DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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 私は、八月一日に!! 何の小説も!! 更新出来ませんでしたァァァァ!!(心臓捧げよ)

 はい、そんなわけで更新ペースとしてはかなり早いですがデジモンファンとしてはむぐぐな日の更新です。住んでる地域的にもデジモンのフェスには当然行けませんでした。九州は無理ゲーやで……。

 さて、タイトルを見ての通りやっとこさ日時が変わります!! やったね好夢ちゃん、出番が増えるよ!!

 そんなこんなの最新話、始ります。


七月十四日――『暗い密室で囁かれる事実』

 声だけが聞こえていた。

 

 聞き覚えなんて無いはずなのに、それは何処か身近にさえ感じられる声だった。

 

 それが幻聴に過ぎない『夢』なのか、過去に体験したかもしれない『現実』なのかさえ判断出来ないまま、ただそれは響いていく。

 

 それは、息も絶え絶えしい唸り声と、溜め息混じりな呆れた声の、言い争い。

 

(はぁ……ぜぇ…………っ!!)

 

(……ったく、だから言っただろうが。いくら俺達みたいなのが嫌いだからって、相対する相手との『差』ぐらいは認識しとけ。そんな風に振る舞い続けるんなら命がいくらあっても足りねぇぞ)

 

(……うる、せぇ……っ!! 正義だの悪だの、そんな大義名分を掲げた奴の手で死んだ奴を、俺は何匹も見てきた……『アイツ』だって、本当だったら幸せに生きる権利ぐらいあったはずなんだ!! なのに……ッ!!)

 

(お前の言う『アイツ』が誰の事を指してるのかは知らんが……お前、天使とかに忌み嫌われる奴を同じように嫌ってる『種族』なんじゃないのか? そいつがどうなろうと、知った事じゃないってのが本音じゃねぇのか)

 

(……ハッ、種族の特徴? そんなモンは先に生まれた連中が勝手に付け加えた第一印象(レッテル)に過ぎねぇだろう。そんなモンに合わせる義理も理由もねぇ……)

 

(が、お前は現に『後悔』してんだろ。お前が本当に憎んでるのは『加害者』の方じゃねぇ。他でもない自分自身だろうに……)

 

(……お前に何が分かるってんだ。こんな世界で生きていく以上、どんな手段を用いてでも生き残ろうとするのはおかしいのか? 騙されるぐらいなら騙して、何でも利用出来るものなら利用して……そうでもしないと生き残れない弱者にどうしろと?)

 

(出たよ、負け犬特有の言い訳。自分の境遇に悲観して行いを正当化すんなよ。そもそも世の中における『弱者』ってのは、本当に能力だけで判定出来るモンだと思ってんのか? 言うとアレだが、今のお前より『強い』奴なら結構居ると思うぞ)

 

(…………っ…………赤の他人の分際で知った風な口を利きやがって。ああ解ってるよ。自分の弱さぐらい自覚してる!! いくら進化しても、根っこの部分で俺は何も変われてない……だから失ったって事も、何もかも!! だが、だったらお前には解るってのか。こんな俺に、この『負け犬』に、必要な物が何なのか!! それを理解した上で偉そうに語ってんのか!?)

 

(知るかよ、俺はお前じゃねぇんだ。自分の答えぐらい自分で見つけてみろ。他者の力を借りるのも勝手だが、何も信じられないのなら自分自身で探すしかねぇのが必然だろうに。いくら永く生きてるっつっても、そこまで俺は万能じゃない)

 

 その言葉に込められた意図も、その声を発している者が何者なのかも解らないまま。

 

 音だけが全てを表した夢は、呆気なく崩れ落ちる。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 視界が明滅していた。

 

 意識が朦朧とし、前後の記憶が把握出来なくなっていた。

 

「……ぅ……」

 

 目を開けても視界の明度が不安定で、牙絡雑賀は呻き声を上げる事しか出来なくなっていた。

 

 最初、彼に理解が出来たのは、自分が何か薄い布のような物に被せられた状態で横になっている事と、何より自分自身の体が鉛のように動かない――と言うより、金縛りにでも遭ったかのようにピクリとも動かす事が出来ない、そんなどうしようも無い事実。

 

 そもそも自分は何処に居て、何が原因でこうなったのか。

 

 そこまで雑賀は考えた時、あまり心地良さは感じられない清掃感を醸し出す消毒用のアルコールの匂いが鼻についた。

 

 いつの間にか纏っている衣服に関しても普段着ている寝間着とも違う感触で、強い違和感を感じられた。

 

 背中を預けている物からも少し硬い感触があり、それが自宅にあるベッドではなく、学校の保健室に置かれている物とほぼ同じパイプ構造のベッドである事を推測する事は鼻につく匂いからも推測する事は出来た。

 

 何より決定な物として、自分の口元には酸素供給用の機材(マスク)が。

 

 ……どうやら、病院に搬送されたらしい。

 

 現在時刻は分からないが、日の光が差し込んでいない所を見るに夜中なようだ。

 

 病院に勤めているはずの医者や看護婦の姿は首を頑張って動かしても見当たらず、室内には牙絡雑賀が独りだけ。

 

「…………」

 

 冷静に記憶のレールを辿ってみるも、現在の状況に至るまでの経緯が思い浮かばない。

 

 都内のウォーターパークにて『シードラモン』の力を行使していた司弩蒼矢との戦闘した後、フレースヴェルグと名乗る男と遭遇した後からの記憶を思い返そうとすると、何故かノイズ染みた物が頭の中を通り過ぎる。

 

 半ば強引にでも記憶を掘り起こそうと思考を練ってみた。

 

 確か、何か凄まじい風に吹き飛ばされたような――――

 

「…………ッ!!?」

 

 そこまで考えた所で、脳裏に過ぎる激痛の記憶と共に先の出来事が鮮明になっていく。

 

 そうだ、自分は確かフレースヴェルグという紅炎勇輝を連れ去りデジタルワールドに送ったらしい『組織』のメンバーらしく男と相対し、会話の中で思わず怒り、その感情のままに首を取ろうとして逆に返り撃ちに遭ったんだ……と、自分がやった事も自分の身に起こったことも勝手にフラッシュバックされ、事実を受け入れざるも得なくなる。

 

 その中でも一番驚いたのは、フレースヴェルグが行使した圧倒的な力、ではなく。

 

 相手が誰にしろ、『ただの』とは付かない相手だったのしろ、同じ『人間』を自分の手で殺めようとしていたという言い訳のしようも無い事実だった。

 

(……な、ん……)

 

 理解が出来なかった。

 

 自分が何をしようとしていたのかは理解出来ても、どうして『そこまで』やろうとしたのかが解らなかった。

 

 確かに、フレースヴェルグは悪党で、打倒するべき相手であるのは明白だった。

 

 だが、何も殺害しようとまでは思わなかった。

 

 そもそもフレースヴェルグは本当に退こうとしていたし、自分から攻撃する必要性など無かったはずだった。

 

 まるで、自分の意識が『別の何か』に切り替わったような……あるいは混ざり合ったかのような、これまで感じた事も無い異質な感覚だった。

 

(……司弩蒼矢が理性抜きで動いていたのと、同じ……なのか?)

 

 冷静になって異常さに気付けたものだが、実際のところ雑賀の意志はあの場面で殺害の方針へと向かっていた。

 

 それに違和感も覚えなかったし、実際にそれを実行しようともした。

 

 もしもあの時、本当にフレースヴェルグを殺せていたら……自分は、どうなっていたのだろう。

 

 考えたくは無いが、フレースヴェルグの言った通り、雑賀は二度と『元の居場所』に戻れなくなっていたのかもしれない。

 

 姿だけならまだしも、心の方まで怪物に成り果ててしまったら――もう、普通の人間と一緒には生きられない。

 

(……勇輝、お前は大丈夫なのか……)

 

 ふと思い返されるのは、自身がこうして事件に立ち向かう動機となってしまった友人の姿。

 

 先の『タウン・オブ・ドリーム』で対話した女の言葉が本当ならば、紅炎勇輝はデジタルワールドで『ギルモン』と呼ばれる種族のデジモンに成っている事になる。

 

 その種族の設定(プロフィール)は、ホビーミックスされた物でなら雑賀も知っている。

 

 だからでこそ、不安になった。

 

 司弩蒼矢のように理性を保てず怪物と成り果ててしまう可能性もあれば、自分のようにいつか誰かを殺してしまう可能性すらも否定が出来ない。

 

 比較しても、凶暴性の面では紅炎勇輝の成っているデジモンの方が圧倒的に上なのだ。

 

 もしも司弩蒼矢のようにデジモンの『特徴』を色濃く引き出してしまえば、どうなるか。

 

 何より、もしも紅炎勇輝が()()()()の世界に戻って来れたとしても、その心の方が既に人間のそれと異なる物になっていたら。

 

 彼は、本当に『元の居場所』に戻る事は出来るのか?

 

(……ちくしょう。踏んだり蹴ったりだ)

 

 手にした力の危険性を認識して、雑賀は思わず毒づいた。

 

(……だが、使いこなせないといけねえ。フレースヴェルグとかいう奴の言う通り、勇輝を助けるにしても事件を解決するにしてもこの『力』は必要なんだ。どんなに危険だろうと、戦いに赴くと決めた時点で覚悟なら決まってる……決めてねえといけないんだ)

 

 雑賀は自分の右手を動かそうとしてみたが、やはり金縛りに遭ったかのようにピクリとも動けない。

 

 ……そもそも、どうしてこうも体が動かせないのだろうか? という当たり前の疑問を今更ながら思い出すが、当然ながらその答えは推測の域を出ない。

 

 ここが病院であるのは間違いないのだが、だとすれば全身麻酔でも投与されているのだろか。

 

 全身大出血レベルの大怪我を負っていたのであれば、安易に麻酔を使うと危険性も増すのだが……そもそも感覚が無いのでどの部分が怪我をしているのか、それさえも解らない。

 

「……ったく、何なんだ本当に……」

 

 幸いにも首周りは動かせるので声も出せたのだが、話相手になれるような者はいない、

 

 

 

 ()()()()()

 

 

 

「まぁ、下手にあの鳥野郎に突っかかったお前も悪くはあるんだがな」

 

 声がした。

 

 夢の中の声ではなく、明らかに現実の、空気の振動から来る声が。

 

 より正確に言えば、雑賀が横になっているベッドの、すぐ傍から。

 

「…………!?」

 

 それがただの声なら、病院に勤めている医者が雑賀の視界の外に居たと考える事は出来たかもしれない。

 

 驚く必要など無く、ただ平常通りの反応をすればいいだけのはずだった。

 

 それでも、雑賀が驚かざるも得なかった理由は。

 

 それが、ここ最近()()()()()()()人物の声とそっくりであったからだった。

 

(……んな、馬鹿な事が……)

 

 信じられないように思いながらも、顔だけを声のした方へと向けると、そこに居たのは――――

 

 

 

「……()()……!?」

 

「……まぁ、初対面じゃねぇし解っちまうか」

 

 

 

 縁芽苦郎。

 

 まだ蒼矢と相対さえしていなかった時に自宅へとやってきた女の子――縁芽好夢の義理の兄であり、牙絡雑賀と同じ学校に通っていて、恐らく誰よりも事件という『面倒事』に首を突っ込もうとはしないと、雑賀自身考えていた青年の名だった。

 

 その容姿は白のカッターシャツに黒のズボン――ただ、それだけのシンプルな物。

 

 だが、その容姿から来る印象は、以前見た怠け癖の激しいものとは明らかに違う、全く『別人』にさえ見える物。

 

 その変化の大きさに戸惑いながらも、率直に雑賀は疑問を口にする。

 

「何でお前が此処に……? っていうか、こんな夜更けに何してんだ!?」

 

「おいおい。フレースヴェルグの野郎に吹き飛ばされて気絶し、更には大怪我まで負ったお前に救急車を呼んだのは俺だぞ……あと、俺が夜型な生活を営んでる事を知らなかったのか?」

 

 当然のように返された言葉にも疑問しか浮かばなかった。

 

 何故、縁芽苦郎は『組織』の一員らしいフレースヴェルグの名も、それと相対した雑賀が大怪我を負った事も、全て『知っている』のだ?

 

 夜型の生活を営んでいるなど、そのような発言以上の異常性が含まれているのは明らかだった。

 

 だから、様々な疑問を問う前に雑賀はこう切り出した。

 

「……お前はどこまで『知っている』んだ?」

 

「多分、お前よりはずっとな。だから、お前の疑問にはある程度答えを出せる」

 

 恐らくは、お見舞いに来た人物のために置かれているのであろう小さなパイプ椅子に、苦郎は腰掛けて。

 

「……それじゃ、大体お前の疑問は予測が付くから話すとするか――

 

 

 

 

 

 ――お前やフレースヴェルグ、そして()()含めた異能の持ち主……『デューマン』について」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 現在時刻、午前二時四十三分。

 

 もうとっくに『深夜』と呼べる時間へ突入した夜の街は静まり返り、人の気配も殆どしなくなっている。

 

 そんな夜の中、半裸にカットジーンズで黄色い瞳の男――フレースヴェルグは、とあるマンションの一室にて文字通り羽を休めていた。

 

 数時間――最低でも五時間近く前に『ガルルモン』の力を宿した牙絡雑賀を一蹴したその男は、何故か気だるい感じの声で言う。

 

「……あ~、キツかった。流石に夜勤も込みだと、このフレースヴェルグさんでも普通に疲れるんだっての……」

 

 彼の視線は、同じ一室に居る別の人物へと向けられている。

 

 上半身から下半身までを覆い隠せるほどの大きな青色のコートを着た、彼にとっては馴染みが薄くも無い人物。

 

 フレースヴェルグと同じく『組織』に属する一人であり、彼とはまた別のデジモンの力を宿している者。

 

「……まったく、何故勝手に牙絡雑賀と接触した? またいつもの衝動か?」

 

「いいじゃんかよ。俺が接触した所で何か問題起こるわけでもなし、それ以前に俺よりも先に『あの女』が接触して情報提供してる。今更俺の姿を見られたにしても問題はねぇだろ」

 

「……見られただけならまだいい。が、下手踏んで牙絡雑賀や司弩蒼矢を殺してしまったらどうするつもりだった? まさか『この程度で死ぬんならどの道必要無い』なんて言うつもりでは無いだろうな」

 

「まぁそういう本音もあるんだが、どっち道死なないようにはしたぞ。風力も手加減出来てたし、飛ばした方向には転落防止用のフェンスが取り付けられたビルだってあった。まぁ、見事にそれには引っ掛からなかったわけだが」

 

「『ただの人間』なら死んでもおかしくない高度と言っていいと思うがな。人間の頭蓋骨は数メートル程度の高度から落下しても砕けてしまう。いくらデジモンの力を宿していようが、脳をやられてしまえばどうしようも無いぞ」

 

「だからそこも考慮してたって。それに、アンタの言っている危険性は『頭から地面に落ちた場合』の話だ。腹か背中の方から落ちた場合は入らない」

 

「どっちにしても致命傷の可能性はあっただろうが。胸か背中の骨でも折れれば大惨事だぞ」

 

 溜め息混じりな声で話す青コートの男は、台所のガスコンロに火を付けて何らかの料理を作っていた。

 

 時刻から考えると何とも生活のリズムが噛み合っていないようにしか思えないが、わざわざ青コートの男がこのような時間に料理を作っているのには理由がある。

 

 フレースヴェルグが『腹減ったからメシを食わせろ~!!』と煩いのだ。

 

 そんなわけで、台所からは食欲を増し増しにさせる匂いが湧き出ている。

 

「まぁ、どっちにしろ大丈夫だって。救急車が二人のガキを搬送した所を確認してる。だから過ぎた事をいちいち愚痴みたいに言ってくんなよ~」

 

「………………」

 

「……あり? どしたんだアンタ。おい、ちょっと……ッ!?」

 

 結果論を語るフレースヴェルグに向けて、青コートの男は片手――正確にはコートの袖口を向けた。

 

 フレースヴェルグが言い訳を述べる前に、物理法則を無視してコートの袖口から蛇のように包帯が巻き付いて行く。

 

 数秒ほどで、室内には怪我をしているわけでも無いのに、全身包帯巻きでミイラみたいな姿になった元半裸の男が完成する。

 

 巻き付けた包帯に力を込め、フレースヴェルグの首を締め付けながら青コートの男が低い声を出す。

 

「……お前が楽しむのは勝手だが、その一方で俺の苦労を水増しさせるな。何度お前の所為で予定が狂いそうになったと思ってる? 『組織』の計画が頓挫したらどうしてくれるんだ」

 

「ぐ、ぐぇ……っ、首絞まる、首絞まるって……!!」

 

「締まっても構わん。というかお前は『組織』の方針から見ても、明らかに目立ち過ぎるし被害を与えすぎる。そもそも喧騒と争いを起こすのはお前ではなく『ラタトスク』の役割だろうが。本当に、どうして『組織』でお前のようなお調子者が監視役を担っている……?」

 

「ぐ、ぬぐぐっ……そ、それは俺が獲物を死角から見据える事が出来て、あまり目立たない動きも出来るから……だったような……」

 

「お前の元ネタは目立たない以前に『巨人』だろうが。そして『オニスモン』の体格も本来はかなりの物だ」

 

 そんなこんなでちょっと頭痛がした風に頭を押さえる青コートの男だったが、どうやら料理が完成したらしい。

 

 湯気が立ち上る鍋から食材と出汁を器に注いでいくと、リビングに設置されている木製のテーブルの上に置き、フレースヴェルグの拘束も解除した。

 

 くんくん、と反射的に匂いを嗅ぐフレースヴェルグは、率直に疑問を発した。

 

「……何作ったんだ?」

 

「肉の出汁が効いた鍋物」

 

「何でこのクソ熱い夏場に鍋物!? 氷でも入れて冷鍋(ひやなべ)にでもした方が絶対いいだろ!!」

 

「……逆に聞くが、どうして俺がお前のためにそんな気遣いをしなければならない? こんな時間に作ってやっただけでもありがたく思え」

 

「はぁ……まぁ熱い物を食うと逆に涼しさを強く感じられる、とか聞くしいいけどよ……ん?」

 

 ダルそうに体を起こし、割りと普通に椅子に座って料理の内容を見るフレースヴェルグだったが、そこで彼は怪訝そうな表情になった。

 

 再び、疑問にままに問う。

 

「……これ、何の肉を使ったんだ? ダンゴ状にした挽肉から作ったのは分かるが……」

 

 青コートの男は何も答えない。

 

 彼は仮眠でも取るつもりなのか、自室と思われる部屋へと歩み出した。

 

「……まぁいいか。豚か牛か知らないけど美味そうな匂いがするし、どっち道腹も空いてるから退く理由がねぇ」

 

 

 

 ……この時の彼は、思わず『それ』を考えないようにしていたからなのか、気付かなかった。

 

 青コートの男が製作した鍋の煮汁に使われている挽肉が、鶏の物である事を。

 

 そして、思いっきり共食いの構図になっている事も――――。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「……デューマン?」

 

 告げられたキーワードに怪訝そうな声を漏らす雑賀に対し、縁芽苦郎は言葉を紡いでいく。

 

「お前を含めた『異能の持ち主』の呼び方は色々ある。超能力者とか魔法使いとか、この辺りは一般的な例だな。お前やフレースヴェルグとかの場合、電脳世界の生命体――デジモンの力を行使するだろ? 一番使われている名前は、そこから文字った物だな」

 

「…………それは?」

 

「候補としては色々あったらしいが、最終的には漢字で『電脳力者(でんのうりょくしゃ)』と書いて『電脳力者(デューマン)』を呼ばれるようになった。語呂の良さもそうだが、一番単純で理解しやすかったんだろうな。デジモンの『デ』と人間の英語読みである『ヒューマン』を混ぜ込んだ、本当に単純な固有名詞だ」

 

 電脳力者(デューマン)

 

 それが牙絡雑賀や司弩蒼矢、そしてフレースヴェルグ等の『異能を宿した人間』の固有名称らしい。

 

「……それで、俺や蒼矢が使っていた『あの能力』は何なんだ? 俺は直球で『情報変換(データシフト)』って呼んでたけど……実際のところ、本当に司弩蒼矢が言っていた通り『自分自身を含めた身の回りの物質の情報を書き換える』能力なのか?」

 

「実際にはそこまで万能じゃないけどな。宿してるデジモンの属性や個性とか、そもそも『変換した後』の物質の情報を取り込んでいないと上手く作動はしない。俺は戦闘を見ていたわけじゃないから詳しく知らんが、司弩蒼矢って奴が宿してたデジモンの種族は知ってるか?」

 

「シードラモン」

 

「それなら多分、少なからず海……という『環境』の『原型情報(マターデータ)』が内包されたんだろうさ。アニメでの情報だが、デジタルワールドの陸上生物は『水の中では呼吸が出来ない』事を情報(データ)認識(はんだん)しているから濡れるし溺れちまう。だが、一方で『水の中では呼吸が出来ない』と認識(はんだん)出来ない機械とかは濡れも壊れもしなかっただろ」

 

「……一定の『環境』に順応出来るように、エラ呼吸の器官とかとは別に『水』の情報(データ)が組み込まれているから? だから、構造上『同じ情報(データ)』であるシードラモンとかは水で『溺れる』事が無いし、水を使った攻撃を使う事が出来たって事か」

 

「他のデジモンにも同じ事は言えるな。十闘士がそれぞれ宿す属性……『炎』『光』『風』『氷』『雷』『水』『土』『鋼』『水』『木』……そして『闇』。口から炎を出すとか、掌に光を纏わせるだとか、そういう事が出来る理由もそこにあるんだろうさ。そしてその過程には、多分デジモンが生息している『環境』の『原型情報(マターデータ)』が関わってる」

 

「シードラモンは基本『海』に生息するデジモン。だから『海水』のデータをある程度宿していて、それを介する事で『別の水』を『海水』に変換する能力を司弩蒼矢は使えたのか」

 

「まぁ、シードラモンって種族の特徴から考えても、本能の部分で『そうする事が出来る』って理解してたんだろうさ。電脳力者(デューマン)が何を何に変換出来るかなんて、結局は発想と確信による物が大きいし」

 

 まるで、というか確実に()()()()()()()情報として言葉を述べる苦郎の姿は、雑賀にとって何処か遠いようにも見えた。

 

 デジモンに関する知識も、多分に持っているようだ。

 

「……にしても、大丈夫なのか? こんなに普通に話してたら、誰かに聞こえちまうんじゃ……というか明らかにお前不法侵入じゃねぇか。何処から入って来た?」

 

「同じ理屈が数時間前のお前にも当てはまりそうなモンなんだが。まぁ、そこは大丈夫だ。『ただの人間』には覚醒した『電脳力者(デューマン)』の姿を捉える事は出来ないし」

 

「……どういう事だ?」

 

 思えば、前々から勃発している『消失(ロスト)』事件の実行者は一度たりとも姿を目撃されたことが無かったらしい。

 

 だが、現に牙絡雑賀はウォーターパークでの戦闘の後、フレースヴェルグと名乗る『組織』の一員を目撃している。

 

 同じ『電脳力者(デューマン)』に覚醒したから目撃出来たのかと雑賀は思ったが、そもそも縁芽苦郎は毎日家族に姿を見られているはずなのだ。

 

 そこには、間違い無く『別の理由』が存在する。

 

 そして、縁芽苦郎はその予想を一切裏切らなかった。

 

 暗い室内の中、雑賀どころか殆どの人間が知らないと思われる真実が更に告げられる。

 

 

 

「じゃ、お前の言う『情報変換(データシフト)』の疑問は後回しにして、次の話題に転換すっか……『デジタルフィールド』についてだ」

 

 

 





 ……というわけで最新話でしたが、いかがだったでしょうか?

 今回で遂に明らかになった……いやまぁ完全に明らかになったわけでは無いんですが、縁芽苦郎と『電脳力者《デューマン》』の存在。そして簡易的に『情報変換《データシフト》』に関する情報も書きなぐりましたね。

 苦郎が語ったのは『デジモンテイマーズ』の……32話あたりの展開を元にした説明です。デジタルワールドでは『水に溺れる』と認識していると溺れますが、一方で『水に溺れない』と認識していれば溺れない。なんかメタフィクションっぽい気もしますが、これも『デジモンがホビーミックスで認知されている』という世界観あってこその事かも。

 一方で前回強キャラ臭をプンプンさせたつもりのフレースヴェルグですが、まぁ、はい。悪党サイドだろうがギャグパートは入りますので、はい。構図見ると結構エグいですね、はい。

 まぁ、ただ闇雲にギャグパートを入れたわけでもないんですがね。構図で言えば『当たり前の日常』から離れようとしている少年達と、一方で『当たり前の日常』を過ごせている悪党達の差異って感じで(後者は『当たり前』と言えるかどうか……)。

 さて、ちゃっかり同じく異能の持ち主である事が発覚した縁芽苦郎ですが、皆さんにはどんなデジモンを宿しているのか予想出来ますでしょうか? 出来たらとりあえず握手しましょう(真顔)。

 では、また次回。

 『どうして姿も音も認識されていないのか?』という根本的な議題を突き詰めていきます。

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