DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
既に様々な推理は『第一章』でもやってますし、ここは一つ展開を(飛ばしてはいけない物は書いた上で)ぶっ飛ばしてみました。ずっとグダグダな推理パートだけで数話も経過させるのもアレですしね。
今更なのですが、この小説には『デジモン化』というタグを導入しています。
Pixivとかではたまに見かけるトランスファー的な作品に付けられるタグなのですが、この作品における『デジモン化』は色々な意味合いを付けようと思ってます。
まぁ、その意味が公開されるのはいつなのか、全く未定なのですが(ぶっちゃけ話が長すぎる)。
皆さんは自分がデジモンに成れるのならどんなデジモンが良いのですかな?
この小説では割と影の薄いデジモンも登場させる予定なので、楽しみにして頂けると嬉しいです。
自宅に帰って昼食を食べてから約三十分後、現在進行形で情報収集を開始する雑賀。
結局の所、彼は自分の足で調べるよりも先に、他者の遺した情報を参考にする事しか思いつかなかった。
(……つーか、そもそも『犯人』の特定が出来ないんじゃあなぁ。現場には足跡が『被害者の物しか』残されていないらしいし、調べる事がそもそも出来ない。大体の話、どういう手段で『誰からも見つからずに』人間一人を連れ浚えるんだ……?)
完全犯罪の手口は基本的に『手がかりを何も残させない』事にある、と雑賀は思っている。
隠すとか、判別をつかなくさせるとか、そんなレベルでは無く『本当に』どうやっても見つけられない状態を作り出し、自身の『罪』に繋がるものを隠滅する。
例えば、一人の人間を殺した犯人の場合、凶器に自分の指紋を付けないために手袋を装備するのもそうだが、凶器そのものを地中に埋めたり数多の残骸に変貌させたりゴミとして処理したりする。
一方で、殺し終えた死体はどうするか。
こちらの場合、方法は様々だが大前提として死体を『見つけられない場所に』隠すためには、警察や周辺の住民の目から逃れた状態で移動しなくてはならないわけで、警察でも捜せない道が必要になる。
目の届かない場所にさえ来れば、後は重りを乗せて海底に沈めるなりなんなり出来る(と思う)。
だが、この市街地には裏道と呼べるほどの路地はほとんど存在しない。
仮に存在したとしても、そこはむしろ怪しさから警備の目が行き届いている場所だ。
まず『人の目に付く場所』はこの事件に結びつかない、と雑賀は思う。
逃走に使っている『足』が何なのかも重要だが、そんなものは確定的に『車』の一択である。
(……と、なるとだ)
その『車』のどこに人間を隠しているのだろうか。
積み荷として運ぼうものなら、途中で警察が『捜査の一環』と口実を作るだけで発見出来る。
眠っている『同乗者』として扱ったとしても、指名などを調べ上げれば直ぐに気付かれる。
今時、特別待遇で検査を見逃してもらえるような人物なんていないだろう。
自動車以外の移動手段として代表的な乗り物と言えば……。
(……電車は確かに大量の人込みに紛れる事が出来るし、一度に多くの距離を稼ぐ事が出来る。だけど、当然そこにも警備は存在する。調べる物を『人間大の荷物を運べる』物にだけ限定すれば他の客の迷惑にもならないし……第一、防犯カメラだってある。同じ理由で飛行機もアウトだ。だが、ああいうの以外に多くの人間の中に紛れる事が出来る『車』なんて……バスはバス停という『固定された目的地』に警備を設置するだけで見つかるし……)
そうして考えている内に、雑賀はふと思った。
そもそも、人込みの中に紛れる必要があるのか、と。
ナンバープレートを換えた盗難車という手段だってあるが、もっと身近に『固定された目的地』以外の場所に移動する手段があったではないか、と。
(……まさか、タクシーか……?)
有り得ない話でも無い。
実際、タクシーはバスや電車のように『固定された目的地』に止まるのではなく、お客様の口頭指示などによって『どこまで』走って『どこで』止まるのかを決定出来る。
その上、運転手は基本的に客の荷物を見ようともしないし、後ろの座席に乗っている時点で見る事も難しい。
何より、タクシーの中に警察が同乗している、なんて話は聞いた事も無い。
大きなトランクか何かにでも『人間』を積める事が出来れば、あるいは警察の目を誤魔化したまま移動出来るかもしれない。
だとすれば、調べるべきなのは――――。
(……逃走ルート)
あまり難しく考えるのでは無く、むしろそうしている事で視野から外れているその盲点。
(それさえ分かれば、犯人が何処に逃走して居を構えているのかの思考が開けてくる。少なくとも、今の何も知らずにウジウジ悩むしか出来ない状態からは抜け出せる。このまま無力なままで居てたまるかってんだ)
せめて、一矢だけでも報いる。
この蟠りを残したまま人生を送る事になるのは勘弁だし、どの道このまま何もしないままでは自分自身の安全さえ保障は出来ない。
……実際には、調べようとする動きを匂わせたり見せたりするだけでも危険を被る可能性は高い。
だが、それを理解した上で、彼は手持ちのスマートフォンを無線でインターネットに接続する。
使用する情報源は、何分間単位で情報が更新される掲示板。
時折目にしたり写真に写したりしたものを即興で書き込めるそのサイトならば、憶測だろうが何だろうが『手がかり』を掴むのに事欠くことも無い。
やはり『消失』事件に対する関心からかレス数は多く、ネットネームを使って話題を展開している住人の会話を見ていると、やはり推理を述べる人物はそれなりに居るようだった。
だけど。
「……イマイチ、ピンと来る奴は無いなぁ……」
率直に言って、信憑性を感じられる物はほとんど無かった。
各地域から情報が集められているとは言っても、その殆どが『何故か納得の得られぬ物』としか受け取れない。
車以外にも、下水道の中に何らかの空間を秘密裏に作ってそこに隠れているとか、路地から入れる秘密の通路を通って入ったビルの中イコール裏稼業を軸としている企業の所為だとか、何かのトラックの荷物に紛れて移動しているだとか、何と言うか現実味のあるような無いような推理が立ち上がっていたのだが、その全てが『別の地域』の出来事で、そもそもそんな事は不可能である。
下水道で穴でも空けようと工事機具なんて使ったら生じる音であっさりバレるし、路地から入れる秘密の通路なんて実用性を考えても難しく、トラックの荷物なんて身を隠す事の出来る物は滅多に無い。
何より、その全てが『実際に目で見て』調べた物じゃないという事実が信憑性を低下させている。
当然の事ではあるし、雑賀自身も大きな期待を抱いていたわけでは無いのだが、やはり望む『手がかり』は遠い。
(苦郎の言ってたのはこういう事か。確かに、他者の情報から信憑性は引き出せない。こりゃあ本当に自分の足で調べに動くしか無いか……)
かと言っても、何処から探索を開始するのかさえ決まっていない状態なので、思考を広げるぐらいしか出来る事が無い。
自転車で行動出来る範囲には限度があるし、行動出来得る範囲を全て調べるには時間が掛かりすぎる。
明確なタイムリミットなんて分かるわけも無いのだが、早急に【手がかり】を掴むのなら事件が起きてからそう時間が経っていない方が良いに決まっている。
だからでこそ、どう動くべきかを考えなくてはならない。
事件の現場であった公園は既に警察が調べに入っているために探せない。
だとすれば、まずはその周辺の道順を辿ってみるべきだろうか…………と、思っていた時だった。
「……ん?」
少し遠めの位置から、非常事態を意味するサイレンの音が響いて来た。
音の発生源は確定的に道路の方からで、音の感じ方からするとパトカーでは無く救急車の物らしい。
それ自体は然程珍しいとも思えない物なのだが、雑賀が疑問を浮かべたのはそこでは無い。
救急車の向かったと思われる方角には、自分にとっても関連のある建物が存在している場所があったからだ。
その場所の名を、疑問形で呟く。
「……
それは、雑賀の通っている高校とは違う場所に存在する、一般的に何の問題点も耳にしない『普通の』高校だった。
自分が通っているわけでは無いため詳しい事は分からないが、救急車が
それも、命に関わるレベルで。
現在の時刻は午後の二時四分――まだ日も十分過ぎるほどに登っていて、何者かが身を隠して犯行に及ぶには明るすぎる時間だ。
自分が捕まる事を前提に『何か』をした、という可能性も無くは無いのだが。
「……まさか」
これも『消失』事件と関係のある事なのだろうか。
そう半信半疑で思いつつ、危機感を抱きながらも、雑賀は自転車の進行方向をサイレンの響く救急車の停車地点に向けた。
◆ ◆ ◆ ◆
その人物――と言っていいのか分からない存在は、高い所がそれなりに好きだった。
色々な場所を高い所から眺められるという状況だけでも、奇妙な高揚感を得られたからだ。
彼は遠く離れた位置に視えている状況に対して、率直に言葉を漏らす。
「……ん、割と行動早いな。あのガキ」
あまり期待をしていなかったスポーツの試合の展開に思わぬ面白さを見い出した時のような、気軽な声調。
その瞳には獰猛な黄の色が宿っており、その視線から感じ取れるものは好奇心か悪意ぐらいしか無い。
衣服は下半身のカットジーンズぐらいしか外部からは見当たらず、都会で見る容姿としては明らかに場違いな雰囲気を醸し出している。
適当に高所から眺めていると、ジーンズのポケットに入っていた携帯電話が振動した。
彼はそれに気付くと、右手で携帯電話を取り出して画面を立ち上げ、通話用のボタンを押す。
「どうした、経過報告か何かか? ちゃんと監視してるぜ~?」
『……お前の場合、気が付くと居場所が分からなくなるからこうして確認する必要があるんだろうが。まぁ、ちゃんと監視が出来ている事には関心して……』
「ギャグのつもりか? いやぁ、割とクール系なアンタもそんな事言うのなぁ」
『今度対面したら縛り込みでアームロックするがよろしいなよろしいね』
「マジでスイマセンでした、ハイ」
彼は通話相手の言葉に危機感を覚えたのか、トラウマを思い出したような顔と声のまま謝罪したが、通話相手は無視して言葉を紡ぐ。
『で、そちらはどうなっている?』
「……あ~、病院で見つけたガキの伸びっぷりは思いのほか早い。才能の問題なのか何なのかは知らんけど、悪くはないんじゃねぇの? ていうか、アンタの方はどうなんだ」
『つい先ほど発見したが……どうなるかはまだ分からん。何せ、力を持った後の人間が行動に出るまでには、何らかの目的か計画が必要とされるからな。むしろ、そちらの動きが早いのは、既に「やりたい事」が決まっていたからだろう』
「あのガキは右腕と右足がキレーに無くなって数日は経ってたらしいしなぁ。『やりたい事』は大体想像つくがよ、一応はこれでいいのか? 正直俺の方は計画練るとかそういう分野じゃないからよ」
『構わない。「彼」がちゃんと目覚めてもらえればな』
「『彼』……
九階建ての高層ビルの屋上から一点を見下ろしている彼は、視線をそれまで向けていた位置から少しズラす。
自転車を漕いで移動している、一人の青年の姿が視えていた。
面倒くさそうに、彼は言葉を紡ぐ。
「つーか、しゃらくせぇな。
『私達が安易に介入した結果、何らかのイレギュラーが発生する可能性だってあるだろう。そもそも「彼」だけでは無いのだぞ? 計画に必要とされるピースは』
「つまり、あっちがあっちで『勝手に』成長してくれるのに期待して、俺達は変わらず『
『そういう事だ。多少の「誘導」は「奴」がやってくれるだろう』
聞いていながら、彼は気の抜けたように背筋を伸ばす。
校長先生の話などが駄目なタイプなのか、もしくは睡魔でも襲ってきているのか、同時に欠伸も出てきた。
「……っだ~、退屈だわホントに」
携帯電話越しに聞こえる声に、通話相手は呆れた風に言葉を漏らす。
それは、明らかに、人間が話すような内容とは違うもので。
『お前の場合、下手すれば天災を呼び出してしまうだろう。むしろ今は何もするな』
「あ~? 天災とかご大層な表現するのはいいが、俺のはまだマシだろ。大体、このご時勢に火力自慢なんて何にもならねぇよ」
『こちら側の世界でも「あちらの世界」でも、十分天災クラスだろう。子供……ではあるかもしれないが我慢しろ』
「へいへい」
そして、彼は通話の最後をこんな言葉で締めくくった。
「ま、しばらくは高い所から傍観するとしようかね。『脇役』がどんな風に力を使うのか、興味が無いわけでもないし」
◆ ◆ ◆ ◆
結論から言って。
雑賀は救急車が向かった先の高校の敷地内へ入る事が出来ず、外部から被害者の状態を調べられずにいた。
(……そういやそうなんだった。普段は意識してなかったけど、基本的に学校ってのは『関係者以外立ち入り禁止』なんだよな。こりゃあどうすりゃいいかねぇ……)
水ノ龍高校では無く、別のとある高校の生徒である雑賀は立場上この学校の敷地内には許可無く踏み込めない。
本当ならば何らかの事件が起きたのであろう場所を警察よりも先に調べ、何か『手がかり』に繋がりそうな情報を得たかったものだが、思いっきり出鼻を挫かれてしまった。
生徒が被害に受けた直後で仕方の無い事ではあるのだが、校門の外側から手を振って教師を誘導しようとしても、マトモに相手をしてもらえなかった。
この分だと、病院の方でも意識不明となっているらしい被害者の生徒の件で忙しくなっているだろうから、救急車を追っても今は情報を入手出来ないだろう。
そんなわけで、再び手詰まり状態となってしまった。
結局、今頼りに出来そうなのは自分自身で得た情報でしか無さそうなのだが……。
(ネットの情報は現状だと信憑性が低い。地域別の『つぶやき』は事件解決に繋がる情報が薄いだろうし……やっぱり、ここに来る前に決めた方針で行くか……?)
そんな風に、気持ちを切り替えて自転車をこぎ出そうとした時。
唐突に、ポーチバッグの中に仕舞っていたスマートフォンがメールの着信音を鳴らした。
「あん?」
思わず、疑問を含んだ声を漏らす雑賀。
彼はスマートフォンを持っているが、メールのアドレスを登録している相手は家族の物ぐらいしか無い。
この時間帯に家族からメールが来た覚えは無く、家族以外からメールを貰う事なんてまず無い。
そのはずなのに、受信したメールは明らかに家族からの物では無かった。
内容に、目を通す。
『FROM・お前の味方以外
TO・
SUB・ヒント
本文/お友達の行方を知りたいんなら午後二時半以内に「タウン・オブ・ドリーム」一階のカフェに来い。来なかったら帰る』
………………………………………………………………………………………………。
「は?」
またもや疑心に満ちた声を漏らす雑賀。
それもそうだろう、全く未明の相手からのメールというのも当然の疑問を覚えたが、何より本文の内容が明らかにおかしすぎる。
雑賀の本名を知った上で『お友達』なんて記述するのであれば、それは間違い無く紅炎勇輝の事。
そして、その行方を知れる者は連れ去った張本人かその関係者ぐらいだ。
その、人物が。
何故、こんなメールを送ってくる?
(……誘導してんのか?)
率直に考えても、罠の可能性はあまりにも濃厚だ。
だって、あまりにもイレギュラーが過ぎる。
犯罪者でありながら、身を隠さずにこんなメールを送ってくるなど、人情を利用した誘導策としか考えられない。
(……ただの迷惑メールか?)
仮にそうだったとするなら、かなり手の込んだイタズラだろうと雑賀は思う。
だが、互いに顔すら知らない関係でありながら、イタズラのために一個人の情報を入手しようとする者が居るとは思えない。
このメールの発信者が『消失』事件に関する情報を握っている人物である確立は、低くないだろう。
そして、その裏には確実に危険は待っている。
「………………」
現在時刻、二時十二分。
メールの贈り主が記述している事が本当なら、あと十八分で『手がかり』への道が閉ざされる。
行けば少しだけでも『手がかり』は手に入るかもしれないが、身の危険も当然伴う。
その二つの進路を頭に浮かべ、メールの送り主の危険性を感じつつ。
彼は、言う。
「……舐めやがって。行くに決まってるだろうが……ッ!!」
怒りを声に込め、犯罪者の笑みを脳裏にイメージしつつ、彼は自転車を目的の方角へと向けた。
もしもイタズラだったらスパムメール扱いで通報してやる、と同時に決めながら。