DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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 割りと早めに更新出来ました。ワンピの二次の方を優先しようと思ったのですが、メモ帳に残っていた文面が結構あったので、それを元に書き進めていたら累計六時間以上ぐらいで書き終わりました。

 今回も前回に引き続きの情報開示回ですが、よくよく考えてみると『第一章』では推理回こそあれど戦闘回とかそっち方面の方が多かったですし、現実世界サイドでは『デジモンがホビーミックスで普及している』という事実を利用した情報の開示回もそれなりに多くする事で、差別化出来ればいいなと思ってます。戦闘回も絶対に入れますけどね!!

 さてさて、それでは物語が再び動き出そうとしている流れな本編をどうぞ~。


七月十四日――『悪魔の囁きは何を齎すのか』

 デジタルフィールド。

 

 その単語には、雑賀も『アニメ』で登場した設定としての理解があった。

 

「……確か、それアレだろ。『デジモンテイマーズ』で現実世界にデジモンが『実体化(リアライズ)』する際に生じる、個体によっては小規模な、濃霧の形をして生じる力場の事だろ? 外部からは内部の状況を観測する事は殆ど出来なくて、その位置はデジモンだけが感知出来るっていう……一方で、人間は『特別な情報端末(デジヴァイス)』を介さないと肉眼でしか捉える事が出来ないんだっけか? 全く視えないってわけじゃなかったよな」

 

「ああ。そっちではそうなってるな」

 

 苦郎は当然のようにそう返してから、

 

「それと似ているようで、ちょいと違うモンだ。連中が使っている名称だと『ARDS(アルディス)拡散能力場(かくさんのうりきば)』……ARDSはAnti(アンチ) real(リアル) digital(デジタル) shiht(シフト)の略だったか。そこは『ただの人間』には感知出来ず、仮に視界内に『本当は』存在していたとしても()()()()情報として処理、認識出来ない即席の場なんだ。仮に監視カメラを使ったとしても、そこに残っている映像に『怪しい人物』の姿は観測出来ない。別に古いテレビがザーザー鳴っているわけでもないのに、な」

 

「……それが、例の『消失』事件で明確な『犯人』の姿が観測されなかった理由……? そんな、犯罪者にとっては都合の良過ぎる情報隠蔽が可能なフィールドなんて……」

 

「おかしな話だろ? その中じゃ、仮に警察官が大勢でバリケードを張っていたとしても、そいつ等が『ただの人間』なら『犯人』は顔パスも何も無しに素通り出来るって寸法だ。ハッキリ言って、電脳力者(デューマン)絡みの事件じゃ警察なんてアテには出来んよ」

 

「………………マジかよ」

 

 言わんとしている事が、何となく理解出来た。

 

 死者の魂が向かう場所とされる天国に地獄や、似たように天使や神様が住まうとされている天界と、悪魔や魔王が住まうとされている『魔界』や『冥界』……そういった、名前だけは一般に浸透しているほどに知られていても『実在している光景』を見た事がある人間――正確に言えば、生きている人間はいない。

 

 そして、それと同じように。

 

 人間の目は赤外線や紫外線を見る事が出来ないし、耳で高周波や低周波を聞き取る事も出来ない。

 

 現実ではその強弱を専用の機械で測定し、天気予報という形で情報が世に広まってこそいるが、実際にそれを感知しているのは鉄と電子器具の詰め込まれた機械。

 

 宇宙へ飛び立つロケットで雲をブチ抜いても、天空に国が見えるわけでは無いように、仮に『異世界はある』と過程してみれば、人類がそれを見た事が無い理由が『高度』には無いことが解るのだ。

 

 つまり。

 

「……人間が、五感を介して『感じ取ることが出来ない領域』って事か。科学的に言えば赤外線を浴びた物質は熱を持つし、重力下のあらゆる物体は浮き上がるための力も足場も無ければ何処までも落ちる。それと同じで、人間の目や耳では感じ取れない『力』が何らかの膜を張った事で形成される特異なフィールドって事か……」

 

「ああ」

 

 あの時、雑賀は足しいかに何らかの『違和感』を感じ取っていた。

 

 どうして自分が気付けたのかという疑問に対しては、先のタウン・オブ・ドリームで遭遇した『組織』の女から聞いた『特別性』とやらが絡んでいると思って処理していたが、どうやら実際に『そういう』時条があったようだ。

 

 そして、そこまで考えれば、雑賀が感じ取った『違和感』の正体も明白になる。

 

 そう。

 

「……あの時感じた違和感そのものが、あのウォーターパークに発生していた力場(デジタルフィールド)だったわけか。だから、目や耳を使ったわけでも無いのに頭の方で感じ取れて、正確な位置さえも察知出来たんだな……」

 

「電能力者が『力』を行使した歳、本人の意志に関係無く発生されるわけだからな。俺は感知出来なかったが、お前には感知出来た。多分この辺りは宿ってるデジモンの五感ステータスが関係してるんだろうが、俺が感知出来たのはフレースヴェルグの野郎がお前をブッ飛ばした辺りだったな。要するに、奴が『オニスモン』の力を使った時。当然だがあそこでの出来事は『ただの人間』には誰にも知られなかったから、戦闘で発生した破壊痕の原因も突き止められないだろうな」

 

「……そうか……」

 

 ふざけた話だ、と雑賀は頭を押さえ付けたくなったが、金縛りの掛かった体は動く事も(まま)ならなかった。

 

 今でこそ誘拐事件で収まってこそ居るが、電脳力者(デューマン)は、法の番人たる警察の目の前ですら『何でも』出来るという事だ。

 

 人格によっては実行するであろう盗みも、冤罪の人為発生も、殺人さえも、笑顔のままに横行される。

 

 ……そんな事が毎日起きるような世界になってしまえば、もうおしまいだと言っていい。

 

 突然起きた出来事に混乱し、誰も彼も信用出来なくなる絵図が容易に想像出来てしまう。

 

 その不安を予想しきった上で、苦郎は言葉を紡いだ。

 

「まぁ、お前が危惧してる事は想像付くから先に言っておくが……『そうなる』事を望まない電脳力者だって居るのも事実だ。具体的に言えば、連中――あのフレースヴェルグって奴も入ってる組織に対抗するための枠組みって所か」

 

「……? アイツ等に対抗してる、別の電能力者がそんなにいるってのか?」

 

「中二っぽく言わせてもらうなら、光あらば闇あり、闇あらば光ありって所かね。あるいは、犯罪者に対する警備員か。ともかく、あの鳥野郎が属している組織に比べれば小規模だが、何も対抗してる勢力がいないわけじゃねぇって事だ」

 

 それを聞いた雑賀は、ほんの少しだけ安堵出来た。

 

 少なくとも、これから先たった一人で立ち向かわなければならないわけでは無いことが解ったからだ。

 

「……ちなみに、俺も俺なりの理由でその枠組みに入ってる。わざわざこんな時間に顔出しした理由の一つには、お前にもそれを伝えた上で選択してもらおうと思った事もあるのさ」

 

 雑賀自身、縁芽苦郎の人格を詳しく理解しているわけでは無いが、少なくとも悪人で無い事だけは信じている。

 

「……言いたい事は理解出来た」

 

 だが、抱く疑問はまだ残されている。

 

 それを払拭しない限り、安易に信じることは出来ない。

 

「だけど、お前が俺の事情を知っている一方で、俺はお前の事を知らない。知り合いレベルの付き合いがあるとしても、お前の言葉が本当だったとしても、簡単に首を縦に振る事は出来ない」

 

「……そうか」

 

「お前はさっき、俺やフレースヴェルグ……そしてお前自身の事を電能力者(デューマン)だと言った。俺が『ガルルモン』を宿しているように、フレースヴェルグが『オニスモン』を宿しているように、お前も脳に何かデジモンを宿してるんだろ」

 

「ああ」

 

「お前の目的はあえて聞かない。少なくとも、奴等と敵対関係にあるって事だけは信じられるしな。だから、お前が俺の事を知っているように、俺にもお前に関する事を教えてくれ……同じ枠組みに入るんなら、お互いの情報を認知し合っていても問題は無いはずだろ?」

 

「……そうだな」

 

 恐らく、その問いに関しても苦郎は予想出来ていたのだろう。

 

 自分だけが相手の事を知っていて、その相手は自分の事を何も知らず。

 

 そのような関係では、協力者としての信頼など得られるわけが無いからだ。

 

 溜め息を吐くような調子で肯定すると、やがて面倒くさそうに、本当に溜め息を吐いた。

 

「……先に『警告』しておくが、俺の事は間違っても好夢には言うなよ。それさえ守ってくれれば、他はどうでもいい。俺に関する情報なんて、どうせ奴等の一部には既に知られている事だしな」

 

 その言葉だけで、縁芽苦郎の『理由』は語らずとも理解するには十分だった。

 

 故に、雑賀もその『警告』には異論も疑問も無かった。

 

「解った」

 

 その返事を、確かに聞くと同時に。

 

 苦郎は雑賀の前の前で、その姿を当たり前な調子で変質させていく。

 

 何の予備動作も無く、何の無駄も無いその変容っぷりは、雑賀がこれまで想っていた苦郎のイメージを覆すほどで、まるで――いや確実に自分や縁芽好夢が『知らない場所』で戦い続けてきた証拠のようにも見えた。

 

 まず、制服の端から見える皮膚は全身にかけて濃い目の茶色(ブラウンカラー)を帯びていき、その体表の変化を基軸に頭部からは山羊のように歪曲した二本の角が。

 

 続けて、鋭い爪を生やした両腕の筋肉が発達するのに合わせて白い制服が粒子に分解され、両脚もまた間接が増えて獣のような形に変わると、履いていた黒いズボンや靴もまた必要だと判断された部分だけを残し粒子として吸収される。

 

 その瞳に赤色を宿し、二の腕や腰元には黒色の鎖が巻き付き、終いには背から紫色の膜を張らせた六枚の翼が生えて、彼の変貌は終了した。

 

「……おいおい……」

 

 その外見は悪魔と呼ぶに相応しい、欲望を醸し出す罪の象徴とさえ言えるもの。

 

 その種が司る力は凄まじく、時としては圧倒的な暴力へと変換されるもの。

 

 それを見た雑賀は思わずといった調子で、こう言った。

 

「……そりゃあ、ある意味においてはお前にピッタリと言えなくも無いかもだが……いくら何でも、そんな大物を抱えてやがるとか予想外だぞ」

 

「望んで宿したわけでも無いし、盛大な椅子取りゲームの結果としか言えん()()()()

 

 その口調もまた、その種に相応しい物へと変質しているように思えた。

 

 雰囲気も口調も何もかもが異なる彼に向けて、雑賀はその種の名を紡いだ。

 

 

 

「……()()()()()()の『()()()()()()』。こういう場合は頼もしいと言うべきか、それとも恐ろしいと言うべきなのか分からないな……」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 同じ頃、同じような状況と同じような部屋の中にて。

 

 とある青年の、深層にまで沈み込んでいた意識が回復し、その瞳が暗闇に開いていた。

 

 司弩蒼矢(しどそうや)

 

 つい数刻前まで、とある狼男と死闘(高確率)を繰り広げたバケモノに成っていた、隻腕隻脚の青年だった。

 

「……ぅ……」

 

 その意識は朦朧としていて、実を言えばその原因たる人物も同じような状況だった事を彼は知らない。

 

 状況を確認する前に消毒用のアルコールの匂いが鼻に付いたので、彼は自らが置かれた状況を瞬時に理解出来た。

 

 そして、自身が未だに隻腕と隻脚であるままこの場に居るという事が、どういう事を意味しているのかも。

 

(……僕は負けた、のか……)

 

 単なる競技でのそれとは、全く違う意味合いを持った二文字の言葉。

 

 それが、彼の頭に深く深く突き刺さっていた。

 

「………………」

 

 あれだけの有利条件が重なった場で、敗北(それ)に繋がる要素など考えられなかったのに。

 

 他でもない、自分自身の『これから』が掛かっていたのに、負けた。

 

 顔も見た事さえ無いであろう相手に、掲げていた理由も、闘う意思さえも否定された。

 

 何より、こうして生かされたまま病院に送られた。

 

「……くそっ……」

 

 悔しい、という感情が沸き立つ前に、根本的な部分で彼は苦悩していた。

 

 あの行動が『正しい』行いでは無い事ぐらいは明らかだった……が、それなら自分にどういう手段が残されていたのか?

 

 何事を行うのにも必要な腕も、地を蹴り歩を進めるための二本の脚も、それぞれ一つ失って。

 

 自分の個性を引き立たせる事で、その存在を認めさせるのも出来なくなって。

 

 病院で療養生活を送り続けていても、心中に不満は募り続けて。

 

 心の何処かでは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自分に、何が、出来た?

 

 分からない。

 

「……牙絡、雑賀……」

 

 自身を打ち負かした相手の名を呟くが、そこにはもう敵意も殺意も無かった。

 

 まるで、全てを失って、意思も何もかもが霧散してしまったかのように。

 

 そんな状態だったからなのか、あるいは行動の起点となっていた理由さえも解らなくなっていたからなのか、今の彼に電脳力者(デューマン)としての力を行使する事は出来もしなかった。

 

 そして、行使しようとも思えなかった。

 

 彼の意識は、再び深海のように深き無想へと沈んでいく。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 雑賀で言う『情報変換(データシフト)』を解除したらしい苦郎は、その姿を元の制服姿へとあっさり戻していた。

 

「え、制服とかズボンとか、そういうのも戻るのか? 司弩蒼矢の時もそうだったが」

 

「身に纏っている衣類とかは、肉体を変化させる過程で邪魔だと判断された場合、あんな感じでデータの粒子に変換して『肉体の一部』として吸収されるのさ。よく、女の変身ヒーロー物とかでも衣類が丸ごと変わった後、変身を解除した時にはあっさり『元の形』に戻ってただろ? それと似た理屈だ」

 

「……ちょっと待て。『肉体の一部』として吸収されるって事は、つまるところ変身の後の姿で外傷とか受けた場合……」

 

「まぁ、確実に欠損するわな。お前みたいに『獣型』のデジモンの力を行使する場合、骨や肉とか皮膚の次に『身に纏っている物』が変換の対象になる。俺みたいな悪魔……いや『魔王型』に関しては、種によって変わるんだが……()()ぐらいは衣類とかを一部『巻き込んで』変換する事になるだろうな。現に、俺は腕とか脚とかの部分的な変化が大きいから、あんな感じで制服もズボンも粒子変換されてただろ」

 

「うわ、マジでか!? あの時の戦いの最後の辺りで、俺思いっきり氷の矢とか食らってたわけなんだけど!!」

 

 どうやら、原型となるデジモンの種族――そしてその骨格によって、身に纏う衣類にも影響は出るらしい。

 

 変身ヒーローの定番――と言えば簡単に思えるが、実際に『それ』が起きる事はまずありえないと言っていい。

 

 粒子だろうが量子だろうが、物体を粒状に変換して、また必要な時に『元の形』に修繕されることなど、実際はSFよりもファンタジー色の方が濃いぐらいだ。

 

 それならまだ、衣類の上からアーマーやら何やらを新たに纏っている方が、現実味があるレベルだろう。

 

「……つくづく不思議なもんだ。物理法則って何なの? アテに出来ないのは警察だけじゃないって事かよ」

 

「まずは『()()()()()()()()()()()()』って前提を受け入れてもらわないとな。現実世界だからイレギュラーっぷりが引き立ってるってだけで、デジタルワールドではそんなにおかしい事でも無いかもしれねぇし」

 

 雑賀には当然知る由も無い事だが、実際に彼の友である紅炎勇輝は『感情』を力に変換する事で危機を脱している。

 

 その仲間となったデジモンも、同じく。

 

 物理法則を越えた力を敵味方の両方が行使出来るという事は、これまでの常識をある程度捨て去る必要があるのだろう。

 

 既に体験しているからか、雑賀は『それ』に対して拒絶する事も無かった()

 

「……ところで、結局あのフレースヴェルグ……あと、勇輝を『ギルモン』としてデジタルワールド送りにした奴の属する『組織』ってのは何なんだ? 『タウン・オブ・ドリーム』で俺に情報提供した()()()曰く、勇輝の存在が重要になってるらしいが……」

 

 根本的に、敵となる『組織』の思惑は不透明だ。

 

 自分よりもこの手の問題に対面してきたであろう苦郎なら、何かを知っているかもと雑賀は期待したが、

 

「それについては俺も解らん。成った種族が『ギルモン』である事を考えると『デジタルハザード』の刻印が何か絡んでるのは確実だろうが、それで具体的に何をしようとしているのかまでは解らない。単純に世界崩壊とかを考えてるわけじゃないっぽいしな……」

 

 どうやら、その『組織』の目的は苦郎も把握してはいないらしい。

 

 だが、返事を返した直後に彼は言葉を紡いだ。

 

「ただ、その組織の名前はハッキリしてる。以前相対した時、割りとあっさり口を開いたからな」

 

「……俺と会話した時には『組織』としか言ってこなかったんだが」

 

「知らん。犯行前に予告状を送る怪盗でもあるまいし、その時には必要性を感じなかったからじゃないか? あるいは、お前が当時『未覚醒者』だったからか」

 

 そう言われると、どうにも反論出来そうにも無かったので黙り込む雑賀。

 

 それに構う事も無く、苦郎は既に知っていた情報として告げる。

 

「奴等の属する『組織』の名前はな――――」

 

 決定的な、それでいて不透明なその名を。

 

 

 

 

 

「――――『シナリオライター』。そう言うそうだ」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 対話が終わり、病室から出て行った縁芽苦郎は自宅に戻っていた。

 

 彼は半ば無断で病室に入っていた立場のだが、彼が居た痕跡は現実に残されてはいないだろう。

 

 牙絡雑賀との会話を開始する以前に、既に彼は電脳力者(デューマン)としての『力』を行使して情報を遮断していたのだから。

 

 尤も、閉じている扉や窓を開けたままにしたり、電気を付けたりすると『記録に残る物』はあるので、彼が侵入……そして脱出に使ったルートは自動ドアが存在するロビーでは無く、洗濯物を干したりドクターヘリを利用するのに使われているのであろう屋上だった。

 

 落下防止用に人の背丈と同程度の柵が設置されていたが、彼はそれをよじ登る事も無く、その体を雑賀の目の前で見せた『ベルフェモン』を原型とした物へと変異させると、六枚の翼を羽ばたかせて病院の敷地内から飛び立ったのだ。

 

 そうして、肉体を変異させたままマンションにある自宅の玄関前へと着地し、閉じられている扉に鍵をピッキングでもするかのように慎重に差し込み、彼自身が小規模に展開している力場(デジタルフィールド)の効力によって音も無く室内に入っていく。

 

 あくまでも『ただの人間』の範疇に入る親は目撃する以前に眠っており、当然この時間帯になると縁芽好夢も同じく寝床に着いていた。

 

 自室に戻った彼は、状況を確認し終えると肉体を変異させている『力』を解除する。

 

 

 

「……がふっ」

 

 

 

 途端に、彼は自身の()()の部分を左手で押さえ付け、口から出さざるも得なかった物を右手の中に吐き出した。

 

 その色は、()()()()

 

 だが、それを見ても彼は何の動揺も見せず、その吐き出した物をティッシュで即座に拭き取ると、何ら変わらない調子で寝床の上に横になった。

 

 つまる所、そんな生活を彼はずっと前から続けていた。

 

 それが、彼にとっては『()()()()の日常』となっていただけだった。




 
 ……さて、そんなこんなで最新話でしたが、いかがだったでしょうか?

 今回の話ではデジタルフィールド……この世界観では『ARDS拡散能力場』と呼ぶ事にしている、現実世界編において最重要となるデューマンの能力の片鱗(むしろこっちが本領かも)を説明してみました。

 デジモンテイマーズにおいてのアレとは異なり、根本的に力場そのものを電脳力者が自動で発生させているわけなので、今回の話の後半を見ての通り『移動し続ける力場』でもあり、当然ながら『ただの人間』に対しては情報のフィルタリングが掛かっているわけですが……勘の良い人なら、案外この設定だけで色々推理している人もいるかもしれませんね。いぇい。

 現実世界に電脳の力場を発生させるという点だけを見れば、実を言うとアニメ版のロックマンエグゼ……『アクセス』『ストリーム』『ビースト(+も)』の三作品に共通して登場している『ディメンショナルエリア』の設定と類似していますが、根本的に違う要素が絡んでいるのもあって、全く『別の代物』です。

 例題として『天国』や『地獄』とか、そういう物を挙げてみましたが、逆に解りにくくなってたら申し訳が有りません。



 それと、ちゃっかり雑賀に負けて病院送りになったもう一人こと蒼矢くんも早速再登場です。

 彼のこれからはどうなるのか、そもそも彼が『先』に進むためには家族とかそういう部分での『恐怖心』と向き合わなければならないのですが、はてさてそれはいつになるのやら……当然、このまま負け犬のまま捨てるつもりはございませんので、このキャラが好きなお方が居るのであればお楽しみに。



 そして終いにはって感じですが、もの凄くあっさりと開示された、縁芽苦郎に宿るデジモン――『ベルフェモン』。

 Pixivで取り扱っている『企画』を見てくださっているお方なら何となく知ってたかもしれませんが、自分はこの『ベルフェモン』というデジモンが結構好きでして。設定にも不透明な部分が多いだけに、この作品においてもレギュラー入りが確定しておりました。

 伏線は色々置いてました。『だらけきった態度』『昼間だろうがよく眠る』……何より、名前自体がカタカナ表記にすればかなりのヒントになりましたからね。文字を二文字取るだけであっさりです。

 ユカリメ・クロウ →→ ユカリメ・クロー →→ ユーカリ・クロー。

 ……ええ、はい。ベルフェモンの成長期の姿こと『ファスコモン』の必殺技『ユーカリクロー』が、縁芽苦郎の名を思いついた切っ掛けだったのです。実際に『縁芽』って苗字としてもアリだと思えましたしね。結構自信を持ったネーミングでした。

 

 ん? こんだけ情報を開示しておいて、謎のストックは枯渇気味なのでは、ですと?(幻聴)

 大丈夫です。縁芽苦郎に関してはまだ秘密にしている事がありますし、作中でも語られている通り『既に敵にも知られている情報』なので、わざわざ秘匿するレベルの情報でもなかったですし、何より彼の分類する『二つのモード』に関しても描写してませんし。

 さてさて、次回でやっと『七月十四日』は朝になります。長い夜だった……(文字数的な意味で)。

 では、感想・質問・要望などあれば、いつでもどうぞ~。

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