DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
正直に言うと今回の話に関して前書きで述べられる事は特にありませんが、強いて言うなら『ゼノブレイドクロス』というゲームを購入してそれが大分面白くてハマってしまっていたというか、アレこそ『大自然』というか。獣系もドラゴン系も大好きな自分としてはドツボにハマったゲームでやめられそうにありません。
何と言うか、シンプルですが『生き抜く』というキーワードはデジモンにも少なからず浅からず関係があるので、とても心に来るものがあるのですよね。やってるだけでまたゼヴォリューションを見たくなる不思議。ニコニコの方ではアドベンチャーの配信がありましたがね。
では、無駄話はこのぐらいにして、本編をどうぞ。
「……ふ~ん」
『タウン・オブ・ドリーム』での対話を終えてから早四時間過ぎな頃、サツマイモカラーな衣服の女は街の中の何処かで、誰に対してでもなく一人で呟いていた。
いや、正確に言えば、その場に対象の相手の姿が無いというだけで、女は明確に個人の顔を浮かべながら呟いている。
「まぁ、トリガーそのものは単純な物だから。あの意気込みが偽りでないのなら、脳に宿りし『力』は起動する。問題は、それを何処まで発揮し切れるかという点だが……やれやれ、少年漫画では無いが、正義感を持った人間はこういう場面になると不思議な程に力を発揮しようとしてくれるなぁ」
別に、彼女自身は頭に浮かべた人物について特別な感情を抱いているわけでも無い。
ただ単に、彼女は自身の知的好奇心に従って感情を処理し、思うがままに言葉に出しているだけ。
人間は、自身の心に宿る欲望を叶えるため最適化された思考の中でこそ輝き、知的生命体としての格を上げていく。
その中には当然彼女も、そして『彼等』も含まれているわけで。
「……で、こんな夜中にあなたレベルの人が私に何か用ですか?」
彼女の眼前には、周囲の暗さの関係もあってか顔の部分がよく見えない状態ではあるが、それ以上に夏場ではある意味一番目立ちそうな上半身から下半身までを覆い尽す青色の厚めなコートを羽織った男が立っていた。
一日前――即ち七月十二日に紅炎勇輝と接触した男であり、同時に彼女が(一応)属している『組織』の中でも高い位に立っている人物だ。
「『確認』をしに来ただけだ。牙絡雑賀の傾向はどうだった?」
問われると、一つ溜め息を吐いてから女は適当交えに答える。
「ん~、別にアイツって『組織』の掲げる『計画』に必要不可欠ってほどの存在じゃない脇役って話だったでしょう? 何でそこまで気にかけているのかは知りませんが、正直な話どっちに転ぶかは『まだ』分かりませんよ。。私としては正直な所、友人助けるためにって面目で『組織』に入って裏世界にびっとり~みたいな感じでも面白そうで良かったんですが」
「……そうか。それぞれの宿す力は『光』と『闇』のどっちに転ぶかで大きく『
「なるほど。まぁ、牙絡雑賀にも大袈裟に説明しましたけど、結局この『力』も脳みそを軸にしてるから、食事や睡眠は必要不可欠なんですよねぇ。特に食事の方だと摂取すべきなのは糖分とか糖分とか糖分とか」
「……だからといってケーキをドカ食いするとかジュースをガブ飲みするとかはお勧めしないがな。下手すると血液がドロドロになって洒落にならん事になるぞ。いくら『力』を持っていても、自分の体が列記とした人間であるという事を無かった事にしていないか」
「あ~、食事の方にはちゃんと動物性脂肪とか少なめにしてるから大丈夫ですって。毎日食べまくってるってわけじゃないんですし、代わりに植物性脂肪なら多めにしてますから」
「……今時の女子供の価値観は分からんな」
そこで行われている会話には、どう考えても『一般の常識』からかけ離れた内容が含まれていながらも、まるで緊張感も殆ど無い世間話レベルの雰囲気しか無い。
いや、むしろこの普通とは掛け離れた会話の内容にこそ、彼等が『普通とは違う』事の証明となっているのか。
「そういや、噂の
「野獣というよりは野鳥と言ってあげろ。確かにあの笑みは私から見てもやり過ぎには思えるが、貢献度ではきっちり実績を残しているんだ。例え普段から半裸だったりして変態っぽく見えているとしても、あまり酷い事を言ってやらないでくれ」
「……っつーか、いくら『組織』が個人個人の意志を第一にしてるからって、好き放題やらせすぎじゃないです? あの野蛮度レベル上限値の男を放し飼いにしてて、不要な血とかが流れてたらそれはそれでまずいと思うんですが」
「その辺りに関しては大丈夫だ。奴はむしろ『そういうもの』を嫌っているから、下手に人間を殺す事が無い。それでいて行動力が『組織』の中でも秀でているからでこそ、あの役割を担っているという事を知らなかったのか?」
「知ってますよ。でもそれって、死ぬレベルじゃなければいくらでも傷付けるっていう意味じゃないんです? 下手するとそっちの方がゲス度合いは強いですよ」
「………………大丈夫、だろう。仮にそうなった時のために私が上に立っているとも取れる」
「現在進行形で動向を知らないじゃないですか……」
呆れたように声を漏らすサツマイモカラー衣服な女と、表情こそ見えづらいが困ったように顔を少しだけ逸らそうとする青コートの男。
もしこの会話を見れる第三者の存在がいれば、容姿はともかく一人の少女に軽く論されそうになる男の図はそれなりにシュールに見えたかもしれない。
世の中、対等な立ち位置で話をしてみなければ分からない事もあるのだろう。
会話は世間話から、本筋へと入っていく。
「まぁあの野郎の事は置いといて、司弩蒼矢くんの方はどうなってます? 確か、昼明け頃に病院から『力』を使う事で
「……その点に関しては、彼自身が司弩蒼矢を見つけられた上でどんな行動に出るかに掛かっているがな。更に言えば、見つけられたとしてそこで彼が『目覚め』なければ一方的に殺されるだけで、ある意味何の収穫も無い事になる。何の問題も無いと言えば嘘になるな」
「そのぐらいの問題なら許容範囲です。そもそも何の苦難も無く『力』を手に入れるなんて、むしろそっちの方が『非現実的』ですよ。イレギュラーというか何と言うか、理に叶っていない。スポーツ選手が『普通とは違う』だけの量の鍛錬を自分で積み重ねた結果、何もしていないだけの人間よりも強い肉体を手に入れる。それと同じで、死に物狂いで手に入れた『力』によって未来を掴み取るみたいな話、私は大好きですからね。いやホント」
「…………」
女の言葉を聞いた青コートの男は、呆れたように僅かだが息を吐く。
言葉自体は確かに正しいし、聴いてみれば彼女の奥底にあるものが暖かいものに思えるだろう。
だが、男は理解した上でこう言った。
「……その言葉が、単純な善悪から出たものならば良心的と言えるかもしれんが、君の場合は違うだろう。年相応に持つ純粋な知的好奇心。
「またまた大袈裟な。最低限人死にが出ないようには気を配ってますし、形式上では『組織』の思惑に沿っているでしょう。思いっきり私欲を交えている事は否定しませんが、私情も交えられない人間は『人間』ではありませんしね」
「…………」
「それとも」
そこで、サツマイモカラーの衣服な女は、一度言葉を区切った。
続く言葉は、親に向かって食事のメニューを問うかのように向けられる。
「今ここで、敵でも味方でも無い『私』を殺してみます?」
「…………いや、遠慮しておこう。殺し合いでなくとも君を相手取るのは少々骨が折れそうだ。殺そうとも痛めつけようとも思わないしな」
「残念。少しわくわくしてたんですがね」
両者の合間に流れる空気は、冷徹性などの意味を含むかのように冷たいわけでもない。
だがもしこの場で『戦闘』に発展した場合、どれだけの変化がこの場に訪れてしまうのか。
そして何より、どちらがどれだけの損傷を負ってしまい、場合によっては命を落としてしまうのか。
それを理解する事が出来る人物は、この場にこの二人しか居ない。
「『子供」だな。相変わらず」
「ええ、未成年ですから」
「やれやれ。君のような人間の席は、何年経っても確保されていそうだな」
「まぁともかく、野暮ったく横槍を入れたりなんてせず期待してましょうよ。あの二人……というより二匹と換算した方がいいんでしょうか? まぁ尊重して二人って事にしますが、どんな展開を作り上げてくれるのかをね」
◆ ◆ ◆ ◆
そして牙絡雑賀は『違和感』を辿って街を自転車で駆けている内、ある一つの場所へと目を向けていた。
「……どうして、なんて疑問を挿んでても仕方無いんだろうなぁ」
その名も、
確か、夏場という絶好の売り込み時期にテレビのCMで宣伝されていた、
売りに出していたのは東洋竜や北欧神話とかに出てくる
尤も、製作こそ終わっていると公式で発表されてはいるが、同時に開業時期は七月の下旬ぐらい――つまりは今から一週間近く後となっており、本来であれば従業員の人達ぐらいしか入る事は無いはずなのだ。
雑賀は近場にあったコンビニ
(……夜間には作業していないのか。既にアトラクションの微調整は組み終わっているからなのか、あるいは早朝から夕方ぐらいまでが作業時間に設定されているのか……? どっちにしろ、こっちには好都合だな。『違和感』がここの内部から感じられるって事は、入るしかないわけだし……あんまり警察沙汰とかにはなりたくないし)
防犯カメラが設置されているかどうかという点が疑問になるが、大抵設置されている場所には『そういう事』を意味する張り紙やら記述がそもそも犯罪を『させない』ため成されているので、恐らく無いだろうと推測出来る。
大量の水を取り扱う場で、安易にそういった機械を剥き出しの状態で設置出来るかという問題だってある。
プールの水を効率良く管理する機材や、非常時の警報だったりイベントのお知らせに使われる
よって、従業員が居ない時間帯であれば勝手に侵入した所で発見される可能性は案外薄い。
雑賀は念のために持参しておいた黒色の帽子を被った後、
開業時までに時間差での水質を検査しておくためなのか、当たり前のようにプールには薬品の臭いが混じった水が満杯状態となっていた。
(『違和感』を感じるのは…………あそこか?)
まるで、微かな物音や妙な臭いに惹きつけられるように一方向へ歩き出す雑賀。
一見すればそこには何も無いように見えるが、彼は夜の闇と水の透明感に紛れるように潜む『何か』の存在を感じ取れてしまっていた。
不思議と夜の風が含む冷たさは更に濃くなっているように思え、それが今の雑賀にとっては逆に『違和感』の発生源の位置を教えてもらっているようなものだった。
尤も、いくら『違和感』を感じられているとしても、視認出来る範囲に誰かが『視えている』わけでは無い。
あくまでも、それ等の情報は砂場の足跡レベルの影響しか与えていないので、実際に発見するまではこの施設に何が居るのかすら分からないのだ。
(事前情報だと『司弩蒼矢』って奴が事件を起こしそうなんだよな。『違和感』を発生させているのが仮にそいつだった場合、ここに居るのは間違い無くそいつって事になるが……どうしてこんな場所に?)
そして当然ではあるが、牙絡雑賀はサツマイモカラーな衣服の女から告げられた人物の事を何も知らない。
事前情報としてはまず四肢の半分を失っていて、病院にて入院中だったというらしいが……現実問題、四肢の半分と言ったら『両腕』か『両足』のどちらかが無くなっているとすら言える数である。
仮に『両腕』を失っている場合、足を使う事で走る事ぐらいは何とか出来るかもしれないが、転倒してしまった時に支えとなる物も無いと身動きさえマトモに取れなくなるし、根本的にそんな状態の人間を黙って見逃す人間がどれだけ居るのかも不明だ。
仮に『両足』を失っている場合、貸し出された車椅子などを使えれば移動は出来るかもしれないが、そもそもそれを使って誰にもバレずに病院の中を出る事は出来ないだろう。
もう一つの可能性としては、右か左の腕と足が一本ずつ失われているというものだが……。
(……どっちにしろ、普通ならそんな状態で病院の中を脱出するなんてどだい無理な話だ。だとするとあの女が言っていた『普通の人間には出来ない事』ってヤツが絡んで来るか。義手や義足でも生成する機能、もしくはテレポート……ぐらいは最低でも無いとマトモに移動も出来ないし……更に言えば、それと同時に『普通の人間には確認も出来ない状態』であるのも脱出可能な条件に入る……)
そもそも、何故まだ開業もしていないウォーターパークに来る必要があるのか。
四肢の半分を失っているのなら、普通に水を掻いて泳ぐ事だってまま成らないはずなのに。
それとも、それ自体が目的なのか。あるいは、そもそも目的も何も無くウロウロしているだけなのか。
(…………溺死で自殺目的なんてわけは無いだろうけど、開業もされていないウォーターパークなんて襲ったとしても手に入る金なんて微々たるもんだろう。目的は絶対に金じゃない。こんな人の気も無い時間に出没したとしても誰かを殺したり出来るわけでも無いから、殺人が目的ってわけとも思えない。だとすると……でも、そんな程度の理由でそこまでするもんなのか……?)
疑問が推理を生み、推理が疑問を生む。
結局最終的には納得も出来ず、答えなど出なかったのだが。
(……どの道『本人』に聞けばいい話なんだろうけど、いったい何処に居やがるんだ……?)
何がなんでも見つけて、もし体の状態が『言われた通り』なのであれば、病院に送り返さなければ。
そう、心に決めた時だった。
唐突に。
広いプールの一ヶ所が、大きな水の柱を立てた。
……柱と例えているのも、あるいはおかしいのかもしれない。
だが実際、まるで高所から巨大な岩でも落としでもしたかの如き大きな水柱が、吹き上がったのだ。
「…………」
最初、雑賀にはその原因が何なのか、正確に判断する事は出来なかった。
ただ、視界から外していたプールの方から水の弾かれる音が響いただけだったので、てっきり自分とは違う『誰か』がプールで泳いでいたのかと考えてしまったのだ。
そして、その考えは直ぐに間違いだった事を認識するのに僅かだが数秒は掛かった。
よくよく考えてみれば、もし『誰か』が泳いでいたのだとしたら体の動きで水が掻き上げられたりする際の音で、よほど遠く離れてでもしない限り姿が見えていなくとも気付けたはずである。
だが、この施設に来てからどの程度の時間が過ぎたのだろうか。
軽く二分か三分は経過しているはずだが、そんな時間をずっとプールの中に潜っていたのか。
普通に考えても、それは不自然すぎる。
酸素ボンぺ付きのゴーグルでも装備しているのであれば話は別だが……水柱が吹き上がった所から現れた『それ』のに目を向けた瞬間、雑賀はこの世で『普通に生きていたら』絶対に見られないであろうモノを目撃してしまった。
「……な、ん……」
それは、まず体の色の時点で人間らしい小麦色では無く青緑色な上に、肌そのものも人間のそれとは大きく異なり東洋竜のそれに似た鱗が全身にの表皮として張り巡らされていて。
下半身に歩いたり走ったりするのに使われる『足』のシルエットは無く、代わりに有るのは魚と蛇の面影を同時に想起させるような、先端に赤色の葉っぱに似た
左手の指の間には水を効率良く掻くための膜が、首の下の部分から下半身の尾にかけては文字通りな蛇腹が生じており、顔の部分は人間の骨格のままだったが兜のように黄色の外殻に覆われていて。
極め付けに何よりも異質だったのが、恐らくは右手『だった』と思われる部位――まるで生き物か何かのように生えている腕――否、鋭利な牙を有し人の頭ぐらいなら丸呑み出来そうなほどに大きく裂けた口を伴った、瞳の無い『蛇』があった。
……どれもこれもが『人間』と言うにはあまりにも掛け離れ過ぎていて、ある程度の面影こそ残っていても人としての知性や理性を持っているのかさえも怪しい容姿だった。
「――――――」
視線が交差した。
雑賀とその『怪物』の距離は軽く10メートル以上は離れていて、もし『怪物』がその右腕として生やしている『蛇』で雑賀を捕食しようとしたとしても、当然届きはしない。
だから、雑賀は最初、無雑作に『怪物』が右腕の『蛇』を自分に向けてきても大丈夫だと思えた。
そして、その安堵は直ぐに打ち砕かれる。
右腕の『蛇』の口から何かが吐き出され、瞬時に凍り付いた水を矢のように高速で射出されるという形で。
「なっ」
吹き矢の如き速度で放たれたそれに反応し、体を横方向に思い切り投げ出し避ける事が出来たのは偶然だった。
ふと着弾地点をチラリと見てみれば、先ほどまで雑賀が立っていた場所の更に後方の地面に氷の矢が突き刺さり、プールサイドの地面を軽く削り取っていた。
射線から考えても、もし完全に避けられていなければ雑賀の四肢の内のどれかが抉り取られていただろう。
それほどの攻撃力を向けられた事を自覚した雑賀の背筋に、氷とは違う冷たい何かが駆け巡る。
(……いやいやいや、何だよアレ。まさかアレが、あの怪物が女の言っていた『司弩蒼矢』か!? 昭和の特撮番組に怪人役で出演してても違和感の無いレベルの異形だぞあんなの……!!)
視界を通して知った事実に驚く雑賀だったが、襲い掛かって来る怪物は雑賀の事情など知った事では無いらしい。
次に怪物は『蛇』の口にプールの水を大量に含ませると、それを内部で何らかの処理を行った後に高圧で噴射して来たのだ。
それも、直線状に放つのでは無く、容易に避けさせないため左から右にかけて薙ぎ払う形で。
ヤバイ、と危機感が思考を埋めた時にはもう遅く、まるで極太に肥大化させた鞭と化した水流で打ち付けられた雑賀の体は驚くほどに軽く吹き飛ばされ、その威力は背中がプールサイドの地面に着いてから更に二転三転転がった末に、ようやく納まった。
「ぐ……げはっ……!!」
体を起き上がらせようとしただけで腹と背中が痛みを発し、胸の奥から吐き気がせり上がる。
幸いにも骨が折れているわけでは無さそうだが、もしも今の一撃を直線状で放たれて、それに直撃してしまった時はこの程度で済まなかっただろう。
尤も、『この程度』でも大分体力を削られているのだが。
明らかに、対人間を想定した上での攻撃では無く、同じ『怪物』相手を想定した攻撃なのだから当然だった。
纏っている衣服が、多分に水を吸い込んでだぶだぶになっている所為か異様に窮屈に感じられる。
(……ちく、しょう……)
獲物の動きが鈍った事を確認したからなのか、水上に浮かび上がっていた『怪物』はゆっくりと近付いて来る。
何をするつもりなのか、想像こそしてもロクな結末が思い付かなかった。
ふと、脳裏に少し前まで仲良く遊んでいた友人の姿が過ぎる。
(……アイツも、こんな風な暴力に打ちのめされたってのか)
考えただけで『犯人』の悪意に対する恐怖を覚え、恐怖の次に理不尽に対する怒りが湧き上がり、怒りは不条理な現実に対する反抗心を生み、反抗心は未熟さを介して正義感へと変わり、正義感は強大な敵に立ち向かう意思を生み出す。
今更自分が何をしたって、既に過ぎ去った悲劇は何も変えられないけれど。
それは、今も進行している惨劇や悲劇を見逃す理由になんてなりはしない。
(……やってやる)
だから、抗う。
例え無様でも、負け犬の遠吠えでも。
下らない人情だと言われても、それを誇る自分に胸を張って。
頭の中に潜むモノが何なのかは、いつの間にか理解出来るようになっていた。
(……あの野郎の姿を見るに、要は自分の脳に宿ってるデジモンのデータを介して、自分自身のDNAか何かを『
負け犬の遠吠えでは無く、勝つための牙を。
どんな悲劇が起きようとしても、駆けつけられる速さを。
「……絶対にお前も、元の居場所に戻してやる」
そのためにも、変わる。
自分自身を、丸ごと書き換える。
頭のスイッチを切り替えるように、宣言する。
「――――
まず、昆虫が幼虫から成虫へと変ずる際に生じさせる物に似た青色の繭が生じ、その内部を0と1の電子情報が胎内の羊水のように埋め尽くし。
そして、脳に宿った情報を原型とした肉体の『変換』が始まった。
全身の毛穴から青と白と銀の色を伴った毛が吹き出され、それは肩口などの部位にて鋭利な刃の形を成しながらも、外敵から身を護るための強靭な毛皮を成し、纏っていた衣服はズボンの大部分をズタボロに残しながらもそれと同化していく。
腰元からは細く先の方が二つに分かれた毛皮と同じ色の尻尾が生え、両足は人間がまずやらない獣の歩行方法に適する形に骨格を変化させていく。
両手は人間としての面影を強く残しながらも指に鋭く紫色の爪を生じさせ、筋肉も前足としての役割も同時に担うためか人間のそれより強く逞しく変化していく。
そして顔の部分は、正しく『狼』――誇り高さを現す孤高なる獣の象徴を成し、黒ずんだ鼻に肉を裂く牙を伴った口の部分は獣らしく前に突き出た物へと変化し、瞳は黄の色を宿す。
それは『別の世界』において他者から恐れられた、極寒の地に住まう獣のデジモンとよく似た姿。
窮屈な繭を内部から爪を用いて引き裂き、彼――牙絡雑賀はその姿を現す。
「うおおおおおおおおおおおお~っ!!」
現実においてどの程度の時間が経過したのかは分からないが、目の前の相手から介入されることは無かったらしい。
故に、牙絡雑賀は戦う意思を持った目を向けて、こう言った。
「――行くぜ。お前が『シードラモン』の力で俺を屠るつもりなら、俺はこの『ガルルモン』の力で思いっきり抗ってやる!!」
連載およそ一年と半年過ぎでようやくタグとして使っていた『デジモン化』の伏線の二つ目を回収出来た……ッ!! というわけでおまたせの最新話です。
見ての通り、今回は裏側の暗躍っぷりを(文字数稼ぎも兼ねて←)合間に挿んだ後、即刻この『第二章』の主人公こと牙絡雑賀が戦闘に移るお話となっております。
……肝心の『戦闘』が一方的だろって思うかもしれませんが、これは正直仕方無いと思ってます。だって、ただの人間がデジモンの力を得た相手に向かって殴りに行くなんて普通無理ですし…………デジモンに殴りかかる……兄貴……うっ、頭が……。
そんなこんなで初公開の設定というか異能こと『情報変換《データシフト》』。
脳内のデジモンのデータを原型とし、自身のDNAとか身体構成情報を『書き換え』る事で進化――というよりは変身する能力という感じですが、いかがでしょうか? 割と独自な設定なので、これに関してはかなり綿密に設定を組んでおりました。
何しろ、パートナーと力を合わせて――が当たり前なデジモンの世界感において、パートナーの存在全否定っぽい設定ですからね。気をつける必要がありました。
と、気をつけるべき場面でありながら割と重要だった『情報変換』時の衣服がどうなっているかという事に関する描写を忘れていたので加筆修正致しました。ファンタジーとかに出てくるオオカミ男とかって大概変身とかする際に体が発達膨張するからなのか、大概下着だけか全裸な状態で登場してますよね。自分としては後者の方が野生っぽくて好きですが(ぇ~)。
さて、今回のお話を読んでくださったお方ならばもう知っての通り、牙絡雑賀に宿るデータは『ガルルモン』……本元主人公の紅炎勇輝が成長期の『ギルモン』である一方でこっちは最初から成熟期かよっていう突っ込みがあるかもしれませんが、これについてはまだ理由を述べるわけにはいきません。あしからず。
今になって思うと『第一章』のラストバトルにガルルモンの黒バージョンを出したのは失敗だったかなぁと思う所もありましたが、こちらは『人間』の特徴を受け継いだ別パターンみたいなもの(ケルベロモンの人狼モードに近いかも)なので、全く違うものだと認識してもらえれば嬉しいです。
一方で今回の相手こと司弩蒼矢に宿るデータは『シードラモン』。実を言えばこの対戦カードは狙っていたわけでもなく、ただ『これからどんな風に活躍するのか』を考慮した上でドラモン系統のデジモンの力を得たキャラを出したくて、次にこの話の開始時が夏場という『水泳』ムードな季節だったからというのが大きな理由でした。『情報変換』時の怪物的な姿は構想するのが非情に楽しかったです。片腕が怪物の顔で射撃に使える武器っていう部分に関しては『流星のロックマン』を少しオマージュしました。アレかっこいいですよね。シードラバスター!!(違う)。
さてさて、偶然にもアドベンチャー3話と同じ対戦カードとなってしまいましたが、どちらが勝つのやら。
では、ようやく本番が開始した『デジモンに成った人間の物語』。
『情報変換』の設定を公開出来たおかげでPixivの『企画』の方でも面白い事が出来そうです。
かなり『デジモン』という作品を考えると異色な力を用いての戦闘を書く事になりますが、元々そうするつもりで書いてきたので頑張っていきたいと思います。
また次回、感想や質問や指摘などをお待ちしつつも、お楽しみに。
……この設定はデジモンの『擬人化』というよりは人間の『擬デジモン化』ってニュアンスで考えると分かりやすいかも。