DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
ポケダン小説とか色々書くものが増えたりした事を言い訳にしても、流石に三ヶ月も空けてしまったのは譲歩出来ないレベルって事で、何とか(後半が若干難産に思えながらも)更新出来ました。
皆さんはデジモンアドベンチャートライを見れましたか? 自分は見れてません(血涙)。
それでは、あんまり長い前書きにするのもアレなので、早速本編をどうぞ。
七月十四日――その朝方。
縁芽好夢は、今日もまた登校の時間だった。
高校の基本的な登校時間が全日制の場合は八時頃、通信制の場合は九時頃を基準としており、中学生の基本的な登校時間と言えば前者に近い物だったりしている。
そういうわけなので。
「うおおおおおおおおおお!!?」
現在位置・自宅。
何故かそんな時間になってから意識を覚醒させるに至ってしまった現役女子中学生こと好夢ちゃん(13さい)は、デジタル時計が刻んでいる『AM7:32』という絶望的な数字を目にすると同時、開口一番からムンクの叫びの如く大声を発していた。
意識を覚醒させて間も無いという状況の時点で当然だが、彼女が現在見につけている物は未だにパジャマのまま。
何もかもが初期装備状態の彼女が、このような状況に陥ってしまった理由はと言えば、
(……昨夜珍しく外出していた苦郎にぃがいつ頃帰ってくるのか軽く深夜まで耐久して、もう深夜近くになった辺りで寝落ちしちゃったんだ……っていうか目覚まし時計のスイッチ入れ忘れてるし!! わぁ、うわぁ、なんてこったーっ!!)
まだ一般的な高校生レベルの成長さえしていない体な好夢に、深夜バージョンの睡魔に耐えうるほどの耐久力は無かったのだ。
これは、規則正しい生活リズムで過ごして来た者が、いきなり不順な方向へシフトしようとした結果。
そして、好夢は気になってある意味においての張本人が眠っているのであろう部屋の扉の前に立つ。
居なかったら大変だ。居たら居たで眠っているかだらけているはずだ。
そう思いながら扉を開けた彼女が目にした物は、
「……んぉ、珍しく起きるの遅かったな。おはよう」
何と、いうか。
征服は割りとキッチリ着られているし、洗顔でも済ませてきたのか、普段と比較すると眠気を感じさせない顔立ちだし、既に登校前の準備は済んでいるようだし、なんというか余裕ありすぎだし――――と、一見悪い部分が何も見受けられない状態の縁目苦郎の姿があった。
好夢の知る普段の彼との差異もあり、本当ならば素直に感心か疑心でも抱くべき場面ではあるのだが、それでも好夢は問いを出していた。
「……なんで珍しく早起きしてると思ったら、今度はあたしの事を起こしてくれなかったの?」
言っている自分自身、変だと思える言葉だった。
対する苦郎の返答はシンプルな物で、
「いやぁ、正直好夢の部屋まで入って起こすのが面倒だったし、仮に起こしてたとしても俺が得する事も無かったし、まぁ要するにメンドくさかった。それだけ」
「薄情すぎる!! そりゃあ血を分けた関係じゃないのは解ってるけど、それにしたってそれが妹に対する兄の対応なわけ!?」
「対応なわけです。つーか、逆に聞くけど普段から早起きの好夢がどうして寝坊してんだ? 根本的な事を言うけど、それはお前の自業自得って奴だよ。ほら、さっさと用意しないと遅刻するぞ」
「うぐっ……」
それを言われると反論が出来ない、といった顔で口篭る好夢。
寝坊以前に夜更かしの理由が理由なので、これ以上食い下がろうとすると面倒な話題に発展しかねないからだ。
しかし、それでも好夢には一つだけ聞いておきたいことがあった。
「……でも、実際のところ苦郎にぃは何処に行ってたの? 昨日、雑賀にぃの家から帰ってきたら、いつの間にか家からいなくなってたし……」
「あぁ、そんな事か」
苦郎は一度、相槌を打ってからこう答えた。
「別に大した事はしてないさ。ちょいと使い過ぎたシャーペンの芯と、夜を更かす用にコーヒーの補充にコンビニに行って……まぁ、後は
「本当に? 隠してる事なんて無いよね?」
そんな事を聞いてしまえば、思惑次第で嘘を吐くか、適当に返される事ぐらいは理解していた。
そして、苦郎はさも当然のように、
「お前相手に嘘を吐く理由があるかよ。大体お前、俺が隠してたエロ本とか全部掻っ攫って行ったじゃねぇか。今更隠している事があるとすれば俺が実は清純なメイドっ
限り無く適当な声調な上に、果てしなくどうでもいい事だった。
それだけならまだ踵を返すだけで済んだのだが、清純という言葉とは対極に位置するとしか思えないこの兄は更に余計な事を言いやがった。
「まぁ、夜遊びも程々にな。好夢に十八禁モノの世界は早すぎる。もうちょっと成長して、童貞の下半身ぐらいは起こせるようになってから」
「一生沈んでろ」
そんなわけで。
愚かにも会話の途中で視線を女性としての魅力が集約されるであろう部位即ちお胸サマの方へ向けながら地雷を踏み抜いたクソ野郎はそのまま好夢の(割りと本気な)右ストレートを受けて以下略なのだった。
本当ならばそのまま連続で締め技の体勢に移行したかった所だが、生憎こんな事で時間を消費出来るだけの余裕も残されていないので、好夢はリビングで既に作り置きされていたトーストと温野菜のサラダと卵焼きを丸ごと物理的にサンドイッチにすると、さながら圧縮でもするかのように食べ、幸運にも先日の時点で用意を済ませていた荷物を手に、制服に着替えて出発する。
縁芽好夢は、学校に向かう際に徒歩による通学を基本としていて、このような状況でそれを強行すればどんな事態に陥るか、理解もしている。
つまるところ、食べて直ぐに運動をしているのに等しいわけなので、胃というか腹の中が痛かった。
(残り時間は……13分!! ショートカットなんてまず無いし、もうこれ全力で走っても間に合わないんじゃ…………いや、諦めない。遅刻なんて絶対にやだ!! そんな事になったら叉美のヤツに笑われる!!」
とにかく限界とか痛みとかを無視して脱兎の如く疾走する。
大きな事件が起きていようが何だろうが、今日も東京の人だかりに変化は無かった。
◆ ◆ ◆ ◆
ベッドの上で横になっている状態は、長く続くと安らぎではなく苦痛を覚える事があるらしい。
窓際にかけられた真っ白なカーテンの隙間から日光が差し掛かってきた頃、牙絡雑賀は目を覚ますと同時にそんな感想を漏らしていた。
体が普段よりも重く、肌寒さから防護するための布団や酸素供給用のマスクさえ窮屈に感じられてしまう。
本当に苦しそうな、あるいは開放感を宿した声と共に上半身を起き上げさせ、口元のマスクを外すと不意に欠伸が出た。
どれぐらい眠っていたのか――それを確かめようと周囲を見回していると、ちょうど背後の方に医者や患者の視点からも診見やすいようにするためか、やけに電波時計染みた機材が壁に設置されており、それが時刻や湿度の情報を記載していた。
(……病院ってのも、見ない内に近未来っぽくなってきたのかねぇ……)
そうこう考えていると、何やら壮年の痩せ細った医者が一人、ドアを開けて部屋に入ってきた。
縁芽苦郎との邂逅の際には体が金縛りの状態にあったため確認出来なかったが、どうやらこの病室は雑賀以外の病人がいない個室の空間だったらしい。
漫画であれば横に線を引くだけで表現出来そうな目をしたその医者は、目を覚ました雑賀を見て開口一番からこう漏らしていた。
「ほっほーい、とりあえずは無事なようだね?」
「……色々すっ飛ばしてそんな事を問われても、反応に困るんですけど」
自己紹介も、怪我人に対する気遣いの言葉も無し。
いかにもマイペース一本道でやってますといった雰囲気に、割と最近は変人との絡みが増加気味の雑賀でも対応に困ってしまう。
構わず、その医者は面白そうに言葉を紡ぐ。
「見た感じ目立った怪我も後遺症も無し。強いて言うなら、多少の打撲に出血ぐらい。救急車で担ぎこまれた当時は痙攣でもしたかのように身体機能が麻痺していたようだけど、全身にスタンガンを丹念に打ち込まれでもしたのかな?」
「そんな覚えは無いんですけど……っていうか、なんでそんな面白そうな顔してんですか」
「面白いかどうかと聞かれると、まぁ確かにね。何と言っても、とっくに診察時間を終えた深夜の頃に病院に搬送された子がいると聞いて診察してみれば、実際には頭蓋骨にヒビが入っているわけでも無かったわけだし? ヤクザか何かに絡まれたのなら、もっと酷い怪我になっているのではと思ってたよ。いやはや、通報した『誰かさん』が強かったのか、あるいは自作自演なのかな?」
「……自作自演で手術台に乗ろうとするヤツなんていないでしょうよ。つーか、通報したのって……」
雑賀がそう問いを出すと、壮年の医者は『うん?』と首を傾げてから、
「ああ、救急車の運転手に聞いた話だと、通報を受けて駆けつけた時には気絶した君の姿だけだったとの事だよ? 肝心の通報者は近場の電話ボックスを使って居場所を伝えただけで、影も形も無かったようだし」
「………………」
医者から告げられた内容に、雑賀は僅かに沈黙する。
その意味を理解したのか、あるいはどうでも良い事なのか、医者はただ事後報告の言葉のみを残す。
「まぁ、体が無事なら入院までさせる必要は無いと判断するけど、頭に巻いた包帯はしばらく外さないようにね? 打撲はともかく、頭を強く打ったのか出血はあったのだから」
言うだけ言って、その医者は病室から出て行った。
言われて初めて頭に巻かれた包帯の存在に気が付いた雑賀は、ふと後頭部の方に右手を当ててみた。
ズキリとした痛みが奔り、自分がどれぐらいの怪我をしたのか嫌でも実感させられる。
フレースヴェルグに吹き飛ばされた後にどんな事があったのかは解らないが、少なくとも後頭部を強く打ち付けるような出来事があったのは間違いなかった。
その上で、
(……骨は折れたりしてない。本当に、あの医者が言った通り無事なんだな……)
生きている、という事実に少なからず驚いていた。
人間の頭蓋骨は数メートルほどの高さから垂直に落とされただけで割れるらしいが、実際に落ちたことも無い状態から暴風に吹き飛ばされるという体験をした所為か、実際に起きたのであろう出来事に実感が湧かなかった。
思えば、あの時は体が『
考えても答えは出せそうに無いので、雑賀はやがて考える事を止めてベッドから体を起こした。
先日の出来事の全てが現実だと指し示すように、鈍い痛みが体の各部から感じられる。
「……っ……」
少なくとも病院着のまま外出するわけにもいかないので、自分の衣服を回収したのであろう人の居る場所へ向かおう、と雑賀は行動の指針を決定する。
ふと、脳裏には先日戦った男の姿が過ぎったが、
(……病院に居るか、居ないかを確認するだけにしよう。アイツの問題は、きっと俺がどうこうした所で解決出来るもんじゃない)
ただでさえ、抱えている問題は多かった。
それまでの事も、これからの事も、他ならぬ自分自身の事すらも。
友達を助けたい――そう思っていながら、彼に他者の事を優先させられるほどの余裕は無かった。
◆ ◆ ◆ ◆
それが日本の首都とされる東京の中に健在する中学校の一つで、縁芽好夢が通う学校の名前だった。
(……うぅ、滅茶苦茶お腹痛いし気持ち悪いわ……吐かないように意識しないと……)
一時間目の授業を終え、束の間の休み時間に突入した頃、好夢の心境は最悪の一言だった。
結果から言って、何とか遅刻は免れたのだが、食後五分もしない内に全力のダッシュを決行した結果として好夢の胃の中は軽くスパイラル状態になっていた。
パン系の食べ物が割りと消化しやすい物である事は間違い無いのだが、今回は急ぎすぎた上にパリッパリに焼きが付いたトースト――それにサラダ(ドレッシング投入済み)を乗せ挟んで食べたため、流石に胃が許容出来る状況のラインを跳び越えていたのだ。
その上、朝礼の時間を過ぎて一時間目の授業へ移ろうと指定の場所へと向かう途中、捏倉叉美から『おや? 何やら食欲をそそる香りが……おやおや、少女マンガのテンプレ展開よろしく食パンかサンドイッチでも口にしながら投稿したのかな。口元に食べカスとドレッシングが残ってるぞ』と絶対語尾には(笑)と付いているに違いない顔で言われてしまい、結局は恥をかく形になってしまう事に。
もう、何というか踏んだり蹴ったりだった。
一応、授業が始まる前に水道の水で最低限の洗浄は済ませたものの、過去に起きた事実は何も変わらないわけで。
(……あー畜生、慣れない事をした矢先にこれだよ。あの女、犬か何かみたいに鼻が効くっての……?)
心の中で笑みを浮かべるドヤ顔女子に向けて毒を吐いてみるものの、現実では確実にカウンターを食らいそうだったので結局は空しく思えてくる。
と、
「おう、ドジっ子キャラが似合わない系の好夢くん。調子はどうかね?」
「おかげさまで最悪だよクソったれ……」
突如横合いから張本人に声を掛けられ、ほぼ反射的に思った事を口にする好夢。
一方で余裕たっぷりといった表情の叉美は、そんな反応などどうでもいいといった調子で言葉を紡ぎ出す。
「案の定、今日も授業は午前中オンリーなわけだけど辛いねぇ。期末テストが迫っているのはいいよ。午後の授業が無い分として宿題が強化されるのもいいよ。例の事件があろうと無かろうと、ああいうイヤーな行事が残っている事も別にいいよ。でもなー、流石に『アレ』はどうかと思うのだよ?」
「……あー」
叉美の言葉の内――特に『アレ』と呼んでいる物に対して、好夢は心当たりを思い返すかのように気の抜けた声を発した。
「そういやあんたって、
「単純に疲れる事をしたくないってだけだからその略し方はやめてくれないか。私は君みたいな運動会系ではなく、インテリ系の女なのだから」
「まぁ、あたしは『アレ』……別に嫌いじゃないけどなぁ。遊び心も入ってるし、擬似的な警察官の真似事と考えれば貴重な経験にもなるし」
「君からすればそうかもしれないが……うーむ、今回の『役』はどうなるのやら……」
「あたしは『追い回される』側に立ちたいなぁ……流石に、四時間目にもなれば調子も戻るだろうし」
「こういう時に限っては君が羨ましいよ。何というか、私は走り回ることに向いていない。抱えているモノが重いのもあるが、正直面倒だしなぁ……」
「……流れるように巨乳アピールしてんじゃないわよ潰すぞ」
一瞬で声のトーンが低くなってヒロインというかお化け屋敷のスタッフみたいな声になった好夢を無視し、叉美はうんざりしたような声調で未来に起こるであろう事を口にする。
あるいは、こんなご時世だからでこそ、突発的なアイデアで生み出された行事の名前を。
「……防犯オリエンテーション、かぁ……」
……と、いうわけで最新話ですが、いかがだったでしょうか?
今回の話は、数話前のくらーい中で蠢いているって感じの雰囲気から一転、賑やかな『学生の日常』の一部を描かせていただきました。実際問題、リアルに食パン食べながら登校するような場面になる女の子っているんでしょうかね?
そしてデジモンを原作に挙げた小説でありながら致命的と言っていいほどのデジモン要素皆無っぷり。仕方無いんや!! 特にデジモンとかに関係が薄い場面で急にデジモンの話題をキャラに切り出させても仕方ないし、肝心の雑賀や苦郎は隠し事してる流れですし……当然デジモンの要素も加えていくのは確定ですが、まだしばらく楽しい楽しい日常回になる事をご承知ください。
それでは次回、とある作者さんのイメージキャラ(許可取得済み)が登場するかもしれないってのはともかく、楽しい楽しい『防犯オリエンテーション』の話です。
お楽しみに。