DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
というか早くしないと『第二章』が始まってから軽く二年経っちゃいそうでやべぇわやべぇわーっ!! 一週間に一更新とか出来れば最高なんですがそうもいかないのが現実だっていう。
ともあれ、今回の話はようやっと数話前の伏線回収くさいお話になります。
デジタルモンスターが原作な話なのにデジモンが殆ど登場しない『第二章』も、ようやっと終点が見えてきた気がする中、実際にはあと何話続くか想像も出来ていない作者による最新話、それではどうぞー。
時刻は午前十一時頃。
学生であれば午前中最後の授業が始まっていて、自前の筆記用具を手にガリガリとしているべき時間だが、縁芽好夢は学校の敷地外――つまるところ自動車や
平日、それも午前中に割りと名門らしい野弧霧中学校の生徒が街の中をぶらぶらしていると知られればアメリカン系のイケメン外語教師は崩れた日本語を乱発し、見た感じではお上品でも実際はスパルタ系な女性の体育教師は毛の色を金色に逆立てて少年バトル漫画ばりの瞬間移動でもして来そうな所業だったが、今回に関しては正当な理由が存在する。
彼女がスカートの下に履いている(思春期な野獣どもからすると忌わしい)短パンのポケットから取り出したプリントには、こう書かれていた。
『地震!! 雷!! 火事!! 親父!! 防犯オリエンテーションのお知らせ。頻繁に発生している生徒の行方不明事件に対抗するため、此度の東京都の各小学校や中学校、及び高校では学校の垣根を取り払い、防犯に対する意識と能力を高める目的で野外でのロールプレイを実施しております。各自くじ引き等で決められた役割を演じる事でスタンプを与えられます。目指せスタンプカード制覇!! 制限時間の間に集めたスタンプの数に比例した内容の、イベント限定の学食メニューが貴方を待っています!!』
(……根本的に地震も雷も火事も親父も関係無さそうなんだけどなぁ……)
ひょっとしたら、最初は放火犯対策で行われていた避難訓練が犯罪の増加に伴って肥大化し、結果として包括的に犯罪全般に対処するこの行事へ形を変えていったのかもしれない。
プリントに表記されている
現在進行形で実施されているロールプレイの『役割』は、そんな文章の下に記載されていて、
『生徒の皆さんが演じることとなる役割は以下の三種類です。
人質役、とにかく犯人役の生徒から逃げてください。二分間経過するごとにスタンプが一個貰えます。犯人役の生徒に捕まってしまった場合、そこまでの時点で集めていたスタンプは全て取り消しとなります。尚、治安役の生徒にタッチする事で任意の間だけ犯人役から身を守ってもらう事が出来ますが、その間はスタンプを1分間ごとに1個取り消しとなります。白色の
犯人役、とにかく追い回してください。人質役の生徒にタッチする事で、人質役のスタンプを全て奪う事が出来ます。ただし、治安役の生徒にタッチされた場合はそこまでの時点で集めていたスタンプは全て取り消しとなります。赤色の
治安役、犯人役の生徒を捕まえてください。犯人役の生徒にタッチする事で、犯人役の生徒からスタンプを全て奪う事が出来ます。また、人質役の生徒から保護の要請されている間は、1分間ごとにスタンプを一個押す事が出来ます。上記の人質役や犯人役と違い
尚、学校の位が下の人質役を犯人役がタッチしても、犯人役と治安役がタッチしても、スタンプは奪う事が出来ないのであしからず。
また、今回のイベントを利用して痴漢や暴行に走る生徒が居た場合は厳正に対処するのであしからず。ルールを守りながら犯罪に対する免疫力を高めましょう!!』
(……全体的に、これって要するに鬼ごっこよね)
まぁ、実際問題何者かに『追い回される』状況をわかり易く作れる遊びの一つではあるのだが、学校の敷地だけではなく街の中まで含め、更には他の学校の生徒と合同で行うという発想の時点でスケールがぶっ飛んでいる気がする。住民に迷惑は掛からないのだろうか? という疑念を覚えなくも無い。
ちなみに、くじ引きによって決められた好夢の役割は人質役。
言ってしまうと、彼女は今回のイベントを楽しめてはいなかった。
そもそも行事の方向性から考えても楽しむ楽しまないの問題では無いのだが、さしてロマンチックな話があるわけでも無く人死にやらえげつない法律やらがピックアップされる歴史の授業と同じで、善悪よりも好悪の方が優先されるのかもしれない。
いかに欲しくなかった商品でも、期間だとか季節だとかに因んだ限定物というステータスを含んでいれば、それだけで大抵の人間は『欲する』ように思考を誘導されるものだが、彼女には全く別の方向に優先すべき事柄があったのだ。
つまるところ、
(……結局、苦郎にぃや雑賀にぃが『隠していること』って何なのよ……?)
そう。
先日から今日にかけて、脳裏から離れることを知らない総合的な疑問。
知ろうとすれば『らしい』言葉で受け流され、いかにも彼女を『何か』から遠ざけようとしている、そもそもの理由。
それが、知ってしまえば何か取り返しのつかない出来事に発展してしまうかもしれないなんて事は、何となく勘付いていた。
だけど、
(……それでも、知らないといけない……いや、知りたい。こんな願いは偽善でしかないのかもしれないのは解ってる。だけど、知ってる人がいなくなったんだ。あたしの学校の、同じクラスの子だって。もう、その時点であの『事件』は対岸の火事じゃない。雑賀にぃだって、そう考えたからもう動き出しているはずなんだから)
自分に対して向けられている言葉が嘘である事は容易に想像が出来た。
きっと、自分が同じ立場に立ったら、身近な人を巻き込まないように心掛けるだろうから。
だから、知るためには自分から核心へ迫る必要がある。
そういう意味では、この防犯オリエンテーションにおいて『追われる』事の無い治安役を望んでいたのだが、現に彼女は人質役として防犯オリエンテーションに参加している。
役割を見分けることが出来るよう右腕に巻きつけられた白色の襷がその実情を表していた。
……見分ける材料として使われている襷の色が白と赤『だけ』な辺り、明らかに運動会で使う物を使い回ししている事が窺える。
「……うーん……」
いっその事、スタンプの事など考えずに探りを入れるべきだろうか――と思わなくも無いが、それで犯人役に見つかってスタンプを全没収される事を考えると、何処か負けた気持ちになって癪なのだ。
人間とは、期間限定の事象に弱い生き物である。
街の中を擬似的な鬼ごっこの舞台として設定しているのは、恐らく突然の出来事に対する逃走ルートや道順を暗器しておく意味合いも含んでいる――そう考えると、
逆に、そう考えて別の道を逃げ道に設定している生徒も多いかもしれないが、単純に一本道を走って逃げ切る事には相応の持久力を要する事となるため、どちらかと言えば逃げ道よりも隠れ場所を探す犯人役だって多いだろう。
設定されたルールの上では、犯人役は人質役よりも遅れて行動を開始するようになっており、治安役もまた犯人役よりも後に行動を開始するようになっているからだ。
追い回す事よりも先に、探す事。
尤も、防犯オリエンテーション中に学校を除いた公共の建物内に入る事は禁じられており、そもそも隠れ場所があるかどうかも怪しくはあるのだが。
スポーツ関連ならまだしも、かくれんぼや鬼ごっこといった幼子の道楽の経験に乏しい好夢には、そもそも隠れ場所なんて見当も付かないわけで、
(……げっ!!)
街道の曲がり角の辺りにて、RPGゲームのランダムエンカウントよろしく赤い襷を腕に巻いた何処かの生徒――つまる所犯人役の男子生徒とバッタリ出くわしてしまう。
何処かの、と曖昧な単語が付くのは、制服の柄からして野弧霧中学校の生徒ではないからだ。
それも、何の因果か中学生。
高校生であればルールにもあるハンデのような設定が適用され、被害を受ける事も無いのだが、中学生の生徒となると学年も含めて関係が無くなる。
距離にして、十メートルあるか無いか程度。
触れられれば終わる――スタンプが全部取り消され奪われるだけなのだが、それはそれで嫌だ。
何だかんだ言って、彼女も期間限定という言葉には弱いらしい。
でもって、逃走には裏路地を通る事も無く無事成功。
突然の遭遇ではあったので驚きこそしたが、最初の時点で距離は離れていたからだ。
運動系の部活に所属している事もあってか、数分しない内に彼女は追跡を振り切っていた。
単に走る速さの差から諦めたという可能性も考えられるが、このような行事で相手の事情を考える必要は無い。
(……ったく……帰宅部なのかしら? 張り合いが無い。これならガチの変質者の方がスリルがあるわね)
これが死角からの奇襲だったりしたならば話も変わったかもしれないが、追われる前から姿を確認出来た時点で何の問題も生じない。
後は鬼ごっこと同じで、やる気と根気と走る速さの問題なのだから。
さーてとりあえず逃げる事には成功したしスタンプでも押すか、と気を楽にする縁芽好夢だったが、
「……あれ?」
思わず、怪訝そうな声が出た。
ルールとしてプリントにも表記されている通り、人質役は二分間逃げ切るごとにスタンプを一つ習得出来る。
言い直せば犯人役に捕まらない限り、防犯オリエンテーション開始から経過した時間を半分にした分だけ押す事が出来るわけで、時刻を確認するために彼女は白い襷とは別に腕に付けていたデジタルな腕時計に目をやったのだが、
(……何? 電波の状況でも悪いの?)
時刻を表示するための電子文字が、何やらおかしなことになっていた。
通常、デジタル時計は携帯電話と同じで電波の通じない場所では時刻を表示できないが、彼女の腕に巻かれた時計は一応の時刻が表示されている。
ただしそれは、数秒ごとに数字の零と一をランダムに刻んでいる――そんな、下手しなくとも故障したとしか思えない異常な物だったのだが。
「…………」
一種の妨害電波でもバラ撒いている奴でもいるのだろうか? と考えようとしたが、そこで好夢の脳裏に言葉が奔った。
――『事件とは無関係かもしれないが、少しだけ『怪異現象』ならば見つけたかもしれないという自負はある』
先日前。
――『簡潔に言えば、たまにこの街の空気は一部『違う』ような感じがするって感じだ。風景には何ら変化が無い『はず』なのに、どうにも『違和感』というか何と言うか。大人達には感じられないようだがな』
確か、捏蔵叉美が言ってなかっただろうか。
――『本当に些細なものだから私も大して感じた事は無いのだがな。強いて言えば、その『違和感』を感じる場所でスマフォを弄ってみたら、何故か電波環境が少し悪くなっていたぐらいの変化しか見られなかった』
怪異現象。
電波環境の悪化。
……そして、それ等とは無関係と言い難い違和感の存在。
「……まさか」
好夢自身、半信半疑な情報ではあった。
気に入らない相手の情報だからというわけでは決して無く、単に『そんなこと』が現実に起きるものなのかと疑心を抱いていたからだ。
だが、現に怪異現象と例えてもおかしくない出来事は起きている。
仮に妨害電波によるイタズラだとすれば、そもそも時刻は表示すらされず、画面には横線が並んでいるだけなはずなのだから。
だとすれば、
(……『何か』が近くで起きているっていうの……?)
犯人役の生徒から逃げて、好夢は現在ビルが立ち並ぶ街道から少しだけ離れた場所に居る。
距離としては然程遠いというわけでも無く、歩きでも五分ほどで元の場所には戻れる程度だ。
周囲を見渡す限りでは大きな建造物が見えるわけでも無く、強いて言えば橋の下に恐らくは下水道に直結しているのであろう川が見えているぐらい。
街道から少し離れているからなのか、あるいは社会人は勤務中な頃だからなのか、辺りに人の数は少ない。
視界に映っている限りでも犯人役である赤い襷を巻いた生徒の姿は見当たらず、周辺に見えるのは散歩に出ている老人や飼い犬、あるいは自分と同じ白い襷を巻いた人質役の生徒が何人か見えているだけ。
「……何? この、感じ……」
何か、
例えようの無い、あるいは人の気配とは何かが違う粘着質な視線のようなモノを。
思わず鳥肌が立ち、場違いにも警戒でもするように周囲を見回してみると、
「……な……」
信じられないモノでも見るような声が、少女の口より自然と漏れ出ていた。
形相の時点で明らかに現実より乖離した『そいつ』は、縁芽好夢が立つ位置からほんの五メートル程度――本当に、目視など容易いはずの距離に居た。
全身の体色は外国人だとか日焼けの経験が無いだとか、その程度の言い分では納得出来ないほどに白く。
下半身からは六本ほどの脚――いや、用途から考えるとそれは腕と言うべきだろうか――が生えており、更に上半身からは体重を支えている六本の足とは異なる太く長い触手が四本生えている。
顔は目付きの時点で凶悪そうな笑みを浮かべており、外回りの印象が明らかに人外な一方で、全体の中心とでも言うべき胸部から顔にかけてはやけに人間的な印象を残す外見だった。
総じて言えば、イカ人間。
体躯の時点で大人のそれを越している『そいつ』は、
「あん? 何だ、
まるで、自分の予想を裏切られたかのような、それでいて期待半分とでも言うような声調で人間の言葉を発していた。
重要そうな言葉を発していたが、目の前に迫る脅威に好夢の頭の中は警報を発するのみだった。
逃げろ。
立ち向かうな。
捕まれば無事ではすまない。
「……ッ!!」
咄嗟に踵を返して逃げようとしたが、イカ人間の方がずっと早かった。
走ろうとした好夢の左足に向かって一本の触手を伸ばし、絡め取る事で転倒させてきたのだ。
前方に倒れ込み、体に鈍痛が奔る。
触手から伝わる感覚に、鳥肌が立つ。
「おいおい、ただの人間の足で逃げれると思ってんのか……?」
イカ人間の方は、むしろ呆れたような声でそう言っていた。
まるで、それが当然とでも言うように、常識でも語るような調子で。
言葉に対する疑問を発するほどの余裕も無いのか、好夢には荒い息を吐く事しか出来ない。
どうすればいいのか。
ここからどう動けばいいのか。
答えは出せる。実際には出来ない。現実。
「……ま、構わねぇか。やる事は変わらねぇしよ」
そんな様子を見て何を思ったのか、その声には嗜虐心が宿る。
何処へ連れて行くつもりなのか、イカ人間が無遠慮に好夢の足を触手で引き摺ろうとした、
その直後の出来事だった。
◆ ◆ ◆ ◆
正しく、
斜め上の方向より現れた背中に黄色と茶色の混じった翼を生やした鳥人が、一本の日本刀で好夢を拘束していた触手を切断した。
◆ ◆ ◆ ◆
……と、いうわけで最新話でしたが、いかがだったでしょうか?
今回の話は見ての通り数話前にチラっと出した『防犯オリエンテーション』……をメインに添えると見せかけて、割とポジション的には重要キャラな感じの縁芽好夢視点の話となりました。
この『第二章』の主軸となるキャラはこれまでの話を見て解る通り、牙絡雑賀、司弩蒼矢、そして彼女になるわけなのですが、彼女は前者の雑賀と同じく『知ろうとする』事に関しては積極的にも関わらず、なかなか事件の本質に立てていない何とも可哀想な子だったりしまして、今回でやっと『知る』事が出来る場面に出くわすことが出来たものの、雑賀や蒼矢と異なり黒幕属性なキャラから事前情報を与えてもらったわけでは無いので、対応手段など当然解るはずも無く……見ての通り、謎の鳥人くんの助けが無ければR-18物な展開になる可能性もありました。(紳士共ざまぁw)。
サラっと告げられた情報もありますが、実際彼女がこれから『どう成る』のかは後々の展開を楽しみにしていただければなーと。追い詰められるだけで都合良く覚醒出来るなんて思わない事です。
そして最後の最後にチラっと登場したズバッと解決しに来た鳥人――当然デューマンなわけですが、原型となってるデジモンの種族、何かわかりましたでしょうか? ヒントになるのが翼の色ぐらいしか無さそうなマイナーデジモンです。
さて、それでは今回はこの辺で。また次回をお楽しみに。
感想、質問、指摘などはいつでも待っております。
言っておきますが、この小説はいつまでも健全ですのでご安心を。
PS 日本刀ってロマンだよね。