DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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こういう話になると、どうしても話の長さが短くなる……それをカバー出来るぐらいのボリュームを、その分だけ次の話には求めないといけませんね。

8月24日追記。

感想を参考にして、ところどころに修正を加えてみました。


電子世界にて――『波音響く中での救助』

 ――長い夢を見ていた。

 

 周りで見知らぬ人物が不気味な笑みを浮かべ、自身の何かを作り変えられていく光景。

 

 自身の『外側』と『内側』の感覚がよく分からなくなり、もう二度と戻れなくなるような錯覚。

 

 そんな夢の内容を、彼は悪夢としか思えなかった。疲れた時によく見る悪夢だと、そう信じるしか無かった。

 

 何処で何をされ、何が起きたのかまるで分からない。

 

 まるで記憶に濃霧が掛かったかのように、全く思い出せなかった。

 

 ――何より、今自分が何処に居るのかすら分からなかった。

 

 周りの空間は視界が塞がっているのか真っ暗で、とにかく冷たい物に覆われているような感覚があった。

 

 寒い。

 

 冷たい。

 

 体温を感じられない。

 

 一体いつまで、この空間に居続けなければならないのだろうか。

 

 夢なら早く覚めてほしい。夏の風物詩であるホラーな夢など求めていない。

 

 それとも――

 

(俺は……死んだのか……?)

 

 彼――紅炎勇輝は何も見えない、何も聞こえず感じられないそんな空間の中で、再び意識を深い闇の中へと落としていった……。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 場所を岩肌地帯から最初の砂浜地帯へと移動し、赤い恐竜型のデジモンを砂浜の上に乗せた二匹は、恐竜デジモンを助けるために行動していた。

 

 ベアモンは恐竜デジモンの口を強引に開かせた後、力のある限り両手でデジモンの胴部を押し、海水を吐き出させる。

 

 しかし、恐竜デジモンの意識は戻らない。

 

 その様子を見たベアモンとエレキモンは、次の行動へと移行する。

 

「海水は全部吐き出させたな。次は……」

 

「体を温めたほうがいいんじゃないかな。ここは浜辺なんだし、砂を使って砂風呂みたいな物を作られないかな?」

 

 ベアモンは右手を帽子越しに頭に当てながら知恵を働かせ、エレキモンに提案した。

 

 しかし、その案を聞いたエレキモンは一瞬呆気に取られた顔をした後、その案に対して難点を突きつける。

 

「お前にしては悪くない発想だが、問題の砂をどうやって集める? 両手で掬い上げてるだけじゃ、全然効率的じゃないぞ」

 

 砂と言う物は基本的にサラサラしており、手で取ろうとすると量がどうしてもこぼれて、少なくなってしまう。

 

 両手で掬い上げた程度の砂を振りかけているだけでは、何分掛かるか知ったものではない。

 

 ならばどうすれば良いか。

 

「ここは、体温より先に意識を覚醒させた方がいい。体温なら後で対処出来るしな」

 

「……それならさ、エレキモンの電撃の応用で意識を覚醒させたり出来ないかな? 電気ショックとかで」

 

 意識を覚醒させるのに効果的な手段の一つが『刺激を与える』事だ。

 

 昼間の出来事でベアモンは電撃によって一気に意識が覚醒し、眠気の一切も吹き飛んでいる。

 

 だが、この案にも問題があった。

 

「お前を起こした時とは状況が違う。コイツは明らかにヤバイ状態だぞ、下手したら余計に死ぬ可能性が高くなるから、それは最終手段だ」

 

「それもそうかぁ……う~ん」

 

「酷いやり方だけど、こういう時には痛みを与えてやればいい。体にダメージを負わせる事無くやるなら、刺激を与える事も一つの方法だしな」

 

「痛みを与えるって……何だか、このデジモンが可哀想になってきたんだけど」

 

 ベアモンは恐竜デジモンに同情の念を送りながらも、それ以外の案が思いつかずに、結局恐竜デジモンの頭部にある羽のような形をした耳を掴むと。

 

「……ごめん!!」

 

 恐らくそのデジモンにとっての特徴と言える羽のような部位を、謝罪の言葉を呟きながらぎゅっと摘んだ。

 

 しかし、反応は特に見えない。

 

「その羽っぽいのは大して影響が無いんだな……次にいくか」

 

 次にエレキモンはそう言うと、自身の爪を恐竜デジモンの足の裏にチクっと浅く突き刺した。

 

 すると、僅かにビクっと反応を見せた。

 

(痛そうだなぁ……)

 

 内心で呟いていたベアモンが足の裏に痒みを感じたのは、きっと気のせいなのだろう。

 

「反応したな……意外とあっさり助けられそうだ」

 

 エレキモンはそんなベアモンの方を向いてから、自身の体に電気を蓄積させ始める。

 

「え? さっきエレキモン、電気ショックは最終手段だって言ってたような……」

 

「アレはコイツが本当に瀕死の状態だったらの話だ。こんぐらいで無意識に反応するんなら、電気ショックを使っても問題無い」

 

「そうなんだ……」

 

「ち~とビリっとするけど、勘弁してくれよ。荒療治だが列記とした治療法の一つなんだからな!!」

 

 そして恐竜デジモンに聞こえもしていないであろう台詞を吐きながら、恐竜デジモンの腹部に見える刻印を目印に、ダメージではなくショックを与えるための電気を放った。

 

「……んぅっ……?」

 

 恐竜デジモンは全身に感じた刺激に呻き声にも似た声を上げ、まぶたを開くと共に視界へ降り注いだ日光の眩しさに開けた目を少し細めながら、意識を覚醒させた。

 

「あ、起きた!!」

 

「ふぅ、やれやれだぜ……お前さん大丈夫か? 手荒に起こして悪かったな」

 

 その様子を見た二匹のデジモンは、無事に救助が出来た事にふぅと息を吐きながら胸を撫で下ろす。

 

 しかし、何やら助けられた恐竜デジモンの方は二匹の姿が視界に入るや否や目をこすり始めた。

 

 まるで、これは夢かと確認するアニメのキャラクターのように。

 

「………………」

 

 まず、恐竜型デジモンは無言で二匹を凝視する。

 

「……何をそんな驚いた顔してんだ? 驚かそうとした覚えはねぇぞ」

 

「君、大丈夫……?」

 

 流石に理由も無く、未確認生命体を見るような視線をされてはたまらないのか、エレキモンは恐竜デジモンに対して自分から問いを出した。

 

 一方のベアモンは、自分達に向けられている視線に対する疑問の答えを得ようとしていたが、結局思いつく事は無かった。

 

「…………で」

 

『で?』

 

 返って来たのはたった一文字の、意味を為さない言葉だった。

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

「で、でででででデジモンッ!?」

 

 次の瞬間、赤い恐竜デジモンは口を大きく開け、腹の奥底から響き渡るようなシャウトをかましていた。

 

「……え?」

 

 その返答は流石に予想外だったのか、エレキモンとベアモンはほぼ同時に頭に疑問符を浮かべながら、一文字の言葉を無意識の内に吐いていた。

 

 だが、そんな彼らの疑問を解決する前に驚愕その物の表情で、恐竜デジモンは二匹に対してと言うよりはこの状況に対しての疑問を、そのまま口に出している。

 

「ななな、何でデジモンが!? 俺はデジタルワールドに転移(トリップ)でもしちまったってのか!?」

 

(とりっぷ……?)

 

 返答もせずに理解の出来ない独白を続ける恐竜デジモンにエレキモンは内心で『何だコイツ』と思い、内心で疑問を浮かべているベアモンを余所に、試極当然のように怪しい物を見るような目をしながら答えを返す。

 

「……よくわかんね~けど、デジタルワールドに決まってんだろ? お前もデジモンなんだから」

 

「……えっ?」

 

 エレキモンの何気も無く語った世界(デジタルワールド)の常識に、恐竜デジモンはまたもや意味を成さない一文字を口にする。

 

 一瞬だけ、思考が停止したように固まった後……今度は独白では無く、返事としての言葉を返す。

 

 

 

 

 

 

 

「……何言ってんだ、俺は人間だぞ……?」

 

「……お前さん、何を言ってんだ? どう見てもその姿はニンゲンじゃないだろ」

 

 互いに訳が分からなかった。

 

 エレキモンは、何故このデジモンが自分自身の事を人間――デジタルワールドで架空の物語として語られている存在であるはずの、人間だと言っているのかに対して。

 

 恐竜デジモンは、ただ単純にエレキモンの言葉に対してだ。

 

(……いや、まさか、そんな訳が無いだろ……)

 

 恐竜デジモンの思考に一つの不安が過ぎると、突然周りを見渡し、視界に入った青く広がる海の方へ向かって足早に駆け始めた。

 

「エレキモン、あのデジモン一体何なんだろ?」

 

「さぁな。一つだけ言える事は、明らかに頭がおかしい奴だって事ぐらいだ」

 

「ニンゲンって、御伽噺(おとぎばなし)とかに出てくるアレの事だよね?」

 

「だと思うが……絵本とかに出てくるニンゲンは、少なくともあんな姿じゃないだろ」

 

 ベアモンはエレキモンに対して素直に疑問を口にするが、エレキモンは恐竜デジモンを怪訝な想いで見ながら、ただ答えの無い言葉で応える以外に何も出来なかった。

 

 そして、海面を鏡代わりに自身の姿を視界に捉えた恐竜デジモンは――

 

 

 

 

 

 

 

「嘘……だろ……!?」

 

 目に映った現実を信じられないように、思考が拒絶反応を起こし、ただ疑問形の言葉を吐き出していた。

 

 鋭利で長い爪が生えた前足が、爬虫類のような獰猛な顔立ちが、腰元から生えて動揺と共に揺れる尻尾が、全身の紅色が。

 

 そして、腹部に見える危険の象徴とすら呼べる印が。

 

 今の自分の姿を物語っていたからだ。思わず彼は、その怪物の名を口に出す。

 

「俺が……ギルモンに成ってる……!?」

 

 気持ちの焦燥感を表すように、波の音が強くギルモンの耳を叩くのであった。




今回はデジモンサイドの物語なので『デジモンが見た場合』の三人称。

なので、突然自分の事を人間言う『彼』に対する反応は、むしろこれが当然だったり思います。

『人間にとっての常識』と『デジモンにとっての常識』は違いますし。
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