DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
そんなこんなで最新話ですが、まだ戦闘回ってわけじゃないです。
ええ、本当に。現実世界サイドでは物語を『戦闘』に持っていくのに敵か味方の『動機』が必要になってくる上、デジタルワールドサイドというかRPGゲームのように野生の敵とエンカウントするみたいな事は一切ありませんから、必然的に推理パートやらコメディパートが多くなるのです。
でも、それもあって各キャラの個性とか、事件や異変に対する心構えとかを綿密に書き上げられるので、悪いことばかりでもありませんね。デジモン作品なのにデジモンの出番ゼロな回が五回近くって時点でどうとも言えねぇがな!!(半ギレ)。
では、最新話始まります。今回の始まりは割と唐突に思われるかも……
現在時刻、三時十七分。
雑賀は『タウン・オブ・ドリーム』での対談を終え、自宅に戻って自室で少し仮眠を取ろうと思っていた。
ほんの十数分で頭の中へと入ってきた情報が多すぎて、少し落ち着くためにも休みたい、と思ったからである。
(……確かに設定通りなら、デジモン――デジタルモンスターはあくまでも0と1の電子情報で構成された存在だ。脳の一部を切り取ってコンピューターに混ぜ込んで電気信号を促せば、半永久的に生きられるとかいう仮説だって存在する。人間の脳と電子情報で存在を構築されたデジモン。かみ合うかって聞かれたら、全否定も出来ないわな……人間に限らず殆どの生き物の体自体が、脳から発せられる電気信号をもってやっと『自分の意志』で動かせるものなんだし……)
女の言っていた言葉を改めて思い返し、推測している内に自問自答の言葉は次々と出てくる。
その度に、非現実的でありながらも、一部納得してしまっている自分がいる事に驚かされる。
(だけど、だからってそんな都合良く現実の物理法則に干渉出来るようなもんなのか? そんな理屈なら、超能力者なんて現実で既に発見されているはずだ。人体実験なんて思いっきり禁忌で表沙汰にやってるような所は無いだろうし、第一どんな風に脳を弄くれば能力が発現するかっていう点から探りを入れる過程で、どんだけの人間が犠牲になる? コストやらリスクやらを考えても、それをやろうとする人間が居るのかさえ怪しい……っていうか、現実にそんな科学者が居るなんてとても思えないしな。科学と魔術の交差するライトノベルでもあるまいし)
だけど、結局は行き詰る。
想像がある程度行き届いても、問いに答えを出すためのキーワードが足りていない。
仮に告げられた言葉が真実だとすれば、教えられた事件に首を突っ込めば、足りないピースの欠片に手が届くのか。
「…………はぁ」
そんな事を考えていても、埒は明かない。
どうすればいいのかなんて、まるで全部を見通していたようなあの物言いの中に有りはした。
後は、それに順ずる形で行動すれば良いのかもしれない。
だけど。
(……『とある意思』って何だよ。俺はスーパーヒーローじゃないんだ。アイツを助けたいって意思なら既にあるのに、俺は何の『特別な力』も発現出来ていない。だとしたら別の何かだとは思うんだが、それはいったい何なんだよ)
自分にどんな『力』が宿っているのか。
友達はデジモンという人外の存在に成ったと聞いた。
今、アイツはどんな気持ちで、どんな苦難を体験しているというのだろう。
(……あの女が言っていた……司弩蒼矢って言ってたか。そいつには有って、俺には無い物があるってのか。俺も自分で四肢の半分を切断しろってのかよ、ふざけやがって)
最初はまだ、そこまでは考えていなかった。
こんな、非現実的なロジックが絡んで来る事件だなんて。
何らかの『手がかり』を見つけて、警察やらに通報して済む話だと考えていた。
(……ちくしょう)
今更になって、得体も知らない恐怖が浮かび上がる。
それに立ち向かおうと思っていた心が、無様にも引っ込んでしまう。
たったそれだけで、自分のそれまでの威勢が虚勢に過ぎなかったのかもという疑念が浮かび、それは更に自分以外の人間に対しても危険な『何か』を突きつけられているような、ある意味自分自身がそうなる以上の不安が心理を覆う。
目に見えない指先で首筋をなぞられているような、得体の知れない感覚。
自分から『事件』に首を突っ込むのか、あるいは『事件』の方が自分を巻き込ませるのか。
いずれにしてもこれまでの平和な日々は、平穏な空気は、永遠には続かない。
無意味な想像を働かせているのも、所詮は自身が臆病である証以上の意味を持たない。
あのような自由奔放な相手に対し、自分に何が出来た?
力が無いからと言い訳するのは簡単で、それ自体も間違ってはいない。
だけど、そんな言い訳を用意した所で何かが変わるわけでも無い。
何かを変えるには、変わるしか無い。
「……で」
そんな、明らかにどシリアスな心境で自宅へと帰還した雑賀だったのだが。
靴を脱いで、即行で自分の部屋に足を運んだ彼は、開口一番にこう漏らした。
「……何で好夢ちゃんがうちに来てんの?」
いつの間にか、雑賀の自室にて色々見回しながら滞在しているのは縁芽好夢。
割と出会う回数も少なくは無い、以前は紅炎勇輝も一緒にオープンキャンパスも兼ねた『イベント』にて出会った、この日も学校で遭遇した眠気マックス男こと縁芽苦郎の妹――確か血は繋がっていなかったらしいから一応は義妹に属するらしい女の子である。
ひょっとして、今も高確率で熟睡中かネトゲやらに没頭中と推測される兄の苦郎が全然かまってくれないから、暇になって遊びに来たのだろうか? と何度か遊んであげた経験もある雑賀は思っていたのだが、そんな推理を浮かべている事など知らないまま彼女は返答でこう言った。
「何でって、家で一緒に遊ぶことを口実に雑賀にぃのお母さんに電話で許可貰って、ちょっと穏便でも無さそうな話を聞きに来たに決まってるじゃん。雑賀にぃ、多分もう『消失』事件……何かもう被害の頻度から題名が変わってもおかしくなさそうな事件の事について、もう調べ始めてるんでしょ? いやぁ、苦郎にぃをちょいとシメて協力を仰ごうと思ってたんだけど、あの兄『あの件には関わらない方がいいって』とか明らかなメンドクサオーラ全開の一点張りでさ~。他に知っている人で頼れそうなので筆頭に上がったのが雑賀にぃだったから、こうしてやってきたの。もし何もしてなかったら本当に遊べばいいわけだしね。暇なのは事実だったし」
「いったい何処でそんな情報を!? 中学に進学して以来好夢ちゃんと会ったりする回数は減って、こうして出会うのも割と久しぶりなはずなんだけど?!」
「あれ? 正直あたしもあくまで可能性レベルでしか考えて無くて、実際そんなに期待してなかったんだけど、その反応見るにマジっぽいかな。いやぁ、出任せって言ってみるもんだね★」
「ちくしょう
この縁芽好夢。兄である縁芽苦郎とは雲泥の差と言っても過言では無いほどに人当たりが良く、雑賀の母こと
今時他人の家に遊びに行く事を許容する親というのも珍しい気もするが、母曰く『いや女の子の扱い方とか知るチャンスにもなるし可愛いし年上らしく遊んであげようぜ』などと言う面目もあるらしい。遠回しに馬鹿にされているような気もしたが、理屈としては通っているため拒否しようとも思えなかったのだ。
まぁ、その辺りの事情は現状どうでもいい。
重要なのは、このタイミングで彼女がよりにもよって『消失』事件に関係する情報を求めている、という事だ。
(……話すべきか? いや、でも危険な事と分かっていてそれに相乗りさせるってのは……)
「あのさ雑賀にぃ。急に意味深な沈黙を醸し出すとそれはそれで怪しまれるって分かってる?」
「別に。何して遊ぼうか考えてただけだ」
「あの流れで急に遊ぶ方向に持って行こうとするのも、普通に考えて逆効果なんだけど」
「…………」
言い訳を用意しても、妙に勘を働かせて食いついてくる。
これはどうも、下手に言い訳をするほど逃げ道が失われるパターンらしい。
なので、雑賀はあえてこう答える事にした。
「じゃあ率直に言うけど、この件には本当に関わらない方がいい。本当に命を失う危険だってあるレベルの一件らしいんだ」
「……どゆこと?」
「言葉の通り。俺はついさっき、この『消失』事件を起こした犯人の関係者に呼び出されて、色々と聞いたんだ。正直よく分からないとは思うけど、多分に事実かもしれない事を」
「……犯人かもしれない人の言う事を信じてるの?」
「嘘を吐いて何のメリットがあったんだろうな。仮に俺を連れ去るなり何なりするんなら、怪しまれない場所にしても別の場所に設定するはずだ。防犯カメラも取り付けられない路地裏やら交番から遠い通り道やら。なのに、通報されるリスクもあったにも関わらず、そいつは『タウン・オブ・ドリーム』にあるカフェなんて場所に設定していた。完全に私情でな」
「犯人と無関係って可能性は? 不謹慎に犯人の仲間装って、面白がってイタズラしようと思ってたとかじゃなくて?」
「ただイタズラ目的なハッカーが人のメールアドレスと個人情報を盗るにしても、盗まれた当人に会うように言う奴はいない。大前提の時点で犯罪確定だし、まずそういうイタズラを生業としてるハッカーの方が珍しい」
「どうして通報とかしなかったの?」
「しても無駄だからだ。物的証拠も何も見当たらない。そんな状況で17歳らしい女の顔を指差して『こいつ犯人です!!』なんて言って信用してくれると思う? 多分、それを理解した上であんな真似したんだろうさ。完全に舐めきってる」
言葉を紡ぐ度に好夢の目は細まっていく。
言っている雑賀自身も『敵』の存在を改めて認識し、意識を切り替えようと努力する。
「好夢ちゃん。君が調べようとしている『事件』は、もしかしたらあくまでも『第一段階』に過ぎないのかもしれない。仮に『これ』を解決出来たとしても、根源的な部分では解決されていない。そして、そんな『第一段階』に過ぎない事件に踏み入ろうとするだけで、人間一人があっさりと消えるか命を失う可能性があるんだ。理解したか?」
「…………」
「これは多分、少なくとも『ただの』中学生である好夢ちゃんが触れるべき事じゃない。苦郎の野郎が言ってる事は、殆ど面倒くさそうに言ったかもしれないけど本当の事だと思う。多分、いくら『特別な力』を持っていたとしても、俺や勇輝は俗に言う『ヒーロー』じゃないんだからさ。正義の味方とかを『気取って』赴くべき問題じゃないよ」
「……じゃあ、雑賀にぃはどうするの?」
真っ直ぐに、好夢は雑賀の目を見て。
「勇輝にぃがいなくなっちゃったのはあたしだって知ってる。だから、雑賀にぃが何か行動を起こしてると思って、それであたしにも何か出来る事を探そうと思って会いに来た。……本当に、何をどうしようと思ってるの? その女の人が言ってた事を飲み込んだ上で」
「そりゃあ、まぁ……」
ここで何を言うかによって、自分の行動の路線が決定されるような感覚を雑賀は感じ、その上でこう言った。
「……何もしない、かな」
◆ ◆ ◆ ◆
牙絡雑賀との会話(と少しの娯楽)を終えた縁芽好夢は、現在進行形でご機嫌斜めだった。
理屈として危険の度合いは理解したが、まさか自分の兄と同じ返答と答えを提示されるとは思わなかった。
(……そりゃあ、理屈としては分かるよ? 俗に言う『オトナの世界』に子供は安易に入り込んだらいけないっていうのと似た、絶対に越えられないというか越えたら死線越えるみたいなのは分かるよ? でもさ、何も教えずに何でもかんでも背負おうとするのは本当にイライラするわ!! ホントにもう、おにぃちゃん達は絶対何か抱えているのに誰にも『相談』には乗ろうとしないんだから!! がるぐるぎゃお~っ!!)
彼女が通っているのは、都内ならば何処にでもありそうな高層な建物の並ぶ歩き道。
怪しげな雰囲気も恐怖を煽る路地裏も殆ど無い、学生の通学路として不要な物が大して見当たらないような場所。
茶色いポーチバッグに入れていたスマートフォンに目を向ければ、現在時刻は『16:12』と夕方の少し前ぐらいである事を示しており、大人たちがもうそろそろ帰宅するべきだと生真面目に言い始める時間だという事が分かる。
理由はもちろん、最近頻繁に発生している『消失』事件に巻き込まれないように、という事なのだろうが……現実的に見れば、この時間にも外出している少年少女は割と居たりするわけで。
「お、こんな時間に会うなんて珍しい……何だ何だ? 彼氏にフラれて意気消沈中か?」
「……あたしに『そういう』人は居るわけじゃないって知ってて言ってるんだよね? リアルホルスタインめ」
「おうおう~、いくら何でも牛呼ばわりは無いと思うのだぜ? 私にはちゃんと捏蔵叉美《こぐらまたび》っていう名前があるんだし、そういう物言いは関心出来ないな~」
捏蔵叉美。
好夢が通っているのと同じ中学校に在学している同級生で、彼女自身が思考回路の食い違いからかどうにも仲良く出来ない人間の一人として認識している女の子だ。
好夢が柔道部に所属している一方で、この捏蔵叉美は特に部活などには属せず、この街に噂される『都市伝説』とやらを独自に調べて推理する事を楽しみにしている、割とインテリ系の人物らしい。
服装としては、まだカッターシャツに藍色のスカート(と短パン装備)の制服装備な好夢と違って自宅に戻ってからは着替えているのか、薄い赤色のYシャツに濃い目な桃色のショートパンツという年齢に見合わず女としての魅力に重点を置いたような装備だった。
服装のチョイスに女としての思考の差異など、この二人の特徴を差別すれば他にも色々と浮かび上がる物はあるのだが、縁芽好夢が個人の問題として最も気に食わない点は、この叉美という女の子の首下に見える特徴的な物体にこそある。
直球で説明してもアレなので、遠回しに説明しよう。
ぼいんばい~ん!!
「何の用なの? つ~か、アンタはこんな所で何してんの? いつものオカルト探索?」
「一度に複数の質問をするなよ。順に答えるが、単に疲れてるのかイライラしてるのかその両方か分からんが興味深い表情をしていた君を見つけたから声を掛けてみただけ。もう一つに関しては、まぁ単純に散歩だよ。最近は最近で興味深い現象が度々起きているようだからね」
「つまりは平常運転ね。相変わらずだけど、どうしたら中学生の年齢でその大きさになんの……?」
「さぁ? 別に牛乳ガブ飲みとかしていた覚えは無いのだがな。遺伝子とかが絡むならどうしようも無いかな」
巨乳派が貧乳派に向けて唐突な宣戦布告だと……ッ!? と好夢がわなわなしたが、発言者の叉美の方は気にする様子も無く話を更に展開する。
「それより珍しいな。何かあったか?」
「別に。ちょっとやる事見つけようと信頼出来る人の所に行ったら、結局得られたのは頭ごなしの教訓だけだったってだけ。苦郎にぃもあんなだし、頼れそうな人がいないってだけでもかなりきた」
「ふ~ん。日が落ちてきたら外を出歩くなとか、警察の目は路地裏にまで届くわけじゃないから近付くなとか、そっち系か? 別に間違った事は言ってないと思うがなぁ。つまらん事は事実だが」
「『消失』事件の件。知り合いの人が被害に遭ったのもあるけど、解決目指すつもりで調べようと思ってたの。アンタは何か知ってるの?」
「何か知っていればそこから色々推理出来るんだけどね。根も草も見当たらん」
そう言って、おどけたように両手を肩の上に上げてから、叉美は言う。
「が、あるいは『消失』事件とは無関係かもしれないが、少しだけ『怪異現象』ならば見つけたかもしれないという自負はある」
「……ん? どして話題がオカルト系の方向に……?」
「『一般的な常識では考えられない』……そんな事件には、案外非現実的な事柄が絡んでいるとは思えないか? この街の
言われて、ほんの少し納得を感じながらも好夢は言葉を返す。
「まぁ確かにそうかもしれないけど。でも、そういうのって『神様』とか住まってるっていう山とか森とかで起きるって話じゃなかったっけ? 第一、疑うと悪いかもしれないけどその警察の人達自体が何か裏を潜めている、なんていう可能性も低くはないわけだし。今時、ちょっとの意識の緩みで警官でさえ犯罪起こしちゃう時代だよ」
「警官の個人個人にも住まう場所がある以上、人間を隠す事が出来る場所など限られると思うがな。第一、わざわざ警官として職を得ている人が人間を連れ去る理由がまず無い気もするのだが」
「……それもそうかな。今時、抱きやら殴りやら専門の奴隷にするとか、外道な欲望に手を出す野郎はいないと思うし」
結局、叉美に納得させられる形で好夢は話を飲み込む。
自分達のすぐ近くを複数の自転車が通り過ぎようとしていたので、二人はうっかり轢かれないように距離を置きながら会話を続行する。
「で、アンタの言う『怪異現象』って? 言うからには何かあるんでしょ?」
「まぁそう焦るな。ゆっくり話してやるから、まずは近場のデパートにでも」
「何優雅に女の子らしさを醸し出そうとしてんの。そういう題目はいいから。大丈夫、他人から痛い子っぽく見られるとしても損するのはアンタだけだし」
「はいはい……全く、何故私に対してはこうも風当たりが強いかな。嫌味など言った覚えは無いのだが」
「自分の一分ぐらい前の発言を思い出せこの野郎」
叉美は何故か無意味に腕を組みながらも言う。
「簡潔に言えば、たまにこの街の空気は一部『違う』ような感じがするって感じだ。風景には何ら変化が無い『はず』なのに、どうにも『違和感』というか何と言うか。大人達には感じられないようだがな」
「それって建物の内装が限り無く近い形でも変わっているからとか、そういうのじゃなくて? 五感とかに作用してんの?」
「まぁ、本当に些細なものだから私も対して感じた事は無いのだがな。強いて言えば、その『違和感』を感じる場所でスマフォを弄ってみたら、何故か電波環境が少し悪くなっていたぐらいの変化しか見られなかった」
「単に携帯回線のアクセス集中とかじゃないの? ていうか、電波環境の変化なんて何か関係あるの?」
「まぁ、それだけなら確かに重要度は低いかもしれないが……その『違和感』は夜中の方が強かったな。理由は知らんが、以前マフラーの切れ端を試しに持ってきてみれば、静電気にでも反応したかのように毛の部分が立ち始めていた気がする」
「手のひらとの摩擦とかの影響じゃなくて? マフラーとか毛皮系が逆立つなんて、それこそ珍しい事でも何でもないでしょ」
「そういうものかな。単なる時差が理由なのかどうかは分からんが、そういう些細な物にほど『何か』が隠れているものだと私は思うぞ」
「…………どうかなぁ。そもそも、そんなに分かりやすい『違和感』なら別の人も気が付いてない? アンタが気付けるって事は、あたしも含めた別の人……特に夜間でも行動が制限されない大人とか、気付いてそうだと思うけど」
「そこを逆に考えよう。『大人』には感知出来ず、その一方で『子供』である私達はどうして感知出来るのかって部分を」
「…………」
話がきな臭くなってきた。
当然ではあるが、街を歩く人並みは興味も無いように好夢や叉美の方を向いたりしていない。
「……流石に非現実的じゃない? 童話の……ピーターパンだっけ? それに登場する『子供しか行けない国』じゃあるまいし」
「そう、それだ。単に気象の変化か空気中に散布されたナノサイズの『何か』が原因かは知らんが、少なくともこういう事は『非現実的』とどうしても口に出してしまう。本当に些細な事で、その上『大人』は気付かないから世間の目には触れられない。まぁ意図的に『隠している』という可能性もあるわけだが、いくら何でも度が過ぎていると思わないか? 偶然そのものに」
確かに、それが事実であれば偶然にしては『出来すぎている』。
子供には観測出来て、大人には観測出来ない『微弱な変化』など、それが本当であれば『異常』として認識しても何らおかしく無い。
気に入らないながらも、この捏蔵叉美の発言には好夢もある程度の信頼を置いている。
何だかんだ言っても、この女はこういう場面で『自分の推測』でしか物を言わないため、悪意を伴った嘘を吐く事が殆ど無いからだ。
ふと、つい先ほどの牙絡雑賀とのやり取りを思い出してみる。
少し調べを入れようとするだけで、人間一人が容易く消される事件。
あくまでも『第一段階』に過ぎず、解決した所で根源的な原因には届かない。
自身の兄である縁芽苦郎の発言はともかく、雑賀の発言は『事件を起こした』側(であるかも好夢は解らないが)の情報を元とした物で、信憑性としては高い方だった。
ならば。
「……とりあえず理解した。一番の時間は夜中ってことになるわけ? そうなると、まずはどうにかしてお母さんやお父さんの目を掻い潜るか許可を得る必要があるなぁ……無断で七時以降の夜間外出してる事がバレたりしたら、割と本気で雷落ちそうだし……いや、第一に中高生って夜間外出に法律的な制限があったっけ? でもまぁ案外その辺りは緩かったりするしどうにもなるのかな」
「いや」
だが、そこで叉美は否定した。
「今話したのはあくまでも『一つのケース』だ。現に昼間や朝方でも同じ反応が見られた日もあったし、何も『強い違和感』を感じるのに夜間である必要は無い。仮にこの『違和感』が誰かによるものである場合、高確率でそれは人為的に引き起こされているだろう。そして、一方で例の『消失』事件は何も夜間に限った話では無い。時間や明度に関係無く、常に少数だけが被害に遭っている。つまり」
「…………『犯人』はあたし達と同じ、未成年の子供である可能性もある、と?」
「そういう事になる」
確か、雑賀が対話した女も未成年と聞いていた。
だが、恐らく容疑者には『子供』だけでは無く、それを利用しようと考える『大人』も含まれるだろう。
ただの子供が単独で誘拐なんて出来るわけが無いし、得られる利益も殆ど無いからだ。
「つまる所、君も活動するのなら夜中よりも今は視界も確保出来る昼間が一番妥当だ。だが、もう時間も押している。個人差だってあるかもしれないし、調べるとしてもそれぞれが独自に調べた方が良いかもしれない」
「……まぁ、確かにそうだけど」
「不便だな。未成年者……より厳密には18歳以上だったか? そのぐらいであれば夜間ある程度外出していても問題は無いと言うらしいが、中学生にはどだい難しい話だ」
「む~……」
流石に法律が絡んで来ると、子供の正義感でどうとかなる問題ではなくなってしまう。
既にギリギリだが18歳以上となっている雑賀や苦郎ならばどうともなったかもしれないが、まだ十歳前半な好夢では法律に引っ掛かっておまわりさんのお世話になってしまう可能性が濃厚だ。
「……仕方無いのかなぁ」
「流石に中学生の身分だと、非常事態でもない限りは難しいと思うぞ。夜間外出禁止令なんて、聞いた話では一部の外国ぐらいしか無い物だと聞いたが……両親達の心情だって尊重するとな」
「……まぁ、ありがと。珍しく良い話が聞けたよ」
そう言って好夢は叉美から離れるように歩き始める。
叉美もそれを追うような事はせず、自分で定めた進路を歩き出す。
大人しく自宅へと戻り行く途中、今更ながら好夢は一つの可能性を導き出した。
(……雑賀にぃ、もしかして……)
◆ ◆ ◆ ◆
時は経ち、時刻は午後の七時を回っていた。
夕食を終えて、思考を練り終えて、親に『少しだけ』外出する事を告げて。
街灯と車の照明などが闇を照らす夜の街を、高校生・牙絡雑賀は自転車に乗って駆ける。
(……そりゃあ、よりにもよって好夢ちゃんを巻き込むわけにはいかないしな)
多分、自分が何らかの行動に踏み切る事を知れば、あの女の子はこちらが駄目だと言っても協力しようとしただろう。
だからでこそ、あえて『行動に出ない』という言葉とそれを信じさせるための演技が、信憑性のある情報と共に必要となった。
こんな未知だらけで危険性の度合いすら測りきれない用事に、まだ中学生の女の子を漫画やアニメのように巻き込むわけにはいかなかったから。
「……夏でもやっぱり夜中は風が冷たいなぁ」
怖くないと言えば嘘になる。
あえて目を瞑るという道もあっただろう。
この一回を経験して、もう二度と『何か』を引き返す事は出来なくなるかもしれないけど。
それでも、もういい加減に怖がり震えて何もしないのは嫌だった。
・・・・・・ ・・・ ・・・・・・
そんな現実を、現状を、変えたかった。
今はまだ『この世界』に居る別の友達や知り合いも巻き込まれてしまうかもしれないのなら、尚更だった。
(……あの女は、水ノ龍高校か『別の場所』に司弩蒼矢って奴が居るって言っていた)
いつの間にか、何かが理解出来るようになっていた。
本当に些細で、本当に微弱な風にしか感じられないが、確かな『違和感』を。
それが有る場所に向かうという思考を浮かべただけで、明確な危険性を脳は訴えてくる。
その上で、宣言するように、言った。
「……行くぜ、牙絡雑賀。世の中で最も単純な理由を持って、未知の領域に」
そんなわけで、縁芽好夢がかわいかったり縁芽好夢はかわいかったり縁芽好夢がかわいかったりした最新話でしたが……いかがだったでしょうか? あぁはい冗談です。結局のところ、最後はこの『第二章』のメインを担う牙絡雑賀が持っていった話でしたね。
ようやく次回からは明確に戦闘か何かのイベントに雑賀を『巻き込めそう』で嬉しいような遅さで悲しいような、複雑な気分です。戦闘回をずっと(Pixivでのコラボ企画ぐらいでしか)書けていないから禁断症状的なアレががが。
……さて、ちゃっかり最後の方で雑賀もちょっとだけ『特別性』の片鱗を覗かせていましたが、まだアレは少しもこの作品の特徴を伝えられていないので、次の話を書くのが今からわくわくしております。
……あ、関係無い話になりますが、自分は『成りたい』デジモンをランキング順で並べていくとこうなってます。
① ギルモン
② ブイモン(ブイドラモンルート)
③ ゴブリモン
④ ハックモン
⑤ ゴマモン
……どうしてゴブリモンにゴマモンが居るの? って質問が来そうですが、アレです。タイタモンとかヴァイクモンとか、あの辺りのデジモンの設定って好きなんですよね。前者も後者も、独自の社会を展開してた気がしますし。
あ、でも思えば殆どドラゴン系で埋まってますね。こいつと来たら←
では、次回もお楽しみに。
……とあるお方の小説に感想を書きに行きたいのに時間が取れない&感想の構想が終わらない(話が多すぎて)……Pixivでも大抵の小説には2000字か1000字ぐらいで感想書いてる悪い癖ががが……。