DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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一ヶ月ギリギリ間に合わず更新。かなーり難産気味のお話となっております。

デジモンワールド最新作、まさかのシャウトモン&ガムドラモン参戦はすげぇ嬉しいです。何だかんだ言ってクロウォはアニメ版のストーリーを除けば良い線行ってましたし、自分としてはかなり好きな部類だったり。漫画版とかもっと続いて欲しかった部類ですし、素材としては普通に良いと思うんですよ。

そんなわけで、実を言うとクロウォ勢のデジモンもこの作品で出る可能性が微レ存だったり。過度に出すとややこしくなるので今のところは未定の範囲ですが。

では、本編をどうぞ。


七月十四日――『見向きもされない暴力の袋格子』

 

 病院の入り口付近にて。

 

 牙絡雑賀は、自分のスマートフォンを手にしたまま硬直していた。

 

 彼が着ているものはファンタジー物に出てくる魔法使いか何かが羽織っているローブにも似た病院着ではなく、白と黒が上下に分かれた一般的な学校の制服となっていて、頭部には止血のための包帯が少し厚めに巻かれている。

 

 何故元々着ていたシャツとズボンでは無いのか? と問われれば、戦闘を含めた諸々の出来事が原因で生地が血に染まった上に『もうそれってシャツというかインナーだよね?』級の大惨事となっていて、衣類としての役割を担う事などまず出来ない状態に陥っていたからに尽きる。

 

 その一方で、司弩蒼矢を探す際には持っていかなかった携帯電話や制服が病院側で用意されていたのは何故か。

 

 事情を知る看護婦さん曰く、

 

(昨日、母親のお方が知らせを聞いてやってきたんですよ。命に別状が無い事を確認すると、直ぐ自宅に戻って必要な衣類やスマートフォンを用意してくれたんです。あぁ、そうそう。牙絡様が『意識を取り戻して病院を出る時になったら』という条件で伝言をお願いされていまして。それが……)

 

(学校はいいからとりあえず家に帰ってきて、か。もう既に良い予感がしないんだが、行かなきゃダメだよなぁ……)

 

 先日の夜間に『すぐ帰ってくる』などと言っておきながら病院送りなのだから、確実に母親である牙絡栄華(がらくえいが)は激怒しているに違いない、と雑賀は考えるが、

 

(……だって、仮にも逃げたりでもしたらそれこそ逆効果だし……ていうか、色々と罪悪感が込みあがってくるし……腹も減ってるし……)

 

 激おこぶんぶん丸と化しているかもしれない母親の姿を想像して、もう全力で土下座の心構えを整えようとして、それでもやっぱり超こえーので私欲な事情を刷り込ませて納得しようとする雑賀。

 

 何だかんだ言っても、子供は親の怒声というものを潜在的に恐れる生き物らしい。

 

 不思議と、歩を進めようとする足の後ろに巨大な重石でも取り付けられているかのような錯覚さえ生まれている。

 

 朝の東京は相も変わらず車のエンジン音や人海の環境音で賑わっており、やはり件の『消失事件』の事など何処吹く風といった『平常』通りの街並みだった。一見何も変わっていないようにしか見えないし、一般の目線からすれば本当に何の変化も存在しないとしか思えていないのだろう。

 

 顔も知らない誰かが突然に行方不明になりました。へぇ、そりゃあまた物騒な話だね。それがどうかしたの? と他人事を言っている風な空気を感じる。

 

「…………」

 

 気付けないのはある意味においては普通だし、むしろ気付けている自分自身の方が異常なのは理解していた。

 

 だがそれでも、雑賀はいっそのこと苛立ちにも似た感情を抱いていた。

 

 本当にそんな事を考えているのかどうかまではともかく、視界に映る人間の大半が『明日もきっと同じ日が続くに違いない』と、まるで退屈でもしているように、安心しているかのような表情で過ごしているからだ。

 

 そう。

 

 たった今、雑賀が『情報変換(データシフト)』の力を使って、万が一にでも『その気』になってしまえば、簡単に大量殺人事件を発生させてしまえると他の誰でもない雑賀自身が思うほどに。

 

(……ちくしょう)

 

 自分にも出来る事は、当然『同じ力』を持った別の誰かにだって出来る事。

 

 その現実を認識しただけで、過去にも見慣れた風景は一変して無防備なる狩り場という印象に早変わりする。

 

 危険な要素なんて、目に見える範囲には無いはずだったのに、何かが起きる事を恐れて神経質になってしまっている自分の存在がえらく場違いに思えてくる。

 

(……平和ボケって奴じゃないんだとは思うけど、見ていて不安だ。同じ街の中で不規則に起きている出来事である以上、自分も当事者の一人であるっていう自覚が無いのか? 突然に巻き込まれちまう可能性だって十分あるのに……)

 

 いちいち不安を煽る話題に付きっ切りでいても仕方が無い――それに一理も無いわけでは無いのだが。

 

 疑問と戦いの一夜を過ぎた雑賀は、自分が普通の人間の五感では認識出来ないモノを認識、理解出来ることを知った。

 

 そして理解出来るからでこそ、一般の視野では確認出来ないイレギュラーの存在に対して神経質になってしまっている。

 

(……にしても、なんか変な感じが――)

 

 だからでこそ、だろうか。

 

 ふと、道路の十字交差点――その角の部分に建築されていた五階層ほどの簡素な造りのビジネスホテルから、より正確に言えばそれと隣接している高層ビルの間に存在する隙間――裏路地の方から、捨てられたゴミ袋とはまた違う不快な何かの『ニオイ』を感じ取れてしまったのは。

 

「…………」

 

 司弩蒼矢を探した『あの時』よりも鮮明に感じ取れる、それでいて根本的に『何かが違う』と判別出来るその雰囲気。

 

 周囲の人込みの中で、それに気が付いている人物の有無は不明だし、そもそも裏路地など興味心で覗き込もうとする人間は少ない。

 

 不意に雑賀の脳裏には縁芽苦郎――自分よりもずっと強い力を有した相手の存在が過ぎったが、思えばそもそも彼の電話番号は自前のスマートフォンに登録されていなかった気がするし、今から電話したところで苦郎が到着するより先に『ニオイの元』が何処かへ行ってしまう可能性がある。

 

 悩む事が出来るだけの余裕は、無かった。

 

(……行くしか、ねぇ)

 

 自身の安全を優先し、見て見ぬフリをするという選択肢もあるにはあった。

 

 それでも、

 

(……見逃したら、それ自体をいつか後悔する。そんなのは、イヤだ)

 

 この状況で『力』を使うと妙な騒ぎが起きそうなので、雑賀はひとまず人目が付かない場所へ移る事にした。

 

 周囲を見回し、ホテルから少し離れた位置に建築されていた立体駐車場を発見すると、彼は周りで行き交う人々の視線を下手に集めないように注意しながら移動する。

 

 駐車か運転ぐらいにしか使われないためか、多くの車が泊められている一方で人の姿は全く見えない。

 

 立体駐車場には車上荒しや不正駐車を防ぐための一環として監視カメラが設置されているが、大抵その位置は決まって天井――それも『死角』を無くすことに重点を置いてか空間の四隅の部分だったりする。

 

 それ故に、天井が存在しない屋上部分だけは何処にも監視カメラが存在せず、とても解りやすい『死角』となっていた。

 

(……まぁ、本当に天井が無いってだけで監視カメラが無いのかって点に関しては半信半疑だったが、まずは何とかなったな)

 

 勘が正しければ、ニオイの元である電脳力者(デューマン)は、まだ裏路地の中から動いていないようだ。

 

 どうやら短時間で終わる用件ではなく、それなりに時間をかける要件に『力』を使っているらしい。

 

 エレベーターを介して屋上に到着した雑賀は、ひとまず辺りを見回して誰もいない事を確認すると、瞳を閉じて意識を一点に集中させる。

 

 一度でも経験を積んだからなのか、自分自身を書き変える感覚自体は掴めていた。

 

 両手には獲物を引き裂く鋭い爪を、両足には素早く地を駆ける強靭な脚を、口には爪と同じ役割を担いながらもそれ以上に鋭利な牙を、そして何より全身には誇り高き狼の毛皮を――――そんなイメージを自分自身の肉体に投影させ、それを留めるよう努める。

 

 直後に鼻と上顎が自ら突き出しマズルを形成し始め、両腕は少しだけ太く発達し、手の方は指先に鋭い爪が生え始め、腰元から細長いライオンのそれにも似た尻尾が生え始め、両足は親指の位置が踝の近くにまで移動した上で間接も増えて獣らしい形に変わり、銀色の体毛が全身各部に刃を形作りながら生える――そんな感覚が全身を駆け巡り、瞬く間に雑賀の肉体は狼男にも似た異形へと変異し、纏っていた衣類は黒いズボンだけをズタボロに残して粒子に分解される。

 

 そして、それと同時に牙絡雑賀の存在は普通の人間の認識から乖離した。

 

 雑賀の意志とは関係無く、彼の周囲に特殊な力場――ARDS(アルディス)拡散能力場(かくさんのうりきば)が発生したからだ。

 

 力場が現実と非現実の境界線を歪め、認識のフィルターが彼の存在を隠蔽する。

 

「……出るのは鬼か、それとも……」

 

 視線の先には狭苦しそうな路地があった。

 

 行って、自らに降りかかる負の可能性を思考に浮かべた。

 

 直後に、彼は迷わず立体駐車場の屋上から裏路地のある方を目指して()()()

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 社会科教師のマシンガントーク染みた二時間目の授業を終え、縁芽苦郎は三時間目の授業が行われる教室へと歩を進めていた。

 

(……雑賀のやつ、そろそろ病院から出ている頃かね。()()()()()()()も効果は切れてるはずだし、あいつ自身が『待つ』より『行く』タイプだからなぁ)

 

 街が街なら学校も学校らしく、少年少女の群れが生み出す活気は小規模ながら衰えを知らない。

 

 壁に申し訳程度に貼り付けられている『廊下を走るんじゃねぇよボケバカコラ!!』とでも言いたげな旨のポスターの事などいざ知らず、目的地に誰が一番先に着くかどうかを競っているらしい男子生徒達の事を少々煩く思っていると、どうやら入れ替わりで自分達のいた教室へ移動しているらしい別のクラスの群れが一つ。

 

 そちらもそちらで先頭をリードしているのはダッシュで移動している者だったり、背丈に比例した脚の長さの関係で歩幅が広い者だったりしていて、それに少し遅れる形で友人と世間話をしながら歩く者もいた。

 

「――でさ、やっぱり思うのよ。夏と言えば海水浴だのキャンプだの色々と意見はあるけどさ、やっぱりトップは流しラーメンだって――」

 

「――ソーの方じゃないんかい。でもさぁ、夏の風物詩って割と食べ物方面に偏ってるよな。海の家とかバーベキューとか。食欲の季節って秋じゃなかったのかって感じ――」

 

「――そういえばまだ『タウン・オブ・ドリーム』でイベントがあるんだっけ? 特撮系のヒーローショーだとか何とか。ああいうのって子供っぽいとか言って忌避する連中もいるけどさ、よくあるCGとかワイヤーとか使わずにスーツアクターの人が『動く』所を見れるって普通に貴重――」

 

「――えぇ~。でもさぁ、生の徒手空拳もいいとは思うけどさぁ……やっぱり特撮の見所って気合の入ったCGとかじゃね? というか、本題はアクションよりも台本でしょ。どんなに動きが良くてもストーリーが駄目だったら批判モノだってのは世の中が証明して――」

 

 何人かの話し声が耳に入ったが、苦郎はさして気にするような素振りを見せる事なく歩き続ける。

 

 そして、世間話で賑わいを見せていた生徒達の最後尾――から更に後ろで歩を進めている者を目にすると、一度立ち止まってすれ違い際に言葉を漏らしていた。

 

「……()()()()()()()()?」

 

()()()()()()()()()

 

 何の脈路も無いにも関わらず、言葉に対する明確な意味を持った返事があった。

 

 その少年――鳴風(なるかぜ)羽鷺(はろ)は、ツンツンと栗のイガのように伸びた黒髪に、日光を遮る同色のサングラスを掛けていて、身長は平均的な160台――そして何より、苦郎と同じく電脳力者(デューマン)としての力と一面を隠し持つ人物だった。

 

 やる気どころか気力と呼べるものが存在するのかさえ解り難い無の表情で、彼は言葉を紡ぐ。

 

「何と言っても()()()ですよ? 情報を集める『だけ』ならまだしも、接近に感付かれでもしたらリスクがデカすぎます。正直に言うと、気が進みません」

 

「一応、情報は得たんだな?」

 

「まぁ何とか」

 

 羽鷺は一度言葉を区切ってから、

 

「『人食鬼(プレデター)』アイム・ハングギスタ。『無傷の殺人者』愛紫手(あいして)マスク。『灰の幽霊(ゴースト・アッシュ)暗路(あんじ)(まじな)。つい最近この東京に入り込んだ『危険性の高い相手』を並べるとこんな感じですね。まだ『個人』のレベルですが」

 

「まだ『集団』を作るには至ってないってわけだな。まぁ人殺しを趣味にしてるような連中だし、受け入れてくれるような連中も少ないとは思うが……実力は?」

 

「低く見積もっても『レベル1』。下手をすれば『レベル2』に到達してる奴もいると思います。少なくとも僕じゃ戦えませんよ。スペックが同レベルだとしても、まず『殺しを前提にした戦い』は彼等の方が技量を持ってますから」

 

「まぁ、真正面からの戦闘に関しては期待してないから構わねぇよ。活動区域の予測は出来るか?」

 

「殺人鬼だろうが電脳力者(デューマン)である以上は普通の人間からは身を隠す必要が無いと思います。言うまでも無い事ですが、彼等がこの街にいる『枠組み』の事を知っているのであれば、基本的に能力の行使を出来る限りは避けて、電脳力者(デューマン)から感知されることを防いでいる可能性が高いですね。人込みに紛れるぐらいはするでしょう」

 

「……てなると、やはり……」

 

「個人的、あるいは何者かの指示によって行動を『実行』に移す瞬間が感知可能なタイミングでしょう。そして何より、実行されるのは『他者に状況を確認されない状況』を生み出せる場所。順当に考えてホテルにあるような密室か、単純に裏路地ぐらいでしょう。遠慮が無ければトイレとかも十分ありえますね」

 

 不可視の犯行に対応するためには、事前の予測と対処が必要となる。

 

 そのぐらいは苦郎も理解しているし、それが出来なければ起こり得る出来事だって予想は付く。

 

 でも、

 

「……悪いな」

 

「事情は知ってますから、謝る必要も気負う必要も無いですよ」

 

「それは解ってるんだが、いつも後手に回る事しか出来ないってのは納得出来ないもんだ」

 

「それで闇雲に動いて倒れられても困るんですけどねー」

 

 それ以上は必要が無いと判断したのか、互いの会話はそこで打ち切られる。

 

 苦郎は羽鷺に対して振り向く事はしなかったが、代わりに『見慣れた』街の風景を映した窓の方へ視線を向けていた。

 

 ()()()()()()()()()()を眺める彼の、その表情に笑みは無かった。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 裏路地という場所に不信感を抱く者は多い。

 

 監視カメラなど基本的に設置されておらず、大きな音や声、あるいは煙でも立ち込めていない限りは必要の無さや優先順位の関係から大抵見向きされず、一部の人間が放つ暴力の掃き溜め場所と化している事が多いからだ。

 

 というのも、裏路地には誰の物かも解らないゴミの不法投棄が行われている場合もあり、時と場合によっては角材や鉄パイプ――隣接している建物によってはダストボックスが置かれており、そのどれもが喧嘩の道具として『使われる』場合さえあるのだ。

 

 目を付けられにくいという事から解るように、トイレのように清潔感を重視されるような側面も薄い。

 

 空気の流れも表路地と比べると少し滞っており、ゴミや(ほこり)の臭いが沈殿し、不思議と灰色が似合いそうな無味乾燥の空間が構築されている。

 

 よくあるスポ根ドラマにおいても、多少のさじ加減こそあれ、良くて歯が折れ悪くて骨を折られ最悪の場合では撲殺事件に発展するような展開がある――そんな空間では現在、世にも奇妙な状況が生み出されていた。

 

 まず第一に、裏路地に佇んでいる者達は人――の形こそ保っていながら、人間の姿では無かった。

 

 ある者はドクロマークが描かれた両肩に黒く太い『角』が生えている上で全身が恐竜のような形に変異している緑色の巨体と化していたり、ある者はティラノザウルスの外見を多分に取り込んだ上で両腕が異常に発達した姿をしていて、またある者は白い獣毛を生やしたゴリラにそっくりな外見をしていながら右腕にはその外見に似つかわしくない機械の砲身を装備した姿となっていて――そして、そんな三体の異形が更に一体の異形を取り囲んでいる。

 

 強面な三体の怪物に取り囲まれた一体の異形の姿は、まず全身が人や獣のそれとは違う深緑色の甲殻で覆われていて、両の手足は間接部分がノコギリのような形にギザギザと尖っていた。

 

 頭部には各所に刺青のような赤い線が刻まれている上で昆虫が持つような――というか完全に昆虫の感知器官(センサー)である同色の触角が二本生えており、目元はカメラのそれとも違う生体のレンズが覆っていて、口元は他の部位と同じく甲殻に覆われ見えない状態になっていた。

 

 両足には三本の太い爪が生えており、獣で言う尻尾に該当される部位は(あり)の腹部にも似た部位が見えていた。そして何より、その全身に刃を生やしたかのような外殻以上に存在感を放っているのが、彼の両手に携えられた二本の刃物。

 

 まるでそれは、日本刀がその形を草狩り鎌のように歪曲させられたかのような、草どころか獲物の首を一息に刈り取るための役割を担う大きな鎌。

 

 一本だけでも不吉な印象を与える代物が、二本。

 

 全身を覆う昆虫質の外骨格も合わさり、その姿は取り囲んでいる三体とはまた違う異彩を放っていた。

 

 彼は開口一番に言う。

 

「……本当に、戦わないといけないのか?」

 

 対して、昆虫鎧の剣士を囲むチンピラ風味な三体の内、黒色の恐竜人間は喉の奥から唸るような調子でこう返す。

 

「舐めてんのか? 俺達に喧嘩を売っておきながらよくもまぁそんなクールぶった台詞が出るもんだ」

 

 続けざまに、両肩のドクロマークも合わさって暴走族っぽい印象な緑色の恐竜人間が言葉を発する。

 

「テメーの行為に対して、こちとら結構ムカっ腹が立ってんのよ。つーわけで黙って財布渡そうとしても逃げ出そうとしても命乞いしてもとりあえずボコるのは確定してる。いくら世の中のクソをブチのめす特別な力を持つ『同類』だとしても、正義の味方ぶったクール野郎は論外なの。状況解った?」

 

「………………」

 

 一見、刃物を持っているという点で囲まれている側の方が優位を取っているように見えなくも無いのだが、昆虫人間を取り囲んでいる面々は手に持った二本の大鎌を見ても動揺が無く、むしろ闘争心の方が前面に出て今にも襲い掛からんとしている様子だった。

 

 昆虫人間の方も、特に言葉を発する事はせずとも刃物を握る両手に力が込められつつある。

 

 荒野の決闘にも似た物騒な空気が裏路地に流れながらも、彼等の存在に気付き関わってくるような者は表路地にいなかった。

 

 ドグシャァッ!! と、勢い良く()()()()()()()()()()緑色の恐竜人間の後頭部へ飛び蹴りもどきを食らわせた第三者の狼人間――牙絡雑賀を除いて。

 

「ご……ぶっ!? な、何……」

 

「おっとごめんよ」

 

 突然の奇襲に驚きの声を漏らす恐竜人間に適当な声で返し、牙絡雑賀は軽めに跳んで路地に足を着ける。

 

 仲間を傷付けられた事に対してなのか、はたまた単に自分達の行いに水を挿されたように感じたからなのか、白色の獣毛を生やした近未来チックなゴリラ人間は真っ先に声を荒げた。

 

「……おう、おうおうおうおう。唐突に現れたと思ったらいきなりドタマに一撃とはいい度胸してんじゃねぇか。自分が誰に宣戦布告したか解ってんだろうな?」

 

「別に好きで喧嘩売りに来たわけじゃないし。変な『ニオイ』がすると思って飛び込んでみたら、なんかクソ下らない集団リンチの風景が見えたもんだから、つい……」

 

 そう言う牙絡雑賀は不良トリオに対する恐れの感情など全くと言っていいほどに無く、いっその事テキトーだと言えなくも無い調子さえ見せていた。

 

 舐められている、馬鹿にされている――そう認識したらしい両腕凶器な黒色の恐竜人間が、一度舌打ちをして鋭い歯を剥き出しにしながら言葉を発する。

 

「開口一番からニオイがどうだの……あぁ我慢出来ないわ。こんなヒーローぶったピエロ野郎はこの手でぶちのめさないと気が治まらねーわ。もう何も言わなくていいからとっとと路地の滲みにされろ」

 

「ふーん、まだ居たんだな。お前らみたいな漫画アニメに出てきそうなチンピラって。学校にも行かず、こんな場所でリンチに精を出すとは余程ヒマなんだなぁ」

 

()()()()()

 

「それで凄んでるつもりか。()()()()

 

 互いに言い合い臨戦態勢へ移って行く中、牙絡雑賀は(恐らくは被害者なのだと断定した)昆虫人間の方へ、視線を向ける事もせず声を掛ける。

 

「とりあえず加勢するが、お前は戦えるのか?」

 

「……自信は無いけど、ある程度は」

 

 状況は完成した。

 

 銀色の獣毛を生やした狼男と二本の大鎌を携えた昆虫剣鬼は互いに違う方向を向き。

 

 世間から見向きもされない裏路地にて、二体の怪物と三体の怪物が暴力を押し付けあう、フィクション染みた展開で。

 

 

 




 ……と、いうわけで最新話でしたが、いかがだったでしょうか?

 今回は『電脳力者』になった事で物の見方が少し変わった雑賀くんと、割と大先輩な苦郎の視点から学校の『日常』という物を描かせてもらい、世間から見向きもされないし気付かれない状況に雑賀くんが入り込んで戦闘勃発って話です。

 実際問題として『他の人には見えないものが視える』ってのは中々に孤立感を生み出しそうな要素だと思うのです。他の人には見えないけど自分には視える。何で他の人には見えないんだ。目の前で何か大変な事が起きようとしているのに何で誰も見向きもしないんだ。それなら自分が行くしか無い…………と、いう感じに、他の人には出来なくて、その状況において『自分だけが』状況を解決出来るかもしれないって場面に陥った時、どうするのか。本来頼りに出来るはずの『大人の力』を頼る事が出来ず、補助の無い世界で危険を背負ってしまう事を理解した上で、どんな選択をするのか。

 結局のところ『七月十三日編』での司弩蒼矢戦でもそうでしたが、この作品における現実世界の物語は『必要以上に力を持ってしまった子供達の物語』と言っても過言では無い物だったりするので、どうしても大人達が蚊帳の外に追いやられてしまうのです。さっさと帰って来い的な母親のメッセージを無視した今回の行動から、それを読み取ってもらえていたなら嬉しいです。

 そして、さり気無く新しい電脳力者《デューマン》を四体用意したのですが、描写の気合の入れっぷりから誰が主要と意識しているのか察するお方もいるかもしれません。昆虫と人間のミックス系はやっぱりカッコいいですよね。皆さんには今回登場した脳力者の宿しているデジモンの種族、わかりましたでしょうか?

 それでは、今回はここまでにして。

 次回は恐らく来年になるであろう事を思いながら。

 後書きを締めようと思います。感想・質問・指摘などはいつでもお待ちしております。
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