DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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次の話で戦闘が終わると言ったな。アレは嘘だ(迫真)。

…………オリジナルの展開を組み込もうとしたらものっそい文字数を使ってしまったでござる(涙目)。だって仕方無いんや!! 今回のボスの伴侶(ユピテルモン)さんから『我が妻の活躍を増やさないと罰するぞ』的なメッセージが電波を通して伝達された(ような気がする)んですもん!! 作者だってまだ死にたく無いんです!! 俺は悪くねぇ!! 俺は悪くねぇ!!(親善大使)。

そんな言い訳がましい事をのたうちながら始まる話は、第一章最終話でもキーワードになっていた『理由』を表に出してみたお話です。

8月27日朝、星流さんに指摘された点を追記修正しました。


異世界にて――『それぞれの正しさを信じる者達』

 ユウキは走った。

 

 夜の闇の中を自分の勘だけを信じ、茂みの中を両腕で搔き分けながら、ただひたすらに。

 

 ユノモンが怖かった、という恐れの感情が無かったと言えば嘘になる。

 

 だがそれよりも、自分の目の前で知り合ったばかりの相手が危険に見舞われている事の方が、それを見ていながら何も出来ない事の方が、何倍も苦しいし悔しいと思った。

 

 今でも、自分を守って毒針を受け、悶え苦しんでいた時のベアモンの姿は目に焼きついている。

 

 結果として助かりはしたが、あの出来事は自分自身の臆病さが生み出した物だった。

 

「……信也……ッ!!」

 

 同士討ちのダメージもあってか、息遣いは荒い。

 

 ユノモンの目的を考えれば、生きているのが普通だと思えるだろう。

 

 だが、アルダモンの攻撃をモロに受けて、生きてはいても無事だとは思えなかった。

 

 何せ、距離が離れていて、尚且つ炎熱に対して強い耐性を持つギルモンの皮膚越しからでも。

 

 少なくとも、かつて戦ったモノクロモンの必殺技(ヴォルケーノストライク)を遥かに超える熱気を、模造の幻影でありながらも感じたのだから。

 

 信也が成っていたアグニモンというデジモンは『火』の属性を司っているため、並大抵の熱気によってダメージを受ける事はまず無いが、流石に太陽クラスの高温――――そしてそこから生じる大爆発の圧力に耐えられるほど頑丈では無い。

 

「クソッ……何なんだよ、(まぼろし)じゃねぇのかよ、あれじゃあまんま実体じゃねぇか……ッ!!」

 

 質量を持った幻。

 

 一言に述べられるその現象を形成するのに、どれだけの力量を要するのか。

 

 視覚や聴覚といった五感に干渉しているだけなら、アグニモンを物理的に吹き飛ばす事など不可能だ。

 

「ふざけやがって……ッ!!」

 

 だからでこそ、ユウキは苛立った。

 

 戦っているというよりも、ただ(もてあそ)ばれている。

 

 危険に身を投じて戦っている自分達の事を、嘲笑っているように思えたからだ。

 

「…………っ」

 

 そして、ユウキは見た。

 

 木々の合間を潜り抜けた先で、意識を失って倒れている信也の姿を。

 

「信也!!」

 

 傍に寄りかかって名を呼ぶが、意識は戻らない。

 

 吹き飛ばされた際、地面か何かに頭を強く打った所為だろうか。

 

「おい、起きろよ!! お前はこんな所で終わっていい奴じゃないだろ!!」

 

 胸倉を掴み、感情のままに言い続ける。

 

 暴力的で、とても高校生が小学生に言い放って良いような言葉なのは、ユウキ自身にも分かっていた。

 

「お前は……ッ、自分で言ってたじゃないか!! 『俺は強い』って!! だったらこんな所で寝てる場合じゃないだろ。ベアモンも、エレキモンも、泉も!! みんな必死に戦っているんだぞ!! 分かってるんなら目を覚ませよ、お前だって仲間が傷付く所を黙ってみていられるような奴じゃないんだから!!」

 

 だが、ユノモンを打倒出来得る可能性を現状で持つ者は、信也しか居ない。

 

 何より、信也自身からしても、自分が意識を失っている間に仲間が傷付けられていたとしたら、間違い無く心が傷付くだろう。

 

 かつてのユウキが、そうであったように。

 

 だからでこそ、意識を取り戻させるために手段は選ばない。

 

「……いい加減に起きろよ……」

 

 ユウキは、右前足で信也の肩を掴みながら。

 

「この、馬鹿野朗ッ!!」

 

 左前足の、爪の無い部分で信也の頬を叩いた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 ベアモンとエレキモンと泉は、戦っていた。

 

 アルダモン――――否、それを含めてユノモンが生み出している、模造の幻と。

 

「くっ……!! よりにもよって、()()()その幻を生み出す!?」

 

 ベアモンがそう言いながら、エレキモンやフェアリモンと共に相手をしているのは。

 

「――――――!!!!!」

 

「……ったく!! アイツの暴れっぷりを再現するとか、ホントに勘弁してくんねぇかな……!!」

 

 ベアモンや(特に)エレキモンの記憶にも存在している、銀髪を生やした紅色の竜――深紅の魔竜(グラウモン)の幻。

 

 かつて、二人が敵わなかったフライモンを一撃で撃墜し、その直後にベアモンの命を救う足掛かりとなってくれた、記憶に新しい仲間の進化した姿。

 

 味方としては恐ろしさの中に頼もしさすら感じさせたその竜が、敵として全力をもって潰しに掛かって来ている事実に、幻と分かった上でも二人は恐怖しか感じられない。

 

 グラウモンの幻が勢いよく一歩を踏み出しながら尻尾で薙ぎ払おうとするのを見て、ベアモンとエレキモンは後方に下がり、フェアリモンは上方へ浮遊する事で回避を決行したが、グラウモンの幻は尻尾による回転攻撃の最中でありながらも、右肘から突出している刃物状の部位に青光りする電子(プラズマ)を纏わせていた。

 

「プラズマブレイド!!」

 

 一閃。

 

 右肘の刃に生じていた電子(プラズマ)が、あらゆる物質を両断する飛び道具と化して放出される。

 

「ブレッザ・ペタロ!!」

 

 それに対してフェアリモンは両手の指から真空の刃――カマイタチを形成させ、左手の五本だけを横凪ぎに振るう。

 

 高速で放たれた電子の刃は、真空の刃に阻まれると共にその形状を維持し続ける事が出来ずに霧散する。

 

 まだ振るわれていなかった右手のカマイタチで一本の太い真空の剣を形成すると、それをフェアリモンはグラウモンの幻に対して振り下ろす。

 

 幻だと分かっている以上、加減なんて微塵も無かった。

 

「てええぇぇぇい!!」

 

 気合いの入った声と共に振るわれた剣は、グラウモンの幻を左肩から斜めに切り裂いた。

 

 だが、流石にそれだけでは倒せない。

 

 何より、幻である以上は何度でも復活するため、叩くべきは創造者のユノモンなのだ。

 

 このままグラウモンの幻だけに付き合っていては、元凶である敵を倒す事なんて出来ない。

 

 しかしこの場には、一撃でユノモンに大ダメージを与えられる可能性が高かった信也や、ユウキの姿が無い。

 

 戦いを終わらせるための決定打が不足している。

 

 ならば、と思った所で。

 

「先に言っておきますが」

 

 ユノモンが、別人の借り物でもない本来の声で言う。

 

「既にこの辺り一帯の空間には幻術を施しています。助けを呼ぶために城に戻る事は出来ませんし、外部から事態に気付いて入り込もうとする事も出来ません。……精々(せいぜい)、自滅するまで精いっぱいの悪足搔きを」

 

「……くそっ、事実的に檻の中に閉じ込められたも当然って事かよ」

 

 幻を作る能力を知った時点で、この可能性が予想出来ていなかったわけでは無いが、状況が絶望的である現実を敵から突き付けられた事に対して、不快感を露にエレキモンは吐き捨てる。

 

 この状況で頼れるのは、同じく幻の檻の中に閉じ込められた仲間のみ。

 

 だが、それを探しに往くという事は。

 

(……ベアモンや泉に割り振られる危険の比率が増える事になる……)

 

 エレキモンにはそれが、彼等の事を『見捨てる』のと同義の行動に思えた。

 

 ユウキが向かった方向は記憶しているが、ユノモンが幻で見当違いの方向へ向かわせる可能性だってある。

 

 そうなれば、エレキモンがユウキと信也の事を探しに行くのは、無駄な行動にしかならない。

 

「……エレキモン、フェアリモン」

 

 そんな事を考えていた時、ベアモンがユノモンに目を向けたまま、エレキモンとフェアリモンに声を掛けてきた。

 

「ユウキと信也を探してきて。ここは僕が何とかしてみせるから」

 

「……何を言ってんだ。ユノモンだけじゃなく、グラウモンの事だって相手にするんだぞ。お前だけじゃ対等どころかマトモに戦う事さえ出来ないだろ」

 

「それでも、このまま三人で戦っただけじゃ打開策が無いよ。あの二人がまた加わるだけでも、流れは変わるはずだから……」

 

「…………っ」

 

 恐らく、ベアモン自身もこの状況が絶望的である事を理解していながら、何とかポジティブ思考で冷静さを維持しているつもりなのだろう。

 

 エレキモンだって、ユウキや信也が居なければこの状況を打破出来ない事ぐらい、分かっていた。

 

 泉も、その言葉には()()()()納得していた。

 

「……お願いだよ。探してきて。もうこれ以外に方法が見当たらないんだ……!!」

 

「……クソッ!!」

 

 その願いに、エレキモンは苦渋の決断を下すしか無かった。

 

 爆発に吹き飛ばされた信也をユウキが探しに向かった方へ、四つの足で脱兎のように駆け出す。

 

 しかし、フェアリモンだけはベアモンの言葉を聞いた上で残っていた。

 

「……どうして留まったの?」

 

「どうしても何も、ね。貴方も信也と同じで無茶をしてるようだし、ほっとけなかったからかな」

 

「無茶なのは分かってる上で言ったんだよ。別世界の住人である僕より、仲間であるシンヤを助けに向かった方がいいんじゃないの?」

 

「その別世界の住人であるユウキだって、信也の事を心配して一番最初に向かってくれたでしょ? それに、一人じゃ時間稼ぎも出来ないわよ。無茶はしないで」

 

 言われて、浅い溜め息を吐くベアモンだが、結果的に助かったと安堵していた。

 

 だが、そのやり取りを見ていたアルダモンは、小馬鹿にするように言う。

 

「お前達とは相手にしているだけ時間の無駄だな」

 

 やはり、本来の神原拓也の性格を考えれば、仲間に対して出てくるはずの無い言葉だった。

 

 アルダモンの幻は泉もよく知る人間の声でそう言うと、獲物を追い詰めるようにエレキモンの進行方向へ歩を進める。

 

 ベアモンがそれを阻止するために動こうとするが、グラウモンの幻がそれを阻む。

 

 手間取っている間に、アルダモンの幻が茂みの奥へと進んでいく。

 

「くっ……」

 

 ユノモンは、複数の幻を同時に動かす事が出来るらしい。

 

 それに『どうやって』実体を与えているのかまでは分からないが、厄介な事この上無い。

 

 せめてグラウモンに対抗するため、ベアモンは全身に力を込めながら吠える。

 

「ベアモン、進化――――ッ!!」

 

 宣言を切っ掛けに感情が一方向に集中され、ベアモンの体から青色のエネルギーが放出されると、それが繭の形を成して全身を包み込む。

 

 その中で体表の皮膚(テクスチャー)を剥がされ、その後に骨格(ワイヤーフレーム)情報(データ)を子熊の幼い体から更に成熟した逞しいものへと上書きさせ、その肉体に見合った皮膚(テクスチャー)が改めて貼り付けられる。

 

 その光景にユノモンはそれなりの興味を抱いたのか、ユウキや信也に向けていたのと同じ目を向ける。

 

「グリズモン!!」

 

 そして、繭を内側から打ち砕きながら、成長期(ベアモン)の進化した姿である成熟期(グリズモン)がその姿を現すと、グラウモンの幻は自身の右前足を瓦割りの要領で標的へと振り下ろす。

 

「その程度……!!」

 

 体格(サイズ)だけを見れば、グリズモンの方がグラウモンと比べると少し小さい。

 

 だが、そうでありながらも、グリズモンはその腕力で振り下ろされた右前足を自身の左前足で掴んで受け止め、続く左前足の一撃も右前足で掴んで受け止めた。

 

 互いに両手を使えない状況になり、グラウモンの幻は口の中に炎を溜め始める。

 

 グラウモンの必殺技――エギゾーストフレイムが放たれる前兆だ。

 

「フェアリモン!!」

 

「分かっているわ!!」

 

 それに気付いたグリズモンが声を上げて合図する前に、フェアリモンは上方に浮き上がっていた。

 

 そして、今まさに炎を放とうとするグラウモンの上顎に降下の勢いも合わさった踵落としを食らわせるのと同時、今度はグリズモンが掴んでいたグラウモンの両前足を放し、顎の下から突き上げるように拳を振り上げる。

 

 上下から来る重い打撃の威力で口を閉じさせられ、放たれようとした爆炎が口内で爆発し、鼻と口から火の粉の混じった黒い煙を咳き込むグラウモンの幻。

 

 生じた隙を見逃さず、グリズモンは腰を低く落としてから拳を真っ直ぐに放つ。

 

樋熊(ひぐま)正拳(せいけん)()きィ!!」

 

 成熟した熊の一撃がグラウモンの幻の腹部に突き刺さり、その威力にグラウモンの巨体が後方へ吹き飛び倒れる。

 

 手応えはあったはずだ。

 

 しかし、グラウモンの幻は消えない。

 

 幻だから、体力や疲れの概念が無いのだろうかと思った時、いつの間にか二人の背後に現れていたユノモンが口を開く。

 

「……ふむ。生まれた世界の違いで電脳核(デジコア)の性質も大きく異なるのですね。これまでの『異世界の住人』といい、いつ見ても『進化』とは興味深いです」

 

「……お前は情報を蓄積し続ける存在だと言っていたな。『人間』の事を、何処まで知っているんだ」

 

「貴方よりは、とだけ。言っても理解は出来そうにありませんしね」

 

 言われて、少々苛立ちを感じながらもグリズモンが更に問う。

 

「何でユウキを狙うんだ。別世界の住人である事を知っているのなら、ユウキが『デジモンに成った理由』を知るために『こちら側』の世界での情報を必要とする事ぐらい、分かっているはずなのに」

 

「確かにそうかもしれませんね。ですが、その答えが紅炎勇輝自身にあるのだとすれば、本人の事だけでも調査すれば『何か』が見えるでしょう。そこだけは確信出来ます」

 

 確かに、ユノモンの言う通りだった。

 

 ユウキが『デジモンに成った理由』は、そもそも『外』にあるのか『内』にあるのかさえ分かっていない。

 

 ユノモンが彼自身の事を調べ上げれば、少なくともそのどちらかである事は確定付ける事が出来る。

 

 だけど。

 

「……それで、信用しろって言うのは無理な話でしょ。信也を拓也の幻まで使って誘き寄せたりして、話をしたいだけと言いながら行いに関して謝りの一つも無いってどういう事なのよ」

 

「それは確かに、私も酷なことをしたと思っています。しかし私は私の為すべき事をしたのみ。謝罪などする必要がありません」

 

 一片の曇りさえ見えない、真っ直ぐな言葉だった。

 

 自分のやるべき事を分かっている故に、自分が間違った事をしてはいないという確信を持った目だった。

 

 神だから、という以前に、そこには確固たる意志があるように見えた。

 

 グリズモンでも、このユノモンというデジモンが『強い』事ぐらいは理解出来た。

 

 だけど。

 

「……だったらどうして、その力を『そんな事』にしか使えないんだ!!」

 

「『そんな事』?」

 

「それだけの凄い力があるのなら、どうしてこんな子供達に牙を剥くんだ!? 目的があるとしても、自分達のやっている事がどれだけ酷い事なのかって事ぐらい、分かっているはずなのに……ッ!!」

 

 詳しい事情も分からないが、罪も無い子供を襲ってまで達成すべき目的なんて想像出来なかった。

 

 何より、このデジモンが俗に言う『悪』のデジモンに見えない事もあった。

 

 ここまでの力を持ちながら、それだけの知識を保有していながら、何故このような行いに加担しているのか、グリズモンには分からなかった。

 

「そんな疑問ですか……」

 

 必死の呼び掛けに対して返って来たのは変わらぬ視線と、まるで馬鹿馬鹿しいとでも言わんばかりの声。

 

「まぁ、あなたは別世界の住人ですからね。説明を受けていないのなら知らなくて当然でしょう」

 

「何……?」

 

「自分の行いに自身を持つ者に、過程への言い訳など不要。あなたの言う『そんな事』が、私達にとってはこれ以上も無いほどに重要な目的に至るための過程でしか無い。達成出来るか出来ないかで、私を含めた『オリンポス十二神』の統治する方の世界と、そこに生きるデジモン達の生死が変わるぐらいにはデリケートな問題なのですよ」

 

 その言葉に。

 

 グリズモンは、何も返せなかった。

 

 ユノモンから聞くまで『オリンポス十二神』側の事情を知らなかった事もある。

 

 だが、何よりも、突然に語られた世界規模の問題に、思考が付いていけなかったのだ。

 

 思わず、フェアリモンの方を向く。

 

 その表情を見ただけでも、ユノモンの言っていた事が本当である事を理解出来てしまった。

 

「自分達の世界を守るためならば、手段を選ばぬのが統治者たる者の務めです」

 

 言っている事は明らかに重要なのにも関わらず、ユノモンの口調には一切の変化も見られない。

 

 このような事は為すべき事の再確認をするための作業でしか無い、とでも言わんばかりに。

 

「さて、この話はもういいでしょう」

 

 ユノモンは話題を締めると興味でも失ったのか、グリズモンとフェアリモンに背を向けその場から立ち去り始める。

 

「!! 待ちなさい!!」

 

 それを追いかけようとフェアリモンが空中からユノモンを狙おうとしたが、ユノモンの体は霧に溶け込むような形で消え、場にはグリズモンとフェアリモンとグラウモンの幻だけが残った。

 

 どうやら、最初から本体は別の場所へ移動していて、二人と会話していたのはユノモン自身の幻だったらしい。

 

「………………」

 

 嘘だと信じられれば、どんなに良かっただろう。

 

 だが、あそこまで当然のように語られた内容が嘘とは思えず、内容に含まれた重圧に押されてしまう。

 

 戦意が、揺らぐ。

 

 ユウキやエレキモンは守りたい。

 

 この世界で見知った『人間』達も守りたい。

 

 だが、その過程で別の世界が滅びると考えてしまうと。

 

 それが本当に正しい行いなのか、分からなくなって迷いが生じてしまう。

 

「グリズモン」

 

 自分の姿を保っている『感情』の柱が倒れそうになった時、隣からフェアリモンの声が聞こえた。

 

「もし、自分の行いが正しくないなんて思ってるのなら、それは絶対に違うわよ」

 

「………………」

 

「その姿はユウキやエレキモンを助けたくて成った姿なんでしょ? そりゃあ、いきなり世界の命運とか聞いたら、普通に困惑するとは思うけど。それでもあなたが『助けたい』と思う事は、決して間違った事なんかじゃない」

 

「……そうなのか?」

 

「そうよ。きっと、あなたは優しすぎるから、自分を取り巻いている輪の外まで気にしてしまってるんでしょ?」

 

 的を射るような言葉だった。

 

 否定する事なんて出来ないグリズモンに、続けてフェアリモンは言う。

 

「何を優先させるかなんて自分で考えるべき事だけど、この状況だからあえて言うわよ。あなたが優先するべきなのはこの『十闘士の世界』でも『十二神族の世界』でも無い。あなた自身が『助けたい』って思った相手を助ける事のはずよ」

 

「………………」

 

 その言葉を聞いて、グリズモンは思わず溜め息を吐いていた。

 

 世界なんてスケールの大きなキーワードを聞いただけで、自分の為すべき事を忘れていた事について、思わず馬鹿らしく思ったのだ。

 

「……柄にも無く、難しいことを考え過ぎてたみたいだ。ありがとう」

 

「どうしたしまして」

 

 互いにそう言いながら、起き上がってくるグラウモンの幻と相対する。

 

 ユウキとエレキモン、そして信也を助けに行くためにも、こんな所で立ち往生はしていられない。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 頬に一撃を見舞った結果、信也は目を開けたが同時に突き飛ばされた。

 

 どうやら、赤色という共通点から自身を吹き飛ばしたアルダモンの事を想起してしまったらしい。

 

「しっかりしろ!!」

 

 ユウキが信也の肩を掴むと、ようやく彼の姿を正しく認識してくれたらしい。

 

 意識が戻ったという事実から冷静になり、ユウキは『ふぅ』と一息吐いてから言った。

 

「だから言ったんだ。危険だって」

 

「……結局幻に騙されるからか?」

 

 馬鹿にされたように思われたのか、子供がそっぽを向いた時のような口調でそう言ったので、言葉の理由を説明する。

 

「違う。その、俺にも上手く言えないけど……一人で行こうとしたからだ」

 

「ユウキも、俺が弱いって言いたいのかよ」

 

 そう言って、信也は顔を伏せる。

 

 ユウキには、信也が何を思ってそんな言葉を漏らしたのか分からない。

 

 ただ、その姿にかつての自分を思い出し、ぽつりと言った。

 

「俺には、信也が弱いなんて言えない。そんな事言ったら全部自分に跳ね返ってくるからな」

 

 デジモンに成ってから僅か数日の間、ユウキは単独ではまともに戦うどころか生活する事さえ出来なかった。

 

 海で救われた時だって、フライモンと突然の遭遇をした時だって、モノクロモンの急襲された時だって、ウッドモンと戦った時だって、彼一人では確実に命を失っていた。

 

 いくら特別な存在だろうが、今の能力はちっぽけな物でしか無い。

 

 それは肉体的な面でも言える事であり、精神的な面でも言える事だ。

 

「俺はデジモンになったばかりで、戦いどころか日常生活も一人じゃやっていけない。ベアモンとエレキモンに頼ったり守ってもらったり、そんな状態だ」

 

「……つまり、足手まとい?」

 

「ハッキリ言うなよ。まぁ、エレキモン達にも同じ事言われたけど。でもさ、そんな俺にベアモンは一緒に『チーム』を組もうって言ってくれた。一緒に強くなろうって」

 

 挑戦者たち(チャレンジャーズ)

 

 その名が示すのは、どんな困難にも立ち向かい道を切り開くという意味。

 

 それも、一人ではなく仲間と共に。

 

「今はダブルスピリットできなくても、仲間と一緒に戦っていれば、強くなれるのか」

 

「多分な。今言ったのはほとんどベアモンの受け売りだし、俺もそうだったらいいなって思ってるだけだ」

 

 自分自身の言葉ではなく仲間の言葉であるため、ユウキは言った後に思わず自嘲気味に笑っていた。

 

 仲間と一緒なら乗り越えられる。

 

 そう信じている限り、心は折られない。

 

「確かにな。……じゃあ、俺もそう思っとく」

 

 信也が顔を上げ、ユウキも笑顔になった、そんな時だった。

 

 

 

 

 

「感動的シーンの最中悪いが、そろそろいいか?」

 

 声のした方向に首だけ向けてみると、そこには若干冷えた視線を向けるエレキモンの姿が。

 

 嫌な予感を感じたのか、ユウキはエレキモンに向き直った。

 

「エレキモン!! いつからいたんだよ!!」

 

 そして、額から汗を流しながら問う。

 

 エレキモンは適当な感じに回答する。

 

「まぁ、割と最初から」

 

「……ッ!! 色々と聞かれたら恥ずかしい事口走ってた気がするんだが」

 

「いや、むしろ笑いこらえるのに必死だった。心配するな」

 

「笑ってたのかよ!?」

 

「お前の気持ちは腹が痛くなるほどよーく分かった」

 

 なんと、ユウキと信也の会話は事実上の公開処刑状態となっていたらしい。

 

 ユウキの驚きと若干の怒りを込めたシャウトを軽く流すエレキモンだったが、その一方で何やら息が上がっているように見えた。

 

「戦闘は」

 

 信也が短く問うと、エレキモンは表情を引き締める。

 

「悔しいがやられっぱなしだ。ユノモンやデジモンの幻のせいで、こっちの攻撃が全く通らねぇ。助けを呼ぼうにも、城に戻れない。この辺一帯がユノモンの幻に包まれているらしい」

 

「つまり、俺達だけで戦うしかないって事か?」

 

「そうみたいだ……!?」

 

 エレキモンが言い終わる前に、その背後から木の軋み折れる音が聞こえた。

 

 音のした方を向くと、アルダモンの幻が追い着いてきて三人を見下ろしているのが見えた。

 

「ここにいたのか」

 

 神原拓也の声で、アルダモンの幻は呟く。

 

「信也やユウキはともかく、()()()は邪魔だな」

 

 その手に、へし折った樹木という名の鋭利な武器が。

 

 大きく振り上げたその下には、緊張と恐怖で震えるエレキモンの姿が。

 

 信也が手元から離れ落ちていたデジヴァイスを拾うのも、ユウキが『進化』を発動するのも、どちらも間に合わない。

 

「…………るか……」

 

 串刺しにされ、無残な死を遂げる、ほんの少し前。

 

 エレキモンの九本の尻尾が逆立ち、その青い瞳が意思を込めてアルダモンを睨んだ。

 

 

 

 

 

「たかが幻のお前なんかに、俺達が負けるかあああああッ!!」

 

 瞬間、オレンジ色の電撃(スパーク)が放たれ、アルダモンの手にあった即席の武器を弾き返し、放たれた電撃が繭状になってそのままエレキモンを包み込んだ。




向こう側のコラボ回で、台詞の少なかった印象のあるベアモンとユノモンの話を書いた結果がこれだよ!!

そんなわけで、今回の話で戦闘回を終えられなかった最大の理由、加筆シーンである『グリズモン&フェアリモンVSグラウモンの幻』と『神の奪う「理由」』。いかがだったでしょうか?

コラボ編って事で、まだ彼等が背負うには早すぎる『世界』規模の問題に直面した上で、『別世界の命運』と『友達や仲間の命』を天秤にかけ、『友達や仲間の命』を救う一方で『別世界の命運』を見捨てるのは正しい事なのか、という疑念をグリズモン(アルス)に抱かせてみました。

ぶっちゃけ第一章段階の彼に背負わせるには重過ぎる問題なので、ちょっと消化し切れていない感じですが、本編の中でもこのような疑問を彼等は抱く事になるでしょう。

今回の話を見ての通り、本編の中でベアモンは『……もし仮に、ユウキをデジモンに変えてこの世界に送り込んだ奴が、下らない理由で僕の友達を巻き込み、傷付けたら……その時は……ぶっ潰してやる』なんて台詞を漏らしているわけなのですが、この言葉は相手が『悪』である事を前提としていないと言えないんですよね。

もし少しでも『善』の部分を聞いて、それに『仕方無い』と思えなくなるほどの同情を覚えてしまったら、それだけで戦う力が半減してしまう程度の覚悟の言葉だったわけです。

今回の話の場合は『友達(ユウキとエレキモン等)』を守るためという動機で戦っていたわけですが、ユノモンの「私を含めた『オリンポス十二神』の統治する方の世界と、そこに生きるデジモン達の生死が変わるぐらいにはデリケートな問題」という言葉を聞いて、彼女の言う『オリンポス十二神が統治する世界のデジモン達の命』の事を考えてしまい、戦い邪魔をする事で生じる『奪ってしまう可能性』に戦意を折られそうになりました。

泉(フェアリモン)の言葉でギリギリ復帰出来ましたが、本編でも彼の善性は何度もこのような形で壁になってくるでしょう。

……まぁ、クネモン戦でのアクションとか、かなりエグい事をしてる面もあるのですが。

では、次回もお楽しみに。次の話で戦闘回は終わらせてみせます。
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