DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
いやほんと、一月に入ってからはニコニコ動画の方で動画投稿まで始めたり、小説面でもモンハンの小説を書き始めたりと何考えてんだお前状態でしたが、何とか綿密に書き続けて最新話が完成しました。
今回の話もまたストーリーの進行度的には殆ど進んでませんが、台詞の量以上に『動き』を意識した戦闘描写を色々組み込んでみました。色々な原作に詳しいお方なら、一部アクションの元ネタも把握出来るかも? です。
それでは、本編をどうぞ。
狭苦しい裏路地には、逃げ道と言えるような道が基本的に前方と後方の二つにしか無い。
身を隠し、飛び道具から身を守れるような遮蔽物も存在せず、喧嘩でも行われれば基本は殴り合いの一本道のみ。
雑賀はこの場に居合わせた時点で、最低限状況の分析を済ませていた。
目前と背後から殺気を飛ばす
(……目の前の奴は『ダークティラノモン』で、後ろのは『ゴリモン』と『タスクモン』か。ご丁寧に重量級のパワー系が揃ってやがるな……)
目を見張るのは、取り囲んでいる相手の
どれも『ただの人間』のそれとは明らかにかけ離れていて、一撃で人間の頭部ぐらいは吹き飛ばしかねない筋力を有している事は見るだけで察する事が出来る。
同じ
狭苦しい路地では、自慢のスピードを活かしきれるほどの空間も無い。
ふと、自分にとっては初戦となる司弩蒼矢との戦いが脳裏に過ぎった。
思えば、あの場面でも地の利が自分には向いていない場所での戦いになっていた。
人間の運とは平等な物で、その時その時で不幸な人は『溜め』の期間であるだけで、それが長くて苦しいものであるほど後々たっぷり幸運が待っているのよー……なんていう都市伝説もあった気がするが、現実を直視してみれば実際はこんな所である。
幸運など、自分から求めるだけ無駄な物なのだと、牙絡雑賀はつくづく思い知らされた。
だが、それでも幸運と言える物はあったのかもしれない。
司弩蒼矢との戦いとは明確に違う、自分にとっては巨大なアドバンテージとなる要因。
それは、今の牙絡雑賀は何の妨げも無い陸地に足を付けられている、という事。
足に力を込め、駆け出したその瞬間。
銀色の体毛を生やす狼男の雑賀は、黒い恐竜――ダークティラノモンの力を宿す
元々、距離自体はそこまで離れてはいなかった。
原型となっているデジモンの動体視力が優れているからか、黒色の恐竜人間はすぐ反応して異常発達した豪腕を振るおうとした。
だが、それよりも先に、駆け出した勢いのままに雑賀は跳躍し、恐竜人間の顎下を右膝で蹴り上げる。
「ぐっ、へぇっ!!?」
ゴッ!! と、重々しい打撃の音が路地に響く。
恐竜人間の体が宙に浮き、反動で着地した雑賀はそのまま拳で連打する。
上殴りの打撃が腹部に捻じ込まれる度に、恐竜人間の喉から胆でも吐き出すような声が漏れる。
が、
(重っ……!?)
外見は人間よりも少し大きい程度だが、それでも余程の重量があるのか、殴り付ける度に雑賀の腕に負担がかかり痛覚が警告を発する。
更に言えば、仲間が攻撃されているこの状況――妨害の手が回ってこない方がおかしい。
昆虫鎧の人物と相対していたゴリラ獣人な
「くたばれッ!!」
その体が秘める脚力を活かして高く跳躍し、黒い感情の篭った一言と共に凶弾を放つ。
赤白いエネルギーが指向性を伴って雑賀の背中を目指して向かって行く。
だが、その斜線上に重なるように、昆虫剣鬼が同じく跳躍し、
「させるか」
その両手に交差させ携える
一定の形を保てなくなった赤白いエネルギーは昆虫剣鬼の所へ届く間も無く霧散し、呆気なく風景から消滅する。
と、そこで飛び道具を防がれた事を確認したもう一体――両肩から太長い牙を生やした緑色の恐竜人間が、迎撃のちに着地しようとする昆虫剣鬼に向けて突進を仕掛けようとした。
無論、その突進の進行方向上にはまだ雑賀の姿がある。
避けようとすれば、背中の方から確実に重量級の一撃を食らってしまうだろう。
予想するまでも無くそれを理解した昆虫剣鬼は、再び両手の獲物を交差させて構える。
鉄筋にハンマーを叩き付けたかのような甲高い音と、車両が急ブレーキした際に発するそれにも似た摩擦音が裏路地に響く。
二本の牙の猛威を二本の刃で受け止めた昆虫剣鬼の足が、その威力によって数メートル近く押し出され、両脚の外殻がアスファルトの地面と擦れて音を立てたのだ。
「……ぐっ……!!」
擦れた影響で強い熱を発する外殻から痛みを感じているのか、あるいは突進の威力を無理に受け止めようとしているからか、昆虫剣鬼から篭った呻き声が漏れる。
そして、痛みに意識を向けたその瞬間を見逃すわけも無かった。
緑の恐竜人間が押し出す力をそのままに、太く発達した両腕を伸ばし、昆虫剣鬼の両腕を掴んだのだ。
腕力の差異からか、抵抗しようにも動かす事も出来ない。
無論、その場から退く事も。
「!!」
「捕まえたぜ……おい、抑えてやるから撃っちまいな!!」
「気が利くじゃねぇか。今度何かおごってやるよ」
目の前で、緑の恐竜人間とゴリラ獣人による余裕を含んだ掛け合いがあった。
ふと声のした方を確認してみると、右腕に砲口を携えたゴリラ獣人は裏路地の壁――即ちホテルの窓縁に左手を掴まらせ、上方から昆虫剣鬼と雑賀を狙い撃てる位置に居た。
最初に雑賀を狙って放った射撃の際、同時に狙い撃てる位置で待機したのだろう。
砲口に再び赤白いエネルギーが溜まり始める。
斜線から考えて、砲弾が途中で曲がったりしない限りは誤射が発生する確率も低い。
腕を掴まれている昆虫剣鬼には、再び自前の武器を振るって砲弾を霧散させる事も、避ける事も不可能。
故に、状況を打破するのはもう一方――牙絡雑賀の方だった。
サンドバックのように殴り続けていた黒い恐竜人間を右ストレートで打ち飛ばすと、彼は即座に振り返り、左右の壁を力強く連続で蹴り――ゴリラ獣人の居る方に向かって跳んで行く。
ジグザグとした軌道で迫ってくる雑賀に気が付いたゴリラ獣人は、流石に予想外だったのか驚きの声を上げる。
「忍者か何かかよテメェは……!!」
「ウェアウルフだ。悪いか!!」
昆虫剣鬼へ向けていた砲口を雑賀の方へと向け、二発目となる砲弾を撃ち出すゴリラ獣人だったが、雑賀は更に壁を蹴って上方へ向かう事でそれを回避し、そのまま跳び掛かる。
咄嗟に、ゴリラ獣人は来るのであろう打撃を窓の縁を掴んでいない方の腕――即ち砲身を供えた右腕で顔を防御しようとしたが、雑賀の右拳は防御の行き届いていない腹部へと捻じ込まれた。
鈍い音と共に窓の縁から手が離れ、使えるようになった左腕を足掻くように振り回そうとするゴリラ獣人だったが、その前に雑賀は落下の勢いのままに左の裏拳を叩き込む。
そして、
「これで、ラストだっ!!」
アスファルトの地面に激突する瞬間、ダメ押しと言わんばかりに踵落としが決まった。
背中に落下の衝撃、腹部に踵落とし――そのダメージを同時に与えられたゴリラ獣人の口から紅い液体が漏れ、そのまま沈黙する。
その一方で、打撃を加えたゴリラ獣人の体をクッション代わりにして安全に着地した雑賀は、目を細めながらこう呟く。
「……普通の人間なら致命傷だろうが、ダメージを受けたのがその体なら死にはしないだろ? 『ゴリモン』の力を使ってんだからな」
気を失ったからなのか、ゴリラ獣人だった人物の体は光の繭に一瞬覆われたかと想うと、本来の姿なのであろう――上半身に真っ黒の布地の上にペンキでも使って塗りたくったらしい白色のドクロマークが描かれたTシャツを着た青年の男の姿に戻っていた。
その衣装に若干の疑問こそ覚えたが、雑賀は意識を戦闘の方へと戻す。
確認してみると、つい先ほどノックアウトした(つもりの)黒い方の恐竜人間が立ち上がろうとしていて、更に昆虫剣鬼の両腕を掴んでいる緑色の恐竜人間が怒りの形相を雑賀に向けていた。
緑色の恐竜人間は昆虫剣鬼の両腕を掴んでいる両手と腕に力を込めると、そのまま力任せに昆虫剣鬼の体を雑賀の方へとブン投げる。
予想の外にあった行動に雑賀の反応が遅れ、半ば受け止めようとしてみたがそのまま激突。
鈍い痛みが体を伝い、衝突し合った二人の
「ちっ……ピエロ野郎の分際で足掻きやがって。さっさと嬲らせやがれよ」
「……っ……誰がお前等みたいなのに黙って嬲られるもんかよ」
「同感だな」
緑色の恐竜人間の勝手な台詞に適当な言葉で返しながら、狼男と昆虫剣鬼が立ち上がる。
この瞬間、二人は背後に向かって走り出せば、裏路地から脱出出来る位置に居た。
だが、彼等はこの場から『逃げ』ようとはしなかった。
ここは自分達が戦わないといけない場面だと、ここで逃げたら自分達以外の誰かが被害を被る事になると、そう言い聞かせているように。
あるいは、彼等に宿るデジモンの闘争本能がそうさせるのか。
どちらにせよ、戦意に変わりは無い。
彼等は相手に聞こえないように少しの言葉を交えると、まず雑賀の方が前へと駆け出していく。
それに続く形で、昆虫剣鬼も両手に大鎌を携えたまま駆け出し始める。
対する緑色の恐竜人間が人外のスピードで迫る雑賀の顔を鷲掴みにしようとしたが、雑賀は先の『黒い方』と同じように顎の下を思いっきり蹴り上げ、その威力でもって脳を揺らす。
が、
「グッ……いってぇじゃねぇか糞犬が……!!」
「!?」
威力が足りなかったからか、あるいは雑賀自身が想像していたよりもタフだったのか、緑色の恐竜人間は顎を蹴り上げられ脳を揺さ振られても倒れようとせず、そのまま雑賀の頭を本当に鷲掴みにした。
そのまま持ち上げ、更に握り潰そうとでもしているのか、鷲掴みにした雑賀の頭部からミシミシと音が鳴り始める。
思わず昆虫剣鬼は駆け出した足を止め、どうするべきか思考する。
普通に自分の持つ武器で攻撃しようとすれば、味方である狼男の雑賀ごと斬ってしまう。
自身は無いが、空中から飛び掛ってみるか――そう考えた時だった。
雑賀が右手の指を真っ直ぐ後ろ――即ち昆虫剣鬼の方に向け、そのまま今度は指を上に向けたのだ。
それを見た直後、昆虫剣鬼はその行動の意図の理解に時間が掛かった。
上から行けと行っているのかと思ったが、数秒が経ってからようやく理解が出来た。
彼は、暗にこう伝えているのだ。
俺に構わず、こいつを斬れ。
大きな疑問こそ残るが、この状況では信じてみる以外の方法が思い付かない。
昆虫剣鬼は止めていた足を再び前へと駆け出させ、その最中に両手に持つ大釜を半分だけ回す。
たったそれだけの動作で、獲物の首を捕らえ断ずる大鎌は、単純に様々な物を切り裂く役割を担う曲剣と化す。
(……こいつごと斬るつもりか?)
一方で、緑色の恐竜人間もまた疑問を覚えたのか、雑賀の頭を鷲掴みにしたまま視線だけを昆虫剣鬼の方へ向けていた。
恐らくは見知らぬ仲なのであろう事は、先のやり取りの中でも想像が付いている。
見捨てたにしろどちらにせよ、好都合な展開だと思えた。
(こいつを盾にして、その後に今度はあの虫野郎を潰してやる)
そこまで考えて、不敵に笑みまで浮かべて。
ふと、自分が狼男の頭を鷲掴みにしている右手が、少し熱さを帯びたように感じた。
そして、それに気が付いた時には全てが遅かった。
瞬間、緑色の恐竜人間の右手が中から
「あ、つぅ……ッ!! がああああっ!?」
余程耐え難い激痛が襲いかかってきたのか、彼は殆ど反射的に雑賀の頭から手を離してしまう。
開放された雑賀の口元からは青白い炎が吐息のように漏れ出ていて、それは彼が自身の持つ技を用いた事実を示していた。
雑賀は着地した後すぐに上方へと跳び、入れ替わるように昆虫剣鬼が緑色の恐竜人間の懐に潜り込み――斜めの軌道に一閃。
ダメージが許容量を越えたのか、緑色の恐竜人間は後方へ倒れ込んだ。
斬られた部分が痛むのか、苦痛を帯びた声を漏らしながら左手で傷の部分を触っている。
やがてその姿も『元の姿』へと転じ、先のゴリラ獣人に成っていた男と同じTシャツを着た別の人物の姿が露になる。
これで、残る敵は一体――立ち上がった黒い恐竜人間だけ。
「……っ……」
数の利で逆転された故か、黒い恐竜人間の表情には焦りの色があった。
それでも逃げようとしないのは意地っ張りなのか、あるいは勝算でもあるのか――そう雑賀が考えた直後、黒い恐竜人間は大きく息を吸ったかと思えば猛烈な火炎を吐き出してきた。
それは、ティラノモンとその亜種に該当されるデジモンが主に使う必殺の攻撃手段である。
膨大な熱量を含んだ炎が迫り来るその時、着地していた雑賀が大きく息を吸い込んだかと思うと、思い切り地面に向けて吹き出した。
すると、雑賀と昆虫剣鬼の目の前には瞬く間に大きな氷の壁が発生する。
火炎は氷の壁に遮られ、焼くはずだった相手には届かない。
ならばと言わんばかりに、黒い恐竜人間は口から火炎を吐き続ける。
障害となる氷の壁を火炎で溶かし、そのまま壁の向こう側にいる雑賀と昆虫剣鬼を焼こうとしているらしい――が、それよりも先に別の出来事が起きた。
圧倒的な炎に熱された氷の壁から大量の水蒸気が発生し、強い爆風と共に辺りを霧にも似た白い蒸気が覆っていったのだ。
それに巻き込まれた黒い恐竜人間は吹き飛ばされこそしなかったが、唐突に発生した爆風に思わず目をつぶり、肺の中から空気が無い状態が長く続いた事もあってか息を過呼吸気味に吸い込み始める。
それが、命取りだった。
互いに相手の姿を捉える事は出来ず、距離感を計り切る事が難しいこの状況。
視界を塞がれ、水蒸気に嗅覚さえ阻まれて――それでも尚、状況を正確に把握出来る者が一人だけ居たのだ。
それは、全身を深緑色の甲殻で覆った昆虫の剣鬼。
彼だけは頭部から生えている
故に、裏路地に満ちた水蒸気など意に解せず、彼は真っ直ぐに狙うべき相手の元へと突っ走っていく。
その両手に持った刃物の役割を、あくまでも曲剣のままにして。
刃物を携えた両腕を上に振り被り、跳躍し、そして。
「――
一閃。
黒い恐竜人間の体を縦方向に大きく刻み、その体から戦う力を大きく削ぎ落とす。
出血と共に発した鋭い痛みに黒い恐竜人間は絶叫を響かせ、瞳から小さな涙を垂らしながら尻餅を着いた。
◆ ◆ ◆ ◆
事実から言って、戦闘は終了した。
仲間だったのであろうゴリラ獣人――『ゴリモン』と呼ばれるデジモンの力を宿した
その上で『ガルルモン』の力を行使したままの雑賀は、地面に尻餅を着く形で座り込む黒い恐竜人間を見据えながら、こう言った。
「……終わりって考えても良さそうだな。この状況……お仲間さんが目覚めでもしない限り、どうにもなんないだろ」
「ナメてんのか。殺すのならさっさを殺せよ……唐突に現れて邪魔をしやがって。何なんだよお前は!!」
「カッコ付けで言ってるのバレバレだぞ。どうせ言うのならその震えを解いてからにしろ」
「……クソ野郎め……」
言うだけ言ってから、雑賀は続けて昆虫剣鬼の方へと視線を向ける。
戦いが終わったという事実も相まってか、何処かピリピリとしていた雰囲気も大分和らいでいるようだった。
彼は、軽く溜め息を吐いてから言葉を切り出し始める。
「助けてくれた……って認識でいいんだな。ありがとう、正直危なかった」
「別にいいって。それより、俺も事情を知らないまま割り込んだわけだけど、こいつ等って一体何なんだ? どうしてお前の事を襲ってたんだ?」
「こいつ等が何なのかって点については俺も知らない。ただ、何で俺の事を襲って来たのかって点だけは察しがつくな」
昆虫剣鬼は、その視線を黒い恐竜人間の方へと向けて、
「お前、多分少し前に俺が戦った連中の仲間だろ。
「何でお前如きに喋らないといけな……」
と、そこまで言いかけた黒い恐竜人間の口が唐突に止まった。
その理由は単純――――首元に昆虫剣鬼が右手に持った刃物を『曲剣』の形で据えたからだ。
彼は低い声でこう言い放つ。
「喋らないとノコギリに斬られる木材みたいな事にするぞ」
「っ……その外見といい、お前特撮とかだと絶対悪党側だろ……」
「別に正義の味方とか名乗ってるわけじゃないからオールオッケー」
昆虫剣鬼と黒い恐竜人間がやり取りしている横では、狼男の姿な雑賀が内心で呟いていた。
(……まぁ、鎌で首を狩り取るぞーって脅迫するよりは想像のし易さから考えて効果的だわな)
脅迫してる様子を見ながら関心している辺り、彼も彼で思考が残酷系なのかもしれない。
下手をすればその辺のチンピラよりも悪党っぽい二人を前に、黒い恐竜人間の震えは更に強まっていく。
「で、結局お前等は何者なんだ。暴力団か何かか?」
「……ちっ、俺達は……」
彼がそこまで言い掛けた時だった。
「……お前達。何をやっている……」
裏路地に、第三者たる男の声が入り込んできた。
その人物は先ほど戦ったゴリラ獣人――ほどでは無いが、一言で『大男』と呼称しても差し支えの無い体格に、少々生地が傷んでいる安物のジャケットを羽織っており、内側から力を加えればそれだけで弾け飛びそうな印象があった。
一見破壊の権化のような姿だが、その口調は陰鬱な物。
まだ牙絡雑賀を含めた三名ほどが姿を変えたままで、裏路地には周囲から存在を隠蔽する力場が発生している。
その上で『気付いて』近付いてきた、という事は――――入り込んできたこの人物も、何らかのデジモンを脳に宿した
「…………」
裏路地に、再び緊張が走る。
入って来た男が敵か味方かによって、雑賀達の運命も決定するかもしれない。
一先ず雑賀が問いを飛ばそうとしたその時、何故か黒い恐竜人間が震えた口調でこんな言葉を漏らしていた。
「あ、アンタ……まさか
「……お前か。まだ、こんな事をしていたんだな……いい加減にやめたらどうだ……」
どうやら、このチンピラな
言動から考えるに、どうやら雑賀達の敵というわけでも無いようで、その一方で黒い恐竜人間を含めた三人の味方というわけでもないようだ。
彼は視線を雑賀と昆虫剣鬼の方へ向けて、
「……どうやらこいつ等が迷惑をかけたようだな。すまない……」
「突然謝られても困るんだが……アンタ、そいつ等の知り合いなのか?」
「……そんな所だ。少し付き合いがあった。過去の話だがな」
「?」
何やら込み入った事情があるようだが、当然ながら雑賀にも昆虫剣鬼にも解らない。
構わず、浦瓦と呼ばれたその男はこう告げた。
「……ひとまず、こいつ等については俺が通報しておこう。いくら『力』を使っている時に普通の人間から捕捉される事が無いとはいえ、そんな風に怪我をしてしまっている場面を発見されれば流石に病院行きは免れないからな」
「でも、こいつだけは普通に変身状態を維持してるぞ。そこはどうすんの?」
「頭でも叩いて気絶させれば早いだろうな」
そこまで聞いて、居ても経ってもいられなくなったのか、黒い恐竜人間はこんな事を言ってくる。
「なあ、浦瓦の兄貴!! 昔のよしみで助けてくれよ!! 俺達、前は……」
「いいから寝てろ」
が、その言葉を言い終えるよりも先に、雑賀がその足を恐竜人間の頭部へ落とし、その意識を刈り取る。
すると、昆虫剣鬼は何を思ったのか顎に右手を当てて、
「通報してくれるのはいいんですけど、俺や……このオオカミ人間もどきは帰ってもいいんです? 正直、もうここでの用事というか面倒事は無くなったっぽいんで、立ち去りたいんですけど」
「ん。その辺りは自由だと思うが。俺は恐らく警察に事情聴取を受けるだろうが……君達の場合、むしろ加害者として疑われそうだから、どちらかと言えば去った方がいいだろう……」
言われて、一礼した後に二人は裏路地から脱出する。
残った浦瓦は、倒れて気を失っている三人の方へ目をやりながら、懐のポケットからスマートフォンを取り出して、民間の間では馴染みの深い電話番号を打ち出しながら、小さな声で呟いた。
「……過去は消せない、か……」
裏路地から脱出した後、最寄の児童公園にて周囲に誰もいない事を確認した二人の
そして、雑賀は軽く息を切らせていた。
「……だ、ダメだ。すげぇ疲れた。テレビゲームの見様見真似で壁キックとかするんじゃなかった。ぐああ足の筋肉超痛い!! 結局行使してんのは自分の体だもんなぁ……!!」
「普通あんな事したら筋繊維とかがブチッと鳴りそうだし、その程度で澄むだけマシじゃないか?」
「……つーかお前余裕だな。疲れてないように見えるんだけど気のせいか?」
「そりゃあ疲れてるけど、あそこまでハードに動き回ってたわけでも無いし。あるいは、単に基礎体力の問題じゃないかな」
「帰宅部の弊害がこんな所で来るかよ……」
吐き捨てるような調子で苦言を漏らす雑賀の目前に居るのは、先ほどの戦闘の際に昆虫剣鬼な姿だった青年。
身長にして百七〇メートル程はあり、髪の毛は特に何かで染めているわけでもないらしい黒色のツンツンヘアー。服装としては上半身には肌着無しのまま深緑色のTシャツ、下半身には一般的な灰色のハーフパンツ。昆虫鎧な姿の時には気付かなかったが、そのポケットは財布でも入っているのか目に見えて膨らんでおり、実は小金目当てで狙われたんじゃねぇの……? と雑賀は考えたが、あの『戦隊ヒーロー物なら全員揃ってグリーンポジション』なチンピラ三人組の言動から察するに、恐らく財布は『ついで』だったのかもしれない。
ふと、思い出したかのように雑賀は言う。
「そういやお前、名前は? 俺は牙絡雑賀」
「
通り縋っただけでも、合計五人の
あるいは、自分が知らなかっただけで、他にも多くの『力』を宿す人間が潜んでいるのか。
昆虫剣鬼――正確には『スナイモン』と呼ばれるデジモンの力を宿す青年と邂逅しながら、雑賀の心には拭いきれない不安が刻まれていた。
……と、いうわけで最新話でしたが、いかがだったでしょうか?
今回の話はほぼ完全に戦闘描写オンリー。司弩蒼矢戦の時のような『感情のぶつけ合い』などサラサラ無く、殆ど『獣同士の殺し合い(片方は殺す気ほぼ無し)』って感じになりました。
デジモン作品の戦闘描写は、割と『必殺技』とか『得意技』を前面に出して描写される事が多いと思うのですが、この作品の『現実世界サイド』ではその傾向がかなり薄いです。とにかく『動き』と『戦術』で見せる!! って感じを意識して書いてますが、読者の方々からの視点だとどう映ってるのやら。
数の利で思いっきり不利が出ていた……ように見えますが、実を言うとバトルフィールドが狭苦しい『裏路地』だった所為で、敵『ダークティラノモン』『タスクモン』のデューマンは必殺技に該当される技を使えなかったのです。片や路地を直線状に焼く火炎放射(味方も巻き込む)。片や破壊力満載でも途中で止まる事は難しい突進攻撃(味方もひき殺しかねない)ですからね。その中でも、『ゴリモン』のデューマンの場合、その身体的な特徴を活かして上方から射撃が出来ていたので、実はこいつがキーマンだったのかもしれません。
今回大立ち回りだった雑賀もそうですが、昆虫剣鬼――『スナイモン』のデューマンである野入葉(やいば)徹(とおる)の活躍も、かなりの物だったと思います。
相手の飛び道具を真空の刃で断ち斬り、突進攻撃を(結構無茶しましたが)受け止め、その武器で実質的に二人をノックアウトさせたわけですからね。特に、最後の辺りは昆虫系の利点が最大源に活かせてたと思います。何というか、感知方法が多彩な奴はああいう場面でこそ強いですよね。
……仕方無いとはいえ、未だに『周囲の物質の上方を書き変える』という設定が活かされていないのが心残りですかね。まだ先の話になると思いますが、司弩蒼矢戦のような状況を早く書きたい……。
次回でいよいよ(外伝含めると)50話目。お楽しみに!!