る答えは得られずにいる。

 

「……無限大な夢の後の、何も無い世の中……か」

 

 昔の公園の風景と今の公園の風景を重ね合わせながら。他の誰も居ない、人気の無い公園でたそがれるように一人の青年が独り言を呟く。

 

「……分かんないな」

 

 それは何に対して言った言葉なのか、勇輝自身にも分からなかった。

 

「……はぁ」

 

 少ない間に何度したかも分からないため息を吐きながら、勇輝はポーチバッグからカードを取り出す。

 

 そのカードは、ゲームセンターで使用していた騎士のキャラクターのカードでは無く、赤い色をした恐竜のようなキャラクターのイラストが載ったカードだった。

 

「……もう、10年ぐらい前なんだっけな」

 

 そう呟いた勇輝の脳裏に映ったのは、まだ小学生だった頃に見たアニメの映像。

 

 今の自分からすれば笑いものの、フィクションとノンフィクションの判別が付かなかった少年時代。

 

 忘れたいと当時は思った事すら、今では楽しかったと思えている。

 

 だが、過ぎた時間は永遠に戻らない。

 

「ま、今更後悔したって仕方無いよな……」

 

 カードをバッグに戻し勇輝は立ち上がった。何かを振り切るように。

 

 気付けば、此処に座り込んでから結構な時間が経ったようだ。

 

 太陽も夕日に変わり、既にほとんど落ちかかっている。

 

 公園に来るまでは全く感じなかったが風の温度も冷たくなってきて、肌寒さも感じ始めてきた。

 

「……暗くなってきたし、そろそろ帰るか」

 

 自問自答の答えはいつか、これからの人生でそう遠くない未来で得られるだろう。

 

 そう内心で確信付けながら、勇輝はバッグの中身に不足している物が無いかを確認した後、自転車に向けて歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 ――その時。

 

「……君、ちょっといいかい」

 

 急に知らぬ声で背後から呼び止められ、一瞬驚いたものの平静を装いながら後ろに振り向いた。

 

 振り向いた先に居たのは、上半身から下半身までを覆い隠す厚めの濃い青色のコートを着た、背丈の大きめな黄色い瞳の色をした男性だった。

 

 この季節にその格好は、一体何を考えたチョイスなんだろうと勇輝は内心で疑問を覚えた。

 

「えっと……何ですか? 俺、一応急いでいるので用があるのなら早急にお願いしたいのですが」

 

 何処か不気味さを感じるその男性に対して知らず知らずの内に胸騒ぎを感じたが、きっと寒さの所為だろうと自分の中で納得させながら勇輝は一応返事を返した。

 

 男性の方は……勇輝の表情を見ると、微かに笑みを浮かべる。

 

 勇輝からすればほんの一瞬しか視認する事が出来なかったが……まるで、人間以外の何かを見るような残酷な目だった。

 

 思わず勇輝は、全身の毛がそそり立つような錯覚を覚えた。

 

 この男性は一体何者なのだろうか。

 

 その疑問を解決するために、男性に対して問いを飛ばすよりも早く……男性は口を開いた。

 

「突然呼び止めてすまない。少しこの辺りで、探している子が居てな。君はこの辺りで『ユウキ』と言う名の男の子を知らないか?」

 

「え?」

 

 勇輝は思わず、緊張を含んだ声を上げた。

 

 それもそうだろう。知り合った経験も無い人物に、苗字では無く名前を的確に当てられたら誰でも驚く。

 

「俺の名前も一応『勇輝(ユウキ)』なんですが……多分、こんな名前をした人はこの近くには居なかったと思います」

 

 しかし、何故だろうか。

 

 勇輝は疑問を覚えながらも、男性の問いに返答した。

 

 その返事を聞いた男性の表情が微かに歓喜の色を見せ始めているのは、気のせいだろうか。

 

 ……何故、勇輝の足は無意識の内に震えているのだろうか。

 

「そうか。では……君が紅炎勇輝(こうえんゆうき)君か?」

 

「……!?」

 

 男性の口から紡がれた台詞は……驚愕せざるも得ない物だった。

 

 何故この男性は、名前だけならまだしも苗字まで言い当てられたのだろうか。

 

 単なる偶然と片付けるには、あまりにも不自然すぎる。

 

(一体誰なんだこの人は……!?)

 

 知能を持った生物ならば誰しもが持っている、防衛本能が勇輝に呼びかける。

 

 

 

 

 

 ――『逃げろ』と。

 

 しかし、勇輝が後ろに一歩下がるのと同時に……男性の右腕が勇輝の左腕をガシッと掴んだ。

 

「ッ!?」

 

 その驚きは色々な疑問と驚愕が合わさったものだった。

 

 男性に腕を掴まれたのもそうだが、男性の手から伝わる温度が……とても、冷たかったからだ。

 

 その冷たさはそう、氷を掴んだ時と言うよりは……

 

「クッ……!!」

 

 防衛本能に従い、勇輝は男性の腹部に加減無しの蹴りを一撃見舞って、掴んだ手を強引に引き剥がした。

 

 そしてポケットに手を突っ込み、自転車のカギを取り出す。

 

 逃げなければ、何か取り返しのつかない事態になってしまうかもしれないと言う不安……いや、確信が勇輝の思考回路に過ぎり、思考から平常心を奪っていく。

 

『自転車に乗り、全力で漕いで逃げれば流石に追いついてはこれない』

 

 ……その思考を読み取ったと言うよりは、それ以外に手段が無い事を確信したような表情をしている青コートの男性は……一人、独白する。

 

「流石に運動能力は高いな。だが……」

 

 男性は自身の腕を野球のボールを投げるように曲げると、それを離れた距離に居る勇輝に対して振り抜いた。

 

 

 

 

 

(……なッ……!?)

 

 すると、男性のコートの裾から白い包帯のような物が勢い良く、、まるで蛇のようにしゅるしゅると伸びていき、その包帯は勇輝の右足を絡め取った。

 

「!!??」

 

 ただの包帯とは思えない強度に引っ張られる形で、勇輝は前のめりに転倒してしまう。

 

「ゲームオーバーだ」

 

「!!」

 

 そして、包帯に足を取られて動けない勇輝の首元に、男性は何処からか取り出した機械を当て……

 

 ――バチィ!!

 

 その意識を、狩り取った。

 

 

 

 

 

 

『先日、またもや消失(ロスト)事件の被害者が発生しました』

 

『今回の被害者は――――市在中の――――紅炎勇輝18歳』

 

「……嘘、だろ……」

 

 世界から人間が、また一人消失した。

 

 多くの謎や大きな悲しみ、そして恐怖を世界に撒き散らしながら。

 




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