DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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もう月一更新でいいんじゃないかな(白目)。

んもーう!! すっかり更新遅れてるじゃないですかやだー!!
本当にすいません!! 第二章も割りと佳境なはずであと一週間ちょいでデジスト三周年だってのにここまで遅れて……!! ちくせうちくせう!!
そんでもって今回も話がそんなに進みません。重要な回ではあるのですが、相も変わらずのろのろ進行でございます。

それでは、長く語っていても仕方無いので本編をどうぞ。


七月十四日――『気付けば痛みだけが残って』

 時刻は十二時過ぎ頃の事になる。

 司弩蒼矢は、病院の中庭に設備されている木製のベンチに座っていた。

 率直に言って、彼の心境は憂鬱そのものだった。

 その理由の一つとして挙げられるのが、彼の体に施されたとある処置にある。

 どのような処置が行われたかと聞かれれば、彼の体に失われていたはずの右腕と右脚が存在する、という事実が全てである。

 彼はフレースヴェルグが病室から去った後、医師の意向によって失われた手足を補うため、装具士の手で造られた義肢を装着されたのだ。

 こうして中庭に来たのも、装着された義肢の恩恵あってこその物なのだ。

 

(……本当に、どういう技術で造っているのやら)

 

 蒼矢自身は材質や製造工程などに関しての知識が無かったのだが、多少の違和感こそあれど外見は本物の手と相違が無く、機能面に関しても慣れていけば問題が無くなると思える代物だった。

 義肢の製作及び装着のための金は、彼が四肢の半数を失う原因となった交通事故で結果的に助けた(事になっていた)少女の親が主に負担してくれたらしい。

 義肢に関する情報が記憶に無かったのは、ずっと病室のベッドの上で不貞腐れて他者の話をマトモに聞いてもいなかった所為なのか、あるいは義肢に関する話自体がつい最近になって浮上したからなのか。

 どちらにせよ、蒼矢自身が知らない、あるいは知ろうともしていなかった義肢製作の件に関しては、交通事故のあった後日の時点で既に進んでいたとの事らしい。

 つまるところ、彼にはもう誰かの手足を捥ぎ取るという凶行に出るだけの動機が――無いとも言い切れないが、その動機のために誰かを攻撃する事を許容出来ない。

 彼の精神は燃え尽き症候群と言うより、後悔の波に呑まれて沈み込んでいた。

 

「…………」

 

 もし、最初から偽者とはいえ手足を与えてくれると知っていれば。

 何の罪も怨みも無い学生を襲ってしまう事も、夜間の市内プールで見ず知らずの相手を殺しかけてしまう事も無かったのか。

 そうじゃない、と彼は思う。

 そもそも、彼は思考の中から自然と除外してしまっていたのだ。

 自分なんかのために、誰かが救いの手を差し伸べてくれる可能性を。

 自分が、誰かから大切に思われていると信じられなかった故に。

 自分で自分という存在の価値を勝手に決め付けてしまっていたから。

 だから、

 

(……きっと、こんな気持ちになっているのも、ただの自業自得なんだ)

 

 その事実を認識すると、先日自分がやっていた事の全てが迷惑極まりない茶番のように思えてくる。

 確かに、作り物で偽者の手足と血肉の通った本物の手足のどちらが欲しいかと問われれば、迷わず後者を求めていただろう。

 だけど、求めた物を得るために他人の犠牲を要するのだと知って――自分は本当にそれを許容していたのだろうか。

 もしも許容が出来ず、それでも欲する事だけが思考に残っていたのならば――本能に飲み込まれ、自我も乏しいままに行動していた件が一種の禁断症状による物だったのなら。

 結局、これは自分の意思で招いた結果だったのではないか?

 

「…………ぅ」

 

 思わず、自分自身の手が震えを発していた。

 願望の重複が招いた禁断症状と、それによって生じた自分以外の傷跡。

 間違い無く自身の中に宿っている『力』が引き起こし、手綱を引き絞らなかった自分の浅はかさが招いた出来事だった。

 傷つけてしまった相手も、あの市内プールでの戦いの相手だった牙絡雑賀ぐらいしか正確には思い出せないが、恐らく自分が覚えようとしていなかっただけで実際の被害は更に広がっている。

 そして、そんな取り返しのつかない事をした当の本人はこうして無事に済まされ、失った物も不完全とは言え取り戻している。

 ……それで、本当に良いのだろうか?

 何の罪も何の言われも無いはずの者達がただ一方的に傷付けられ、傷つけた当人は失われていた物を楽に取り戻した上に平然と生き延びている。

 場合によっては死者が発生してもおかしく無かったはずなのに、本当に。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 そんな事を考えている時だった。

 

「あ、あの……」

「…………ん?」

 

 耳の中に、とってもか細い声が入り込んできた。

 本当に小さな声だった故に空耳かと疑ったが、疑問のままに声がしたと思われる方へ視線を向けると、ほんの数メートルほど先におどおどした一人の少女が立っていた。

 服装はとても見覚えのある――というか間違い無く蒼矢が通っていた高校で女子が着ている制服で、その証拠として上半身に着ている白色の制服の胸ポケット付近には龍らしき生物の意匠が見えている。

 容姿の中で特徴と形容出来るのは、サラサラとした長い黒髪のみ――むしろ、特徴が無いのが特徴と言えなくも無く、世間を渡り歩く大抵の女の子のイメージとは異なり化粧や香水の匂いも無し。

 RPGゲームだったら職業は僧侶であろう風貌なその少女は、ベンチに座る蒼矢に対して遠い場所に見える物でも見るような視線を向けていた。

 

「えぇっと……その、私の事を覚えてますか……?」

「………………」

 

 一方で、蒼矢の方も少女の顔を眺めていた。

 同じ学校の生徒という事は、何らかの行事で顔合わせをしている可能性が非常に高い。

 そんな中、相手の方だけが知っていて、自分だけが知らない――と言うより覚えていない。

 思わず紫タンクトップの男ことフレースヴェルグの姿が脳裏にチラ付く辺り、自分に話しかけてくる人間を安易に信用する事が出来なくなりつつある気もしたが、何となくこの少女が『裏』と繋がっているとは思えなかった。

 きっと、知っている人物だろう――そう考え、司弩蒼矢は頭の中に浮かんだ言葉をそのまま口に出した。

 

「誰だっけ?」

 

 特に何らかの異能が関わっているわけでもないのに、少女の姿が現在進行形で少年漫画風のモノクロデザインに変換されているような気がした。

 何か変な事でも言ったのかな? とでも言いたげに首を傾げる蒼矢には、原因が解っていないらしい。

 すると、何とか自力で(主に自分の精神面に)リカバリーを図ろうとしているらしい少女が、再び口を開く。

 

「わ、私は磯月(きづき)波音(なみね)って言います。よく水泳部の練習とかを見に来てました……」

「……あ、そうなんだ」

 

 さして興味も無いと言うより、本当に今初めて知ったかのような蒼矢の態度に、すっぴん少女こと磯月波音のシルエットが更に時代を逆行していく。

 理由をイマイチ理解出来ていない鈍感男こと司弩蒼矢は、頭上に疑問符を浮かべつつ、

 

「まぁ、見てくれていた事については別にいいんだけど。そんな事より、君はここに何をしに来たの? 誰かの見舞いとか?」

「……え、えぇっと……」

「それとも、君も入院……は無いとして、通院でもしてるのかな。見るからに顔色悪そうだし」

「い、至って健康ですっ!! ちゃんと朝ごはんも食べてますし!! ば、馬鹿にしているんですかっ!?」

 

 真面目に予想を立ててみたら少女のテンションが急上昇していた。

 女の子の考えている事はよく解らない――なんて事を内心で呟く蒼矢に向けて、波音は明確に言い放つ。

 

「蒼矢さんのお見舞いに来たんですよ!! 入院したって聞いて何度か来ていたんですけど、声掛けても何の反応も応答も無くて擬似的な面会謝絶状態で……それでやっと今日は普通に会話が出来ると思ってたら、本当に何も覚えてくれてないなんてーっ!!」

「いやだって僕別に賢者とかそういう部類じゃないんだから道行く人の顔とか名前とか全部網羅してるわけじゃないんだから……」

「う、うぅー……」

 

 事情を飲み込めないが、どうやらショックを与えてしまったらしい。

 何となく申し訳無い気持ちになったのか、蒼矢は自ら声を掛ける事にした。

 

「ごめんね。こんな僕のお見舞いに来てくれていたなんて、ちょっと信じられないけど……ありがとう」

「……い、いえ……こちらが勝手に来てただけですし……」

「呼んだ覚えが無いのは事実だけど、それでもだよ。声掛けに気付こうともしなかったのは僕の方だし、本当に来てくれてたのなら嬉しい。少なくとも、今はそう思うよ」

 

 そう言うと、少女の顔色はみるみる良くなっていく。

 頬の部分が少し赤くなっているように見えて、蒼矢は風邪でも引いているのかと疑ったが、

 

「……そ、そんな風に言われても、こちらからは女性器以外何も出せるものが……っ」

「出したら通報して檻に入れてもらうよ」

 

 一瞬の内に声色が冷たくなって告げる蒼矢。

 元気になってくれた事は良い事なので安心出来たのだが、いかんせんこの少女は気分の上がり下がりが激しすぎないか? と別の意味で心配してしまう。

 本当に、女の子の気持ちというのは解らない。

 ともあれ、見舞いに来てくれたという事に関しては、不思議と好意的に思う事が出来た。

 あるいは、そう感じるほどに人との関わりに飢えていたのだろうか。

 ただ、それに気付かなかっただけで。

 

(……本当に、何をやってたんだろう。僕は……)

「……はぁ」

 

 会話の最中であるにも関わらず、場違いな溜め息が漏れてしまう。

 加減など無いそれに波音が気付かないはずも無く、当然疑問を投げかけられる。

 

「……大丈夫ですか……?」

「……体調は悪くないよ。歩く事だって……」

「何だか、凄く疲れているように見えるんです……病院での暮らしの所為ですか?」

「……まぁ、それもあるかもね」

 

 実際には病院での暮らしなど大した事ではないと蒼矢自身は感じているのだが、本当の事情を口にするわけにもいかなかった。

 自分に宿る『力』についても、それを行使して何をしでかしたのかについても、知られる事はどうしても避けたいから。

 恐らく、この少女は何も知らない。

 だからでこそ、こうして安易に近付いて来ているし、自分に対して恐怖の感情だって抱いていない。

 正体が、異形の怪物であるにも関わらずだ。

 この会話だって、見方を変えればさぞ異常な光景に見えただろう。

 

(……なんだか、色んな事が嫌になってきちゃったなぁ……)

 

 この少女ともっと話をしたいと思う一方で、どうしてもマイナスのイメージを払拭出来ない。

 いっその事、何処かに消え失せてしまった方が楽になるのでは、という思考さえ浮かんだ時だった。

 すっぴん少女は、少し考える素振りを見せたかと思うとこんな提案をしてきた。

 

「……うーん。ちょっと気分転換でもしてみませんか?」

「……え。どういう事?」

「言葉通りの意味ですよ。えっと……ほら、落ち込んでいるのなら、何か楽しい事をしてですね……」

 

 確かに、発想自体は蒼矢としても悪くないものだったが、

 

「あの、僕見ての通り患者なんだけど。というか、楽しい事と言ったって……病院の中から出れないとあんまり選択肢も無いような……お医者さんがそんな事を許してくれるの?」

「うっ」

 

 実際の所、入院中の患者が無許可で外に出る事を医者が許すとは考え難い。

 そして、許可が必要という時点でそもそも医者からすれば安易に容認出来る事でも無い。

 確かに義手も義足もあるため、日常生活の範囲での歩行に支障が出る可能性も低いが、まだ義肢自体も装着して間もないのだ。

 確証が乏しい以上、そう易々と許可をくれる医者が居るはずが無いのだが、

 

「良いんじゃないかな。リハビリの一環としても悪くない」

 

 ふと声が聞こえたと思えば、少女の背後にいつの間にか白衣を着た糸目な壮年の男の姿があった。 

 確か、この病院内で結構高い権限を持つ人だったような――とうろ覚えの知識だけが脳裏を過ぎるが、そもそも他者との交流を殆ど(ないがし)ろにしており、病院内での出来事などベッドの上で不貞寝していた事ぐらいしか無い蒼矢としては解らない事の方が多かったりする。

 というか、

 

「え、良いんですか? 病院から出ても」

「感染の危険が有る、そうじゃなくても重度の病を発症している患者なら完全にアウトだけどね。君の場合はあくまで四肢の欠損だけが問題で、それを除けば基本的に健康体だったから、本当なら義肢を装着した時点で入院の理由はリハビリ以外に無くなるんだよ」

「……そ、そうなんですか……それじゃあ、お言葉に甘えさせても」

「ただし」

 

 その医者は一度言葉を区切ってから、

 

「まだ一応は入院中の身の上だからねぇ? 外出に関しても、あくまでメンタルケアと歩行機能に関するリハビリの一環だって建て前があるから許される事。ご両親に安心してもらうためにも、何らかの安全装置は常備しておいてもらわないと」

「……具体的には?」

「まぁ当然連絡と位置情報を知るための携帯電話を一つと、熱中症対策の飲料水を二本ほど。お目付け係としてはそこの子が居てくれると良いね。あと、義肢に万が一不具合が起きて君が行動不能になったら問題だから外出には電動車椅子を使う事。お婆さんやお爺さんが乗っている所ぐらいなら見た事があるんじゃないかな?」

「……わかりました。その程度で良いのなら……」

 

 そんなわけで、即実行。

 流石に病院着で外を出歩くのは外観的にも熱中症の危険性からもまずいらしく、許可をくれた壮年の医者に付き添ってもらう形で蒼矢は着替る事になった。

 着替えた後の彼の服装は、水色のYシャツ(肌着は無し)と下着の上に灰色のジーンズの三種という至って普通の組み合わせになった。

 携帯電話は黄緑色の物を手渡され、飲料水に関しては自動販売機で二本のミネラルウォーターを(医者の奢りという扱いで)手に入れ、最後に電動式の車椅子に座って準備は完了。

 一人の青年と一人の少女は病院から出て行くその直前に、壮年の医者からこんな言葉を投げ掛けられていた。

 

「うんうん。二人っきりで良い時間を過ごせるといいね」

 

 何だかよく解らないが、少女の方は無言で顔を赤らめていた気がする。

 そんなこんなで、司弩蒼矢は磯月波音と共に夏の東京を歩く事になるのだった。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 オレは自分の事が嫌いだった。

 意図も無いのに他者から怖がられる自分が嫌いだった。

 図体ばかりがどうしようも無く大きくて、力だけはあってもヒーローの真似事すら出来なくて、結果として何をやっても誰かを傷付け、何かを壊してしまう。

 嫌悪する事が日常だった。

 やめたいと思った時は少なくなかった。

 だけど、何をやってもどんなに頑張っても、望む結果は訪れてくれなかった。

 

 強い事が嫌だった。弱い奴等が羨ましかった。

 大きい事が嫌だった。小さい奴等が羨ましかった。

   と呼ばれる事が嫌だった。  と呼ばれている誰かが羨ましかった。

 この体が醜いことは承知の上。

 暗い海の中から出る事を望まれていない事だって解っている。

 だけど、こんなオレの力が必要とされる時が、いつかやってくるはずなんだ。

 だから、絶対に諦めない。

 どんなに強大な敵が相手でも、どんなに苦しい目に遭うのだとしても。

 オレは絶対に諦めないぞ。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆




 ……そんなわけで最新話でしたが、いかがだったでしょうか?

 実を言うともう一段落付け加えてから終わらせるという案もあったのですが、抱える問題が多くなりすぎて……ここで締めても次回の話に差支えが無いと思ったので、蒼矢が病院を出る所までを描かせていただきました。

 見ての通り、今回は蒼矢サイドの物語です。色々やらかしてしまって『人生』に自信を失いつつある彼の元に、何やら可愛らしいおどおど系少女がやって来たって感じですね。とりあえず初登場のキャラとしては『すっぴん』故に特徴が無さ過ぎるので、発言で存在感を保ってもらう以外に無かったのです(迫真)。
 こんなに文字数使ってるのにストーリー自体はそんなに進んでいないといういつもながらののろのろ進行です。次回で色々動かせそうですが、今回はその前の辻褄あわせと前準備って感じですね。
 最後の方に書いた文に関しては―まぁ色々推測してもらえればと。第二章中に明らかにするかしないか微妙なラインの情報ですので……もしかしたら回答が作中で遅れる可能性もありますけど。
 それでは、次回。
 蒼矢達の身に何かが起きるのか。色々妄想させる内容を刻みながら、お楽しみに。

 PS リア充爆発する?(疑問形)
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