DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
そんな訳で念願の『第二章』なのですが、現実世界を書くのがざっと一年ぶりという凄まじきブランクが原因で上手く書けてるかどうか……というか上手いこと学校が書けない所為で殆どカットじゃないですかやだ~!!
色々怪しい所とか新キャラとかガンガン出していくつもりですが、まだまだ隠している要素がたっぷりなのでそこまで出した気がしないという不思議。
七月十三日――『一夜が明けて動き出す』
その空間には、人の気配が存在しない。
辺りに存在するのは紛れもなく都会に数多く存在するコンクリートの壁であり、外側から内部を覗き見る事も出来うる窓も存在し、人間の能力に見合った数多くの機材だって数え切れないほど有るにも関わらず、その空間には人間と呼べる存在がただの一つも存在しておらず、建物として全く機能していないように『普通の人間には』見える。
そんな、
上半身から下半身までを覆い隠すほどの蒼いコートを着た、紛れも無い『人間』の男性が。
男性は室内に存在する一つの『一般的な』デスクトップパソコンの前に立ち、何も言わないまま電源を起動させると、そのまま液晶画面の傍にある端末へ手で触れる。
それだけで、本来人間が電子上の情報に介入するために必要とする、キーボードもマウスも何も使っていないにも関わらず、液晶画面には男性が必要とする情報が自動で浮き出てきた。
それは、本来厳重に管理されていて然るべきはずの
名前や年齢、経歴など様々な情報が記されているそれは、過言でも無く個人の強みや弱みを握りかねない代物だ。
躊躇も無く情報を閲覧する男性は、ある一名の『人間』の情報を視界に入れると、表情を変えずに反応する。
「……ふむ」
記述された個人情報の中には、証明写真を元とした『顔』も存在している。
男性が見ている物には、肌の色はいかにも『一般的な』日本人のそれをしていて、黒色の髪を持ち、推測されるに歳は10代後半の男の子の顔が写されている。
証明写真を撮る際の服装は基本的に正装である事が多く、身だしなみや顔立ちも大抵が『嫌なイメージを持たれないために』ある程度整えられているため、写真一枚で個人の特徴を読み取る事は難しい。
そればっかりは、実際に会うぐらいしか確認する方法は無いのだ。
七月の十二日の夕方――――紅炎勇輝と呼ばれる『人間』を捕まえた時と同じように。
(……現実世界では、紅炎勇輝が行方不明になった事が流石に報道されている頃か。まぁ、現実世界の技術で『我々』の犯行を調べ上げる事は難しいだろうから、気にする必要も無いのだが……)
悩むような表情を見せる男性だが、実際に悩んでいるのか、そもそも何に悩んでいるのかまでは誰も分からない。
そんな『彼』の手には、一つの白色がメインカラーな携帯電話があった。
彼はその小さな液晶画面を立ち上げると、電話番号も入れないまま音声を発信及び受信するための
「どうせ機関の情報か何かから知っているのだろうが、この数週間の間に、お前からのオーダーである『作業』を俺の方は必要な数だけやり終えた。そろそろ大題的に『組織』が活動を開始する時期に入ったと見て良いのか?」
『わざわざ問う必要も無いと思うのだがな。既に「種植え」は済んだのだから』
聞こえたのは、異常なまでに透き通った邪な物を感じられない声だった。
ドキュメント番組で表情をモザイクで隠した状態の人物の出す音声よりも、人間の声とは明らかにかけ離れた声。
喜怒哀楽の全てを内包しているその言葉を聞いた男性は、軽くため息を吐いて言う。
「……まったく、やる事を大きさを考えれば理解も出来るが、随分な回り道を通っているものだな」
『「紅炎勇輝」が手順に必要な要素である事ぐらいは君も理解しているはずだが?』
「分かっている」
声の主に向けて皮肉染みた声を漏らす男性は、一切の迷いも見えない表情のまま言葉を紡ぐ。
「役割は果たす。私自身の目的を果たすためにも、な」
携帯電話の電源を切り、男性は窓の外へと視線を向ける。
時は、七月十三日の午前九時を切った所だった。
◆ ◆ ◆ ◆
友達の行方が『消失』した。
先日、互いに顔を見合わせ、遊びあった友達――紅炎勇輝が事件に巻き込まれた事を知ったのは、本日の朝にニュースを確認した時だった。
現在、白色のカッターシャツを黒色のズボンに入れ込み、革のベルトで固定させた一般的な学生の衣装をした少年――
(……どうして、よりにもよってお前が巻き込まれるんだよ……)
先日別れた後に何かがあったのか、推測しても何かが思い浮かぶわけでもない。
実際に事件の現場に立ち会った事があるわけでも無く、外部から与えられた情報を元にしているだけな所為だ。
テレビや新聞に自分自身が本当に納得を得られる情報は無いし、仮に納得が出来たとしても、それは友達が消えた事を『受け入れる』事になってしまう。
それだけは、絶対にしたくない。
してしまったら、彼は『友達を失った』という事実を本当の意味で飲み込むしか無くなってしまうから。
(大体、最近のこの事件は何なんだよ。こんな事が現実に存在してるんだったら、既に何か解決のための行動が行われて『手がかり』の一つぐらい掴めてるはずだ。犯人の意図は分からねぇけど、こんなの拉致と変わり無い。何十人かの子供とかを人質にでも取って、政府に交渉しようとでもしてんのか……?)
それが今のところ、『消失』した人達が生存している事を前提とした現実味のある回答だとは思う。
現実に『行方不明』が題となる事件での生存者は少なくて、大抵は見知らぬ場所まで連れられた後に『最悪な末路』を辿る事ばかりだとしても、今回の事件までそうだとは思いたくない。
現実を飲み込むのは、実際に事件に巻き込まれた『被害者』の姿を確認した後でも遅くない。
だけど。
(…………警察『だけ』で、本当にこの事件は解決出来んのか?)
根本的な問題として、ただの一般人が何をしても事件を解決する事は出来ないだろう。
だけど、身内という『関係者』であるにも関わらず、助けになるような情報に何一つ心当たりが無い事が、どうしてももどかしい。
推理小説などで地の文にひっそりと隠されている『ヒント』も、何らかの形で描かれたダイイングメッセージのような『痕跡』さえも見つからないのがこの数ヶ月の間に続いている事件の特徴である事は分かっていても、何かが欲しい。
警察が事実を隠蔽している可能性は低いだろう。
何か『手がかり』さえ発見出来ているのなら、それだけでも市民が浮かべる不安を少しは払拭出来る。
その効果を分かっていながら隠しているのならば、既に警察という機関が機能を発揮していないとも言える。
市民の安全を守る事に重点を置いているはずの機関が、むざむざ捜査に手を抜いているとは思えない。
思いたくない。
結局、この事件を引き起こした人物は何を目的に様々な人の行方を『消失』させているのだろうか。
殺戮から繋がり生まれる快楽のためか、もしくは拉致をした後に遠い場所まで居を移しての人身売買か。
不思議と、雑賀にはそれ等すべてが間違っている気がした。
「…………はぁ」
思考を繰り返している間に、マシンガントークのように教科の内容を口にしていた教師による授業が終わり、次の授業が始まるまでの休み時間を迎えていた。
適当に一礼してから教室を出る。
目的の教室まで歩を進めている途中、横合いから声を掛けられた。
「お~い雑賀。随分と沈んでるみたいだが大丈夫か~?」
「……なんだ、お前か」
雑賀に話しかけてきた眠そうな目の人物の名は
雑賀や勇輝と同じく高校三年生で、友達――――と呼べるような存在では無い知り合い程度の関係を持つ男だ。
「朝礼の時に先生からも言ってたし、お前だってもう知ってるだろ。勇輝のやつが事件に巻き込まれて行方不明になった事」
「あん? なんだ、そんな事で気落ちしてたのか。てっきり小遣い大量に吐き出したのに期待していた物が手に入らなかったとか、そういうもんだと思ってたのに」
「喧嘩売ってんの?」
「俺の性格は知ってるだろ。他人がどうなろうが、いちいち気にするほど慈愛に満ちちゃいないよ俺は」
「……だとするなら、俺に話しかけたのは何が理由だ? 用件も無く話し掛けて来るような奴じゃないだろお前は」
「あ~、それはアレだ。単純に言いたい事があるだけだ」
苦郎は本当に退屈そうに欠伸を漏らしながら言う。
「別に強制はしねぇけど、そんな風に同じ場所で暗い雰囲気を撒き散らしてるとこっちの気分に害が出んの。少しは割り切ろうと努力しろ」
「……それがあっさり出来るのなら、ただの薄情者だな」
「学校にまで来て、割り切れずにうじうじしてるだけの奴もどうかと思うが」
何も知らない癖に、知った風な口を利く。
この苦郎という男と出会ってから、今まで一度も他者の出来事に対して大した反応を示した所を見た事が無い。
今回のように生き死にに関わるほどのものであっても、対岸の火事やテレビの中のニュース程度の認識しか持とうとしない。
表情からも声質からも、切迫とした色を感じない。
ついでに、嫌味染みた悪意も。
(……それでいて
ハッキリと言って、雑賀はこの男の事が苦手だった。
こちらから何を言っても言葉を受け取っているのかどうかすら分からず、一方で自分の意見は堂々と言ってくる辺りが気に食わない。
一応憎めない部分もあるので、嫌いと言う程では無いのだが……やはり苦手だ。
そんな思考を雑賀がかべている事を知ってか知らずか(高確率で後者)、苦郎は歩きながら言葉を紡いだ。
「あ、そうそう。もう一つ言いたい事があったんだった」
「お前ともあろう奴が珍しいな。何なんだ?」
「そんなに『事件』が気になるんなら、自分の目と足で調べるこったな。他者から与えられる情報よりは信憑性のある物が得られるだろうし」
好き放題言って、苦郎は歩き去ってしまった。
雑賀は思わず呟く。
「……『
学校に来る時以外はほとんど外に出かけたりしていないのにあんな言葉が出るのだから、やはり苦手な男である。
しかし、言葉には頷けた。
無知な状態から脱却するためにも、学校が終わったら何かしてみようと雑賀は心に誓った。
……尤も、具体的な案は何も無いのだが。
◆ ◆ ◆ ◆
その青年は、病院の一室で窓を眺めていた。
寝床から掛け布団までも真っ白いベッドの上で横になり、その目で外だけを眺めていた。
「………………」
憂鬱そうにしている青年は、溜め息すら吐いていなかった。
そんな事をしても意味が無いという事を、きちんと理解しているからだった。
「………………」
病院での生活も、何日経ったのかさえどうでも良い。
時折、両親や友達が見舞いに来てくれる事はあっても、心境に変化は無かった。
「………………」
青年は片手で布団の端を掴み、そのまま立ち上がろうとしてみた。
だけど、
無駄な行為だと分かっていても、納得なんて出来るわけが無かった。
奇跡的に命は助かっても、その先に自分の見ていた『夢』が見えなくなった。
大らかに膨張させた表現などでも無く、青年は本当に『それ』を体験しているのだ。
生きている心地なんてしていないし、このまま退院したとしても出来る事なんて高が知れていた。
だから。
自分のすぐ傍に『誰か』が近付いている事に気がついていても、驚いたような反応の一つさえ無かった。
「……ほぇ~、こりゃあ想像してたより思いっきり絶望してんなあ」
知った風な口を利かれても、青年の知った事では無かった。
ただ、事情を知っているのなら話相手ぐらいにはなるか、程度の認識を青年は持っていたらしく、首さえ動かさないまま後ろの『誰か』に声を掛けた。
「…………誰なんだ?」
「誰でもいいだろ。俺が来なくても、別の誰かが代わりに行くだろうし」
「?」
どうやら、見舞い目的に来たわけでは無いらしい。
その声質自体は三十台前半の大人のような雰囲気を感じるが、大前提として聞き覚えの無い声だった。
「なぁ。突然だが、お前の望みを叶える方法があるって言ったらどうする?」
「……望み?」
「お前が一番願ってるだろう事だよ。なぁに、方法はシンプルだ」
その『誰か』は、わざととでも言わんばかりに悪意をチラ付かせながら、青年に向けて自分の告げたい事を告げた。
言葉通り、望みを叶えるのにとてもとてもシンプルな方法を。
「
◆ ◆ ◆ ◆
第三時間目の授業科目は体育。
そして、夏場の学校の名物と言えば水泳である。
男子女子、それぞれがプールサイドにて学生指定の水着を着用しており、現在進行形で準備体操の真っ最中。
当然その中には、別に水泳が好きなわけでも何でもない男子高校生こと雑賀の姿もある。
(…………水泳とはよく言うけど、ぶっちゃけこれって水遊びみたいなもんだよなぁ)
学校で行われている水泳の授業をやっても泳ぎが上手くならないという話はよく聞くが、その原因はそもそも『泳げるようになるため』に練習するためでは無く、どちらかと言えば『水の中での運動』を意識しているからだという。
その上で『泳ぎ』そのものを上手くしたい、もしくは選手を目指したいと思っている人物が、主に水泳の部活動に参加するらしい。
プール特有のハイターを混ぜた水のようなニオイに慣れない雑賀だが、とりあえず教師の指示に従って泳ぐ。
手のひらで水を搔き分け進んだ先には、当然ながら反対側の壁がある。
基本的に生徒はプールの端から端まで足を床に付けずに泳ぎ切り、それを何回か繰り返すのだ。
(しんどいなぁ……そりゃあ、夏だからこういうのがあるってのは分かりきってるんだが……)
ゴーグルのお陰で目に水は入らないが、泳ぐ途中で呼吸した際にうっかり水を飲んでしまう時だってあり、おまけに例の『消失』事件もあって、正直言って気分は良くなかった。
正直、夏場の水泳というシチュエーションには飽きている。
とっとと終わらせて調べ物に移行したいと思っているが、最低限の学業をすっぽかすわけにもいかなかった。
途中、誰かと話す事も無いまま授業は終わり、それぞれは更衣室にて衣服を制服に戻す。
『消失』事件の影響で、学習活動は一時間目から四時間目――午前中が終わると共に終わり、そのままそれぞれの教室にて終礼の時間となる。
足りない分の学習量は、その分だけ量が増し増しとなった宿題によって補う事になっていて、一部の学生からすれば嬉しかったりも迷惑だったりもする話だった。
尤も、理由が理由なのでそういった感情を表に出す人間は少ないのだが、雑賀にとっては好都合だった。
学業を終え、彼は彼なりに事件の手がかりを追い始める。
その先で、元の日常を取り戻せる事を願いながら。
最初っから重たい雰囲気撒き散らしすぎて別作品状態。
そりゃあデジタルワールドからリアルワールドに視点が変わったから作風も変わって当然なのですが、なんともまぁこの雰囲気を維持し続けられるものなのか……まだ『デジモン』が未だに登場していない状態なのですが、たまにはこんな話もアリですよね。
この『第二章』には、当然ですがギルモンのユウキやベアモンやエレキモンは登場しません。
なので、この『第二章』での主人公は今回フルネームが明らかになった『牙絡雑賀』という事になります。
どこにもここにも怪しい雰囲気を撒き散らしつつ、第二章の始まりとなるお話は終わりとなります。
では、次回もお楽しみに。
感想・指摘・質問等があればいつでも歓迎しております。